そして少年少女は手を伸ばす   作:chee

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第2話

「おぉ……びゅーてぃふぉ……」

 

ネフホロ2の発表以来やたら装飾に凝り始めて妙な存在感を放つゲーセン内でのネフホロブース。そこについたとたんに夏蓮の態度が豹変した。

 

「ついに時代が追いついた……!!」

 

今の時代がどこに追いついてどこへ行くのかはわからないが、確かにこの一角の空気は周囲と違うものがある。その空気に充てられれば俺もテンションは上がってしまう。

 

「早速やるか?」

 

「当然」

 

上がったテンションそのままに俺と夏蓮は筐体へと足を向ける。

 

「葉はどうするんだ?」

 

「とりあえず見てるよ」

 

「わかった」

 

ログインさえしてしまえば割と何でもできる家庭用ネフホロと違ってゲーセン仕様のネフホロはプレイモードが限られる。筐体は二台しかないから俺と夏蓮の対戦に葉のサポートはつけられない。

 

……ていうかオペレーター動員してるコイツらが珍しいだけなんだよな。

 

 

「ほら、楽郎早く」

 

「おう」

 

 

夏蓮に急かされて筐体に入る。

 

そして、ネフィリムホロウ1、このハイスペックマシンを用いたちょっと豪華な事実上の最強プレイヤー決定戦が行われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぇ気持ち悪い」

 

「ほんと馬鹿。楽郎ほんと馬鹿」

 

怒涛の連戦を終えた俺はすぐそばにあったベンチに座り込んだ。

 

「意味がわからない…マシンのスペックが()()()()()()負けるなんて」

 

「しょうがないだろあんなに鋭敏な感覚の中だと……ていうかそもそも十四の彩を持つ鳥(コーラシアス・ライラック)は連戦仕様じゃないから…」

 

「うるさい。言い訳するな」

 

「えぇ…」

 

 

最初の二回までは勝てた。

 

だがテンションの上がり切った夏蓮がたったの二戦で満足するわけもなく……その後はハイスペックマシンによる鋭敏な感覚で三半規管にダメージを蓄積していった俺の自滅頻度が急上昇し、連敗を重ねることとなった。

 

結局、俺はダウン。今、葉が飲み物を買いに行ってくれているのを息も絶え絶えに待っている状態で、夏蓮に説教を受けている。

 

十四の彩を持つ鳥(コーラシアス・ライラック)もコンセプトは分かる。強いのもわかる。使いこなせなきゃだめじゃん」

 

「……おっしゃる通りで」

 

「ダメ。反省が足りない。今すぐ鍛えて三半規管」

 

いやどうやってだよ。

 

「…よし、ネフホロで鍛えよう。それがいい」

 

「それじゃ意味ねぇ!?」

 

再びプレイ用の筐体に向かう夏蓮を慌てて止める。今俺はそのネフホロに潰されて休んでるわけなんだが!?

 

「むぅ…」

 

そんなむくれられても…

 

 

「……トイレ行って来る。戻ってきたら再戦。それまでに復活しておくように」

 

「……ハイ」

 

 

そういい捨てた夏蓮が去っていった。容赦ねぇ…

 

まぁ、これからまだ夏蓮に付き合わされてネフホロをやるのは確定なので少しでも回復しておかないと……

 

 

「…何?キミ」

 

「…うおっ意外とかわいい」

 

「うるさい。そんな事より……」

 

 

だが、どうやら俺はまだ休むことができないらしい。なにやら知ってる声と知らない声の不穏な会話が耳に入ってきた。

 

 

……お約束のヤツですか!?!?

 

……葉のいないこのタイミングで!?!?

 

 

 

 

「あぁもう…!!」

 

重い腰を持ち上げて夏蓮の元に駆ける。そんなギャルゲー的鉄板イベントは葉のいるときに起こしなさいよ全く!!!

 

小走りでで夏蓮の声のする方へ向かう。そこでは、ガタイのいい男二人に夏蓮が相対していて。

 

「おい夏蓮だいじょ……」

 

 

 

「だからどういう……」

 

「断固謝罪を要求する」

 

「君ちょっと落ち着いて…」

 

「いいから。謝れ。そしてネフホロをやれ」

 

 

 

………ちょっとイメージしてたのと違う。

 

 

夏蓮がチンピラに絡まれてるのかと焦って駆けつけて見れば、チンピラに絡んでいたのは夏蓮の方だった。…………何で??

 

「……何やってんだ夏蓮」

 

「……楽郎。教育」

 

「……ほんと何やってんだよ!」

 

「コイツらがネフホロを鼻で笑った。だから私はネフホロの素晴らしさを教えてあげねばならない」

 

「えぇ…」

 

 

……話を纏めるとこういう事らしい。

 

トイレに行こうとした夏蓮。たまたまこの二人のそばを通ったときに二人がネフホロの話をしていた。二人からしてみれば2の発表以降通いつけのゲーセンに急に現れた過疎ゲーの出張版。評判では操作性の悪さもそのまま。二人で「よくわからないけど糞ゲー」の烙印を押したところに、唐突に夏蓮に絡まれてしまった。

 

「………」

 

チンピラのお二人がドン引きしてらっしゃるよもう。そりゃ初対面の女の子にいきなり絡まれて「ネフホロをやれ」はドン引きするよ!

 

…とりあえず1チョップ

 

「あぅっ」

 

反省しなさいこの妖怪ネフホロ激推し女。

 

 

「頼むよ彼氏クン。駄目だよ彼女(こんな子)から目を離しちゃ…」

 

「そーだぞ彼氏クン。せっかくかわいい子連れてるんだから」

 

「別にコレは私の彼氏じゃ「も”ーしわけないです!ほら夏蓮!これ以上迷惑かける前に戻るぞ!!!」……ぅん」

 

 

まだこの二人に何か言い足りなさそうな夏蓮を制し、思い切り頭を下げて夏蓮の手を引きすぐにその場を去る。二人の奇異の目が背中に刺さる。あのにーちゃん達まぁまぁ厳つくて怖いんだよ…

 

 

「むぅ…楽郎余計な事を…」

 

「いやいや…お前のしてたことの方が余計だろ…」

 

「余計なわけが…」

 

まぁ、余計っていうか。そもそも危ないだろ女の子一人で…

 

「あのなぁ…確かに今までは葉がいれば危ないこともなかったろうが、もう少しお前は女の子の自覚を持った方がいいと思うぞ…」

 

「……?私が女なのはわかってるけど」

 

「分かってたらあんな人たちに絡みにはいかないんだよ……」

 

「……??」

 

あまり分かってない様子の夏蓮。しかも夏蓮は鉛筆仕込みのファッションでとてもかわいく仕上がってると来た。これは葉の苦労がうかがえるな……

 

 

「夏蓮!楽郎!どこ行ってたの??」

 

ネフホロブースの前に戻ってくるとそこにはすでに葉が帰ってきていて、飲み物を抱えたまま俺たちの帰りを待っていた。

 

 

「…ちょっとな」

 

「…何があったの??」

 

「絡まれてた」

 

「絡まれてた!?」

 

「…知らないチンピラが夏蓮に」

 

「何やってんの夏蓮!?」

 

「楽郎が彼氏ヅラして全部丸く収めた」

 

「う”ぇ”っ」

 

「何やってんの楽郎!?!?」

 

 

…いやあれは彼氏ヅラというかですね、ただ早く退散したかった一心でして。

 

 

「(……楽郎、ひょっとして夏蓮に気がある?)」

 

「(何言ってんの葉!?)」

 

急に耳打ちしてきたと思ったら何だって??一瞬まじで耳を疑ったぞ!?

 

「……??」

 

「「なんでもない」」

 

夏蓮のきょとん顔を流しつつ会話に戻る。

 

 

でも、一瞬そのくだらない妄想が頭をよぎる。

 

 

 

ーーーもし、夏蓮が本当に彼女だったら……

 

 

 

俺の視界におさまるのは目立ちすぎないながらも夏蓮の素材を最大限活かすためにコーディネートされた衣装に身を包んだ夏蓮の姿。もちろん夏蓮の魅力が衣装のみによるものだとは思ってないが、……今目の前にいる夏蓮の姿がJGEで見たときよりもずっと魅力的に見える気がするのは衣装の変化のみのせいだろうか。

 

 

……気のせいだな。

 

 

「…じゃ、楽郎。ネフホロ再開しよう。十分休んだ」

 

「……オーケー。今行く」

 

 

くだらない妄想を頭の中から追い出し、俺はこの戦闘で如何に夏蓮の裏をかいてやるかに思考を切り替えた。

 

 

 

全部テンションマックスの夏蓮に正面から潰されて負けた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

結局あれからもずっとネフホロで遊び倒した俺達。そろそろ帰ると言い出した夏蓮と葉を見送りに駅まで戻ってきた。

 

「ん”ーー満足」

 

「ハハ、そりゃ良かったな」

 

「夏蓮、だいぶ楽しそうだったもんね」

 

俺をコテンパンにした夏蓮は満足げ。俺はといえば葉にこそ勝ち越したものの結局プレイするたびにテンションの上がる夏蓮にボッコボコにされて既に疲労困憊だ。

 

ふと気がつけば日も傾いていて、どれだけ俺が夏蓮に付き合わされ続けていたのかを悟る。っていうか夏蓮はほぼぶっ続けだったってマジ……?

 

「それじゃ楽郎、今日はありがとう」

 

「まぁ、楽しかった」

 

「おう。お前らも、ありがとな」

 

「じゃあ、僕たちは帰るね」

 

「じゃあな」

 

「うん」

 

「私達が帰ったら楽郎もネフホロにインしてね」

 

「……流石に今日は勘弁して」

 

「むぅ…しょうがない…」

 

別れの挨拶を済ませ、二人が駅に向かって歩いていくのを見送る。

 

なんとなく二人の後ろ姿を眺めていたら、突然夏蓮が振り返ってこちらを指差してきた。

 

 

 

「……明日、ネフホロで待ってる」

 

 

 

……まぁ、明日ならいっか。

 

 

 

「あぁ。わかったよ」

 

 

 

俺がそう答えた時の夏蓮の笑顔が、やけに印象に残った。

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