よろしくお願いします!
ここはホロライブ保育園。縮めて〝ホロ育園〟──と言ったり言わなかったり。
とあるヴァーチャル世界にあるそこには、個性豊かな子ども達が預けられています。
「うーん……どうしたものか……」
うなり声を上げながら首を傾げたのはアキ・ローゼンタール先生。長いのでアキロゼ先生としましょう。
金髪のツインテールで、少々おっとりとしたところがある異世界からきたハーフエルフです。ちなみにツインテールは不思議な力で浮いていて、ビュンビュン飛び回ったりもします。
子ども達にせがまれて飛ばしていたら窓ガラスを割って怒られたこともあります。
「うーん……」
陽の当たらない
「はあちゃまっちゃまー!」
滑り台の上でなんかよくわからないことを言っているのは
金髪ロングのお下げにキリリとしたつり目の女の子。セーラー服風のお洋服を着た、赤いリボンとハートが好きな女の子で、英語だって喋れちゃう凄い子です。頭の中身も凄い子です。料理の腕も(悪い意味で)凄い子です。
でも、アキロゼ先生の頭を悩ませているのは、なんかよくわからないことを言っているはあとちゃんではありません。
「かぷかぷ……」
アキロゼ先生の背中にしがみついてお洋服をかぷかぷしているのは
さらさらの金髪にコウモリの髪飾りがとってもチャーミングなバンパイアの女の子。バンパイアらしく布地が少ないお洋服を着ていておへそまで出ています。バンパイアなのに血が苦手でアセロラジュースが好きで、でもやっぱりバンパイアだからか、あまりお外には出たがりませんでした。
ですが、アキロゼ先生の頭を悩ませているのはかぷかぷしているメルちゃんではありません。
「アキせんせーみてみてー!」
満点の笑顔で元気いっぱいに駆け寄ってきたのは、
茶髪のサイドポニーにオレンジ色のお洋服は明るい性格のまつりちゃんによく似合っています。
「おだんごつくったの!」
「わあ! 綺麗に作れたね!」
まつりちゃんの両手にはまんまるな泥団子。ほっぺたに付いた泥に気づかないくらい夢中になって作っていたようです。
「あげる!」
「あ、ありがとう」
アキロゼ先生は差し出された泥団子を受け取りました。手や服が汚れてしまうのであまり触りたくはなかったのですが、この無垢な笑顔には逆らえませんでした。
「たべて!」
「え」
「たべて!」
「え……と……」
大量の冷や汗が滝のように溢れるアキロゼ先生。
あらゆる相手を素手でテイムする〝ムキロゼ伝説〟はあまりにも有名な話ですが、子ども相手ではさすがのムキロゼと言えど手に余るようです。
受け取った泥団子と、期待で目をキラキラ輝かせているまつりちゃんを交互に見て困った笑みを浮かべていると、二人の間をふわふわとチョウチョが横切りました。
「あ! チョウチョだー! まてまてー!」
「……ふぅ」
まつりちゃんはチョウチョを追いかけて行ってしまいました。
「……たべるの?」
「ハッ?!」
忘れていました。メルちゃんが背中にしがみついたままだったことを。目撃者がこんなところに。
かぷかぷし過ぎてアキロゼ先生の服がベトベトになっていました。
そうとは気づかずに、アキロゼ先生は慌てて言い訳を考えます。
「じ、上手に作れてて食べるのがもったいないから、あとでゆっくり……ね?」
「ふーん」
興味もなく、特になんとも思っていないのか。
それとも内心ではニヤリとほくそ笑んでいるのか。
アキロゼ先生にはどちらなのか判断がつきませんでした。
ですが、やっぱりアキロゼ先生の頭を悩ませているのは泥遊びでドロドロのまつりちゃんではありません。ある意味では合っていますが、本命ではありません。
──ではなにがアキロゼ先生の頭を悩ませているのか。
ここまでくればもうおわかりですね?
「まつりちゃーん! まってー!」
アキロゼ先生の視線の先には、白い髪に白いケモミミ、白いお洋服と⭐︎マーク付きの筆先のようなもふもふ尻尾が特徴的な女の子。
──そうです
チョウチョを追いかけるまつりちゃんを追いかけるフブキちゃん、という光景が繰り広げられています。
これはこれでほっこりする光景ですが、ほっこりしてはいられません。
そのフブキちゃんが、アキロゼ先生の頭を悩ませている原因なのですから。
決して問題児というわけではありません。
むしろその逆──
恥ずかしがり屋で大人しめで、それゆえに他のお友達との交流がほとんど無いのです。
唯一まつりちゃんには懐いているのですが、それはひとえにまつりちゃんの友達作りが上手いから。
明るく活発で人懐っこいまつりちゃんだからこそフブキちゃんは心を
「どうすればみんなで遊んでくれるのかな……」
フブキちゃんだけ、他の子と遊んでいるところを見たことがありません。
まつりちゃんを追いかけるようになったのも割と最近で、それまでは一人でいることが多かったのです。
「うーん、お節介を焼くか、それとも自然に任せたほうがいいのか……」
右へ左へ首を傾けて、浮いたツインテールもフワンフワンと上下に踊ります。
「アキちゃんせんせーみんなであそびたいのー?」
「え? んー、ちょっと違うけど……そんな感じ?」
いまだに背後にいるメルちゃんに答えました。やっぱりバンパイアなだけあって、誰かの影にいるのが落ち着くのかもしれません。
「はなしはきかせてもらったわ!」
「はあちゃま?!」
滑り台の上で我が物顔で仁王立ちしていたはあとちゃんがいつの間にかそばにいて、ニヤリと口角を上げました。
「このあたしにかんがえがあるわ! まっかせなさい!」
自分の胸を叩くはあとちゃんの表情は自信に満ち溢れていて、頼もしさを感じさせます。
どうせ手をこまねいていたのです。この際、はあとちゃんに任せてしまうのもまた一興でしょう。
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「もちろんよ! アキちゃんせんせーもてつだってね!」
「う、うん! わかった!」
まだなにをするのかよくわかっていませんが、とりあえずわかっておきました。
「あ! みんなであつまってなにはなしてるのー?!」
そこへチョウチョを追いかけていたまつりちゃんがやってきました。チョウチョには逃げられてしまったようです。
まつりちゃんの背中に隠れるようにして、フブキちゃんもいます。
アキロゼ先生の背後にいるメルちゃん。まつりちゃんの背後に隠れるフブキちゃん。その四人の視線を一身に浴びるはあとちゃんというヘンテコな構図の出来上がり。
「まつりちゃんナイスタイミング! これから
「オニごっこ?! はーいはいはい! やりたいやりたい!」
楽しいことが大好きなまつりちゃん。元気いっぱいに手をあげてアピールしました。
「フブキもやるよね?!」
「え?! う、うん。まつりちゃんがやるなら……」
「もちろんメルもやるよー」
フブキちゃんが頷いたのを確認してからすかさず「ならきまりね!」と、はあとちゃんは人差し指を立てました。
「ぜんいんやるってことで、ふつうにやってもつまらないからひとつルールをついかするわ! 『タッチされたオニにタッチしかえすことはできない』ってルールよ! どう、おもしろそうじゃない? やっぱあたしってばてんさい!」
その追加ルールを聞いたとき、アキロゼ先生のピンク色の脳細胞がはあとちゃんの考えを理解しました。
さすが自称天才。これはもしかしたらうまくいくかもしれません。そんな期待が持てました。
「じゃあアキちゃんせんせーがさいしょのオニね!」
「あ、ジャンケンとかしないんだね?!」
子どもの容赦のなさに驚愕しつつ、身長差などから力の差は歴然なので、当然と言えば当然でした。
「し、仕方ない! じゃあ10秒数えるよ! そーれみんな、早く逃げないと捕まえちゃうぞー! いーち! にーい!」
吹っ切れたアキロゼ先生は半ばやけくそで数を数えます。
「「「わー! にげろー!」」」
「わわわ、まってまつりちゃんー!」
子ども達は二手に分かれました。はあとちゃんとメルちゃん、まつりちゃんとフブキちゃんです。
「──きゅーう、じゅう!」
10秒数え終わったアキロゼ先生は、真っ先に走り出しました。もちろん子どもに合わせた速さで。
狙いは……まつりちゃんです。
──程なくして。
「まつりちゃんつっかまーえた!」
「どぅわー! づがまっだー!」
まつりちゃんは地団太を踏んでめっちゃ悔しそうでした。
まあ元気
……本当ですけど?
と、内心で言い訳しているアキロゼ先生は置いておいて、ここからが本番です。
はあとちゃんが追加したルール。
〝タッチされた鬼にタッチし返すことはできない〟
つまり新しく鬼になったまつりちゃんは鬼だったアキロゼ先生をタッチすることはできないということです。
そしてアキロゼ先生以外で近くにいるのは一人だけ。
そうですフブキちゃんです。
「フブキまてー!」
「うわー!?」
まつりちゃんとフブキちゃんがデッドヒートを繰り広げている間にアキロゼ先生はそそくさと戦略的撤退をします。
これで準備は整いました。
「タッチー! はいフブキがオニねー!」
「あうぅぅ……」
鉄棒やジャングルジムなど障害物を
そしてフブキちゃんは気がつきました。
一番近くにいるまつりちゃんにはタッチできません。アキロゼ先生はいつの間にか遠くにいて、見えるところには、はあとちゃんとメルちゃんがいます。
どちらかを狙うしかありません。
「さあフブキちゃん! このあたしがあいてをしてあげるわ! かかってらっしゃい!」
優雅に腰に手を当てて胸を張っているはあとちゃん。鬼の前に堂々と姿を現すとは、相当自信があるに違いありません。
フブキちゃんは思い切って走り出しました。挑発してきたはあとちゃんに向かって。
あの引っ込み思案なフブキちゃんが、自分からです。これは価値のある大きな一歩でした。
「あまいわね!」
「……タッチです!」
「なにぃー?! やるじゃないの!」
予想外のタッチの仕方にはあとちゃんは驚きます。
ギリギリでフブキちゃんの手を避けたはあとちゃんでしたが、フブキちゃんの尻尾にタッチされてしまったのです。瞬殺でした。
「メルちゃんー! まちなさーい!」
「きゃー♪」
鬼になったはあとちゃんはメルちゃんを追いかけます。
追いかけられるメルちゃんは妙に嬉しそうで、しかもあまり逃げようという意思を感じられませんでした。
それもそのはず。
「ターッチ! メルちゃんがオニね!」
「あーあ、オニになっちゃった。フブキちゃんのしっぽどうだった?」
メルちゃんの質問にはあとちゃんは力強く親指を立てました。
「さいっこう!」
「フブキちゃーん! メルにもさわらせてー!」
「いやー?!」
今度はメルちゃんがフブキちゃんを追いかけます。若干の下心が見えなくもありませんでした。
嫌な予感を感じたフブキちゃんは悲鳴を上げながら逃げ惑います。
頑張って逃げていたフブキちゃんでしたが、とうとう魔の手に捕まってしまいました。
「ああ、このかんしょく! メルのおもったとおりふわっふわ! ずっとさわってみたかったんだよね!」
「ぎゃー! しっぽは! しっぽはぁ……!」
鬼ごっこという遊びに
両手で包み込んでふわふわの手触りを楽しんだり、ほっぺたをすりすりして極上の毛並みを堪能しています。
「め、メルちゃんまって……! く、くすぐったいよぉ……! あは、あははは!」
「ここがええんか? ここがええんかぁ? もふもふもふもふ」
興が乗ってきてしまったメルちゃんはさらにエスカレートしていきます。
これ以上放っておくとトラウマになりかねないので、助け舟を出してあげようと成り行きを見守っていたアキロゼ先生が声を大にして言います。
「みんなー! そろそろお昼寝の時間だよー! 鬼ごっこはおしまーい!」
「えー! もっとあそびたーい!」
「だーめ。お布団しいてあるから、着替えてね。まつりちゃんは顔の泥も落とすこと」
「はーい……」
難色を示したまつりちゃんでしたが、おとなしく言うことを聞いてくれました。
フブキちゃんも魔の手から解放されて、ホッと一安心。
……結局、遊び足りなそうにしていた子ども達も一度お布団に横になるとあっという間に眠ってしまいました。
「……ふふふ、大成功だったね」
寝静まった子ども達を眺めて、アキロゼ先生は満足気に小さく呟きました。
フブキちゃんの尻尾を取り合うように囲んだ状態で、みんな仲良く寝落ちしていたのです。
「みんな仲良くなりたい気持ちはあったけど、きっかけが無かったんだね」
今回の鬼ごっこはその良いきっかけになりました。
「…………」
アキロゼ先生の視線は吸い込まれるようにフブキちゃんの尻尾へ。
「ち、ちょっとだけ……」
実はアキロゼ先生も気になっていました。フブキちゃんの尻尾の感触を。
眠っている子ども達を起こさないようにそっと手を伸ばしてみます。
「オォ……」
変な声が出ました。
子ども達は起きる気配がありません。なんだかんだ鬼ごっこでかなり疲れていたようです。
そっと横になって、アキロゼ先生も頬擦りしてみました。
「はわ……」
やっぱり変な声が出ました。
そしてそのまま──
寝落ちしてしまったアキロゼ先生は
──おしまい。
1日遅れちゃったけどフブキちゃん誕生日おめでとうございます!
新衣装素敵でしたね!
次回は2期生組の話になります。筆が遅いので気長にお待ちいただければと思います。