Fate/relation   作:パープルハット

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キングビー編3『エピソード:ラビリンス』

【キングビー編③『エピソード:ラビリンス』】

 

開発都市第三区、とある研究施設にて。

巧一朗のサーヴァントを自称し、彼に付きまとう女『キャスター』が、仲間との合流を放棄し、単独行動をとっていた。

彼女は第三区で目覚めた後、あらゆる連絡手段を絶ち、革命軍戦闘跡地を見て回りつつ、この場所に辿り着いた。

ここは三組織の領地でない、北部エリアの辺境。革命聖杯戦争とは関わりのない、荒廃した区域。

雑草生い茂るダンジョンに、彼女の求める答えは存在した。

研究施設は地下に存在しており、表向きは町の心療内科、こころのクリニックである。本棚の裏側に下へと降りていく階段が隠されており、キャスターは子どものような冒険心で魔境へと足を踏み込んだのである。

革命軍の内乱が発生した理由は、ダイヤモンドダストの、『雷上動』奪取事件から起こるものだが、何故ダイヤモンドダストは苛烈な行動をとったのか、彼女にとってみれば想像に難くない。

 

「ダイヤモンドダストを裏で操っていた黒幕がいるとして、その人間は恐らく親災害派閥だった。」

 

ダイヤモンドダスト構成メンバーの全てが、とは言い難いが、組織の中枢にいた人間であれば、事件発生に合点がいく。

目的は雷上動の奪取、そして『隠滅』。万に一つでも、災害を殺す術が存在してはならないという判断の元での強硬策。

キャスターは革命軍のことなど微塵も興味が無いが、愚かな人間の、誤った人生選択の末路を閲覧する愉悦を求めていたのだ。

彼女は研究室内にて乱雑に置かれた資料に目を通す。

 

資料内容

DDよりアンヘル研究所への資材搬入リスト。指定文化財に該当しない聖遺物が三十種。特殊薬剤も同封。独自開発した縫合液についてはアンプルに注入した後、別トラックにて後日郵送。

 

「DD(ダイヤモンドダスト)と、アンヘル、というと天使(アンヘル)か。開発都市第五区を牛耳る教団の名に酷似している。これが彼らのルーツ、という訳だ。」

 

キャスターは二大組織の研究内容、そして共同開発の書類に目を移した。

それはサハラの聖杯戦争での記録の一部。ある青年の研究データが記載されている。糸を紡ぎ、物質と物質、ときには概念を結びつける虚数魔術、間桐巧一朗の『縫合魔術』の独自研究。そしてヒトの体内に移植された蛇回路に聖遺物データを蓄積した縫合液を流し込むことで、人間の内部から英霊を召喚する新技術についても。

彼らはそれを『ヴェノム』と呼んでいる。

いち建設業がこれだけ膨大な研究開発を行っていたとは考えにくいが、アンヘル研究所と、加えてフィクサーたる人物がいるならば話は変わる。DDに資金提供していた存在については、どの資料にも書かれていない。

サハラの事実を知っている者、巧一朗が事故的に『繋いだ』モノの正体を知り、縫合魔術に手を染めた者、そして二つの区を跨ぎ、莫大な金を動かせる者。

 

「決めつけるのは時期早々だが、恐らくは『災害のアサシン』なのだろうな。」

 

蛇王ザッハークならば、可能である。キャスターは一度、そう結論付けた。

また別の資料を手に取り、確認する。それはヴェノム実験の被験者リストと、適合者の詳細であった。

殆どが死亡、ないし意識不明。適合者がなぜ適合できたのかについては、未判明という事である。

 

「畦道るる子、セイバー適正あり、二騎のヴェノムアンプルに適合。雷前巴、ライダー適正あり、一騎のヴェノムアンプルに適合。櫻庭咲菜、死亡。なお召喚サーヴァント『ナイチンゲール』については正常に稼働、経過観察中。あとは……セバスチャン・ディロマレンガー、キャスター適正あり、三騎のヴェノムアンプルに適合、うち極秘アンプルについては実戦での投入がSランク以上の脅威に対処する場合のみとする……あれ?この名前、いまさっき見たな。」

 

キャスターは読み捨てた書類をいくつか漁り、答えに辿り着いた。セバスチャン・ディロマレンガーはアンヘル研究所にて副所長に任命されていた男である。若き天才と持て囃され、縫合液についても、その開発に最大貢献したと述べられている。

写真には、何ともアメリカンな大男が満面の笑みで写されており、キャスターは思わず吹き出してしまった。

気を取り直して全てのデータに目を通すが、過去の遺物であるが故に、得られる情報は限られている。

だが、大きな前進があったとするならば、DDとアンヘル研究所の共通理念についての記載。彼らは『救済されるべき民の選出と、エックスデイを乗り越えた先の人類発展の為』研究開発を行っていた。

 

「ノアの方舟、その定員数は想定千五百名、オアシスから理想郷(ユートピア)へ至る為には、適合者を増やす必要がある、とはね。」

 

天還という儀式により英霊という枠組みに介入し、歴史を荒らしつつ、オアシスにおいて新たなる神話を築こうとしている。

災害のライダーの舟とは即ち、この桃源郷そのもの。一面の砂世界に突如現れる楽園と称した世界。

加速する時間、そしてノアの方舟。

キャスターことモリアーティ教授、またの名を『隅の老人』、彼女はある結論に辿り着く。

災害のサーヴァント達が志すもの。成し遂げようとしていること。

——ああ、愉快な結論だ。

キャスターはほくそ笑む。この地で足掻き苦しむ者は、人間たちだけでは無かったという事だ。

 

彼女が書類漁りに夢中になっていた頃、彼女と同様に研究施設へ足を運ぶ者がいた。

この場所に来るものは当然、ただの一般人では無い。来訪者は周囲を警戒しながら、地下への階段を下っていく。

そして白髪の美女が待つ部屋へと辿り着き、彼女へ向けて差出人不明の手紙を投げつけた。

 

「私をここへ招いたのは貴方ね。一体何者なのかしら。」

 

金色の髪に、スレンダーな体系の美女が、巨大な針を携え現れた。

彼女の名は『ペルディクス』。第三区にて召喚され、革命聖杯戦争の参加者となったランサーのサーヴァント。

リンベルや民衆からは『リケジョ』というニックネームで呼ばれている、謎多きサーヴァントだ。

彼女はダストこと枡花女と同チームを謳いながら、あくまで一時的な協力体制を敷いているに過ぎなかった。ペルディクスが求めるものは災害の討伐に非ず、己の存在意義、存在価値の解明である。

生前、ダイダロスに命を奪われた彼女は、アテナからシャコの翼を譲り受けた。だが今は有り得ざることに、ダイダロスの創造したイカロスの翼を背に生やしている。

 

「我が名は、そうだな、白銀の探偵、とでも言っておこうか。どうしても君と話をしたくてね。」

「白銀の探偵、灰色の脳細胞と言えばポアロだろうけど、貴方は銀箔が付いているようね。」

「ふむ、召喚時に与えられる知識についても問題なさそうだ。なら、君の抱える謎を解き明かしたい。その先に、私が求めるものがあるからね。」

「有意義な時間にして頂戴。生憎、私には時間がありませんので。」

 

ペルディクスは革命聖杯戦争の参加者。いつ敵が襲って来るかも分からない。

彼女はこの一室に辿り着いたとき、即座にこの場所の機密性と重要性を理解した。この場を保全するためには、外で探偵を名乗る不審者と会話すべきであることは明白である。が、リンベルらに嗅ぎつけられるのも良い判断とは言えない。

ならば手早く話を済ませるべきだ。探偵というからには、ペルディクス自身の解き明かせない存在理由を見出せるかもしれない。

 

「まずペルディクス、君が召喚された理由は明白だ。単純に災害のキャスターこと『ダイダロス』へのカウンターだろう。」

「まぁ、彼とは因縁があるからね。ダイダロスに勝てる者は、この私ただ一人。だから彼は嫉妬の末に私を突き落としたの。」

「抑止力、という安全装置を知っているかな。オアシスの成立と、内部で行われている所業の数々は、星のルールから大きく逸脱したものだ。君はヒトか、自然か、知るべくも無いが、何かに導かれるように、オアシスへと招かれた。それが私の考察だったが、ふふ、これは間違っていた。」

「間違い?」

「ああ。災害への対抗札ならば、あまりにも『遅すぎる』。一介の英霊では太刀打ちできない領域にまで災害は至ってしまった。外の世界が基準であるならばまだ納得できなくも無いが(それにしても遅すぎるが)、オアシスでは既に千年の時が経ってしまっている。私はかつてダイダロスの言葉を聞いたが、彼は真っ先に君という存在を世界から抹消したと言っていた。『ペルディクス』という英霊は世界から消え去った筈なんだ。」

「でも、こうして呼び出されているけどね。召喚者も不明、目的も不明。冬眠していたら無理矢理叩き起こされた感じ。」

「ああ。君はオアシスにとって必要だから呼び出された。君の召喚時期は、もしかしてつい最近、そうだね、数日前なんじゃないか?」

「ええ。当たりよ。私はまだ第二の生を受けて三日、四日あまり。自分のすべきことは分かっていたけどね。」

「というと?」

「革命聖杯戦争に参加すること。何かに動かされるように、私はエントリーした。大いなる脅威を取り除くことが求められていた。」

 

キャスターは悪の笑みを浮かべた。

彼女なりの真実に辿り着いたのである。

 

「なに?君の悪い笑顔ね。」

「ああ、すまない。君が召喚された時期は、ある者の死亡時期と重なっている。それは本来であるならば、君が殺すべき相手だった。」

「災害のキャスターこと『ダイダロス』ね。」

「君はダイダロスが死んだ、その直後に召喚されたんだ。私の仮説通りならば、ここには大きな意味があるだろう。」

「ダイダロスが死んだことで、座に再度、消し去られた筈の私の物語が登録された、とでも?」

「いや、そんな簡単に元通りになるものではないだろう。消し去ったのはダイダロスだが、それは実際に過去世界に介入し、ペルディクスの偉業を亡きものとした『ヒト』が直接の原因であるからね。ダイダロスの言葉通りならば、君の記録はブラックホールの中だよ。」

 

ペルディクスという天才は熟考する。

キャスターの言葉を反芻し、己の思考で真相へと手を伸ばした。

 

「言葉通り、ならば、ね。ダイダロスが嘘を付いていた、と?」

「そうだ。ダイダロスは『臭い物に蓋をする』性格だと聞いた。臭い物に、無理矢理蓋を乗せたけれど、捨て去ることはしなかった。」

「ダイダロスは私を消滅させなかった。でも、私が呼び出される可能性を孕むものは全て抹消していたのね。例えば聖遺物とか。いや、違うな、きっと彼ならば自らの手で管理する。利用できるものは利用しようとするからだわ。」

「そして、ダイダロスの死の直後に君は何者かに呼び出された。シャコの翼では無く、イカロスの翼を有して。この意味が分かるかい?」

 

ペルディクスは大きく溜息をついた。その結論は、彼女だけでは至れなかった領域。有り得ないと吐き捨てていた真実である。

 

「私は、災害のキャスター『ダイダロス』、あの男によって呼び出されたのね。」

 

ダイダロスは死の直前、自らの生み出した未知なる工房に電源を入れた。

ペルディクスの鋸を媒介に、ダイダロス特製のオリハルコン式オートマタに彼女を宿らしめる召喚術式。

強大なる敵に対抗すべく、己が千年の時を経て生み出した翼を自動人形に備え付けた。

これがキャスターの考察である。だが、当然大きな疑問は残る。

 

「でも何故?災害である筈のダイダロスが、カウンターを用意するはずないじゃない。私はこの翼を通じて、皮肉にもあの男の発明品を知り得ている。このオアシスそのものが舟の構造をしているのでしょう?ダイダロスの仕事は、災害のライダーの舟を創造すること。ライダーの計画を破綻に導く存在を自ら用意するとは思えないのだけれど。」

「ああ。そうだ。そこは疑問だ。博物館と対等に殴り合うことを受け入れた彼だが、ペルディクス召喚の為の工房は、もっと以前から用意していた筈だしね。」

 

二人はこぞって頭を悩ませる。だが意外にも、その答えは手早く導き出された。

 

〈勘違いをするな。ペルディクス如きが我ら災害を殺し得る筈が無いだろう。〉

「何ですって?貴方は私の何を知っているというの、探偵!」

「いや、今のは私の声じゃない。君の傍から聞こえたが?」

「へ?」

 

ペルディクスの翼がはためいた。

彼女は目を丸くしながら、慎重に、己の背後へと目を向ける。

音が鳴っているのは、この翼からだ。耳をすませば、声の主など一目瞭然である。

 

〈大体、僕が君に劣っているつもりは無い。桃源郷における僕の研究成果の数々を見てみるがいい。君なんて精々、鋸とコンパスぐらいだろう。〉

「ま、まさか……?」

〈安心しろ。僕は既に死んでいる。意思が宿っている訳では無い。君の入力に対して、ダイダロスが答えるべき言葉を適当に用意しているだけだ。戦闘における敵性自動認識プログラム、大型コンピュータが内蔵された翼、それが僕の声に乗せて君に返答している。〉

「しゃ…………しゃべったぁぁぁぁぁああああああああああ!?!?」

 

ペルディクスとキャスターは同時に発狂した。

無理もない。ペルディクスの背から勝手に生えた両翼が、美青年の魅惑的ボイスで語り掛けてきたのだから。

ペルディクスはコンパスの針で、翼を引き千切ろうとする。

 

〈痛いぞ、辞めろ〉

「き、キモチワルイ!私の身体の一部があの男に乗っ取られたみたいだわ!最悪!」

〈君だって僕の身体にシャコの呪いを刻んだだろう?似たようなものさ。〉

「似てないわよ!というか刻んだのはアテナ様だし!というか私を殺したの、アンタでしょうが!」

「ヘイ!ダイダロス!今日の天気を教えてくれるかい?」

〈本日の開発都市第三区は晴れのち曇り、降水確率は二十パーセントです。〉

「アンタも遊ぶな探偵!」

 

キャスターとペルディクス、WITHダイダロスの漫才は続いた。

ツッコミに疲れたペルディクスは息を切らしながら、己の翼との対話を試みる。

 

「じゃあ、災害を止める以外の目的で私を呼び出す意味が分からないのだけれど。そもそも私は、ダイダロス特攻?みたいなサーヴァントだし。」

〈そうだ。君の役割はまさにそこにある。『ダイダロス』を止める為に、僕は君を呼び出した。〉

「はい?意味が分からないのだけれど!貴方は既に死んでいるのでしょう?ならダイダロスはいないじゃない!どういうこと?」

「そうか、そういうことか……」

「何よ探偵。」

「君が召喚された理由は確かに、ダイダロスを止める為だ。どういうことか説明すると……」

 

〈すまないな、歓談中だが、君達にとっての『敵』が接近している。すぐに逃げ出すか、戦闘態勢を取れ。〉

 

「何ですって?!」

「あ、私は戦闘能力が無いから、出来れば守ってもらえると助かる。」

「さらに何ですって?!」

 

ペルディクスは自棄になったように立ち上がり、持ち前の巨大コンパスを構えた。

恐らく彼女の跡を追ってきた聖杯戦争のライバルであろう。彼女の必殺宝具は前回の戦闘で攻略されてしまったが、補って余りある発明品の数々、そして戦闘スキルがある。果心居士やマンサ・ムーサとの戦闘は出来れば避けたいところであるが、それ以外ならば彼女の知恵が一歩先を行く筈だ。

キャスターもまた、敵襲に備える。と言っても、何らかの武器を手にすることは無い。アインツベルン製オートマタに刻まれてきた隣人の力、その武器を手に取ることが出来るものの、それを操るには非力過ぎるステータスであった。ぎりぎりまで力を振るわず温存したいと願っている。

そして彼女らのいる地下に突如、大量の水が流れ込んだ。

入口が一つしかないその空間に洪水が押し寄せ、彼女らの衣服を、身体を濡らす。床下から急速にせり上がる液体に溺れそうになりながら、ペルディクスは天井へコンパスを投げた。

 

「FIRE!」

 

空中で自動展開し、天井に円を描く。そして彼女の発声後、円の内部は爆発により吹き飛んだ。

地下階段を上った先に敵が待ち構えているならば、翼を広げ宙を舞い、無理矢理に一階へ跳び上がる。

そして確実に先手を取る。

コンパスを回収したペルディクスは、キャスターを抱えて、一階のクリニックへと飛び上がった。

 

「!?」

 

ペルディクスの目に飛び込んできたのは、見知らぬ長身の男である。

二人が即座に判断するに、この男は人間だ。だが、サーヴァントの力を内包している。

男はサングラスを傾け、青い目を覗かせた。得物を見定めるように睨みつける。

ペルディクスに悪寒が走る。決して屈強な男が華やかな女物ドレスに身を包んでいるからでは無い。男はヒトでありながら、明確な殺意を以て、彼女に視線を飛ばしている。

 

「まさか……セバスチャン・ディロマレンガー!?」

「あら、わたくしのことを知っているの?うふふ、嬉しいけれど、今は『ショーン』って名前だから、そっちで呼んで頂戴ね?」

 

革命軍を監視、果ては抹殺するために派遣された、アヘル教団セントラル支部のヴェノムサーヴァント。

セバスチャン・ディロマレンガー、コードネームは『ショーン』。

アンヘル研究所に関する記録の完全焼却に加え、

いま、ペルディクスを亡き者にせんと、この場に赴いた。

男の殺意は歴戦の軍人が放つもの。怒りも、憂いも、幸も無い。ただ命令のままに、ただ殺す。

ショーンはアヘルにおいて、信華に次ぐほどに殺戮を繰り返してきた。

 

「ヴェノムキャスター『ショーン』か。たった今、君の資料を拝見したところだよ。それは海賊公女『ダユー』の力だね。」

「あら、乙女の秘密を覗き込むなんて!温厚なわたくしでも怒っちゃうんだからね!」

「君は三つのアンプルを使いこなす。医療の神と謳われたもの、大いなる水を味方につけたもの、これだけでも十分に強力だが、きっと君の切り札はより凶悪だ。データが一切記録されていないという事は、実戦での投入が危ぶまれてきたのだろうね。」

「ふぅん、よく調べているじゃない。」

 

ペルディクスはコンパスを回転させ、ショーンの周り、半径二メートルに包囲結界を敷いた。彼女は相手を円の中に閉じ込めた後、その中を炎や光で焼き尽くす技を得意としている。宝具ほどの絶対性は保証されないものの、高確率で敵をダウンさせる強力無慈悲な攻撃である。

だが、例えば対魔力数値が高い者に加え、単純な筋力が高ステータスな者には、物理で結界を破られてしまう。弱点があることを加味し、隙をついて封じ込めなければならない。

このときペルディクスは、本人も気付かぬうちに油断していた。何故ならば、サーヴァントの力を使うとはいえ、敵は人間であったから。革命軍の他サーヴァントとの戦闘経験から、人間と英霊では赤子と大人の力量の差があると知っていた。何事においても計算を用いる彼女には、肌感覚での脅威測定能力が欠如していたと言えよう。

空に浮かぶペルディクスは、突如、自らの翼により、後方へ大きく引っ張られた。ダイダロスの両翼が、ひとりでに羽ばたき、ショーンから距離を取ったのである。

キャスターはイカロスの翼のシステムに依る自動回避だと即座に見抜き、自身も同様に、ショーンから距離を取る。

そしてそれは読み通りだった。ショーンは、革命軍にとって、災厄の象徴となり得る存在だ。

彼を人間と侮るなかれ。英霊ですら生温い。セバスチャン・ディロマレンガーは怪物だ。

 

「革命軍サーヴァント『ペルディクス』は、S以上の敵と認識して良いわよねぇ。三つ目のアンプル、貴方達にトクベツに見せてあげるわ。」

 

ショーンが取り出したアンプルは、紫色に濁っていた。

ヴェノムアンプルを見たことが無いペルディクス、そして資料の参考写真で確認しただけのキャスター、どちらともに、それを薄気味悪く感じていた。深淵を覗いてしまったかのような奇怪な感覚、二人の身体に同時に悪寒が走った。

 

「わたくしがサンプルケースで、かつ、コレに耐えられるかもしれない唯一の存在だから、持つことを許されている。でも、わたくし自身もこれが齎す副作用を理解できていない訳。これは来たる楽園創世の為のお試し(モックバトル)なの。さぁ、遊びましょう?」

 

ショーンは左手首に取り付けられたコネクタにアンプルを装着した注射針を打ち込んだ。海賊公女の姿から一転、肉体は膨張し、背から天使のような翼が生え出る。

 

〈データローディングは———でした。サーヴァントタイプ『ヴェノムキャスター』:『ダイダロス』現界します。〉

 

ショーンが有する、ただ一つの、災害から抽出したヴェノムアンプル。

彼だけがそれを行使し、リスクを受け入れ、肉体に飼い慣らすことが出来る。

ペルディクスはようやく、自らの召喚された意味を知った。

ダイダロスが消滅するその時、彼が危惧したのは、災害のアサシンの暴走である。

シェイクハンズの悪夢においてダメージを負った彼は、第三区の焼け焦げた大地に力の残滓を零していった。

それを回収、そして実用レベルにまで引き上げたのが、アンヘル研究所、後のアヘル教団である。

人間がダイダロスの力に溺れ、内部崩壊を起こそうが、彼にとってはどうでもいいことだ。だが、狡猾なアサシン側に利用されることだけは許可してはいけなかった。災害のライダーの舟そのものが冒涜される恐れがある。

彼はアヘルと革命軍の対立構造を理解した上で、革命軍側に、ダイダロスへ対抗できる戦力を用意した。それこそが彼の生涯の好敵手『ペルディクス』である。

もしダイダロスの発明を超える者がいるとすれば、それは彼女において他ならない。

当然それを理解したショーン、そしてザッハークは、革命聖杯戦争に関与してまで、ペルディクスを殺害しに来た。

 

「そうか、私の存在理由、私の価値、それは貴方(ダイダロス)を止める為、なのね!」

「そうよ。ダイダロスを超える創造主の貴方は、アヘルの崇高な目的にそぐわない者。ハッキリ言ってお邪魔虫。だからここで殺す。災害の力を受け継いだわたくしが、引導を渡してくれるわ!」

 

ショーンは両手を天に翳すと、特殊言語による詠唱を開始する。災害の力へのアクセスコード、ダイダロスの創造せし、巨大迷宮の再構築である。

 

「ペルディクス、ショーンを止めろ!」

「言われなくとも!」

 

ペルディクスは円の内部を爆発させる。通常の英霊との戦闘ではこれにて決着と言わんばかりの奥義だが、無論、災害の衣をまとう男には通用しない。彼女はそれを悟り、巨大コンパスをショーンへ投擲した。

だがそのとき、地下から溢れ出た水が上階へと昇り、槍の軌道を大きく変えた。ダユーとしての権能が消滅する手前、残された水がショーンを守る様に作用したのである。

 

「くそ!」

 

「さぁ、御覧なさい。これがわたくしの創造した、わたくしの固有結界!『有為転変の触毒迷宮(ファルマキア・ラビュリントス)』!」

 

刹那、世界は形を変えた。

キャスターはダイダロスによる宝具の洗礼を受けた過去がある。だが、これは彼の芸術とは似て非なるものだ。

先ずもって、ショーンの固有結界は出口も分からぬ迷いの道では無い。驚くべきことに、彼女らが誘われたのは、壁一面が白で統一されたワンルームである。迷いといっても、戸惑い、の方が大きい。心象風景の具現とは言うが、これは誰の心の在り方でも無い。一文字で表現するならば『無』だ。

一歩歩けば罠に引っかかる、ある種の『遊び心』が用いられることも無い。これを芸術と宣うならば、余りにも前衛的だ。

だからこそ、不気味である。

術者本人はその場から消滅し、二人は虚無の空間に取り残される。ペルディクスはコンパスを使い、壁の破壊を試みた。

 

「どうだい、ペルディクス。」

「ふ、ダイダロス以上に悪趣味だわ。壁は一面オリハルコン製、ちょっとやそっとじゃ壊せない。どうすれば脱出できるか見当もつかないのが、気味の悪さを助長しているわね。」

「一体ショーンはどこにいるんだ。」

 

キャスターは顎に手を当て、思考する。

この空間の外にも結界は広がっており、ここは一つの心象に過ぎないならば、幾重にも用意された虚無の『箱』こそが、彼の力なのだろう。ヴェノムサーヴァントの性質から、これは対象をじわじわと追い詰めていくものだと理解できる。オリハルコンに直接触れるのは避けるべきだ。空間そのものに飲み込まれる恐れがある。

 

「まずは、何としてでも、壁を壊して進むしかないかな。」

「あら、力技は嫌いじゃないわよ。」

「探偵としては、あまりやりたくないんだけどね。ペルディクス、君の力を借りるとしよう。」

 

キャスターは、ダイダロスとの戦い、ペルディクスへの招霊転化の記録へアクセスする。

災害戦で復讐者として呼び出された彼女の武器は、今の彼女が持つものとほぼ同等の形状、性能、である。

キャスター、とりわけモリアーティの記録、数値分析能力と、サハラのセイバーのスキルを同時に使用し、彼女はペルディクスのコンパスをその手に生成してみせた。

これにはギリシアの発明女帝も驚愕である。

 

「それが、探偵の力?」

「私自身、使いこなせるかは微妙だけどね。だが、単純に君の力が二倍になったと良いように解釈してみせるさ。」

 

キャスター、そしてペルディクスは同時にコンパスを構え、走り出す。

目の前の白一面へ、全身全霊で針を突き立てた。

ランサーらしく、刺し穿つ。二人の天才が揃って、計算を放棄した。

だが思い切りの良さが功を奏し、叩き壊された壁の外側へ、進むべき道が出来た。

 

「やった!」

「まだだよ。その先もまた、ホワイトルームだ。ショーンの存在は確認できない。一体どうなっているんだ。」

 

進めども、進めども、彼女たちは出口へ辿り着かない。

ダイダロスの宝具とは似て非なるもの、だが結界のもつ意思は同じ。

閉じ込めた者を迷わせ、二度と外の空気を吸わせない。ダイダロスが幽閉したのが怪物(ミノタウロス)であるならば、ショーンが牢に入れたのはキャスターという怪物。無論彼女が彼の得物であった訳では無いが、期せずしてテロ組織のエージェントは捕縛されたのだった。

ショーンは九つの部屋の外から、彼女らを洞察する。

この迷宮は二重構造であり、マトリョーシカのように、結界内部に更なる結界が存在する。

二人が進む道、九つの部屋は第一結界。ショーンのいる銀河のような広がりを持つ空間が第二結界。二人が迷宮を踏破する為には、この多重構造に気付かなければならない。だがそれは三次元から四次元へ思考を移動させることのように、不可能なものであった。いま彼女らが立つ世界こそが思考領域の限界であり、『第四の壁』と称するべきそれを知覚しなければ、ショーンのいる空間には辿り着けない。

有為転変とは即ち、結界内部が激しく動き回ることを指す。キャスターとペルディクスはトライアンドエラーを繰り返しながら、一生をかけて、部屋を巡り続けるのだ。彼女らが答えに辿り着くことは永遠に無い。

強力な宝具であるが、弱点はある。それは第一結界が強固な分、第二結界は薄く脆いという事。外部からの攻撃によって結界そのものが崩される可能性はある。ショーン自身の心の在り様を写し取った風景では無いことが起因するのだ。

 

「さて、ダイヤモンドダストのお仲間は、ここまで助けに来るでしょうかね?うふふ」

 

この迷宮には罠もモンスターもいない。

ただオアシスからの魔力供給が途絶え、衰弱死するのを待つための場所。

即ち、これぞ『触毒迷宮』。

アヘル教団のような、固い結びつきがある訳でもない彼女らに、虚無なる世界は踏破出来まい。

ショーンは不敵な笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

朝。

巧一朗とダストは麦造の家から外へ出る。

朝日の眩しさを感じながら、今日も今日とて、開発都市第三区を見て回る予定である。

昨日はグローブの壮大なる領地を観察した。今日はハンドスペードの偵察に向かう。

博物館の仲間たちがグローブにいなかった以上、ハンドスペードに匿われているとしか考えられない。

 

「やぁ、お早う。」

 

二人の目の前に姿を現したのは、まさかのドン・フゴウであった。

ダストは剣を抜き、戦闘体制に移行する。だが巧一朗はフゴウと戦闘する意思を見せなかった。

そしてフゴウもまた、戦うつもりで来たのでは無い。彼の元には昨夜出会った三人の子ども達がいた。

 

「おい、ダスト。子どもが怖がっているぞ。剣を仕舞え。」

「は、はい、すみません、巧一朗様!」

 

マスター?とサーヴァントのやり取りに、微笑ましさすら感じるフゴウ。

この男、器の大きさが尋常では無いのだ。

フゴウはただ子ども達を麦造の元へ返しに来ただけである。巧一朗がフゴウを殺すつもりがなければ、フゴウもまた、戦うつもりは無い。

カリスマ性に惹かれた区民がこぞって彼に投票しているのだ。毎度令呪を獲得できる者は流石に格が違う、というものである。

 

「ハンドスペードの領地へ行くのか?」

「ああ。敵情視察パート2だ。」

「芸達者の仕掛けた罠の数々と竜宮兵器が非常に厄介だぞ。我もこれまで何度も撤退を余儀なくされている。外から見るのが精一杯だと思うがな。」

「それに、その、巧一朗様、ハンドスペード当主『ロンリーガール』は、『細川ガラシャ』です。あの城は彼女が持ちこんだ呪いで充ち溢れています。謁見が許されているのはハンドスペードの三大臣。うち二人はもういませんが……あ、あと一人は芸達者こと『果心居士』です。」

「じゃあ、実質不可能ということだな。果心居士の術を超えた先に、堅牢無慈悲な城が待っていると。」

「そうだ。我や黄金街道すら突破は難しい。巧一朗、貴様はダイヤモンドダストの兵器として、どう戦うつもりだ?」

「さてね。だが、小難しい手段を取るつもりは無いさ。正々堂々、殴り込む。それが一番手っ取り早い。」

 

巧一朗は胸の内側にいる源頼光の意思と同調している。平安武将もまた、小細工なしで戦に望むべきと告げていた。

対してダストは不安げな表情である。戦闘において役に立たないと卑下している為か、元々争いを好まぬ為か。

 

「巧一朗、英霊を肉体に宿しているようだが、貴様は生身の人間だ。戦争となれば、サーヴァント達は容赦なく貴様を殺しに来る。精々気を付けることだ。」

「フゴウ……」

 

巧一朗は敵意を見せないフゴウに、拳を握り締めた。

余りにも邪悪かつ歪な思考がよぎってしまう。

今ならば、彼を殺せるのでは無いかと。

これは聖杯戦争、災害を殺すためには、手段を選んでいる場合では無い。

それが戦争における最大の敵であれば猶更。

ダイヤモンドダストはフゴウと正面から争っても勝算が無い。

それはきっと、ハンドスペードも同じ。

フゴウのカリスマと、黄金生成能力、そして勝ち取った令呪。

革命聖杯戦争の参加者は、誰一人としてフゴウには敵わないだろう。

 

「巧一朗様」

 

巧一朗はハッとする。

ダストの臆病ながらも、芯の通った声に、目覚めさせられた。

きっと今の彼女は、それを望んでいない。

フゴウの言うように、三組織が手を取り合う未来がある筈だ。そう願っている。

彼女の生きる意味がそこにあるならば、巧一朗はフゴウに刃を向けずに済む。

甘い考えかもしれないが、それでも……

 

「あ、麦造爺ちゃん」

 

家に引きこもっていた麦造が玄関先へ歩き出た。

そして怪訝な表情を浮かべながら、巧一朗とダストの元へ近寄って行った。

 

「麦造さん?」

「お前、『竜宮』に行くのか?」

「はい。ハンドスペードの城へ、偵察に。」

「ならこれを持っていけ。」

 

麦造は着用していた作務衣の内側から、薄汚れた鳥の羽根を取り出した。

巧一朗の掌に乗せると、再び家の中へと帰っていく。

 

「何だこれは」

「鶴の羽根、ですかね?」

 

巧一朗とダストが困惑する最中、フゴウだけが、麦造の背を物憂げに見つめていた。

フゴウはその羽根の用途を知っている。それはフゴウが麦造にどれだけ頼み込んでも、渡さなかったものだ。

否、渡せなかった、が正しいか。

 

「それがあれば、竜宮内へと侵入することが出来るだろう。芸達者の目を掻い潜り、細川ガラシャに会うことが出来る。」

「え?」

「何故そんなものを、麦造さんが……?」

「変わった男なのだよ。麦蔵はな。」

 

フゴウは呆れつつも、どこか誇らしい様子であった。

そして彼はグローブ領地へ戻るべく、踵を返す。

当然の話だが、彼は巧一朗たちには同行しない。グローブとダイヤモンドダストは敵同士なのだから。

巧一朗は暫く鶴の羽根を眺めつつ、その場で立ち尽くしていたのであった。

 

 

陽が真上に差し掛かる頃。

ハンドスペード領地、竜宮城に一人の男が現れた。

部相応な派手過ぎる衣装に、あろうことか金の王冠を被っている男。

果心オートマタは男を阻まない。その権利がない。

何故ならば、男はかつてハンドスペードにて政治部門の大臣を務めており、人を、英霊を、オートマタを従えていた。

彼の名は『ジョン』。人呼んで欠地王ジョン。

開発都市第七区の王を自称し、決起した革命軍過激派のサーヴァント。そして今はアヘル教団の足軽である。

彼は今、この地に訪れたヴェノムセイバー『シュランツァ』の言うがままに、細川ガラシャを訊ねてきた。

彼は城門を容易く開け放つと、スキップしながら天守閣を目指した。

不幸だったことに、果心居士はこのとき、城から離れていた。彼がいなくとも、オートマタが侵入者を完膚なきまでに撃退するシステムであったのだ。だが、謁見が許されている者には、オートマタも動くことが出来ない。

ジョンはアヘルへと寝返り、奴隷のような日々を過ごして来た。

死にたくないからと、全てを受け入れ、屈辱のままに生きた。だが、ハンドスペードを壊滅出来た暁に、彼は災害のアサシンに許しを与えられる。

自らが救われるためならば、かつての仲間が惨たらしく死のうとも構わない。全くもって無問題である。

そもそも開発都市第七区への夢が絶たれたのは、果心居士の発案である『氷解のヴァルトラウテ』と、李存義の率いる軍隊が弱過ぎた為だ。

彼は何も間違えていないし、彼はむしろ被害者であるとさえ感じている。

鎖で縛り付けられる生活が終わったそのとき、第五区の外でまた新しい国を作ろう、そう彼は息まいた。

細川ガラシャ、囚われの哀れな姫君は、ジョンを憎んでいるだろうか。

酷く、くだらない、そうジョンは思った。さっさとジョンへハンドスペードの王の座を明け渡せば、こんなことにはならなかったのだ。

ジョンはガラシャの醜く死に絶える様を妄想しながら、最奥の間に辿り着く。

 

「ガラシャ様、お久しぶりでございます。この国の大臣である吾輩、ジョンがいま帰還いたしましたぞ。」

 

どの面下げて、という言葉が的確な場面。

ガラシャはジョンの傲慢な笑みを見た。

 

怒るだろうか、憎むだろうか、殺意を露わにするだろうか。

ジョンはガラシャの感情を勝手に読み解く。

が、それらはすべて違っていた。

 

「ジョン」

 

ジョンは固まった。

ガラシャの見つめ、動けない。彼は戸惑いを隠せなかった。

 

何故ならば、ガラシャは涙を浮かべ、笑っていた。

 

大切な者の帰りを、いまかと待ち侘びていたように。

 

「ガラシャ…………」

「無事だったのですね、ジョン。」

「あ、え、あぁ、はい」

「アヘル教団に捕われたと聞いたときは、不安で胸が潰れてしまいそうでしたわ。本当に、良かった。貴方が生きていて、良かった。」

「あ……あぁ」

 

ジョンは拍子抜けした。

まさかこれ程にまで、細川ガラシャが愚かであったとは。

これならばシュランツァたちによって、いとも容易くハンドスペードは壊滅するだろう。

あとはジョンが、竜宮への侵入経路を指し示すだけだ。

 

「ご、ご機嫌麗しゅう、ガラシャ様。吾輩は何とか教団の追手を振り切り逃げてまいりました。ここは果心居士の作りし要塞、ならばここへ匿って頂きたい。これほどまでに堅牢な城であれば、追手が来ようとも安心でしょうなぁ。」

 

そう言って、ジョンはシュランツァたちをこの場に招き入れる。

ガラシャは馬鹿な女だ。ジョンのこの提案にも乗って来るだろう。

だが、ジョンはどうしてか、胸のざわめきを抑えることが出来なかった。

 

「ええ。ここに居て下さい、ジョン。大丈夫です、わたくしと、そして『彼』が、アヘル教団の連中を一人残らず殺し尽くします。貴方は、わたくしが守ります。ハンドスペードはみな、わたくしの子ども同然なのですから。」

「彼?彼とは、果心居士ですかな?そう言えば、席を外しているようですが。」

「爺には何も期待していません。爺には雑兵の露払いをしてもらいます。ヴェノムサーヴァントに、都信華は、『彼』が相手してくれますので。」

 

そう言い、ガラシャは奥のカーテンを開いた。

 

「な」

 

ジョンはこの瞬間、言葉を失った。

細川ガラシャは愚かな女だ。だが、ジョンの想像を遥かに超える、愚者であったのだ。

彼女はアヘルを抹殺するが為に、己の財を、名誉を、誇りを、夢を、心を、肢体を、差し出した。

想像を絶する絶望の果てに、彼女は人類史上最悪の愚者へと成り代わったのだ。

 

ジョンの目の前に現れたのは、『災害』。

 

災害のアーチャー、革命軍にとって最大の脅威。

 

「何だこの薄汚れたデブ?ガラシャ、てめぇのツレか?」

「違うわ、〇〇〇〇〇。わたくしの愛する人はこの世でただ、貴方一人だけですわ。」

「そうか、かか!従順な女は嫌いじゃねぇよ!」

 

ジョンは淡路抗争と同じ、深い絶望を味わった。

革命軍ハンドスペードは、あろうことか、『災害』と手を組んだのだ。

 

 

 

 【キングビー編③『エピソード:ラビリンス』 おわり】

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