異世界転移? 雑役船《マイムーナ》   作:ないしのかみ

8 / 15
弩砲は主要兵器です。
対艦用ですが対空砲として仰角も上げられて、騎竜を退治します。
鋼鉄の弓を最大に張れば、有効射高四百メートルはあります(最大射高はそれ以上ですが、弾道が弓なりになります)。
但し、爆弾が実用化されたので性能が不足気味になりつつあるとか。


〈8〉

             ◆       ◆       ◆

 

 船が怪物(ラミア)から離れて行く中、カスガは間断なく櫂を構えていた。武器が不適切な事を悟っていたが、周りには変わりになる武器も無く、仕方なく櫂を持ち続けている。

 当直の衛兵が構えていた槍が使えるかと思って近寄ってみだが、その槍は投擲型ではなく、離れている的に対抗可能な物では無かった。

 

「大丈夫だよな」

 

 倒れている兵達に目を走らせる。

 胸は上下しているから生きてはいるのだろう。服や髪の末端には少し焦げがあるが、目立たない。やはりあのブレスはパワー的には低い様だ。言わば、でかいスタンガンと言った所か。

 

「くわぁぁぁ」

「喋らねぇ」

 

 茶色の身体をうねらせながら叫び続ける敵。浅い三日月湖の湖底から首を伸ばし、大口を開けている。既に十数メートルは離れており、白兵武器ではリーチ不足だ。

 以前、パンドーラの〝ラミア〟は目の部分の顔が、各々呪文らしき物を唱えていたが、今回のこいつはただ叫んでいるだけだ。

 

「呪文を連発しないのは助かるが、何か喋れよ」

 

 まるで動物である。エルダのラミアと同じだと分類されるとフェリサ辺りが怒り出すだろう。ステータスを表示している空中データを確認すると、地球の日本語で正体はラミアとあり、HP・MPが表示されている。但し、その数値は:「Unknown」とある。

 

「狂っている? 症状は深刻だと」

 

 続いて状態ステータスを読むと驚愕するカスガ。どうやら目の前の敵は何等かの手段によって状態異常であるらしい。呪文を連発しないのも狂っているせいなのだろう。

 

弩砲(バリスタ)でトドメを刺せ」

 

 ブリッジから艦長の命令が飛んだ。艦内から数名の兵が飛びだして来て、艦首に一門だけある弩砲に取り付く。

 艦が旋回すると弩砲が怪物の方へ向く。一応、旋回砲座だが取り付け位置の関係で後方には指向出来ないのだ。

 

「長距離攻撃でトドメか。妥当だな」

「ユウは下がれ」

 

 指揮に関係ないキーラ曹長が勇者の肩を掴んで引き戻す。

 ちらりと視界の隅に白い人影が映る。怪物の後方、あの古びた墓群の中に立っている。

 

「何だ?」

「えっ」

 

 同時に弩砲が放たれた。鋼鉄製の弓が巨大な太矢を打ち出す。

 やや弧を描いた軌道を描きつつ怪物に命中したのは、古くて老朽化で弦のテンションが低いのか、装填の際に最大限まで弓を引き絞るのを怠ったのかのどちらかだろう。

 

「装填急げ!」

「えっさえっさ、ついでにえっさ」

 

 成る程と納得する。弩砲は対空砲でもある為に弧を描いては困るのだが、次弾を連射するにはこっちの方が優れているからだ。

 装填手はクレイクイン役の転把(ハンドル)を賢明にぐるぐる回して、ほんの二十秒余りで弓が引き絞られる。多分、最大限に引き絞ってはおるまいと思うと同時に、間断なく照準を付けていた射手が引き金を引く。

 

「見事だな。串刺しだ」

 

 一分もしないうちに次々と弩砲が命中し、身をくねらせて悲鳴を上げるラミアを眺めつつ、勇者はステータスウインドを覗く。櫂を構えていた体勢はもう無く、リラックスモードである。

 

「バーが減ってやがる」

 

 具体的な数値は表示されないが、HPの情報に提示されていたラミアのHPバーは弩砲が命中する度に明らかに減少していた。半分近く減った時に、敵は三日月湖の底へと沈んで行く。

 

「逃がしたか」

「本艦の装備では、水中の敵に打撃を与えられません」

 

 艦橋から悔しそうな会話が、カスガの耳朶を打つ。

 ふと、後方を確認すると墓石の中に立つ白い人影が笑った様に見えたが、すうっと発光して消えてしまっていた。

 

             ◆       ◆       ◆

 

「人影か……」

 

 患者の連れ込まれた医務室でヤノ艦長は呟いた。

 電撃ブレスを受けた者は全部で六名。取りあえず緊急に治療を行い、応急処置を済ませた所であった。重体の者も多かったが、薬と医術、聖句魔法を駆使して何とか診終わったのである。

 今、医務室の廊下はハンモックが吊され、患者達の休憩場所になっている。

 

「白い影だったな」

 

 勇者カスガは続ける。こんな事態となっては彼一人に医務室を占拠させるのはまずいので、士官室の空き部屋に移る予定だ。

 

不死怪物(アンデッド)の可能性はあるな。墓地の中に居たのだろう?」

「ああ」

 

 そして発光してかき消えた事を告げる。ヤノ大尉はカルテを記す手を止めると、「気が付かなかったな」と呟く。巫女と言う聖職者の心得もあるのに死霊に気が付かないのは不覚である。

 

「しかし、何故、パンドーラのラミアが出たんだ」

「ラミアってのがプライドを傷付けると思うな。フェリサには言うなよ」

 

 現在、艦長に代わって航行の指揮を執っている伍長には「その名は厳禁だ」と勇者に釘を刺す。カスガも心得ているらしく、「ああ」と生返事を返す。

 

「では単に怪物(モンスター)又は、(エネミー)と呼ぼう」

「新種の魔物かも知れんが、少なくとも私の知る知識には無い奴だった」

「あれはパンドーラに居る時に見た事がある。ブレスは吐かなかったが」

 

 勇者の情報に考え込む艦長。最近の領都近辺であの手の危険生物は確認されていない。河には船が常に行き交っている大動脈だから、居ても駆逐されるか、魔物の方も居心地が悪くてもっと上流、人気の無い所に移動する筈だからだ。

 スキュラ族が人間として魔族入りしたのもこの為である。人界の拡大によって活動不可能になり、駆逐される前に元の生活を捨てたのである。

 かつては気ままに水中生活し、人間を捕らえて食べる人喰いだったのが、今はそんな面影は微塵も無い。数は少ないが街中で見掛ける事もある。

 

「お前と同じく、異世界転移か?」

「考えられる。が、何の為だ?」

 

 そう問われると目的が判らない。すると脇の寝台で寝ていたラム・ラムが身を起こした。

 ブレスで運び込まれた患者よりも先に運び込まれていたのだろう。まだ調子は悪そうだが、意識はしっかりしているらしい。

 

「魔王って奴に飛ばされたのよね。じゃ、魔王の追っ手じゃないの」

「追っ手?」

「送り狼って奴よ」

 

 詳しく話を聞いてみると、異次元に勇者を飛ばしたついでに二度と戻ってこない様に追跡者を送り込んだのでは無いか、との話だ。

 可能性はあると感じて、カスガは考え込んでしまった。

 

「そう言えば、現在の《マイムーナ》は」

「ああ、現在、領都へ向かっている」

 

 停泊予定だったのを変更し、夜通し航行する事になった様である。一応、被弾箇所の点検と修復は行ったが、数時間の調査で軽微と言う事が判明し、予定通り目的地へと出発したのだ。

 

「速度はかなり抑えているが、まぁ、夜明けには到着するだろう」

「怪物の再出現は?」

「点検中には現れなかったから、くたばって死んだかどっから逃走したのだろう。

 一応、警戒態勢は敷いている」

 

 艦長は「駄目元だが」と苦笑する。

 弩砲あくまで対水上兵器。潜っている奴には無力である。探照灯(サーチライト)と当直を増やして警戒しているが、水面下で襲撃をかけられたら対抗手段は無い。

 対水中用の爆雷なる兵器があれば対抗可能だが、あれはこんな雑役船には装備されていないし、河船には不必要の装備だ。広大な海上で人魚(マーメイド)に対する物だからだ。

 

「白い人影、だっけ?」

 

 不意にラム・ラムの言がカスガに向いた。

 

「見間違いではないよ」

「嘘だとは思ってないよ。そいつの顔を確認したのかい」

 

 問われてカスガは首を捻る。墓石の中に立つ白い人影は確認したが、その顔は確認していなかった。ただ顔が歪み、笑いの表情を浮かべていたのははっきりと判った。

 

「どんな服装だったのかとも問われると、はっきりしないな」

「でも、表情だけは覚えているか…。幽霊に良くあるバターンだな」

 

 言いつつ艦長が席を立つ。僅かでも仮眠しないと後日の指揮に差し支えるからだ。

 

「私はそいつを確認しなかったが、悪霊では無さそうだ。

 いや、ただの巫女の勘だけどな」

「何故、そう思うんだ?」

「今のユウに何かが取り付いては居ないからだ」

 

 にやりと笑いながら、ヤノ大尉は艦長室へ退出する。聖句使いとして東方聖教会での巫女の経験もある彼女であるが、怨霊とかの不死怪物(アンデッド)と対峙する経験もあった。そこから来る経験なのだろう。

 

「ふーん。艦長の言う通りなら、勇者の背後には霊的な影響は何も無いと言う事になるなぁ」

「え」

「大抵、呪われたとか憑いているとかの場合には、何等かのヤバイ背景が確かめられるのだけど、それが無いって事は……」

 

 ラム・ラムは言い淀んだ。ピンクの髪を掻き上げて、かりかりと自分のボディをひっかく。寝台にだらりと下がったヤシガニの脚がぴくぴくと痙攣する。 

 

「そいつ、味方なのかも知れないよ」

 

 意外な一言に春日 勇は絶句した。身に覚えが無いのだから当たり前なのだが。

 ラム・ラムは「この世には悪い物の怪も、いい物の怪も存在するんだから、カスガを追って来た刺客を妨害したいって奴だって存在するのかも知れないだろ」と続けた。

 

『この世界で、自分を援護する存在だって?』

 

 自問自答を繰り返す内に、彼は押し黙ってしまった。

 暗闇の中、微速で雑役船は河の中を進んで行く。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 仮眠から目が覚めると新しい部屋から、勇者は外へ出た。

 寝たのはわずかに一時間。しかし、目は異様に覚めている。与えられた士官室の一つは荷物だらけであったが、寝台上を荒々しく片付け、身を置いていたのだ。

 ハンモックの上で眠りこけているラム・ラムを起こさない様に、そっと室外へ出る。

 

「おはよう」

「おはよう。えーと、フェリサ伍長だったか」

 

 露天艦橋に登ると昨夜から指揮を執っていたラミアが挨拶してくる。空は既に明けつつあった。艦橋周りには他に数名の兵が居るだけで、彼らは天幕を張る準備をしている。

 

「ん、うん。フェリサ・ミナト伍長だよ」

「天幕ですか?」

「今日は降るみたいだからね」

 

 この船の艦橋は単なる台で吹き曝しなので、天気が悪いと雨がもろに被ってしまう。好天でも直射日光を浴び続けるから、天幕を張る必要があるのだろう。

 フェリサの部下、操船科の兵が設置をしているらしい。

 

「そーいや、ラム・ラム上等兵は?」

 

 前をしっかり見ながら、フェリサはキーラ曹長の部下を訪ねた。

 一応、今回の監視役は就寝した総長の代行で彼女の筈だった。

 

「疲れて寝てます」

「病み明けだからな。無理も無いか。そろそろ着くよ」

 

 前方に河を圧倒する大きな島が見えて来る。

 

「領都ですか」

「《エロエロンナ》。辺境伯領の首都だよ」

 

 カスガは前を見る。

 すれ違う船の数が増えた様な気がしたし、同方向に走る船も増えている。殆どが小型の河船であり、大型の外航船は見当たらない。

 衝突を避ける為にフェリサの舵操作が激しくなる。下からギネス軍曹が上がって来る。

 

「よっ、おはよう」

「でかいな……」

 

 その挨拶に返事せず、勇者は目の前に現れた都市に圧倒されていた。

 東京とかを知っている身には大きさはそれ程でも無い。しかし、都市を舐める様に近付くと沿岸全体に施された石造りの構造物が目立つ。

 つまり、固められた地面は人工地盤なのだ。但し、構造は各種が入り交じっており、煉瓦積みの物から自然石を積んだ素朴な物まで統一感は無い。時代に併せて増築していった形なのだろう。

 

「パンドーラでもここまで大規模な人工物は無かったな」

 

 河口にある島。元は三角州だった場所に建設された都市は水路が幾つも貫通している。

 大きめの水路は外洋船みたいな大型船専用で、都市で一番外側の二本がそいつに当たる。軍艦はその内、東部域の水路を使っている様だ。

 

「まぁ、この地方領で最大の都市だからね」

「中央へ入るって事は、行く先は民港か」

 

 都市の一番中央も大型の水路だが、これは河の本流に当たるメインの水路で、ここでこの都市に用のある船舶は利用するのだろう。外側の二本は基本的に通過用でこの街に寄港する大型船はこの水路を利用するみたいだ。

 《マイムーナ》みたいな小型船が利用するのは場違いだが、中央の島に用があるのだろう。

 

「建ってる建物もオランダみたいだ」

「オランダ? ユウの世界の都市か、いやパンドーラの何処かか」

「うん。水上都市だった」

 

 実際、日本では平凡な高校生だし、金満家でも無かったので本物のオランダの都市を見た事は無いが、外国は好きだったので映像作品なんかではネットも含めて画像は見ていた為に上がる感想である。

 

「イタリアのベネチアもそうだけど、港湾都市って感じだなぁ」

「港湾都市か、領都の別名だな」

 

 また不可思議な単語が登場するが、『ユウの世界か何かの名だろう』とギネスは無視した。だが、領都の別名だけに反応する。

 海洋と大河を結び付ける王国最大の交易路。それが港湾都市たる《エロエロンナ》だからだ。海から届いた荷はここで河船に乗せ替えられ、ポワン河と運河によって内陸へと運ばれるからだ。

 港湾都市として交易都市としも、ここは東部、いや王国の中心(ハブ)なのである。

 

「領主様がいるのもここだよ。まぁ、年の半分以上は首都だけど」

 

 エロエロンナ伯が首都に出るのは政治的な理由である。

 辺境伯ともなると領地の広さから権限も多く、国政に関わる事が多くなる為だ。辺境を守護するのに国防や、交易による経済・外交など色々と重要なのである。国の重鎮として国王の側近になる事もある。

 

「で、何処まで行くんだ?」

「指定があったのよ。お城の専用船着き場だって」

「城か。徹底的に秘密主義にするのかよ」

 

 カスガは呆れ、頭の後ろに両手を組んで背を艦橋の胸壁(ブルワーク)に預けた。

 船は中央の水路を進み、左右の港湾地区を無視しながらずんずん上流へ進む。港湾では大型船が岸壁に停泊し、朝早くから盛んに荷を揚げたり下ろしたりしているが、この雑役船はそれに構わずに河口の方へ向かう。

 

「ほら、見えてきた。城だよ」

「成る程、港のの一番先にあるのか」

 

 軍曹が指す中央水路を抜けた先には、陸から一本の長い橋と繋がった先に水塞が建っていた。

 都市からやや離れた人工の島で、幾何学的な姿の稜堡式だった。北海道の五稜郭の様な形とでも言えば判るだろうか、但し、全体はずっと複雑で大きさも桁違いだった。

 

「中世の城郭じゃねーな」

「何?」

「これもテラ・アキツシマの影響なのか」

 

 単なる稜堡ではなく、側面に多数の角堡(ラヴェラン)が付属している。城壁はあるが高くないし、目立つ背の高い建造物は一つしか見当たらない。城庭内部は単なる平地の様だ。

 

「あれは」

主塔(メインタワー)だな。灯台だね」

「道理で無骨な感じだ。つーか、骨材だけのただの塔じゃん」

「うん、木造だからな」

 

 どうも予算の関係で、戦争すれば高い塔はすぐに目標となって破壊されるから、じゃ〝仮の灯台でも置いときゃ良い〟との考えでああなっているらしい。

 材木もこの辺りの特産品、椰子の丸太で組んでいて数年毎に建て替えるのが、経済を回すのに丁度良いとされている。つまりは失業対策の結果なのだ。

 

「……普通、領主ってのは自分に見栄を張るモンだけど」

 

 権力者は建物の装飾にやたら凝ったり、外見を取り繕うもので、それは前の世界パンドーラでも変わらなかった。だが、目の前の水塞は規模はともかく、贅を尽くしたと言う感じはしない。むしろ、実用一点張りである。

 

「辺境伯は規格外なんだよ。多分。

 その分、街は発展してるだろ。そっちの方が重要らしいね」

 

 城付属の港が見えて来た。大型船でも横付け可能な規模だが当然、一隻でも入港すると一杯になってしまう程、キャパシティは低い。

 まぁ、軍艦は正規の軍港に入るのだから、この港はあくまで補助的な物なのだろう。幸い、今は空で利用者は《マイムーナ》だけの様だ。

 

             ◆       ◆       ◆

 

 入港の済んだ《マイムーナ》は岸壁に横付けされた。

 渡り板が渡され、艦長が先頭に降りると待っていたのはエトナ副長だった。彼女は艦長と互いに答礼すると「ご苦労様じゃ」と労いの言葉を述べる。

 

「勇者の件は……」

「うむ。少し込み入っておってな」

 

 艦長の言葉を遮り、彼女は機関長と航海長に挟まれて立っているカスガに目を移す。

 彼の表情に萎縮している感じは無く、〝果たしてこれからどうなるのか〟に好奇心が旺盛だ。にやにや笑っている。何と言うか不遜な態度だ。

 

「で、俺に会いたいって奴は誰?」

 

 自信たっぷりな口調であった。これから自分がどうなるのか全く不安視していない。

 エトナ中尉は少し顔を歪めると、「では、案内するのじゃ」と答えて背を向ける。雑役船の方では停泊用の各種作業が行われていたが、ユウに同行する者は艦長以下、ギネスとフェリサのみで会った。

 

「キーラ曹長は?」

「烹水長だからな、朝飯の準備に忙しい」

「成る程」

 

 ヤノ大尉の回答にユウは納得する。接舷後に不必要な機関長と航海長を選んでいるらしい。にしても出迎えはエトナ副長一人だけて、城には他にも人員が居るらしいのだが、誰も出て来ない。

 

『極力、関係者以外の接触を断ってやがるな』

 

 ユウの内心がそう告げた。これから辺境伯とやらに面会するんだろうが。相手は慎重に物事を運ぶつもりなのだろう。

 その態度から、多分、自分の存在価値を高く買ってくれると確信している。

 

「さて、どう出て来るかな」

「煩いぞ。黙っているのじゃ」

 

 前を歩いている副長の叱責に、ユウは頭に後ろ手を組みながら、「勇者の力を取り込みたいんだろうな」とうそぶく。

 それも他者に存在を知られる前にだ。何しろ、勇者の力はパンドーラでは圧倒的であったからだ。殆ど戦略兵器並みに。

 

「ここからは上じゃ」

 

 要塞内部に入る。無骨な外観に相応しく、内部も如何にも軍用施設といった風で洗練されていないが、魔法灯による照明は点いていたので視界は開けている。

 石を削っただけの階段を上がり、数階層登った所で雰囲気が変わる。

 

「ここからは来客施設じゃ」

「ほほう、赤絨毯にシャンデリアかぁ」

「わらわも初めて知った時は驚いたがの」

 

 床には分厚い赤絨毯。天井に吊り下げられているのも華麗なシャンでリア。きらきらと輝いて美術工芸品としても高そうな風情がある。

 無論、今まで石材丸出しの打ちっ放し壁と違い、壁や天井も漆喰や木材できちんと処理されている。来客用と言うのは間違いなさそうだ。

 

「まぁ、勇者に目通りするのだからな」

 

 この程度は礼儀として当然だろう。

 ユウが納得していると、大きな扉の前に到着する。

 

「宰相殿。カスガ・ユウをお連れしました」

 

 こんこんと数回、控えめにノックすると口調を変えたエトナ中尉が内部に告げる。

 音も無く観音開き式の扉が開き、同時に勇者一行は内部に進んだ。扉にはドレスを着た侍女らしき者が各一人おり、人力で開閉を司っている様だ。

 

「ようこそ。私は宰相、ミキ・ラートリィ」

 

 奥に佇んでいた白いドレスの美女が振り返った。

 腰まであるストレートの金髪。涼しげな目鼻立ちの顔には碧眼が光り、長い耳が白い髪飾りの下から飛び出している。身長は長身で胸の部分とスカートに入ったスリットから、素肌が露出していてセクシーであった。

 

 

〈続く〉




領都到着。
次回はエロエロンナ城が舞台となります。
稜堡式ですが、目立つ高い建物が無く、主な施設は全て地下に……。実はマジノ線かジークフリート線に近い構造です。
もっとも外見的に損をしてしまってます。民衆は見栄えの良い。立派な城郭を望んでますから、格好悪くて野暮なんですな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。