このオヨビでない少年に祝福を! 作:タイラー二等兵
でもそれよりも、スレイヤーズとコラボして欲しい。Web版のネタ的に。
ギルドの掲示板。その前に立つ均とノエル。その間には均達に背を向けて依頼を吟味している、一人の少女。アライグマの様な尻尾をゆらゆらと揺らしながら、一枚の依頼書を引っ剥がす。
「やっぱりこの依頼が一番いいんじゃないかな?」
そう言って少女……、リーンが均の目の前に依頼書を突き出した。
「エート、[ジャイアントトードの討伐]……?」
「そう。初心者向けの討伐依頼だよ。
……あなた達、ハッキリ言ってめちゃくちゃ運がいいよ? 冬の今時分は弱いモンスターは冬眠して、難易度の高いクエストばかりになっちゃうんだから」
二人は成る程と頷く。
「けれど、ならば何故、そのジャイアントトードは活動しているのでしょうか」
「謎の大発生だって。……まあ、理由は判ってるんだけどねー……」
最後の方は目を逸らしながらリーンは言った。聞いた均はフムと頷き。
「もしかして……」
「言わないで。ヒトシの推測って、なんか当たりそう」
「……今回のはただの勘なんだケド」
「……因みに、なんて言おうとしたの?」
勘と言われて好奇心が湧いてきたのか、リーンは思わず尋ねてしまう。
「リーンちゃんの知り合いが、なんかやらかした?」
「やっぱり聞かなきゃよかった」
「正解なんですね……」
一瞬、気まずい雰囲気に包まれたのだった。
依頼を請け、均達は武器屋へとやって来た。一緒にリーンも着いてきている。
「お金借りようと思っただけなのに、なんか悪いねぇ」
「別に構わないわよ。どうせ武器屋の場所もわからなかったんでしょ?」
「……はい。実はそのとおりなんです」
ノエルが申し訳なさそうに頷いた。
「いやぁ、ホントに有難い! 神様仏様リーン様! ってネ」
「そ、そんな大層なもんじゃないって!」
均の煽てに、リーンの頬が赤くなる。しかし満更でもなさそうだ。
「ほ、ほら、さっさと装備を整えてクエストに行かないと!」
リーンは誤魔化すように、武器を揃えるよう催促をする。均も、そりゃあもっともだ、と自分に合った武器を物色し始めた。
そして十数分後。均は安物のショートソードを、ノエルはショートスピアを購入した。
「ホントにそれでいいの? 特にヒトシなんて、ショートソードの中じゃ一番安物じゃない」
「いーのいーの。弘法筆を選ばず、……ってネ」
「コウボウ……?」
「あー……」
ここは異世界。弘法大師(空海)など、当然知る由もなし。
「僕の故郷の、有名な昔の僧侶だヨ。凄い達筆で、筆を選ばずとも素晴らしい書を書き上げたって逸話があるんだ」
勿論、最高の書を書き上げるために、道具の手入れは欠かしてはいなかったのだが。
「つまりヒトシは剣の達人なんだー」
「サァ、どうだろうねぇ」
リーンがからかうように言うと、均はとぼけて返す。
ノエルは、均が強いとわかっているものの、達人と呼ぶには程遠いことも知っている。ただ、彼がそれだけでないことも知っていて、どう反応していいのかわからず、二人のやり取りを黙って見ていることしか出来なかった。
「……それで、結局リーンさんも着いてこられたと」
クエストのポイントへ向かいながら、ノエルがリーンに尋ねる。リーンは少し困ったという表情を作り。
「まあね。ヒトシって、自信があるのか無いのか、よくわからないのよ。だから気になっちゃって……」
「それは、わかる気がします」
ノエルは軽く頷き話を続ける。
「彼は大口を叩いたかと思えば、妙に腰が低くへりくだって接してきたりします。かといって二面性があるのかと言えば、それも違う気がしますし、よくわかりません」
「……ねぇ。そーいう話題って、本人が聞いてないトコでするモンじゃないかなァ」
聞き耳を立てずとも、二人の会話を聞くとは無しに聞いてしまう均。それで気分を害したりはしないが、さすがにちょっと、肩身が狭い。無責任男と言われていても、少女同士……片方は怪しいが……の会話を聞き流せるほど超人ではない。というか、やっぱり年頃の男子ではあった。
「それでは直接伺いますが、均さんはどういった方なのですか?」
「それは、……ムズカシイ問題だァ」
ノエルの問いに茶化すように返しているが、しかしその笑顔に少しだけ、本当に困ったという表情が隠されているのが見て取れた。
「そうだねぇ、自他共に認めているトコじゃ、無責任でC調で日和見主義でいい加減。だけどお節介焼きで困ってる人をつい助けたくなっちゃう。まぁ、我ながら矛盾してるたァ思ってるけどね?」
その答えはけれど、均の表面的な部分しか言い表されていない。だが均自身も、自分の内面がどうなのか理解不能で、上手く説明が出来ないのである。
女神程の力はないが、自身に備わる見通す目で均の複雑な心情に気がついたノエルは、軽く息をつき。
「自分の内面を理解できないのは、珍しいことではありませんよ」
そう優しく説く。
「……ま、そうだよネ」
やはり軽く、だけど優しい笑顔をノエルに向けて均は言った。
……均とノエルの、口に出していないやり取りに気づいていないリーンは、二人の会話の不自然さに首を捻っているが。そして。
「ところでC調って何?」
リーンは、現代日本でも既に死語となっている単語を尋ねるのだった。
「ちょっと、この二人何なのよ!」
リーンが思わず声をあげる。
アクセルの街の正門から少し離れたクエストのポイントに到着すると、そこには二つの大きなクレーターがあり、その周りに人の身の丈を遥かに超えた、巨大なカエルが群がっていた。ハッキリ言ってリーンでさえ、この数のジャイアントトードには怖じ気づく。
しかし均は、ノエルから各種支援魔法を受けるとジャイアントトードの群れに突っ込んでいった。いや、彼だけではない。ノエルも共にジャイアントトードへと向かっていったのだ。
それからおよそ二十分。一帯のカエルはほぼ殲滅されていた。本日冒険者になったばかり、すなわちレベル1の二人が、いくら初心者向けのクエスト対象であるジャイアントトードとはいえ、無双状態で退治しまくったのだ。リーンが声をあげるのも致し方ない。
「うーん、いくら害獣とはいえ、流石に良心が咎めるなぁ」
「これだけ倒しまくってから言う事ですか?」
均の発言に、槍を振り、血糊を落としながら突っ込むノエル。
「いや、先に言って覚悟が鈍ってもイヤだったから」
ジャイアントトードの討伐には害獣駆除と食肉の確保という二つの目的があり、そういった大義名分があれば均にも討伐クエストを行う覚悟は持てる。とは言え、どんな綺麗事やお題目を並べようとも、命を奪う所業には変わりがない。均の信条からすれば、あくまでギリギリのラインだったのだ。
そんな均の信条など知らないリーンは、それを謙遜と捉えた。
「これだったら、あたしが心配してまで着いてくる必要無かったわね」
少し拗ねたように言うリーン。しかし。
「イヤー、そんなコタァないヨ。先輩冒険者がいてくれたからこそ、思い切って行けたんだから」
「その通りです。私も、途中で支援を忘れてしまいましたし、パーティーでの戦闘にはまだ慣れてはいませんから」
均もノエルも、個対個、もしくは個対多が本来の戦闘スタイルだ。誰かからの指示を受けて複数で戦うことはあっても、戦闘中の連携に関しては素人同然なのだった。……だからこそ均は、一つ気をつけていることがあるのだが。
「……さてと。カエルも粗方狩り終わったし、正門前のは他のパーティーがやることになってるんだったよね? それじゃあギルドに行って、クエストの終了を……」
そこまで口にしたとき。
ドゴオォォォォン!
強烈な爆裂音が響き渡る。
「今のは……」
「どうやら正門の方みたいだねぇ」
緊張した面持ちのノエルに対し、相変わらず気の抜けた表情の均。そして。
(あれって、爆裂魔法……だよね?)
リーンは爆裂音の正体に気がつき、額に右手を添えてため息をついた。
均達が駆けつけるとそこでは、三人の女性がそれぞれカエルに飲み込まれかけていて、一人の少年がカエルの餌食になろうかという所だった。
「あの方は……!」
ノエルは何やら驚いているが、今はそれどころではない。
「ノエルちゃんは青い髪の人、リーンちゃんは制服姿の人をお願い!」
「ふぇ!? あ、はい!」
「わかった!」
二人の返事を聞きながら、均は少年の元に向かってスピードを上げた。
そしてあと少しで少年の元に辿り着くというところで、カエルの気配の変化に気づき。
「伏せろっ!」
何時もとは違う強い口調で指示を飛ばす。その声に咄嗟に反応して地面に伏した少年の上を、長く伸びたカエルの舌が通り過ぎた。
カエルの舌が引き戻されるよりも速く、跳躍した均がその舌を蹴り、弾力を利用してカエルに向かって更に高く跳躍。落下しながら、逆手に持ち替えたショートソードを振り下ろし、カエルの頭に突き刺した。
その一突きでカエルは絶命、剣を引き抜かれると同時に力なく地面に伏した。
「すげえ……」
少年はぼそりと呟く。見ればノエルとリーンが任されたカエルも退治され、飲み込まれかけた二人も助け出されていた。
しかし、まだ終わりではない。均は残りの一匹に向かって走り出そうとし、たたらを踏む。その、次の瞬間。
「『ライト・オブ・セイバー』!」
その声と共に一條の光が刃となって、最後のカエルを切り裂いていた。
C調。音楽用語でハ調の事。軽快な音階から、転じて(言葉や行動などが)調子いいという(主に悪い)意味で使われる。
よくお調子者と説明されている場合があるが、その場合はC調な奴となる。