災害のアーチャーの真名が出ます!
感想、誤字等あればご連絡ください!
「あぁ、クソ、いてえ、クソが」
崩壊した肉体を自動で回復させる災害のアーチャー。
だが彼の霊核は既に砕かれている。通常の英霊であれば、光の粒子となり世界から退去している頃だろう。
彼はサハラの地を離れ、千年の時をオアシスと共に過ごした、言わば神か、物の怪の類である。故に、ダイダロスや后羿同様、心臓を失った程度で息絶えることは無い。
無論、そう長くはもたないだろう。彼の死は決定付けられた。数日後には、数いる英霊たちと同じような、二度目の死を体験する。
英雄の名を捨て、人間のように自由に生きた彼は、哀れに野垂れ死ぬ。
「クソ、畜生、俺は……俺は……」
彼は崩壊した竜宮城へと歩き戻る。
そもそも第三区へと足を運んだことには理由がある。千年間、この桃源郷の王の一角として居座り続けた彼は、『死』と無縁の生活を送っていた。上位存在である彼を脅かす者など現れないと、信じ疑っていなかったのだ。
だがそれは、ダイダロスの死によって覆される。災害のアサシンこと蛇王ザッハークが災害会議の半ば決定権を有した状態で、真の英雄である后羿に太陽を落とさせた。ヒトの営みに興味を示さなかったダイダロスは、何故か、災害の意向に逆らい、太陽をその身で受け止め、この世を去ったのだ。
最強の災害を自称するアーチャーにとって、千年の時を超えた『死』は、到底受け入れられるものでは無い。
彼は自身が統治する第二区から急ぎ離れた。太陽が着弾すれば、尋常では無い被害が出る。第四区に隣接する第二区にも、火の手が伸びるかもしれない。
ならば、災害が統治を放棄した第三区へと向かおう、そう決心した。
そして彼は美しい女『細川ガラシャ』と出会い、篭絡した。力を欲する愚かな女に、王として恵みを与えてやったのだ。
だが、竜種の強化礼装を、よりにもよって災害に『与える』などという、愚行を侵したからには、生きて帰すつもりはない。
これまでアーチャーが犯し尽くし、そして殺して来た女同様に、細川ガラシャも裁く。
彼は瓦礫を蹴飛ばし、蹲るガラシャの髪を掴み、無理矢理に起こしてみせた。
「てめぇの所為だ。どう落とし前を付けやがる。命一つじゃ足りねぇぞボケ。」
「…………」
「答えろクソアマが」
災害はガラシャの黒髪を掴んだまま、木製の廊下に顔面を叩きつけた。
彼女は額や鼻、唇から血を流して俯いている。
光の灯らない眼を見た時、災害は気付いた。細川ガラシャは戦意も、信念も、夢も、希望も失っている。
あぁ、彼女を突き動かしていた復讐心でさえ、例外なく。
壊し甲斐の無いガラクタだ。殺すことは、彼女にとってある種の救済となっている。
彼女の腹部に蹴りを入れた災害の元に、細川忠興の怨念が押し寄せる。
この災害は死者の嘆きを受け入れない。忠興の怨霊が纏わり付こうとも、意に介せず、弱った女をいたぶり続ける。
「おい、死ぬぞ、ガラシャ。てめぇは災害を憎んでいる内に、潰れちまった復讐鬼。せめて最期は俺を恨みながら死んでみせろ。」
「…………」
「自壊宝具、だよな。俺を仕留めてみせろ、その目ん玉をかっぴらいて、執念を見せてみろ。」
「…………………………」
ガラシャは地面に転がりながら、傷だらけの両手を合わせ、目を瞑る。
主に、祈りを捧げた。誰に届く訳でもない声を乗せ、ただ真摯に祈り続けた。
「わたくしの…………………わたくしの、家族に、安寧を…………」
「は?」
「爺も、そして、ジョンにも……幸せに…………なってほしい…………わたくしなど、どうでもいいから…………」
災害のアーチャーは彼女の胸倉を掴む。
先程まで痛みに歪んでいた顔は、どこか誇らし気な表情に代わっていた。
「わたくしは馬鹿です。ようやく気付きました。たとえ貴方に蹂躙されようとかまわない。……わたくしには、命を賭して守りたいものがある。」
「なんだ、英雄としての矜持が舞い戻って来たか?」
「いえ…………きっと、貴方と同じ。わたくしは、『人間』になりたかった。でもそれは、己の仕事を投げうって……自由気ままにあるだけではない。…………逃げてはいけない、わたくしは英霊である前に、屋敷を、家庭を守る、一人の女だから。」
「全部失ったくせによく言うぜ、なら、潔く、死にな。」
ガラシャは己の宝具で、災害と共に死を選ぶ決意をした。
災害は散々彼女を煽り立てたが、いざ牙を剥かれると、さっさと彼女の脳を潰し、素直に逃げる選択をする。
そうすれば、彼が生きてさえいれば、『目を背けていられる』。
「災害のアーチャー……何を恐れているのです?わたくしを殺し、生き永らえなさい。人間ならばそうすると、声高に叫びたいのでしょう。女を侍らせ、兄である貴方を妬み、嫉み、人間らしくその生を全うした弟『キルペリク』のように!」
「く…………」
「貴方こそは、ジークフリートと、シグルドを形作るルーツ、言わばイデア。聖剣『バルムンク』と、シェイクハンズの悪夢で、抑止力を葬り去った聖剣『グラム』を有する大英雄。貴方は、あの『シグベルト』でしょうが……何を恐れているのですか?」
災害のアーチャー、真名を『シグベルト』。
メロヴィング朝フランク王国、偉大なるクロタールの三男坊として生を受けたシグベルト。
気ままに暴れ回る弟キルペリクを抑えながら、只一人の愛妻『ブルンヒルド』を愛し、数々の英雄譚を築き上げた。
そして暴君ネロの名を謳われたキルペリクによって、彼は暗殺され、非業の死を遂げる。
彼の波乱万丈な生涯は、物語として世界に刻まれ、二人の英雄をこの世に生み出した。
サーヴァントとしては珍しい、彼は一度死に、そしてジークフリート、シグルド、二人の男へと生まれ変わったのである。
千年前、虚無の砂漠にて、彼は召喚された。左手にバルムンク、右手にグラムを携えて。
そしてサハラの地で、彼は英雄であることを捨てた。
此れより先は、ガラシャの知らない物語。
彼はサハラの地で、一人の女マスターに呼び出された。
マスターの名は遠い彼方に忘却した。だが彼は、彼女を可憐な女だと称した。
麗しの主人を守る騎士、誉れある第二の生を、彼は駆け抜けるべく走り出した。
祖国に、愛する妻に恥じぬ戦いを誓う。
だが、いつの日だったか、彼は狂い始めた。
事の発端は、彼が蛇王ザッハークに敗北したことだった。
彼の領地内で、恐ろしき植物たちに絡めとられたシグベルトは、大幅な弱体化を受けた。
アジダハーカの毒が、彼の無敵の肉体を蝕んだのだ。
そして目が覚めた彼は、御殿の中で、壮絶な光景を目の当たりにする。
守ると誓いを立てたマスターが、蛇王ザッハークに凌辱されていた。
そして倒れて身動きの取れない彼の上には、この戦争の監督役であるルーラー『ナナ』が跨り、よがっていた。
彼はナナを退けようとするが、肉体は毒に犯され動かない。
否、認めたくないが、彼は極上の快楽に溺れ、肉体を洗脳されていた。
シグベルトが快楽を貪るそのときも、マスターは助けを求めていた。
大英雄シグベルトが、ヒーローの中のヒーローが、救ってくれると信じていたのだ。
だが、彼には成す術がない。
邪悪なる蛇はヒトに己の因子を残すべく、熱を求め続けた。
シグベルトはナナを睨みながらも、抗えない快楽の波に、いつしか心さえも奪われつつあった。
娼婦であり、社会に混沌を齎したファムファタールには、強力な宝具がある。
ヒトを、英雄を、魅了させ、服従させる力。思考を上書きし、『恋』を植え付ける精神操作系宝具。
ブルンヒルドの愛らしい笑みも、その肌も、指先も、砕け堕ちたパズルのように。
———ああ、壊れていく。
味を知ってしまった。極上を手にしてしまった。
もう戻れない、もう帰れない、全てが手遅れだ。
蛇王も同じだ。この王も同じように、一人の娼婦の掌の上。
抵抗できない。強制的に満たされる欲求は、もはや『他者では満足できない』。
そして彼らは同時に絶頂し、事を終える。
シグベルトの目の前で、マスターは薄ら笑いを浮かべていた。
「マスター…………俺は」
どんな言葉も、もう届かない。
英雄の偶像はいとも容易く砕かれた。
彼は只一人の『男』という格に堕ちて行った。
乱れは、穢れだ。清廉潔白であるからこそ、繋がり合う縁がある。
「アーチャー…………どうして」
マスターは乱れた呼吸で、言の葉を紡ぐ。
必死に絞り出したその一言は、誇り高き騎士への、侮蔑。
「どうして…………助けてくれなかったの?」
そして、アーチャーは誇りを失った。
蛇王の側室となった女マスターは、囚われの身となり、生かされた。
そしてナナと共に、毎晩、王の寵愛を受けた。
シグベルトは毒に蝕まれながら、無様に生き残り、領地から逃げた。
己の首を掻き切るべき醜態を晒し、それでも、生き永らえてしまった。
彼は砂漠を一人横断しながら、目的を失い彷徨った。
ナナへの恋心を植え付けられながら、残された最後の信念で、妻の影を追い求める。
もはや出会うはずの無い相手を、この砂の世界で探して。
そんな彼に訪れる、二度目の絶望、
奇跡か、はたまた、必然か、彼は愛する妻に出会う。
だが、彼女はブルンヒルドでは無く、よく似た誰か。
知っている筈なのに、決して思い出せない、愛していたのか、愛していなかったのか、定かでは無い。
ランサー『グズルーン』に、彼は出会った。
愛した女に似ている。酷く似ている。纏まらない侵食された思考で、愛を求め手を伸ばす。
だが、グズルーンがそれに答えることは無い。彼は『遅すぎた』。
狂気に塗れたグズルーンを、先に見つけた人物がいた。
只のか弱き人間、いや、それ以下の矮小生物。だが、シグベルトより先に、グズルーンと出会ったのだ。
青年は、グズルーンにとってのシグルドでは無い。だが、彼は彼女を必要とし、彼女は彼を受け入れた。
二人は恋していた。
恋を、していた。
あぁ、また手遅れだ。ヒーローはいつだって、駆けつけるのが遅かった。
彼はグズルーンにかける言葉すら無く、そのまま、ブルンヒルドを忘却した。
その後の彼は、サハラの地で闘争を求めるようになる。
振るう剣に志は無く、はじく弦に信念は宿らない。
ただ暴れ、ただ狂う。
ただ一人愛した女の笑顔を思い出せぬままに。
「その見事な剣裁き、流石は大英雄といったところか。」
后羿とのタイマン勝負。
シグベルトを認める太陽落としの英雄に、彼は苛立ちを募らせる。
英雄は、守りたいものを、守ることの出来る戦士のことだ。
決して、彼のことでは無い。
「大英雄……だと?」
「あぁ。」
「俺は、俺は英雄なんて腐った奴らじゃねぇ!俺は『人間』だ!」
彼は英雄を否定し、そして己を否定する。
全てを失ってなお、無様に生きる英雄崩れ、彼は彼を『人間』と呼称した。
ジークフリートもシグルドも、その名は今の彼には重すぎる。
そして、その後に、ディートリヒと剣を交えた。
「汝、『シークフリート』では無いな。」
「っ……!」
「つまらん、汝は酷くつまらん。」
「な……」
「汝に我の相手は務まらない。」
戦いの中で背を見せた彼女に、シグベルトは激高する。
当然、背後から斬り殺そうとするが、そこで、彼のマスターからの招集がかかった。
いつぶりの邂逅であろうか。
唇を血が流れる程に噛み締めながら、ザッハークの領域へと向かう。
彼はもう、死んでも良いと思っていた。
だが、彼は知らなかった。
あの邪知暴虐の王は既に死亡し、恋するナナの肉体に蛇が宿っていることに。
そして領地にて、彼はマスターに抱き締められる。
生きているのに、ヒトの温かさは失われていた。
「アーチャー、私はルーラーに救われた。ルーラーが、新しい世界に私たちを導いて下さるそうよ。」
「え…………」
いつか来る、世界崩壊の日。
ライダーは、キャスターは、そしてルーラーは、理想郷へと至る決断をした。
これは、英雄として生き、英雄として死んだ彼への招待状。
ナナはその桃源郷を、『楽園』と称した。
「ねぇ、アーチャー、『シグベルト』、貴方は楽園で、多くの恋をして、自由気ままに生きていくの。英雄を卒業し、『ヒト』としてね。」
「ルーラー…………」
「魅惑溢れる女の園、あの蛇王のように、暴虐の限りを尽くしてみない?キルペリクのように、自由奔放に。英雄という型にはめられた貴方には、その権利がある。」
「俺は……」
「ねぇ、行こうよ、アーチャー。誰もが救済される世界へ。」
女マスターは彼の手を引いた。
もはや彼には選択の余地は残されていなかった。
反英雄、己の欲にのみ忠実に生き、喉の渇きを血で潤し続ける。彼はこのとき、『堕天』した。
正義の心とは反する何かが、彼の心に同居したのだ。
そしてここに、オアシスに、醜い災害が誕生したのである。
ガラシャの透き通った緑の眼を見つめながら、遥か昔のことを思い出していた。
理性を捨て、本能のままに生きてきた彼には、かつて叶えたい望みがあった。
英雄として、一人の女を、世界そのものを、救う。
今の彼には、届かぬ奇跡。
———或いは、『彼』ならば。
シグベルトは口角を上げたと同時に、ガラシャの首を両手で掴んだ。
そして力の限り締め付ける。
「知ったような口を利くな、クズが。いいから、てめぇはここで死んでおけ。」
「ぐっ…………」
シグベルトは『災害』。
ヒトに厄災を齎す存在。
彼が英雄へと戻ることは無い。
その死ぬ寸前まで、暴虐の限りを尽くそう。
それが今のシグベルトなのだ。
「宝具なぞ、使わせねぇ。てめぇは孤独に死ね。この地に呼び出されたことを皆に懺悔しながら野垂れ死ね。生まれてきてごめんなさいってなぁ!」
災害の甲に血管が浮かび上がる。息の根を止めるべく、強く、指を食い込ませた。
ガラシャは失いそうになる意識をギリギリで保ちつつ、彼女の宝具を発動すべく両手で胸の十字架を握り締めた。
滴る血は贖罪と、家族への希望の証。
もしたとえ災害が死なずとも、残された爺が、彼を止めてくれる。
ガラシャはシグベルトを必死に睨みつけながら、走馬灯のように彼女の過ごした日々を思い返していた。
教会で、クロノと交わした言葉が反芻される。
「革命聖杯戦争、ですか?」
「ええ。ハンドスペードの代表として、ガラシャ姫と、果心居士に参戦して頂きたい。災害を葬るという願いを叶える為に。」
「この城塞へ籠りながら、そんなことを思案していたのですね。やはり貴方は危険なお方かもしれませんわ。」
「ええ、はい。何せ私はテロ組織の副リーダーなもので!」
クロノは珍妙に、カラカラと笑ってみせる。それなりの時を共に過ごしたが、彼はいつだって胡散臭い。
彼女は独自で、言峰クロノという人間を調査したが、第四区の教会にて、いつの間にか司祭となっていたことを除き、全てが空白であった。
開発都市第一区の災害、ライダーとも交流があったと本人は話していたが、アサシンならまだしも、容易に近づける相手では無いだろう。
彼は災害のライダーの力を傍で目の当たりにした結果、細川忠興の呪いを遥かに凌駕すると位置付けた。ガラシャは結局、クロノを以てして、外の世界へ一歩踏み出すことは出来なかったが、彼から多くを学び、知識を蓄えた。
クロノが竜宮城を後にし、再び孤独を味わうガラシャに、災害のアーチャーは付け入ったのである。
「クロノ神父、どうして貴方は、災害を殺したいのですか。革命軍とは違い、貴方にはその動機が無いように感じられる。失礼ではありますが、貴方は虐げられていないではありませんか。」
「そうですね。私はこれまで色々なものを失いましたが、でも、決してそれは災害の責任ではありません。彼らの元で安寧を受け入れる人生は、さぞや幸福であるでしょう。」
「では何故?」
「さて、何故でしょうね?私は神の如く存在する災害を酷く嫌悪していますので、大義名分は無いのでは、と我ながらに思います。生まれながらに、そうすべきだと認識していた、それがきっと私なのです。」
「生まれながらに?」
「ええ。私は『そういうもの』なのですよ、ガラシャ姫。」
クロノの言葉の真意は理解できなかった。
だが、邪悪を目の前にして、今ならば少し分かる気がする。
自らの愚かさと、そして、彼女が真に憎むべき相手が誰か。
ガラシャはハンドスペードの姫君。軍の母であり、軍の総意、最高決定権。
果心居士も、ジョン王も、李存義も、道は違えど、目標は同じだった筈だ。
最後の最後で、ガラシャだけが道を踏み外してしまった。
「シグ…………ベルト…………ともに…………果てよ…………」
ガラシャの肉体に赤い光が宿る。
これより彼女は、心臓を燃やして、爆ぜる。この竜宮城ごと、目の前の災厄を消し飛ばす。
アヘル教団に報復できないことだけは酷く残念であるけれど、それは彼女の意思を引き継いだ誰かが成すことだ。
ガラシャはシグベルトに掴みかかる。そして決して離さない。
「おい、てめぇ、死ぬのが怖くないのか!?何故だ!?」
「怖いですよ、とても。」
ガラシャは満面の笑みを浮かべた。
さらばオアシス、さらば第三区、さらばハンドスペード。
彼女は絶技の名を口にする。
その時、彼女の目前から敵が消えた。
西風と共に、虹色の河が宙を横切った。
波に攫われるように、災害は領域外へと飛ばされていく。
七色の光の粒が、流れを形成している。
ガラシャが目を凝らすと、その正体が判明する。
一つ一つが、とても小さな折り紙の『鶴』だ。
彼女が遠い昔に見た幻想。障子の外側に溢れた輝き。
壊れた竜宮の真横に伸び広がり、手の届くオーロラと化す。
ガラシャはこの虹を知っている。懐かしく、ほんのりと温かい光だ。
「爺…………」
果心居士の宝具『絡繰幻法・千羽鶴』。
虹色の道が形成され、彼の大切な仲間や家族に、力を与える補助宝具。
重ねられた思いが、肉体と精神を同時に癒し、見る者全てに勇気を与える。
「遅れてしまいましたな。ガラシャ様。この果心居士の失態にございまする。」
「爺…………」
「この果心居士は、ガラシャ様と共に在ります故。」
ジョンが去り、李存義は死に、クロノに魅入られ、シグベルトに堕ちた。
ガラシャが狂おうと、愚行に走ろうと、果心居士は彼女と共にいた。
革命聖杯戦争においても、彼は彼女の勝利だけを願い続けていた。
ガラシャに手を差し伸べる者は、こんなにもすぐ傍にいたのだ。
「爺……わたくしは、貴方の決戦兵器を……」
「構いませぬ。」
「今まで、酷い扱いを、してきて……」
「ガラシャ様が無事であるならば、それで。」
果心居士はガラシャの元へ向かうと、彼女をそっと抱き締める。
彼女の肢体に触れる全てに、忠興は憤慨し、霊化した腕を伸ばした。結果、果心居士の老体は忠興により蝕まれる。
「だ……っ駄目!爺!放しなさい!」
「いえ、もう離しませんぞ。これは爺の失態でありますからなぁ。」
「失態!?」
「はい。ガラシャ様を苦しめるこの城塞など、とうの昔に壊してしまえば良かった。姫として称え、崇め、ハンドスペードの象徴として牢に閉じ込めてしまったのだ。これは我らの過ちにて。……どう償えば良いでしょうな。」
「……違う、わたくしがそう望んだのです。領主となる覚悟をしたのはわたくしです。そして、全てを失ったのも…………」
「ではその罪、爺にも半分分けてはくださりませぬか?」
「爺……っ」
果心居士の腕に、足に、紫の紋様が宿らしめる。忠興の憎しみは、どこまでも広がっていく。
「忠興殿は頑固者ですからなぁ。この果心居士が説得してみせましょう。否、きっと忠興殿はガラシャ様の強さを認めていらっしゃる。貴方様が成すべきことを見つけたのなら、背中を押してくれる筈。」
「あの人が、わたくしを。」
「なに、男は別嬪さんにホの字なのですよ。儂ももう少し若ければ、ガラシャ様に見惚れていたは……ず……」
果心居士は、ガラシャを抱き締める腕を緩めた。
そして彼女を突き飛ばす。
虹の河を逆行するように飛んできた一本の剣。その刃はガラシャへと向けられていた。
吹き飛ばされたシグベルトが放った矢は、果心居士のオーロラを砕き、進む。
咄嗟の判断で果心居士は自らの肉体を盾とした。罠を、オートマタを、起動する時間は残されていなかった。
もはや死に体の災害のアーチャーはどこかへ消え去った。敵前逃亡を図り、生き永らえるつもりだろう。
「じ…………」
果心居士は大剣に貫かれた。
その痩せ細った身体に、巨大な穴が開く。
彼を構成するギアパーツが弾け飛び、配線が剥き出しとなった。
「爺!!」
ガラシャは必死に手を伸ばす。
だがそれは、後ろへと倒れ込む彼には届かない。
壊れた屋敷の外へ、一歩、踏み出すことが出来たなら。
「ガラシャ様」
「爺!爺!」
「お達者で。」
「爺!!」
ガラシャは腕が千切れるほどに、手を伸ばした。
歯を食いしばり、果心居士と、背後のオーロラへ向けて。
届かない、城の外側に、大切なものがある筈なのに。
「ああああああああああああ!!」
ガラシャは唇を噛み、血を滲ませる。
両手を伸ばし、目に見えぬ壁を越えようとし続ける。
これを阻むのが、忠興の執念。愛しい妻を幽閉し、自らの身体に閉じ込めようとする。
「爺、わたくしは、わたくしは!」
果心居士は地に伏した。その身体からは、光の粒子が溢れ出る。
千の鶴の輝きに同化するように、命の灯は溶けていく。
「わたくしは、ここで、召喚されて、生まれてきて!」
あと数秒もすれば、果心居士は退去するだろう。
伝えなければ、彼女の想いを、大切な家族へと。
「爺と共にいられて、幸せでした!!」
その時、ガラシャは転がり落ちた。
竜宮の城、砕けた廊下のその先へ。
抉れた泥まみれの大地に、膝をついた。
「あ」
咄嗟に、両手で地面を掴む。
彼女の綺麗な顔は、転倒した際に、砂に塗れた。
「ガラシャ様…………もう、貴方は大丈夫」
竜宮の外の世界へ、細川ガラシャは踏み出した。
「貴方は、青空だって、掴めますぞ。」
そして顔を上げたガラシャの目前で、彼女の家族は天へと帰った。
そこにはもはや、何も残されていない。
ただ虚しくぽっかり空いたクレーターだけが空を見つめている。
ガラシャは虹の河に手を翳した。
そしてそれが消える直前に、一羽の鶴を握り締める。
青色の折り鶴は、空の色にとてもよく似ている。
「これが、第三区」
ガラシャは青い鶴を胸に当て、静かにその景色を見渡していた。
【キングビー編⑤『エピソード:レイヴ』】
アヘル教団の刺客、セバスチャン・ディロマレンガーこと『ショーン』は、特殊アンプルを使用し、災害のキャスター、ダイダロスの力を手に入れた。
そして発動する固有結界『有為転変の触毒迷宮(ファルマキア・ラビュリントス)』は、ダイダロスの迷宮とは似ても似つかぬ代物。
キャスターとペルディクスが幽閉された九つの部屋からなる第一結界、そしてその外側、ショーンが浮かぶ銀河の広がりを持つ第二結界、多重構造となった心象は、内部にいる彼女らをじわじわと追い詰めていく。
怪物ミノタウロスや無数のトラップが存在しないにも関わらず、だ。『無』の空間は、たとえサーヴァントであろうと精神をすり減らせる。どこへ向かおうが辿り着けないという恐怖は、探偵と発明家を毒のように蝕んでいった。
「……また、第三の部屋に帰って来たわよ。これで十三回目、かしらね。」
「ある程度構造は理解できた。ルービックキューブのような正四面体だが、恐らく約一時間ごとに部屋は移動している。……そういう映画、巧一朗と一緒に見た記憶があるな。」
「巧一朗?」
「何を隠そう私のマスターだ。契約はしていないが。召喚もされていないし。」
「それは主人と呼んでいいのかしらね。」
ペルディクスは天井の穴に向かって飛び上がる。そこは彼女らの予見通り、第七の部屋であった。
彼女は溜息をつき、第三の部屋へと舞い戻る。移動し続けても無駄という事実に、肩を落とすしか無かった。
「術者であるショーンがいないのはおかしいと感じていたが、この九つの部屋の外にいるのだろうね。私たちが苦しむ様子を酒の肴にしているよ。」
「どうすれば外側へと至れるのか。物理的、精神的、多方面から攻めてみたけど、サッパリね。」
「恐らく第四の壁、だろう。三次元から思考を四次元に移行させられれば、と言ってみるものの、我々には不可能だ。……ペルディクス、ここいらで何か発明してみるかい?」
「オアシスからの魔力供給がか細い糸のよう。今の私には何も出来ないわ。ごめんなさいね。」
「とりあえず動き回るのは辞めようじゃないか。ほら、部屋の真ん中に座って、女子会でもやろう。お茶もお菓子も用意されていないけれどね。」
彼女らはホワイトルームの中央で座する。
そしてキャスターは先程確認した機密書類の関することを含め、徐に話し始めた。
「ペルディクス、君はどうしてダイヤモンドダストに協力したんだい?」
「……召喚されて間もなく、私は革命聖杯戦争の存在を知った。知覚できない、大いなる悪意が宿る戦いを止める為に。私はダイヤモンドダストの主将、ダストに取り入ったの。エントリーする枠は、そこしか残されていなかったからよ。」
「勝ち抜く意思はあるのかい?」
「あるには、ある。でも、私は監督役である司祭と交流が無い。災害を殺すことの出来る黄金杯なんて、存在するのか分からないじゃない?だから戦いの中で探りを入れているの。」
「なにか、分かったことはある?」
「さっぱりね。……強いて言うならば、革命聖杯戦争にエントリーしているにも関わらず、どこへも属さず、戦いにも出ない、司祭のサーヴァント、アサシンの存在が怪しいことかしら。アイドルの真似事をしているようだけど、彼女はそういう類の英霊では無い。そもそも暗殺者のアイドルなんて矛盾しているでしょう?」
「忍ぶことの無い職業だからね。私は彼女のことをよく知っている。そして、監督役の男が成そうとしていることも。ただ、彼の動機がまるで分からない。彼は世界を『救済』すると言っているが、どういう意味なんだろうか。ま、今はどうでもいいけど。」
「アサシンのことを知り得ているのね。……その口ぶりだと、司祭はまともに戦争をする気が無いと?」
「いや、逆さ。彼がもっとも革命聖杯戦争の完遂を目指している。だけど、彼の言葉には確実に嘘が混ざっている。」
キャスターを構成する一騎、モリアーティは言峰クロノを知っていた。間桐桜の元で働きつつ、博物館のデータベースや聖遺物の情報を知識として蓄え、いつの日だったか、博物館を後にした。
革命聖杯『ROAD』はオアシスに存在する始まりの聖杯をコピーした小聖杯だが、いくら博物館と言えど、聖杯鋳造は不可能である。アヘル教団に与していた魔術師、吉岡が開発に携わっていることは予想できるが、オリジナルのデータはどこで入手したものであるのか。
実は彼女の中である仮説が浮かび上がっていた。だがこれは余りに現実離れしていると言えよう。早々に排除すべき可能性であるが、どうも脳にこびり付いて離れなかった。
荒唐無稽、だが、情報を得れば得る程に、真実味を増していく。
この結論は、キャスターにとって、些かに不快なものである。
「ていうか、重要なこととか喋って大丈夫なワケ?敵の掌の上で作戦会議なんて馬鹿らしいわよ?」
「むしろ、ショーンにとって興味のある話をすれば、彼も女子会に混ざってくれるかもだ。」
「女子…………?」
ペルディクスは首を傾げる。
彼女らを観察するショーンは一人、「あらヤダ~」と奇怪な声を上げていた。
「先程確認した書類の中で、各組織に派遣された産業スパイのリストがあった。……こんな重要機密をあろうことか革命軍のある第三区に放置している意味が分からないが、恐らくは、アヘル教団から革命軍へ再び寝返った者がいて、これを保管していたのだろう。何らかの精神攻撃を解除したか、そもそも受けていないかは知りようも無いが。ダイヤモンドダストが雷上動を巡って争いを起こしたのは、アンヘル研究所の潜入工作員の仕業だとみている。アンヘルからアヘルへと組織拡大した後のデータだから、これを残したのはダイヤモンドダストで無いだろうけどね。」
「革命軍分裂の発端は、アヘル教団の仕業……ショーンも教団の構成員なのよね。」
「ああ。恐らく古株だ。相当な修羅場を潜ってきている難敵だよ。…………褒めれば、ここから出して貰えるかもしれない。」
「それだと良いわね。……で、他の地区にもスパイがいるってこと?」
「あぁ。例えば、アインツベルンカンパニー当主、ミヤビ・カンナギ・アインツベルン。彼女は先代に育てられる形で組織を乗っ取った。元の幹部も皆殺しにしているようだね。『スネラク』というコードネームで呼ばれているらしい。あと遠坂組には、現ヴェノムランサーの少女『ニョッカ』が派遣されている。驚いたよ、こちらは当主である遠坂龍寿の実妹だ。遠坂杏寿、というらしい。マキリは、まぁ、流石だね。エラルは怪しげな部下全員を辞職に追い込んでいる。あと、私が所属する第四区博物館にも、いるね。『鶯谷鉄心』、桜を警戒してか、記憶の大部分に封をした状態で、アルバイトとして潜入させている。ふむ、ヴェノムの力は有していないのか。……彼の裏切りは、俄かには信じられないけどね。」
「アヘル教団の目的は、何なの?」
「彼らはヴェノムアンプルを用いて、オアシスの発展のその先へ至れる人材を増やし続けている。サーヴァントを血流に宿すことで、何らかの人類の危機に耐えようとしているのかもしれない。サーヴァントだけ生き残って、人間が死んだら、元も子もないからね。ある意味、人類の『救済』と言えるだろう。」
「オアシスが、いつか、滅ぶ日がくるということ?」
「かもしれない。このオアシスは災害のライダーの方舟だ。ノアズアークと言えば、大洪水を行く、奇跡の体現だからね。オアシスは災害とはまた異なる、外的要因にて滅ぶという見解なのだろう。」
〈そうだ、この桃源郷は『ヴェルバー』によって滅び去る。それが災害と、アヘル教団の共通認識だ。〉
「うわぁ!急に喋るな!ダイダロス!」
キャスターの中に確かに存在する、恐るべき因子。
彼女の同位体は、サハラの地で蘇り、徐々に、確実に、オアシスへと歩みを進めている。
世界を混沌に陥れた大犯罪者、モリアーティすら危惧する一大事件だ。
「ヴェルバー……?」
「破滅を齎す白き巨人セファール、かつて外世界を蹂躙した人類史上最大の脅威。私もよく知らないけどね。」
〈核の部分で無く、その一部に過ぎないがね。人類は、神は、いとも容易くこれに刈り取られたのだ。聖剣により討伐され、死んだ。〉
「死んだ……のに、蘇るの?」
〈正確には異なる存在だ。我々は『彼女』をそう定義づけた。呼び名を与えた、と言っていい。〉
「ダイダロス、君はその正体を知っている口ぶりだね。」
〈ああ。知っているともさ。無論、敵の懐でこれを語るつもりは無い。〉
ダイダロスはそれ以上、口を開くことは無かった。
ペルディクスの隣に、元凶たる存在がいようなどと、口が裂けても言えぬだろう。
ダイダロスならば、臭い真実に蓋をするに違いない。翼はそう結論付けた。
「私はただのしがない発明家で、それに召喚されたばかりの新米英霊。探偵さんと喋るのは肩が凝って仕方ないわね。」
「すまないね。お喋りは好きなんだ。真面目な女警官に真実を語るときと同じくらい、君は実に良い聞き手だと思う。」
「?」
「すまない、こっちの話だ。……今度はこちらから話を聞いてもいいかい?私としてはあまり興味がないのだが、外にいるショーンが気になっているだろうと思ってね。革命聖杯戦争に参戦したサーヴァント達について、ペルディクスなりの見解を聞きたい。どの組織が有利だとか、誰が協力だ、とか。」
「それ、話して良い訳?」
「ああ。何せ暇だからね。」
「…………腑に落ちないわね。まぁいいか。まず優勝候補は何と言っても、革命軍穏健派『グローブ』よ。ドン・フゴウこと『マンサ・ムーサ』と黄金街道こと『坂田金時』、どちらも非常に強力なサーヴァントね。特にフゴウは、これまで毎日配布されている令呪の全てを手に入れているわ。単なる魔力増強や仲間を呼ぶことにしか使えないだろうけど、マスターのいない戦争では有利に働くわね。黄金街道は戦闘力だけならトップよ。知名度も、私に比べれば段違いじゃないかしら。」
「グローブの目的は、災害のアサシンと聞いた。」
「え、ええ。ショーンの前で言うのもなんだけれど、グローブの願いは、アサシン討伐ね。でも、恐らくそれ以上に、この戦争に不信感を抱き、止めようとしている印象があるわ。フゴウは、革命軍皆が手を取り合うことを切に願っている。」
「なるほど、アヘルにとっては最大脅威だね。」
「続いて、ハンドスペードだけど、芸達者こと『果心居士』は器用な立ち回りを得意とする、バックアップ型サーヴァントね。果心オートマタと呼ばれる軍勢を率いて、彼特製の武装で戦いに望んでいるわ。竜宮城自体が彼のカスタマイズした要塞よ。ロンリーガール『細川ガラシャ』は、何というか、手の内を晒していないわね。でも果心居士に守られている、か弱い姫君、といった印象よ。私も人のことは言えないけれど、劇的かつ過激な人生を送った訳じゃないから、地区を揺るがす絶技、なんてものは無いでしょうし。」
ペルディクスはキャスターに不信感を募らせつつ、語る。
対してキャスターはわざとらしく頷きながら、聞き手を全うしていた。
「えと、最後はダイヤモンドダスト、は、語る必要なくないかしら?ダストこと『枡花女』は、お世辞にも強いとは言えないし、私は、ほら、ショーンの前で弱点を晒すわけにもいかないし。」
「ダストは、皆が揃って語る程に、か弱きサーヴァントなんだね。」
「英雄として最低限持ちうるようなスキルを、一つも有していないのよ。彼女はセイバーだけれど、剣技はお子ちゃまレベル。ダイヤモンドダストの名を捨てて、グローブに亡命した方が良かったのではないかと思うのね。彼女、とてつもない美形だけど、嫌われ過ぎて誰もそのことを指摘してくれないじゃない?」
「成程、ちなみに各組織の決戦兵器については?」
「ハンドスペードは、まぁ、多分、果心居士の手製オートマタじゃないかしら。グローブは、正直分からない。無くても勝てそうだけどね。あと我らがダイヤモンドダストには兵器は存在しない。ほら、ペルディクスに勝ち目がないことは分かるでしょう?」
「そうだね。でもショーンは、君を最大警戒し、閉じ込めた。君が衰弱死するその時まで、この結界から出られない。」
「それは彼、いや、彼女か、彼女がダイダロスの力を有していて、私がそれを止める為に召喚されたから、さっきも話したじゃない。」
「でも私は、それだけじゃないと、そう思っている。ふふ、いいや、『あとは彼の口から聞こうじゃないか』。」
刹那、彼女らの頭上に、轟音が響き渡った。
空間がひび割れ、漆黒の触手が顔を出す。
第一結界の外側、宇宙空間のような第二結界が丸裸になる。
そして翼を広げ飛ぶショーンをついに捉えた。
「ペルディクス、宝具だ!」
「え、あ、はい!宝具起動!『其れ聖域と呼ぶ勿れ(オルギ・アクロポリス)』!」
ペルディクスのコンパスによって描かれた巨大サークル。
ショーンは光の柱の内部に捕われ、本人の意思に関わることなく、宙へと浮かび上がっていく。
焦り、戸惑う彼は、冷静に状況判断を試みた。
まず、彼の結界の崩壊は、外部からの干渉によるものである。
彼は多重構造の結界の維持に心血を注いでいた。それに加えて、探偵の話に、僅かながら耳を傾けてしまっていた。
つまり、外的要因に対し、思考のリソースが割けていなかったのだ。
モリアーティではなく、今のキャスターの主人格は『隅の老人』へと切り替わっていた。彼の口から紡がれる言の葉には、誰もが興味をそそられる。推理小説を読むかのような高揚感に心を奪われたのは、彼の最大の失態である。
そして結界を破壊した張本人は、キャスターの仲間、そして、派遣されたアヘル幹部たちにとっての最大脅威足り得る存在。
ショーンは『ヤダ~』と叫びながら、宝具の発動により、奈落の底へ転落していった。
「私に何らかの異変が確認された時、半時間以内に駆け付けるのが契約の内だったと思うのだけど、君は守る気がないのかい?」
「すみません、キャスター。色々と事情が込み入っておりまして。でも、こうして助けたのだからよしとしてください。」
クラーケンの触手が、二人を絡めとり、引き上げる。
固有結界は消失し、診療所の地下で、生身のショーンが鼻から血を吹きながらピクピクと悶えていた。
ペルディクスはようやく、キャスターの称する『女子会』が、時間稼ぎであったことを理解する。
絶大な信頼の元に手を取り合うキャスターと白衣の女は、彼女から見て、真の主従であった。
「ペルディクス、紹介するよ。我らが第四区博物館の間桐桜館長だ。」
間桐桜、またの名を『メアリー・セレスト』。
第三区にて暗躍する彼女が、ついに仲間の前に姿を現した。
【キングビー編⑤『エピソード:レイヴ』 終わり】