“継承”のセンブランス   作:飴玉鉛

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ご利用は計画的に、ヨナタンです。

 

 

 

 燦々と煌めく日輪が空を青々と映えさせ、春の訪れを感じさせる緑の匂いが風に乗り、この空の下に生きる人々に希望を齎す。心の澱みを払うかの様な清々しい晴天だ。遥か彼方まで見渡せそうである。

 だが、宙に浮く幾つもの巨大な物体が、折角の景観を台無しにしていた。

 野暮とは思わないし、誰も言わない。浮遊しているそれこそが希望の象徴なのだから。地上に影を落とすそれを見上げながら、ヨナタンは夢に向かって計画が動き出したのを実感していた。

 

 ミストラル郊外で建設した校舎や寮、各種施設をマドンナリリーへ運んで行く。建造物の基礎の埋まった地面ごとだ。非常に大掛かりで、莫大な予算が費やされているのが伺える光景である。

 裏で巨万の富が動き、生じる利権を巡って血腥い暗闘が繰り広げられたものだが、少なくともこの光景だけを切り取って見るなら夢と希望に溢れている。グリムの脅威が未だに残る現代、人類の生存圏を広げる土地の開拓は無関係の人間でも期待を懐くものなのだから。四王国のニュースで、マドンナリリーの開発計画に触れない日はないし、関心は否が応にも高まっているだろう。世界中が注目する事業に携われた人間は例外なく高揚し、何が何でも開拓を成功裏に収めようと使命感に燃えていた。

 

 この日のためにあらかじめ建てておいた建造物を、宙に浮かせて目的地まで運搬する為に、シュニー社に発注して卸したグラビティ・ダストをふんだんに使っている。重力を制御下に置ける特殊なダストは高価だが必要経費だ。

 グラビティ・ダストによって建造物を浮かせ、飛空艇で目的地まで牽引していく……一見荒業に見えるこれは、世界(レムナント)では珍しくないわけではないが可能とされている作業である。しかし流石にここまで大掛かりなものは前代未聞だろう。この光景を撮る為だけに、多くの報道関係者が取材しに来ていたり、構えられたカメラの前でリポーターが実況している様子がそこかしこで散見された。

 

 今回の件で多大な利益を叩き出し、今後の建設作業でも大量のダストが発注されたことで、今頃ジャックはほくほく顔でいることだろう。深淵狩りと誼を通じた、数年前の自分の先見性を自画自賛してもいるかもしれない。これからも宜しく頼むよ、なんて笑顔を見せられたものだが――ヨナタンとしても否はなく、こちらこそと笑ったものだ。

 ただ宜しくしたいのは、財布が自分やローマンの物ではない時に限るが。

 言うまでもなくマドンナリリー建設は国家事業である。予算の四分の三をミストラルが、残りをアトラスが出す。予算の負担が少ない代わりに、アトラスが必要分の人員を集め、開拓期間中の警備を買って出ていた。ローマンもそこに乗っかって利益を得ているのである。つまり、こちらの懐は全く痛んでいないのだ。笑いたくもなる。

 

 無論、そうした条件を整えるために、多少は骨を折って苦労を買った。

 

 アトラス軍のアイアンウッド将軍は、マドンナリリー建設の功績の多くは自分にあると主張し、議会の議席を二つに増やす算段をしている。有事に備えて発言力の増大を狙っており、ミストラルはそれを支持する声明を出す事を内密に契約していた。ヨナタンの意向でナーハフォルガー本家も後押しする取り決めもある。これによりミストラルはアトラスの軍部への貸しを作り、両国の同盟を改めて強固にする考えがあった。そしてそれらの流れを作り出したヨナタンも同時に、アトラス軍とミストラル上層部から高い評価を得る。

 計画の立案、立場の違う組織・機関の仲介、中立都市に赴任しても両国が納得する人物――ナーハフォルガー本家――の推薦、利益を生む循環へ噛める身分の提供。暗躍とは自らの利益を追求するのではなく、多方面に旨味を与えて自分が一番おいしい部分を食べる行為を最上とする。ヨナタンの計略は完全に人間の欲と使命感を刺激し、完璧に結実していた。

 ナーハフォルガー本家の微妙な立ち位置は有り難かった。改めて認めよう。ウザッたいが、彼らは使える。アトラス王国有数の名家であり、財界や軍部に大きすぎる発言力を有する彼らはアトラスとしても目障りで、しかし排除するには極めて難儀する相手だった。

 名声が高く、一門の者は殆どが優秀で、清廉潔白な人格者が多かった事もあり市民の声望を集めているのだ。彼らを悪者にして利権を分捕ろうにも、彼らを出し抜くのは簡単ではなく、陰謀が露見した場合は市民からの反発とナーハフォルガーからの反撃で叩き潰されるのだから――誰も手出しはしたくない。

 故にアトラスは合法的にナーハフォルガーを追い出せるマドンナリリー建設に諸手を上げて歓迎し、ミストラルもまた大戦期の盟友であったマントルの英雄の血族を信頼していたので、彼らが中立都市に代表として赴任するならと納得できたのだ。大きな権威を有するアカデミーの――オズピンの説得で頷いた――学長達の後押しも、スムーズにナーハフォルガー本家が代表に選ばれるに至った要因である。

 

 外的な成功に至る要素は揃った。

 

 ニワシロ・アカデミーの今後は、一期生とそれ以降の生徒をどれほど優秀に育て上げられるかに掛かっている。故に指導の質と量の比率には細心の気配りをせねばならず、ヨナタン自身も臨時講師として手を抜くつもりはなかった。その為ヴェイルの初等アカデミーには進級試験を受ける時以外では滞在せず、ヨナタンも今後はマドンナリリーに居座る事になっている。軌道に乗った新都市建設を、グリムやテロリストに台無しにされたのでは堪らない為、周辺地域の警戒は厳に行なう手筈だ。

 

 

 

「提案なんだけど、メナジェリー大陸からファウナスの入植を募集するべきなんじゃないかな」

 

 

 

 空を見上げながら出された意見に、ニオを背後に従えてヨナタンの隣に立っていたローマンは軽く応じた。

 

「いいんじゃあないか? ()()()()()()()は、人間様に根深い猜疑心を持ってはいる。が、オツムも動物レベルだからな、根は単純だ。きちんとした待遇を用意してやれば簡単に懐くだろう」

「ローマン。分かってるとは思うけど、」

「あぁはいはい。()()()()()を差別する物言いは控えろって言うんだろう? 分かってるから安心しろよ、ヨナ。私からしてみたら人間もファウナスも間抜けばかりなんでね、区別はしないとも」

「ハァ……言葉遊びをする気はない。差別は駄目だけど区別はするべきだ」

 

 他人に聞かせてはいけない会話だと判断したのだろう。興味深そうな目を向けてくる記者達を、ニオが殺気を込めて睨みつける事で追い払っている。

 可哀想に……ティーンエイジャーに睨まれ、顔を真っ青にする大人達が無様に見えてしまう。見えるだけで、実際には無理もない話だが。

 ヨナタンの指導によってニオの戦闘力は確実に向上している。ローマンの付き人をしていたのだから既に手を汚した経験もあるだろう。殺気は虚仮脅しではなく、見た目の可憐さに反比例して凄みがあるのだ。一般人なら恐れをなしても仕方ない。

 それを尻目に鼻を鳴らしたローマンに、ヨナタンは苦笑混じりに嘆息する。確かにと肯定しそうになったが、自分で自分を賢いと思い上がっているように聞こえる為、中々頷き難い台詞だった。実際知恵の回るローマンを窘める気はないが、不特定多数を貶す資格は自分にはない。

 

「……で、住民として募集するのは勿論だけど、マドンナリリーが建設されるに当たって、用いられる技術を学べる環境も用意しよう。彼らも故郷の大陸を豊かにしたいだろうから、必死になって勉強するはずさ。労働者として雇うに際しては雇用条件を事細かに明記し、それを絶対に遵守する事を契約条項として盛り込む。内容を信じられないファウナス向けに、ナーハフォルガーの名前を出すのもいい。ファウナスだって人間の中に味方はいない、なんて思っていないからね。深淵狩りの中にはファウナスもいたっていうのは、よく知られているお伽噺なんだし、それを蔑ろにするようならナーハフォルガーの名に傷がつくのは自明だ。それぐらいは彼らにも想像できるだろう。どうかな?」

「あぁ? 細かい事はいいが……もしかして私の会社で雇用しろと?」

「我ながら名案だと思うけどね。マドンナリリー建設が終わるまで臨時で雇って人手を増やし、終わった後も働くのを望むのなら正規に雇用する。帰りたいなら退職金も与えて帰らせればいい。帰ったら地元に良い噂を流してくれるだろうからね」

 

 一拍の間を空け、葉巻の煙を吐き出したローマンが頷いた。

 

「理には適ってる。『マドンナリリー及びローマン・トーチウィックは、ファウナスを差別せず正当に評価する』ってな看板も利に成るだろう。だがいいのか? アッティラくんは田舎のヴァキュオくんだりから上京してこようって段階だ。マドンナリリーに来る時期が早まっちまうぜ?」

「劇は華やかで賑やかな方が人の耳目を集めるってものだろう? 激動の時流でこそ映える物語もある」

「ハッハー、違いない! 私も聖人君子で鳴らす素晴らしい人格者だからな、富に貧しく知にも乏しい野生児共にも、平等に救いの手を差し伸べてやろうじゃないか。飼い慣らせば丁度良い番犬にもなる」

 

 折角手に入った楽園を、みすみす失いたくはないだろうからな、とローマンが嘯く。

 皮肉げな諧謔を諌める気にもなれずヨナタンは肩を竦めた。ローマンも人の目のある所では態度を改めるだろうから、わざわざ諌めるまでもないと判断したのだ。飼いならすと言ったら本当にそうするだろう。

 

 未来を見据えるならファウナスへの差別は悪手中の悪手だ。数は力である以上、今後の趨勢次第で人口は増える。グリム無き世の中がくれば爆発的に増加するのは簡単に予想できた。

 ファウナスと人間の数が増えて、グリムという共通の外敵が無くなれば、今度の戦争はファウナス対人間になる。

 勢力を二分にしての大戦の始まりだ。

 有利なのは肥沃な土地を有する人間側だが、勝ったとしてもファウナスを絶滅させるまでテロに悩まされるだろう。そして正体を隠して人間勢力内で暮らすファウナスを探す為に、国が愚かな政策を打ち出すのは想像に難くない。民間でも怪しい者を吊し上げての私刑が横行するようになるだろう。

 何十、何百年先の問題になるかは分からない。しかし差別問題は確実に後の世の大戦に繋がる火種となる。それを阻止する為などという綺麗事を吐くつもりはないが、ただヨナタンとしては思うのだ。

 

 ()()()()、と。

 

 人間、ファウナスという呼び方自体ナンセンスだ。ヨナタンからするとどちらもニンゲンであり、人だ。なら無駄に差別せず、同じ生物として手を取り合い発展していった方が有意義であろう。

 だから、どうせなら仲良くなれる土壌は作る。後世の人々がそれを台無しにするか、無駄にせず友情を築いて同胞となるかは知らない。良い方に転べる土台は残してやるのだから後は勝手にしろと思う。

 

 ――ローマンはそこまで先の事は考えてはいまい。自分が死んだ後の事などどうでもいいと、少なくとも若い今は思っているはずだ。故に彼が見据えているビジョンはあくまで数十年後までだろう。

 

 その段階では既に国連は作れている。ローマンやヨナタンが死んでおらず、また大きすぎる問題が発生さえしていなければ。ファウナスという勢力を取り込めば、単純に数――戦力や労働力になるのだ、自らの手駒として取り込むのに躊躇いなどしないだろう。自分で言ったように、ローマンは人間だろうが、ファウナスだろうが、大多数の者を平等に嘲っているだろうから。

 馬鹿か、それ以外か。敵か、味方か。面白いか、つまらないか。あるいは利用価値が有るか無いか。ローマンを傍で見続けて、彼の評価基準はそこにあると理解している。ある意味で彼は公平なのだ。

 

 例外は、ヨナタン。そして恐らく幼い頃から面倒を見ているニオ。ローマンはなんだかんだ、親になったら自分の子供を猫可愛がりして駄目にしてしまうタイプだろう。後継者の育成とか向いてなさそうだ。

 そんな余所事を考えて、くすりと笑みを溢す。ローマンから胡乱な目を向けられるが、なんでもないと誤魔化して、空飛ぶ校舎とそれを牽引する飛空艇を見上げた。

 ニオもニワシロ・アカデミーに転校してくればいいのに。彼女の年齢は忘れてそんなことを思う。アッティラも一年、二年後には遊びに来るだろう。楽しくなりそうだが、同時に忙しくもなる。周辺の哨戒もしながら働くのだ、少なくとも暫くは今までのように暇を持て余したりはしなくなるはずだ。

 

 それが、楽しみだった。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 現在のマドンナリリーは殺風景である。

 だが――新都市建設に向けて資材を搬入する大型トラックの長蛇の列、働き蟻の役を担う労働者に、作業計画を説明する建設業者などの姿で、活気だけなら首都圏にも劣らないものを感じさせた。

 間もなくだ。マドンナリリー創設の時が、ようやく来た。

 前日から駐屯拠点を築いていたアトラス軍の部隊が、グリムや無法者の接近を警戒して哨戒を行なっている。その中にはハンターも混じっており、人類圏の拡大の為に高い士気を保っているようだ。

 

 周辺にはまだ防壁はない。クロユリ跡地だった為、以前の名残として残っている部分はあったのだが、マドンナリリーに求められる強度に満たなかった為打ち崩されている。唯一残っているのはクロユリ跡地の中心にあった、立派な桜の木だけだ。これはマドンナリリーに入植予定の、元クロユリ開拓民の嘆願で残されているのである。

 

 ニワシロ・アカデミーの施設だけは完成しており、殺風景な中でポツンと並んでいると情景のミスマッチ感が際立ってしまう。

 しかしそんなものは些事だ。今は不自然さが付き纏うだろうがいずれ慣れるし、周囲も加速度的に発展して大都市らしい景観に仕上がっていくだろう。

 

 学び舎の敷地内、校庭には今、アカデミーに通う事になる栄えある第一期生が整列していた。青空の下に保護者の方々も参列している。

 彼らの四方を十名の教官が囲んでいる。もうすぐ開校と入学を祝う式が始まるのだ。

 そわそわと、落ち着かない様子で7歳の子供達が身動ぎしたり、小声で何事かを囁き合っている。彼らの中にはセージ・アヤナや、ライ・レン、ノーラ・ヴァルキリーもいた。都市建設の喧騒や、自分達を囲む厳つい教官達に圧倒されているのだ。私語は厳禁だが、今はまだ開校宣言も入学式もしていない為、軍学校も斯くやという厳格さを発揮する予定の教官達も見逃している。

 

 と、一機の飛空艇が空からやって来た。

 それは校庭の方に近づいてきて、何事かと目を瞠る一同の前に着陸する。

 教官達が一斉に動き出そうとする。しかしヨナタンが片手を上げて制し、飛空艇に歩み寄るのを見ると彼らは脚を止めた。教官を含む教職員一同は、全員がナーハフォルガーである。

 彼らにとってヨナタンは絶対の存在だ。逆らうという発想は、無い。

 ――そういう所がヨナタンの神経を逆撫でにしていたのだが、今となっては完全に意識しないようになっていた。ヨナタンは彼らを()()()()()()として受け入れ、苛立ちを懐くだけの気力も向けなくなっている。代わりに彼らの望む神聖にして不可侵、超越者であるご先祖様として振る舞っていた。

 

 

 

「――お兄様っ!」

 

 

 

 飛空艇から降りてきたのは、本校に入学する可憐な少女である。

 ワイス・シュニー。支給されたセーラー服を着込んでいた彼女は、ヨナタンの姿を認めるとスカートの丈を靡かせながら駆け寄ってきた。そして感極まったように熱烈なハグをしてくる。

 優しく抱き止めたヨナタンに、ワイスは溜め込んでいた激情を吐き出すように涙を流した。

 

「お兄様、お兄様……! やっと、やっと会えましたわ……! わたくし、ずっとお兄様に会いたいって! ずっと……!」

「僕もだよ」

 

 嗚咽混じりに訴えるのは、感激と、混沌とした激情。

 この時ばかりは兄の顔になったヨナタンの顔を、ワイスは涙に濡れた瞳で見上げる。

 

「ようこそ、ワイス。こうして君を迎えられたことを心から嬉しく思う」

 

 彼女は親しい友人を亡くし、その辛さと悲しさ、仇に対する憎しみを持て余していたのだろう。その上ヨナタンと久し振りに会えた喜びで胸の内はぐちゃぐちゃになっているようだ。

 微笑みを浮かべ、ワイスをあやすように背中を叩いてやりながらも、だが、と思う。彼女の澱みを受け止めてやりたいが、流石に場所が悪い。こんな所では落ち着いて話も出来やしない。

 肩を掴んで引き離し、周囲を示すとワイスは我に返ったらしい。はっ、と息を呑んで羞恥に顔を染めた。可愛らしい様子に相好が緩むのを自覚しながらも彼女に指示する。

 

「積もる話もあるだろうけど、それは後に取っておこう。今は式に参加しなさい。君の到着を待っていたわけではないけど、もうすぐ開校式と入学式を始めるから」

「は、はい……わっ、分かりましたわ……っ!」

 

 恥ずかしげに頬を染め、ワイスは涙を拭いながら駆け足で列に加わりに向かう。

 その後ろ姿を数秒見送り、ワイスに続いて飛空艇から降りてきた者達に目を向けた。

 そうして礼儀正しく胸に手を当て、恭しく一礼する。

 

「――ジャック・シュニーさん、貴方も歓迎しましょう。ようこそマドンナリリーへ」

 

 保護者として式に参列しに来た男は、ヨナタンに親しげな笑みを湛えつつ歩み寄る。

 彼はあらゆる場面でも私人としての顔を出さない。社の利益、家の名誉を常に第一としている。故に彼がこうしてやって来たのには、必ずなんらかの理由があるのは分かっていた。

 しかしそうした企みを、あけすけにしたりはしない。ジャックはヨナタンに握手を求めて言う。

 

「こうして会うのは何年振りだったかな? ともあれ、歓迎されているようで安心したよ」

 

 柔和な笑みの皮の下一枚に、俗な欲望と情熱が渦を巻いている。

 俗物だ、彼は。しかしだからこそこうまで熱意を燃やしてシュニー社を繁栄させてこられた。そして俗物だからこそ、ヨナタンにとって至極わかりやすい人物でもある。

 握手に応じてヨナタンも愛想笑いを見せる。話が長くなるようなら後にしてくれと暗に匂わせながら。折角のワイスの晴れ舞台を見逃しちゃうだろうが! と、らしくなく苛ついてもいたが、流石にそれは隠した。

 

「私にとって貴方は大事なパートナー(金づる)ですからね、蔑ろにする訳がないでしょう。それで、本日は何用で?」

 

 お前は娘を愛しているが、その愛は鳥かごの中の令嬢を愛でるものだ。

 実は余りお前の事が好きじゃない、とヨナタンは思う。

 

 ジャックは娘の晴れ姿を見に来るような親ではないのは分かっている。だから単刀直入に問を投げると、彼は言葉短く告げた。

 

「我が娘を送り出す先を見に来たというのが一つ、そしてもう一つは、カオスについて聞きたい事があってね。どうせ君の事だ、知っているんだろう? それこそ軍や政府の知らないことを、色々とね」

 

 そう言って笑うジャックに、ヨナタンは意味深に口元を緩めてみせる。

 

「――ええ。ではその話は後ほど。今はワイスの晴れ姿を見守りましょう。一生の内に何度も見られるものではありませんからね」

 

 ヨナタンは改めて思う。

 やはり、この男は()()

 知恵が回り、欲の皮が突っ張り、行動パターンが明確で。

 実に。

 実に、操り易く()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 




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