幸せなデンジの日常   作:トミー

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シャンプー・ヌルヌル・チェンソー

「デンジ、パワー。仕事だ」

 

「あー?」

 

「なんじゃとチョンマゲ。ワシらは昼メシ食ったばかりじゃぞ!」

 

 公安の施設で、デンジとパワーが食後の休憩をしていると、同居人の早川アキが、二人に仕事を持ってきた。アキ自身も食後なのか、口元には、几帳面な彼には珍しくパンのようなもののカスがついている。

 

「動ける人員が少ないんだ、さっさと支度しろ。俺と天使は別件で動く事になったから、代わりにお前達が行け。ここから東に4、5キロ先くらいだから、すぐ行けるよな?」

 

 アキは淡々と指示をするが、デンジもパワーも全身から「クソダル〜〜〜……」というオーラを放っている。それを感じ取った彼は溜め息一つ。彼らに、ご褒美を与えることにした。

 

「俺より早く仕事を終わらせたら、好きな菓子を好きなだけ食わせてやるよ」

 

「っしゃあ!言ったかんなアキィ!!こんな仕事さっさと終わらせて、腐ってねぇバーガー食いに行くぜ!!」

 

「ガハハハハ!ならワシは山盛りのポテトじゃ!野菜の入っとるバーガーなど要らん!デンジには1本も食わせんぞ!!」

 

 褒美を提示するや否や、二人は大騒ぎしながら外に飛び出した。玄関からではなく、近くの窓を突き破って……である。

 二人が飛び出したあと、2枚のガラスに空いた大穴を見つつ、アキは溜め息混じりに呟く。

 

「……菓子っつってんだろ……」

 

 

 

 

「外に来たはいいけどよォ、東ってどっちだ?」

 

「やっぱりウヌはバカだな!!東はあっちじゃ!ワシについてこい、ポテトは目の前じゃ!!」

 

 と、パワーは元気いっぱいに太陽のある方角を指さす。現在は昼過ぎ。つまり太陽のある方角は南である。

 そうとは知らず二人は南へ駆けていく。尤も、パワーには酷い虚言癖があるので、南を指すのはわざとかもしれないし……素かもしれない。

 

「あれ〜?デンジくんとパワーちゃんじゃ〜ん。どうしたの?」

 

「あっ……ど、どうも……」

 

 のんきに二人を呼び止めたのは、ガスマスクのようなもので顔を隠されているガタイのいい男。そんな彼の隣でビクビクとしている小柄な女は、彼のバディ、東山コベニだ。またアイスを奢ってもらったのか、落とさぬよう大事に持っている。そのせいで溶けているようだが、気付いていないようだ。

 

「あ……お前は確か……マスクの魔人!」

 

「暴力。ラブ&ピースが大事な暴力の魔人さ」

 

「あーそうだった」

 

「止めるな、ワシらは急いでおる!!東へ一直線じゃ!!」

 

「もしかして仕事中だった?止めてごめんね〜。あと東はそっちだよ、今向かってんのは南」

 

「ぬぉっ!?そうなのか!?」

 

「おいパワ子〜、てめぇまたウソを〜〜〜!!」

 

「う、ウソじゃないわい!ただ間違えたのじゃ!ほら行くぞデンジ、ポテトが逃げる!!」

 

「話逸らすんじゃねー!!」

 

 暴力に示された方に向かい、大慌てで走り出すパワー。ギャアギャアと騒ぎながら街中を走っているものだから、周囲の人間はなんだコイツらと言わんばかりの奇異の目線を向ける。

 そして、パワーの頭上にある2本のツノを見てギョッとするが、公安のデビルハンターの制服を見て、何となく察するのであった。

 

「これでバーガー食えなくなったらてめぇのせいだかんな!死んで償え!!」

 

「なんじゃとっ!?ウヌが悪いんじゃ!!ワシを止めなかったウヌが悪い!!」

 

「はァ〜〜〜!?つーかどこだよ悪魔はよォ!!さっさとしねぇとアキにバカにされんぞ!!」

 

「……!コッチじゃ!!」

 

「あ!?てめっ、抜け駆けすんじゃねー!!」

 

 何かを嗅ぎ取ったパワーは、ヒョイッと近くの建物の屋根に飛び乗り、経路をショートカット。デンジは慌てて彼女を追いかける。

 血の魔人のパワーと、チェンソーの心臓を持つデンジなら、数メートル程度のジャンプくらいはワケない。

 それから数十メートル程度進んだところでは、凄惨な交通事故が起きていた。

 建物に頭から突っ込んでいる多くの乗用車と、ひっくり返ってしまっている車に、玉突き事故。それらの事故の中心で、悠々と立っているのは、ポンプディスペンサーのような姿の、人ならざる異形の存在。悪魔だ。

 

「アイツが今回の悪魔か?ヒョロガリでいかにもチョロそうなヤロウだなあぁぁ〜!!」

 

 デンジは飛び降りながら、胸元のチェンソーのスターターを引く。すると両手、そして額からはチェンソーが生えて、頭はチェンソーになった。パワーは手首に小さな傷を作り、アニメやマンガでしか見ないような巨大なハンマーを作り、共に悪魔に襲いかかる。

 

「来たなデビルハンター!グフフフフ、お前らも事故らせてやる!」

 

「気色悪ィ笑い方してんなァお前……」

 

「ヘンチクリンな形じゃのぉその頭!パワー様が頭から潰してくれるわッ!!」

 

「ヌフフフッ、誰も僕のそばには来れないよぉ!そらっ、ピュッピュッピュ〜だ!!」

 

「ンな攻撃が当たるかよォ!こちとら、ジジィに死ぬほど鍛えられてんだぜ!」

 

「お主は何度も死んどるしのう!」

 

 ポンプ状の頭から、白い液体を放出する悪魔。二人は飛び上がって回避し、そのまま敵に攻撃を仕掛ける。すると悪魔は、まるでスケートをするかのように道路を滑って後退してしまう。

 その場に残っていたのは、先程悪魔が発射したあの白い液体。飛び上がったら、あとは着地しかできない二人は、まんまとその場に着地し近くの車のようにひっくり返り、頭をぶつけてしまう。

 

「ギャ!!」

 

「はぐぁっ!?」

 

 起き上がろうとするも、中々起き上がれない。地面に手をつこうとすれば、手はヌルリと滑ってしまう。するとパワーは、何かに気付いたように声を上げる。

 

「この匂い……!石鹸じゃ!!」

 

「あァ?石鹸だぁ?……女の匂い!」

 

「そうっ!僕こそ、笑う子も泣かすシャンプーの悪魔!」

 

 ニタニタと口元だけで笑いながら悪魔が言う。言われてみれば、悪魔の頭はシャンプーの上部のアレだなと二人も納得した。

 パワーはそれを聞いて大きな溜め息をつくが、一方デンジは、キバの隙間から長い舌を出して、両手のチェンソーをガチャガチャと打ち鳴らして喜んでいる。

 

「ザコそうな悪魔じゃのぉ……つまらん」

 

「シャンプーの悪魔だァ?アッハッハァ、こりゃ丁度いいところに来たなァ!!アキのヤツにゃあ感謝しねぇとなぁ!!」

 

「!?」

 

「昨日、シャンプーが俺ん目に入ってきてよォ!クソイテェし、クッソ染みたから腹立ってたとこだぜ!昨日の恨み、思いっきしテメェにぶつけてやるぜェ!!ギャアァーッハッハッハァ!!」

 

 両足からもチェンソーを出して、それを地面に突き刺す。滑ってまともに立てないのであれば、足を固定してしまえばいいと考えたのだ。

 

「ヒャッハァ!ハイスピードで突撃だぁぁ!!」

 

 ギャリギャリガリガリと道路のアスファルトを削り飛ばしながら、火花を上げてデンジは悪魔に猪突猛進する。

 

「フン、そんな攻撃が僕に当たるか!」

 

 今度はジャンプで回避するシャンプーの悪魔。デンジは虚しくも空振りして、その下を通過するだけである。チェンソーを逆回転させても今度は後退するだけで、カーブがまるで効かない。

 

「ガハハハハハハ!前に後ろにと、バカみたいな動きしとるのぉ!ウヌは道化か!」

 

「うぇあ〜〜〜っ、真っ直ぐにしか進めねええ!深く刺しすぎちまった〜!!パワ子笑ってねーで助けろよ!!」

 

「デンジが……ワシを頼った……!?」

 

「あっ……。でもまァそれでいーか!助けろ!」

 

「バーガー半分くれるなら考えてやるわい!」

 

「あぁ!?バーガー要らないってお前……」

 

「は?言ってないが?」

 

「コワ〜……」

 

「ほれ、構えろデンジ!!」

 

「え?」

 

 自分自身立てないパワーだが、そう言った手前何とかしてやろうと思い立った結果、手に持った巨大ハンマーでデンジを思い切り殴り、悪魔の方へ吹っ飛ばした。

 

「ギャア〜〜〜ッ!?てめッ、なにすんだよ!?曲がりてーだけなのによぉぉ!!」

 

 吹っ飛びながらデンジは叫ぶ。意味不明なこのコンビに対して、悪魔も目を丸くするほかない。

 

「そんな方法ワシが知るか!いいから八つ裂きにしろ!」

 

「抜け出すなら1人で出来んのによォ〜!骨折り損のバーガー損だぜ〜〜〜!!」

 

「だから、そんな飛び付き攻撃が僕に当たるワケないだろ!」

 

「おっとォ、逃がさねーぜ!」

 

「!?」

 

 滑って回避しようとした悪魔だが、デンジは、それよりも速く左手のチェンソーからチェーンを飛ばし、悪魔を雁字搦めにした。これによって、悪魔が動くと、デンジもそれに引っ張られて動くことになる。

 

「これでテメェは逃げらんねぇぜ!ヒーハー!」

 

「くっそぉ、離せデビルハンター!身体にトゲが刺さって痛いぞ!」

 

「今にその首ィ切り落としてやんぜ!」

 

「させるか!」

 

 滑りながら、悪魔はあの液体をデンジの頭へとぶっかける。すると、熱されたチェンソーからはジュワッという音と共に、液体が蒸発したような白煙が上がる。

 しかしデンジのダメージは深刻なものだった。

 

「ギャア〜〜〜〜〜!!ぐ、ぐああぁっ、目が、目があぁぁァァアァ!!」

 

「笑う子も泣かす、その意味がわかったかっ!!これが僕の力だ!!」

 

「俺ァ泣かねえぜッ!?シャンプーが目に入ったくれーでよおおお!!」

 

 悪魔を拘束するチェーンを巻き取り接近する。そして奴の細い体に右手、頭のチェンソーを突き刺し、難なく貫通させる。

 

「ぎゃあああああああぁぁぁっっ!!ああ、あ、あぁああぁぁ!!いだいいだいいだいいだい!!いぎゃああぁぁああぁあ!!」

 

「笑う子も泣かすんだろ〜?そんならよォ〜〜、笑うデンジを泣かしてみろよ!」

 

「ひっ……や、やめ、やめろおおおお……!!」

 

「道路に散らばってるシャンプーよぉ、てめえの血で洗い流してやるぜ!!オラァアアア!!!」

 

 3本のチェンソーを刺しながら、両足から再びチェンソーを出して突き刺してやる。合計5本の攻撃で、シャンプーの悪魔を文字通り八つ裂きにしてやった。

 

 

 

 

「よォアキ、今帰りかぁ?」

 

「……そうだが」

 

 アキが仕事を終えて報告に戻ると、入口では、デンジが壁にもたれてアキの帰りを待っていた。デンジは、帰還した彼の姿を見るや、ニヤニヤと笑いながら目の前に立つ。

 

「俺ァもう報告終わったぜ〜!!この勝負は俺ん勝ちな!バーガー忘れんなよ!」

 

「パワーはどこだ」

 

「あぁ?パワ子は置いてきたぜ、滑って動けねぇみてーだったし。助けよーとしたら、俺も滑って事故りそうだったからな」

 

「じゃあバーガーは抜きだな」

 

「はああぁぁ〜!?なんだとこの野郎!約束したじゃねーか、嘘つくのか!?」

 

「仕事はお前1人に任せたんじゃない。パワーとお前、2人に任せたんだ。当然、帰ってくるのも2人じゃなきゃ話にならないだろ、バカが」

 

「あんだとぉ!?知らねーよ、そんなのよォ!!それなら行く前に教えろよな!!」

 

「飛び出して行ったのはどこのバカだ」

 

「んだよ、折角シャンプーの悪魔ぶっ殺したのによォ!大変だったんだぜ!?ヌルヌルするし目に染みるし、マジでシャンプーだった!!」

 

「なんだそりゃ……そんな悪魔だったのか……」

 

 暴力曰く「ブドウの悪魔」なんてのも存在するこの世界、どんな物であろうと、「人間から恐れられる」のであれば、その名を持つ悪魔となる。シャンプーの悪魔……確かにシャンプーを怖がり恐れる者は一定数居そうだ、とアキは疲れた頭で考えた。

 その後、今日一番の溜め息をつき……。

 

「……後処理はもう始まってるだろうが、今からパワー助けに行くぞ。助けられたら今日の夕飯はファミリーバーガーな」

 

「やりぃ〜!今行くぜ、パワー!!」

 

「うるっせーな、アドレナリンでも出てんのか?もっとテンション抑えろ……」

 

 その後、後処理の者達と共にパワーを救出したアキとデンジ。こうして早川家は束の間の休息を楽しむのであった。


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