Fate/relation   作:パープルハット

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本筋には関係のない日常回です。
博物館スタッフの小話、ぜひお付き合いください。
誤字等あれば連絡お願いします。


おまけものがたり『ハロウィンの日に』

【おまけのものがたり『ハロウィンの日に』】

 

これはいつかのハロウィンの話

 

第四区博物館では、地域交流の一環で、毎年十月三十一日にはハロウィンパーティーが開催される。館内の大広間を祝祭用に開け放ち、数々の甘い菓子がテーブルに用意され、人々は各々化け物の姿に仮装する。館長の意向で表、裏に関わらず全てのスタッフが駆り出され、各々与えられた仕事に従事するのだ。

十五時の開催まであと一時間。

巧一朗は飾り付けの業務を終え、カウンターでうつ伏せになっている。こうして眠りこけているフリをすれば、誰もが彼に声をかけない。

…ただ一人の例外を除けば。

 

「コーイチロー!コーイチロー!」

 

彼はその例外に強く肩を揺さぶられる。耳元で大声を出されるものだから、無視するわけにもいかない。

 

「おはよー!寝ちゃだめだよ!あと一時間なんだから!」

「まだ、一時間もある。俺はもう疲れた。これからまた地獄だからせめて僅かでも休息をくれ。」

「そっか、コーイチローは子どもが苦手なんだっけ」

 

展示解説の業務とは訳が違う。子どもを楽しませる為にあらゆるパフォーマンスが求められる故、彼はこうも辟易していた。

 

「じゃあさ、私たちと一緒にコスコン出ようよ。子ども達の相手は吉岡さんとかちゅんちゅんに任せてさ!」

 

彼女の言うコスコンとはコスプレコンテストの略称であり、男女に分かれてカッコ良さ/可愛さを審査、今年のナンバーワンハロウィンコスプレイヤーを決める戦いである。美頼はその準備担当を自ら志願していた。無論彼女も出場者の一人である。

 

「コーイチローなら男性部門で一位取れるよ!カッコいいし!」

「やらねー。面倒だし、衣装ないし。」

「衣装なら貸出用のものがあるよ!大丈夫、絶対似合うから!ドラキュラ伯爵とかスマートで良さげじゃん!」

「コンテストのために裁縫とか一から頑張っている人たちもいるし、俺が勝つのは厳しいよ。勝てるとも思っていないしな。」

「ぶぅ〜〜」

 

美頼は膨れ顔だったが、巧一朗は彼女の期待に応えるつもりは無かった。ステージに立ち、注目の的になるのは裏稼業的にも正しいとは言えないだろう。だがあくまでそれを美頼にも強要する気はない。彼女は元々可愛い衣装を着こなすことに楽しみを見出している。今回のコンテストについてもニヶ月前から目を輝かせ語っていた程だ。

 

「というか、いまさっき、私たちって言ったよな。他に誰が出るんだ?」

「スタッフの梶さんでしょう?あと脇さんも。あ、みさっちゃんも出るって。」

「鬼頭教官も出るのか?!なんというか…意外だな。」

「私はナースコスで、みさっちゃんは十三日の金曜日の…」

「怪人ジェイソンか?!どうしてそこをチョイスしたんだ、あの人は…」

 

巧一朗は充幸のジェイソン姿を想像する。酷く似合っていないことは確かだ。

 

「みさっちゃんも出るんだし、コーイチローも出たら、絶対楽しいのになぁ。」

「……俺は客席から見ているよ。応援しているから。」

「本当?絶対絶対見に来てよ!約束だから!今回はサプライズゲストも出るからね!絶対来てね!」

 

美頼はぶんぶんと大きく手を振り、去って行った。巧一朗はやれやれと言った表情で彼女の背を眺めている。

すると身体つきの良い男が彼の隣に腰を下ろした。どうやら巧一朗を誰も一人にはしてくれないらしい。

天然パーマに眼鏡をかけた年上の男。巧一朗は男を見るまでも無く、その正体が表スタッフの吉岡であると判断した。

 

「はい、ホット。」

「有難うございます、吉岡さん。あ、でも俺いまコーヒーは……」

「大丈夫だ。ホットメイプルティーだよ。甘ければ君は飲めるだろう。」

「…流石ですね。有難く頂戴します。」

 

巧一朗は吉岡から飲み物を受け取ると、頭を傾け、勢いよく飲み干した。その様子に吉岡も唖然としている。

 

「あれ、どうしました?」

「いや、ホットだよ?そんな勢いよく飲めるものなの?」

「メイプルなので。」

 

巧一朗は決め顔でそう言うが、吉岡は苦笑するしかなかった。

彼らはハロウィンパーティーの立ち回り方を再確認しつつ、役割分担を決めていた。吉岡は他のスタッフにも再チェックするよう通達しており、巧一朗は彼のイベントにかける熱意を感じ取った。吉岡は無類の子ども好きだ。きっと何か彼らに還元できることを嬉しく思っているのだろう。巧一朗から見て、その姿は大人びていた。その点、自らの幼さを見せつけられたような気分になる。

 

「…で、四時になったら巧一朗君は鷺沼さんと交代して。そこからはフリーだから。」

「フリーって、仕事は?」

「事前準備に走り回ってくれたからね。今日くらいは君も楽しんでくれ。折角のハロウィンなんだから。」

「いやいや、俺やること無いですし、手伝いますって。」

「何を言っているんだ。やることはあるだろう?丁度四時からコスコンだ。彼女を応援してあげて。」

「……吉岡さん、聞いていたんですね。」

「ごめんね。だけど彼女、張り切っているんだからさ。一番見せたい相手は君だと思うよ。」

「…………分かりました。お言葉に甘えます。有難うございます。」

 

巧一朗は吉岡の計らいで、コスコンを鑑賞することになった。それも何故か最前席で。

 

 

十五時、ハロウィンパーティーが開催された。

老若男女問わず総勢百人近くが集まり、各々がこの祝祭の日を思い思いに楽しんでいる。

巧一朗は吉岡の傍でお菓子配りに従事。だが吉岡と違って、巧一朗のもとに子どもは並ばない。その様子を傍から見たスタッフがクスクスと笑っていた。

そして十六時。巧一朗は別のスタッフと持ち場を交代し、コスコン会場へと足を運ぶ。

既に会場は満席。立ち見客まで存在する程だ。巧一朗は吉岡がくれたチケットの座席番号を探す。

 

「げ……」

 

巧一朗の席は最前列、かつ中央の目立つ場所。更にその隣に見知った顔が座っていた。

 

「鶯谷、何故お前もいる?」

「よ、巧一朗。そりゃあ女の乳に尻が見放題なんだからフツー来るだろ。」

「お前はこのイベントをストリップショーか何かと勘違いしていないか?」

「確かに裸では無いけど、かなり際どい衣装もあったりするんだぜ。そういう目当ての男も会場には沢山いるぞ。倉谷は最有力候補だ。」

「美頼が?まぁ、アイツの本職的には、そういう服を持っていてもおかしくは無いが…」

 

地域コミュニティへの還元を謳う博物館イベントが、邪なものになって良いものかと考えあぐねる巧一朗であった。

そしてコスコンの幕が開ける。最初は男性のステージ。

様々なコスプレのイケメンたちが、各々アピールを繰り出していく。会場は黄色い歓声に包まれた。

巧一朗は改めて、出なくてよかったと、安堵の溜息をつく。

 

「しかし良く出来た衣装だよな、なぁ鶯谷。」

 

鉄心に声をかけるが、彼は興味なさげにデバイスを操作していた。なんとも現金な男である。

 

そしてイベントは進み、女性陣のターンが開始される。

野郎共の野太い歓声に、巧一朗は呆れるしかなかった。

モデル体型の少女や、温かみのあるお姉さんなど、次々に美人が現れては消えていく。鉄心は必死にカメラを構えていた。アングルが際どいときは、巧一朗が必死に止めに入った。

そして中盤に差し掛かり、ようやく二人の見知った相手が現れた。

セクシーな女性が相次ぐ中で、異様な雰囲気の女が姿を見せる。

不気味な仮面を被り、地味な衣装に身を包んだ、謎の女。彼女は両手で巨大なチェーンソーを抱えているが、電源が入っていないのか、それとも危険を考慮したのか、自ら「どるるん、どるるん」と奇声を発していた。

巧一朗、鉄心はすぐさま彼女の正体に気付く。美人な鑑識官である筈の、鬼頭充幸であったのだ。

先程まで歓声に包まれていた会場は、突如静寂に満ちる。

ステージを取り仕切っていた司会進行の女も、若干引き気味に、充幸へマイクを傾ける。

 

『えーっと、それは、十三日の金曜日、ですか?』

「どうるるん、どうるるん、ぎぎー、ばきばき」

『あら、随分本格的ですわね。』

「どぅるるるるるる、ぐちゃ、ぼとん、どぅるるるるるるるるるるるる」

『ちょっと何か答えてくれませんかね!?怖いわ!』

 

充幸はコスコンを本格的な仮装大会と認識していたようで(本人談)その異様なまでの不気味さは人々の間で語り継がれていくのだった。

ジェイソンは喋らないから、チェーンソーの音だけで答えてみました!と笑顔で語る彼女を知るのは、また後の話である。

そしてイベントはクライマックスを迎える。表スタッフの梶と脇のステージアピールが終わり、残す最後の一人は美頼のみとなった。鉄心は梶と脇のゾンビメイドコスの写真を確認しながら、気持ち悪い笑みを浮かべている。気付けばローアングル写真のオンパレード、これには巧一朗も頭を抱えるしかない。

 

「残すは倉谷か。俺の仕事は、見納めだぜ。」

「お前、美頼は撮らないのか?」

「倉谷は巧一朗の女だろう。他人の女に興味ねぇよ。」

「いや付き合ってないし。」

 

だが巧一朗は、自らの気持ちとは裏腹に、そわそわした心持ちだった。得も言われぬ高揚感、それを否定したい己との戦いである。

 

「おい、貧乏ゆすり辞めろよ、巧一朗。」

「は?してないし。」

 

巧一朗はデバイスを起動し、カメラモードをセットする。これは決して自分の為では無く、そう、美頼が後から欲しがるから、その配慮である。出来る男巧一朗はベストショットを逃さないのだ。決してやましい気持ちは無い。断じて無い。

 

『では、エントリーナンバー十二!昨年王者、二冠なるかぁ?!倉谷―美頼――――!』

 

司会の女の声に、巧一朗は唾を飲み込む。舞台袖から純白の衣装に身を包んだ美頼が堂々と姿を現した。

 

『おおっと!昨年王者は、まさか、まさかの!ナースコスだぁぁぁあああああ!』

 

会場が歓声に包まれる。男たちの野獣の如き叫びがこだました。

 

「おぉ、倉谷ってやっぱなんでも似合うのな。こういちろ…」

 

鉄心が隣を確認すると、巧一朗はデバイスを傾け、指が折れてしまう程に連写を繰り返していた。彼自身その行動の意味を把握していない。あっという間に巧一朗の写真フォルダは美頼の写真で埋め尽くされていく。

 

「巧一朗、お前……」

「言うな、鶯谷。男ならばやらねばならぬときがある。」

「分かるぜ相棒。」

 

鉄心は巧一朗の肩に手を置いた。二人はようやく、互いの理解者になれたのだ。

 

「さて、俺も倉谷をこの高性能カメラで収めておくかね。」

「は?」

「待て巧一朗、急にドスの効いた声を出すの止めてくれるか。」

 

二人の理解者は、ここで決別した。

 

『やはり昨年王者!今年も一位間違いなしって感じでしょうか?』

「ううん、今年はスペシャルゲストもいるからね、凄く可愛いよ!」

『スペシャルゲストとな。わたくし何も聞かされていませんが、まだエントリーしている人物がいると?』

「うん!ちょっと呼んでくるね!」

 

美頼は小走りで舞台袖へ降りていき、すぐステージへ戻ってくる。

彼女は誰かの腕を必死に引っ張っていた。彼女こそが最後のコンテスト出場者である。

 

「いや、興味本位で来てみた我も我だが、待て、待ってくれ、流石にこれは少し……」

「ダメ、約束だもん。令呪使っちゃうよ?」

「下らんことで令呪を使うな。あぁもう!」

 

美頼と共に現れたのは、まさかの人物である。

 

「じゃーん!スペシャルゲストは私のサーヴァント、バーサーカーだよ!」

 

姿を見せたのは、美頼と色違いの黒ナースコスに身を包む、妖艶な女。ポポヨラの女王『ロウヒ』であった。

彼女は顔を赤く染めながら、ミニスカートを必死に手で隠そうとしている。普段来ている黒のドレスからは想像できない、彼女の白の肌が皆の目前に晒されている。

 

「我は、その、別に、あの……」

 

常に自身に満ち溢れた残虐な悪女が、乙女の顔で恥じらっている。それは彼女を知るもの、知らないもの、その全てを虜にする破壊力であった。

鉄心はそっとカメラを掲げる。彼の顔は今までで一番凛々しく輝いていた。

 

「止めてくれるなよ、巧一朗。」

「あぁ、行け、鶯谷。求めるがままに、自由に。」

 

そして、ロウヒは得票率九十五パーセントで、伝説の人と化したのだった。

なおロウヒによって彼女を写したカメラは全て粉微塵に破壊された。鉄心はその日、ただ地に伏して男泣きを繰り返していたそうだ。

 

 

ハロウィンイベントが無事終了し、博物館スタッフは片付け作業に追われていた。

 

「私のジェイソンが、最下位、何故です、おかしい、最下位………」

 

カウンターでぶつぶつと呪いを唱える充幸を無視して、巧一朗はデバイスを眺める。フォルダには、これでもかと言わんばかりの、美頼のナース写真があった。

 

「(これ、美頼が見たらドン引きだよな。俺も流石にテンションがおかしかった。消しておこう。)」

「コーイチロー!私バーサーカーに負けちゃったけど、コーイチローは私に投票してくれたんだね!優しいなーもう!」

「え、おぁっ、美頼!?」

 

後ろから美頼に声をかけられ、彼はデバイスを落としてしまう。拾い上げた美頼は、彼の見ていた写真フォルダを確認した。

 

「あ、えっと、これは…」

「これ、全部、私の写真…」

「……悪い、許可も無く盗み撮るなんて最低だよな。ちゃんと消すから……」

「巧一朗ってば、そんなにナースが好きだったの!?」

「え?」

「もう!言ってくれればいつでもコスするのに!水臭いなぁ。」

「いや、別に俺は、その…」

 

「……どうかな?可愛かったかな?」

 

「…………あぁ、良かったんじゃないか。」

 

「そっか、そっか」

 

美頼は巧一朗に拾ったデバイスを押し付け、駆け出していく。

彼は声をかけようとするが、既にスタッフの波の中に消えていた。

彼女は真っ赤になった頬を見られるのが恥ずかしくて、その場から逃げる他なかった。

 

「ナースかぁ、そっかぁ、…可愛かったか、ふふ」

 

今日はハロウィン。ちょっぴり甘いお菓子が似合う日だ。

 

 

【おまけのものがたり『ハロウィンの日に』 終わり】

 

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