このオヨビでない少年に祝福を! 作:タイラー二等兵
※一部内容を修正
「それじゃあ私は、ギルドにカエル肉を運んでもらう手続きしてくるわね…」
制服の女性……監察官のセナが立ち去ったところで、粘液まみれのアクアが言った。
「アァ、それじゃあ僕達も一緒に行くョ」
「早く報酬を受け取って、リーンさんにお返ししないといけませんし」
「……ハハ、ダストにも見習ってほしいわ」
リーンは自虐染みた笑いを浮かべながら言った。
「リーンちゃん、そんな時化た顔してると、幸せが逃げちゃうョ?」
そう声をかけた均は、リーンの頭を手で軽くポンポン、と叩く。するとリーンは一瞬驚いた顔をし、やがて薄らと頬を染める。
「なっ、ヒトシ!? あなたちょっと馴れ馴れしいわよっ!」
リーンは手を払いのけながら言った。しかしリーンは怒ってはいるが、それは子供っぽく扱われた気恥ずかしさから来るもの。むしろ余りにも自然だったため、それがさも当たり前のことのように錯覚してしまったほどだ。
そしてそれを見たカズマは思う。
(やっぱりコイツの特典、ナデポとニコポじゃないのか!?)
彼がそう思ったとしても、仕方がないことだが。
ぬちゃっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ……
街の中を歩いて行く、アクアと均達。
ぬちゃっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ……
均達は先を歩くアクアから、少し距離を取ってついて行く。
ぬちゃっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ……
そしてノエルは、遂に耐えきれなくなって、アクアに声をかける。
「あの、アクア様。先にお風呂に行かれた方がよろしいのでは?」
ぬちゃっ!
「お金が、無いの……」
「え?」
「お金が無いのよおおおお! みいんな借金のカタに差し押さえられて、暖炉の薪代すら無いのおおおお!!」
アクアは目に涙を浮かべて絶叫をした。
「えーっと、リーンちゃん?」
状況が今イチ掴めない均は、説明を乞うためリーンを見る。
「えっとね、冬に入る少し前くらいなんだけど、この街の近くの廃城に魔王軍幹部のデュラハンが来たのよ」
「アンデッド……!」
一瞬、ノエルが苦渋の表情を浮かべる。
「それで何だかんだあって、さっきカズマ達がジャイアントトードと戦ってた辺りで、戦闘になったらしいの」
「らしい?」
「あたし達のパーティー、クエスト受けてていなかったから」
なる程、と頷く二人。リーンは話を続ける。
「それでカズマが、デュラハンの弱点が水だって気づいて、アクアが水を呼び出したんだけど。……それが洪水クラスの水で、門と入り口付近の家がね……」
「賠償金、ですか」
ノエルは呆れた表情でアクアを見る。
「実はそれだけじゃないのよ」
「まだあるんですか!?」
アクアの性格を知っているノエルだが、更にその上があると聞いて驚いた。けれどさすがにそれは早計である。
「ああ、こっちはアクアのせいじゃないわよ。
カズマ達が家を手に入れた後なんだけど、この街に向かって[機動要塞デストロイヤー]がやって来たんだ」
「ゴメン、リーンちゃん。デストロイヤーって、ナニ?」
この世界に転生したばかりの均は、聞き慣れない名詞に質問をする。しかしそれに答えたのは、ノエルだった。
「[機動要塞デストロイヤー]は、古代文明が作り出した兵器です。移動型の要塞で、四対の足を動かして移動します。
ただ、デストロイヤーは破壊されたと、エ……、私の上司の一人が仰ってましたが」
「それって話の流れからすると、やっぱりカズマ達が……?」
「うん、そう。こっちも色々あって、最後はめぐみんの爆裂魔法で破壊されたんだけどね?
実は、デストロイヤーの動力源になってた[コロナタイト]をテレポートを使って飛ばしたらしいんだけど、テレポート先がたまたま領主のお屋敷の上で、爆発したコロナタイトに巻き込まれてお屋敷も……」
「ボンッ! ……ってか?」
均は握った右手を、目の前で勢いよく開きながら言った。
「ま、まあね。
それで、お屋敷の人達は無事だったらしいんだけど、テレポートを指示したカズマに国家転覆罪の容疑がかけられて。今は一時保留で仮釈放中なんだけど、お屋敷の修理費を請求されて、家中の物が差し押さえられちゃったってわけ」
「「なる程……」」
均とノエルは、哀れんだ目でアクアを見るのだった。
「ジャイアントトードの討伐報酬と買い取り料金、借金の返済分を差し引いて3万エリスです」
ギルドの窓口で、ルナがアクアにエリスを手渡す。が、アクアは。
「ちょっと、あれだけ苦労して3万エリスって、少なすぎると思うんですけどー?」
見事なクレーマーと化していた。けれどルナも慣れたもので。
「失礼ですが、回収予定のジャイアントトードの数に、他の方が倒したものが混ざっている疑惑があるのですが?」
「ぎくっ!」
「そもそもカズマさん達は、ギルドのクエストとしては受けていらっしゃらなかったはずです」
「うっ!?」
「それを踏まえた上で特別に、ギルドから手当として報酬をお渡ししました。それでも何か、不満がお有りですか?」
「いいえ……、ありません……」
見事にアクアを黙らせるのだった。
「それでは次に、ウエクサヒトシさんのパーティーですが……。
ジャイアントトード36匹分72万エリスに、
「はちっ……!?」
余りにもの金額に、アクアは二の句が告げずにいる。
「それにしても、基本職の方が初めてのクエストでこんな成果を出すだなんて……」
「ブワーッハッハッハァ! いやァ、よくある事よくある事!」
「いえ、滅多にないと思いますが……」
ルナは若干引きながら、呟くように言った。
「……さてと。それじゃあ、……はい。僕のショートソード1万エリスと、ノエルちゃんのショートスピア5万エリス、合わせて6万エリス。
あと、リーンちゃんが倒したジャイアントトードの分、2万5千エリスだョ」
そう言ってお金を差し出す均。そういえば、と思いながら、リーンはお金を受け取った。
「えーと、次は……。あァ、そうだ。今晩の宿を探さないと」
「え、あんた達、まだ宿も取ってないの?」
「うん、取ってないケド。なんか問題あった?」
呆れたように言うアクアに、均が聞き返す。それに答えたのは、リーンだったが。
「ヒトシ、ちょっと言いづらいんだけど。今の時期って駆け出し冒険者御用達の馬小屋だと、最悪凍死しちゃうでしょ? だからみんな宿を取ってるのよ。
だから……、もし空いてるとしても高い宿になっちゃうと思う」
「そ、それは……。均さん、どうしましょう?」
アクアほど図太い性格をしていないノエルは、馬小屋を借りるのは避けたいし、凍死なんて以ての外。というか、天使が馬小屋で凍死だなんていい笑い種である。
かといって、幾らそこそこ稼いだとはいっても、高い宿に数日泊まればあっという間にお金が底をつくだろう。
「いやぁ、こいつァ全く参ったねェ」
どうやら均も、いい案を持ち合わせていないらしい。しかしそこは、日本改めアクセル一の幸運男、である。
「それじゃあ、ウチ来なさいよ。ベッドはないけど、馬小屋よりかは幾分マシでしょ。助けてもらったし、久しぶりに天界の話も聞きたいもの」
「……天界?」
「なあああああっ! 何でもありませんよ、リーンさん!!」
珍しく、めちゃくちゃ慌てるノエルだった。
均達はアクアの、というかカズマ達の家へと向かい、歩いて行く。均は両手で、大量の食材を抱えながら。そしてノエルは、料理に必要な道具の入った袋と薪を手に提げながら。しかも二人とも、簡単な寝具を背負っていた。中々のパワフルっぷりである。
「……ねえ、ヒトシ。ホントに、あたしも一緒で構わないの?」
そう尋ねたのはリーン。実は彼女も、カズマ達の家について行くことになったのだ。その理由は。
「だからさっきも言ったじゃん。お礼の意味で料理を振る舞うって。
泊めてくれるアクアちゃん達はもちろん、あーだこーだで世話を焼いてくれたリーンちゃんにも感謝してんだからサ!」
という訳であった。
「そうですよ。均さんの口八丁に、訝しみながらもお金を貸してくれたお陰で、これだけの報酬を手にすることが出来たのですから」
「口八丁って……。いや、否定も出来んケド」
流石に均の笑顔も、やや苦笑いになっている。
「何だか、そんな素直に感謝されると小っ恥ずかしいんだけど」
リーンは照れて、頬を染めて呟いた。
そんな感じで歩いて行くと、やがて行く手に屋敷が姿を現した。
「初めて来たけど、中々立派なお屋敷じゃない。どうやって手に入れたの!?」
駆け出し冒険者が屋敷を手に入れるなんて、普通では有り得ないことだ。だからこそリーンは、素直に手に入れられた理由を尋ねたのだ。
「……それってもしかして、
「かしぶっけん?」
均が放った耳慣れない言葉に、リーンは首を傾げる。
「何か問題を抱えた物件、所謂、訳あり物件って奴だョ」
そう言って均は一人、つかつかと歩を進めて門の前まで来ると、荷物を地面に置き、腰を屈めて。
「キミ、なんて名前なの? ……そう、アンナちゃんって言うんだ。え、僕? 僕の名前は植草均。均でいいよ」
そう言って虚空に手を延ばすと、撫でるような仕草をする。
「ちょ、嘘でしょ?」
「そんな、ありえません」
アクアとノエルが驚き、リーンが訝しむ。
「ねえ、何がどうしたのよ?」
「ヒトシって言ったっけ? 彼、幽霊に触れてるの」
「……は?」
「聖職者やそれに準ずる職業なら、霊を視たり会話が出来る方もいます。けれど、物質干渉状態にない霊に触れられるという人間は、私の知る限りでは初めてです」
ノエルの説明で、均の異常性がようやく理解できたリーン。
「……あの子も驚いた顔してたわね。でも今は、凄く気持ち良さそうに撫でられてるわ」
「はい。本当に嬉しいのでしょうね」
この場にカズマがいたら、きっとこう叫んだことだろう。
『お前の特典、やっぱニコポとナデポだろっ!!』
と。
「ただまー」
屋敷の扉を開けてアクアが声をかける。しかし、中からの返事はない。
「ちょっと、誰もいないのー? 『おかり』って言ってほしいのだけどー?」
そう言って奥へと進んでいくアクア。その様子を見ていたノエルは、苦笑いを浮かべる。
「アクア様は、やっぱりアクア様ですね」
「アクアちゃんって、昔からあーだったん?」
「はい。しょっちゅう周りに迷惑をかけて……。でも、どうしても憎めない方なんですよね」
などと会話をしていた所で。
「助けてくれーっ! ロリッ子に襲われるうううう!!」
屋敷の奥から、カズマが叫ぶ声が聞こえてきたのだった。
均の特殊能力・幽霊に触れられる。ただしこれは、本来の特殊能力の副産物です。また、幽霊が視える人は偶にいるという設定なので、特殊の付かない能力です。
所で今回均は、アクア以外、リーンにも特別な待遇をしています。もちろんノエルも了承済みで、リーンはまだ気づいてません。