“継承”のセンブランス   作:飴玉鉛

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※!!注意!!※

下品、下ネタがあります。
苦手な方は読まないでください。
この話を飛ばしても、なんら問題はありません。


時計の針を進める時

 

 

 

 

 ドタドタドタ。そんな慌ただしい足音が聞こえた時、ローマンは書類の決裁を行なっていた。

 SOCの開発部門から、開発費の増額嘆願書だ。申請するに至った経緯と、増額分をどのように使うかの計画書も添付されている。それに目を通して良さげと判断し承認したところであった。

 何事だと思った。ローマンのオフィスに来れるのは幹部のみ、自分の部下にこんな頭の軽そうな足音を立ててやって来る手合いはいないはずである。強いて言えば警備部門のジュニアなら、火急の事態に際して大急ぎで来訪する可能性はあるが……それならそうで、事前にスクロールへ一報入れてくる。

 億劫そうに顔を上げ、ローマンは「くだらない要件なら減俸ものだな」と、強権を有するワンマン企業特有の理不尽を振りかざした。

 

「ローマン! 大変だ!」

 

 果たして、ドアを蹴破る勢いでやって来たのはヨナタンであった。

 

「――ヨナ!?」

 

 若きローマンは動揺する。ヨナタンが血相を変えていたからだ。

 ()()ヨナタンが、だ。人類最終兵器こと無敵のロイヤルストレートフラッシュ――皮肉屋のローマンをして取り扱い注意の意識を持ち続ける共犯者、ヨナタンが明らかに狼狽している。

 ローマンの頭脳が高速で回転した。あのヨナタンが慌てるような事態とはなんだ。……だめだ、全く思い浮かばない。思い浮かばない事が尚の事ローマンを焦らせた。

 

 椅子を蹴倒して立ち上がったローマンは、なんとか冷静さを取り繕って問い掛けた。

 如何にしてヨナタンをも動転させる事態に収拾を付けるか――アトラスやミストラル、ハンター共の動員方法とその口実を複数通り考え、何を言われても慌てまいと心を強く持った。

 

「ヨナ……落ち着け、何があった?」

「あ、ああ……! 落ち着いてる、僕はこの上なく冷静さ!」

「分かった、分かった。で、どうしたんだ?」

「驚かないで聞いてくれよ……」

「もちろんだ」

 

 たっぷり溜めるヨナタンに、ローマンの顔にも隠し切れない緊張が走る。

 明日世界が滅びる、そう言われても良いように身構えた。

 

「……んだ」

「……なんだって?」

 

 掠れた声で言われ、聞き返すと、ヨナタンは迫真の表情で怒鳴った。

 

「だから! 精通したんだ!

「………………………は?」

 

 せい、つう……?

 ……。

 ………。

 

「………」

 

 呆然とし、のろのろと動いたローマンは、倒してしまった椅子を起こすと深く腰掛ける。

 それから、愕然とした。

 いや、まさか、と。そんな馬鹿なと。

 そんな馬鹿げた報告があるか? あったとして、なぜそれを自分に報せる?

 いやいや、待て。ヨナタンはそんなアホみたいな真似はしないはずだ。

 精通した。これを字面通りに受け取らずに考え――だめだ! どう考えても男児が性に目覚めたアレとしか思えない!

 

「ど、どうしたらいいんだ? 僕の男性器はどうなってしまってる? なんで久し振りに寝て朝起きたら僕の僕が怒張してたんだ? もしかして病気?」

「……なあ、ヨナ」

「ローマン! 僕は病気なのかい?!」

 

 よくよく見てみると、ヨナタンは半笑いだった。

 

「……私をからかって面白いか?」

 

 言うと、ヨナタンは破顔した。

 声を上げて笑っている様に、軽く殺意を覚えたローマンである。

 

「ハハハハハ! いや、すまなかった。でもちょっとした予行演習にはなったんじゃないかい?」

「……予行演習。なんの?」

「聞いたよ。子供が生まれたんだって? 双子の兄妹らしいじゃないか。将来兄の方が動揺して頼ってくるかもだろう? その時の予行演習だよ」

「………」

「水臭いじゃないか。子供が生まれたんなら教えてくれてもいいだろう? ほらこれ、出産祝いの金一封とベビー用品。一通り揃えてあるから不足はないはずだ。本当は奥さんの方に渡すべきなんだけど、彼女は僕の一族だろう? 深淵狩りである僕が会いに行ったら祝うどころじゃないぐらい興奮されてしまうからね、こうしてローマンに渡しに来たってわけだ」

 

 どこからともなく、なぜかコミカルな動きで取り出した大量のベビー用品が机の上に並べられ、ローマンは震える。盟友に祝われた気恥ずかしさ、嬉しさで感極まったのか?

 断じて否だ。なおもお祝いの言葉を並べ立て、あたかも高名なオペラ歌手の如く祝福の歌を唄い出したヨナタンに、ローマンは久し振りに()()()と何かが切れる音を聞いた。

 

「帰れッ!!」

 

 机の上のベビー用品の山を腕で払い落として怒鳴ると、ヨナタンは笑いながら退出した。

 ヨナタンの笑い声が廊下の向こうから聞こえて来て、それが遠ざかりやがて聞こえなくなると頭を抱えた。この時の気持ちを言語として出力する事は、博識多才なローマンをして叶わなかった。

 

 その後、ベビー用品やご祝儀の中に潜んでいたメモ書き――盗賊団の処遇と春の女神確保後、魔法の力を獲得した旨を分かり易く纏めた報告書を発見し、ローマンは無性に腹が立ち髪を掻き毟った。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 精通した。

 

 破廉恥にもローマンをからかうネタにしたが、実を言うと結構焦っていたりする。今までの人生でここまで焦った事はないというほどに。何を大袈裟なと思われるかもしれないが、精通は一大事なのだ。

 もちろんヨナタンの肉体は人間だ。心もそのつもりである。自らの前身たちに男は数え切れないほど居て、同じ数だけ同じ経験をしていた。故に精通を迎えた程度でパニックに陷るような事はない。

 問題は、ヨナタンであってヨナタンではない、深淵狩りという存在の核だ。古代を生きた老戦士の意志が命じてきているのを、本能が感じている事が何よりもヨナタンを焦らせていたのである。

 

 ――深淵狩りの根幹は転生という死霊術の極みに位置するセンブランスだ。

 

 そしてセンブランスとはオーラであり、オーラを別名で記すなら魂で、魂は血縁によって似通うもの。早い話、遺伝子によってある程度オーラの性質が似てしまう。ナーハフォルガー家に深淵狩りが多く現れるのは、それだけ老戦士の血脈を色濃く受け継いでいるからに他ならない。

 深淵狩りの転生は、老戦士の魂に近い性質の持ち主に行なわれるからだ。

 古代、最初に転生が行なわれた際の空白期間はそこそこ長かったようだ。しかし時代を経るにつれ、転生のサイクルは徐々に短くなっていった。時の変遷と共に老戦士の血脈が各地に広がり、血の分布が広がったからだろう。そのメカニズムを把握して以来、以後の深淵狩りは例外なく子沢山だった。積極的に子孫を残し、残弾を作れという老戦士の意志が働いている証左である。

 深淵狩りは常に初代である以上、深淵狩りが転生を繰り返す限り、血が希釈され過ぎて自然消滅するという事はない。人類が一人残らず絶滅しない限りは深淵狩りも不滅なのだ。

 そしてその特性を理解しているからこそ、老戦士は自身の写し身に課した使命で妥協はしない。例外的に固有の自我を有する事を赦されたヨナタンであっても、稀な例外になる事はなかった。

 

 つまり。

 

(……ヤバい)

 

 ヨナタンは、ヨナタンが深淵狩りという存在である宿命として。

 

(チ○コが滅茶苦茶痛い……!)

 

 性欲過多で生殖行為に並ならぬ情熱を持つという事だ。

 

(痛い! チ○コ! 洒落にならないぃ……!)

 

 さっきからずっと勃起しっぱなしのヨナタンである。

 痛いほど勃起していた。ちんこちんこと小学生じみて連呼するほど痛い。

 幸いにも下半身の膨らみが判じ難い、ゆったりしたズボンと裾の長い胴衣を着ていたから誰も気づかず、数百年単位で磨いた熟練のチンポジ調整の達人でもある事が世間体を救っていたりした。

 もはや女とみれば誰でも良いぐらい目が血走っている。理性が蒸発しそうであり、その情欲は無欲にして清廉、不能者に等しい聖人を強姦魔にクラスチェンジさせかねない強さだ。ヨナタンの精神力が人外の域になければ女漁りに出掛けてしまいかねない。

 

(痛い!)

 

 だが、痛い。

 我慢していても痛いものは痛い。

 ありとあらゆる拷問を受けても笑っていられるだろうに、この痛さは耐え難い。なぜなら痛覚が痛みを発しているのではなく、深淵狩りとしての本能が発する強迫観念だからだ。

 その痛みを常人の男のそれに変換して例えるなら、ペニスの怒張により感じる痛みを何億、何兆倍にも増幅させているかのようだ。控えめに言って地獄である。男なら発狂してしまうだろう。

 いっそ睾丸ごと切り落としてやりたくなるが、絶対駄目という老戦士の厳命が本能に落ちてきて実行できない。男も女も極め尽くした数百年単位の自慰の技を行使もできない。くどいようだが転生のメカニズムを把握してしまって以来、深淵狩りは生殖行為を使命の一つにしている。無駄打ち等できない。

 このままでは不味いとヨナタンは確信した。

 ぶっちゃけ女を見たら我慢できなくなる可能性がある。ワイスをはじめとしたNアカデミーの女児たち、親しくして心を開いてくれたニオ、彼女達にだけは絶対に会えない。

 

(――なんで僕なんだ!?)

 

 思うのは、それだ。

 

(僕じゃなくても、ルキウスでもいいだろう!?)

 

 抗議する相手は自らの原点だ。聞く耳は物理的に無い相手だが。

 

 ルキウス・カストゥス。『アビスウォーカー』として活動したヨナタンの役を担わせた、ヨナタンの分身体であるファウナスの男。機械の体しか有さないアッティラはいいにしても、ルキウスは生身の体を持つもう一人のヨナタンなのだし、生殖活動を積極的に行なわせるのあちらでもいいはずだ。

 なぜ本体のヨナタンにやらせようとする。あれか、ルキウスは所詮オーラとセンブランスで人為的に造られた仮初の生命だからか? ヨナタンの意志一つで自壊する人形だから? なら納得だ。

 

(ルキウスは駄目……なら僕はどうしたらいい? まぐわえる女の宛てなんて僕にはない!)

 

 ――ヨナタンが正常な自我と良識と良心、善良な性質である事が災いした。

 ヨナタンは商売女を孕ませるような無責任な真似はしたくない。

 子種をバラまくような、精子脳丸出しな所業に手を染めたくもない。

 まして親しくしている女の子や、いたいけな少女、妹分のワイスをそうした対象にするのはハッキリ言って御免だ。泣かせたくない。だいたい妹に手を出す兄貴は兄じゃない、そんな兄貴は死ねばいい。

 では全自動ヨナタン肯定血統、ナーハフォルガー家の女はどうだ。押し倒したら頼むまでもなく股を開いて全力で受け入れるだろう――だから嫌だ。というか人としてそんな真似をしてはいけない気がした。

 なら、なら……交渉して子供を生んで下さい! と頼むしかない。赤の他人だと「頭大丈夫?」と言われかねないので、ここは顔見知り且つ交渉のできる女に頼もう。

 

(「――レイヴン。子供ほしくない?」『死ね』)

 

 スクロールを取り出して連絡した経産婦、レイヴン。彼女に打珍しようとして、その遣り取りがどのように帰結するか秒で予知できたヨナタンはまだ辛うじて冷静だった。

 なんとかレイヴンに連絡しようとする自分をねじ伏せ、ヨナタンは悩む。

 やはり風俗。男の楽園に行くしかない。金を山のように積んで交渉したら一人ぐらい「子供生んであげてもいいよ!」と言ってくれる天使のような女性がいる可能性が微粒子レベルで存在する。

 なおその可能性は金で子供を生む天使という、天使とは? と疑問を懐く相手で。肉体年齢10歳の少年の子供を生める事に興奮する、度し難い変態天使ぐらいなのだが。あとよほど金に困っているかどうか。

 

(淫乱な天使も変態天使も嫌だ! 金に困ってる女性の弱みにつけ込むような真似も嫌だ!)

 

 ヨナタンは善人だった。意図的に悪事も行なえるが根っこの部分では善人であり、えっちな事をするのは好きな人が良いという、これまでの行ないや性格、立場や能力に反比例するピュアな面もあった。

 そんな一面を自分が持っていることを発見したヨナタンは複雑な心境だが、もう悠長な事は言っていられない。ヨナタンは起死回生、この股間の高ぶりを沈静化させる一手を閃いた。

 

(そうだ! オ○ホを作れば良いんだ!)

 

 思い立ったが吉日。

 自慰は無理、生きてる女の人相手もこんな精神状態では無理となればやるしかない。ヨナタンは大量の肉と水を用意して館に帰ると、使用人達に誰も近づくなと厳命して自室に閉じ籠もった。

 女の肉体を人体錬成し、そこに精を吐き出す――史上初、女の自分の体をオナホールにする男が誕生した。

 

「……死にたい」

 

 夕方から始まって事が終わったのは夜明け。

 何十発も発射してやっと回復した理性は、ヨナタンを猛烈な自己嫌悪に誘った。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 建設中のマドンナリリーに根を張って、多種多様且つ大量の仕事に忙殺される数年間を、ヨナタンはそうして過ごす事になる。

 時代を進める時の針が、その動きを重くしたのは、マドンナリリーが完成した年のこと。

【カオス】がミストラルの裏社会を完全に掌握し、マドンナリリーにまで進出してきた頃だ。

 

 ヨナタン・ナーハフォルガー、14歳。いよいよ、表舞台で鮮烈にデビューする時がきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※ヨナタンは限りなく真剣でした。
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