厨二エロゲーの中で俺は勘違いし、勘違いされる   作:アトミック

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日間二位になれてうれしかったです!
エタらないことを目標にがんばる!!


パロウキアル・プリンセス
パロウキアル・プリンセス 壱


「…………あ、あの。朝ですわ。そろそろ、お目覚めになってくださいまし」

 

 体がゆさゆさと揺さぶられ、まどろんだ思考が少しずつ覚醒していくような感覚があった。なんだ、地震か? それはねーか。ここ異世界だもんな。現代日本みたいな頻度で地震が起きたりしないもんね。そんな馬鹿みたいなことを考えながら目を開けると、目の前にはロリの顔があった。

 どうやら、俺は横を向きながら寝てたらしい。

 視線を下にずらしていく。服を着ていない。はあ、とため息を吐いた。こいつ、昨日言ってたことはなんだったんだ? ララが来るからエロいことできないとか、なんとか。そんなことを考慮するんなら寝てる時の姿もちゃんと考えてほしいものである。

 そこまで考えて、俺は頭を上にあげて。

 がん、と朝っぱらから騒々しい音が鳴った。

 

「あ、あ、あああ―――――――っ!?」

「………………っ」

 

 鐘みたいな音が鳴った。一気に目が覚めた。無表情のまま頭を押さえてベッドの上で数秒蹲り、なんとか堪えて起き上がると、足元で額を押さえながら転げ回る女がいた。

 誰かを言うまでもない。昨日拾ったお嬢様である。尻を振りながら転げまわるその扇情的な姿を見て、俺はなんかやるせない気持ちになった。

 

「……何をやってる」

「お、起こそうと思ったのですわ……。もうそろそろ学園に向かわねばならない時間になりますので……」

 

 お嬢様はぶつけた額と頬を真っ赤にしながらそう言った。額が赤いのはわかるけど、どーして頬までそんな真っ赤にしてやがるんだ? 俺は首を横に傾げてみたが、すぐに原因は分かった。というか、問題は今の俺の状態にある。裸の女(ロリ)と一緒にいる男を起こすというのは、お嬢様的にだいぶ恥ずかしいことなのだろう。そりゃそうだ。俺だって恥ずかしいわ。

 部屋にかかった時計を見ると、確かにそこまで時間に余裕はなさそうだった。

 ……いつも、遅刻していけばいいか、とか。サボってもいいかな、とか思うから、始業時間なんて気にしてなかった。ただ、それでも基本は起きられるのである。昨日何かヘンなことをしたわけでもないのに、どうしてこんな惰眠を貪ってしまったのだろうか。

 

「俺は遅刻して行く。先に行け」

「え」

「……なんだ」

「そ、そのぉ……。私、実は道がちょっとだけわかりませんの。多分到着することはできるんですけれど、道に迷って遅刻してしまいそうな気がしますわ……。それと、その。一人で行くのは、なんとも、緊張するというか……」

「俺についてこいと?」

「い、いや! そこまでは求めませんわ!」

 

 んじゃどこまで求めてんだよ。道わかんないって、ついてかなきゃどう頑張っても解決しなくない?

 俺は内心でため息を吐いた。でもまあ、しょうがない話である。道があんまりわかんないのはこのお嬢様の責任じゃない。緊張するのだってわかる。俺だって高校一年生のなりたては緊張してものである。これもなんの責任もない。

 もし責任があるのだとすれば、それは急に今日から学園に通わせることを決めたロリである。だからそのロリこそが責任をとって学園の道を教えるなり、一緒に登校してやるなりすべきなのではあるが、残念ながらこいつは俺の横で寝ている。

 朝のロリを起こすと機嫌がまあまあ悪くなる。それがララによるものだとすれば、ちょっと笑えない事態が起こる危険性だってある。よって、責任を取らせることはできない。では誰が責任をおっかぶるのか? 2−1は1である。残念なことに、この場にはロリを除いた責任が取れる人間など、一人しかいない。

 

「……わかった。支度をする故数分待て」

「ついてきてくださるのですわね! ほ、本当にありがとうございます!」

 

 お嬢様は俺の手を掴んで嬉しそうにそう言った。待っていました、というような、食い気味の返事に何処か作為的なものを感じる。ひょっとしたら元々駄々をこねてみたらついてきてくれるんじゃないの? みたいな考えがあったのかもしれない。嬉しそうに笑うお嬢様の表情は、見ようによっては「計画通り!」と歓喜しているように見える。

 そういえばこいつ、俺が自分に惚れているのだと勘違いしているんだっけ。

 まあ、勝手にしてくれって感じである。

 それにしても、とんでもない勘違いだ。よくもまあそこまで勘違いできるものだ。俺はちょっと呆れてしまう。普通に考えてあり得ないことだろ? そんな、現実的にあり得ないことを勘違いするなんてどうかしているな、なんて、俺は肩をすくめてみる。俺はこんな風に思い込みが激しい性格じゃなくてよかった。っぱ主人公だけはあるな、俺。ほんと。まじで!

 

 

 

 

「魔法学園とは、どのような場所なんですの?」

 

 登校中。

 俺はそのようなことを聞かれて、少しだけ返答に困った。

 

 魔法学園とは、どのような場所なのか。一言でいえばシビアな世界である。魔法のエリートだけが集められた学園で、評価基準は魔法の良し悪しのみ。座学等もあるが、すべては実習のためのものであり、どれだけ勉学に励もうとも、努力自体は評価されず、成果のみが評価基準になる。即ち、魔法が使いこなせる人間にとっては天国で、使いこなせない人間には地獄である―――そんなことを言おうと思ったが、俺に対する特大なブーメランだったので言い難かった。あとローウェル。あいつ魔法使えないのに毎日楽しそうなのである。これもまた矛盾だ。

 そもそも、あの男はどうやって魔法学園に入ったのだろうか?

 俺は入学するにあたってロリの手助けというか、根回しをしてもらった。今回のララの突然の入学と同じようなもんだ。だが、見た感じあいつに何らかの後ろ盾があるようにも見えない。

 もしや、あいつは何か特別な人間なのだろうか―――

 ……いや、そんなわけないな。うん。魔法使えないし。俺は今使えないけどいずれ使えるようになるはずだし。

 

「成果主義の学園だ。魔法のみが評価基準になる。他は塵芥に過ぎん」

「は、はぁ……随分と窮屈な学園ですのね」

「お前の魔法が優れていれば認められるだろう」

「そうですわね……。それならば恐らく、問題ないとは思いますが」

 

 へえ、と思わず零しそうになった。思ったよりも、自信のありそうな言葉だった。昨晩の、よくわからない男たちに乱暴されそうになっていた姿と今の姿が重ならず、俺は、少しだけ戸惑う。

 俺の顔色でも読めたのか、彼女は少し焦って、取り繕うように「あ、いや、その」と言葉を発した。そんな姿にも驚かされる。ここ数年間、鉄壁の無表情を保ち続けてきた俺の表情から感情を読み取ったのか?

 

「わ、私は、戦闘魔法が得意ではないのですわ。昨晩のような野蛮人との戦いは苦手ですが、研究のための魔法には自信がありますの」

「そうか」

「ええ。ですので、戦闘以外においての魔法ならば、この学園でも上位に位置することが可能でしょう。それとも、それは評価されないのでしょうか」

「問題ない。戦闘だろうが研究だろうが魔法は魔法だ」

「そ、そうですか。安心しましたわ」

 

 ホッと胸を撫で下ろすお嬢様。まあ、一部からは馬鹿にされるかもしれんけど、という言葉は胸中にとどめておく。あんまりにも脅すのは不憫だし、面倒でもある。

 そう、俺が珍しく気遣いをしてやっていると、ララは少し目を細めた。口元が小さく歪み、なにか、雰囲気が変わる。

 彼女の探るような瞳を受けて、俺は僅かに寒いものが背を走った。ああ、と同時に思う。この感じが、たぶん、ロリの言っていたこのお嬢様の本質なのだろう。外見的にはほとんど何も変わっちゃいないが、いつも無表情でいることを努力している俺だからか、彼女の微細な表情変化を知覚することができた。

 

「―――ハーロック様は、学園の中でお強い方なのですか?」

 

 その視線のまま。

 彼女は俺にそう問いかけてきた。

 

「………………」

 

 俺の実力でも測りたいのか? それとも、俺の学園における立ち位置を知りたいのか。たぶん後者のはずだ。このお嬢様は色々なことを誤解している。俺とロリの関係とか、俺のお嬢様に向ける感情とか。そんなつまらない誤解もあるはずだが、間違いなく言えることは、このお嬢様は俺は強者であると思い込んでいるはずだ。

 昨晩の戦闘で、威圧感だけで有象無象を一蹴した。まさか、俺のことを威圧感だけの男などとは思えないだろう。だから、俺の実力は疑っていないはず。彼女が聞きたいのは、その実力の俺が魔法学園の中でどのような領域(レベル)に達しているのか、ということに違いない。

 

 ふう、と気取られぬように息を大きく吸い込み。

 ―――俺は、義手に少しだけ力を籠めた。

 

「――――――ッ!?」

「舐めるな。あの学園に俺より強い人間などいない」

 

 こう言っとけばわかるだろう。

 お嬢様は俺の言葉を受けて、激しく深呼吸をしながら、「わ……わかり、ました……」と言っていた。うむうむ。完璧。計画通り。俺は内心そう頷いていたが、何故かその怯えているはずのお嬢様は小さく笑っていた。あ、あれ? そんな笑える余裕なんてあったっけ。ていうか今笑うような状況じゃなくね? 俺はララが何かヘンなことを考えているのではないか、と訝しみ、なにか忠告でもしといた方がいいんじゃないかな、とまで思ったが、やめた。このお嬢様が何を考えているのかなんて、俺にはわからない。ロリみたいに人の心を覗けるわけじゃないからだ。だから、見当違いなことを思っているかもしれないな、なんて都合のいい妄想をして、何も言わないことにした。

 

 

 ―――あと、数時間後。

 この決断を、俺は後悔することになってしまうのである。

 

 

 

 

 

「ハーロック。隣のクラスの女、あんたの仲間らしいじゃない」

 

 放課後にて。

 帰ろうかな、なんて思っていた時である。

 なんか友達みたいに声をかけてきたのは、いつもの女。ルーカス・ディ・メイリである。俺はいつの間にかこいつと軽口を叩き合うような関係になったらしい。いつものように、ローウェルも一緒である。ま、まあ、話しているうちにわかったが、こいつらはいいヤツだ。ローウェルは言わずもがな、メイリは短気なことを除けば完璧な人間である。その短気さがちょっとネタにならないレベルなのがこわいけど。俺と模擬戦を行った次の日に違う奴にも喧嘩を吹っ掛けたらしいし。ちょっとやばいヤツなのは間違いない。

 

「今日転校してきた女のことか」

「ええ。話題になってるわよ」

 

 まあそりゃそうか、と思う。

 顔も、スタイルも、どちらも人の目を引く部類だろう。あれが話題にならない方がおかしい。「そうだろうな」と、俺は得心いったような顔で頷いていると、メイリは肩をすくめた。な、なんだよ。俺、なんか間違ったこと言ったかよ。

 

「その様子だと、あの女が問題を起こすのも予想通りってわけ?」

 

 問題ぃ?

 全然予想通りじゃなかった。ま、まあ、ロリが言ってたし、なんかヘンなことが起こる覚悟はしていたけど、一日目からなにかやらかすなんて考えてもいなかったのである。何をやらかしたんだ? 誰かに迷惑でもかけたのか? 俺はいろんなことを聞きたかったが、いつも通りの、平然とした顔で、メイリの真似をして肩をすくめてみる。

 

「そうだな。想定はしていた」

「だいぶ、引っ掻き回されてるらしいわよ」

「そうか」

 

 どういうことがあったねん。教えてくれや。思わず関西弁になっちゃうくらい聞きたかったが、自分からは聞かない。ちらり、と隣にいるローウェルに視線を向けてみる。彼は少し困ったような表情で、あはは、と笑った。

 

「『私は隣のクラスのハーロック様の部下ですわ』って言って、暴れてるよ。他の人間もあんたのことが怖いらしくて、逆らえないらしい。どうやら彼女はクラスを支配しようと画策しているみたいでね……。それも、ハーロックの指示かい?」

 

 ローウェルがなんか解説してくれた。ナイス、と思うと同時にどういうことやねん、と呆れた。あのお嬢様なにやってんの? だいぶ面倒な事態じゃねえか。

 とりあえず、「俺は指示していない」とだけ、言っておく。

 

「そうだよね。ハーロックにそんなイメージないし」

「どこがよ。この凶悪面、暴力振るうこと以外興味ありません、みたいな感じじゃない」

 

 お前に言われたくねーよ、と言いたくなる。どー考えても俺よりメイリの方が狂暴である。俺はあいさつ代わりにメイリに軽く威圧感をぶつけてやったが、彼女は少したじろぎながらも「あによ」と至近距離からガンを飛ばしてきた。こっわ。こんなメンチの切り方する奴コンビニとドンキの前でしか見ないレベルなんだけど。

 こいつマジでとんでもないヤツなんやな……。威圧感が効かない相手には俺は無力である。もうこいつと模擬戦とかしたらボロボロに負けるんだろうな。

 

「あの調子だと、向こうのクラスで問題が起きかねないわよ。……まあ、あんたにビビってる腰抜けばっかりだから、すぐにそんなことにはならないんでしょうけど」

「そうか」

「あの性悪お嬢様のこと、止める気あるの?」

「興味がない」

 

 俺は適当にそう言った。言ったが、頭の中では真逆のことを考えていた。あの馬鹿お嬢様、今日釘刺しとかないといけねえな。ヘンに喧嘩にでもなったら俺まで巻き込まれかねない。

 なんとも面倒な話である。どうしてお嬢様は戦闘もできないのにクラスの人間に高圧的に出たのだろう。少し考えて、想像はついた。馬鹿すぎる想像だった。だけど、なんか合っている気がした。今朝のお嬢様が言っていた言葉と、昨日のロリが言っていた言葉。その二つが頭の中を過ぎる。

 

『―――ハーロック様は、学園の中でお強い方なのですか?』

『―――その癖、表面的には強者に媚び諂い、弱者を虐げる類の人間だ』

 

 ララの言葉。俺のことを値踏みしているのだろう、と思っていたけど、それは半分しか合っていなかったのかもしれない。

 値踏みして、それを利用しようするのが目的だった、とか。で、利用しようとしてみたら、思ったよりクラスの奴がビビり散らしているから、機嫌が良くなっちゃった、とか。それで、俺の威光を利用して、他のクラスメイトを虐めてやろうかなとか。思っちゃったり、して。

 そんな、馬鹿なことを、妄想する。

 ……頭が痛くなってきた。どーして俺の周りの人間は性格が破綻してる奴しかいねえんだ? クズロリと性悪お嬢様。マトモなのは俺しかいねえ。範囲を広げても、目の前にいるロリと瓜二つの女は急に切れる癇癪持ちだ。アレクラマスとかいう男は単純に気持ちが悪い。ドラル・ルチアとかいう男はイキっててきつかったし、そもそもロリに腕とか脚とか取られちゃったらしい。どいつもこいつもマトモじゃない。

 俺は頭を小さく押さえて絶望していると、目の前にいるメイリの横―――ローウェルと目が合った。……こいつ、なんも非がねえな。こんな腐った世界の中でビックリするくらいマトモなヤツである。今からでもあのお嬢様とこいつをトレードできないかな。頼むよーどーにかしてくれよー。

 それか、せめて新しい登場人物とか出てきてくれよー。

 

 内心で俺はそんな悲痛な叫びを漏らしていると。

 教室の扉が、がらがらと開いた。皆の視線がそちらに向く。俺も自然に吸い寄せられた。なんだ。新しい人間の登場か、なんて。意味のわからないことを考えてみる。

 

「失礼いたしますわ」

 

 が、そこに立っていたのは。

 今話に上がっていた、性悪お嬢様だった。

 少し早足で、歩を進めている。その視線はふらりふらりと宙を漂い、俺と合って定まった。嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。表面上は表情を保てているが、どこか焦りが窺えた。同じ仮面を装うもの同士だから、考えていることを読みやすいのかもしれない。

 

「ご指名みたいじゃない、ハーロック」

「…………そうらしいな」

 

 メイリの言葉に、肩をすくめる余裕はなかった。

 お嬢様はついに、俺の元まで来た。やはりどこか焦って見える。一体全体、何が起きたのだ―――その疑問は、お嬢様の次の言葉で氷解する。

 

「ハーロック様―――私、模擬戦を挑まれましたの。助けてくださいまし!」

 

 ―――このクソ馬鹿間抜け性悪女―――っ!!

 

 俺はそう叫びたかったが、無論、声に出さない。顔にも出さない。

 ただ、内心では叫んでもいいよな? そう思っていると、俺の心の中で『ぎゃはは』と、下品な笑い声が聞こえてきて、頭が痛くなってきた。ロリだ。クソロリが起きちゃった。やべーよ。やべーやつらが全員集合しちゃったよ。マトモなのは俺しかいねえ!

 




この話の主人公=ハーロックさん(周りの人間がマトモじゃなさすぎてこわい。馬鹿)
この話のヒロイン=ロリビッチ(起きたらちょうど面白い状況ではしゃいでる)
この話のヒロイン2=ララシャンス(初日で問題起こしちゃった。馬鹿)
厨二ゲーの主人公=ローウェルさん(間違いなく作中で一番いいひと。馬鹿)
厨二ゲーのヒロイン=メイリ(ツンデレバトルジャンキー。登場すればするほどキレやすくなっていく。馬鹿)

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