Fate/relation   作:パープルハット

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皆さま、大変長らくお待たせしました。
キングビー編、連載再開です。
五月中は毎週投稿頑張ります。
誤字、感想等ありましたらコメントよろしくお願いします。


キングビー編6『エピソード:ビトレイアル』

革命聖杯戦争が開幕したその当日の話。

 

崩壊したライフライン『シェイクハンズ』に、一人の老人が立っていた。

彼は毎日のようにここを訪れ、何時間もかけて橋の修復作業をしている。

亀の歩みのような速度で、けれど、懸命に、誰も通らない産業道路を守り続ける。

 

「麦造」

 

彼の背後から、優し気な声色の男が、彼の名を呼ぶ。

彼、麦蔵はいつも通り、振り返らない。挨拶を交わす様な間柄でも無い。

声の主は溜息をつきながら、麦蔵の仕事を観察していた。

 

「意味の無いことだ、麦造。」

「意味はある。少なくとも、てめぇの存在よりは、よほど価値のある物だ。そうだろ、フゴウ。」

 

フゴウは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

麦蔵は彼の心中を察し、それでもなお、追い詰めるように言の葉を紡ぐ。

 

「ガキどもと触れ合うのは、革命聖杯戦争を止めようとするのは、幸せな未来を築き上げるのは、てめぇの『贖罪』か?フゴウ。てめぇが罪滅ぼしの為に王を気取るってなら、俺はくだらねぇと心底思っているぞ。」

「…………ああ、そうだな。本当にくだらない。」

 

ドン・フゴウこと『マンサ・ムーサ』は第三区民全ての幸せを願う理想の王。

誰もが彼を愛し、彼の存在が皆を勇気づける。

だが麦蔵は、本当の彼を知っている。彼が『道化』であるということも、また。

 

「我は予定通り、四画の令呪を手にする。そうすれば、我の願いは遂行される。……その後、全ての罪を民の前で明らかにするつもりだ。」

「それまでは詐欺師を貫き通すか?」

「あぁ、そうだ。」

「ガキどもの前で、尊大な王を語りながら、か?アイツらの親の命を奪ったのは、てめぇだっていうのにな。」

「あぁ。」

 

シェイクハンズの悪夢から生まれた、二つの革命組織。

当初は災害打破に向けて手を取り合う予定だった筈が、聖遺物『雷上動』を巡り、内乱へと発展する。

ダイヤモンドダストの幹部で、かつ、アンヘル研究所と繋がりを有していた親災害派閥の人物が、組織を動かし、結果、革命軍の分断を巻き起こした。そしてグローブは過激派ハンドスペードと分かたれることとなる。

 

全ての元凶たる者、それこそがこの『マンサ・ムーサ』であった。

 

彼は当時ダイヤモンドダストを立て直すために、アンヘルから大規模な資金援助を受けていた。

表向きには災害を憎む素振りを見せつつ、裏では蛇王ザッハークへの忠誠を誓っていた。

全ては第三区の活気を取り戻す為。彼一人が泥に塗れる覚悟で、スパイ活動に勤しんでいた。

だが、雷上動の存在が、全てを変えた。

秘密が暴かれるのを恐れ、かつ、災害打破の切り札が用意されることを容認できなかった彼は、誤った道を選択する。当時協力関係にあったセバスチャンに脅迫され、持ち前のカリスマ性で、ダイヤモンドダストを己の独断で導いてしまう。

結果、多くの仲間が死に、取り返しのつかぬほどに組織間は破局の道を辿り、彼だけが生き延びた。

 

「てめぇの黄金は、所詮サーヴァントの生み出す魔力に過ぎない。かつてのように取引に使用できるものじゃねぇ。あぁ、そうさ、マンサ・ムーサは『黄金』が無ければ、ただの一般人だ。このシェイクハンズよりも価値の無い、空っぽの王道よ。こうして毎日俺のところに来て、お叱りを受けることが『罪滅ぼし』だと思っている、そのおめでたい脳天もどうにかした方が良い。」

「思っていない。我の罪滅ぼしは、革命軍を一つにすることだ。……そのために、生きている。」

「言峰クロノと、従者の怪物を、てめぇで何とか出来るのか?」

「始まってしまった戦いを止めることもまた、我の責務だ。」

 

フゴウは己の罪も、無力さも、理解している。

だから毎日、シェイクハンズへと足を運ぶ。

この大橋こそが、第三区の希望の象徴だったからこそ。

 

「頼む、麦蔵よ。我に力を貸して欲しい。都合がいいのは承知の上だ。だが、第三区を救うには、貴方の力が必要だ。」

「断る。ピエロに嘲笑われるのは勘弁だ。それに、俺にはもう何の力も残されていない。」

 

彼はただの『麦造』だ。

童話の奇跡を体現できるような、若さはもうどこにもない。

老いることなきサーヴァントが、老いた。その意味を、フゴウは理解していない。

 

「フゴウ、俺は『浦島太郎』を辞めた。俺は自らの意思で『玉手箱』を開けたのだ。この桃源郷には、俺の愛する女はいない。」

「…………麦造」

「あぁ、くだらねぇ。もう、帰ってくれ。俺は忙しい。ひび割れの補修作業がまだたんまり残っているんだ。」

 

意味がない。

シェイクハンズは既に瓦解している。彼が一つ修繕する間に、橋には幾つもの傷跡が刻まれていく。そう遠くない未来、全てが崩れ去るだろう。

どうして麦蔵は、意味の無いことを懸命に続けているのか。

 

フゴウは、麦蔵の隣にしゃがみ込み、工具を手にした。

 

「…………てめぇ、何のつもりだ。」

「意味がないことだ。シェイクハンズは、壊れる。でも、貴方はそれに抗おうとする。我には理解できない。」

「あぁ、そうだろうな。」

「だから我はその意味を知らなければならない、そう感じたのだ。」

 

フゴウは煌びやかな衣装を砂と泥で汚しながら、麦蔵の隣で頭を垂れ、懸命に手を動かす。

 

「それが『罪滅ぼし』ならお門違いだ。てめぇが謝るべきは俺じゃねぇ。」

「違う、断じて違う。我は王として、知らなければならない。きっとそうしなければ、取り返しがつかない、そう思うのだ。」

「そうか。」

 

麦蔵に目をくれることも無く、没頭するフゴウ。

そこにはグローブの王としての威厳は無い。だが、麦蔵は初めて口角を上げた。

 

「いいか、マンサ・ムーサ。『毎日』だ。どれだけ忙しくとも、『毎日』ここに来い。そして必ず、たった一つでも、傷を修復して行け。俺が納得するまで欠かすこと無く。」

「あぁ。上等だ。」

 

黄金王マンサ・ムーサは人知れず、戦い始める。

滅びが確定したこの第三区で、最期まで抗い続ける。

 

【キングビー編⑥『エピソード:ビトレイアル』】

 

巧一朗が目を覚ました場所は一見の古民家であった。

彼の目の前には三つの顔が心配そうに覗き込んでいる。

三人の少年たちには見覚えがある。

麦造が我が子のように扱っていた貧民街の子ども達。

 

「お前ら……確か」

 

麦蔵から『マッチ』『モグラ』『チビ』と呼ばれていた筈だ。

彼らは巧一朗が不意に目覚めたことに驚き、部屋の隅へ逃げ込んだ。

 

「……ここは麦造さんの家じゃないな。お前らの家か?」

「…………フゴウが、ここにいていいって」

「そうか。小さい家だが、機能性に優れているように感じる。装飾品は豪華で、良い場所だな。」

「…………うん」

 

巧一朗は掛け布団を取り去り、その場で立ち上がる。

全身に負った傷跡には消毒が成され、不器用ながら包帯が巻かれていた。

消し飛んだはずの右足は、既に果心オートマタに馴染んでいる。

 

「お前らが手当てと看病をしてくれたんだな。ありがとう。」

「…………どういたしまして。」

 

三人が一人ずつ言葉を口にする。子どもが苦手な彼には、もはや誰が誰なのか分からない。テロリストである彼が庇護すべき対象ではない。

加えて、彼らは巧一朗に対し、酷く怯えている。ダイヤモンドダストの一員のように認識されているのだろう。彼らには、ダストの率いる孤高なる組織が、魔王城の如く映っているに違いない。

———麦蔵は、彼らの両親がくだらない戦いで死んだと言っていた。それはもしかすると革命軍の組織間抗争だったのかもしれない。

 

「世話になったな。ダストや黄金街道がどこにいるか分かるか?俺はこれからその場所へ向かう。」

「…………フゴウのお城、サンコレアマルの隣。」

「分かった、ありがとう。」

 

巧一朗はジャケットを羽織り、その場を後にしようとする。

が、三人が同時に待ったの声をかけた。

声の震えていた彼らが絞り出した叫びに、巧一朗は驚き、背後を向く。

 

「何だ?悪いが治療費を催促するならツケにしておいてくれ。生憎今は金が無い。」

「違う…………どうしてダストの仲間になったんだ?ダストは、悪い奴だろ。」

「どうしてそう思う?」

「ダイヤモンドダストが、俺たちの父さんや母さんを殺したらしいから。ダストは、ダイヤモンドダストの王様なんだろ。」

「やはり、お前達は戦争孤児か。」

「えと、巧一朗はなんで、ダストの仲間に…………」

「お前らには、俺が良い人に見えるのか?お前らが言うダストと同じ、悪い奴かもしれないだろう。」

「それは…………悪い奴は、俺らみたいな子どもに何かされても『ありがとう』なんて言わない。」

「単純だな。詐欺師の方が、物腰が柔らかい常識人風なんてのはよくある話だぞ。俺がお前らに、ダストは良い奴だと言って、それをお前らは安易に信じるか?」

「それは…………」

「なら革命聖杯戦争を通して、見極めろ。フゴウが、黄金街道が、俺が、ダストが、どんな決断を下し、どんな道を辿るのか。金が無かろうが、家が無かろうが、お前らにもその権利はある。」

「見極める…………」

「ああ。きっとその先に、生きる意味とか、守りたいものとか、抽象的なものが具体的になる瞬間が来る。まだ俺も、模索段階だけどな。」

 

巧一朗はそれだけ言い残し、家を出た。

彼自身、災害への『復讐』の為に毎日を過ごしているが、その先の未来がまるで見えてこない。

潔く死の未来を選択するか、地べたに這いずり回りながら図々しく生存を願うか。

そんなことを考えていた時に、浮かんできた顔は、今は亡き最愛のヒト、では無かった。

彼の脳内で微笑みかけてきたのは、博物館で共に戦う、美頼や鉄心の姿であったのだ。

彼自身何故なのか意味も分からず、頭をクシャクシャと掻き毟る。

仲間など、復讐には本来関係のないモノである筈だ。

群れ合う子ども達の純粋な眼差しの所為だろうか。

 

「あぁ、だから子どもは苦手なんだ。」

 

巧一朗はそう吐き捨て、ズボンのポケットに手を仕舞いつつ、フゴウの城へ向かって行った。

 

フゴウの城塞の門前で、彼のパートナーとなったサーヴァント、ダストこと『枡花女』と出会う。彼女は元気そうな巧一朗を見て、胸を撫で下ろした。雷上動を放った彼の肉体に負荷がかかったのは間違いないが、この様子ならば大丈夫そうだ。

革命聖杯戦争に巻き込んでしまったことさえ申し訳なさに埋もれてしまうのに、災害のアーチャーの強襲を受け、窮地に立たせてしまうなんて、そうダストは心を痛ませる。無論巧一朗は気にしていない。それどころか、彼は災害への復讐心でのみ存在しているが故に、アーチャーへ雷上動の水破を放てたのは幸運であったと認識している。

ダストの話によると、災害のアーチャーは何者かの介入により、翼を折られ、地に堕ちたらしい。戦略的撤退を強いられたということだが、災害を跪かせた者とは、一体誰なのだろうか。

そして彼の中に確固として顕現している源頼光の感覚により、彼の対災害武装『水破』は、その役目を終え、消失したことを知る。もし漁夫の利を狙うかのように現れた第三勢力が、巧一朗の水破を入手し、災害のアーチャーを穿つ決定打としていたならば、彼に出来ることは一つだ。

災害を殺すために、『兵破』を引き絞ること。

今は革命軍であろうと、宗教団体であろうと、同じ標的を持つものであるならば、利用しない手はない。

かつては雷上動という触媒を巡り、革命軍同士で争いが起きたほどだ。身内に感ける暇があるなら、災害を仕留めるという本来の目的の為に、さっさと消費してしまえばいい、と思う。

 

「革命聖杯戦争が始まって、今日で六日目となります。昨日、MCリンベルから電波通達がありました。この戦争で、初めての脱落者が出たと。」

「誰かが、消滅したのか?」

「はい。キャスターのサーヴァント、芸達者こと『果心居士』です。状況は不明ですが、彼を構成するオートマタごと、既にオアシスからは影も形も観測できないそうです。この地から退却したのは間違いありません。」

「そうか。グローブがやったのか?」

「ちげぇぜ、巧一朗。アタシらも知らねぇ。」

 

巧一朗の背後から近付いてきたのは、命の恩人となった黄金街道だ。

彼女がバイクに乗って駆けつけていなければ、災害の攻撃により死亡していたかもしれない。

黄金街道が伝えるには、どうやらフゴウもまた、グローブ領地内に留まっており、果心居士の最期には立ち会っていないのだ。

巧一朗が察するに、これは災害のアーチャーを撤退させた新たな勢力の仕業であるだろう。革命軍だけでなく、そちらにも注意を払わなければならない。

 

「早いうちに、桜館長に合流しないとな。」

「桜館長……博物館のトップだよな。連絡は取れないのか?」

「あぁ。独自に動き回っているみたいだが、一体何をしているんだか。」

「でも、明日の『パーティー』には来るんじゃねぇか?王サマのことだから、招待はしているだろうぜ。」

「パーティー?」

 

巧一朗は聞き慣れない単語に首を傾げた。

彼の隣でダストは苦笑いを浮かべている。

 

「なんだ、ダストから聞いてねぇのか?」

「いえ、えっと、どうせ吾は参加しないですし……」

「明日の夜、グローブ領地サンコレアマルで行われる、革命聖杯戦争の七日目記念祝祭だよ。全ての区民が招かれ、この時点で生存している参加者が集結し、この日に決着を付けるという催しだ。監督役のクロノが早期決着を望むが故に考案したイベントだよ。勿論、ハンドスペードやダイヤモンドダストが参加表明をするとは思えないがな?」

「それはそうだ。如何なるサーヴァントでも、戦うのがアウェーなら話は変わる。現時点で仲間が死亡、そして竜宮という兵器を失ったハンドスペードは忌避するだろうし。無論、それはダイヤモンドダストも同じだ。」

「だが、お前らは半ば強制だ。何故なら、出なければ、もう二度と勝利は得られないからな。」

「何故だ?」

「パーティーには特殊ルールが用意されている。サンコレアマル闘技場の施設上、仕方が無いことではあるが、戦うのは代表者一名だ。フィールドが乱戦向きでは無いんだよ。グローブは黄金街道こと、アタシ『坂田金時』と、『マンサ・ムーサ』が健在だ。アタシら二人を相手取り、勝利を収められる筈が無い。だけど、一人ならば、可能性はあるだろう?」

「一人でも厳しいですが………」

「なるほどな。加えて、利点がもう一つありそうだ。」

「利点、ですか?」

「あぁ。全ての区民が招かれる、なら、何とか皆にその場で認められれば、令呪の獲得も望めるかもしれない。フゴウがいる限り難しいかもしれないが、枡花女としての声を届けることだけでも出来たら。」

 

ダストは臆病だ。だが、芯の通った英霊ではある。

グローブに迎合せず、ダイヤモンドダストの名を背負い続ける理由があった。

 

「吾の声…………ダイヤモンドダストは確かに、様々な人間と英霊が恨まれるべき行いをした組織です。でも、それだけじゃない、この細氷の名に誇りを抱いて命を落としたものもいます。吾だけは、決してそれを手放してはいけない。そう思うのです。」

 

それが今のダストが戦う理由である。

生まれた意味を探し求めて、その先に何があるのか。きっと今はまだ蜃気楼の先だが、生きていれば、届く日が来るだろう。

黄金街道はダイヤモンドダストに良い感情を抱いてはいない。それでも、ダストの志は胸に染み入るものがあった。

 

「ですが巧一朗様、吾は御覧の通り、その、多くの方々に石を投げられる立場です。グローブどころか、ロンリーガールにも惨敗することが目に見えています。そもそもサンコレアマルに立ったとて、話を聞いてもらえるでしょうか。」

「そうだな。そこは確かに何か策を講じなければ……」

 

巧一朗とダストが顎に手を当て思案する中、その解決策を齎す存在が現れ出た。

可憐な少女がツインテールを揺らしながら、サンコレアマル入場ゲートから走り寄って来る。

最初に反応を示したのは黄金街道だ。

 

「あれ……ツキか。今日は明日の予行演習だよな。」

「予行演習って、その、パーティーとやらに彼女も関わるのか?」

「そうだぜ。革命聖杯戦争とは関係のないところで、明日のパーティーは選りすぐりのパフォーマーたちによる大演芸会という側面も兼ね備えているんだ。ツキは人気アイドルとして一曲歌うことになっているんだと。」

「そうか。アサシンだというのに大変だな。」

「あー、正確にはエクストラクラス『アイドル』だそうだ。偶像と呼ばれるクラスだが、どういう性質なんだろうな。」

 

巧一朗は走り辛いヒールでトテトテと駆けてくるツキを眺めながら、その正体を考察する。

第四区博物館に関わりのあるサーヴァントが、本当にただの芸能人である筈が無い。クラスに影響され、大衆の扇動を行っているのだろうか。毛色は違うが、将校としてのカリスマ性スキルを有するサーヴァントである可能性が高い。

そして『ツキ』という名前。初めに連想させるのはやはり、空に浮かぶ『月』である。

この土地そのものに土着した信仰で言うならば、月で餅つきをする兎こと『玉兎』か。だがこの閉鎖空間である桃源郷において、偽りの月に力が宿るとは思えない。強力な英霊とは言えないだろう。聖杯戦争の贄になるという点では、巫女としての性質が大きいか。

 

———うん、さっぱり分からん。

 

巧一朗は思考を放棄し、既に傍まで到着したツキに軽く頭を下げた。

ツキは黄金街道と抱き合ったのち、先程の話に聞き耳を立てていたが如く、ある提案をする。

 

「ダスト、明日私と一緒にステージに立とう!」

「はい!?」

 

それはあまりにも急すぎる勧誘だ。ダストを、アイドルデビューさせようと言うのだ。

 

「前にも言ったけど、ダストってば本当に綺麗なんだもん。絶対アイドルになったら、人気爆増だと思う。明日、私とユニットを組んでステージで躍ろ!ね!」

「いやいやいやいや無理無理無理無理です!吾が!アイドル!?などと!?」

「あー、でも、そりゃ良いな。ツキは多分、約二百人の客のことを言っているんだな。」

「どういうことだ、黄金街道。」

「ツキのライブに来る客たちは、第三区民でありながら、どこかの組織に属している訳じゃないんだ。彼らは、その、なんだ?オタ活?というのに勤しんでいる、平和主義者でな。彼らを味方に付けられたら、令呪の獲得もやぶさかじゃねぇ。ダイヤモンドダストが勝利できる唯一の道だと思うぜ。」

「そうか。ならダスト、やってみないか?」

「こ、巧一朗様まで!?無理です!嫌です!歌は、まぁそれなりに出来ますが、舞は、練習が必要と言いますか。一日二日で覚えられるものではないかと!」

「そうか、だがダストは器用だし、そもそも英霊だ。俺はきっと出来ると思うぞ。まぁ、本人の意思次第だな。」

 

巧一朗はかつて、鉄心に何度かアイドルのライブに連れ回された経験がある。

彼には刺さらなかったが、確かに少女が笑顔を振りまきつつ踊る姿は、皆を魅了するものであった。

ダストは控えめに言っても、美人だ。整った顔つきもそうだが、その体型もバランスが良く、何より足が細くて長い。俗にいう美脚の持ち主だろう。女性に関して乳派の鉄心も、アイドルに対しては足の筋肉の良さを語っていたものだ。

 

「巧一朗様、吾は…………吾にも、出来るでしょうか。吾を救おうとして下さる貴方様に応えたいのです。」

「ダイジョブだよ!ダストは立派なアイドルになれる!私がしてみせる!任せて頂戴な!」

 

ツキは決定とばかりに、ダストの手を引きサンコレアマルへと拉致する。

途中「やっぱ無理」との叫びがこだましたが、問答無用で連れ去られた。ツキ恐るべし。

一方の巧一朗は黄金街道に別れを告げ、同じサンコレアマルのステージ、楽屋に滞在している言峰クロノの元へ向かった。

先程の微笑ましいやり取りとは一転、巧一朗は神妙な顔つきのまま、楽屋の戸を叩く。彼には確かめるべきことがあったのだ。

 

「言峰副館長、一昨日ぶりではあるが、昨日は激動の一日だったよ。」

「そうだろうな。君は災害と一戦交えたのだ。それで生き残った。流石は博物館のエージェントだと褒めておこう。」

「やはり災害のアーチャーのことは知っているな。なら話は早い。革命軍ハンドスペードは、災害のアーチャーと手を組んだ。……もう、革命聖杯戦争をしている場合では無い筈だ。」

「そうかい?君の活躍と、そしてアヘル教団の暗躍によって、アーチャーは敗北した。生きていたとしても、もはや虫の息だ。懸念材料とはならないだろう。」

「やはり第五区の宗教組織が絡んできていたのか。なおさら、今は革命軍が争っている場合じゃないと思う。」

「それは君の一個人的な意見だろう。私はこう思う。なおさら、戦争の終結を急ぎ、ROADを用いて災害を殺すべき、とね。」

 

握り拳を震わせる巧一朗に対し、クロノは至って冷静、冷徹である。そのコールタールが如き漆黒の眼は、今日も光を灯さない。

 

「サンコレアマルのパーティーはグローブを勝利へと導くものだ。グローブは勝利した暁に災害のアーチャーへ矛先を向ける。なら、戦いを早期に終わらせ、過激派のハンドスペードを打ち砕くべきだ。私は間違ったことを言っていない。」

「ならどうして俺をダイヤモンドダストの兵器として参戦させる決断に至った?戦争の遅延要因だろう、俺は。」

「君がそう願ったからだろう。私にとって今の君は、只の賑やかしだ。」

 

クロノは興味なさげにそう言い放つ。巧一朗にはクロノの真意は読み取れない。人間のようには思えない瞬間がある。

 

「……一昨日の夜、宿泊した民家に置かれていた未使用の高価デバイスから、第四区博物館のデータベースへアクセスした。ダイダロスの奮闘もあって、第四区博物館は今なお無傷で健在だったんだ。俺は気になって、あんたやあんたのアサシンについて調査した。残念ながらアサシンについては何も残されていなかったがな。」

「私については、何か分かったのか?」

「街外れの教会に、突如現れた異邦の男。当時の神父は言峰という名で、男は神父の元で聖職者として働き始めた。名を持たぬ男は、神父の性を名乗り、そして名を『クロノ』とした。一切の出自は不明。それが桜館長の記載したデータだ。」

「良く調べているじゃないか。」

「そして、あんたは間違いなく、英霊でも、物の怪でも無く、『人間』だ。だが魔術の心得がある訳ではないようだ。だから吉岡さんの手を借りて、聖杯を鋳造したのだろう?」

「その通りだ。」

「だが一つ疑問が残る。災害のライダーと面識があるとあんたは言ったが、災害のアサシンならまだしも、只の一個人が関わることの出来る相手じゃない。そしてROADは始まりの聖杯をモチーフに生み出されたものだ。ただの人間如きが、到達できる領域じゃないことは明白だ。————あんた、何者だ?」

 

第四区博物館は幾つもの聖遺物を保管した、言わばパンドラの箱庭だ。採用される人材は多岐に渡るが、基本的には反災害思想を持つものが多い。時には吉岡のような無差別殺人者を囲ってしまう程に、ある種『自由』であると言える。

そんな組織の中枢にいて、災害のライダーと関わりがあった人物が、ただの人間である筈が無い。

 

「私がそれを君に明かすメリットはあるかな?君のサーヴァントならば、この第三区にいる。白銀の探偵の推理力を以て、解き明かしてみると良い。」

「キャスターが第三区にいるのか!?」

「あぁ。北部の荒廃区域にいる筈だ。これから向かうとすると数時間は要するだろう。なに、明日にはこのサンコレアマルで再会できるさ。何せ、明日は祭りだ。」

「……まるで、この地区すべてを管理、把握しているかのような口ぶりだな。」

「君も確認しているだろう?革命聖杯戦争を独占配信する為に、リンベル率いるメディア集団は観測艇を打ち上げている。誰がどこにいるのか、監督役である私は把握しているのさ。」

「あぁ、そうかよ。…………あんたの『救済』とやらは、一体何を目指しているんだ?ただの人間だとしたならば、救うなんて、烏滸がましいだろう。」

「この歴史において、世界を救ってきたのは、いつだってただの『人間』だと認識しているが。私はこの命を捧げて、桃源郷から災害を全て駆逐する。それが私に与えられた使命だ。」

 

クロノは巧一朗を見つめながら、彼の意思を伝えた。

対し、巧一朗は口角を上げる。言質を取ったと言わんばかりに。

 

「『災害を全て駆逐する』か。確か革命聖杯ROADの願いにより殺すことの出来る災害はただ一人だったな。成程、言峰副館長の狙いは聖杯戦争の遂行と願いの成就、では無いのか。もっと歪で強大な『何か』を、貴方は成し遂げようとしている。」

「ほう?」

「となると、第四区博物館のデータベースに一切の情報が残されていなかったアイドルのサーヴァントがあんたの『切り札』か?災害は違法触媒による英霊召喚を拒んでいるが、彼らの領域の外側から招かれる者であれば、監視の目は掻い潜れる。俺のキャスターにも、丁度その性質があった。」

 

桃源郷の抑止力。

全ての災害へ対抗するならば、答えはこれを除いて他にない。

未知なるエクストラクラスで呼び出された珍妙な英霊にこそ、答えがあったのだ。

 

「ツキが、抑止力と、君はそう考えるのだな。」

「あぁ。第三区を舞台に執り行う聖杯戦争、この土地こそがアイドルの呼ばれた場所であるならば、思い当たるのは、かつての『シェイクハンズの悪夢』か?果ての無い空から無数のバルムンクが降り注いだという。」

「ふっ、そうかな。君のストーリーは飛躍しすぎている気がしないでもないが。だが私が君の物語の読者なれば、実に面白い展開だ。非常に続きが気になるが……残念、今日はここまでだ。」

「何?」

「私も司祭として明日の祝祭へ参加するのだよ。これからその打ち合わせだ。君もフゴウが許す限り、この領地でゆっくりしていくがいい。また明日の夜にでも、話の続きをしようじゃないか。」

 

クロノはそう言い放ち、巧一朗の隣を通り過ぎて行った。

楽屋の戸を開くその直前、巧一朗は急ぎ振り返る。

 

「言峰副館長、何故貴方はアイドルのクラスのサーヴァントを『アサシン』と呼称したんだ?真逆じゃないか。」

「彼女がアイドルと呼ばれることを嫌っていてね。同じア行だからアサシンと呼んでいる、ただそれだけさ。」

 

クロノは部屋を後にする。

巧一朗は離れて行くその背を暫くの間眺め続けていた。

どこか貧弱にも見えるその背には、何かとてつもないものがのしかかっているような気がしてならない。

 

 

開発都市第三区北部エリア荒廃区域『こころのクリニック』にて。

ショーンの宝具『有為転変の触毒迷宮(ファルマキア・ラビュリントス)』により幽閉されていたキャスターとペルディクスは、外部から現れた間桐桜館長こと『メアリー・セレスト』に救出された。地下深くまで落ちて行ったショーンを尻目に、機密資料を抱え、クリニックを後にする。

だが彼女らが地上へと戻るその時、新たなる影が建造物そのものへの破壊工作を行った。彼女らは階段を駆け上がり、空の下へ脱出する。

そしてそこに仁王立ちで構えていたのは、ショーンの仲間であり、同じヴェノムサーヴァントの一人、セイバー『ヘラクレス』のアンプルを投与した『シュランツァ』であった。

 

「行かせる訳ねぇだろタコ。アタシが相手だよ!」

「セイバー『ヘラクレス』をその身に宿したヴェノムナイト……君は『畦道るる子』かい?」

「アァ?名前で呼ぶんじゃねぇぞクソアマが!アタシは『シュランツァ』だよ、死んでも覚えておけ!」

 

シュランツァはキャスターに向けて大剣を振り下ろす。

隣に立つペルディクスは即座にコンパスの槍でこれに応戦した。

小柄な体型からは想像できない程の圧力が押しかかる。ヘラクレスの筋力は、間違いなく小柄な少女に宿り締めているのだ。

そして鍔迫り合いに敗北したペルディクスは後方へと吹き飛ばされる。あわや剥き出しになった鉄パイプに腹部を切り裂かれそうになるが、ダイダロスの翼がはためき、これに対処した。

 

「ペルディクス!」

「問題ないわ!それより気を付けて!」

 

シュランツァの追撃、再びキャスターへ向けて刃が振り下ろされる。

今度はそれを桜館長が這いずるクラーケンの触手で絡めとり、防いだ。メアリー・セレスト号の消失の謎を形作る伝説上の海魔は、存在そのものが不確かなもの。故に、如何に大英雄の性質を有していようとも、対処するには時間と経験を要する。

キャスターは己も武器を用意しようとするが、迷宮内でのペルディクス装備の生成にリソースを割いてしまった為か、権能を発揮することが出来ない。

あくまでただの知識人、武士の立ち回りは不可能である。

今は桜館長とペルディクスの健闘を称えるのみだ。

 

「この触手のことをアタシはよく知っているぞ。繭の外側で、以前にも巻き取られた。人間の肉を腐敗させる危険物だ。」

「あの時はまだ幼兵でしたね。戦場を知るには、早すぎる年頃だった。」

「でも、アタシみたいなやつには理想郷だと言える。アタシは快感を得る為に剣を振るう。死の淵にこそ、生は現れるものだからな。病院のベッドよりは遥かに心地良いぜ。」

「病院の、ベッド?」

「ヴェノムは英霊の性質を啜れば啜る程に、人間の肉体にも急成長を促すのさ。年齢とは別に、肉体は大人へと発展する。誰よりも早く、クソ長え人生を終わらすことが出来る。あのときのような、ただ白い天井を眺めながら死を待つ絶望はねぇんだよ。」

 

シュランツァは独り追憶する。

彼女は開発都市第五区、では無く、この第三区の貧民街に生まれた。

難病持ちの彼女は、生まれたその時に、死の未来を悟っていた。己の命の灯が吹き切れる瞬間を、理解して生まれたのだ。

彼女の親は早々にシュランツァを見捨てたが、彼女の周りにいた大人たちは、必死に金を集め、第五区にある有数の大病院へ入院させた。

シュランツァに生きて欲しい、ただそのために。

だが彼女には、大人たちのこの行動が理解できなかった。

己の死のリミットを知り得ている彼女は、その先の未来を思い描けない。どれだけ手を尽くそうとも、死ぬのは変わらないのだから。

ならば今を懸命に生きるべきである。何故退屈な白い部屋に閉じ込められ、同じ景色のまま死に絶えなければならないのか。

意味が、分からない。

 

「ムー兄も、そう思うだろ?」

「ん?」

「アタシは今を楽しく過ごせればそれでいいんだ。だって十数年後には死ぬんだぜ?」

「そうとは限らないだろう?」

「限るんだよ。アタシには、見えている。この眼球はきっとトクベツなんだ。ほら、ソイツも、アイツも、死ぬ。みんな死ぬ。英霊のムー兄も、消滅する。アタシにはぼんやりと、その時計の針が指し示す時間が見えるんだ。」

「難儀なものだな。」

「でも不思議だ。ダイヤモンドダストの連中、みんな元気いっぱいなのに、みんな近々死んじまうんだ。このアタシより先に、だぜ。災害とかいう奴らに殺されるのか?」

「………………どうだろうな。」

「大丈夫だ、ムー兄はまだまだ生きていけるさ。アタシより長生きしろよ。てかさ、アタシをどこかへ連れ出してくれよ。第四区とか第二区へ行ってみてぇ。病院は、嫌だよ。」

「あぁ。考えておこう。」

 

だがシュランツァは翌日、第五区へと連れて行かれた。

そしてその後知ることになる。彼女が慕っていた英雄は、組織を裏切り、シュランツァにとってある意味恩人にあたる人物が死ぬ原因となってしまったことを。英霊は、シュランツァの死の未来が見える目を忌避し、裏切りが明るみに出る前に、彼女を第五区へと追いやったのだと。

 

「あぁ、クソみたいな話だな。」

 

やはり死んだ。みんな死んだ。シュランツァは正しかったのだ。

だからこそ、病室に救いの手が差し伸べられたそのとき、彼女は残りの人生をアヘル教団に捧げる覚悟を抱いた。

確定した未来に抗わない。今を精一杯生きる。彼女は真に救われたのだ。

 

———あぁ、いつだってそうさ。アタシが進む道は畦道だ。か細い道をただ進むだけなんだぜ。

 

シュランツァは過去に思いを馳せるのを中止する。そして腐敗し始める両手に力を籠め、無理矢理に触手を千切り取った。

ヘラクレスの怪力は止まることを知らない。触手を全て払い除けると、大剣を振り回し、暴れ始める。

桜館長はキャスターを抱え、回避行動に出るが、パターンを読むことが叶わない乱雑な攻撃に、戦闘ペースを狂わされる。

このままでは応戦するどころか、退避するのも難しいだろう。

ヘラクレスの所持する戦斧はセイバーという特性に引っ張られ、その形状が剣へと変化している。

レンジが広く、触れる全てを破壊し尽くした。

ただの人間と侮る勿れ。ショーンと同じく、シュランツァもまた、英霊と同格の戦闘能力を有する。

 

「さて、探偵。貴方はどうするつもりかしら。」

「今はとにかく退避すべきだ。ショーンの宝具の影響か、君も私も消耗しきっている。そして、桜、君もだ。キレが無さすぎないかい?」

「そうでしょうか?」

「恍けるな。君らしくない。まるで今の君は人間のようだぞ。どうしてそんな疲れ切っているのかは知らないが、君に死なれては困る。」

「そうですね。私も、まだこんなところで死ぬわけにはいきません。」

 

桜館長は額の汗を拭い、逃走経路の算出を行う。救出に来たはいいものの、今の彼女は足を引っ張る存在でしかない。

この第三区で彼女は今なお孤独に戦い続けている。そのことを知る者はここにはいない。

 

「ペルディクス、二人分抱えて飛び立てるか?」

「ええ。認めたくはないけれど、彼の翼は高性能よ。」

「なら、シュランツァの次なる攻撃を避けた後、直ぐに飛び去ろう。準備は良いか?」

 

シュランツァは大剣を振り被るその時、彼女らは行動を開始する。

一斉に右側へと走り、シュランツァの振り下ろすタイミングに合わせる。

そして唸る大地を蹴り、ペルディクスは跳び上がった。

ダイダロスの翼を広げ、天空へと舞う。

 

「よし、向かうは南西です!」

「待って、これはマズイわ!」

 

その刹那、崩れ去ったクリニック内部から、何か得体の知れないものが射出される。

それは白く透明な正四面体だ。シャボン玉のように浮かび上がり、三人を覆い囲った。

同時に、ヒトの身体をすり抜ける材質は変化し、鉄格子の牢へと形状変化する。ペルディクスは一瞬の判断で、桜館長とキャスターを手放した。

 

「ペルディクス!」

 

キャスターは叫ぶが、宙にて束縛された彼女には手が届かない。

ペルディクスは正四面体に捕縛されたまま、クリニック内部へと吸い寄せられていった。

 

「『CUBE』、わたくしの編み出した、ダイダロスの迷宮の応用よ。有為転変とはまさにこういうことかしらね。結界宝具を凝縮し、出口のない無の空間をミニマムサイズで錬成する。この小さな鉄格子には、『無』が広がっているのよ。」

「ショーン!」

 

入口のゲートから現れたのは、無傷のショーンであった。

否、彼は確かにペルディクスの宝具の洗礼を受けたが、アスクレピオスのアンプルを即座に注入し、自らを蘇生させた。

そして再び、災害の力をその身に宿したのである。

キャスターはペルディクスの元へと走ろうとするが、桜館長がそれを止めた。

彼女はキャスターの手を引き、全力疾走でその場を後にする。それがペルディクスの望んだことであるからだ。

 

「あら、貴方一人が犠牲になるつもり?」

「犠牲とは失礼な。私は貴方にとって相性の悪い女よ。この迷宮にも、大穴を開けてやるわ。」

「血気盛んなのね。嫌いじゃないけど、残念ね。」

 

ショーンは突如、CUBEを解除する。

宙に投げ出されたペルディクスは翼の機能を使用できぬまま落下。

そしてその下に、シュランツァが待ち構えていた。

 

「死ねやタコ」

 

シュランツァは大剣を掲げると、舌を出しながら嘲笑う。

彼女のか細い肉体に赤黒い光が灯り、その大剣は音速を超えた。

 

『蝕み殺す百頭(ナインマライブス)』

 

一秒も経たぬうちに、九つの斬撃が繰り出される。

宙に浮かんだペルディクスは為すすべなく、シュランツァの宝具の餌食となる。

咄嗟の防御もままならず、ペルディクスの身体は弾け飛んだ。

 

「く…………あ…………………」

「ペルディクス!?」

 

キャスターは叫んだ。もはや彼女の声はペルディクスの耳に届かない。

ダイダロスの翼型ユニットも、かの超人ヘラクレスを前に、無力。

時空を切り裂くが如き豪快な一手は、ただこの地に呼ばれただけの英霊には対処不能であった。

 

そしてショーンとシュランツァが見上げる空の上で、ペルディクスは光と共に消滅する。

 

虹彩に目を奪われるように、二人はその退却を見守った。

シュランツァの宝具は、ペルディクスを構成するオートマタの歯車一つ残さない必滅絶技。

 

「嘘…………そんな…………」

 

キャスターは遠い先から、ペルディクスの最期を看取ったのであった。

 

「さて、明日がついに『殺戮の夜』ね。シュランツァちゃんにとっては、復讐劇の舞台となるのかしら。」

「復讐とまではいかねぇ。だが、奴はこの手で殺す。それが餞だ。」

 

シュランツァの狙いは、ダイヤモンドダストの裏切り者。

彼女が『ムー兄』と慕っていた男、黄金王マンサ・ムーサ。

そしてショーンと、都信華もまた革命軍を根絶やしにする為に動き始める。

 

 

 

【キングビー編⑥『エピソード:ビトレイアル』 終わり】

 

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