異世界転移? 雑役船《マイムーナ》   作:ないしのかみ

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宰相と辺境伯に面会編です。
エロコは裏方に回って観察していますが、異世界より来た事だけに興味があって、あまり〝勇者〟の持つ力には関心は無さそうです。



〈9〉

「宰相? 辺境伯とやらじゃないのか」

 

 ユウは不審の顔を向けるが、ミキの方は澄ました者で「エロコ様に得体の知れぬ輩を、何の保証も無いのに会わせられるとでも?」と述べる。

 

「俺が会うに値しないと!」

「そも宰相たる私が直接会っているのが、特例なのですよ」

 

 白いドレスを翻しながら彼女は席に付いた。位置は最上位の卓端である。同時に侍女達がテーブル席の椅子を引いて、勇者達一行に座る様に薦めて来る。

 

「こいつ……」

「よせ、ユウ。ミキ閣下の言う事は本当だ」

 

 隣に位置するギネスが、怒りで顔を真っ赤にする勇者を諫める。

 艦長や副長は既に彼を無視して着席していた。相手が滅多に面会出来ない大物だと言うのを悟っており、宰相と勇者の諍いに口を挟む事は見送っている。

 

「さて、ヤノ大尉だったか、彼が報告にあった勇者とやらで相違ないのですか?」

「はっ」

 

 卓に付いた艦長に質問が飛ぶ。場所は宰相に最も近い次席だが、ミキと艦長の間は数席離れている。どうやら席の位置によって、はっきり身分が示されているらしい。

 まぁ、当然だ。宰相と言えば辺境伯領のNo2である。貴族としての身分も持っており、単なる士族階級の下級士官が同席する等、普通は考えられない。

 

「詳細は報告書にあった通りであります」

「それは読んだし、エトナ中尉からも話は伺った」

 

 宰相の言葉に頷くエトナ。宰相は「ふむ」とまだふて腐れた表情のユウに顔を向ける。

 何とか着席はさせたが、やはり不満そうに顔を背けている。

 

「異次元からの訪問者か、本当だとしたら興味深いわね」

「そうだよ」

 

 ぶっきら棒に答える勇者。しかし、宰相は涼しい顔で無視しながら「途中で襲撃があったそうね」と手元の資料を確認して尋ねる。最新の報告書は今、艦長から渡されたばかりである。

 

「襲撃じゃと?」

 

 思わず腰を浮かべたエトナ中尉を宰相の白い長手袋から伸びる指が、はっきりとした意志を持って制した。「静かに」と言葉は一言であるが、辺りを圧倒する動きであった。

 

『成る程、こいつは』

 

 それを見てユウは評価を変えた。

 単なる偉いさんかなと思っていたがこの迫力だ。余程実力があるか。自分に自信を持っている人間だけが持つ何かを伴っている。

 

『魔法なのか、それとも剣か。政治的な力なのか』

 

 種類は判らないが、少なくとも《勇者》なるブランドにへこへこする様なパンドーラでの偉いさんとは違うみたいである。向こうでも、姫がこんな感じであったなと回想する。

 

「怪物は撃退はしましたが、完全に滅してはいません」

「領都近くに出没は困るわね。河川警備隊に警告を指示しましょう」

 

 自信があるか、度胸があるから自分の前に姿を見せるのだ。でなければ蔭に隠れているか、手の届かない所でふんぞり返っているだけだろう。

 

「さて、《マイムーナ》は私の指揮下に入って頂きます」

「宰相閣下のですか?」

「当分の間ですけどね。ああ、業務は変わりませんよ。

 ただ指揮系統が王国海軍から、宰相府の直下になるだけです」

「しかし……」

「海軍の許可は取っています」

 

 その間にも何か話は進んでいるらしく、途切れ途切れだが会話はユウの耳に入ってくる。だが、彼はそれに注意を払っていなかった。

 

「これにあった白い影ですが……」

 

 自分に対しての質問に、勇者ははっとして宰相の方を向いた。

 柔和な笑みを浮かべている若い女である。しかし、宰相と言うのだから何百才も(よわい)を重ねて若作りしているだけのロリ婆ァかも知れない。

 いや、耳が長いからヒト族では無く、妖精(エルフ)半妖精(ハーフエルフ)の可能性もある。或いはこの世界独特の種族か。

 

「君は何だと思いますか?」

「正体か。巷では不死怪物(アンデッド)の幽霊だと推測されているが……」

 

 報告書を手にした宰相は碧眼をこちらへ向けて答えを待つ。光の加減によっては翠にも見える吸い込まれそうな瞳だ。

 

「正直、俺はまだエルダなるこの世界の事が判らない。先の推論もここの住人達が出した答えに過ぎない。まぁ、見たのは俺だけだから、その推論も間違ってるかも知れない」

「もっともね。君は異世界人なのだから」

 

 宰相、長いストレートの金髪女は同意した。エルダの基準での判断として幽霊という線はあるが、正体不明なのは認めざる得ない様子である。

 

「ただ、パンドーラでの経験から言えば精霊とかに近そうな感じだった」

「精霊か。霊的存在。神やその眷属の可能性もあるのね」

 

 霊的存在はエルダにも存在する。と言うか、土地の性質その物が精霊に頼る部分が多いのが真実であった。砂漠が暑いのも、高地が寒いのも精霊のせいである。

 

 

「単刀直入に聞きたい。俺をどうする気だ」

「せっかちですね」

 

 なかなか本題に入っていかないので、しびれを切らしたユウは宰相に質問した。

 彼女は机の上に指を組んで、面白そうにユウの方を眺めると「どうして欲しいのですか?」と逆に尋ねる。

 

「俺の力が必要なのか」

「あら、何の為に?」

 

 くすくすと笑う。どんな力を持っているのかも未知数なのに、それを当てにする程、グラン王国は困っていないし、エロエロンナ領だって同じある。

 

「貴方が転移者であると言うのは本当でしょう。テクノロジー面からの予想ですが」

「俺は勇者だよ」

「ああ、前の世界ではね」

 

 ミキはそれを強調した。ついでに「では貴方の出身地では?」と続ける。

 今度は勇者の方が面食らう。地球では高校生に過ぎないのであるからだ。しかも取り立てて優秀でも無く、少し武道をやっていただけの体育会系が特徴だが、成績は中の下といった所の平凡な学生だ。

 

「貴方の様に、かつてこのエルダにも外の世界からやって来た者達が、数多く発見されています。異世界という点では、テラ・アキツシマが良い例ですね」

「そのテラだ。そいつは俺と同じ日本人なのだろう」

「さて、判りません。古文書によると〝チキュウ〟から来たと記されてますが、君の世界である〝地球〟と同一なのかは……」

 

 正教会の聖書にも確かそう書かれていたはずだ。しかし、皇国語と違いエルダ西方語は表意文字なので、発音は同じでもそれが同一の物であるかは確かめられない。

 

「パンドーラでは俺に期待してたぜ」

「君と言うより勇者を、ですね」

 

 ミキはパンドーラ人はカスガ・ユウ本人では無く、その名称の付いた職業を羨望していたのではないかと指摘する。

 

「う……」

「つまり、勇者としての力があれば、誰でも良かったのです。

 召喚と言われましたね。それが別の世界に住んでいる一般人を、自分の都合だけで呼びつけるのが許されるのでしょうか?

 私には信じられないわ」

 

 一気に喋って喉が渇いたのか、宰相は机の上にある杯を飲み干した。優雅に長手袋が伸ばされ、目を瞑って喉がコクコクと鳴る。

 空になったガラスの杯に、隣に控えていた侍女が水差しから中身を注ぐ。

 宰相の「ありがとう」との礼の言葉に。侍女は無言で会釈して後方へと控える。

 

「さて、君は今、魔法が使えないそうね」

「んな事まで、報告されてんのかよ」

 

 勇者はばつが悪そうな顔をする。宰相は頷いて「元の世界には魔法はなかった。これは間違いありませんね?」と改めて尋ねる。

 

「ああ、地球は科学文明の土地だ」

「よって貴方が得た魔法は、パンドーラからの借り物であったとも言えます。

 世界を移動したので魔法の法則が変化したのでしょう」

 

 宰相はエルダの魔法との違いを挙げ、余りにもシステマチックな面を取り上げる。

 

HP(ヒットポイント)MP(メンタルポイント)と言うのも判りません。個人の持っている素質を数値化した物だと解釈しますけど、その基準は何処から来るのか……」

「パンドーラの数値だからな。地球でもそんな数値は無かった思う」

 

 病院に担ぎ込まれた場合でも、「いかん、今、この患者の数値はHP×だ」とかの会話が発せられない事にユウは気付いた。あれはあくまでパンドーラの基準なのだ。

 

「経験値とかの話を聞く限り、パンドーラとはエルダとは異なった世界に思えます」

「それは……」

「数値化、規格化され過ぎてるのです。

 人間って、数値で割りきれる様な物ではありません」

 

 一息付くと、宰相は「これは正教会の秘伝に書かれていた文句ですが……」と呟く。

 その場に居たエルダ勢は驚く、正教会とは西方で、いやエルダ最大の宗派である。西方系と東方系に分かれているが、元は同じ宗教だ。

 英雄かつ聖女、テラ・アキツシマを主神と奉じる宗派だが、西方系が彼女しか神を認めないのに対して、東方系は様々な副神を神として祀っている違いがある。

 だが、秘伝と言うと西方正教会にに存在する文書なのだろう。無論、一般の神官風情では近付く事も許されない物である。

 

「例えば短剣があるとします」

 

 懐から小振りの短剣を取り出すミキ。シンプルな片刃造りで凝った感じである。「さて、短剣の出せるダメージは?」とユウに尋ねる。

 

「大したダメージ出たせないだろうな」

「そうですね。一般的には」

 

 その短剣を彼女は勇者の方に滑らせる。周りながらもそれは勇者の手に止められる。

 困惑する勇者に「見ての通りの剣です。魔剣でも無ければ、名工が打った業物でもありません。手紙の開封とかに使う、普段遣いの品です」と告げて、「かつてこの剣のダメージを数値化しようとした者が居ました。その者も、異世界から来た転移者だったと言います」と続ける。

 

「え」

(いにしえ)の記録です。彼が当て嵌めた数値は〝怪我〟から〝軽傷〟でした」

 

 だからその数値を絶対視して、ある日、五体満足のまま敵に背後を取られて人質になってしまったと言う。そうして「この男を殺すぞ」と脅迫されたらしい。

 

「彼は〝構うな。短剣の威力では俺は十数回耐えられる〟とその時、叫んだそうです」

「まさか」

「急所を一発で、その男は死にました。

 そうそう、彼は勇者を自称していたそうですよ」

 

 勇者は無言だった。

 自分以外に勇者、テラ・アキツシマ以外が存在した事に絶句していた。

 

「貴方は私が勇者の力に頼ろうとでも思ってるのでしょうが、はっきり言って興味がありません」

「何だって」

 

 パンドーラでは召還後、その力を賞賛されて何から何まで頼られ、魔物退治に引っ張り出された物であったが、宰相は要らないと言う。

 

「興味があるのは異世界からのテクノロジーですね」

「時計か?」

 

 散々話題になっている立体モニターに対し、「それは研究対象にはなるでしょうね」と肯定したが、「けど技術レベルが違いすぎて、直ぐには役には立ちません」と呟いて席を立つ。

 

「何を……」

「貴方のそれですね」

 

 ミキはそのまま勇者に歩み寄る。護衛らしき侍女達がはっとして身構えるが、彼女は意を介さずに前まで来ると、そっと勇者の腰に手を伸ばす。

 地球時代から愛用しているポーチに目を移す。他の衣類は擦り切れて破棄されてしまい、形だけを範に取ったパンドーラ製の服に替わっていたが、これだけはオリジナルだ。

 

「わい・けい・けー。古門書に記録があります」

 

 商品名が一般名詞になってしまったのか、ファスナーの事を宰相がそう告げた。

 

「ファスナーかよ」

「そう。テラ・アキツシマはそう言っていましたね。その金具です」

 

 じーっ、と音がした。宰相がポーチの蓋を開けたのだ。

 興味深そうに開閉を繰り返す宰相。『確か、ディスカウントショップで二千円とかだったな』と思い出すやユウ。

 

「わい・けい・けーは正教会の本部に、テラが残した遺物が保存されています」」

 

 単なるファスナー。しかし、エルダでは聖女の遺した聖遺物扱いだ。

 一万年も昔の代物だから、付いていた筈の布地はとっくに崩れ去り、金属部分は錆が浮いて崩壊寸前である。途中で状態を憂いた神官が魔法によって経年劣化を防いだが、それまでにボロボロになってしまっている。

 

「まぁ、聖遺物としてなら、その方が威厳があるのでしょうが」

「宝物殿のお宝ならな」

 

 ファスナーは巧遅に秀でた金属加工技術が必要で、エルダの通常技術力では古代王国時代からずっと再現不能であったのだ。

 錬金術に頼って、やっと似た様な物が出没しは始めるたが規模が大きく、とてもこのポーチの様な短小軽薄な物にはなってないらしい。

 

「こいつを実用化したいのかよ」

「聖遺物が正教会より出る事はありませんからね」

 

 つまり、現物をお手本にしたくても出来ないと言う事だ。

 外から観察すればある程度の構造は理解出来るが、聖遺物は滅多に開示されないから、目にする機会も当然限られる。

 

「……しかし、量産は難しそうですね」

土小人(ドワーフ)の技術力でもですか?」

 

 それまで沈黙していたヤノ艦長が口を挟む。

 宰相は「ええ」と答えて、ポーチから手を離した。細密で繊細な加工技術で、大雑把で豪快な技能で金属加工を主とするドワーフには似合わない。

 むしろ、細工なんかを得意とする錬金術師達の領域だ。にしても、量産に辿り着くまでは手作業による一品製作になるだろう。

 

「カスガ・ユウ。わい・けい・けーを譲って頂きたい」

「ポーチを?」

「そうです。無論、無償とは申しません」

 

 ミキが傍らの侍女に目をやると、侍女は心得ているらしく小さな木箱を抱えてユウの前に置く。開けてみると中身は貨幣であった。

 

「金二十枚。金貨ばかりだと使い辛そうなので、少額貨幣も混ぜました」

「うわぁ、あたしの給料の何年分だ」

 

 絶句するギネス軍曹は思わず声を発してしまっていた。それ程。目の前に展開した金額は高額だったのである

 

             ◆       ◆       ◆

 

 勇者一行が退出した部屋。宰相は外へ出て行く彼らを窓から見下ろしていた。

 カスガ・ユウに関しては「当分は身柄は拘束するが、異次元からの尖兵と認めらられなくなれば、何処へなりとも行きなさい」と放置の形を取っている。

 

「結局、どうだったの?」

 

 エプロンドレス姿のメイド服を着た眼鏡を掛けた侍女の一人が、宰相ミキ・ラートリィに問うた。白いカチューシャを外しながらである。

 

「ご苦労様です。エロコ辺境伯」

「いいって、私も観察したかったからね」

 

 ミキの答えにエロコ・エロエロンナ辺境伯は笑いながら答えた。会見直前、得体の知れぬ勇者に身を晒すのが危険と判断して、宰相が急遽、女領主を侍女に変奏させる変更を申し出て、この様な形になったのである。

 

「事実を知ったら、悪趣味とでも思われたのかももね」

「は」

 

 無論、侍女の一人としてずっと会談を見守っていたのだ。杯に飲み物を注いだのも彼女であるが、まさか、辺境伯本人だと見抜いた者は皆無だったろう。

 

「報告書。私にも貸してね」

「どうぞ」

 

 薄緑の髪をした辺境伯が鋭い眼光を光らせてそれに目を通す。艦長から直前に渡された最新の報告なので、今は宰相しか内容を把握していないのだ。

 あの場で侍女が読む訳には行かない。

 

「ふうん。怪物か……。異世界の魔物である可能性、大。成る程」

「これには警戒を出しました」

「どれだけ脅威は低くなるかよね。爆雷が無いと対抗は無理そうだし」

 

 読んでいる間にも正規の侍女達が辺境伯を取り囲み、立っている彼女の着替えを粛々と行っている。侍女達が離れると、そこには若草色の短ケープとベレー帽をまとった半妖精(ハーフエルフ)の姿があった。靴さえもブーツに変えられており、若い士族の少女と言う風情だ。

 

「爆雷は警備隊に配属しましょう。《マイムーナ》にも渡して」

「数が足りませんが……」

「最大で四発ずつ。増産を工廠に指示して」

「予算が……ああ、頭が痛い」

 

 宰相は頭を抱える。辺境伯領だってお金は無限に湧いて来ない。どうやって予算をやり繰りするかは宰相の役目なのだが、軍隊は基本的に金食い虫で財源に寄与しないのだ。

 

「勇者か。確かに異世界から来に匂いはしたわね」

「本物でしょう」

 

 エロコの言葉をミキは肯定する。

 テクノロジー面を見てもそうたが、考え方がエルダの者と相違がある。見掛けは東方の皇国人にしか見えないが、確かに異世界から来た感じがする。

 

「彼の考え、いえ、前の世界〝パンドーラ〟でしたか、それが引っかかりました」

「システマチックすぎる事ね」

 

 エルダとは異なる異世界。彼はここを含めて〝ファンタジー世界〟と呼んでいたが、大雑把に言えば、化学や物理のみの〝地球〟と違い、魔法が存在する世界らしい。

 

「まぁ、理解は出来るわ」

「エロコ……」

私の世界(リグノーゼ)から見ても、ここは魔法があるからね」

 

 かつて魔法が無い世界を知っている辺境伯は、窓の外にある青空を眺める。

 この空の上に空気の存在しない天空があり、数万の戦闘艦が数万光年の単位で戦いを繰り広げている世界があるとか、誰が想像しよう。

 

「要は法則が違うのよ。魔法なる技術と物理・科学が共存可能な世界。

 時が経てば、勇者の時計も再現出来る様になる世界だからね」

 

 今は技術力が低すぎて、追いつけはしないが数百年の時間を掛ければ或いは。

 次元反動エンジンを持った星船(エトロワ)すら、実用化して普及させられるかも知れない。

 が、まずは電気、この世界では魔力の一種と思われているエネルギーを普及させねばならない。停滞した世界で百年掛けて蒸気機関まで来て、飛行船も実用化したのだ。

 

「私が危惧したのは、バンドーラの考えが異質すぎるからです」

 

 続けてミキは「人間を物の様に扱う世界。私は嫌悪しますね」と続けた。実際、エルダだって理想郷では無い。貧富の差はあるし、戦争や災害もあって社会的にも不安定だ。

 だが。ミキにはそれでもパンドーラなる世界に非人間的な、不気味な物を感じていたのだ。

 

「多分、彼は勇者として召喚された事を利点だと考えているわね」

「向こうからしたら、彼は道具です」

 

 言葉を切り、ミキは豊かな胸を揺らして言い淀んだ。偶然転移する者だったら判るが、強制的に自分の意志も無関係で召喚されて働けという生活、そんなのが許される物なのだろうか?

 

「召喚され、いい生活を与えられて賞賛されるもそれは餌に過ぎません。

 恐らく勇者と言う名の、換えの効く道具なのです」

「昔のゲームなんだけど」

 

 エロコが思い出した。

 ゲーム、と言ってもこの世界ではまだ作成されていない遊びだ。個人端末の一人用のシステムで運用されるごっこ遊び。

 

「物事が単純化されて表現されてたのよね」

 

 ステータスや魔法、システムなどだ。中にはクリティカルなどの特殊事例を盛り込んだ物もあったが、少数派だ。

 

「過去の遺物だけど」

「遺物ですか?」

「基本、共通項は同じだけどね。仮想現実とか多人数対応とか、後に付加要素が加わるけどね。

 熱中しちゃうと仮想空間に入り浸って現実に戻らないから、何世紀か前に私の世界じゃ禁止されたけどね」

 

 辺境伯はこれから開発されるかも知れない遊びと、勇者が話していた世界の類似性を比較してくすりと笑った。

 

 

〈続く〉




実は辺境伯も異世界の人なのですが、心はすっかりエルダの人間です。
ただ、何かの目的があって技術を進歩させたがってるのですが、手を加えるのは最低限で、どっかのハゲ親父みたいに一世代で千年近くも知識や社会を進ませて、機甲界や超空間転移を再現したりしません。
むしろ、この世界特有の魔法と異世界の理の術、科学を融合させる錬金術を発展させたいみたいです。
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