そして少年少女は手を伸ばす   作:chee

3 / 5
第3話

昨日のプチオフ会を終え、今日もネフホロにインして夏蓮と散々戦った。今はちょうどログアウトを終えたところだ。

 

「あ”ー負けたー!」

 

俺の調子が悪かった訳ではない。むしろ絶好調だった。上がりきって下がらないテンション、極限レベルの集中力。過去これ以上ないくらいに一戦一戦が楽しく、疲労なんて感じすらしなかった。

 

本当に充実した時間だった。

 

 

「ただいまー」

 

ちょうど瑠美が帰ってきたようだ。週末はバイトが忙しくて大変そうだよなアイツ。

 

「お帰り」

 

「見て見てお兄ちゃん、今日の永遠様。相変わらず素敵すぎる」

 

写真を見せられる。写真に写っていた天音永遠(ペンシルゴン)は確かにプロ意識を感じさせる笑顔ではあったが…

 

「笑顔が胡散臭い」

 

「は?何言ってんのお兄ちゃん。永遠様侮辱するとか許されないんだけど。こんなにも可愛くて綺麗な人類は永遠様以外に存在しないから」

 

はぁ…これだから邪教徒は…。可愛くて綺麗?胡散臭くて信用できないの間違いでは?

 

 

「うーん…可愛くて綺麗って言ったらもっとこう…」

 

 

 

そう、それこそ夏蓮みたいな…

 

 

 

「え!?何!?お兄ちゃんにもついに可愛いと思う人ができたの!?恋始まっちゃうの!?」

 

「………」

 

 

……は?何言っとんのこいつ。

 

 

瞬間、頭に思い浮かぶのは昨日、帰り際に夏蓮の見せた笑顔。あの普段はあまり見せない魅力的な顔に俺は……

 

「…いや、違うから。始まんないから。落ち着け」

 

確かに夏蓮は可愛いとは思うがそういうのじゃないんだよ。そもそも夏蓮には葉がいるわけだし。っていうかあの二人付き合ってるんだよな?知らんけど。でも凄い感じるよね、なんというか…熟練の夫婦感?

 

「えーつまんないのー。ようやくお兄ちゃんにも人並みの恋ができるようになったのかと感動したところだったのに」

 

「お前の中で俺はどんな人間なんだよ…」

 

「だって前にお兄ちゃん『二度と恋なんてするもんか。ピザの影に怯えながらする恋愛なんてクソ喰らえだ』って言ってたじゃん。意味わかんないけど」

 

あぁ…ラブ・クロック攻略直後か…あの時期は荒れてたからなぁ…

 

「大丈夫だ。もう俺はあの頃の俺じゃない」

 

「そ。ならいいけど。お兄ちゃんが青春してなくて私心配だよ」

 

「余計なお世話だ」

 

 

そう言い捨てた俺は瑠美と別れて部屋に戻る。一人になるとついつい想像してしまう。俺の彼女になって昨日のように俺に笑いかけてくれる夏蓮。例え想像の中であってもとても可愛らしくて胸が熱く……って違う!!何考えてんだ俺!!瑠美のせいで思考がおかしくなってる!!!

 

昨日のゲーセンでの夏蓮の姿が思い出される。ネフホロにはしゃぐ姿はとても可愛く、チンピラに向かっていった姿には肝を冷やした。そして、葉の隣にいることが少し妬ましく…

 

「あぁ、もうだめだ…」

 

もうアウトなのかなぁ。夏蓮に恋しちゃってんのかなぁ。俺キャラじゃねぇんだけどなぁ。どうしたものかなぁ。

 

自覚すると早い。もう()()()()()って自覚はある。認めたくはないが。

 

「でも、どうしようもないからなぁ」

 

さっきは“可愛い”をイメージした瞬間にびっくりするくらいすんなり夏蓮が出てきた。もとから夏蓮が可愛いことは承知していたが、そこまで意識するほどではなかった。

 

だが、夏蓮への恋心を自覚した今なら、きっと昨日ゲーセンであった時点で既に夏蓮の事が好きだったと言われてもきっと納得してしまう。

 

 

…でも、どうしようもない。そう。どうしようもないのだ。

 

 

「だって、夏蓮には葉がいる」

 

 

そう俺の出る幕なんてない。だからこそ、俺がするべきことは。

 

 

「少しでも、楽しもう。夏蓮と遊べるこの日常を」

 

 

初めて自覚した仄かな初恋を心の奥底にしまい込んだ俺は、明日はどんな機衣人(ネフィリム)で夏蓮に挑もうかを考えるため、布団に体を投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【モルド】

 

モルド:楽郎、ちょっと大事な話がある

 

モルド:明日、昨日待ち合わせた駅来てくれるかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

昨日、楽郎とリアルでネフホロを遊んだ帰りに葉は聞いてきた。

 

 

『今日、楽しかった?』

 

『もちろん』

 

『すごい活き活きしてたもんね』

 

『そう?』

 

『うん』

 

もちろん私も楽しかったとは思うが、言うほど活き活きしていたかと言われればそんな自覚もなくて。

 

『楽郎、意外とまともだった』

 

『まぁ、やかん頭でも鳥頭でもなかったし』

 

『確かに』

 

 

…まとも。

 

 

確かに楽郎の印象がまともな方向に変わった。でも、私には楽郎が普通にはどうにも感じることができなかった。

 

まぁ、この感覚がどう普通じゃないかと言われれば言葉にできないのだけれど。

 

『またこっち(オフライン)でも遊べたらいいね』

 

『うん。また』

 

できるならば、また()()と遊びたい。

 

 

 

素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 

そして今日、さっきまで()()()()とネフホロをしていた。

 

もちろんモルド()もいた。でも、やっぱりほぼずっとサンラクと戦っていた気がする。

 

 

……楽しかったんだ。

 

 

とても楽しかった。サンラクの中身(楽郎)を知ったからこそ、ネフホロを通してより通じたような気がして。

 

今までこんなのは葉だけだった。

 

とても楽しくて、いつもより楽しくて、珍しく()()()()()()()()()()()()()()程にテンションもパフォーマンスも良かった。

 

 

 

だけど

 

 

 

サンラクは一通り戦い終え、ログアウトしていった。

 

 

それがあまりにも()()()()()で、

 

 

()()()()()()()()

 

 

このまま何もかもが元通りになるのが……何故かとても怖かった。

 

 

 

私達もログアウトしたあと、葉と少し話をした。

 

『今日調子良かったね』

 

『まぁ』

 

『この間楽郎と会ったときから、やっぱり夏蓮は少し楽しそうに見えるよ』

 

『……そう?』

 

『そうだよ。良かったね。楽郎も()()()()()ネフホロをある程度メインで遊べるって言ってたし』

 

 

……しばらくは?

 

 

『……しばらくって、どれくらいだろ』

 

『……?さぁ?でももうすぐシャンフロも忙しくなりそうって旅狼(ヴォルフガング)のみんなも言ってたし、楽郎、そもそも来年受験でしょ?』

 

 

『………』

 

 

ぞわぞわぞわっ…!

 

 

鳥肌が立った。

 

この時間はいつまでも続くわけじゃない。

 

やがて時は来て、ネフホロも1が終了し、2が始まる。

 

そしていつか楽郎もインしなくなって………

 

 

『……ダメ。許さない』

 

『何が?』

 

『楽郎を、逃がさない』

 

 

 

……いつも一緒にいてくれる葉とは違うんだ。

 

 

私が、手を伸ばさなきゃ。

 

 

じゃなきゃ、楽郎が遠くに行っちゃう。

 

 

私は、まだ楽郎と遊ばなきゃいけないんだから。

 

 

 

 

 

……一緒にいるのが当然だった葉以外の人間関係を希薄にして生きてきて、ここまで誰かのことを想ったのはいつぶりだろうか。

 

 

 

…この感情に、まだ私は名前をつけることができない。




一つのゲームにのめりこむゲーマーと幾多のゲームを渡り歩いてきたゲーマー。

二人一組のゲーマーとソロゲーマー。

そして、男と女。

何もかもが違うから。

だから、手を伸ばす。

もっと強い繋がりを求めて。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。