“継承”のセンブランス   作:飴玉鉛

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本日投稿三話目です。


古代人は餅の絵を描き現実に食す 後編

 

 

 

 次の瞬間。見えたのは、一人の男の生涯だった。

 

 男の名は【オズマ】――彼は一人の女と出会い、彼女と愛し合った。

 女の名は【セイラム】――彼女は傲慢な王の娘で、秀でた魔力を有していたため軟禁されていた。オズマは彼女を解放し、高慢な気質であったセイラムも彼に絆され相思相愛になる。

 やがてオズマが病で死去すると、セイラムは悲しみに暮れた。情の深い女であった彼女には、オズマ亡き世が堪え難かったのだ。故に哀しみに暮れる美しき王女は、光の神にオズマを蘇らせるよう懇願する。

 

 だが光の神はこれを拒んだ。輪廻転生の理に反するから、と。それでもセイラムは諦めきれず、光の神の弟である闇の神を欺いてまでオズマを復活せしめた。喜ぶセイラムだったが、神は甘くなかった。

 後に神を欺いた事が露見し、セイラムに対して苛烈な罰が与えられたのだ。

 まずオズマは、既に復活していたにも関わらず、実質的に殺害され魂の世界に還されてしまう。更に生と死の重要性を学ばせる為と称し、神々は不遜な王女を不老不死にしてしまったのだ。

 だがその罰を神の傲慢だと感じたセイラムは、怨みを懐くと権力者達を唆し神に戦いを挑んだ。

 言うまでもなくこれは無謀である。彼らの国が如何に【魔法】という力を下に栄華を極めた、非常に高度な文明と技術を有していたとはいえ、隔絶した力を有する創造神達に勝てる筈もない。果たして人類は神々を前に呆気なく敗れ去り、人類はセイラムを除き消滅させられる末路を辿った。

 

 

 

(――いやなんだそれ。罪に対する量刑釣り合い無さ過ぎない?)

 

 

 

 途方もないスケールの神話を見せられ、唖然としていたヨナタンだったが、セイラムの末路を知って冷静さを取り戻した。この兄弟神、思いっきり邪神そのものではないか、と。

 幾らなんでもセイラムが哀れ過ぎる。基本的に犯罪を犯した者には冷淡なヨナタンでも、そこまでする必要はないだろうとドン引きしてしまうほどだ。百歩譲ってセイラムを消滅させるのは……無慈悲極まるが良い。彼女に唆されたとはいえ戦いを挑んできた当人達を消滅させるのも。しかしセイラムを除き他の無関係な民衆をも根こそぎ消し去るのはどうなんだ。頭おかしい。

 

 ……話を整理すると光の神が兄で、闇の神が弟であり、彼らは人や物質を含む世界を創り出した創造神であるようだ。そして消滅させられた人々にはオーラの力はなく、代わりに【魔法】の力を持っていた。

 オズマは精悍な面構えの高名な戦士で、セイラムは美しき王女。彼らは共に強大な力を有しており、まるでお手本のような『騎士と姫の恋物語』のような熱愛をしたわけだ。……残念な事に二人が結ばれてハッビーエンドとはならなかったらしいが。

 

 創造神兄弟の所業に呆れたヨナタンであるが、これはオズピン――オズマの記憶と、後に知り得た記録が流れ込んできている感覚だと理解していた。

 こうした感覚は、前世を何度も読み込んでいる身には慣れ親しんだものである。取り乱しはせず、すぐに受けた力の正体を分析、害の有無から効力に至るまで大凡の検討を付けた。

 

(これは……オーラを感じなかった。つまり、これはセンブランスによる記憶の投影じゃない。オーラによるものなら僕は反射でレジストしてしまったはずだ。曲がりなりにも力まなきゃ弾けないと感じた以上、これは現行人類以前にも旧人類が存在し、旧人類がオーラとは異なる力を持っていてオズピンがそれを有していると考えられる。荒唐無稽で現実にこんな過去があった訳がない、なんて否定的に見るのが普通なんだろうけど、そんなものを感じさせないリアリティーがある。否定と肯定の観念を捨てて客観的に判断すると、オズピンが嘘を吐く理由はない、はずだ。信じがたいけど、これは本当の話なのか……。彼らの持つオーラに代わる力は【魔法】だったかな? ファンシーさの欠片もない魔法なんて、物騒なだけだね……)

 

 突拍子がない、現実的じゃない――そんな感情論を無視すれば真実の形は目に見える形として存在する。ありのままを呑み込み、相変わらず正鵠を射続けるヨナタンの推理をよそに追憶は続く。

 

 孤独になったセイラムは、闇の力なら自身を滅ぼせるはずだという希望に縋り、グリムを生み出す沼に身を投げた。しかし死ななかったどころか闇の力が使えるようになり、怪物のような姿に変貌する。おまけとして破壊衝動やらなんやらが異常に膨れ上がり、精神まで変容したようだ。

 そうして光と闇の邪神どもはレムナントを去り――って、おいおい……セイラムを解放してやれよと神々の身勝手さに絶句するヨナタンをよそに――記憶の中でセイラムは、現在の人類が発生すると、今度は自分が神になって人類を導こうと決意する。破壊衝動に苛まれていても、孤独には堪えられなかったのだろう。人を導く事で孤独を癒やしたかったのかもしれない。

 ――グリムを生む沼とか、闇の力とか、魔法とか魔力とか。ヨナタンも知らなかった情報が山ほどあるが突っ込みはしなかった。今、ヨナタンのオーラによる防御を貫通して見せられている光景は、恐らくオズピンの魔法の力によるものだろうと察しが付けられただけで充分だ。

 

(そういえば、最初の僕――初代の住んでいた村の隣人が、セイラムって名前の知恵者に学問を学んでいたんだっけ? 同姓同名の別人じゃない場合、セイラムは確かに人間を導こうとしていた訳だ……)

 

 ――やがてオズマが輪廻転生の理によって転生し、セイラムと再会する。セイラムは歓喜してオズマを迎え入れ、二人で神の如き者となって大国を築き君臨した後、四人の娘を生んだ。

 これが後に【四女神】と呼ばれる乙女達の出生の秘密だ。彼女達は両親の力を引き継ぎ魔法の力を持っていた。以後彼らは手を取り合って国を発展させていこうとしたが、ふとしたキッカケで破局する。

 オズマが旅立ったはずの光の神の依頼で、【レリック】なる物を用いセイラムを裁決しようとしている事を知り、セイラムは我を見失うほどに激怒。オズマと戦い、彼を自らの手で殺害したのである。

 セイラムはレリックを用いて世界を去った兄弟神を召喚し、自らの手で抹殺するべくレリックの探索を開始した。目的は復讐しかない。それだけがセイラムの全てになってしまった。

 以来オズマは幾度も転生し、セイラムを倒す使命の為に延々と戦い続けてきた。そして大戦期にヴェイル最後の国王に転生すると、グリムを倒すハンターという職業が生み出されそうな動きを知りこれを支援。自らも軍を率いてマントル、ミストラル軍と戦い戦士の王と讃えられる。彼は王の立場を利用して最も信頼できる部下達に各地域の学長を任せ、様々なパイプを遺し、以後世代を幾つか交代した後の学長、オズピンに転生した、と。

 

 今もお伽噺として残る、四人の乙女達。秋、冬、春、夏の名を冠した女神の力は魔法のそれ。であれば【銀の眼の戦士】も実在したと判断できる。荒唐無稽だが現行世界にも通じる神話に、最早溜息も出ない。

 

(あー……うん)

 

 そうして、追憶が終わる。

 

 

 

「今、俺が見せられたのは魔法とやらによるものか?」

「その通り。信じてくれたかな?」

「オーラとは違う力で、途方もない記憶の旅をほんの数分で終わらせるような現象を見せられて信じない奴は、とんでもない阿呆だろう。生憎と特殊な身の上でな、こうした超常現象にも理解は持てる」

 

 視界が現世に舞い戻ると、オズピンは汗を浮かべていた。

 どうやら消耗しているらしい。ヨナタンは微妙な面持ちで嘆息する。

 

「……闇の神の創造物とグリムを生み出す妙な沼。それを操れる魔女セイラム……まあ、有意義な事を沢山知れた事には感謝しよう。だが、その、なんだ。……アンタ、正気か?」

 

 見せられたものは幻覚でも、偽りでもないと感覚で理解している。だがヨナタンが最初に懐いた感想は、オズピンが狂気に囚われているか、あるいは精神支配を受けているんじゃないかという疑いだ。

 オズピンは訝しげにしながら、ゆっくりと呼吸を整える。

 

「正気かとは酷い言い草だ。今まで誰にも明かさなかった部分まで、詳細に私の来歴と使命を見せたというのに」

「………」

「悠久の時の果てまで君が共に戦ってくれると見込んだからこそ、無茶をしてまで腹を割ったのだよ。魔法も万能ではない、君の持つ痣のように、魂を辿れる道がなければ共感を成せなかった」

「俺を高く買ってくれているようだ」

 

 皮肉るように言えば、オズピンは至極真面目に首肯した。

 切実である。彼の境遇を思えば、実はオズピンも必死なのか。

 

「当然だろう? 私はこれまで、転生する度に何もかもを一から始めてきた。だが君が同志になってくれたなら、ゼロからの出発はなくなる。君を仲間に引き込む為なら、私の総てを知って貰うのを厭う理由はない。ましてや君は深淵狩りだ。深淵――グリムを狩る者である君なら、セイラムを討つ事に協力してくれると確信している」

 

 そうだ。ヨナタン以外の深淵狩りは、偉業を果たす辛さは感じなかった。何故なら総てグリムを滅ぼすという目的の為だけに生きていたわけで、それ以外は何も見ていなかったのだから。

 しかしオズピンは使命を抱えてはいても、深淵狩りほど人間味を失くしているわけではない。自我が連続性を持って転生をしている場合、何度も友人や恋人と死に別れ、一人きりになるのは辛かったはずだ。

 であれば――彼は長すぎる時の旅路で、同じ時間を生きてくれる存在を前にすれば、なりふり構わず仲間にしたいと思うのも当然なのかもしれなかった。ある意味ヨナタンは、オズピンにとって二人として存在しない同胞に成り得る存在なのである。腹を割って話そう――その言葉の裏には、切実極まる事情があったわけだ。

 

「………」

 

 確かにヨナタンは彼に協力はするだろう。しないという選択肢はない。ないが……。

 ヨナタンは口を閉ざし、押し付けられた情報の山を脳内で処理する。噛み砕き、飲み干し、理解に努めた。

 やがてヨナタンはオズピンを見遣り、重々しく口を開いた。

 

「色々と、言いたい事がある。俺も腹を割って話そう」

 

 誠意を持つべきだ。故に、思った事は言わねばならない。

 歴代とは異なり、未成熟で、かつ人間的にも青い部分を残しているヨナタンは、我知らずオズピンの熱意に押されていた。故に、そのように思ったのだ。

 

「歓迎しよう。なんでも言って欲しい。我々は相互に理解し合う必要がある」

「……こんなものを見せられて、はいそうですかと無条件に信じられるのは俺ぐらいなものだろう。人間は進歩し、成長し、発展してきた。グリムの側にも人間同様に超越者が生まれていない保証はないと、常々懸念を懐いていた訳だからな。そういう意味で俺を仲間に引き込もうと、初手から出し惜しまずに情報を与えてくれたアンタは信頼に値する。だからこそ言わせてもらうが……オズピン。アンタ、本気でセイラムを殺す気なのか?」

「……問いの意図が読めない。もっと噛み砕いて言って欲しいな」

 

 ヨナタンは服を着直した。いつまでも上半身裸では、格好がつかない。

 服を着込むとソファに深々と腰掛ける。

 

「まず俺の所感だと、アンタに使命を与えた奴はとびっきりの邪神だ。悪魔と言ってもいい」

「………」

 

 反論は、ない。何か言いたそうではあるが、とりあえず最後まで聞いてみる事にしたようだ。

 ヨナタンの対面に戻り、ソファに腰掛けた男は無言で先を促す。

 

「セイラムにした仕打ちもそうだし、よりにもよってセイラムを裁決する使命を、セイラムが唯一愛した男に任せた事もそうだ。こんな所業をやらかす連中が善なる存在であるはずもない。邪神どもを憎むセイラムなら、邪神の手先になりさがったアンタが裏切り者にしか見えず怒り狂うだろうよ。せっかく自分の破壊衝動を抑えて、なんとか穏便に人間を導いていたってのに、セイラムはアンタの裏切りで感情が振り切れて、暗黒面に囚われたようにしか見えなかった。可愛さ余って憎さ100倍という奴だな」

「………」

「まあそこはどうでもいい。セイラムに同情の余地があって、アンタの裏切りや邪神の玩弄があっても、グリムを生み出している以上セイラムは絶対に殺さねばならんだろう。その点では協力できる。だがその前に……アンタ、最初に転生してセイラムと再会した時にだな、自分から邪神に授けられた使命を告白して赦しを得ようとは思わなかったのか? 仮にも愛した女だろう。セイラムが怒り狂ったのは、露見するまで黙りを貫いた挙げ句、あくまで使命に殉じて裁決しようとしたからではないのか?」

「………」

 

 オズピンは何も言わない。彼自身も思うところがあったのだろうか。

 彼は善良な男だ。正義心が強く、不条理を良しとしない。故にセイラムも彼に惹かれ、愛したのだと思う。

 ところが、転生後のオズピン――オズマはちぐはぐな行動をしている。

 愛した女を裏切らせるような使命にも関わらずオズマは忠実に従ったのだ。何かあったとしか思えない。

 

「邪神共にセイラムを裁かねば、また人類を消滅させるぞと脅されていたのかもしれんがな……せめてアンタだけはセイラムの味方をしていないと駄目だろう。今更味方をするとか抜かせばこの場で殺すが、男としてあの対応は()()と思うぞ」

 

 ヨナタンの目には、神々とやらが邪神にしか映らなかった。

 奴らが全ての元凶である。死ねばいいのにと本心から思わなくもない。

 

 兄弟神はオズピンの記憶や実際の歴史を鑑みるに、どうも人類全体よりもセイラム個人に固執しているようだ。

 彼女に神の理を学ばせる為に旧人類を消滅させ、今またセイラムを苦しめる為だけにオズピンを利用している。神々はセイラムに対して偏執的で歪んだ愛情を持っているのかもしれない。

 

 ――とか、有り得そうな話に見えないだろうか?

 

「……すまない。落ち着いていたつもりだが、俺も混乱していたみたいだ。言い過ぎたばかりに、不快にさせていたなら謝る」

「いや……いいや、構わないとも。()()()()()()()が、()()()()()()()()()()()から気にしないでくれ」

 

 オズピンはヨナタンの不躾な物言いに微笑んでいた。

 明言は避けたが、オズピン自身も神々とやらに思うところがあったらしい。

 それはそうだろう。オズピンの立場にヨナタンがいたら、絶対にこんな使命は御免被る。オズピンも乗り気になるような性格には見えなかった。邪神どもに何事かを言い含められている可能性はある。

 邪神どもは男しか居ないのだし、セイラムを自分達に並ぶ女神にして伴侶にでもしたいのか、と思ったりしたが――その場合オズマ、オズピンからセイラムを寝取る為に壮大な自作自演をしている事になる。もしそうだとしたら流石は邪神だ、スケールが違いすぎて阿呆らしい事この上ない。

 

「で。こんな大事、なぜ秘密にしていた。アンタの使命はどうでもいいが、グリムを生み出し、操る存在は周知徹底しておくべきじゃないか? なんで今の今まで誰も知らなかったのか、そこが一番不思議だ」

「無闇に人々を不安がらせる訳にはいかないだろう。我々は影ながら戦わねばならない」

 

 学長の台詞にヨナタンは頭を抱える。

 マジかよと若者言葉で嘆きたくなるのを、気合で堪えて持論を説いた。

 

「……総括すると、アンタは信頼できる。

 が、邪神は別だ。使命とか考えるなよ。あくまで今の世界の、今の人間の為に、グリムを除く目的だけを持つべきだ。グリムを滅ぼせるなら最悪セイラムなんざどうでもいい。違うか?」

「……違わないな」

 

「だろう。違うと言ったらアンタを信頼できなくなる所だ。いいかオズピン。アンタはどうも人間を見縊ってるようだがな、グリムの脅威云々は元々あった話だ。今更倒すべき敵がいる事を知っても、大部分はああそうかとしか思わんだろう。敵の存在を周知しても無用な混乱を招きはしない。寧ろ団結し易くなると思うが、異論はあるか」

「ある。混乱を招くとは思っていたが、なるほど君の言う通り思ったほど悪い事にはならないのかもしれない。だが、それでもセイラムは危険だ。彼女は人間総てを滅ぼそうとしている訳ではない。自分の目的を果たした結果として世界を滅ぼす事はあるかもしれないが、その為に人を利用するのを躊躇いもしないだろう。例えば現行の国家の体制や、既得権益の破壊を目論む反社会勢力に手を伸ばし、自身の手先に仕立て上げる事ぐらいは容易に成すはずだ。既にその兆候はある。時間はまだあるだろうが、今の代の内に大きな戦争を仕掛けてくる可能性は濃い。セイラムの存在を周知すれば、反社会勢力が現行体制を打倒するのに利用しようと接近し、却ってセイラムの勢力を強めてしまう恐れがあるだろう」

 

「周知することで全体の目的意識を共有するメリット、反社会勢力が吸収され敵の勢力を強めてしまうデメリット、か。アンタはそこまで考えて、信頼できる仲間を集めている最中。今のところグリンダ・グッドウィッチを引き込んでいるようだが、クロウ・ブランウェンはアンタの仲間か?」

「クロウを知っていたか。その通り、他にもジェームズ……君の祖国のアイアンウッド将軍も私の善き友だよ。他にはまだ話していないが、ハンターであるなら協力してくれるはずだ」

「ああ? アイツがか……」

 

 予想外の名前が出され、ヨナタンは鼻頭に皺を寄せる。渋面を作った彼に、オズピンは眉を動かす。

 

「将軍を仲間にしていた事に不満でもあるのかな?」

「ああ、あるな。あの将軍は一国の大将足り得るほどに優秀だが、独断専行するタイプだ。なまじ優秀で行動力もあるものだから、自分の力を過信する傾向がある。その上アトラスの将軍という権力まで持ってるんだぞ。大々的に行動するのならともかく、少数精鋭を気取るのに奴は不適格だろう」

 

「だが時として果断さ、多数を動かす権力は必要になる。不適格に見えようと将軍が正義の人であるのは確かだ。そして自らを犠牲にしてまで献身する覚悟もある。信頼を置けるという一点で適格だと判断した」

「オズピン。忠告するが、こういう企みは何を置いても足並みを揃える事が肝要だ。先走るような輩を同志とするのは危険でしかない。ただでさえ大目的の為に動こうというのに、身内で不和を生じさせかねない輩がいるのは論外だ。多少能力が劣ろうと協調性のある人間を手元に引き込むべきだろう」

「一致団結し足並みを揃える事は大事だろう。だが考え方の違う者を近くに置き、多角的な視点から物を見られるようにするのも必要な事だ。思考が凝り固まり膠着する危険性を軽視してはいけない」

 

「………」

「………」

「……平行線だな。だが」

「ああ、こうして心置きなくディスカッションできるのは大きい。改めて、歓迎しよう。偉大なるグリム殺し、古き時より人々へ貢献し続けてきた英雄殿」

「こちらこそだ、大変な使命に振り回される苦労人殿」

 

 どちらともなく立ち上がり握手を交わす。

 ジュリアスを演じるヨナタンの言い様に、オズピンは乾いた笑みを溢した。

 オズピンにとってそれは、できれば指摘されたくない事柄なのだろう。随分と悩み通し、吹っ切れていても、蒸し返されたら面白くないのかもしれない。

 

 ――予想を遥かに超えて有意義な邂逅だった。

 

 こんな特大のネタを抱えた存在を、これまでずっとスルーしてきた深淵狩りが間抜けに思えてくるほどに。

 ヨナタンは得た情報を再度脳内で整理して、今後どう動くかを慎重に考え直す必要がある事を認めた。彼らの組織に名前はないらしいから、オズピン勢力とだけ呼称するが、彼やセイラムの存在を知って考えると――ヨナタンの構想する国際中立機関の設立は、少しばかり遠のく気がしてならない。

 

(何は置いても、今はとにかくグリムを根絶やしにしないといけない、か。その為には、セイラムとかいう化石人間をどうにかする方策を練らないと。そうなると色々と欲しいものが出てくるね。例えば僕が自由にできる、大きな拠点……欲を言えば都市レベルのものがほしい)

 

 ヨナタンはそう思う。もちろんそんな絵空事が叶う事などないと弁えているが、無い物ねだりの一つや二つは許してほしいものだ。――が、欲しいと思えば算段を立てるのがヨナタンである。

 オズピンと友好の握手を交わし、互いの連絡先を交換した後。

 ビーコン・アカデミーを出て、事の次第をどうローマン達に伝えたものかと頭を悩ませること一日。ついでに絵に描いた餅ではあるが、欲しい物を手に入れる方法を考えついた。

 

(――そうだ。()()()()()()()んじゃないか?)

 

 人様の土地を奪うなんて心苦しい真似はしないに限る。国益と自身の実益を兼ねる為、グリムの脅威が残っている土地を王国に取り込んで領土にさせればいい。ついでに爵位とか貰って領主になれば自分の物にできる。

 絵に描いた餅――しかし描いたのが魔法使いであったなら、絵の中の餅は額縁を飛び出して現実に食せる物となる。ヨナタンはザッと頭の中で算盤を弾いた。オズピン、ローマン、シュニー社、アトラス軍を参加させれば未開の地を開拓する事は可能だ。ついでに開拓地でローマンの会社を贔屓して儲けを出させれば、いずれその地はヨナタン勢力勃興の地となるだろう。

 

(案外、為せば成りそうだね……)

 

 自室でニオを饗しながら、ニヤリと笑った。

 

 

 

 ――英雄の条件とは何か。

 

 

 

 ヨナタンはそれを力と意志の強さを兼ね備えたものと思っていたが、それは違う。

 だがヨナタンは紛れもなく当世における筆頭株であり、英雄としての条件を兼ね備えていた。

 

 すなわち、運。

 

 運の良さこそが、人を英雄として祀り上げる最大の要因である。

 ヨナタンが青写真ながらも拠点獲得の計画を練った直後。それを後押しするかの如く、時が動いたのだ。不謹慎ゆえ喜びはしない、しかしそれは紛れもなくヨナタンへの追い風となった。

 

 追い風の正体は――皮肉にも、グリムである。

 

『――ヨナタン君、すまないが今現在の君の身分を気にしている場合ではなくなった。君の力を貸してくれ。――ミストラル王国の森林地帯にあるオニユリ村と、開拓地であるクロユリに()()()()()()が押し寄せているらしい。ミストラル軍の展開が遅く、既に最寄りのハンターには駆けつけて貰っているが、生憎数が足りない。開拓民はミストラルの一部の富裕層だ、避難はまだ終わっていないらしい。君も救援に向かってやってくれないか。もちろん君の存在を隠蔽し、目撃するだろうプロハンターにも箝口令を布こう。頼む』

 

 オズピンからの要請は、渡りに船だった。

 

 ――幸運の女神には引ける後ろ髪がない。機を見るに敏でなければ、独特な髪型の女神の前髪を掴めはしないのである。故にヨナタンは、幸運の女神の前髪を引っ掴むや組み伏せて、自分の()()にした。

 

 その強引なまでの力強さこそが、英雄を英雄たらしめるのだ。

 

 

 

 

 




【魔法】
なんだかよくわからん力。神に歯向かうのに使われたからボッシュートされて今の人間は持ってない。使えるのはセイラムとかオズピンとか彼から授けられたブランウェン姉弟ぐらい。

【オズマ&セイラム】
被害者兼加害者で物語のキーパーソン。前者は解説役の転生者(現地産)、後者は(たぶん)ラスボス。この二人が居なければそもそも原作は始まらなかった。二人の娘が四人の乙女達(伝説)である事から、彼らの強さも窺い知れようというもの。
なおオズマ≠オズピンではないかと思わなくもない。

【光と闇の兄弟神】
創造神。邪神。
ギリシャ神話のゼウスとクロノスとウラノスを悪魔合体させたような奴に見える不思議(偏見)
個人的見解では全ての元凶。


【オズピン】
秘密主義者っぽい。同じ(似て非なる)転生者ヨナタンには大部分を話したのは、なんとしても彼を仲間にしたかったから。逆にここまで話さねば真の同胞になれない可能性を危惧した模様。なおまだ隠し事はある。
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