“継承”のセンブランス   作:飴玉鉛

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時間過ぎてた……ごめんなさい(震え声)


嘗て巡り会えなかった魔法使い

 

 

 

 黒い人形(ブラック・ドール)の正体は亡霊である。

 

 数ある特性の一つに、無機物へ死霊を取り憑かせる事ができる物があった。

 ヨナタンは無機物を別の構造体に変形できる【改造】の特性を用いて甲冑を作り出し、【痣】を通して適格と判断した死霊を呼び出して憑依させた。それがブラック・ドールである。

 ブラック・ドールに憑依させた亡霊はヨナタンの先祖とも、別個体の自分自身とも言える深淵狩りだ。彼にはヨナタンのオーラの半分と、念動力を始めとした無数の特性を与えた為、結果的にヨナタンは弱体化したと言えるだろう。しかしそれでもヨナタンのオーラ総量は、平均的なプロハンターの五十倍はある。オーラの量が必ずしも戦闘能力に直結する訳ではないが、数値だけを見るなら破格であった。()()()()()()()()()()、だ。

 

「――説明は以上だ。不明な所はあるかい? ない? よろしい」

 

 ブラック・ドールが小さく顎を引くように頷くのに、ヨナタンは満足する。

 彼の様子を見ていると自我があるように見えなくもないが、彼には感情は存在せずただ知能のみがある。命令を聞き、任務を遂行する操り人形その物だ。

 ――ヨナタンが思うに使役する被召喚物に感情などあってはならない。機械的に命令を聞く忠実さこそが肝だろう。曖昧で長期的な任務も、単独で遂行できる高度な知能があれば尚良しである。

 その点でもブラック・ドールは理想的だ。命令に忠実で、高度な判断を下せる知能を有している。数え切れないほど存在する自分の前世の一つで、ある意味自分自身であるブラック・ドールが、唯々諾々と命令に服従する様を見るのは中々に複雑な心境になりもするが……駒として使用するのが自分自身であるという一点で、他人に無理を強いる罪悪感を感じずに済むのは利点であろう。

 

 ――亡霊である彼に生身の肉体は存在しない。

 

 甲冑の中身は純然たる機械だからである。

 だが悲観する事はない。人体を再現した機体であり、眼球の働きをするカメラが搭載され、擬似的な嗅覚・触覚・味覚もあった。必要不要で考えると、意味はないが飲食も可能にしていた。

 彼という亡霊が憑依していなければただの鉄屑だ。が、機体の中に取り込んだ飲食物をオーラに変換する事すら出来る為、その機体に憑依している彼は人間のように生活する事も出来るだろう。人類の科学技術が、脳以外の人体を機械化できる域にまで達していたから、こうして生き物のように稼働できる。

 

()()()()()、貴方は生前の名前を名乗ってはいけない。何せ貴方は高名なハンターだったんだ。()()()()()()()()()()()()。死んだのも近代だし、お年寄りの中には貴方を覚えている人もいるかもしれない」

 

 黒い人形は再度頷く。

 

「そうだね……アッティラ。テュルク・アッティラ――そう名乗るんだ。理解できたなら直ちに行動を開始するように」

 

 ヨナタンが身振りで去るように示すと、先代の深淵狩りは漆黒のマントを翻し夜の闇の中に消えていく。

 

 彼は大戦末期の英雄的人物で、当時最強の呼び声も高かった戦士の亡霊だ。マントル王国の兵士として戦争に参加し、多大な武勲を挙げた事もある。

 だが彼はマントル王国への忠誠心など持ち合わせておらず、一時軍へ所属していたのは優れた戦士をハンターに勧誘する為でしかなかった。

 一定数の人材を一挙に引き抜き、自身の強烈なシンパに仕立て上げた彼は、志を同じくする同胞達と共に軍を抜けハンター制度創立に尽力した。彼は謂わば、ハンターという職業の祖の一人であろう。

 カリスマ性があり、実力もある。アッティラであればヨナタンの課した任務を過不足無く熟し、ヴェイル王国のみならず他の三王国の裏社会をも併合できるだろう。ゆくゆくは悪のカリスマとして、反社会勢力のシンボルにもなるかもしれない。そうなればいいとヨナタンは思う。アッティラの台頭は、ヨナタンの夢により現実性を伴わせる事になるのだから。

 

 アッティラが去ると、丁度カジノ店のオーナーとの()()()()()()を終えたらしいローマンがやってくる。彼はシニカルな笑みを湛え、友好的な仕草でヨナタンの肩を叩いた。

 

「よぉ、どうだった兄弟」

「すぐに行動に移ってもらった。当たるも八卦、当たらぬも八卦……過度な期待はしないでおくことをお勧めするよ」

「オーライ。当然だな。取ってもいない狸の皮を、さも手中にしているかのように振る舞うのは滑稽だからな。上手く行けば儲けもの程度に考えておくさ」

「それで。僕はこれからどうすればいいんだい? ローマンは僕をどう使う」

 

 一瞥すると、ローマンは何が可笑しいのか笑い声を上げた。

 

「自分で答えを出しておきながら、それを私の口から言わせようってのか? ヨナ、私がお前をどう使おうとしているのか分かっているだろう? 言ってみるといい、採点してやる」

「……そんなに僕は分かりやすいのかい?」

 

 ヨナタンは眉尻を落とす。出会ってまだ日は浅いが、既に何度か似たような遣り取りをしている。ローマンの観察力が秀でているのは分かっているが、こうも見透かされると自信を失くしそうだ。

 

「ああ。お前の欠点だ、ヨナ。如何にも()()()()()()()()ってなぁ面ぶら下げてたら、どんなに温厚なヤツでも癪に障る。おまけにお前さんは自分の賢さってものを隠そうともしていない。その必要もなかったんだろうがね、少しは謙虚に振る舞う事をお勧めする。今のヨナは小賢しい小僧そのものだ。少なくとも外見からそう見られる」

 

 図星を突かれたのだろうか。指摘は鋭く、決まりが悪い。

 何を言っても滑りそうで、ヨナタンは頷いた。

 

「……分かった。友達の忠告だ、素直に受け取るよ。でもローマン、どう振る舞えば謙虚って奴に見えるんだい?」

「ハッハー! 素直なのは良い事だが、ちょっとばかし馬鹿に見えるのが難点だな?」

「………」

「兄弟、そう難しく考えるなよ。要点を掻い摘んで言うが、半端は良くないってだけだ。お前さんは突き抜けて傲慢になるか、逆に気色の悪い聖人様になった方がいい。さもなけりゃ自分の才気を隠すんだな」

「金言だね」

 

 尤もだと感じたから彼の指摘を受け止める。確かに半端はよろしくない。

 事を終えた現場にいつまでも居座る事はせず、ローマンが乗り込んだ車の後部座席にお邪魔した。

 カジノ店から離れていく。手に入れた権利書やらはアタッシュケースに収められ、部下の手に渡っているのだろう。ローマンが車を運転するのに、夜の町の情景が流れていくのを眺める。

 

 ヨナタンとローマンの乗る車は、サイレンを鳴らしてカジノ店に駆けつけるパトカーとすれ違った。近隣住民、あるいは客の誰かが、カジノ店に何者かが襲撃してきたと通報したのだろう。

 だがもう遅い、襲撃班は既に撤収済みだ。ローマンの足跡を辿る為の手掛かりも残していない。ヨナタンはちらりとバックミラーに目を向けると、ローマンがこちらを見ているのに気づいた。

 

「さっきの話の続きだけど、ローマンは暫く僕に暇を出すんじゃないかな」

「その心は?」

「これから先は組織改革に没頭してクリーンな会社を作る段階だ。後ろ暗い仕事からは遠ざかるんだろう。なら僕に手伝える仕事は殆ど無いから、僕にしか出来ない仕事をさせた方が合理的だ」

「続けてくれ」

「……荒事の時だけ僕を呼び、そうでない平時では、僕を優等生らしく過ごさせるのが望ましい。表社会の人達とのコネクションを作り『クリーンな会社』への敷居を低くする。僕の評判がよく、知名度が高ければ高いほど、僕が貴方の会社に入った時の話題性も上がる。あわよくば有望な人材を引き込む事も期待してるんじゃないかな。違うかい?」

「ほほぅ……正解だヨナ坊や。流石の慧眼だ、私の所で勉強する事なんざないんじゃないか?」

 

 そうでもないが、ヨナタンは答えず再び外を見た。

 

 勉強したい事は山のようにある。だがローマンはそこにヨナタンを放り込む気はないだろう。役割分担だ、ローマンは頭として働き、ヨナタンは手足として働く。広報と兵隊も兼任だ。

 今のローマンの台詞の裏には、自分が頭を張るという約束をヨナタンが守る気があるかどうか試す意図があった。これから先の仕事は頭脳担当の領分で、それを侵す手足は邪魔でしかないのである。

 故にヨナタンは約束を守るという意味で黙った。無論、約束という点では、ローマンもヨナタンに学習の機会を与えねばならないのだが、それは今の所守られていると判断できる。

 

 随所での遣り取りがそれで、ローマンは自分がどう動き、どこにどのように働き掛けるかを見せてもいる。

 見て学べ、見て盗め、そういう事だろう。

 

「……そろそろ、来るかもね」

「あ?」

 

 ポツリと呟くと、ローマンが訝しむように眉根を寄せた。

 それに対して意味深に囁くと、彼は一瞬真顔になり、次いで破顔する。

 

「お伽噺が現実の物だと知ってる人がいるなら、そろそろ接触して来ないと間抜け呼ばわり出来る頃合いだって事さ」

「……なぁるほどぉ……友達の友達は友達だろう? もしラブコールが掛かったら私も噛ませて欲しいな」

「勿論さ。僕は小僧らしいからね、年長者の助言はいつでも歓迎だよ」

 

 ヨナタンがそう返すと、クッ、とローマンが喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

「――そろそろ良いだろう」

 

 友人である若い将軍が言うも、黒いレンズの眼鏡を掛けた男は背中を向けたまま応じなかった。

 男はマグカップを手に、呑気にも見える所作でココアを飲んでいる。それに焦れてしまいながら将軍は言った。

 

「彼は実力を示している。明らかに見習いの域に収まらない力をだ。彼の肉体は子供のものだが、中身は()()()()()年寄りだろう。変に手を拱かず我々の側に引き込むべきだ――()()()()

「――それは私も考えているところだ、将軍」

 

 所は、ビーコン・アカデミーの学長室。

 オズピンと呼ばれた男は将軍……ジェームズ・アイアンウッドの立体映像に向き直ると、彼に弱ったような目を向けた。

 

「だが困ったことに、()()()()()()()()()()()の頃から接触を求めていたんだが、巡り合わせが悪いのか……一度として直接会えた試しがない。果たして()()()()に会えるか、少し不安でね」

「何を戯けた事を。彼は非常に優秀な戦士だ、是が非でも味方に引き込むべきだ! 何のために私が幼い頃から彼に融通を図っていたと思う? こうした有事の際に、我々の側に立って貰うためだ!」

 

 悠長とも取れる反応に、アイアンウッド将軍は猛る。

 オズピンは薄く目を細め、それから学長室から一望できるヴェイルの夜景に目をやった。

 

「……確かに、躊躇う理由はない。彼が――深淵狩りが仲間になってくれたら心強いのは分かる。将軍が言うのなら、ひとまず会いに行ってみるとしよう。それでいいかな、ジェームズ」

「フン……それでいい。レムナントを守る為なら、彼も協力を惜しまないだろう」

 

 やっと決断したかと言うように鼻を鳴らし、アイアンウッドが通信を切る。すると彼の立体映像も消えて、オズピンは軽く溜息を吐き出した。

 ココアを更に一口呷る。それから、オズピンは呟いた。

 

()()()()()()()()()()()()、もしかすると長く付き合うパートナーになれていたはずだった。今度こそ会えるといいのたが……君もそう思ってくれているかな? 最初のハンター、()()()()()……」

 

 

 

 

 

 

 




・作中でヨナタンの使用したセンブランス

『過去降:読みはダウンロード。ヨナタンが用いる固有のセンブランス。本来は死者の残留思念を読み取り、死者の記憶や経験を取得するもの。直接戦闘に用いる事は全くできず、平時にこれを用いて自己を鍛えるのが本来の用途。しかしヨナタンが深淵狩りであり、歴代深淵狩りの全てを有する老戦士に繋がっている【痣】を持っていたため、そこを通して歴代深淵狩りの特性・知識・経験などを任意で読み取り使用できるようになってしまった』

『招聘:応じた人間の魂を一時的に召喚し、触媒としたものに宿らせる。遠方の人間と対話したりする。ぶっちゃけスクロールの電話機能などで代用できるので全く意味のない能力。しかも使用中は常時オーラを消費する。だがヨナタンは【痣】を通して繋がっている、歴代深淵狩りの中から選別した者を招聘し無機物に憑依させるという荒業を熟した。これにより常時ヨナタンのオーラは減り続けるが、そもそもヨナタンのオーラ量は実質無尽蔵なので問題ない』

『火の触媒:バイロキネシス。超能力の一つとして数えられるものに酷似しているが、投射する電磁波をピックアップして電撃を放つ事にも使える火と雷の異能。燃費・威力などの調整の容易さ、最大火力と応用性の高さから非常に強力な力で、ヨナタンが最も好んでいる特性でもある』

『念動力:テレキネシス。ポピュラーな超能力の一つ。ヨナタンの用いるそれは強力だが、作用できる範囲は本人から周囲十メートル以内と狭い。しかし出力に申し分はなく、周囲に念力の力場を形成して透明な防護壁を作ったり、範囲内の物を手で触れるかのように精密に操れる。現在はテュルク・アッティラへと譲渡されているため使用不可』

『発電能力:エレキネシス。ポピュラーな超能力の一つ。極めて強力な電撃を発生させ、放電して直接対象を感電させる事も可能。プラズマを発生させてエネルギー刃を形成する事や、電気を動力とする機械に充電したりもできる。現在はテュルク・アッティラに譲渡されているため使用不可』

『改造:触れた無機物を任意の形に変形させる。ヨナタン自身も理屈はよく分かっていないが、変形後のカラーリングを変更する事も可能な模様。精緻な構造物であろうとも形成てきるので、ヨナタンは適当な無機物を精密機械にも変形させられる。これによってテュルク・アッティラの黒甲冑と、中身の精密機械も作り上げられた』

『譲渡:自分自身のオーラを他者に分け与える力。本来はそれしか出来なかったが、深淵狩りは全て同一人物でもあるので、ヨナタンは招聘した過去の深淵狩り限定でセンブランスも譲渡できる。現在はテュルク・アッティラにオーラの半分と幾つかのセンブランスが譲渡された。アッティラが倒された場合、それらのセンブランスはヨナタンに回帰する』

『硬化:自分の体や武器など、触れている物の強度を飛躍的に向上させる他、衝撃などで怯んだりしなくなる。現在はテュルク・アッティラに譲渡されているため使用不可。これをアッティラは常に使用している為、精密機械である機体が破損する事は殆どなくなっている』





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