このオヨビでない少年に祝福を! 作:タイラー二等兵
(……このファンのイベント見るまで忘れてたなんて、口が裂けても言えない……)
やって来た冒険者ギルドは酒場も併設された場所だった。
「何だか[ルイーダの酒場]みたいだねぇ」
「……なんですか、それ?」
ノエルはルイーダの酒場を知らなかった。某女神様だったら以下略。
「日本の大人気ゲームシリーズに登場するんだヨ。まだ日本でギルドって概念が低かった頃だから、酒場って形にしたんだろうけど。ま、ギルドってより出会いと別れの場って感じかな? あくまで雰囲気が似てるってだけだネ」
「ふぅん……」
ノエルは感心したように頷いた。彼女は前任者と違って真面目な性格だったため、日本のカルチャーには詳しいものの、サブカルチャーには非情に弱いのだ。
「さてと。ギルドの窓口は……、オヤ、ガラガラじゃん」
そう。酒場の喧騒とは打って変わって、現在のギルド窓口は閑散としている。
「うーん、なぁんかイヤーな予感がすんだけど」
「嫌な予感ですか?」
「うん。……んー、ん! ま、いっかぁ! こんなん気にしたってしょうがない!」
一瞬悩んだかと思えば、コロッと態度を変えた。
「随分と余裕ですね?」
「人間、余裕を持って生きなくちゃ! 余裕がありゃこそツキも来るってモンだよ!」
「……何だか、アクア様と話してるような気分になってきました」
ノエルは少し遠い目をして呟く。
「ん? なんか言った?」
「あ、いいえ何も」
「あっ、そ」
均も深くは追求せずに、窓口に向かって歩き出した。ノエルは慌ててそのあとを追う。
「イヤ、どーも! 冒険者の登録に来ました!」
「はい。登録ですね。登録料は一人千エリスになります」
「登録料……」
受付嬢に言われてノエルを見る。
「勿論用意してあります。これ、二人分二千エリスです」
登録料を差し出すノエル。某女神様とは略。
「……はい、確かに。それでは既にご存じかも知れませんが、これから冒険者についての説明させていただきます」
そう前置きをして受付嬢が説明を始めたが、この小説を読む読者諸兄の大多数は【この素晴らしい世界に祝福を!】の読者でもあるだろう。また、この小説投稿サイトの【このすば】を原作とした作品でも、同様の説明がなされているはずだ。なので誠に勝手ながら、説明については割愛させていただく。とりあえず、
「まんまRPGと同じだネ」
という均の感想に集約されていると思っていただければ、ほぼ間違いはない。
「それでは、こちらに手をかざして下さい」
そう促された先には、大きな水晶玉のようなオーブが取り付けられた装置があった。言われるままに均が手をかざすとオーブは輝きだし、下に設置されたカードに文字が刻まれていく。
「ええと、ウエクサヒトシさんですね。ステータスは……、意外と筋力が高いんですね?」
均の今の姿は学生服、所謂ブレザーではなく学ランというヤツだ。その上細マッチョ系で着痩せもするため、優男に見られることが多い。もっともそのお陰で、相手が勝手に舐めてくれるのだが。
「あとは、……え? 知力と魔力がかなり高いですよ? ウエクサヒトシさんの瞳が紅ければ、紅魔族と言われても納得で来るほどで……、ええっ!?」
受付嬢は話の途中で、更に驚きの声をあげる。
「何ですか、この幸運値は!? これってサトウカズマさんより高い、……と言うか、測定不能って一体何なんですか!? いくら冒険者にはあまり関係がない能力とはいえ、ちょっと異常です!!」
ああ、やっぱり、と均は思う。そもそも生前、知り合いからは「無責任学生」と称されていたが、それとは別に「日本一の幸運男」などとも呼ばれていたのだ。それは均自身にも覚えがあることだったが、数値に出されたうえにこうもハッキリ言われると、さすがに驚きを感じずにはいられなかった。
……もっとも均の場合、普段通り飄々としているので、それに気づく人はごく僅かなのだが。
「……コホン。失礼しました。それではウエクサヒトシさん。職業は何になさいますか?」
「ああ、僕ァちょっとその辺に疎いから、選択可能な職業を一通り教えてくんないかな? 面倒だとは思うけど、お願いするよ」
均のその提案に、受付嬢は嫌な顔ひとつ見せずに頷いた。
「わかりました。それでは……」
そう応えて一つずつ、懇切丁寧に教えてくれる。そして。
「……以上になります。それでは改めまして、職業は何になさいますか?」
「冒険者」
「「……え?」」
これには受付嬢のみならず、ノエルも驚きを隠せない。だが、それも致し方のない事だろう。何しろ冒険者は、基本職にして最弱職。全てのスキルを覚えることが出来るが、その能力は本職には及ばず、職業補正もかからない。しかもスキル修得にかかるポイントも本職よりも割り増しになり、ものによっては倍以上かかってしまうのだ。
「ええと、せっかく知力と魔力が高いのですから、アークウィザードを選ばれた方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうですよ、均さん。アークウィザードなら高火力の上級魔ほ……、あ」
そこでノエルは、均がカタログのチート武器を選ばなかった理由を思い出す。均は無言で、ただ優しい笑みを浮かべてそれに応えた。
「……どうやら訳ありのようですね。わかりました。それでは冒険者で登録いたします。転職したいときは、いつでも仰ってくださいね?」
そう言って受付嬢は、均に冒険者カードを手渡した。
「それでは私の番ですね」
そう言ってノエルが手をかざし……。
「ノエルさんですね。……ええっ!? 何ですか、このパラメーターは! 運が人並みな以外は、全てのステータスが軒並み高いですよ!?」
さすがは天使、である。因みに、ほとんどのステータスが某女神様よりも一割前後低いのだが、知力と幸運に関しては遥かに高い。
「これなら全ての上級職に就けます! ノエルさん、どの職業をお選びになりますか?」
「それではアークプリーストでお願いします」
ノエルは均の特典としての自分の意義を鑑みて、各種支援魔法を扱えるアークプリーストを選んだ。某女神略。
「アークプリーストですね。
……はい。それではウエクサヒトシ様、ノエル様。ギルド職員一同、お二人の今後の活躍を期待してます」
「……どうしましょうか?」
受付嬢……ルナと言うらしい……に送り出されてすぐ、二人はあることに気がついた。
「まさか、武器を買うお金が無いたぁねぇ」
「すみません。通常は転生特典で何とかなるものなのですが、その、私が特典だったもので……」
そう。普段なら登録料さえ用意してあれば、あとはチートでどうとでもなるのだが、今回はノエル自ら転生特典としたことに加え、ある理由によりノエル自身は初めてこの世界に転生者を送ったため、武器、防具を揃えるための
「なぁに、気にしない気にしない! 金なんて、僕も無いけど心配すんな! 黙って僕についてこい!」
そう言ってぐるりと辺りを見渡し、テーブルに着く三人組に目をつけ近づいていく。
「イヤ、どうも。ちょっといいかな?」
「え、何?」
均は三人組の紅一点、年下と思われる女の子に声をかけた。
「エート、冒険者の登録をしたのはいいんだけど、武器を買うお金が無くてネ。悪いんだけど、お金貸してくんない?」
「はあ!? ちょっと、何言ってんの? 大体、なんであたしに!?」
その少女は、怒りと呆れをない交ぜにしたような表情で均を睨む。が、しかし、均は相変わらず、どこ吹く風の笑顔だ。
「イヤー、だってキミ、ついついお金貸しちゃうタイプでしょ?」
「クッ、ハハハハ……」
均の発言を聞いた三人組の一人が、思わず笑い出した。
「リーン、見透かされてんじゃないか!」
「うるさい、キース!」
リーンと呼ばれた少女は、顔を赤くして怒鳴る。もっとも顔が赤いのは、怒りよりも恥ずかしさのためのようだが。
「しかし、よくわかったな。ええと……」
「ああ、自己紹介が遅れて、コリャまた失礼。僕ァ植草均。本日冒険者になったばかりの若輩者です。ドーゾお見知りおきを」
最後の一人が少しだけ感心した様に言うと、均がへつらい、へりくだって自己紹介をする。
「ハハハ、変わった奴だな。俺はクルセイダーのテイラー。このパーティーのリーダーだ」
「俺はアーチャーのキース」
「あたしはリーン。ウィザードよ」
リーダーのテイラーが自己紹介をしたことで、後の二人も自己紹介をした。そしてリーンは嫌な顔を作り。
「あと一人、ダストっていう戦士もいるんだけど……。今、ちょっと、留置場のお世話になっててね。まあ、あいつはクズだから、別に忘れてもらって構わないよ?」
それを聞いた均はああ、と頷き。
「その人がお金を貢いでる相手かぁ」
「貢ぐとか言わないで! 腐れ縁で、どうしても断り切れないだけだから! ……というか、本当にどうしてわかったの!?」
「いやぁ、昔の知り合いに、そういう面倒見がよすぎて断り切れない子がいてねぇ。雰囲気が似てたから多分そうじゃないかってネ!」
右手の人差し指をビッと立てて言う均。
「あー、それでお金を貸してくれそうだと思われた挙げ句にからかわれたわけだ、あたしは」
「ブワッハッハ! ゴメンゴメン!」
半ば落ち込むリーンに、軽い口調で謝る均。
「あの、均さん?」
そんな彼の元にノエルがやって来る。
「ああ、ゴメン。待たせちゃったね」
均はリーンに対してよりも、幾分真面目に謝った。
「その人は? ヒトシの彼女さん?」
「か、かの……っ」
ノエルの顔が真っ赤になるのを見て、均の笑顔が苦笑いに変わる。
「イヤ、彼女はここに来る途中で知り合ったノエルちゃん。どうせだからってパーティーを組むことになったんだけど、さっき言ったとおりの状況でねぇ。
……あ、ノエルちゃんは恋愛関係には免疫ないみたいだから、そーいう話題は軽めなとこからお願いネ!」
「止めないんだ?」
女の子に幻想を抱く男性なら、そういった話を振らないようにする。リーンはそんなことを思ったのかも知れない。
「イヤね? 免疫無さ過ぎて、ヘンなオトコに引っかかられてもイヤじゃん?」
「あー、なるほどねー」
真面目で恋愛経験のない子程、嵌まったときはどっぷりと。これとて想像の産物に過ぎないのかも知れないが、ノエルの反応を見てると思わず納得してしまうリーンだった。
次回はいい加減、クエストに行かせたい。