Fate/relation   作:パープルハット

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マスターアイデア募集第一弾!
IALVさん、ありがとうございました!

皆さまを、不思議な三つの夜へご招待いたします。

誤字、感想等ございましたら、ご連絡お願いします!


マリシャスナイト:『おにいちゃんの館』

「誰か……っ」

 

二十代半ばの男が、真夜中の路地裏で息を切らしていた。

格闘家の風貌だが、その顔は青ざめ、酷く何かに怯えている。

噴き出した汗と目元を伝う涙が、アスファルトに溶け落ちた。

男は『誰か』に追われている。

これまでの人生、恨まれるようなことをしたつもりは一度もない。

憧れの対象であったことは、少なからずある。

だが殺意を向けられたことは、無かった筈だ。

ならば、彼を追い詰める『誰か』とは誰だろう。彼にはその見当もつかない。

 

「誰か、助けて……」

 

男は震える足に鞭を撃ち、再び逃亡を開始する。

このまま追い付かれれば、自らがどうなるか、想像に難くない。

きっと、彼は殺される。

『誰か』は闇夜に光る刃を握り締めていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

長距離走は慣れたものの筈だった。

だが絶体絶命の状況下では、学生時代の体育の成績など塵ほどの役にも立たない。

呼吸の乱れを戻す方法を忘れている。脳に血液が行っていない。

だから、彼は救いの手を求めている。

この状況を変えてくれる、神の手を。

 

「あっ」

 

男は開けた通りに、巡回中の警察官を発見する。

男の人生に縁も所縁も無い、街のヒーロー。

今の彼には、真の英雄にも映るだろう。

 

「お巡りさん!助けて下さい!」

 

男は叫んだ。

目の前の光へ向かって、手を振りながら。

そして、警官の目線が、彼のいる方角へ―

 

「…………」

 

向かうことは、無かった。

彼の声は、どこへも響きはしなかった。

首に突き刺さった何かが、彼から音を奪ったのだ。

男は路地の外へ出る直前、汚れた地面へ崩れ落ちる。

 

「………」

 

粗雑に抜かれたのは、一本の果物ナイフ。

赤黒い液体がまき散らされ、傷口から冷たい空気が漏れ出した。

男は空に輝く星々を眺めながら、意識を失っていく。

自らの命が、無くなることを悟ったのだ。

 

彼の上に、軽いものが跨った。

腰まで伸びた美しい髪、透き通るような眼、艶やかな唇。

男は、その少女を見たことが無い。

—殺される、謂れも無い。

 

少女は男の冷たい唇にそっと口づけをする。

そして頬を赤らめながら、男の胸板をなぞった。

男が死んだ理由は単純明快だ。

男は、惚れられたのだ。

愛故の狂気だ。防ぎようも無い。

少女にとって男は二十番目の片想いだ。

 

「えと、深井……游斗さん……だっけ。」

 

少女は死体と、手元の資料を見比べながら、男の所在を明らかにする。

その手に握られたナイフを、頬骨に当てながら。

 

「うーん、まぁいいか。君は僕の『おにいちゃん』だ。」

 

少女は慣れた手つきで、手に持つナイフを滑らせる。

鼻根に刃を当てながら、鋸を引く様に切り刻む。

水溝穴まで達すると、鼻の先端を摘まみながら、勢いよくナイフを卸した。

結果、美しく、人間の鼻だけが分かたれる。

少女はそれを愛おしそうに抱え込み、頬ずりする。血液が付着しようとお構いなしだ。

 

「欲しかったんだァ、これ。ありがとう、おにいちゃん」

 

少女はスカートの土埃を払い、立ち上がると、男の胴体に一瞥をくれることも無く、歩き去った。

宝物は彼女の手の中にある。

自宅へ戻り、じっくりと観賞しよう。

彼女からは、不思議と鼻歌が漏れていた。

 

翌朝

開発都市第六区にて、治安組織として機能する『遠坂組』は事件現場へと急行する。

そこで幹部たちが目撃したのは、余りにも無残な、残酷な、男の遺体だった。

だが、担当の者たちは、吐き気を催すことも無く、手を合わせ、ブルーシートで現場を保管する。

そう、今月に入って既に、似たような事件を三度目撃している。

目、耳、口ときて、今回は、鼻、だ。

彼らは『第六区連続猟奇殺人事件』と評し、今日もまた、見えざる悪意を追い続ける。

 

 

【マリシャスナイト:『おにいちゃんの館』】

 

 

船坂優樹(ふなさかゆうき)は、平凡な青年である。

 

富裕層の住まう開発都市第六区に生まれるが、彼の家は庶民そのものであった。

区立中学校にて義務教育を受け、中の下の成績を以て、無事、中流の高等学校へ進学。なお所属クラスにおいても、彼は中の下の成績を維持している。勉強も、スポーツも、芸術も、全てが現代高校生の並の基準値であり、特別な趣味嗜好も持ち合わせていなかった。

そんな総じて『普通』の青年には、ただ一つだけ、誇るべきものが在る。

 

「で、キミの従えている専属従者(サーヴァント)、それがキミの先祖、『舩坂弘(ふなさかひろし)』だね。」

「はい、僕のご先祖様、です。」

 

舩坂弘

第二次世界大戦における、日本陸軍の英雄。

命を懸けて祖国の為に戦い続け、大日本帝国の最期を看取った人物でもある。

その豪胆さ、屈強さは、まさに男の中の男。サーヴァントとしてオアシスに現界してなお、その鍛え抜かれた身体は全盛のままである。

気弱で、軟弱な優樹とは、正反対の人物であった。

 

「成程、ありがとう。とりあえず、知りたい情報は以上だ。では、キミの依頼を整理させてもらう。」

 

優樹は皮の破れたソファーに座り、話し相手の男を眺めている。細い目から時折覗く蛇のような瞳に、彼はすっかり怖気づいていた。

優樹は手に持った名刺へ目を落とした。そこには『第四区・霧峰探偵事務所』と書かれている。優樹は、彼に会うために、態々第四区へ足を運んだ。

ネットで噂の探偵、『霧峰龍二(きりみねりゅうじ)』ならば、彼の抱える問題を解決してくれるだろうという期待だ。

 

「まず、船坂優樹クン、キミの依頼は実にシンプル、とても『探偵的』だ。ずばり、人探し、だね。一年前に突如失踪した中学時代の友人である『板垣充』クンを見つけて欲しい、ということだね。」

「はい、ミッツは僕の幼馴染で、親友なんです。」

 

板垣充(いたがきみつる)は優樹にとって、無二の親友と呼べる存在であった。

彼もまた、優樹と同じ、自らの家系に英雄を持つ青年だった。そして、優樹の家に比べ、先祖への信仰が深い家柄であったのだ。

偉大なる先祖を持つ者同士、彼らは意気投合する。どちらも活発な性格では無い為、その思考も限りなく似通ったものだった。

優樹は偶に、充から家の厳格さについて相談されることがあった。充には兄がいて、その兄が板垣の名を背負うために努力をしているのだと。

そして、充自身はあてにされていないのだと。

だが充にとって、それは心地いいものだったようだ。兄が矢面に立ち、弟である自らを守り、その逞しい背を見せてくれることが、何より誇らしかった。充ははにかみながら、そのことを優樹に話していた。

―だが、その兄が、不運な事故に巻き込まれ、命を落としてしまった。

 

「ミッツが失踪する、半年前のことです。彼のお兄さんが建設中のビルの崩落に巻き込まれて…………ミッツはお兄さんのことが本当に好きだったから、失踪したのも、きっと……」

「……私は探偵として、ありのままを伝えなければならない。嫌な想像はしたくないが、キミの親友がどうなっていようとも、だ。」

「お願いします、霧峰さん。頼れるのは、貴方だけだ。」

「……にしても、第六区市民の何でも屋である『遠坂組』にも相談して、何も動いてくれないなんて、有り得ない話だ。まぁ遠坂の連中は都市開発がメイン業だけど、六区のお悩み相談所としても機能していた筈なんだけどなぁ。まぁこちらとしては、仕事させてもらえるだけ、有難い話なんだけどね。」

 

龍二の言う通りだ。

優樹はまず、遠坂組へ人探しを持ち掛けた。

が、あっさり門前払い。管轄外だと突っぱねられる。

無論、遠坂組の意見は正しい。そもそも建設業が、地区の役所を兼任しているのがおかしな話。

だが、高校生の無垢なる願いをこうもあっさり追い返すとは、優樹自身も想定外のことだった。

だからこそ、第四区まで出てきて、フリーの探偵に依頼しているのだ。

 

「では、依頼を引き受けよう。キミにも何か進展があれば、遠慮なく連絡してきてくれ。なに、私の探偵事務所にはとても優秀な探偵サーヴァントがいるから、そう時間はかからないだろうさ。」

「優秀な探偵?霧峰さんがそうでは無いのですか?」

「私は探偵だが、まだ見習いのようなものさ。だからこうして、広く、学生にも利用できるような看板を掲げている。」

 

龍二は事務所の奥の扉から、探偵たる人物を呼び寄せた。

初老の紳士といった佇まいである。龍二よりも貫禄があるように見えた。

 

「紹介しよう。私の召喚したアルターエゴ『ジム・バーネット』だ。」

 

ジム・バーネットは白い口髭を指でなぞりながら、優樹の方を見つめている。心の内を見透かす様な視線に、青年は思わず目を逸らした。

 

「おや、龍二、儂は嫌われてしまったようだぞ?」

「貴方が舐めるような視線で彼を見つめたからでしょうが。依頼人が委縮してしまっていますよ。」

 

マスターと専属従者、基本的には今を生きる人間が上の上下関係である。

だが彼らは、探偵とその助手といったようで、立場が逆転していた。

きっとそれは、今の優樹と弘にも言えることだ。弘の前で偉ぶるような真似は絶対にしない。

 

「ところで霧峰さん、『ジム、バーネット』と言えば、ですけど。」

「なんだい、優樹クン。」

「その名は仮の名で、その正体は世紀の大怪盗『アルセーヌ・ルパン』では無いですか?あの、こんなことを言っては申し訳ないのですが、その、大丈夫、なのでしょうか?」

 

探偵ジム・バーネットと言えば、バーネット探偵社の主人公。

だがその正体は、浮世を騒がせる大悪党『アルセーヌ・ルパン』である。

もはや彼の名は有名過ぎて、世を忍ぶことも無いが、何故今なおジムの名を語っているのだろうか?

優樹は依頼料を払う以上、そこを追求せずにはいられなかった。

 

「キミの心配は最もだ。だが、私のサーヴァントはクラスがアルターエゴ、今の彼は探偵としての側面が全ての英雄なのさ。犯罪心理に詳しい、只の謎解きオタクに過ぎない。依頼料を増額することは一切ないし、私がそれを許さないから、安心してくれ。いざとなれば、キミのサーヴァントがジムをとっちめてくれるだろう?」

「おい龍二、物騒なことを言うのは辞めろ。」

 

ジムはその細い腕で龍二を小突き、抗議する。その様子がどこか漫才のようで、優樹は苦笑しつつ頬を掻いた。

優樹は一先ず、彼らを信じ、託してみることにした。そもそも、優樹にはその他の選択肢がない。

充の所在を掴むためなら、彼は犯罪者であろうと手を組むつもりなのだ。

 

依頼が正式に受理された後、優樹は事務所を後にする。

折角休みの日に第四区へ出てきたのだ。観光してから帰宅しても問題は無いだろう。

彼は腹の虫に従うように、近場の飲食店へ向かって行く。

崩した文字で男らしく書かれた看板、お好み焼きの『昇陽』。ネット評価は星五つの内の三だった。

青年は弘を奥の席へ案内すると、自らも椅子に腰かけ、二人分の注文をする。

 

「おい優樹、俺はサーヴァントだから飯は要らねぇ。」

「そう言わずに、ご先祖様も現代の料理に興味があるでしょう?」

「俺は近代の英霊だ。俺の時代にも粉物はあった。……オアシスでは千年が経っているのか、近代……では無いな、ややこしい。」

「ご先祖様の時代にもあったのですか、お好み焼き。」

「あぁ。オアシスの飯は日本国の飯とさほど変わらんからな。」

 

談笑する彼らの元に、武骨な男がお好み焼きを運んで来る。

優樹は家の方針で、精進料理しか口に出来ない。その為、濃いソースの香りを鼻から堪能するのは、実に久々のことだった。

 

「優樹、顔が蕩けているぞ。」

「それは仕方の無いことなのです、ご先祖様。久々に舌を喜ばせる料理と相対したのですから。」

「……お前の親も、祖父母も、俺を神格化し過ぎている。俺が精進料理しか口にしなかったと、盲目的に信じているからな。俺のことを語り継いでくれていることに悪い気はしないが、間違った伝言ゲームをされると、噂の主も溜まったものでは無い。」

「そうです、本当にそうです。うちの母さんに同じように言ってください。ご先祖様の意向には従う筈ですから!」

「……そうお前も思うだろう?ところがどっこい、お前は舩坂弘では無いと、否定されてしまった。舩坂弘は専属従者の器に収まる英雄では無いと。……信仰というのは時に厄介なものだな。」

 

優樹が弘と出会ったのは、中学に入った時のこと。

入学祝に、アインツベルン製オートマタを祖父母に買って貰い、彼はお年玉でサーヴァントデータメモリーを購入した。

そこに記録されていたのは、中世の騎士か何かのデータだった筈だ。

だが優樹は、英霊召喚の手順を間違えてしまった。

データのロードに失敗しているにも関わらず、強行的に、召喚行為に走ってしまう。

結果、船坂屋敷に格納された数々の聖遺物に影響され、舩坂弘が呼ばれてしまった。

だがその事実を、誰一人として信じない。推していたアイドルが突如家に訪ねてくるようなものだ。船坂一族にとって、弘とは神そのものである。見上げることはあっても、決して見下ろすことはしない。

 

「優樹、お前は俺を舩坂弘だと信じてくれるんだな。」

「それは……実際に召喚したのは僕ですし、それに……」

「それに?」

「親友のミッツも言っていました。家柄が何であっても関係ない、自分は自分、ペースを乱さないようにって。」

「良い友達だな。」

 

弘はまだ口内を焦がす程に熱いお好み焼きを飲むように食べた。

優樹が口を付ける前に、先に完食してしまったのである。

 

「ご先祖様、豪快ですね。」

「食事は手早く済ませてきたからな。優樹は自分のペースで食べると良い。……充の失踪について、現在の状況を改めようか。俺が一方的に話すから、お前は聞いておいてくれ。」

 

弘の真似をし、お好み焼きをのどに詰まらせた優樹は、必死に水を飲んでいる。常人には危険すぎる食べ方だ、優樹は言われた通り、ゆっくり口に運ぶことにした。

 

「まず、一年と、半年前だ。充の兄が事故に巻き込まれて命を落とした。そして半年が経過し、充が突如失踪する。優樹が充の家を訪れても、廃人と化した父母は何も答えなかったそうだな。板垣の名を充の兄に継がせることが、彼らにとって重要だったのだろう。充には何の期待も寄せていなかったということか。」

「充は、生まれてずっと、目が悪いのです。その代わり、耳がすごく良いのですけど。」

「優樹、とりあえずお前は一旦口のものを空にしてから話せ。リスのようになっているぞ。」

「ふぁい。」

「耳が良い、というのは、もしかすると聞きたくなかったことも入ってきてしまうのかもな。とにかく、充については両親からの失踪届も出されることは無かった。優樹も含め、最初は只の家出だと勘違いしていたのだろう。だが一か月、二か月と過ぎれば、流石に事件性を疑うものだ。優樹は充の行きそうな場所を徹底的に探索した、そうだな?」

「はい。」

「だがそれでも見つからず、一年の歳月が経った。通常、近親者が失踪届を出せば、治安部隊を有する遠坂組も動くだろうが、充の父母はまるで彼が元々いないかのように、一切触れないようにしている。優樹を除き、誰もが充へ関心を持っていない。富裕層の住まう第六区としては、どう考えても異常だな。」

「と、言いますと?」

「遠坂組は遠坂組で、何か隠していることがあるか、もしくは、区民のお悩み相談にかまけていられない程忙しいのだろうな。そうなると、思い浮かぶのは、最近巷を騒がせているあの事件だ。」

 

優樹はごくりと喉を鳴らした。

彼の学校でも、集団下校が推奨されるようになったから知っている。

開発都市第六区を恐怖に陥れる事件。

闇夜に現れるシリアルキラーのミステリーだ。

 

「第六区連続猟奇殺人事件……ですね。」

「ああ。犯行の被害者は皆、青年だ。共通しているのは、専属従者サービスの利用者では無かったこと。守ってくれるサーヴァントがいなかったのだろうな。」

「犯人は背丈の小さなロリータ服の少女、と言われているそうですが、所在は一切不明、ですよね。」

「派手に着飾っているなら、目撃者がいても何らおかしくは無いだろう。だがそれでも、誰もその少女を見ていない。ならば答えは一つだろう。」

「犯人は、『気配遮断』のスキルを有するサーヴァント、ですね。」

「その線が濃厚だ。……っと、謎解きをしている場合では無かった。言いたいのは、遠坂組がこの事件の解決に人員を割いていること、そして最悪のケースだが……」

「……充が巻き込まれた可能性があるということですね。」

 

優樹はようやく食事を終える。口元に付着したソースの汚れを拭うと、弘を真っ直ぐに捉えた。

 

「ご先祖様、充がまだどこかにいるなら、それを探せるのは僕だけです。霧峰さんへ依頼はしましたが、僕もまた捜索を続けます。危険な香りのするものであっても。」

「そうか。」

「両親には止められましたが、ご先祖様は止めないんですね。」

「『男』の下した決断だからな。俺はマスターであるお前の意向に従うまでだ。」

 

弘は腕を組み、笑みを浮かべる。彼が味方で良かったと優樹は深く思った。

彼らはお会計を済ませ、店を後にする。第六区へ向かう列車に乗り込み、自宅へと向かった。

もう陽は落ちている。会社帰りのサラリーマンも多い。明日から、再び本腰を入れて調査しようと優樹は思った。

 

「優樹、充には関係の無い話になってしまうが、いいか?」

「え、はい。」

「事件の話だ。開発都市第六区では、土地管理権を有する遠坂組の認可が無ければ、そもそも六区内に立ち入ることは出来ない、だろう?」

「そうですね。他区に比べて、その辺りは厳しいですよね。」

「当然、専属従者である英霊は認可を与えられない。マスターがいて、初めて第六区に入ることが出来る。優樹がいまパスを持っているから、俺は第六区へ戻ることが出来るんだ。」

「そうですね。でも、それが何か?」

「つまりだ。この事件は他区のものには出来ない犯行という事だ。遠坂組のデータベースに登録されている『誰か』がこの犯罪を手引きしている。『気配遮断』スキルを持つとしたら、恐らくはアサシンのサーヴァントだろうが、遠坂がそれを絞り込めない、なんてこと、有り得ると思うか?」

「確かに、そうですね。富裕層の街だから、召喚されるサーヴァントも、所謂三騎士、が多い筈だ。金持ちにとってボディガードの役割なのだから、扱いづらい暗殺者のクラスは誰もが避ける筈。なら、かなり絞り込める……」

「だが、遠坂組は未だに犯人へ辿り着いていない。人員を割いて捜査に乗り出しても、なお、だ。何か大きな落とし穴があるのだろう。」

 

弘は顎を擦りながら、列車の窓の外を眺め続けた。

優樹は弘のクラスが狂戦士バーサーカーであることを思い出しながら、狂化されているとも思えない彼を不思議に思っていた。

さておき、優樹もまた、充の失踪と関係があるかもしれない連続殺人について考察してみる。

弘の言うことは最もだ。遠坂が事件解決に手をこまねいているのは些か不可解である。遠坂組中央組織は、弘も驚きの精鋭揃いだと聞く。

彼らを欺き、何度も殺しをやってのけるのは、相当の手練れか、はたまた。

優樹が何気なく混み合う列車内を眺めていたとき、彼の脳内に一筋の光が走る。

それは断片的な記憶。

充と共に汗を流した、柳生剣道場からの帰路。田園風景に突如現れる、寂れた一軒家。

 

「ここ、前に住んでいた人が、亡くなって、幽霊屋敷になっているそうだよ。」

 

充は怪しげな家を指差した。殆ど目の見えない筈の彼が、正確に指を差したものだから、優樹は驚いた。

 

「剣道場の子が言っていたんだ。」

「ミッツ、何か見えるの?」

「いや。でも、ずっと声が聞こえる。多分、幽霊の声。」

「えぇ」

 

優樹は充の手を引き、強引に離れようとする。だが、充は岩のように動じなかった。

充は誰かの声に耳を澄ませる。当然、優樹には何も聞こえない。

 

「可愛い洋服が好きな女の子だ。お人形さんみたいな女の子。地下室に監禁されて、衰弱死。犯人は彼女の歪んだおにいちゃん。親も殺して、妹も殺して、最後は自分で首を吊った。」

「ミッツ……っ」

 

優樹は充を引っ張っていく。だが、彼の顔は、屋敷の方を向いたままだ。

 

「充!」

「うーらーめーしーやー!」

「わ!?」

 

突如、屋敷を見つめていた充が、優樹の方へ首を回転させた。

その鬼の形相に、優樹は手を離し、尻餅をつく。

 

「ぷっ、はは、あはははは!優樹ってば、涙目になっているじゃんか。ビビり過ぎ!」

「え、あ、あの」

「冗談だよ、ジョーダン!今僕が適当に作った物語さ!結構スリリングだっただろう!」

「じょう、だん?」

「確かにこの一軒家は無人だけど、フツーに引っ越していなくなっただけだよ。」

「そ、そんなぁ」

 

怖がりの優樹を試す、充のジョークであったようだ。

優樹はそんな親友とのくだらないエピソードを、何気なく思い出す。

彼は幼い頃から、両親と親戚のいざこざに巻き込まれてきた。結果、彼は自分にとって『危険』と判断する事案を、事前に回避することが出来るようになっていた。

正常、正確なシックスセンス、とはまた違うだろう。所謂『虫の知らせ』に近いものだ。

彼の脳内に突如想起されたビジョンこそ、今の彼の足枷となる。

これ以上、充を思い出してはいけない。危機回避能力が、彼に訴えかける。

 

「どうした?優樹」

 

弘が心配そうに覗き込む。

優樹はぐっしょりと汗をかいていた。

鉄道のアナウンスで、次が降車駅だと知らされる。

青年は鞄に仕舞っていたメガネ拭きで、自らの顔に付いた『焦り』を拭った。

 

「何か、嫌なことでも思い出したか?」

「いや、大丈夫。」

 

何故、幼い頃に見た、あの一軒家を今思い出したのだろう。

優樹の中で、恐怖心と好奇心が喧嘩をしている。

本来ならば、彼は駅を降り、自宅へと真っ直ぐに向かうだろう。

それが船坂優樹の在り方だ。君子危うきに近寄らず、彼の座右の銘でもある。

だが、今の彼は少し違っていた。

僅かばかり、好奇心が上回ったのだ。

 

「ご先祖様、これから向かいたい場所があります。」

「あ、あぁ、だがもう外は暗いぞ。」

「両親には、今日第四区で遊んでくると伝えています。多分。大丈夫。」

「そうか。ならば俺も共に行こう。」

 

列車を降りた彼らは、自宅とは反対方向の、石舟斎が指南を勤める柳生剣道場の方角へ向かって行った。

 

 

優樹と弘は、田舎道を進んでいく。

この辺りは、外套も少なく、月と星を光だけが道を指し示してくれる。

ここが第六区でなければ、例えば狂乱の都市である第二区ならば、危険すぎる薄暗さだ。

遠坂組が安全安心を保証しているからこそ、幼子でも一人で歩くことが出来る。

だが、そんな第六区を恐怖に陥れる連続殺人事件があってからは、習い事もお休みになるだろう。

どうやら柳生剣道場も一か月戸を締めているらしい。

優樹は一度剣道場の目の前に行き、記憶を頼りに、充との帰路を再現していった。

 

「取り壊し予定の一軒家、か。優樹の話を聞く限り、充にすら関係ない場所のように思えるが。」

「僕もそう思います。けど、ミッツのジョークにしては、なんというか、薄気味悪いくらい話が出来過ぎている気がして。」

「少女の霊、か。そいつがアサシンに?」

「まぁ有り得ないのですが、一応、家の確認だけ。胸のモヤモヤを取り払う程度の冒険です。」

 

優樹はデバイスのライトを頼りに、砂利道を歩く。人が誰も通らないことに、徐々に危機感を抱いていた。

隣を歩く弘がなんと心強いものか。彼がいるからこそ、優樹はこの場所に来られたのだ。

 

「こ、ここ、か、ここです。」

 

優樹がライトで照らす先、樹木に覆われた、幽霊屋敷がある。この場所だけ余りにも異質なため、逆に目立っているようにも見える。

何故、ずっと取り壊されないまま放置されているのか。都市開発の遠坂組が、放置するなど有り得ない筈だ。

 

「…………優樹、ここは、マズイな。」

「ご先祖様?」

「魔術の心得なんて一ミリも無い俺でも分かる。ここは、異様だ。」

 

弘は、第六区の一般人には認知すらされない程度の結界が張られていることを説明する。

優樹がこの場所を幼い頃に知覚できたのは、自身の霊感が強かったためだと。

 

「や、やっぱり僕にはあったんだ、シックスセンス。」

「恐らく、充にも、な。彼は視覚ではなく、聴覚で感じていたみたいだが。」

 

優樹の足腰はダンスしているように大きく震え始めた。弘もまた緊張した面持ちである。

彼らにこの場所へ立ち入る気概は無い。あくまで第六区に住まう、一般人に過ぎないのだから。

この場所を発見し、それまで。後は遠坂組へ報告して、任せるべきだろう。

弘は立てなくなった優樹の手を取り、踵を返した。長居する必要は無いと、判断した為だ。

だが、その時。

屋敷の窓に映る、人影を、優樹は目撃した。

その目にハッキリと映り込んだのは、人形のような少女の姿だ。

 

「あれ……は……」

「どうした、優樹。」

 

優樹は弘の手を振り解き、屋敷へ向かって駆けて行く。

驚く弘も、優樹の背中を追いかけた。

弘の脚力に優樹が敵うはずも無く、あっさりと彼に捕まえられたが。

既にそこは屋敷の敷地内、結界の内部だ。

植物が蠢き、彼らを帰さないとばかりに入り口を塞いだ。

彼らはこの場所で、囚われの身となってしまう。

 

「優樹、どうしたんだ。」

「ご先祖様、行きましょう。ここに、答えがある。」

 

彼らを歓迎するように、一軒家の扉が音を立てて開かれた。

ならばもう、罠であろうと進むしかない。優樹は大きく深呼吸した後、家の玄関に上がり込んでいった。

 

外で確認した家のサイズからは考えられない程に、その場所は広く感じられた。

富裕層の住まう家、にしては、どちらかというとオンボロである。船坂家のような、中流階級の家柄なのだろうか。

だが、この場所は取り壊しが決まってから数年は経過している筈、にも関わらず、清掃が行き届いていた。

今も、誰かが居住地にしていることが窺い知れる。

二階建てではあるが、特に怪しげなものに相対することも無く、彼らは進めども収穫を得ることは無かった。

お化け屋敷で、お化けが出てこないと、逆に不安になるだろう。優樹の顔は青ざめている。もはやパープルに近い色の焦り具合だ。

弘は、外で感じた異様な雰囲気の出所を見失っていた。中に入ってみれば、驚く程にこの場所は『平凡』だ。只のオアシス家屋の一つに過ぎない。返ってそれが不気味でもある。

 

「キッチンも、何も、無いですね。」

「そうだな。あらかた調べ尽くしたか?」

「おかしいな、確かに僕には見えたんですけど。気の所為だった、とか?」

「結界の外に出られなくなった時点で、気のせいである筈は無かろうよ。誰かが潜んでいることは間違いない。」

「でも、どこにも、何も……」

 

優樹はふと、キッチンの電源プラグが目に入った。

コードは全て抜かれており、電子レンジや冷蔵庫は、機能しないものになっている。

だが、ここで違和感に気付く。

冷蔵庫は少しばかり開かれており、そこから少しの光が漏れ出ていた。

電気が通っていないのに、冷蔵庫のライトが点灯する訳もない。

 

「もしかして」

 

優樹は冷蔵庫を徐に開ける。

すると、食材や飲料が入っていることは無く、代わりに、有り得ざる光景が広がっていた。

 

「これは」

「ファンタジーとかで良くあるんです。冷蔵庫の中は、地下室へ続く階段になっている、なんてこと。」

「地下、だと?」

「さっき見た人影は、ここに隠れて行ったのかも。……行ってみましょう、ご先祖様。」

 

優樹と弘は意を決して、地下階段を下っていく。

先程漏れ出ていた光は、壁面に施された蠟燭型ライトだったようだ。ほの暗さが、優樹の恐怖心を加速させる。

だが彼には、この先進まなければならない理由があった。

弘も、優樹の決意の目から、何かを察したようである。

 

地下階段を降りた先、開けた部屋へ降り立った。

特に何かのオブジェクトがある訳でもなく、ただ単に広い空間である。

宝物を隠すには、些か広すぎる気もしそうな場所だ。

 

「この先は、何も無い……か?」

「いえ、もしかすると、まだ。」

 

弘はこの空間に、かつての防空壕を想起する。

小さな共同空間の中で培われた恐怖と、そして大きな絆。

生きる為に必死だったからこそ、誰もが誰かを必要とした。

彼もまた、日の丸の元で、失われていく命の灯を、胸に刻みつけてきた。

 

「ご先祖様?」

「何でも無い。それより、何か見つけたか?」

「えっと、壁面に何かラインのようなものが。配線を格納するスペースなのか、何なのか。」

「もしかすると、そこに手を引っかけて開く式の、扉かもな。」

 

弘が何気なく言った一言で、優樹は手を動かした。

 

「待て優樹、何か罠かもしれな……」

 

優樹は指をかけると、左方向へ大きく引っ張ってみる。するとそこは引き戸になっており、弘の言う通り、新たな部屋が見つかった。

だが優樹が開けた瞬間、飛び込んできた光景は、余りにも悍ましいものだった。

優樹は声を上げることなく、その場でへたり込む。腰を抜かし、暫く立てなくなった。

弘が様子のおかしい優樹の傍に駆け寄ると、そこで部屋の様子を目の当たりにした。

 

「何だ、これは………………」

 

そこに在ったモノは

 

『人』だ。

 

英霊召喚用のアインツベルン製オートマタに

人間の、目や、鼻、口、耳、髪、皮膚まで、取り付けている。

機械部分を抉り出し、無理に眼球をはめ込んでいる。

鼻や口は、周囲の皮膚ごと縫い付けてあるが、どこか歪んでいるようにも見える。

それぞれが独立したパーツとして、『人形』に合体させられている。

まるで子どものブロック遊びのように。

 

「おえええええええええ」

 

優樹はその場で、今日食べたものを吐き出した。

弘は彼の背に手を当てながら、状況を確認する。

部屋には刃物が多数、無造作に置かれており、隅々に血液の跡が付着している。

この『人』は豪華な椅子に座らされており、ビジネススーツを着せられていた。

それは余りに無残な『人形遊び』に思える。

だが誰がこのようなことをしたのだろう。この家には、シリアルキラーは確認できなかった筈だ。

そして弘はハッとする。

忘れていた訳では無い。だが、間違いなく油断はしていた。

もしこの場所が連続殺人鬼の城ならば。

少女は『気配遮断』のスキルを有している!

 

「優樹、悪い!」

 

弘は優樹の首根っこを捕まえ、悍ましい部屋の中へ投げた。

そして戸を閉め、自らの武器である手榴弾を放り投げる。

開けた空間に爆発音が轟き、辺りに煙が立ち込める。

 

「ご先祖様!?」

「成程、この地下空間は言わば、闘技場、だ。サーヴァントが暴れようとびくともしないだろう。敵が来る、優樹はそこに隠れていろ。」

「えぇ!?ここで!?嫌ですよ!?今にもまた吐きそ……」

 

戸の隙間から弘の様子を窺う優樹。

いつになく、弘は怖い顔を浮かべている。

彼らが戦闘を行うのはこれが初めてだ。そもそも、平和な第六区において戦うことなど人生で一度も無いのが常である。

部屋には煙が立ち上り、誰もいない空間に、人影が見えた。

人形のような服を纏った、髪の長い少女。

弘が察するに、彼女こそが噂のシリアルキラーだろう。

だが、彼女を目撃した優樹の反応は異なっていた。

優樹は隙間から顔を出し、少女へ向かって声を張り上げる。

 

「やっぱりだ、やっぱり屋敷の外で見たときに、思ったんだよ。」

「どうした、優樹。」

「なぁ!」

 

優樹は少女の顔を確認する。そして確信する。

 

「どうして、女の子の格好をしているんだ?『充』!」

 

幼い顔立ちは、益荒男とはとても思えない。

が、しかし、優樹は、誰よりもその顔を知っている。

化粧をしていたって、ドレスで着飾っていたって、彼のことは見つけられる。

優樹にとって、充は間違いなく親友だったから。

 

「その声は、優樹か?」

「やっぱり、ミッツなのか。お前、どうして……」

「世の中の『おにいちゃん』たちが喜ぶからさ。僕が男だと気付かずに近付いてきて、本当に困ったさんだからね。僕はずっと板垣の名を背負う、真のおにいちゃんを探していた。でも僕を守ってくれる優しいおにいちゃんはいない、どこにもいなかったんだ。」

「このオートマタは……」

「そう、いないなら『作る』ことにした。旅立った僕のおにいちゃんに似たパーツを集めて、その人形を起動させる。」

「いや、何でそうなるんだよ!」

 

優樹のツッコミは正しいだろう。だが充に届くことは無い。

充は独特の価値観で動いている。かつての優しい親友は、もうそこにはいなかった。

 

「優樹のことは好きだけど、でも見られたなら、仕方ないよね。僕は君を殺す。君は僕のおにいちゃんには成り得ないけど、君の身体は永久に宝物にする。僕の大好きな、親友。」

「ミッツ、おい、充!」

「あと、もうその名前で呼ばないで。僕には災害のアサシン様から頂いた名前がある。板垣の名はもう捨てた。僕の名は『モゴイ』だ。またの名を、『ヴェノムアサシン』!」

 

〈データローディングは正常でした。サーヴァントタイプ『ヴェノムアサシン』:『ギボンズ・シスターズ』現界します。〉

 

充、もとい、モゴイと名乗る彼は、取り出した注射針を右肩に縫われたコネクタに差し込んだ。鮮やかな緑の液体が、彼の肉体を満たしていく。彼は涎を垂れ流しながら、昇天している。その様はあまりにも異質だ。薬物中毒者が同じ表情を浮かべている気がする。

そして彼女の肉体は、二つに分裂した。

優樹は有り得ざる光景に、開いた口が塞がらない様子だ。

 

「優樹、人間が、サーヴァントになる、なんて話は聞いたことがあるか?」

「いや、無い、ある訳無い、しかも、充が二人に増えた、意味が分からない。」

 

モゴイは空になったアンプルを見て、溜息をつく。本来であれば、強力な毒を持つ『ハサン・サッバーハ』を用いて殺しに行けた筈だが、おにいちゃんのパーツ探索で幾度となく使用した結果、空になってしまったのだ。開発都市第五区へ戻り、補填する必要があるだろう。

彼が所持しているヴェノムアンプルは三種類。今回はその一つ、『ギボンズ姉妹』の毒素を肉体に取り込んだ。

 

「さて、優樹を守っているのはサーヴァントかな?まずはそちらから処理しよう。」

 

ギボンズ・シスターズのスキル『サイレントツインズ』は、異なる肉体を召喚し、マリオネットのように操る。互いに音波を飛ばすことでコミュニケーションを行い、連携して敵を追い詰めていくのだ。

弘の目前で、二人は火炎瓶を連投した。弘は巧みに避けてみせるが、室内の至る所で火の手が上がる。

室内は頑丈な造りとは言え、崩壊しない保証はない。弘にとって、自らの死はともかくとして、優樹が生き埋めになれば敗北である。

だからこそ、彼は倒すことより、優樹を連れ出して逃げることを選択する。

煙幕は、視覚を捨てたモゴイには通用しない。音と匂いを知られている以上、逃げ出すのは困難を極めるだろう。

そして殺人鬼とはいえ、モゴイは優樹にとって大切な親友である。もう一度、ちゃんと言葉を交えるまでは、なるべく傷を負わせたくはない。

だが、そのような甘い考えは、モゴイに見透かされている。

弘が出口への道を確保していることを察したモゴイは、あらかじめ地下空間内部に仕掛けていたトラップを起動する。それは格子状のレーザービーム、当たれば即御陀仏の代物だ。

 

「肉片になっちゃえ!」

「……っ」

 

弘は取り出した銃のスコープを覗き込み、装置の射出部位を正確に射抜いた。レーザートラップは停止する。

そして即座にその目標を、モゴイに見定めると、彼の右足首を撃ち抜く。

 

「……っ!ぐぃあ!」

「(これで止まってくれ、充!)」

 

弘は倒れ込むモゴイを尻目に、いつの間にか姿を隠した分裂先、もう一人の彼を探した。

優樹のいる部屋の付近には確認されない。どこかに隠れ潜んでいるが、目視では捉えきれなかった。

 

「…………」

 

弘はここで、両目を閉じた。

戦時中、どこから鉛玉が飛んで来るかも分からない。自然の色合いを取り込んだ迷彩服のカモフラージュは、視覚情報を奪うのに最適解だった。

ならば必要なのは、敵の発する『音』だ。

人間の動作には、必ず何らかの音が生じる。気配を消していようとも、例外は無い。

薬莢の転がる音、銃弾が空を切る音、耳が与えてくれる情報は決して侮れない。

現に、目の前の敵がそれを頼りに刃を向けてきたのだ。

 

「そこか」

 

弘は背を向けたまま、その手に持った小刀を、後ろへ向けて突き刺した。

それは見事、モゴイの太腿に突き刺さる。コンバットナイフを振り下ろそうとしていた彼は、よろめきながら倒れ込んだ。

 

「な……」

「偶然だな、俺も、耳には自信があるんだ。とっくの昔に駄目になったと思っていたが、全盛期の俺はそれなりに良い耳を持っていたようだ。」

「気配を、遮断していた、はずなのに……」

「こればかりは実地経験の差だ。俺の肉体が、戦い方を覚えている。」

 

モゴイの身体から英霊の力が消失し、二人は一人へ戻った。

弘は蹲るモゴイを放置し、優樹を連れて地下室を出ようと試みる。

だが、彼が部屋に視線を向けた瞬間、背後に強烈な殺気を感じ取った。

それはモゴイの放つものでは無い。

彼の殺戮行為には、無邪気さと残忍さがありつつも、素人感が混在していた。

だが、それとは異なる、強烈なプロの殺し屋の殺気。

戦時中、弘が米軍に感じた、生きる為に人を殺す、生存競争の果てのオーラ。

 

「まさか、共犯者が!?」

「あら、わたくしはモゴイくんのおままごとには不干渉よ?教祖様のお導きに従っただけ。」

 

焦げ茶色の肌をした、虹色のサングラスの大男。彼は女性的な話し方をしながらも、その雄々しい肉体を惜しげなく見せつけている。

男の隊服は、どこかの国のもの。弘と同じく彼も、『本物の殺し合い』を経験している。

 

〈データローディングは正常でした。サーヴァントタイプ『ヴェノムキャスター』:『アスクレピオス』現界します。〉

 

謎の男は、左手首のコネクタに注射針を打ち込んだ。結果、モゴイと同様に、彼も英霊へと進化する。

黒いフードにペストマスクの奇怪な姿へ変貌し、弘の前へ躍り出た。

 

「お前も、人間から、英霊に……っ」

「それがヴェノムサーヴァント。第六区の遠坂組の監視なんて、いとも容易く抜けられる。だって、元は人間ですものね。」

 

ギリシア神話の医神『アスクレピオス』の力を纏った男は、弘のレンジに素早く入り込むと、その拳を腹部に叩きつけた。キャスタークラスであるものの、その威力は計り知れない。弘は後方の壁面に叩き付けられる。

 

「パンクラチオン、中々のものでしょ?」

 

男は崩れ落ちた弘を背に、モゴイを叩き起こす。アスクレピオスのスキルを以て、モゴイの傷は次々と塞がれていった。

弘はモゴイの回復を止められない。それだけ、男の放った一撃は重いものだったのだ。

 

「邪魔を……するな、ショーン。」

「あら、邪魔なんてしないわよ。彼らが貴方の得物なら、わたくしは横取りなんて無粋なマネはしないわ。」

「なら、いい。」

「でもあのバーサーカーは、貴方には少し荷が重いわね。だから少しばかり協力してあげる。」

 

ショーンと呼ばれた男は、続いてコネクタに新たな注射針を突き刺した。

それによりアスクレピオスの権能は消え去り、新たな英霊が彼の肉体に宿る。

 

〈データローディングは正常でした。サーヴァントタイプ『ヴェノムキャスター』:『ダユー』現界します。〉

 

その雄々しい肉体は、幾ばくか、女性的なフォルムになる。

彼は神秘的なドレスを纏い、ブルターニュ地方の海賊公女へと進化した。

彼もまた、モゴイと同じく三本のアンプルを所持している。これは彼の持つ二人目の英雄の権能だ。

 

「何をする気だ、ショーン。」

「モゴイくんは戦闘中何も気づかなかった訳?彼の武器の殆どが火器よ。なら火が立たなくなれば、無力化したも同然じゃない?」

 

ショーンの両手が淡く光り始める。

それは彼が絶技を放つ合図に他ならない。

弘と、部屋の中で震えていた優樹はそれに気付く。だが、距離を含めても、ショーンの『宝具』を止める術は無かった。

 

『水門を開く時、渇望は満たされる(ヴェネミス・イノンダシオン)』

 

そして地下空間に、多量の『水』が湧きだした。

その集中砲撃を受けたのは、弘である。消防車の放水など比べ物にならない程の、圧倒的な噴水に、弘は宙まで投げ出された。

そして水の球体に閉じ込められ、再び壁面に飛ばされる。

 

「この場所はこれから水で満たされる。モゴイくん、あのバーサーカーのマスターを獲るなら、今がチャンスなんじゃない?」

「余計なお節介ありがとう。さて、親友との、感動の再会だ。」

 

モゴイは、水の中を走って来た。

優樹と、モゴイの愛するおにいちゃん人形が隠れる部屋へ。

 

「(まずい、まずい、どうしよう)」

 

優樹は狭い個室の中で、必死に考える。

弘が水の中に囚われた今、優樹を助ける者はいない。

彼は落ちていた刃物を拾い上げるが、こんな物騒なものの使い方など習ったことは無かった。

優樹は自身のことを正しく理解している。船坂の家に生まれつつも、平凡な、才の無い人間だと。

虫の知らせで、危機を回避しながら、それなりの人生をそれなりに生きてきた。

彼は自らが物語の主人公になれないことを知っている。

そんなドラマティックなものを欲しいとも思わない。

だから、戦う意思もない。何とか懇願して、許しを請うて、生き延びたいと思う。

それは、目の前のご先祖様を見捨ててでも、だ。

 

「(嫌だ、死にたくない、死にたくない)」

 

きっと、親友は、親友だからといって、許してはくれないだろう。

何が充をここまで追い詰めてしまったのだろう。

何が充を変えてしまったんだろう。

サーヴァントになってまで、充は何を願うのだろう。

優樹の脳内で、様々なことが浮かんでは消えて行った。

 

「(家に帰れば良かった、こんな場所、来なければ良かった)」

 

優樹の心臓は破裂する程に激しく脈打った。

もう、モゴイはすぐそこまで来ている。

更に、部屋の外には弘を痛い目に遭わせたモゴイの仲間がいる。

どう考えても、助かる道はない。

 

―助けて、誰か助けて

 

優樹の目から大粒の涙が零れ落ちた。

そしてそれに呼応するように、部屋の外から微かな声が届いた。

それは水の牢獄へ囚われた弘の声だった。

弘が、何かを伝えようとしてくれている。

 

「ご先祖様、何を……」

 

心臓の音が五月蠅くて聞こえない。

だから、一度落ち着かせる。深い深呼吸を、繰り返す、そして繰り返す。

充のことを一度忘れる。ただ弘のことを思い、弘の声に耳を傾ける。

 

『ゆうき』

 

聞こえる。

優樹の耳に、確かに、弘の声が届いた。

だが、その後の声がどうしても伝わらない。

優樹は神経を集中させる。

 

『ゆうきだ、ゆうき』

 

弘は何度も、彼の名を口にする。

だが、そこには、別の意味も含まれていた。

優樹は、以前、弘と何気なく話したことを思い出す。

それは、舩坂弘の生き様についてのことだった。

 

「ご先祖様は、日本の為に、命懸けで戦ったと聞きます。数々の伝説は、船坂の家に記録として残っています。」

「それはまぁ、恥ずかしいが、有難い話だな。」

「それで、疑問なのですが、ご先祖様は死ぬことが怖くなかったのですか?」

「最初はな、怖かったさ。だけど不思議なもので、戦争は人の心まで変えてしまう。死んでいく仲間を見て、俺もまた、誇りある死を選びたいと思うようになった。一人でも、米兵を殺して死んでやる、というな?」

「死ぬのが怖くない、くうーー!痺れるカッコよさですね!」

 

興奮する優樹だが、その頭を弘は小突いた。

 

「いて!」

「いいか優樹、死ぬのが怖いのが当たり前だ。死んでもいいなんてのは、麻痺した人間の腐った思考だ。カッコいい訳が無いだろう。……優樹、泥臭くてもな、生きている人間の方が数倍カッコつけられるんだぜ。そもそも俺たち日本軍は、負けちまったんだからな。」

「それは……」

「俺を救ってくれた医者がいた。そいつは鬼畜なアメリカ人、だったが、俺に『生きろ』と言った。アメリカ人が、だぞ?こんな恥みたいなことあるかよって、俺は騒いださ。あの時の俺は、カッコつけて死ぬことが、カッコいいと思っていたからな。」

「ご先祖様…………」

「でも、それは違っていた。天寿を全うし、俺は日本帝国の最期を看取った。あぁ、日本は負けた。何も得られなかった。でも、俺は違った。俺には、手に入れたものが一つある。」

「それは、何でしょうか?」

「それはな」

 

弘は、今度は優樹の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。

優樹はくすぐったそうにしている。

 

「それはな、お前だ、優樹。」

「僕?」

「あぁ、俺は生きた。そして次の世代へ繋いだ。だからお前が、こうして生きている。あぁ、俺は勝ったんだ。あの馬鹿医者が一番正しかった。俺は、失わずに済んだんだ。それに、お前の名は『優樹』。なんて良い名前だ。優しい勇気、俺が生きたおかげで、こんな優しい男が今を生きている。俺は幸せ者だ。」

「優しい勇気……」

「優樹、男ならば、戦わなきゃいけない時が来る。でも、死ぬために命を張ることだけはするな。ちっぽけでいい、その優しい心で、大きく胸を張って、生きる為に戦え。それが『船坂流』だ。」

 

弘の笑顔を、優樹は覚えている。

だから、彼の言葉の意味が分かる。

 

『勇気だ、優樹』

 

きっともう、優樹に迷いはない。

モゴイが扉に手をかけた瞬間、優樹は前へ飛び出した。

その勢いで、モゴイは後方へ倒れ込む。

 

「…っ!優樹!?」

「充!僕はお前になんか臆さない!」

 

呆気に取られているショーンの横を通り過ぎ、優樹は地下の階段へ一直線に走っていく。

そして彼の拳に浮かび上がる、マキリ社製の令呪、その三画全てに祈りを込めた。

 

『令呪を以て願う!僕の英雄、舩坂弘に最高の力を与えて!めっちゃ強いパワー!弘を留める枷なんて無い!』

 

優樹の三画の痣は消失し、弘へ絶大な力を与える。

地下階段を駆け上がり、屋敷の外へ走り出た。

そしてその瞬間、一軒家周辺で轟音と共に地盤沈下が起こり、屋敷は地面に飲み込まれていく。

壁面がひび割れ、何者かの拳で破壊される。優樹は、弘を信じていた。

 

「良い激励だ、マスター優樹!」

「ご先祖様!」

 

屋敷そのものへの攻撃的アプローチにより、地下空間から這い出た弘。

閉じ込められたショーンは『うっそー』と奇怪な断末魔を発しながら、奈落へ落ちて行った。

優樹と弘は巻き込まれる前に敷地から出ようとする。だが、追いかけてきたモゴイがそれを制した。

 

〈データローディングは正常でした。サーヴァントタイプ『ヴェノムアサシン』:『ヤ=テ=ベオ』現界します。〉

 

彼は屋敷一帯を囲っていた植物結界と同化する。そしてそのツタを伸ばして、優樹の足を絡めとった。今のモゴイは英霊ですらない、只の怪物と化した。暴走しているらしく、奇声を発し続けている。

 

「優樹!」

「ご先祖様!」

 

沈みゆく屋敷の方角へ引き摺られていく優樹。

弘は、彼の宝具の使用に躊躇が無かった。

優樹は弘の絶技を知っている。それは彼ら日本帝国軍が皆、一同に所持している秘技。

だがそれは、彼との決別を表している。

弘の宝具、それは『自爆特攻』だ。自らの肉体を爆発させ、周辺の敵を葬り去る。

 

「駄目です!ご先祖様!」

「大丈夫だ、優樹。俺は死なない。」

「え?」

「生きることの素晴らしさを、俺は知っているからな。」

 

弘は宙へ高く飛ぶと、植物人間の本体部分へ跨った。

そして握り締めた手榴弾のピンを抜く。それがこの宝具発動のスイッチだ。

 

「悪いな、充。優樹を救うためだ、許せ。」

 

そしてその瞬間、光が輪となって広がった。オレンジ色の輪に、優樹は美しさを感じたのだ。

 

『爆式神風(ばくしきかみかぜ)』

 

弘がそう呟いた瞬間。

弘の肉体共々、植物人間は吹き飛んだ。

優樹もまた、屋敷の外へ放り出される。

結界内部は膨張し、その全てが焼き切られた。

 

「ご先祖様……………っ!?」

 

そして遂に、結界は壊れる。

中にあった筈のモノが、ようやく、一般人の目にも見える形で露出した。

だがもう屋敷は見る影もない。あるのは巨大なクレーターと、焼け焦げた物体のみだ。

 

「ご先祖様、ご先祖様、……っ、弘さん!」

 

優樹は弘がいた筈の場所へ駆けた。

土砂を腕で掻き分け、必死に彼を探す。

 

「弘さん!弘さん!弘さん!」

 

ガラス片で手の甲を切る。

それでも優樹の手は止まらない。

汚くなろうと、怪我をしようと、素手で必死に掘り進める。

 

「生きていてください!弘さん!」

 

空へ昇る煙を見た第六区市民が、遠坂組へと連絡を入れる。

駆けつけた者達が、涙を流しながら掘り続ける優樹を発見した。

救急隊が現れた際も、優樹は泣き喚きながら、その場を離れようとはしなかった。

 

だが、結局、弘が見つかることは、無かったのだ。

 

 

数日が経過した。

救急隊員に運ばれていった優樹は、本人が思っている以上に、身体中に傷を負っていた。

そのため、緊急で入院することが決まったが、驚異的な回復を見せ、今日には退院することになる。

彼はまた、弘が消えたあの場所へ向かうつもりだ。遠坂組が立ち入り禁止にしていようとも関係ない。

 

「あー、くそ、ミッツも心配だし、あーもう、早く退院したい!」

 

病室の天井へ向かって気持ちを吐露する。

両親は終日看病することも無く、仕事に向かっている。冷たいものだが、気にしない。

きっと彼らは『舩坂弘の血を継いでいるならば、回復して当たり前』とでも思っているのだろう。

だが、そんな弘は、生きると嘘を付いて消え去った。

 

「うぅ」

 

優樹の目からまた、大粒の涙が零れ落ちた。

男の中の男は、涙を流さず、背中で語る。

きっと優樹は、いつまでもそんな男にはなれないのだろう。

 

「駄目だな、僕は。ご先祖様みたいな男にならなきゃいけないのに。」

「泣いていいだろ、別に。」

 

優樹は、声の主の方へ飛び起きた。

 

そこには、傷一つない『舩坂弘』が立っている。

 

「ごせんぞ…さま……?」

「約束しただろう、俺は死なない。」

「ひ…っ…………ひろしさん~~~~~~~~」

 

優樹は彼に飛びついた。

弘は、優しく、優樹を抱き留める。

 

「どうして、生きて…………」

「『爆式神風』は自爆特攻宝具だ。普通なら、当然死ぬ。だが、俺には『アンガウルの灰』というスキルが備わっていてな。」

 

舩坂弘の持つスキル『アンガウルの灰』。

それは共に戦い、戦地で果てた戦友の骨を拾い終えるまで死ねないという、弘の決意を表すスキル。

これにより、彼は戦闘続行スキルを超える、驚異的な生存力を手に入れた。

具体的に言えば、舩坂弘は、マスターである船坂優樹が死なない限り、決して消滅しない。

優樹の死こそ、弘の死であると言わんばかりの、強烈かつ強力なスキルだ。

 

「ただ、肉体の再生に時間を要してしまった。オートマタの自動回復機能はあてにならないからな。ははは!」

「ははは、じゃないですよ!本当に心配しましたからね!」

「えー、でもあの部屋にいた時、俺を見捨てて一人で脱出しようかとちょっと思っていただろ?本当に心配してくれていたのか、疑問だなー」

「ぎくり」

 

目を必死に逸らす優樹の頭を小突く弘。

図星の優樹は、何とか話題を逸らそうと試みる。

 

「ところで充は……やっぱり……」

「いや、生きているぞ。」

「え!?」

「俺の宝具発動時に、また何者かが介入しやがった。ギリギリのところで、充は救われたよ。まぁとんでもない男だったが、お前の親友なら、とりあえず生きていて良かった、と、思うべきか?」

「うん、そうですね、でも……」

 

優樹は入院中に、ある決意をした。

船坂優樹としての、大きな決断だ。

 

「僕は、充を止める。」

 

モゴイと名乗る、かつての親友。

彼は開発都市第五区の、災害のアサシンを信仰していた。

彼を変えたのは、間違いなく災害だ。

きっと彼が帰る場所も、今は第五区なのだろう。

 

「親友として、充の暴走を止める。それは僕にしか出来ないことだから。」

 

優樹は窓の外を見つめた。

高校生の彼に出来ることは少ないかもしれない。

でも、弘が傍にいるならば。

 

「充を、止める、か。」

 

弘はかつてのように再び、優樹の頭を撫でまわした。

 

「優しい勇気、期待しているぞ!」

 

これは船坂優樹の第一歩にして、始まりの物語。

彼は病室にて、弘と共に、大いに笑い合ったのだった。

 

 

「はぁ、まったくもう、わたくしの大事な衣服が汚れちゃったじゃない!モゴイくんったら!」

「…………」

「意識失っているし」

「…………」

「はぁ、また教祖様に怒られちゃうわ。ごめんね、『信華ちゃん』。貴女の手を煩わせるつもりは無かったの、本当よ。」

「…………任務ですから。」

 

小柄な女が、モゴイの身体を抱え、歩く。

開発都市第六区からの逃走経路は確保済み。災害のアサシンの城へ戻り、報告を上げるだけだ。

 

「信華ちゃん、やっぱり怒ってる?いま貴女、休暇中だったわよね。」

「…………任務ですから。」

「やっぱり怒っているじゃん、もー!」

 

身体をくねらせる気持ちの悪いショーンを捨て置き、『都信華(みやこしんか)』は砂利道を歩いて行く。

アインツベルンカンパニーにて働く彼女が、災害のアサシンのいる第五区へ戻るのは、実に久々のことだ。

だからだろう、彼女の口元には、僅かばかりの笑みが浮かんでいる。

 

彼女もまた、災害のアサシン(ファム・ファタール)に魅入られた一人なのだから。

 

 

 

【マリシャスナイト:『おにいちゃんの館』 完】

 

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