古株新人Vtuberの話   作:黒いファラオ

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俺の話をしよう

 沸き上がるコメント欄を見て、俺は安心のため息を吐きながらゲーミングチェアに体重をかける。

 こいつも昔から俺を支え続けた頼もしい相棒とも言える。久々の配信に対する緊張を抑えつつ、さあ話そうというところでぽこぽこと通知が止まらない。

 スマホで確認してみれば、モモやみかん……気にかけてくれていた子たちからの猛抗議のメッセージが届いていた。

 

「まあまあ、待て待てお前ら。えー、抗議文がすごい勢いでDMに来ている訳なんだが……」

 

:草

:草

:そりゃそうやろ

:十中八九モモちゃんやろ

:ちょっと前には戻る気はなさそうだったじゃん!《モモchannel》

:なんだと???

 

「あれは嘘だ。だから説明するって言ってんだろ、待ってなさい」

 

:聞き分けのない妹や……

:お兄さん呼びするぐらいの相手だからな

:俺らにも納得のいく説明を求める

 

 懐かしいコメント欄の雰囲気に思わず笑ってしまいそうになる。2年も経っているというのに、すらすらとまあ言葉が出てくるものだと自分でも感心してしまう。

 

「さて、本物の初見リスナーがいるかもしれないから改めて自己紹介をさせてもらうとしよう」

 

:本当の初配信じゃなかったやつがよく言うわ

:笑った

:この界隈じゃ有名人だろ

 

「うるさいうるさい、聞こえません。なんだ、俺の自己紹介がいらないって言うのか」

 

 昔から見てくれている人たちの名前もよく見かける。本当に待ってくれていたんだな……。

 

:酒を強要する上司か?

:いるわ~、こういうやつ

:はい!はい! 欲しいです! いい声で!《木南みかん》

:欲望丸出しのリスナーがいるな

:知ってるか? そいつこの界隈でも五本の指なんだぜ?

:ほんとにござるかぁ?

 

「俺は夢黒亡。黒い夢に滅亡で夢黒亡だ」

 

:もっとなかったんか?

:もっとあったやろ

:これも昔からなんだよなぁ

:2年で推敲しろ

 

「新人Vtuberですっ♡」

 

 と、さっきまでの女の子アバターでの声でお見舞いしてやる。

 

:かわいい、かわいい……?

:そのビジュアルでその声混乱する

:てか、やっぱ本人だったのか!

:え、やばすぎ《木南みかん》

:頭爆発しそう《木南みかん》

:あ、声オタが死んだ

 

「めちゃくちゃ練習した、高音は練習したら出せるんだわ」

 

 結構大変だったな……喉持っていかれるかと思った。まあ、そのおかげもあってかスムーズにこの声を出せるようにはなったんだけど。

 

「俺は2017年にデビューして……翌年の2018年、知り合いの不祥事の責任を負って無期限の活動休止としてほぼ引退……をしていたVtuberだ」

「俺が何かをやったというわけじゃない。ただ、その不祥事の原因を作ってしまったのが俺になっちゃったわけで。紹介、という形だったんだけど……色々と失礼なことをやらかしまくってくれた」

「俺はその配信は見れてなかったんだけど、当時Vtuberの世界は今じゃ考えられないぐらい狭くてすぐに耳に入ってきた」

 

:懐かしいな……

:関係図とかあったぐらいだもんな

:Vtuber同士は基本相互フォローみたいな狭さだった。

:あの時のことは覚えてますね《モモchannel》

:私も覚えてるなぁ……《木南みかん》

 

「それから2年……本当に何もなかった。精々、誕生日にお祝いコメントを送るぐらいだ」

 

 流石にそこまで無視することは出来なかったというのもあるが、せっかくの誕生日に何もしてやらないままというのが個人的にも気に入らなかっただけだ。

 戻らなかったのは俺自身のわがままでもあったから。

 

「その間、何をしていたか。……ずっと、勉強をしてた」

 

:勉強?

:学生だった的な?

 

「実は、今のこの2Dモデル俺が調整したんだよ。元の絵は描いてもらったんだけどな?」

 

:マジ?

:いくらなんでも有能すぎるやろ

:あーでも、さっきの亡ちゃんと絵柄違うよな

:ほんまや違う

 

「亡ちゃんの方は俺が描いた」

 

 本当に本当に苦しみながら生み出した子で、結構気に入っている。一発ネタで消化するには正直勿体ないと思ってるんだなぁ……。

 当時は絵師さんというのもあまりこういう文化に理解のある人も少なかったから、自分のアバターは自分で描いていたし……いやぁ、時間が経てば理解は進むな。

 

「昔より上手くなっただろ?」

 

:塗りがだいぶ変わってるよな

:昔のも結構好きだった

:あー、昔は自作アバターだっけ

 

「そうそう、よく覚えてるな」

「昔のことを懐かしむような配信はまた改めて取ろうかなと思っているので、今はここで切らせてもらう」

「なんせ1日限定復活じゃないからな。……エイプリルフールにすればよかったな」

 

:紛らわしいからやめろ

:これで1日限りだと大の大人がみっともなく泣きわめくぞいいのか?

:男がだぞ、いいのか

:女も泣かされたって言うぞ

:私も泣かされたって事務所に言います《モモchannel》

:脅してるやつら多くない?

:1人シャレにならん人おって草

:事務所はやめてさしあげろ

 

「わかったわかった、悪かったとは思ってるって」

「そんな亡者の皆さんにですね、今回はとっておきの情報をお伝えしたいと思います」

「はい、泣いて喜べー」

 

:結局泣かすんかい

:俺たちは今日何回泣けばいい?

:そろそろ涙だって在庫切れですよ

:ハードル上げまくって大丈夫ですかぁ???

 

「ではこちらの画像をご覧ください」

 

 用意していた画像を配信画面の空いている場所へと映し出す。

 

「はい、どん! 『夢黒亡、緊急復活記念! 古参メンバーへの挨拶回りコラボ!』いえーい」

 

:???

:はい???

:待って待って待って

:え、なんですかそれ聞いてないですけど《モモchannel》

:私も聞いてないんだけど!《木南みかん》

:うーん、最古参メンバーが知りませんねぇ

:もしかして:仲間外れ

 

 おー……すごい反応っていうかコメント欄が早すぎる。自分がやってることの反応がもらえるのが嬉しいんだよなこのサイトはさぁ! これだけでも戻ってきた甲斐があるってもんだ。

 おっと、進めなきゃ伝わらんのだ。説明を続けよう。

 

「見ての通り、まあ色々とですね。ご心配を各方面にはおかけいたしまして。そこのモモやみかんに限らなくて、当時から声はかけてもらってたんだよね」

「戻る気は無いのかとか、うちの事務所に入ってしっかりとやりませんかとか」

 

:まー、そうでしょうね

:俺たちですら言ってるんだから

:事務所も放っておかないわなぁ

:当時ですら人気のあった男なんてねぇ

 

「一応引き抜きとかいうのじゃなくて、休止のきっかけがきっかけだったからさ。後ろ盾っていう面での打診だったので。そこだけは」

 

:理解

:ヘイト管理は重要

:うちの事務所にお願いしたのは私です《モモchannel》

:判断が早い

 

「というのもありまして、一部の人には復活するにあたってお話をしませんかと声をかけました」

「そしたら快くOKのお返事をもらったので、この企画が実現したというわけ」

 

:それにしても、当時から今もやってるVtuberってめちゃくちゃ限られてくるぞ

:引退してるのは多いしね

:そもそもの絶対数が少ないんだわ

:早く教えてください《木南みかん》

:出来ればショタボぐらいな感じで《木南みかん》

:声フェチはさぁ……

:欲求に素直すぎる

 

「やりませ~ん」

 

 嘘です、お望みどおりにしてやったわ

 

:ヴッ

:ァ゛

:うぉ……

:ヴ……

:被弾したやつら多くない?

:リクエストした本人はコメントすらできなくなってるぞ

:哀れ……

:声の幅が増えたからこうやって殺される人が増えていくんだなぁ……

 

「想像以上の被弾率で笑ってるけど、進めてよろしいか?」

「構ってると進まないんだわ」

 

:どうぞどうぞ

:あんなやつらは放っておいて

:勝手に死んでるだけだから

:死ぬところだった《木南みかん》

 

「じゃあ進めます。というわけで、まず最初のゲストからご紹介……というか、出てきていただきます」

 

 そう言って、裏に合図を送る。ずっと待機しててもらってたんだ、本当はな

 

:待って、今から?

:聞いてない

:心の準備は出来てないが!

:いくらなんでも準備がよすぎる

:え、えっ

:誰が出てくる

 

「こちら、初代バーチャルYourtuber"初瀬茜"さんです」

「皆さんどうもー、初瀬茜でーす♪」

 

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