古株新人Vtuberの話   作:黒いファラオ

3 / 6
初配信

 日曜日の午後8時。それは新人Vtuber(仮)である"夢黒亡"が初配信を行うと予告していた日時。

 

 企業勢でもないただの個人Vtuberの初配信の待機所には既に数千人というリスナーが今か今かと放送の開始を待ちわびていた。

 

コメント

:いやぁ……新人個人Vtuberの初配信にこんなに待機人数がいるとはすごいですねぇ……

:俺、もうこの子のチャンネル登録してたわ

:俺もしてるんだよなぁ……

:今なら古参面出来るんじゃないですか!?

:真の古参は2年前からの奴らなんだよなぁ……

:2年前……はて? 今日が初配信なのですが……

:戻ってきた奴ら多すぎないか???

:結局本人なのかもわからん

:当たり前だよなぁ!? アカウントが動いたのはマジで2年ぶりだったんやぞ

:まだですか……《モモchannel》

 

 何気ない顔で、当然のように大御所のVtuberがコメントを残す。そのことに気づいたコメント欄も賑わいを見せる。

 

:どんだけ待ったと思ってんねん

:後方リスナー面よ

:ファッ!?モモちゃん来とるやん

:オイオイオイ、大ファン来ちまったわ

:そりゃあ来るんだよなぁ……

:亡者筆頭ぞ

:久々に聞いたけどリスナーネーム怖くない?

 

 亡者とは夢黒亡が現役だったころに視聴者についていた総称だ。

 

:名前にも掛かってるから間違ってはいないのがアレ

:早く声を聴かせて《木南みかん》

:バッチリだったから定着しちゃったんよ

:うわぁ!? 出たぁ!?

:早く《木南みかん》

:黄色までいるのか……

:やばい同僚筆頭さんや

 

 そんなコメント欄が流れていくうちに、待機所が動き始める。

 それは、当時にはまだ珍しかった配信待機画面が表示され始めた。

 

:うわなっつ

:なっつ

:切り抜き以来だわ

:本家見れるのたすかるぅ~

:あの頃だと、こういう待機画面も少なかったよなぁ

:どっちかというと動画勢も多かったからな

:今では配信メインみたいな方が多いんだけど、昔だと動画で初めましてがほとんど

:今でも何かと動画勢は助かるんよな

:動画勢好き

:配信の合間に見れるし追いやすい。

 

 待機画面が取れて、背景と2Dモデルが映る。腰まである黒髪のポニーテールに白のワンピース。一見して清楚なその服装、その上から黒の男物のジャケットを羽織っている。

 赤い瞳はくりくりと大きく、一目見れば美少女であると断言できるほど。

 

「えーっと、これでよかったかな……」

 

 マイクの調子を確かめるように、ハスキーな可愛らしい声が入る。

 

:きちゃ

:きちゃわね

:やっぱモデルかわいいな

:え、めちゃ声いい

:好みです

:結婚を前提に

:かわいい

:かわいい

 

 コメント欄を確認する仕草で目が左の方に向いて、安心したようにひと息。

 

「初めまして。夢黒亡といいます」

 

 にこりと少女がほほ笑む。ポニーテールが少し揺れて、一礼したのがわかる。

 

「ずっとVtuberを見てきていて、やっぱり私もやってみたい!と思って思い切ってデビューしてみました! わっ、すごい人数……こんなに見に来てくれるなんて思いませんでしたっ」

 

:うーん、これは清楚枠ですね

:ええ子や……

:この名前に釣られちゃうよな

 

「では、まず初めに自己紹介からさせていただきますね? 改めまして、夢黒亡と言います。歳は22歳になりました」

 

:成人済みか

:……年齢も一緒?

:うん、当時が19だからちょうど3年後になるな

:色々気になってきたぞ

 

「料理を自炊するうちに得意になって今は趣味の一つです。あと、絵を描くのも好きですよ」

 

:俺の嫁にならないか?

:は、可愛すぎるだろ

:これは女の子ですね、間違いない

 

「えへへ。お料理はレシピ通りに作れば基本は出来ますからね」

 

:それが出来ない人の多いこと

:ここでオリチャ―をひとつまみっと……

:アレンジをするな

 

「ずっと見てきたと先ほど言った通り、昔からこの世界に憧れていたんです! 視聴者としても古参なんですよ? 今でも戦隊のみなさんは第一線で活躍されていて……本当にすごいなって」

 

 キラキラとした目の差分になる。

 

:キラキラ目かわよ

:彼女たちのおかげやからなぁ

:いや、そんなそんな……《木南みかん》

:改めて言われると照れますね《モモchannel》

:本人おるんやったわ

:末永くやれ

:現役のVtuberも彼女たちのことを見て、っていう人いっぱいいるよね

 

「すっごく頑張ってるなってずーっと見てました。そうしたら、やっぱりそろそろVtuberしたいなって」

 

 眩しいものを見るように儚く笑う。

 

:行動に移せてえらい

:やりたいって言いながらやれない人の方が大半だもんなぁ

:古参なんやな

:そんな亡ちゃんの推しは?

 

「推しですか? 戦隊の推しか~……」

 

 むむむ……と難しい顔をして固まる。

 

:むむむ……《モモchannel》

:むむむ……《木南みかん》

:仲良しか?

:これって、てぇてぇ!?

:本人がいる状態で推しを選ばないといけないのハードルが高すぎやしないか?

 

「やっぱり初代の初瀬茜ちゃんは特別ですよね。きっかけですし、全部の始まりですし」

 

:うーん、これは正解!

:レッドは伊達じゃない

:茜ちゃんなら許しましょう《モモchannel》

:あの人に対してちょっと文句は言えないかなぁ《木南みかん》

:なんか恐れられてて草

:まあ、世界のリーダーだし……

:私を何だと思ってるのかな?《初瀬茜/Hatsuse Akane》

:ヒエッ

:おるやんけ!

:なんでいるんだよ……

 

「わっ、茜ちゃんまで! すごいですね……なんか、注目され過ぎて緊張しちゃう……」

 

 ふるふると震える

 

:そりゃ新人に対してこんなに見られてたら緊張もするわ

:超大型新人過ぎる

 

 と、言う中でノイズが画面にかかっていく。

 

「あれ、なんか画面変かも……」

 

:あれ、トラブルか?

:ノイズって何事だ

:なんだ、何が起きる?

 

「ごめんなさい、ちょっと直るか試してみますね?」

 

 そういうと待機画面に変わる。

 

:初配信らしいトラブル

:ほんとにござるかぁ……?

 

 ジジ、ジジ……と画面のノイズは増えていくばかり。すると、突然「パリンッ」と画面が割れる

 

:!?

:何!?

 

「なーんてなぁ!」

 

:ヴッ《木南みかん》

:この声は!

:声オタが死んだ!

 

 割れた画面の先には、黒のジャケットに、短めの黒髪、そして赤い眼の男性がいた。

 

「ようこそ亡者諸君! 夢黒亡の配信の再開だ!」

 

:キタキタキタキタ!

:待って、聞いてない!《モモchannel》

:とんでもねぇ、待ってたんだ

:声よすぎ、無理《木南みかん》

:キャラ崩壊してるベテランしかおらん……

 

「ってことで、色々な説明からしていこうか」

 

 いたずらが成功した悪ガキのように嬉しそうな声で笑った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。