異世界転移? 雑役船《マイムーナ》   作:ないしのかみ

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暫く、勇者はエルダ世界を回ります。
と言うか、どう扱って良いのやら《マイムーナ》でも当惑気味なのでしょう。とにかく、宰相から厄介物を押しつけられ、暫く様子見って感じなのかも知れません。

〝姫騎士部隊〟はファンタジーの華、ビキニアーマーな女の子騎士の集団です。無論、あの鎧はマジックアーマーです。貴族の他に成功した冒険者(クエスター)が独力で入手するか、マジックアイテム屋で購入して着る様な高価な代物。強者、またはお金持ちのステータスシンボルですね。
でも魔法技術が盛んだった古代では、この手の鎧がメジャーだったみたいです、無論、製造手段はとうに失われましたが、う、羨ましい。


〈12〉

「大丈夫かねぇ」

「妹ですか、多分、平気でしょう」

 

 一人《海賊亭》に妹を遺してしまったラム・ラムに、ギネス軍曹が声を掛ける。

 だが、ハースト家は有力な士族であり、彼女に何かがあれば本家の方が容赦しないと聞き、胸をなで下ろす。

 女給なのだから、「先にあたしと話してましたし、うちらの仲間と一緒にされて、酷い目に遭う事もなかろうと思います」と上等兵が述べる。

 

「それよりどうします」

「勇者か、べろべろだな」

 

 酒を口にしたユウが酔い潰れていた。

 あの海賊ドリンクは見た目とは裏腹に酒精度が高く、ついでにもしかしたら何等かの混ぜ物か薬が仕込んであったのかも知れない。

 

「《ヴェルデ広場》か」

「ここらに宛ては?」

 

 見知らぬ土地だ。軍曹は首を振り「教会へでも連れ込むか」と近所の教会を見あげた。東方聖教会の社で、トリィと呼ばれる社の前に立っている三角形の柱(ホーリィシンボル)が目印だ。

 

「ラナの下宿が近くにあると思いますが」

「妹さんのだろ。多分、ユウ向きじゃ無いぞ」

 

 それに今出て来たばかりの店に、引き返すのもまずいだろう。

 軍曹はラム・ラムに「手伝ってくれ」と言うと、一旦、腹を地面へ着けて着座する。そしてラムの手伝いを受けながら、自分の背にぐったりした勇者を乗せて、落ちない様に布で固定する。

 

「うんしょ」

「慣れてますね」

「色々を背負ってたからな」

 

 ヤシクネーの広い背中は重量物の運搬には慣れている。

 ギネスも作物の収穫期になると背中に背負子を背負って大根やら運んでいた物である。港で沖仲仕として臨時に働いていた頃は背にコンテナを積み上げていた。

 それら比べると固定具の欠如から不安定だが、目と鼻の先にある教会だから平気だろうと目星を付ける。 

 

「ようこそ、神の社に」

 

 入ると神棚に祈っていた数人の巫女が挨拶して来る。

 軍曹は腰を下ろしてユウを下ろすと。近くの長椅子にそれを横たえた。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 白い空間だった。

 右を見ても左を見ても白い。全体に霧みたいな物が漂っており、足元の踝が確認出来ない。

 

「春日 勇」

 

 誰かが自分の名を呼んだ気がした。そんな馬鹿な、俺は異世界に……。

 

『聞き覚えがある声だ』

 

「授業が始まるぞ。席に付け」

「きりーつ。礼!」

 

 あ、こいつは高校の担任教諭の声とクラスメイトの……あれ、名前は何だっけ。

 思い出せないが、ざわざわと人の気配がする。目には見えないが周りには誰か大勢の存在があるみたいだ。

 

『幽霊か?』

 

 ユウは少しぞっとしながら辺りを見回す。すると次第ら視界は張れ、彼が良く知っている自分の教室の光景が目に飛び込んできた。

地球だ。しかし、だとしても不自然な所も多い。巨大なゴミ箱があったり、壁に貼られているポスターや書き初め類が、明らかに小さかったりと、スケール感が適当なのだ。

 

「夢なのか」

 

 思わず口に出してしまう。が、しかし「夢なのかよ」と非難めいた口ぶりの文句がはっきりと聞こえて来る。この声は誰だ?

 

「おいおい、俺の声も忘れたのか。苦情な奴たな」

「と言う事は、私の事も覚えてないのかしら??」

 

 奴の声に突き、先程とは別の女声がした。

 ユウには訳か判らない。しかし、確かに聞き覚えがある。そんな声の響きに囲まれて、そしてその数は圧倒的に増えてきて。最早、誰が何を言っているのかも判らなくなる。

 

「やめろっ!」

 

 ユウは耳を抑えて膝を着く。声は大きくなり、周囲から襲いかかる圧力が身体を押す、暴力的な物に変じている。

 

「お前は自分の世界を忘れたんだ」

 

 最後に響いた声の内容で、聞き取れたのがこれであった様な気がする。

 

             ◆       ◆       ◆

 

「起きたのか」

 

 夕日がステンドグラスを輝かせている。勇者が身を起こすと周りには魔物が佇んでいた。

 椰子蟹女(ヤシクネー)、下半身が蜘蛛ならぬヤシガニのクリーチャーだ。ちんちくりんの方はギネス軍曹とか言う、生意気にも海軍の下士官だ。

 まるで巫女装束そっくりな衣装を着た女性と話しているのは。ラム・ラムと言ったか。長いピンクの髪を持った女だ。

 

「ここは……?」

「聖教会の礼拝堂だ。アルコールは。うん、抜けたみたいだな」

 

 ユウが周囲を見回すとギネスが説明する。

 西洋式の教会と言った風情なのだが、正面に配されている祭壇がどう見ても神棚で、シスターみたいな職員は全て日本の巫女さん風だ。

 首から提げている聖印と白衣(はくえ)が西洋風の白ブラウスなのが違うだけで、緋色の袴なんかは巫女その物である。

 

「礼拝堂ねぇ」

 

 やって来る参拝客も賽銭箱風の容器に賽銭を入れ、おまけに柏手みたいのを打って天井に鎮座している大きな鈴を鳴らしている。

 

「東方聖教会だからな。西方では鈴じゃ無くて銅鑼を鳴らす」

「女ばっかりだな」

「【聖句】呪文は女性にしか使えない。だから聖職者は全て女性だぞ。ああ、男で僧兵って言うのも居るか」

 

 僧兵は教会の軍事部門である。自衛や時に紛争にも出張るが、普通は裏に隠れていて表には出て来ない。だから、教会では若い巫女が目立つ。

 

「シスターってのも居るが、これは通と言うか、年増好みだな」

「通?」

「行き遅れの年増だらけさ。もっとも、シスターは適齢期を過ぎても聖職者やってる巫女の姿だけどな」

 

 元々、西方聖教会の役職だったらしいが、最近では東西両教会の融和が進み、東方にも取り入れられたらしい。歳を取っても神に一生を捧げ、婚姻しないのが基本だと言う。

 

「以前は袴の色で区別してたんだが……あそこに立っているのがそうだ」

「ふぅん」

 

 傍らでシスター風の装束を着た女性が魔法を操っていた。蝋燭に点火しているらしい。

 しかし、どことなく巫女に似ている雰囲気なのは、やきり巫女から昇格した為であろうか。いや、服の構造が巫女装束に似ているせいなのか。

 

「年増だぞ。ライバルは神様だからハードル高いぞ。還俗させるのも一苦労だぞ」

 

 ラム・ラムまでからかって来る。ユウは「シスターには興味が無い」とばっさりと言って、すくっと立ち上がって身体の調子を確かめる。

 

「大分時間を食ってしまったが、身体の調子はどうだ」

「ああ、もう平気」

 

 ぐるぐる振り回して腕の調子を確かめる。少し頭か重い気もしたが、概ね身体の方は大丈夫みたいである。首を前後に傾げて様子を見る。

 

「上等兵。あたしらはこれから東部へ行くが、お前はどうする?」

 

 軍曹が尋ねるとラム・ラムはため息を付いて、「本当は予定があったんですが、付き合いますよ」と答える。ドック入りしてる間は他の乗組員も開店休業状態だから、暇と言えば暇らしいが、明日には海軍基地へ戻るらしい。

 

「兵舎へ行けば寝床も食事もありますしね」

「しかし、門限には……」

 

 教会にある子時計を見ると時間は午後四時を回っている。

 時計は錬金術の産物だ。勿論高価で一般人に手の届く様な物では無く、貴族か富豪がステータスの為に飾る様な高級品だが、教会や艦船みたいな公共施設にも設置され、こうし民に時間を教えてくれる。親である大時計と幾つかの子時計が接続されているのが多い。

 東岸には確かに軍港があって、兵舎もそっちに存在するが、今から門限に到着するにはかなりきつい。

 

「機関長達が何かしてくれるんでしょう」

「始めからこっち持ちか」

 

 ラム・ラムは「えへへ」と舌を出した。ちゃっかりご相伴に与る気である。

 まぁ、『どうせお代は勇者持ちだ』と割り切ったギネスは、「ラッキーだな、烹水長の実家に泊まるぞ」と伝えると、ピンク髪のヤシクネーはびっくり仰天。

 

「え、《スキュラ亭》? あ、あたし、最高に運が良いかも……」

「行くぞ」

 

 感動している彼女を尻目に、ギネスは側に居た巫女の一人を捕まえて礼を述べる。同時に幾らかのお布施を渡している様だ。

 勇者はと言うと、既に扉の向こうに出てしまっていた。

 広場は夕日が赤く照らしており、露天も店仕舞いして昼間とは違って賑やかさは消えていた。

 ユウはそのままトリィをくぐる。平面形は三つの柱で組まれた正三角形で、三方へ通れる様になって居るみたいである。

 日本の鳥居の様な物なのだろう。聖教会のシンボル的な物で、神界と俗界の境目に建てられていると聞く。

 

「急ぐな」

 

 軍曹の鋭い声。やや送れてラム・ラムも神殿から出て来る。

 ちらと教会からやや離れた《海賊亭》に目をやると、人々でごった返していた。店内ではラナ・ラナらしき給仕が忙しく働いているのが小さく見えた。店外のテーブル席にもウサ耳の給仕が居たが、こちらは見覚えは無い。

 

「盛況みたいだな」

「良い事だ。こっちに構う程、暇じぉあるまい」

 

 ふと目でベクターの商売道具を探していた。

 が、大型の三輪車(トライク)は見当たらず、駐車していたと思われる場所にも姿は無かった。諦めて引き上げのだろうか。

 

「海軍とやり合うのを恐れたのさ」

 

 軍曹が察したらしく、ユウの肩を叩いた。

 何と言っても相手が軍隊である。生半可な悪党なら敵には回したくないだろう。

 

「特に陸戦意の奴らはなぁ」

「俺に挑んできた姉ちゃんも陸戦隊だったな」

 

 ボニーテールのおっかない顔が浮かぶ。

 

「モニーク准尉はマシな方よ」

 

 ラナ・ラナが呟く。まだ海軍准尉としての儀礼とか守ってる態度は評価出来る。

 が、一般的に陸戦隊と言うのは無茶苦茶な奴が多いらしい。敵前に上陸して陸戦を戦う連中なので粗暴で荒々しく、腕っ節も強い喧嘩っ早い奴らが多い。

 

「今は伝説だけど。昔の強制徴募部隊はヤクザなんか顔負けよ」

「強制?」

「昔は兵が足りないから、そこらに目の付く兵隊になれそうな奴らを片っ端から捕まえるんだ。で、有無を言わさず海軍に強制入隊させる」

 

 軍曹は言う。創世記の王国海軍では良く起こった事である。

 今は志願制で入隊希望者には困らないが、漕走船が主力だった時代の艦船では人員不足が酷く、漕ぎ手も人気が無かった為に良く行われていたと言う。

 まぁ、普通はガレー船の漕ぎ手なんかにはなりたくはない。賃金も今に比べりゃ、遥かに低いし、戦い以外でも命の危険も多い。

 

「奴隷かよ」

「近いな」

 

 募集しても来ないなら、〝そこらで一般人を捕まえて充足してしまえ〟が昔のやり方であったのだ。もっとも、陸軍が兵隊を集める際も同じだが。

 で、その強制徴募部隊の中心が陸戦隊である。今で言う憲兵も兼ねており、傍若無人で横暴であった。移乗戦槍(ボーディング・ランス)を振り回し、街中を闊歩する彼らは悪魔に見えたと言う。

 帆船になり、待遇も改善されて志願者が増えた今では強制徴募は消えたが、ほんの二百年前までは横行しており、港町で海軍は今でも恐れられているのだ。

 

「その青いの……」

「徽章か」

 

 ユウは歩きながら、軍曹達の腕に撒かれた青い布を指さす。

 スカーフか何かの様な鮮やかな青い布だ。空色に近い色調でよく目立つ。青地の真ん中には紋章が縫い付けられていて、幾何学的な模様が配されている。

 

「海軍の兵隊に授与される支給品さ。ほら、名前が入ってるでしょ」

 

 ラム・ラムが見せてくれるが、書かれているのがエルダの文字なので何が書かれているのか判らない。「これはラム・ラム・ストローメア。私の名ね。この紋章は上等兵を現してるわ」と解説してくれる。

 

「階級章みたいな物か」

「階級もそうだけど、国軍の身分もこれで証明するんだ。

 ちなみに下士官は徽章の地がピンクだぞ」

 

 青布は変わらないが、ギネスが刺繍されている紋章の地は灰色では無く、ピンクだった。士官はこれがひと目で判る様に尉官、佐官、将官ごとに色が変わると説明される。

 

「元々は移乗白兵戦になると敵味方が判らなくなるから、どっちが味方なのか識別用に腕に青い布を巻いたのが始まりなのよ。

 敵も偽造したから、偽装防止に階級章を刺繍で入れて更に最近ではもっと進化しているみたいよ」

 

 敵味方識別用の魔石が組み込まれているけど、どんな仕組みでそれが作用しているのかはラム・ラムにも判らないと言う。

 

「知ってても教えないぞ。軍事機密だ」

「ケチだな、軍曹」

「ユウは軍人じゃないからな。我が国の人間でも無い」

 

 下士官にはある程度は公開されているらしい。いや、彼女が技術畑だから理解出来る可能性はある。一般の下士官クラスなら判らないのかも知れない。

 ともあれ、地球で言う所の敵味方識別装置(IFF)的な何かがあるのは理解した。軍人かつ国民では無いのを理由に情報を秘匿する。

 

「紛失したら……」

「死刑に近い重罪だ」

 

 無論、悪用される可能性も高いからだ。

 米軍のドッグタグ的な扱いも兼ねていて、戦死したらこの徽章を持ち帰る習わしまであるそうだ。重要度の高いアイテムだと言える。

 

「軍服で判断しないのか」

「軍服?」

 

 礼装用には存在するし、士官学校の生徒用にもあるが、それ以外は制服は制定されて居ない。エルダの軍隊は陸軍も含め、皆てんでんばらばらな格好をするから、むしろ、海軍が徽章を制定した事の方が革新的なのだそうだ。

 

「各地の領主が独自の軍装を持つからなぁ」

「ああ、〝赤備え〟とかですね」

 

 これが絶対王制なら、統一した軍服を設定可能なのだろうが、軍と言うのは王国の直轄軍の他、地方の領主から派遣してくる私兵や、金で雇われた傭兵なので導入はなかなか難しい。

 

「武田か井伊でも居るのかよ」

「何の話だ。軍装を真っ赤に染めた連中の話だぞ」

 

 地方領主の軍勢には独特な出で立ちも珍しくない。独自性を出し、他の軍勢と差別化する為に軍装を目立たせる連中も多いのだ。

 ビキニアーマーに身を包んだの女騎兵が先陣を切る〝姫騎士部隊〟なんてのも有名だ。無論、アーマーはマジックアイテムで、領主が持っている財力を誇示する為の看板部隊であり、その地方軍の主力は一般歩兵なんだけど、〝見せ金〟と言う奴だ。

 そんな風潮から統一に反対する輩が多い。傭兵はそれ以上に自分の格好に拘る、我が儘な連中である。

 

「地球にもランツクネヒトなんてのもあったからな」

 

 海軍はエロエロンナ海軍が王国軍の中核なので、その影響から強い統制力があって。徽章の配備に結び付けた経緯がある。

 そも船乗りは元々ゴロツキの集まりで、独立独歩を胸にした統制が取りにくい者達なのである。海の傭兵と言って良い。それをここまて組織化したエロエロンナ辺境伯や、それ以前の者達が偉いと言えるのかも知れない。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 話してる内に《ルヴェル広場》から遠ざかる。

 貧民街はどうやら表通りから隔絶してるらしく、背の高い建物によって隔離されて、裏側に閉じ込められているみたいで、こちらからは見当たらない。

 建っている建物は庶民の物だが、極端な貧しさは感じられなかった。

 

「都市は表側だけは綺麗に見せようとするからな」

 

 が、本当の貧民街はこんな物じゃ無いと軍曹は告げた。

 これでも都市の外にある〝市民では無い民〟が住む門前町のスラム街よりは、遥かにマシなほうなのだと言う。

 

「一応、ここにも街灯があるだろう」

「ああ」

「こんな所でも、都市のサービスが施されてる証拠さ」

 

 先程の広場もそうだが、表通りにはガス灯が点々と設置されている。

セントールの少年が鍵で街灯の胴部を開け、中に入っている燃料石と水を交姦・補充をする。鍵付きなのは悪戯防止と盗難対策だ。

 ガスが反応して噴出する軽い音を確かめると、長い棒でガラス製の前面ドアを開き、裸火で火口に点火する。小さな灯が灯る。

 

「電灯じゃ無いのか」

「あ、お前の世界じゃ電気が普及してるのか」

 

 軍曹が驚く。まだ電気はエルダでは最新技術なのだ。電撃を放つ魔法から、魔力の一種として研究がなされていて、ギネスだって実験室で何度か見ただけだった。

 

「凄いな、異世界。でも魔法はないって聞いたぞ」

「電気は科学だよ。直流と交流があって、俺も良く知らないけど」

 

 ユウは口籠もる。電気は良く知っているが、じゃあ原理はどうなんだと問われても上手く説明は出来ない。一般人で工業系の学校にも通ってないから、こんな物だろう。

 

「科学か。では錬金術的なアプローチは正解だな。直ぐ切れるフィラメントを何にすれば……」

 

 とギネスはぶつぶつと何か呟いている。ユウが思い付いた様に「あ、竹がいいって聞いた事があるぞ」とアドバイスを入れる。発明王トーマス・エジソンが京都の竹をフィラメントにして成功したエピソードを思い出したからだ。

 加えて竹林妖精(バンブーエルフ)が居るなら、竹だってエルダに存在するだろうと言う単純な発想だ。

 

「機関長」

「あ、うん、フィラメントは開発部に伝えておこう」

 

 自分の世界に入り込みかけたギネスを見かねたラム・ラムが、ギネスの肩に手を掛けて注意する。幾つか目の運河を渡り、ポワン河の本流に突き当たる。

 今は三本に分かれているポワン河の内、東岸に渡る為の東の河と呼ばれている流れである。主に軍艦が利用するので、ギネス達にはお馴染みである。

 

「おうっ、開閉橋」

 

 目の前には跳ね上げ式の橋梁が掛かっていた。道板はハの字型に開いている。大型船、特に背の高い帆装を持つタイプには、橋もこうした機構が必要になるのだ。

 

「詳しいな」

「鉄道マニアだったんだ」

 

 その単語は軍曹達には分からない。

 蒸気機関の性能がもっと向上し、高圧かつ小型化が成立すれば鉄道は恐らく登場するのだろうが、エルダでは鉄道はまだ研究中だからだ。まずは水管式ボイラが発明されるまで待たねばなるまい。

 

「可動橋には幾つかタイプはあるけど、実物を見るのは初めてだよ」

 

 ユウは目を輝かせる。

 子供っぽいかも知れぬが、男の子はこの手のギミックが大好きなのだ。

 

「中央には昇降橋が、西の河には旋回橋があるぞ」

「うわぁ、見たい」

 

 ギネスの説明に益々盛り上がるユウ。ポワン河を横切るこれらの橋は領都の背骨とでも言える存在であった。大河を渡る大動脈であり、国内にある三箇所の街道の一つでもある。

 

「でかいなぁ」

 

 馬車なら四車線はありそうな幅の広さである。橋が跳ね上がっているので通行止めになっている為、手前で通行人や車が停まっており、人混みが目立つ。

 

「火夫は大変だなぁ」

 

 勇者は呟く。橋の欄干に設置された街灯群に火を入れる為、火夫の少年が斜めになった橋の上に取り付いて、道具を手に点火作業を行っていた。

 橋が上がっていても、街灯は点火する必要がある。まだ夕陽が照っている時間ではあるが、陽が暮れてから点火したのでは間に合わないから、夕刻に火を入れる必要があるのだ。

 その後ろを轟音を立てて、大型の帆船が微速で横切って行く。

 

「《バヤデール》だな。帰還したのか」

 

 軍艦の名らしき言葉を刻む軍曹。甲板には綺麗どころの美女ばかりが目立ち、縦帆の後で呪文を詠唱している魔導士らしき女性もびっくりする程の美女だ。

 ユウが見とれていると「あれは娼妓艦」とラム・ラムが教えてくれる。

 

「つまり、海上で性行為をする為の艦よ」

「えっち出来るの!」

「当然、だって乗組員は淫魔(サッキュバス)だらけだし」

 

 艦長から何から、エロくてセクシーな魔族である。

 これで艦隊の性欲を発散させ、現地での性的問題を解消してるとの事である。

 

「元々、海軍にはこの手の問題が多かったのよ。何せ、何ヶ月も船に閉じ込められ放しで、港に寄るまで女っ気無しで……」

 

 そして寄港する度に問題も起こしたらしい。

 

「で、サッキュバスを領民にした辺境伯が考えたんだけどね。これからは女性も海軍軍人になる時代だから、婦女子の貞操を護る手を使うべきだって、おかげで浮かぶ娼館がこうして走り回ってるって訳」

「憧れるなぁ」

「ユウは自分で買えるでしょ、お金はあるから。あれは軍人専用」

 

 勿論、エルダ的にユウは成人なので娼婦を買っても問題は無い。さっきのサッキュバスとのむふふを想像して、股間が勃起するのを認めたラム・ラムが冷や水を浴びせる。

 

「ちぇっ」

「娼館に行けば、サッキュバスも買えるわよ」

 

 ま、サッキュバスが居る様な店は目の玉が飛び出るとんでもない高級店か、安くても月給が消える高位のクラスの娼館に限られるのだが(笑)。

 〝海軍に入れば、サッキュバスを抱ける〟と言うのも、海軍が人気就職先の理由の一つだとの噂も、王国海軍の士気が高いのもそのせいだと言う説もある。

 

「今のお前は、お大尽でしょ」

「規制が解除されたか」

 

 橋が元に戻り、サイレンが鳴って入口のゲートが上がる。溜まっていた車両や人が動き出した。

 荷車、三輪車、そして歩行者が一斉に走り出す。元々、防衛上の理由でポワン河に架橋は禁止され、渡し船を使っていたのだが、領都は初めてそれを解禁したのだ。

 

「うーん、明日靴を買うわ」

「ん?」

「石畳だらけで、足の負担が大きいんのよ」

 

 硬質の脚をさするラム・ラム。良く見ると周囲のヤシクネーの殆どが、その六本足に靴下の様な形のカバーを付けている。中には編み上げブーツみたいなお洒落な靴を履いている。

 

「都会は舗装されているんだった。いてて」

 

 ラム・ラムの育った村の舗装は主な通りだけで、土や砂利道だったそうだ。当然、脚には優しい。ヤシガニでも固い地面には勝てないのかと意外な面を見たユウが不思議がる。

 

「無理するなよ。もう直ぐ宿だ」

「はい、機関長」

 

 軍曹が顔をしかめる部下を叱咤する。田舎育ちの為、素足で行動してしまったのを反省してるが、軍曹の方は素足である。それを指摘すると「鍛え方が違う」と呟く。

 

「野生児なんだな」

「領都に慣れてるだけだ。靴は買って貰えなかったからな」

 

 

〈続く〉




エルダと言うより、現在の中央大陸の政治は絶対王制と封建制の中間です。
王国って観念はあるけど、まだまだ地方の勢力が力を持ってる状態なので、かなり不安定です。江戸の幕藩体制に近いかも。外に〝帝国〟が存在するから、取りあえずグラン王家を頭に一致団結してるみたいな感じかな。
ここも独立してエロエロンナ公国と名乗ってももおかしくないんだけど、何故か、グラン王国の一員として従属してます。つーか、この辺境伯領他が睨みを効かせてるから、かろうじて王国が存続してる形ですね。国内が乱れては困るからですが、
そんな訳で、陸軍は軍装の装備統一が未だに出来ません。海軍は辺境伯軍中心だから、ここまで来れたのですが……。
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