“継承”のセンブランス   作:飴玉鉛

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大変長らくお待たせしました。


空白期間のモラトリアム

 

 

 

 

 都市機能の開発。

 老若の別なく施されるべき教育問題。

 マンパワーは不可欠なため実施される人口増大策。

 様々な企業の発展のために為される規制の緩和。

 人を使い金を回す経済問題。

 土地柄、国柄に適した法改正。

 市民である人間とファウナスの権利拡大。

 市民らの経済状況を鑑みて課せられる、税金を調整する税制改革。

 

 ――名前だけとはいえナーハフォルガーの女と籍を入れ、一族入りした故に都市の運営に食い込めた。それ事態は予定通りである。マドンナリリーの中枢に絶大な発言力を有した今、弊社は安泰だ。

 もちろん全ての問題に携わる訳ではないが、やるべき事は山積みだった。とてもじゃないが悪巧みをしている暇はなく、故にローマン・トーチウィックは真っ当な仕事を日々捌いている。

 

 だからこそ、腹立たしい事案にどう対処するかについて、知恵を絞らされるのは億劫だった。

 

「はぁぁぁ……。……これで何度目だ? え?」

「す、すまねえ……」

 

 マドンナリリー建設に伴い立ち上げた合資会社【シンザシス・オペレート・カンパニー】のオフィスで、ローマンは部下である()()()()――本名ヘイ・ションを詰問していた。

 

 ジュニアは裏社会に通じる元斡旋業者だ。

 嘗てはヴェイルを拠点にしていたが、多くの利権を手中に収めたローマンによって引き抜かれ、その経歴と実績を評価されシンザシス・オペレート・カンパニー……SOCの警備部門の主任に抜擢した。

 ジュニアは有能と言い切れないが、少なくとも無能ではないと思っていたのだが――どうやらその評価を改めねばならないかもしれない。ローマンの呆れ返った眼差しに、大柄なジュニアは縮こまるばかりだ。

 

 なまじ裏社会に通じていただけあって、ジュニアはローマンのやり口をよく知っている。

 今でこそ真っ当な事業に専念しているが、彼の本質は何も変わっていない。機嫌を損なえば生きていけない事をジュニアは理解していた。故に顔を青くして、冷や汗を流しながら謝罪する。

 だがローマンが欲しいのは謝罪ではない。

 露骨に嘆息してみせたローマンにジュニアはビクリと肩を動かした。

 

「一度目は許した。誰にだってミスはある、一々目くじらを立てていたんじゃあ誰も付いてこないからな」

「………」

「二度目も、まあ許した。面白くはなかったが、色々とごたついてる時期だからだ。しかし三度も同じミスをしたとあっては、温厚な私であっても苛立ちを覚えてしまう」

 

 口にしていた葉巻を灰皿に押し付け、組んでいた脚を解いて前に姿勢を傾けると、ローマンは分かりやすく凄んでみせた。荒くれ者とビジネスマンの顔を使い分けるのにも慣れたものだ。

 

「どういう事なんだ、ジュニア? 一度ならず二度、三度と立て続けに積み荷を奪われるとは。警備は厳重にしたんじゃあなかったのか?」

「も、勿論だ、社長(プレジデント)……! だが――」

()()? だが……なんだ?」

「っ……! 積み荷の警備は通常の三倍に増やした! 部下にも気を抜かずに厳戒態勢を維持しろと命じてあった! 確かに積み荷を奪われたのは失態だ、だが必ず取り戻す! 今度はしてやられるだけで済ませてねえ、念のため積み荷には最新のGPSを潜ませてたんだ、だから奪っていった奴らの根城を突き止められた。プレジデント、もう一度だけチャンスをくれ。俺の部下達を連れて取り返しに行く!」

 

 ジュニアは無能ではない。

 彼の弁明に数秒の間を置いたローマンは、冷酷な目で彼を見据えた。その視線に生唾を呑み込みながらも、なんとか目を逸らさずにいたジュニアに社長は短く問う。

 そこまでしているのだ、下手人に対する調査ぐらいは終えているだろう。

 

「私に損害を与えた忌々しい盗人は誰だ?」

「シオンの付近にある渓谷に越してきた、ブランウェンの一族が犯人だ! ミストラルでも盗賊として指名手配されてる、マドンナリリーの警察を動かせばこそ泥どもなんざ簡単に捕まえられるさ!」

「――ブランウェン?」

 

 飛び出してきた名に、ローマンは眉を動かした。

 予想外な反応にジュニアが面食らっているのには構わず、若き社長は指先で机を叩く。トントン、トントン――と。自らの出した名に如何程の意味があるのかを、ジュニアは知らない。

 だがローマンは知っている。他ならぬ盟友から聞いた覚えがあった。そうでなくとも、もともと社会の溝鼠であった身であるのだから、他国とはいえ同業者だった者ぐらいは知っていた。

 暫し熟慮の間を置いて、ローマンは破顔する。一変した雰囲気にジュニアは目を丸くした。

 

「ジュニア、お咎めはなしだ。よく調べてくれたよ」

「え? あ……はあ?」

「真面目に働く者には正当な評価と報酬が与えられて然るべきだろう。お前とその部下――警備部門の連中は昇給だ。金一封も出してやろう。後はこちらで対応する。下がっていいぞ」

「な、なんだそりゃ……奴らは俺の面子に泥を塗ったんだ! やるなら俺がやるのが筋じゃ――」

()()()()

「っ……!」

 

 悪のカリスマ、というものをローマンは持っていない。彼は頭は切れるが大物ではなく、どちらかというと参謀タイプだ。しかし、だからこそローマンには出来る顔がある。

 それは冷酷な采配者としての顔だ。辣腕を振るう鉄血宰相めいた面こそが、彼という男の(こわ)さを際立たせる。ジュニアは言い募ろうとする口を噤み、恐々と頭を下げるしか無い。

 

「私は下がれと言ったんだがね」

「わ、分かった……プレジデントの命令だからな、社員は従うもんだ」

 

 ジュニアは半ば逃げるようにオフィスから去った。

 それを最後まで見送りもせずスクロールを取り出すと、目当ての人物をコールしながら嘯いた。

 

「ジュニアじゃ手に余る相手だ……どうせなら確実に、処分してしまわないとなぁ……」

 

 何せ鼠は害獣だ。利益を追求する弊社にとって、グリムと何も変わらない。

 彼の盟友が通話に応じる。

 ジュニアを相手にしていた時とは異なる、明らかな友好を孕んだ声音で呼ばわった。

 内心、優しいお兄さんを演じるのも大儀なもんだと嘆息しながら。

 

「よぉ兄弟。景気はどうだ?」

『――――』

「ハッハー! そいつは結構。ところで相談があるんだが、一つ仕事を頼まれちゃくれないか?」

『――――』

「そんな面倒臭がるなよ。忙しいのは分かってるが、臭い鼠がうろちょろと這い回ってるんだ。駆除するのに難儀する手合いでね、兄弟に焼却処分してもらわねえとこっちも商売上がったりなんだよ」

『――――』

「そう言ってくれると助かる。ああ、そうだ。ネオの奴も最近センブランスを見つけたらしくてね、中々使える力だ。タフな現場の空気を知る良い機会だろう? ついでに連れて行ってやってくれ」

 

 愉快げなローマンの頭の中で、既に盗賊の案件は片付いていた。

 何せ通話相手である盟友は、彼の知り得る中で最高の鬼札なのだ。レムナント広しといえど、盟友に勝る者など想像も出来ない。切れば確実に勝てるカードを持っているなら躊躇なく使う。

 

「鼠の名? ハッハー、聞いて驚け。あのブランウェンだ」

――――――――――(オズピンには報せないでくれ)

「あーはいはい、分かっているとも。おとぎの国のダンスに首を突っ込むほど暇じゃあないんでね。そっちの事は兄弟に任せるさ。良いように始末をつけてくれ。ああ、それじゃあな」

 

 通話が切れ、ローマンはスクロールを懐に仕舞った。

 まだ陽は高いが、仕事をしている気分ではなくなってしまったのだ。

 久し振りに気分転換でもするかと思い席を立ったローマンだったが――そういえばまだ、ニオへ話を通していなかった事を思い出す。

 ニオは便利だ。まだ小娘だが現時点でそこらの平社員より役に立つ。しかしその有用さは現場でこそ活かされるものだ。最近めっきり現場に出る事もなくなっていたからこそ気を遣う。

 

(私の所に置いていたんじゃあ宝の持ち腐れか……ヨナの奴に使わせとけば、何も言わないでも鍛えてくれるだろう。……ネオもまだガキだ、ガキの内から楽をさせてたんじゃ()()にならないだろうしな)

 

 あらゆる地位・名誉・装飾を剥ぎ取り、ローマン・トーチウィックという男を丸裸にすると、後に残るのは小賢しいばかりの小悪党だ。

 彼は決して大物ではない。その器はない。

 だが、なかなかどうして――ふんぞり返って気儘に振る舞うのが似合う男であった。

 悪党であり、冷徹であり、冷酷であるというのに。自分本位で、身勝手極まる男だというのに、だ。

 

 それはきっと――

 

「ん? ……チッ、またぞろ構ってちゃんの虫が騒ぎ出したのか? 嫌になるもんだな……」

 

 仕舞ったばかりのスクロールを取り出して、通話に応じると、映し出されるのはブロンドの美女である。

 生まれと育ちの良さを感じさせ、気品と知性を宿した瞳の美貌の女。ナーハフォルガーの末席に連ねる事を条件に、マドンナリリーの影の支配者の一人に君臨したのがローマンだ。

 ローマン・T・ナーハフォルガー。それが今の彼の名前である。早い話、婿入りしたのだ。彼自身は公の場でない限り、自ら進んでナーハフォルガーを名乗ったりはしないが。

 

「ゴホンッ……あー、あー……やあ! こんな真っ昼間から君の声を聞けるだなんて光栄だな! だが残念な事に私は忙し――子供が生まれそうだと!? 出産予定日までまだ日が……早産か! 糞ッ、すぐに行く! 救急車は呼んだのか? 呼んでない!? あぁもういい私が全て手配しておく! いいな、すぐに行くから少しだけ堪えておくんだ!」

 

 ――それはきっと、彼の器はあくまで小者で。斜に構えてのユーモアがコミカルで。信を置いた者の事となると、分かりづらくとも感情的になる――隠し切れない人間味があるからだろう。

 

 彼は、父親になる。

 レムナントが彼に注視しておらずとも、物語の裏側ではひっそりと作られるものもあるのだ。

 

 果たしてローマンは、以前盟友が予想したように、親バカになるのか。はたまたバカ親になるのか。神ならぬ身では想像もつくまい。いや、例え神であっても嘴を突っ込むのは野暮というものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 迫る弾丸を、ひょいっと指先で摘む。

 死角から襲い掛かってきた白刃を、反対の手で摘む。

 弾丸の方はさておき、後者の白刃の威力は並ではない。鋭い剣圧は触れるものを斬らずにおかず、斬撃は飛びアウトレンジからでも有効なダメージリソースを稼ぎ出すだろう。

 しかし、無為。凄絶な威勢を宿した斬撃は、少年の手に触れた瞬間に威力を殺された。刀身を摘んだ一瞬の間で小刻みに上下に振り、剣筋を殺した途端単純な膂力で固定されてしまったのだ。

 白刃を止めた少年本人は微動だにしていない。体幹は不動のままだ。姿勢を崩す素振りすらなく、あっと驚く声に次いで歓声が上がるのを制したヨナタンは堅苦しく言った。

 

「――結構。ユニ、ジャックハート。講義の実演に協力させてすまなかった」

 

 正面から銃撃したのが女狩人であるユニ・イハ・ナーハフォルガー。

 背後から剣撃を浴びせたのがジャックハート・イハ・ナーハフォルガーである。

 共にヨナタンの一門の人間だ。一門共通の特徴であるブロンドが目映い。

 彼らは双子だった。短髪に眼帯をしている精悍な面構えの女、ユニは双拳銃を下ろして頭を下げる。ジャックハートもそれに倣った。

 

「いえ、お構いなく。今後も必要とあらば何時でもお声を掛けください。愚弟ともども即座に駆けつけましょう」

「ああ、()()()()ようで何よりだ。下がれ」

「!!」

「は……ハッ! ほら、行くぞユニ! 嬉しいのは分かるが下がれと言われたんだぞ!」

「あ、あぁ……」

 

 相変わらず、血が濃いだの薄いだのが褒め言葉になるのは理解不能だ。

 

 嘆息するのは呆れたからではない。単なる意識の切り替えのためだ。ヨナタンは去っていく二人から目を切って、校庭で整列してこちらを見ていた生徒達に向き直る。

 今は、週に一度の臨時講師としての時間だ。第一期生――二回生であるNアカデミーの面々は、たった今目の前で見せられた光景に興奮しているようだ。年頃で言えばもっと騒ぎ立てても不思議ではないが、彼らは許可なく私語を交わす事はない。上がった歓声は驚きと高揚を抑えきれなかっただけで、それに関しては目くじらを立てるつもりもなかった。

 もともと、ヨナタンは鞭と飴で言うところの飴の役どころだ。厳しくはしない。――もちろん他所のアカデミーの基準では教鞭を執れないほど厳しいが、無駄な比較はするだけ無駄だろう。

 

「――さて、諸君。たった今、私が何をしたか理解の及んだ者はいるかい? 理解できた者は挙手しなさい」

 

 言うと、21名全員が手を上げた。

 それに満足げに頷く仕草を見せる。もちろん満足できるレベルではない。こんなのは今までの講義を理解していたら分かって当然なのだから。

 それでも敢えて満足したように見せたのは、所作の一つに至るまで、きっちりと『優しい先生』を演じる為である。ぐるりと生徒達の顔を見渡したヨナタンは、無事役割を演じられている事を確信した。

 

「では……そうだな。セージ、私のした事を分かりやすく説明しなさい」

「はいっ!」

 

 いつぞやヨナタンが手ずからビラを渡し、今や生徒の一人に加わった少年、セージ・アヤナ。健康的に日焼けした黒髪の少年は、以前のようなあどけなさを微塵も残しておらず、はきはきと返事をする。

 彼は見込んだだけの価値がある、優秀な才能の持ち主だった。トップのA班に次ぐ成績を有するB班のリーダーであり、ゆくゆくは一廉のハンターになるだろう。

 

「先生はオーラで身体能力を活性化させ、著しく強化していました」

「具体的には?」

「オーラとは魂の力です。肉体の力ではありません。だから肉体のように鍛えた分だけ成長する事はないので、オーラを扱う上で重要になってくるのは心と体の親和性です。体にどれだけオーラを溶け込ませられるか……これは集中力と根気強さが肝要で、オーラを肉体に纏わせる力が高まれば高まるほど、先生のように身体能力を高める事ができます」

その通り(イグザクトリィ)。素晴らしい回答だ。B班に五点評価を与えよう」

「ありがとうございます!」

 

 セージの顔が明るくなった。小さくガッツポーズも取っている。彼の班員も同様に喜んでいた。

 Nアカデミー独自の評価形態として、彼らの給与にダイレクトに影響するものがある。座学の成績や生活態度の他に、訓練中に教官から与えられる点数が影響するのだ。

 それを稼げば稼ぐだけ、給与の金額が増加する。家に仕送りをするためにNアカデミーに入学したセージは、こうした点数稼ぎに貪欲だった。据え置きの給与だけでは満足していないのである。

 実に結構。彼が無邪気に喜んでいるのに、微笑んで見せた。だが残念賞だ、彼の回答は物足りない。

 

「――だが満点とは言えないね。答えは分かっているはずなのに、言及していなかった。ケアレスミス……というのとは違うが、以後気をつけるように。言葉足らずで人に誤解を与えてはいけないからね」

「え……?」

「セージの回答に補足を加えられる者は?」

 

 ヨナタンの言葉を聞いてセージが固まる。

 はい! とセージを除く全員が手を上げた。ヨナタンは反射的に、最前列で手を挙げて存在を主張するワイスを指名しようとしてしまうが、なんとか堪えて別の生徒を見た。

 視線から外れたことで肩を落とし、悄気かえるワイスに胸が痛む。だがわかってほしい。先週の講義の時に二回も指名していたのだ。あんまり贔屓するようでは職務に差し障る。

 

「それじゃあ――っと、失礼」

 

 自信満々に手を上げているノーラ・ヴァルキリーと、姿勢正しく挙手しているライ・レン。彼らに答えさせるのもいいが、今回は別の生徒にしよう。とりあえず現状最下位であるG班の誰かが良い。

 班員の実力は平均で横並びになるようにしている。A班からG班にかけて、成績順に班位を繰り上げさせていく形だが、G班だからといってワイスのA班より遥かに劣るという事はない。

 全員に、均等に、チャンスを与える。そうでなければならない。ならないのだが――タイミング悪くスクロールが着信音を発した事で、ヨナタンは講義を中断せざるを得なかった。

 

 相手は……ローマンである。またぞろ仕事を押し付けようというのだろう。

 

 暇で暇で仕方なかった、ヴェイルにいた頃ならともかく、睡眠時間を丸ごと削らねばならないほど多忙な今は迷惑だ。こうして臨時講師をしている時だけが気の休まる唯一の時間だというのに……。

 行政機能の作成、アトラスとミストラルの介入を最小に抑えながら法整備全般に口を出し、手を出し、知恵を出す毎日。並行してマドンナリリー周辺の警備も行ない、ファウナスの受け入れを進める為、住民の理解を得ようと定期的に街頭演説もしている。普通ならとっくの昔に過労死しているはずだ。睡眠休息食事をしなくとも活動でき、人の域にはない精神力の持ち主であるヨナタンでなければ、到底今の彼の仕事量を捌けはしない。

 人が足りない。とにかく、マンパワーが必要だ。

 マドンナリリー建造には、ヨナタンがいなければどうにもならない。歪だとは思うがアトラスとミストラル、オズピンをはじめとするアカデミーの学長達などの力を借りればその限りではないし、今より百倍は楽が出来るだろうが、そういうわけにもいかない。マドンナリリーはヨナタンの夢が始まる地である。既得権益からの侵食は可能な限り排除しなければいけなかった。

 こんな糞忙しい時に何を、とは思うものの。火急の事態であったら対応しないわけにもいかない。よっぽどの事でなければ、アッティラ同様自分の分身体であるルキウスに対処させよう。そう結論づけて通話に応じたヨナタンは、盟友ローマンの話を聞いて眉をひそめた。

 

(ローマンの合資会社……SOCの物資を奪っていく盗賊。ブランウェンの一族だって?)

 

 ブランウェンと聞くと、クロウ・ブランウェンというハンターの存在が真っ先に思い浮かぶ。クロウはオズピンの手駒の一人で、彼が最も信頼を寄せている存在の一人だろう。

 クロウには双子の姉だか妹だかがいたはずだ。名は……確かレイヴン・ブランウェンだったか。元々クロウと同じくハンターとしてオズピンの手駒になり活動していたはずだが、ワイスと同い年の娘であるヤン・シャオロンが生まれた年に行方を晦ませていた。

 

 まさかハンターを辞めて、オズピンを裏切り、一族の寄り合い世帯である盗賊団の下に帰っていたのか? いったいなんのつもりなのだろう。オズピンに仕えていたのなら、裏の事情にも精通してあるだろうし、やもするとヨナタンの存在には細心の注意を払っているはずだが……なぜこうも不用意に、マドンナリリーに本社を置くSOCに手を出した? ――レイヴンが盗賊団にいる事は確信している。小者に過ぎない盗賊風情なら、とっくの昔にマドンナリリーの近辺から逃げ出しているはずだからだ。

 ローマンとヨナタンの関係は公になっていない。だがローマンはナーハフォルガーの女の下に婿入りしている。ヨナタンがさせたのではなく、ローマンが勝手にやったことだから身内意識はないが、唯一無二の共犯者であるという意識はあった。

 レイヴンやその一族が裏社会の情報に精通し、ローマンの事を調べたなら、藪を突いた結果ヨナタンという蛇が出てくる事を予想し得ないとは思わないのだが……。そもそもマドンナリリーにはアトラスやミストラルが出資し、特にアトラスの軍も隊を派遣してきている。普通は形勢悪しと判断して、ミストラル王国から出て行くのが盗賊として正しい行動のはずだ。

 

 となると、レイヴンが自意識過剰な自信家で、愚か極まる無能でも無い限りは、なんらかの思惑があってSOCに手を出したと判断するべきだ。ではその思惑とは?

 

(ま……なんだっていいけどね……)

 

 ヨナタンの頭脳が高速で回転する。

 レイヴンは恐らく馬鹿ではないはずだ。少なくとも――オズピンがヨナタンに対して伏せている情報も持ち合わせている。ならば彼女の身柄を確保する事は無駄にはならないし、たとえ彼女が稀代の女傑であっても一族である盗賊団を捕縛すれば人質にできるだろう。同時に焼け石に水でもマンパワーの一部に注ぎ込めるはずだ。これまでの罪を、マドンナリリー建設の仕事に従事することで恩赦を与え、特別に免罪するとでも言えばいい。

 そこまで考えて、ヨナタンは意を決する。

 

「みんな、すまないが急用ができた。空いた後の時間は自習に宛てなさい。休憩時間にしても構わない」

 

 ヨナタンは講義を打ち切る。仕事を投げ出すみたいで良い気はしないが、何事にも優先順位はあるのだ。半ば道楽に等しい臨時講師に現を抜かしてばかりもいられない。

 スクロールを操作して、遠隔でバイクを走ってこさせる。それに跨って、ヨナタンはアクセルを廻してNアカデミーを後にした。

 

 ローマンはニオをこちらに付ける事にしたらしい。彼女もセンブランスを発現したようだし、有用な能力なら積極的に活用させ、鍛えると面白いかもしれない。

 

 レイヴン一党を捕縛する。ヨナタンはその目標を胸に、耳心地のよいバイクの駆動音を聞きながらニオを回収しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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