“継承”のセンブランス   作:飴玉鉛

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アウトorセーフ

 

 

 ぎっ――と苦鳴する声。虎の耳を有する黒髪の女は、喉を圧迫されたことで呼吸が止まり、決死の形相で足掻くも彼女の手には武器はなく、空中に持ち上げられた為に両足が虚空を掻くばかりであった。

 じたばた、じたばた、と。水面に落とされた虫けらのように足掻く様を、せせら笑う声が無数に木霊する。

 浴びせられる嘲笑へ憤怒に燃える赤髪の少年が、鞘走らせた刀で女を拘束する敵へ斬り掛かった。だがそれは高出力プラズマ刃に軽々と受け止められ、反撃として繰り出された重い蹴撃を腹部に受けてしまう。その威力は、さながら至近で手榴弾が炸裂したかの様。吐瀉を撒き散らしながら吹き飛び、地面に倒れ伏した黒衣の少年へ幼い少女が駆け寄った。

 

「――アダムっ!」

 

 幼い少女が叫ぶ。ちら、と無機質で冷酷な目がそちらを一瞥すると、アダムと呼ばれた――赤い文様を刻んだ白い仮面の――少年は、腹を抑えながら力なく立ち上がり、いたいけな少女を背に庇った。

 虎のファウナスである黒い肌の女は、ファウナスの権利を訴える平和的な団体ホワイト・ファングを、強硬なテロ組織に路線変更した現リーダーである。

 彼女の名は、シエナ・カーン。そして彼女を五メートル前方から不可視の手で締め上げているのは、近頃勃興したヴァキュオの新興勢力【カオス】のリーダー、テュルク・アッティラ卿である。

 

 所はレムナントの南東に位置するメナジェリー大陸。

 大戦終了後、ファウナスに与えられた安住の地にして不毛の地。

 過激派テロ組織と化したホワイト・ファングの本部が置かれたその地は今、【カオス】の襲撃に遭い壊滅状態にされていた。

 

 襲撃者は、アッティラ卿と少数の荒くれ者のみ。彼ら――いいや、アッティラ卿は無人の野を往くが如く、屈強なファウナス達を悉く蹂躙し、視界に入る全てを地に叩き伏せていた。

 そこかしこから、苦悶の呻き声が上がっている。倒されているのは、人間を凌駕する力を持つはずのファウナスだけだ。カオスの構成員である人間は、嫌味なほど白いスーツに汚れ一つ付けていない。

 頭目たるアッティラ卿は地獄の王の如き波動を放ち、コォ、ホォ、と重苦しい呼吸音を響かせ、重厚な声音で宣告する。メナジェリー大陸にまで襲来した意図はただ一つ。報復である。

 

【小賢しくも我が膝下を騒がせた罪、贖う時が来た。貴様らに与えられる道は二つに一つ】

 

 愚かにもヴァキュオに支部を置いていたホワイト・ファングが、シュニー社の貨物列車を襲撃したのである。その積み荷の受取人は、正規企業であるダストショップを経営するカオスの傘下にあり、結果としてホワイト・ファングはカオスに損害を与えた。その報復としてアッティラ卿が直々に出向いたのだ。もはや抵抗も弱々しくなったシエナに向け、翳した手をそのままに掌を更に握り込む。喉の圧迫が強まり、シエナの頚椎は後一息でへし折られるだろう。

 

【服従か、死か。選ぶといい】

「ふざ……けるな……」

【………】

 

 シエナが死に体ながらも応じられたのは、オーラにより肉体を守護する力がまだ微かに残されていたからだ。そうでなければ、とっくに白目を剥いて意識を失っていただろう。

 女傑たるシエナは気丈だった。この場で殺される事になっても、武力によって屈服するのを良しとしない。それは手段はともかく、ファウナス全体の事を思って立つリーダーとしての誇りだ。

 

 だが、

 

「ファウ、ナスは……ホワイト・ファングは……決し、て……! 例え、殺され、ても、屈しは……しない……!」

【そうか。それが答えか。ならば死ぬといい。全てのファウナスを道連れに】

「な、に……?」

 

 ――だがアッティラ卿に情はない。慈悲はない。事実として彼は感情を有しておらず、本体から与えられた任務を遂行する為なら鬼畜外道、悪鬼羅刹にもなる。悪逆を為すのに一寸の躊躇いもない。

 

 アッティラ卿はホワイト・ファングを傘下に収めるつもりでいた。それが叶わないなら、今後も障害になると判断し鏖殺するのも厭わない。その過程でホワイト・ファングに属していない無辜のファウナスを皆殺しにするのも手段の一つと考えていた。

 悪は、より鮮烈に、残酷に咲く徒花でなければならない。ファウナスを殺し回る事で残虐性を誇示する事は、任務のためなら有益と判断している。ファウナスの虐殺は、差別主義者の支持を集める事にも繋がるからだ。故にアッティラ卿は淡々と勧告する。

 

【俺は俺に歯向かい、損害を与える者を看過しない。俺に降らぬと言うならホワイト・ファングに与する者を根絶やしにする。そしてファウナスは潜在的なホワイト・ファングの構成員と見做し、一切の例外なく殺し尽くそう。俺がやらないと侮るのは勝手だが……あの世で悔やむ事にならなければいいな】

 

 ちらりとシエナから視線を外したアッティラ卿は、プラズマ刃を消した鉄筒を、手を使わず腰のホルスターに戻す。そうして空けた左手をアダムに翳すや拳を作り、上から下に振り下ろした。

 アダムは見えざる手に叩きつけられ再び土を舐めさせられる。

 苦痛と屈辱に悶える少年の後ろで悲鳴が上がった――少女の悲鳴だ。白スーツの男達が二人掛かりで、少女の両腕を掴んで跪かせると、もう一人が少女の細首に直剣を突きつけたのである。

 

「ブレイク……! おのれ、その汚らわしい手でブレイクに触るな……!」

 

 アダムが激怒して立ち上がろうとする。だが彼のオーラは尽きていた。

 刀を支えにふらふらと立つアダムの喉を、念動力の冷酷な手が締め上げる。

 

「ガッ……!」

「アダムっ!? ……お願い、やめて! お願いだから……!」

「ッ……! 卑劣な……恥を知れ、人間、め……!」

 

 ゆっくりと腕を廻し、空中に吊り上げたアダムをシエナの横にまで運ぶ。

 シエナは少女――猫のファウナスであるブレイク・ベラドンナの悲痛な懇願を聞き、溢れ出る激情で視界を白熱させる。彼女の師範役を務め、親密な関係を築いていたアダムもまた一層激しく怒りに燃えた。

 だが、無力だ。

 彼らは敗北している。アッティラ卿ただ一人の前に敗れ去り、こうして命を握られていた。もはや何を言っても負け犬の遠吠え……非情なる頭目の所業を見ている白スーツ達は嘲笑し口々に罵った。

 所詮は動物園の畜生共だ、と。畜生が粋がってんじゃねぇよ、と。悔し涙を浮かべるブレイクを、機械の目が横目に見据える。

 

【貴様らにとっても悪い話ではないと思うが。憎いのだろう? 人間が。だが本当に悪いのは貴様らの境遇を黙殺し、改善しようとしない現行体制だ。それをこそ憎み、破壊すべきだろう。我々はそのために革命をしようというのだ。我が傘下に降る事は、体制の打倒を目指す上で有益なはずだがな】

「………ッ」

【戦力は多いに越したことはない。しかし必ずしも貴様らが必要というわけでもない。降らぬなら死んでもらい、潜在的な危険分子であるファウナスもまた絶えてもらう。最後にもう一度だけ聞こう――】

 

 アッティラ卿の声音は、無感動な機械そのもので。故にその全てに凄みと、真実味があった。

 この男はやると言ったらやるだろう。それだけの実行力と、実力がある。腕の立つファウナスの戦士の全てが、この男の前に敗れたのだ。黒い偉丈夫との力の差は痛感させられている。

 シエナは決断を迫られた。この決断に、ファウナスの今後の趨勢が掛かっていると言っても過言ではあるまい。本当にファウナスが殺し尽くされる事はないかもしれない。だが、少なくとも多くの同胞が殺されるのだけは間違いないのだから。

 

【――降るか。それともここで死ぬか。犬死を望むのなら選ばせてやろう、はじめに死ぬのは貴様でもいい、手始めにこの小僧から(くび)ってやるのも見ものだろう。ああ、】

 

 アッティラ卿の目は、ずっと無力な少女を見据えている。

 

【そこの小娘の喉を裂いてやるのもいいな。さあ――選べ】

 

 その圧力に、女傑シエナ・カーンは屈した。

 屈さざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 ワイス・シュニーは、その報せに間の抜けた声を漏らした。

 

 実家で厳格な教育を受ける中で、いつしか心と体にゆとりを持てるようになれたのは、ひとえに彼女の努力が実を結んできているからだ。弛まぬ鍛錬は彼女の才を開花させ、ワイスの力になっている。

 そうすると、彼女にもほしいものは出てくる。心の背骨とも言える存在は、今までも、そしてこれからも血の繋がらない兄であるが、年相応の少女らしく同年代の、同性の友人がほしくなっていたのだ。

 娘のおねだりを、父ジャックは我儘とは言わない。当然の要求であると認めて、社交界のパーティーにワイスを連れ出すと、歳の近しい少女と触れ合う機会を設けた。ワイスは初めてとも言える同年代の少女との交流に緊張しながらも、おっとりとした雰囲気の少女――オルトリンデの性格がおおらかだった事が助けとなり、何事もなく親しくなれた。

 以後ワイスはオルトリンデとスクロールの通話を介して毎日のように話し、時にはパーティーの場などで直接会って贈り物を交換したりして、着実に仲を深めていった。やがて二人は仲の良い友達だと認め合うに至り、そのいじらしい様に大人達は相好を崩したものだ。だが――幼い少女同士の交流は長続きしなかった。

 

 オルトリンデの乗っていた列車がテロリストに襲撃され、少女が巻き込まれて帰らぬ人となってしまったのだ。

 

 怒り狂うジャックの横で、ワイスは呆然とする。

 父が怒っているのは、オルトリンデの父が経営していた会社と協定を結び、販路を拡大しようとしていたのに、オルトリンデの父もまたテロリストの襲撃で死んでしまったからだ。

 公の契約だ、社長が死んだだけで白紙になりはしない。だが列車にはオルトリンデの父娘のみならず、シュニー社の取り扱うダストも大量に載せられており、それらも奪われてしまったのである。損害は大きく、ジャックの怒りは計り知れないものとなっていた。

 何せシュニー社をターゲットにしたテロはこれが初めてではない。何度も、何度も、損害が生じてしまっている。髪を掻き毟るジャックに――ワイスは乾いた声で問い掛けた。

 

「……誰が」

「ん……なんだね、ワイス」

「誰が、やったんですの……?」

「………」

 

 娘の問いに、一瞬答えていいものかと悩んだジャックだが、ワイスは次期社長となるべく教育している娘だ。知る権利はあるし、知っておく必要もある。ジャックはそのように判断して答えた。

 

「ホワイト・ファングだ。……薄汚いファウナス共の仕業なのだよ、これは」

「ファウナス……」

 

 ワイスはそれを知っていた。

 人間によく似ていて、しかし人間ではない、野蛮で、恐ろしい獣だと教わった。本当にそうなのかと疑ってはいたが、今この時ファウナスが悪しき存在であると理解した。

 父の会社――自分の家の資産を奪う強盗で、自分の大切な友達を、はじめての友達を■した唾棄すべきもの。その存在を胸に刻み付け、しかしワイスは怒りや憎しみよりも深い悲しみに暮れる。

 ワイスは亡くなった友人を悼んで泣いた。自分の部屋で人知れず、声を殺して。聞けば死体も残っていないらしい。どうしてそんなことになったのか、原因を知る勇気はなかった。

 怖かったろうに……痛かったろうに……死んだ後にさえ、無事な母の下に帰れもしないだなんて酷すぎる……ワイスは一頻り涙を流した後、この想いを誰かに吐き出したくて堪らなくなった。

 

 そうした時、相手として思い浮かぶのは決まって兄だ。

 

『――そんな事が……辛かったね。傍に居てやれなくてゴメンね、ワイス』

 

 兄は沈痛な表情を浮かべている。

 スクロール越しに見る顔と、聞く声に、ワイスは安心感を覚えて、また込み上げるものを感じて涙を溢した。そんなワイスに兄は問いかける。

 

『犯人は誰か分かるかい?』

 

 ファウナス、ホワイト・ファング。

 その名を口にすると、哀しみの峠を越えていた為か、どす黒い憎しみが湧き上がり始める。深刻な怒りの火が、ワイスの心に灯ろうとしているのを見咎めたのか、兄は形の良い眉を顰めた。

 

『………』

「……お兄様? どうかなさって?」

『いや。それはいつの事か訊いておきたくてね。でも思い出すのが辛いなら、ジャックさんに確認を……』

「……大丈夫ですわ。テロがあったのは、三日前の昼頃と聞いてます」

 

 そう言うと、兄は少し――なぜか安堵したようだ。 

 

『三日前か。なら……』

「……? なら……なんですの?」

『ああ、これは僕とワイスの秘密の話なんだけど――』

 

 兄と自分だけの秘密。その響きに幼いワイスは惹かれ、無意識に耳をそばだてた。

 露骨ではない。しかし話を逸らされた。ワイスはその事に微かな引っ掛かりを覚えたが――すぐに忘れてしまう。小さな引っ掛かりが気にならなくなる、ビッグニュースを聞かされたからだ。

 

『――おととい。つまり2日前の事なんだけど、メナジェリー大陸にあるらしいホワイト・ファングの本部が襲撃を受けたみたいでね。ホワイト・ファングがとある組織の傘下に加わったみたいなんだ』

「……そうなんですの? その組織というのは……」

『ヴァキュオで急激に勢力を伸ばしている、カオスという反社会勢力だ。なんでも現行体制の打破、打倒を目指しているらしい。その為に同類項の連中を糾合して回っているようだ。各国にあるホワイト・ファングの支部も遠からず、カオスに取り込まれてしまうだろうね』

「カオス……」

 

 その名を、呟く。

 憎いファウナスをも手下に加え、どれほどの大事を成そうとしているのか想像もつかない。どこか空恐ろしい陰謀が蠢いているのを感じて、聡明な少女は冷たい予感を懐く。兄はどうしてそんな話をしてくれたのだろう。その意味を問うと、珍しく兄は即答を避けて別の話をした。

 

『カオスの存在を僕がどうやって知ったのか、どうして君に教えたのか。説明する機会はひとまず横に置かせてくれ。そんなことよりもワイス、友達の事は残念だし、テロリストを憎むのは正しい事だ。けどファウナス全体を蔑み、敵意を向けたりしないようにね』

「っ! ……なんで、そんな事を……?」

 

 その忠告を受けた瞬間、頭に血を上らせかけたワイスだったが、元々知能の高い少女である。高度な教育を受けてきた事もあり、彼の言わんとしている事を察してしまった。

 口惜しげに唇を噛む。案の定、兄は道理を説いてきたから。

 

『人間にも悪人はいる。ファウナスにもそうだ。彼らの中にも善良な人はいるんだよ。一部だけを見て、全体を悪人だと決めつける愚は冒さないで欲しい。分かるね、ワイス。憎むなら、悪を憎むんだ』

「………」

『それと話を戻すけど、僕がカオスの事を知ったのはつい最近だよ。耳の早い友人が居てね、彼から教えてもらった。いの一番にワイスに教えたのは、君に決めてほしいことがあるからだ』

「……わたくしに?」

 

 怪訝に思って反駁すると、兄は真剣な表情でワイスへ提案する。

 

『ミストラルの郊外で、四王国のいずれにも属さない中立都市が建造される。マドンナリリーというのだけど、そこに新しく初等科のアカデミーが作られるんだ。ワイス……そこの一期生になる気はないかい?』

「! ……で、でもお兄様……わたくし、家から離れられるかどうか……」

 

 予想外、望外の誘いにワイスは戸惑う。この一瞬だけ、友達を亡くした悲哀と、仇敵に対する怒りも失念した。それほどまでに意外だったのだ。――この頃になるとワイスも、兄とジャックが対等な関係である事に勘付いている。兄からの提案や要請を受ければ、ジャックは恐らく頭ごなしに否定はせず真摯に検討し、筋と利が通るなら応じるだろうと思った。兄は口元を緩める。ワイスが察したのを察したのである。

 

『恐らく君の意志が最後の決め手だ。マドンナリリーのアカデミーに通ってくれるなら、僕も年に一度とは言わず週に一度はワイスと会える』

「え……?」

『新設されたアカデミーが人手不足になるのは想像に難くない。そこでマドンナリリーの代表の親族である僕が、ボランティアで講師役を買って出たんだ。そこでならワイスを守ってあげられる』

「………」

『どうかな? よかったら考えていてほしい。腹が決まったらジャックさんに話してくれたらいいから』

「……分かりましたわ」

『よかった。それじゃあ――』

「待って、お兄様」

『………なんだい?』

 

 話を切り上げて、通話を切る流れになったのを敏感に察知して制止する。

 すると兄は意外そうに眉を動かし、ワイスの固い表情を見詰める。

 敬愛する偉大な兄に、これまでとは別種の我儘を言いたくて堪らなくなっていたのだ。

 

「お願いがありますの。……その、お兄様の立場を考慮していないワガママとは承知しているのですけど……聞いてくださいますか?」

『もちろんさ。ワイスのお願いなら、なんでも聞こう』

「でしたら! ……っ……ぁ、いえ、やっぱり……なんでもありませんわ」

 

 言い掛け、しかし撤回する。

 言って良いことと悪いことがある。そんなこと、ワイスも理解していた。

 ――友達の仇を討ってほしい、なんて。言えるわけがない。

 もし言えば、兄は本当に仇を討ってくれるだろう。万難を排して。あらゆる危険を掻い潜ってでも。そう、()()()だ。自分のワガママで、兄に危険な橋を渡ってほしくなかった。

 兄なら大丈夫だとは思う。けどそれとこれとは話が違う。故に、気遣わしげに問い掛けてくる兄に、繰り返しなんでもないのだと言い張った。

 

『……分かった。それじゃあ、また。何かあればすぐ連絡してほしい』

「えぇ、もちろんですわ」

 

 ワイスは無理に微笑んで、通話を切る。

 ……自分の友達なのだ。自分で――仇を討つ。

 ホワイト・ファングを倒す、そう決めた。その過程に立ち塞がるのなら、カオスという組織がどれほど強大でも打ち倒してみせよう。厳しいようなら、助けてもらえばいい。仇討を実行する頃には自分も、兄の足手まといにならない強さを手に入れてみせる――

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 本当は、ヨナタンはワイスをマドンナリリーに誘うつもりはなかった。

 だが親しい友を亡くした彼女が哀れで、どんな慰めの言葉も伝わらないと思ったから、新しい友人を得てほしかったのだ。

 しかしワイスは頑固な一面がある。きっと仇討ちを考えるだろう。情が深いと言えば聞こえは良いが、無謀だ。それに彼女はカオスの傘下に降ったホワイト・ファングを仇に定めている。

 となると、カオスともぶつかるだろう。

 悩ましい事だ。ワイスの友人が亡くなった事件は、ホワイト・ファングがカオスの傘下に入る前に起こっていた為、間接的にヨナタン(アッティラ)が殺害したわけではない事は不幸中の幸いだったが。

 

(……ワイスが道を誤らないように……いやその考えは傲慢だ。彼女の選択ならなんであっても尊重する。するけど……どうする? 今の内にホワイト・ファングを排斥……駄目だ、アッティラに彼らを使い潰すように言っても、下手に扱えば彼らは離散する。そうなると制御できない。……制御下に置きつつワイスに仇討ちの場を用意する? でもそれは……ああ、まずい。今までで一番の難問だよ、どうすればいいんだ?)

 

 思わぬ難題に見舞われ、ヨナタンは頭を抱える。

 こんな事ならホワイト・ファングを傘下に引き込ませなければよかった。ヨナタンが命じたわけではないが、アッティラから逐一報告を受けているのだ。動向を報され、是としたのはヨナタンである。

 とんだ不発弾を抱え込む羽目になったヨナタンは舌打ちしたい気持ちでいっぱいで。今後どうするかについて思索する。

 

(……こうなったら仕方ない。今はアッティラの采配に任せておいて……十年後を目処にホワイト・ファングを排除する舞台を作ろう。そこにワイスを噛ませて、僕が傍にいれば死傷はさせずに済む。ああっ、チクショウ! 他の事でなら幾らでもやってやれるのに、こんな形でマッチポンプじみた真似をしないといけなくなるなんて……!)

 

 苛つく。苛ついてしまう。

 これだから、管理されておらず野放図に暴れるテロ組織は嫌なんだ。

 軽はずみに被害を出すようでは、どんな大義名分を掲げても聞く耳を持つ価値もない。

 

(殺していいのは腐敗した層だけだ。そうした輩はえてして権力に守られているから司法が機能しない、だから必要悪として、表社会の汚職層を物理的に排除する。そのための管理だ、秩序を正すための悪だ!)

 

 その枠からはみ出る者が出ないように、全ての悪に首枷を嵌めてやる。可及的速やかに。

 

(何がファウナスの尊厳を勝ち取る、だ! ふざけるな、テロに手を染めた時点で戦争しか無いって分からないのか能無し共……! お前たちのせいで無関係なファウナスまで偏見の目で見られるようになるんだぞ! ――あぁ、いいさ。お前たちが自分の手で火種を撒き散らすっていうなら、僕がファウナスの尊厳とやらを手に入れて、恵んでやるよ――)

 

 ヨナタンは怒っていた。危うく妹分の友達を亡き者にした連中のテロに、加担していた事になりかけていたのだ。おまけにそんな連中がヨナタンの構想し作り始めていた必要悪に加わっている。

 こんな事は赦せない。理不尽? 不条理? 知ったことか。勝手に暴走したテロリストの言い分に価値はない。テロリストは死ね。ヨナタンが思うのはそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




力が…溢れる…高まるぅ!
感想ありがとうございます!もっとちょうだい♡(強欲)
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