このオヨビでない少年に祝福を!   作:タイラー二等兵

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リーンと制服の女性(笑)が空気気味。


あんた誰?

均の目の前でジャイアントトードは切り裂かれ、飲み込まれかけていた少女は、放り出されるような形で救出された。

だが均は、一瞬だけ険しい表情を浮かべる。と。

 

「ちょっと! 何で貴女がここにいるのよ!?」

 

突然、青髪の少女が甲高い声を上げて、ノエルに詰め寄る姿が目に入った。

 

「おい、どうしたアクア?」

 

均が助けた少年が、青髪の少女、アクアに声をかける。

 

「カズマ、見なさいよ!この子までこっちに来ちゃったのよ!」

 

「ああん? この子って……?」

 

そう言いながらノエルの顔を見る、カズマと呼ばれた少年。しばらく見つめていると、確かにどこかで会った気がするのだが、カズマは中々思い出せない。

 

「ええと、あの……、お久しぶりです。佐藤和真さん」

 

「……ああ! 思い出した!! あんた、アクアの後任の……!!」

 

「はい。ノエルと言います」

 

ノエルは簡単な自己紹介とともに軽く会釈をする。

 

「それで、何で貴女がここにいるのよ! 神や天使は、理由もなく下界には降りらんないでしょ!?」

 

「……アクア様は時々、お菓子とか手に入れるために、日本に降りてましたよね?」

 

「なんか言った?」

 

「い、いえ! あの、私は植草均さんの特……、均さんに選ばれてこちらに来ました」

 

リーンや助けた制服姿の女性のことを気にして、[特典]という言葉を慎むノエル。

 

「ウエクサ…ヒトシ……って、もしかして」

 

カズマが振り返った先にいたのは。

 

「……どーも。只今ご紹介に与りました、植草均と申します。どうぞ今後ともお見知りおきを」

 

何時ものように笑顔を湛え、腰の低い自己紹介と挨拶をする均。ノエルは、均の返答に少しの間があったことが気にかかったが、カズマもハッキリと尋ねたわけではなかったので、こういうもんかも知れないと自己完結させた。

 

「ええと、学ラン姿って事はやっぱり……?」

 

「そのとーり! キミと(おんな)じ、ニッポンから来たんだヨ!」

 

均が右手の人差し指を立てて語る。

 

「つまり、俺がアクアを特典に選んだのと同じって事か」

 

「ああ、いや……。僕が特典を選べなくって、ノエルちゃんが立候補したんだけどネ」

 

「「えっ!?」」

 

均の説明にカズマとアクアが目を丸くする。特にアクアの驚き様は半端ではない。

 

「エリスよりも生真面目なあんたが、どういう心の移り変わり?」

 

「ええと、それは……」

 

先程の均にかけた言葉ではないが、自分自身、その心の変化がわからないので、ノエルはただ、言葉を濁すしかなかった。

 

「……あのー、話が盛り上がっているところ申し訳ありませんが、そろそろ私をどうにかしてください」

 

その声に一同が振り向くと、三角帽子にローブ姿、黒髪で赤い瞳が特徴の少女が、粘液まみれでうつ伏せに横たわっていた。

 

「お、おう。すまない、めぐみん」

 

カズマはめぐみんと呼ばれた子の元へ慌てて駆け寄ると、その首筋に手を当て。

 

「『ドレインタッチ』!」

 

と口ずさむ。

 

(ドレインタッチ……。普通に考えれば生命力の吸収だケド、どうやら分け与えることも出来るみたいだねぇ)

 

均はそんな考察をする。が、そんな思考も僅かな事。均はめぐみんの近くに立つ、彼女と同じ黒髪で赤い瞳の女の子に向かって歩いていく。

 

「……え、あの」

 

「キミがさっきの、光の刃を放った子だね?」

 

「は、はい……」

 

均はやはり、何時もと変わらない笑顔を湛えている。しかしそれとは裏腹に、途轍もない威圧感を放っていた。それを敏感に感じ取った少女は萎縮してしまう。

 

「キミのお陰であの子は助かった。それは大変有難い事だと思うよ。でも、あの技を使ったのはどうしてなんだい?」

 

何時もの飄々とした言葉とは違う。丁寧な言葉遣いだが、やはり威圧感がある。

 

「あの、ライト・オブ・セイバーなら、剣を振る感覚でコントロールしやすかったので……」

 

「なるほど」

 

均は軽く頷く。

 

「でも、もし手元が狂って、僅かに切り裂く位置がズレていたら、とは思わなかったの? 下手をしたら、あの子もカエルと一緒に切り裂かれていたかも知れないんだよ?」

 

「あ……」

 

少女はようやく、事の重大さに気がついた。一歩間違えたら今頃、と考えた途端、身体中にイヤな汗が流れる。

すると均が、普段より優しい笑顔になって、優しく少女の頭を撫でる。

 

「うん。わかってもらえたらいいんだよ。今回は何事も無かったんだし、これから気をつけてもらえれば」

 

「はい」

 

少女は素直に頷いた。

 

「……さっきはキツいこと言ってごめんネ?」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

少女も、均が心配して言ってくれた事を理解していた。それを感じ取った均は「聡い子だな」と感心する。

一方、それを見ていたカズマは。

 

(あいつの特典、本当はナデポやニコポじゃないのか?)

 

などと内心思っていた。

 

 

 

 

 

「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長となる者!」

 

少女……、ゆんゆんがポーズを決め、声高らかに名乗りを上げる。まるで厨二病の痛々しいそれは、見ているこちらが恥ずかしくなってくる。

一体どうしてそんなことになったのか。その発端はめぐみんとのやり取りだった。

ゆんゆんが言うには、めぐみんとはライバル関係にあるらしい。今日こそ決着を付けようと言うゆんゆんに対し、めぐみんは「どちら様でしょう?」と知らないフリをした。それだけではなく、カズマから聞いた『オレオレ何とか(詐欺)』扱いまでする。それを真に受けたゆんゆんは恥ずかしがりながらも、紅魔族流の名乗り上げ(自己紹介)をした、というわけだ。

 

「というわけで、彼女ははゆんゆん。紅魔族の長の娘で、自称私のライバルです」

 

「ちゃんと覚えてるじゃないっ!」

 

何事も無かったかのように平然と言うめぐみんに、突っ込むゆんゆん。ライバルというより、友達をからかい、からかわれてるようにしか見えない。実際、均の認識もそうだった。そして均のそれは、探偵の推理よりも的中率が高い。

 

「なるほど。俺はこいつの冒険仲間のカズマ。よろしくな、ゆんゆん」

 

「ゆんゆんちゃんだネ。どーぞヨロシク」

 

カズマと均がそう言うと、ゆんゆんが驚いた目を二人に向ける。

 

「二人は、私の名前を笑ったりしないんですか?」

 

「いいか、ゆんゆん。世の中にはな、変わった名前にも関わらず、頭のおかしい爆裂娘なんて呼ばれているヤツもいるんだよ」

 

「それは私のことですか!?」

 

カズマの発言に食ってかかるめぐみん。

 

「僕は理由が違うよ? 地域や風習で、人の感性なんて違うモンだかんね。こちらからしたら変わってても、親が子供を思って付けた名前を笑ったりなんて、出来やしないヨ!」

 

「あ……、ありがとうございます! ……あ、ええと」

 

お礼を言ったゆんゆんが、名前を呼ぼうとして言葉に詰まる。

 

「ああ。そう言や、キミには自己紹介してなかったね。それじゃあキミ達に合わせて……。

我が名は植草均! 最弱職の冒険者にして無責任男と呼ばれし者! 誰にも負けない幸運を持つ者!」

 

『ええーーーっ!?』

 

ノエルと制服の女性以外が驚きの声をあげる。いや、制服の女性も声をあげなかっただけで、その表情には驚きの色を滲ませている。

 

「え、ヒトシって冒険者なの!?」

 

「アレ? リーンちゃんに言ってなかったっけ?」

 

「聞いてないわよ!」

 

自己紹介の時に、「冒険者になった」とは言っているが、これはあくまでも広義での冒険者。確かに言ってはいない。というか、レベル1(既に上がっているが)であの強さだ。冒険者(最弱職)だとは、夢にも思わないだろう。

 

「でも、ジャイアントトードをあんなにあっさり……」

 

「アクアちゃんだっけ? 僕はちょっとは剣術の心得があるし、ノエルちゃんの支援魔法も受けてたかんね」

 

「……アクアちゃん?」

 

アクアは均の説明よりも、自分を女神だと知りつつも馴れ馴れしくちゃん付けで呼ぶそのことに、引っかかったようだ。

 

「お、おい! 誰にも負けない幸運って、どんだけなんだよ! 言っとくが、俺だって幸運値は高いんだからな!」

 

「ん? ルナさんは測定不能って言ってたケド?」

 

「測定……不能……」

 

カズマは、冒険者としてのアイデンティティを支える幸運値を軽く超されたことで、かなりのショックを受けていた。

 

「紅魔族の私としては、ものすごくテンションが上がるのですが、その……。紅魔族ではないのに、恥ずかしくはないのですか?」

 

「うん、恥ずかしいヨ? そしてめぐみんちゃんはその恥ずかしいことを、感性がこちら寄りのゆんゆんちゃんに、遠回しとはいえ強要したわけだネ?」

 

「うぐっ」

 

紅魔族流の名乗りを均が行ったことに、感動と同時に疑問を感じためぐみんが尋ねたが、それが為にやり込められる形となってしまう。

 

「……最弱職に窘められたんですね、私」

 

「ゆんゆんちゃん。最弱職だからって舐めちゃあ駄目だヨ。違う職業だからこそ見えてくるモンだってあるんだからネ!」

 

「あ、そ、そうですよね」

 

上級職が最弱職に注意されたことに、自己嫌悪するゆんゆん。しかしこれもまた、均に窘められてしまった。

この様に、一通りの意見の受け応えをする均。その流れが一旦途切れたところで。

 

「んんっ! サトウカズマさん。今日は何とかなりましたが、これが私の目を欺くための演技だという可能性も、捨ててはいませんよ」

 

そう言い放つ、制服の女性。均はうーんと唸り、額に右手の人差し指を当てて考え込み、そして一言。

 

「あんた誰?」

 

『あっ!』

 

みんなが一斉に呟いた。

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