厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる 作:アトミック
満月の夜。
俺はロリと二人で夜道を歩いている。昨日ぶりだな、なんて、ふと思った。
「なァ、クソロリ」
「なんだ、ろくでなし」
「どうしてよ、アレクラマスってヤツは俺たちに9位の女を助けさせようとしてるんだと思う?」
「簡単なことだ。あの男は、私とお前の実力を見極めたいのだろう。科学的な装置か、魔法かは知らないが、今この瞬間も遠くから監視しているに違いない」
「げ、まじかよ。じゃあ、この喋り方とかまずいんじゃね?」
「ふん。世界一の魔法使いの私が近くにいるのだ。舐めるな。姿を覗き見るのは許してやるが、あの男に声まで聞かせてやる気はない。ヘンな振る舞いをしないのならば、好きに喋っていいぞ」
「そんなことまでできるのかよ」
「私に不可能はない」
堂々と言うロリの姿は、とても様になっていた。五千年生きてるだけはあるわ。
「そもそも、だ」
「ああ」
「あの男のランキング9位の女が襲われている―――というのも、恐らく、あの男の仕組んだことだろう」
「はあ!? どーいうことだよ、それ」
「さっきも言ったろ、ばーかぁ。あの男は私とお前の戦闘能力が見たいのだ。そのためだけに、その女を襲わせることにした。もしかしたら、あの男が私たちの家に来て、私が依頼を引き受けた瞬間に、あの男から暴漢に女を襲うよう指令が下ったのかもしれん」
「じゃあなんだよ。あの男の依頼を引き受けたから、その9位の奴は襲われるってのか」
「かもな。知らん。どうでもいい話だ」
なんともまあ胸糞が悪い話である。それをどうでもいい、の一言で片づけてしまうロリもロリだ。ほ、本当にヒロインなんだよな? 間違いないはずである。もしかしたらこの物語は主人公の手でヒロインの腐った心を溶かしていくタイプのやつなのかもしれない。仮にそうだとしたらクリア不可能な気がするんですけど。
アレクラマスの悪人感が半端なくなってきて、その旧友のロリもだいぶ怪しくなってきて、俺は胃がキリキリしてきた。とんでもないヤツと一緒にいるんじゃないか、なんて、今更になって俺は考えてみる。
「お前、どうするつもりか考えておけよ」
「なにが」
「アレクラマスは一昨日のお前の戦闘を見ている。その場で魔法を使わなかったことも理解している。だから、あの男はお前がどのような魔法を使うのかを確認したがっているのだ。……まあ、魔法が使えないということが露見する可能性は低い、とは思う。何しろ私の下僕だ。そんな使えぬやつがいるとは思うまい。ただ、今回も魔法を使わなければ、何かしらの疑念は抱かれるだろう」
「どうしろってんだよ。俺、どう足掻いても今魔法は使えないぜ」
「今ってつけるな。一生使えんぞお前は」
「まあ、そう思っとけ。俺は主人公だから、後半に覚醒するんだよ」
「…………まあ、好きに言ってろ。魔法の件はどうにもならんから、どうにもならんなりに誤魔化せ。『お前らなぞ相手する必要もない』みたいな感じで余裕ぶるなり、『今日は偉大なるチーシュコヴァー様にお任せします』と頭を下げるなり、好きに振る舞っていい。勘違いさせるのはお前の得意分野だろ?」
「得意分野ってか、慣れちまっただけな気がするけどな。まあいいや。俺はお前の後ろで戦わずにふんぞり返ってるよ」
「好きにしろ。久しぶりに、私も暴れてみたかったのだ」
そういうロリの瞳は、爛々と輝いていた。こっわ。俺を色んな意味で捕食するときと同じ目だ。
こりゃ、とんでもないことになるな。ぶる、と背筋が震えた。こわい。こわいが、よく考えてみると、ロリが誰かと戦うとこを見るのは初めてだな、と思った。この、どう考えても規格外のロリの戦闘は、一度見てみたかった。怖いもの見たさ、というヤツだ。
「その9位がどこにいるのか、わかっているのか」
「歩いていれば、じき着く。遠見の魔法を使えるのはアレクラマスだけではない。後およそ十五分で着く距離に、その女はいる」
「見えるのかよ」
「ああ。見える。……お。まずいな。だいぶピンチだ。ふむ。暴漢どもは大した実力はなさそうだがな。どうやら9位の女は、本当に雑魚らしい。困ったな。これでは私の下僕が務まるのか大変心配だ―――」
「……だいぶピンチって、どういう状況?」
「服は半分脱がされて、とても扇情的だとだけ教えておいてやる」
「とんでもないくらいピンチじゃねえか!」
到底十五分じゃ間に合わない感じである。
そうだった。そうだよな。この世界ってエロゲなんだった。このロリに普段俺がされている色んな意味でR18なことを考えてみてもそうだし、他の人間にだってそれは適用されているのだ。俺のよくやっていた全年齢対象のRPGとかにはないエロとグロが存在しているのである。そりゃ、そーいう事態になってもおかしくないのである。
「急ぐぞ!」と俺は言ってみたが、ロリはだいぶ気乗りしない様子だった。「もっとピンチになってから行った方がよくないか?」とかいう悪人極まりないことを言いだす始末だった。
俺は何とか宥め、賺し、それでも全然言うことを聞いてくれないので、「今度なにか言うこと聞いてやるから!」と軽はずみな言葉を口にすると、ロリは嗜虐的な目で嬉しそうに「本当か!」と叫んだ。
「男に二言はないよな」
「ああ。……優しいヤツにしてくれよ?」
「それはその時の私の気分だな。なあに、安心しろ。お前には痛いだけではなく別の感情も芽生えるようにしてやる」
「……痛いのは確定なの? もうその時点で全然優しくないんですけど」
もしかしたらとんでもないくらい馬鹿なことを言ったのかもしれなかった。その9位の奴を助けるために俺が犠牲になってどーすんだ! ま、まあ、だけど、これも主人公っぽいだろ。たぶん。いずれ報われるはずだ。
「そういうものだ。諦めろ。……うむ。距離感はつかんだ。おいお前、私の手を握れ」
「はあ?」
「早く!」
言われるがままにロリの手を掴んだ、その時。
俺とロリの身体が、消えた。
身体が消失して、それでいて、感覚だけが生きている。ふわふわと浮いているような、不思議な感覚。無重力空間にいるようで、そのまま風船みたいにどこかに飛んで行ってしまうような不安定な感じがして、俺は思わず暴れそうになり、瞬間、なにかに抱きしめられるような感覚に包まれた。
直感でわかる。ロリだ。安心しろ、というようで、実際に俺はどこか安堵した。ロリがいるんなら大丈夫だろ、みたいな感じ。安心したから、逆に、今度はむかっ腹が立ってきた。この状況はどんな状況なんだよ。説明もなしに意味のわかんないことするんじゃねえ!
『今、高速で移動しているのだ。もう数秒で9位のところに着く』
頭に響くような声がした。ロリだ。相も変わらず俺の考えていることなどお見通しらしい。
高速移動。まあ、たぶん、これも魔法なんだろう。詠唱した様子は見えなかったけど、どうなっているのだろう。すべてがわかんなかったが、わかんないなりに、思うことはあった。
こんな芸当ができるんなら最初からやれよ。
俺は、ロリに伝わるよう胸中でそう思った。当然、返事は返ってこない。この女は、都合の悪い言葉は無視するのである。
視界がクリアになった。
目の前には数十人の男が立っている。少し離れた場所に、ロリの言ったような姿―――すなわち扇情的な姿で―――銀の髪をくるくる巻いた、お嬢様みたいな女の子が一人、地面に横たわっていた。その姿から見て、とても抵抗したことが窺われる。俺はあまりの光景に少し呆然としたが、表情には出さない。ロリ以外の人間がいると、不思議と自然に表情が硬くなるのだ。装うのに慣れてきているのだろう。
俺たちが現れたのを見て、向こうはとても動揺している様子だった。まあ、当たり前だろう。
「だ―――誰だよ、テメエら」
「名乗るほどの者ではない」
いや、これは違うな。俺は内心首を捻った。時代劇じゃねえんだから。なんかもうちょっとうまいこと言えたはずである。
そんな、場にそぐわないことを考えて、そこで俺は初めて気がついた。あれ。おいおい。
呆然と俺を見つめる男たち。彼らのうち二、三人が、俺と目が合っただけで気絶しており、残りの半分以上が腰を抜かしていた。
「……………………」
少し困惑して、ロリの方を見る。彼女もこの光景は予想外だったらしく「雑魚しかいないのか」と呆れたような声を見せた。魔法学園の生徒をもビビらせるこの威圧は、彼らにとって供給過多であったようだ。
予想外も予想外ではあるものの、俺にとって都合が良いのは確かだった。
相手が雑魚なのならば、何の問題もない。ロリを頼る必要もない。寧ろ、その逆。こんな奴らに勝ったところで何も得られないのかもしれないが、遠目から見ているアレクラマスを少しでも騙せるかもしれない。
「詰まらんな」
左腕をぱきりと鳴らす。全力じゃないけど、そこそこの力を入れた。義手に力を入れるということは、この威圧が強くなるということである。
一人、一人と腰が抜けて、意識が刈り取られていく。視界の隅っこにいる半裸の女も、意識を失う寸前だったが、無視した。これを制御することは俺にもできない。まあ、不幸な偶然だ。結果的に救ってやるんだから、これくらいは許していただきたいものである。俺は、そんなことを考えて少しだけ笑った。
借り物の威圧を使って、偽物の実力を騙って、随分とまあ上機嫌なものである。だが、元来、俺はこんな性格である。せっかく主人公に選ばれたんだし、それなりに主人公っぽく振る舞ってやっているものの、根っこはそんなに変わらない。
と、そんなことを思っていると。
俺の方に何かが飛んでくるのが見えた。げ、と内心で少し声が漏れ、咄嗟に顔を左に傾ける。瞬間、俺の先ほどまで顔があった部分を、風が通り抜け、さらにその数秒後、背後から爆発音が響いた。振り向かない。振り向かないが、とんでもない威力の魔弾が、俺の顔付近を通過したのは、確かだった。背中からぶわっと汗が噴き出す。避けられたのは偶然だった。
な―――なんだ? 無表情を装ったまま、飛んできた方を見る。そこには、一人の男がいた。
「まあ、躱すよな。躱せるスピードで撃ってやったんだぜ、今のはよ」
飄々と言う彼は、額から少し汗を流しているものの、余裕そうな素振りだった。ま、マジかよ。アレクラマスとロリを除いたら、俺の威圧を受けてここまで平気な顔をしているやつは、初めてだった。
「なんだ、貴様は」
「名前を知りたいのかよ」
「名乗ってみろ」
「ドラル・ルチア。
「ハキム・ハーロック」
「あ、そう……まあ、実は知ってたんだけどね。アレクラマスの奴に言われてさ、あんたらが来るのは知ってたわけ。ハーロック君は最近、26位になったんだっけか。おめでたいねー、まあ、俺の方が序列は上なわけだけど、さ」
「………………」
好き勝手に喋るやつである。
困った。俺はだいぶ困っていた。それを外見に出さぬように苦労していた。どう考えても勝てねえ。メイリと戦った時みたいに、相手をビビらせることもできる気がしない。詰み、だ。どーやってこの場を切り抜ければいいんだ? 俺は何も思いつかないでまあまあ困っていると、隣から、俺を越えて歩を進める奴がいた。
ロリだ。
俺はそれを見て、久しぶりに感動した。俺の危機を助けてくれるわけだ。なんだかんだいっていいヤツじゃねえか。メインヒロインっぽい感じじゃねえか。そう思っていたが、彼女の表情を見て、俺はすぐにそんな気分が吹っ飛んだ。
ロリの瞳は、いつもベッドに寝ている俺に襲い掛かってくる時と、同じ色をしていた。頬は少し赤くなっていたし、その手は何をするつもりなのか、十本の指をくねくね動かして、今にも襲い掛かりそうな雰囲気だった。
こ、こいつ、興奮してやがる―――っ!!
久しぶりに強い奴と会ったからなのか? わかんないけど、彼女が明らかに昂っているのは確かだった。やばいやばい。
「なんだよ、ハーロック君は引っ込むのか」
「……どうやら、そうなりそうだな」
俺は内心ほっとしながらも、とりあえずそう言っておく。
「お前。強そうだな。私にはわかる。わかるぞ。ランキング18位かァ……最近の魔法使いのレベルは格段に落ちたと思っていたが、お前は18位ならば、まだ楽しめそうだな」
「偉そうな女だな。まあ、でも、わかってんじゃねえか。本来ならば俺は10位以内には入れているはずだ。アレクラマスの野郎がよ、あんなガキを9位に入れるなんて馬鹿みてえなことをするから、この序列自体が歪んじまってる」
「この序列がマトモではないことには同意してやろう。―――おい、ハーロック!」
「なんだ」
「あの男、下僕にするにはどうだ? 仲良くやっていけそうか」
「不可能だな」
これは本心だった。こんな男とやってけねーよたぶん。もっと話してみたらいいヤツなのかもしんねえけど、無理は無理だ。俺の希望はローウェルみたいな普通の優しい男なんだよ。
「そうか。そうかァ……つまり、この男は私がどう処分してもいいわけだな」
「……命は取るな。面倒だ」
「注文の多いやつめ」
当り前だろ。俺の目の前で人が死んだらトラウマなるわ。
「随分と舐めくさってくれるじゃねえか、女」
「舐めているわけではない。まだお前は認めてやっている方だ」
「それが舐めてるって言ってんだよ。……おら、始めるぞ。それとももう始めちまってもいいのかよ」
「……わざわざ開始の合図を求めるとは、健気な奴め。好きなタイミングで始めてくれて結構だが―――ああ、そうだった。貴様。一つ、言っておこうか」
「なんだよ」
「貴様は自分の実力が10位以内だと主張しているようだが―――それは自分のことを買いかぶりすぎだ。精々15位程度が適正で、そこから上に行けるほどの能力は持っていないぞ」
「―――舐めてんじゃねーぞ、このクソチビ女ーッ!!」
その言葉を皮切りに、ドラル・ルチアは詠唱を開始した。
この話の主人公=ハーロックさん(ロリの戦闘に巻き込まれて死ぬとかねえよな? と無表情のままビビってる)
この話のヒロイン=ロリビッチ(ラスボス系吸血鬼。久々に暴れられそうで興奮してる)
ランキング18位=ドラル・ルチア(まあまあ強い)
この話のヒロイン2=???(お嬢様みたいな見た目。おっぱいがでかい)