TS転生したら薙切えりなの双子の姉になっていたお話   作:スーパンダマン

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相変わらず料理描写ガバガバです……。
雰囲気だけでお楽しみください!


パーフェクトトレース

 私を呼び出した美作昴くんはその凶悪そうな厳つい顔を近付けてニヤリと笑った。

 伝言って言っていたけどやる気満々じゃないか。合宿中では食戟も出来ないと言うのに。

 

 だからこそ、仕掛けてくるなら合宿の後だと思っていた。叡山先輩が美作くんをけしかけることくらいは読んでいたが。

 

「お前、叡山先輩のプロデュースした店のライバル店の業績を悉く上げて回っているらしいじゃねーか。薙切の一族だからって無事で済むと思ってんのか?」

 

 そう、私はずっと叡山先輩の縄張りを荒らしていた。

 彼のプロデュースした店のライバル店に無償でアドバイスしたり、ときには無利息で融資したりしていたのである。

 

 地道な活動のおかげで叡山プロデュースの店は悉く業績悪化。

 彼は私が喧嘩を売っていることに気付き、美作くんを使って私の妨害を止めようとしたのだろう。

 

「叡山先輩には悪いことをしていると思っている」

 

「ほう……」

 

「でも、どう考えてもさ。一番簡単そうだったんだよね。十傑の称号を頂くにあたって。叡山先輩が」

 

「はっ! 随分と見縊っているじゃねぇか。あの人になら勝てるってか!? 食戟で! 悪いがお前みたいな新参者、おれにだって敵わねぇよ!」

 

 へぇ、意外だな。叡山先輩、慕われているんだ。

 美作くんはスキあらば叡山先輩の首を狙っていると思っていたけど。

 私の見立てでは美作くんのポテンシャルは叡山先輩よりも上だし。

 

「一つだけ訂正させてもらうよ」

 

「訂正だと?」

 

()()()()()()()()()()じゃない。()()()()()()()()()だ。私は十傑の過半数を頂くつもりなんだから」

 

 最初に叡山先輩の首を狙ったのは一番簡単に勝負の土俵に上がってくれそうだったからだ。

 別に簡単に勝負を受けてくれるなら、ほとんど誰でも関係なかった。

 唯一、司先輩だけ未知数なところがあるから勝てるかどうか微妙なところだが、他の人たちなら負けない自信はある。それだけの訓練を積んでいたから……。

 

「ははははは、幸平にしろ、お前にしろ、転入生共は大言壮語を吐くじゃねぇか! とにかく、忠告したぞ。退学したくなかったら、叡山先輩に従え!」

 

 なんだ……。忠告だけなのか。

 リアルファイトするとか、もっと喧嘩を売ってくると思ったんだけど。

 

「なんだ、せっかく女の子を呼び出しておいて忠告するだけなのかい? つまらないな」

 

「食戟が出来りゃあ、お前の誇りも全部奪ってやったんだけどな。ここじゃあ無理だろ?」

 

 ふむ。そういうもんなのか。

 遠月では食戟は絶対。食戟以外の勝負方法は思い付かないのかもな。

 まぁいいや。叡山先輩は刺客として彼を送ったんだろうけど私も彼に用事があったんだよね。

 

「そうかい? じゃあ言い方を変えよう。美作昴、君は今から私の仲間になれ。そうすれば、叡山先輩の椅子をくれてやってもいい」

 

「はぁ? 何を言い出すと思えば、この俺を仲間にだと? 転入生の分際で。冗談でも笑えねぇぞ」

 

「私は冗談も好きだけど、冗談ならもっと面白いことを言うよ。パーフェクトトレースだっけ? 君は良い資質を持っている。叡山先輩の下にいるのは勿体ない」

 

 美作昴の必殺技はパーフェクトトレース。

 相手の情報を徹底的に集めて相手の作る料理を予測し、その一歩先のアレンジを加えて勝ちに至るという食戟特化と言っても良い力だ。

 これから私も何度も食戟とやらをすることになるだろうけど、生憎、私の手は二本しかない。効率よく勢力を広げるには仲間が必要だ。

 食戟において、美作昴は一年生の中でもトップクラスだと私は評価している。彼に容易に勝てるのは、すぐには用意できないバカ高い調理器具を取り揃えて料理する従姉妹のアリスくらいだろう。

 

 それだけに欲しい。美作昴という才能が。

 彼はまだまだ上にいけるし、今のままで満足しているとその才能を腐らせることにもなる。

 

「パーフェクトトレースのこと、知っているのか?」

 

「顔付きが変わったね。君ほどじゃあないけど私も情報収集には余念がないんだ。この学園を頂くために」

 

「……ちっ! 分かったよ。そんなに言うなら合宿終わったら食戟してやるよ。俺を負かしたら、お前の下でも何でもついてやる。その代わり、お前が負けたら俺の下に付け」

 

 おお、負けたら仲間になってくれる確約くれたぞ。

 でもなー、合宿終わったら、終わったでやること多いし、美作くんで時間を潰したくないんだよね。

 

「せっかくなんだ。合宿終わりと言わずに、今から勝負しようよ。ここは薙切が経営しているホテルだからね。私が言えば調理場を借りることくらいできる」

 

「バカか? お前は。食戟には審査員がいるだろうが。流石にそれは用意できないだろ?」

 

「審査員なんていらないよ。要するに君と私の優劣が付けばいいんだろ? お互い食べあって美味しいと思った方に投票する。2票ゲットした方が勝ち」

 

 私は勝負の方法を提案した。

 審査員なら私たちがすれば良い。相手に自分の料理よりも美味いと思わせる料理を作れば勝ちってわけ。

 

 自ら審査しているのだから、審査結果に不満も出ないだろう。

 

「ほう。つまりお前は俺に俺の料理よりも美味いと言わせる自信があるって訳だな」

 

「もちろん。それに君が自分の舌には嘘は吐かないと信じている。審査方法は私が決めたから。メインの食材やテーマは君が決めるといい」

 

 美作くんが意地を張って負けを認めないということはそもそも考えない。

 料理人っていうのは素直なもので、美味いものを「不味いわよ」などと断ずることは少ないのだ。

 我が妹はまぁ、色々と歪んだ教育を受けちゃったから、あれなんだけど。

 

「くっくっくっ、はーっはっはっはっ! 残念だったな! 薙切玲奈! お前は俺を勝負の土俵に引きずり込んだつもりだろうが! 俺のパーフェクトトレースはこの展開を読んでいた!」

 

「へぇ、それはすごい。君の力は野良試合じゃ使えないと思っていたけど」

 

「薙切玲奈、中国、インド、トルコ、フランス、イタリアに留学して料理修行を積んだ料理人! 得意は様々な国の料理を組み合わせるフュージョン料理! お前のことは調査済みだ! その性格も! 既に水戸郁魅を自分の派閥に入れていることも!」

 

 なるほど、私の個人情報を仕入れて勝負を投げかけることまで読んでいたんだ。参ったな、まさか郁魅のことも知っているとは。

 すごいなー。ストーカーされたとか考えるとおぞましいけど、転入したての私のデータをこれだけ揃えたのは大したもんだ。

 

「俺はすでに何を作るのか準備もしているし、テーマも食材も決めているんだよ! お前は勝負を挑んだんじゃない! 俺に勝負を挑まされたんだ!」

 

「あー、予め準備をしてたんだ。なるほど、君の準備してきた料理に対して私は即興料理で挑まなきゃならないと、そういうことだね?」

 

 どうやら私がどんな勝負を挑むのかも、テーマや食材を決めさせることも読んでいたらしい。

 これは予想を超えてきたな。すっかり騙されたよ。

 美作昴は侮れない男だということか。

 

「そのとおり! 即興料理はどう頑張っても、その場のインスピレーションに任せて料理を組み立てることになる! 聞こえはいいがそれは思考停止に他ならない! 料理ってのは微に入り細を穿ち準備し抜いた方が勝つんだよ!」

 

「ふむ。一理あるかもね」

 

「その場しのぎの料理に負けるほど俺は弱くない! パーフェクトトレースをただアレンジを加えるだけの能力だと侮ったことを後悔するんだな!」

 

 上機嫌そうに笑いながら美作くんは勝利を確信したような顔付きになる。

 パーフェクトトレースは相手の料理に合わせてアレンジを加える能力だけでも十分に強力だと思ったけどなー。

 やっぱり彼は欲しい。この学園を手に入れるために必要な人材だ。

 

「特別に選ばせてやろう! 今から負けるか。それとも後日、食戟で負けるか。まぁ、今日戦ってもお前の鼻っ柱を折ることしか出来ねぇから、後日でも――」

「いいよ。今からやろう。得意なんだ即興料理。だからこそ、君にこの勝負を挑んだ」

 

 とはいえ、このまま引き下がったら格好悪い。

 美作くんは絶対に必要な人材だし、勝つしかないだろう。

 私は美作くんに勝負を挑んだ。それを彼が受けるというのだから、こんなにありがたい話はないではないか。

 

「そうか、今ここで負けることが望みか。ならば、テーマは洋食! メインの食材は牛肉ってのはどうだ!? 制限時間は二時間だ!?」

 

「了解した。じゃあ、厨房に行こうか。君は準備した食材があるなら持ってくるといい。必要な食材はこのホテルで調達する、で良いかな?」

 

「ああ、構わねぇぜ」

 

 こうして私と美作くんの非公式の野試合が始まった。

 私は美作くんが予め考えて準備した料理に即興料理で挑む。さて、どうなることやら。

 美作くんを引き連れて調理場へと向かう私。

 テーマは洋食で牛肉を使った料理か……。彼は何を作るのだろう……。

 

 

「ちょっと前にな。野暮用で高級洋食チェーン店の御曹司を潰したことがあってな。今から作るのはその品だ」

 

 美作くんは調理場に着くなり、材料を次々と準備する。彼が用意したという品はまだクーラーボックスの中にあるみたいだけど。

 ふーん。なるほどね……。

 

「へぇ、ビーフシチューを作るのか。テール肉を白味噌仕立てにして、まろやかさを演出。一口食べると極上のとろみが舌を支配するだろうね」

 

「――っ!? お前、食戟を見てやがったのか!?」

 

「いや、ちょっと()()()()だけだよ。食材を見れば、大体分かる。どのくらいの美味しさになるのかも、ね。私のことはよーく知っているんだろう?」

 

 私は美作くんがどんなビーフシチューを作ろうとしているのかまで見抜くと、彼は初めて狼狽えた表情を見せた。

 そういえば、食材だけ見て何を作るのか、まで想像したのは日本に帰ってきて初めてだったかな。

 

「ふっ、お前が想像力とやらを自慢しているのは知っている。だが、何を作るのか知ったとて、俺には及ばない! 俺には切り札がある! あの日、勝利を決定づけた()()()!」

 

付け合せ(ガルニチュール)は特製ベーコンか……。熟成・塩漬けに5日間、風にさらし丸1日かけて乾燥させ5時間もの間燻し続けた、ってとこかな? 手間暇かけただけあって最高のアクセントになるだろう」

 

「分かっているのなら、理解出来ただろう! 時間と手間、その重さ! 即興調理とは対極とも言える強みがこの皿にはある!」

 

 よく分かっている。基本的に時間をかけた方が有利だよね。

 手間暇かけたものが美味いのは必然だ。

 さて、どうしようかな。この品に勝つには――。

 

「…………」

 

「どうした!? 目を瞑って、黙り込んで! 怖気づいたか!?」

 

「勝率、65%……、勝率77%……」

 

「何を言ってやがる!?」

 

「勝率、92%……、勝率……100%」

 

 何を作るのか、は決まった。これなら間違いなく勝てる。

 目をつむって、頭の中でレシピを練り込んだ私は美作くんに勝つための料理を考えついて目を開いた。

 

「私は才能がなくてね。鍋を振る時間を一秒でも増やしたかった。イメージの世界での調理時間は現実を超越する。集中さえすれば、何十通り、何百通りと試行錯誤して最高の一皿に突き進むことが出来るのさ」

 

「訳の分かんねぇことを言うな!」

 

「美作昴くん。君のパーフェクトトレースの天敵が私だ。頭の中までは観察できないだろう? 既にレシピは完成して、十回ほど調理のイメージトレーニングを終了させたところだ。君に魅せてあげるよ。私のビーフシチューを!」

 

 想像による培われた味覚センサーによって可能にしたのは超高速のイメージトレーニング。

 味を想像したその先は無数にある料理工程を系統化して、洗練された味を創造すること。

 即興料理が得意なのは事実だ。何故ならレシピを創り出すスピードだけは誰にも負けない自信があるから……。

 

「ビーフシチューだと!? まさか、メニューまで俺に被せてきやがるとは! だ、だが、そんなコケ脅しで俺は自らの調理を失敗などしない!」

 

 私と美作くんはお互いにビーフシチューを作った。

 想像どおりの美味しさならこれで勝てるはずだ――。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「このテール肉は本当に絶品だね。ベーコンもビシッと頭に響くくらい良いアクセントを出している。想像したとおり美味しいよ。美作くん」

 

「……ば、バカな。だって、俺はさっき提案したんだぞ。ビーフシチューを作ることだって、こいつは食材を準備するまで知らなかったはずなのに……! どうやったら、これだけ一口目から鮮烈で、それでいて斬新な調理が」

 

 美作くんは私の作ったビーフシチューを食べて膝をついていた。

 自信喪失までさせるつもりでは無かったが、彼を仲間に引き込むにはそれ相応の力を示さなくてはならないと思ったので、私も特技を披露せざる得なかったし、真剣にやらざる得なかったのだ。

 

「ビールを仕入れた時には血迷ったかと思ったが、肉がそれによって二時間の調理ではあり得ない程の柔らかさになってやがる」

 

「フランス北部ではポピュラーなやり方さ。ワインが作れない代わりにビールを使って煮込む料理が発達したんだ。ルーをザラメで繋いで、タマネギの甘みとビールの苦味を融合させると恐ろしいほど鮮烈で牛肉の柔らかさが引き立つ豊かな味になるんだ」

 

 高速のイメージトレーニングの土台になっているのは、海外留学での経験値。

 世界中の料理と触れ合って、努力を研鑽し続けた結果としてこの力を身に着けたのである。

 薙切えりなは天才だ。その天才性に追いつくために私は血反吐を吐きながら凡人の壁を突き破る方法を模索していた。

 えりなを守るため。えりなと料理人であることの喜びを分かち合うために。

 私は彼女に並び立つための力を手にする必要があった。

 

 神の舌に追いつくために私はここまで想像力を鍛えたのである。

 

「美作くん、君が自分のビーフシチューに投票するならば、勝負は引き分け。後日の食戟に持ち越そうじゃないか。君がこの試合のジャッジを下してくれ」

 

 私は無論、自分に投票した。美作くんのビーフシチューも美味かったし、十分に称賛に値する味だったが、彼の料理には決定的な弱点があった。

 今のままでは十傑に勝つにはちょっと力不足かもしれない。それを知っているから叡山先輩の下に甘んじているのかもしれないが……。

 

「……持ち越しだと!? バカ言え、衆人の見ている前で負けると分かっている勝負をするアホがどこにいる。俺の負けだ……。このビーフシチューはお前じゃないと創れない味がする。よく分かんねぇけど。俺が同じレシピで作ってもこの味にはならねぇ気がするんだ……」

 

必殺料理(スペシャリテ)の領域には模倣じゃ時には辿り着かない境地がある。それが分かっているだけでも君は非凡な料理人だ。私と共に歩めば君はさらに上に行ける」

 

「す、必殺料理(スペシャリテ)……」

 

「付いてこい、美作昴。付いてくれば約束どおり、十傑の席をくれてやる」

 

 素直に負けを認めてくれた美作くんに私は手を差し伸べた。

 食べるだけで料理人の顔が浮かぶという必殺料理(スペシャリテ)

 私はそれに至る資質のある料理人に声をかけている。

 水戸郁魅と美作昴を勧誘したのはそういう訳だ。

 十傑の席に相応しい料理人になる未来を見越しているのである……。

 

「ちっ、仕方ねぇ。叡山先輩を裏切るのは気が重いが、約束しちまったしな。お前が頂点を取るのに尽力してやるよ。誰でも好きなやつをストーカーしてやるぜ」

 

「ストーカーか。ええーっと、うん。ストーカーねぇ。そうだな、それはまた考えとくよ。とりあえず合宿頑張ってね」

 

 こうして私はストーカー、じゃなかった美作昴くんという心強い仲間を手に入れた。

 まだ合宿は始まったばかり。これから他の有望な一年生に声をかけるとしよう。

 じゃあ、そろそろ私も部屋に戻るとするか。

 

 

 

「玲奈お姉様! どこに行っていましたの!? えりながどれほど心配して待っていたと思っています!? もう少しで警察を呼ぶところでしたよ!」

 

「えっ? えへへ、警察? ご、ごめん……!」

 

 深夜に部屋に戻ったらカンカンに怒っている妹に叱られた。

 えっと、怒っている顔も可愛いんだけど。それ言ったらもっと怒られるし……。

 今度から深夜にこっそり料理勝負するのは自重しよっと……。

 

 




二人分のメニュー考えるのが面倒でしたので、パラレルということで美作の料理は原作から流用しました。
面白いと思って頂けましたら、評価や感想など頂けると嬉しいです。

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