旧版の分すべて投稿し終わりましたので、あらすじのリメイク表記は頃合を見て消します。
過去編一旦終わり、次からまたほんへ入ります。
地上は戦火と混乱の中に包まれていた。
乱立した国々が各々の覇権を賭けて争い、血と悲鳴の絶えぬ毎日。
しかし、皮肉にもその戦火を止めて見せたのは、魔王の存在だった。
ある日突然、地上に存在するすべての国に届けられたメッセージ。
『地上を頂く 魔王より』
鏡を用い、魔界文字で描かれたそれは短く、淡白であろうとも、宣戦布告の証であることは間違いなかった。
それを受けた各国は、速やかに
だが、いつまで経っても魔王軍は侵攻を行わず。
その結果、実在するかも分からない魔王によって齎された奇妙な平和は、一年半にも及んでいた。
しかし――国民感情などを諸々無視して行われた半ば強引な停戦。一年半に渡って何も起きなかった事への慢心。
再び戦への機運は高まり、国々の間の緊張はまるで限界まで大きくした風船の如く膨れ上がっていた。
そして、それはここ、マルノーラ大陸*1でも例外ではなかった。宗教国家である北オーザムと、そこから離反する形で産まれた南オーザム。両国の関係は当然ではあるが最悪で、停戦した今でも、国境を挟んで両軍が睨み合う始末。
そんな北オーザムの森の中、馬車に揺られる少女が一人。彼女は18歳程度に見え、望遠鏡と厚い装丁がされた本を抱えており、星を見に行く途中であることが伺える。
元より北オーザムは山間部に囲まれた土地。そういった用途に適した場所は多くあった。
路面が粗くなったのか、馬車を襲う揺れが増す。それに伴って、少女の金色の長髪が大きく揺れた。
そうやってしばらく続く揺れを楽しみながら、少女の精神はまどろみに誘われようとしていた。
しかし、眠りに落ちかけた彼女の目を覚ますように、前で馬を操っていた御者の悲鳴が響く。
「うわあ――っ!」
がたんという音の後に、馬車がより一層大きく揺れる。その数瞬後、馬の悲鳴が響き、馬車の動きは完全に停止した。
「なんなの……!?」
驚愕と困惑、そして強い警戒を露に、少女は立ち上がる。壁に立てかけておいたメイスを手に、馬車の外へと足を踏み出した。
外へと出てみれば、そこはしんしんと雪が降り積もる森の中。それ自体はどこもおかしくはないが、問題は馬車を囲む大量の怪物たちにあった。
「はあ……!?」
その他に辺りにあるものといえば、血溜りの中に倒れる御者の死体。しかしよく見ると違和感がある。周囲にいる怪物たちは獣系モンスターやブリザードといった、この地域では普通に出没する種だ。……到底普通じゃない数を除けば。
だが、御者は凍傷の痕があるわけでもなく、爪や牙による裂傷を刻まれたわけでもない。
死因は心臓にある刺し傷。それも滑らかなもの――剣やナイフによる。
そして極めつけは死体の傍に落ちていた一本の魔法の筒。これを見て、少女は事態の概要を察した。
暗殺だ。それもそれなりに手の込んだ。
要するに、下手人は少女に死んで欲しいのだ。それも、『馬車で移動中に怪物に食い殺された』という、誰にも疑念が向けられない『穏便』な形で。
冗談じゃないと少女は思った。
「心当たりはあるけどさ……普通そこまでするかってのよ……!」
詳細な説明はここでは控えるが、彼女は政治的に複雑な立場にあった。簡潔に言えば、彼女は北オーザムの上層部の多数の人間から『邪魔』だと思われているわけだ。
彼女とて自分が面倒くさい立ち位置にあるという自覚はあったが、暗殺を狙われるほどとは流石に思っていなかった。
そして彼女は辺りを見渡し、退路はない事を悟る。
「やるしかないか……! かかってきなさいよっ!」
そういって少女は鉄のメイスを構え、戦闘態勢を取る。
だが――彼女は僧侶。一人での闘いははっきり言って向いていない。
そして、この怪物たちを差し向けたのは恐らく彼女を良く知っているもの。星を見る趣味を知っていて、その道すがらに襲撃してきたのだ。もちろん大まかな
それでも――やるしかないのだ。生きるために。
「こん……のぉ!」
飛び掛ってきたアルミラージをメイスで殴り飛ばす。かなりの力が込められたそれは対象を一撃で昏倒させてみせた。
だが、高々一体を殴り倒したところで、戦況は変わりはしない。
この戦いは一対多。もちろん、少女が一動作を行う間に十数もの攻撃が飛んでくる。
「カカカカ~~ッ!」
四方八方からの、ブリザードの凍て付く息。まともに喰らえば氷像が出来上がるであろうそれを、
その隙にホワイトランサーが駆けた。すれ違い様の一閃。何とか反応するも、完全回避には至らない。
掠めた槍が着込んでいた毛皮のコートを裂き、高貴な身分を思わせるドレスがその下から顔を覗かせた。
「お気に入りだったのに……もうっ! ――
悪態を突く少女。その背後に襲い掛かるブリザードの存在に、彼女はとっくに気付いていた。
巻き起こる旋風がブリザードたちを吹き散らし、霧散させる。
息を突く間もなく、イエティの巨体が彼女の視界を覆う。僧侶の力では、厚い脂肪に覆われたその身体に痛打を与えることは難しい。
緩慢な動きで、大降りに腕を振り下ろすイエティの一撃に対し、少女は逆にその懐に入り込むことによって躱してみせる。
そのまま、メイスを持たず空いている左手を、イエティの心臓に当たる部分に当て、静かに何かを呟いた。
「――――」
その瞬間、イエティの動きが止まった。そのまま後ろに倒れた巨体の質量に、雪煙が舞い上がる。 既にイエティの瞳に、生命の灯火は宿っていなかった。
だが、ついに彼女の意識に綻びが生じる。
「どーよ……ッ!?」
戦いに気を取られ、足元に目がいっていなかった。異様な冷たさを感じ足元に目をやれば、そこには彼女の右足を掴むひょうがまじんの姿。
即座にメイスを振るい、その脳天を叩き割るも、その足は既に重度の凍傷に侵されていた。
思わずふらつく少女。その姿を見て、上空で機を伺っていたキメラたちが飛び出す。
「クエエーーッ!」
「……ええい、邪魔だっつーの!!」
キメラが集るようにして、その長く鋭い嘴で少女を啄ばむ。その様は、まるで餌に群がる鳩のような。
少女の身体に大小問わず、裂傷が次々と刻まれていく。それに耐えかねて、鉄のメイスを思い切り振り回し、キメラたちを追い払った。
流れ出した血も凍りそうな寒さの中、息を荒げながらも少女は戦う。
例え敵の数がまだ半分も減っていなくても、足の感覚が既にほぼ無くとも、全身に傷が刻まれていても。
それでもまだ、戦える。
「
自らに向けた淡い光が、少女の全身に走った傷を塞いでいく。
しかし、回復呪文では傷は塞げても体力は回復しない。これはじきに訪れる終わりを延ばす悪足掻きに過ぎない。
それでも。
訪れる終わりが今ではなくなった、ということだけは確かだった。
そうして、30分ほどが経っただろうか。
「はぁ……はぁ……きっついわね……!」
少女は未だ立っていた。辺りの雪を血で濡らし、肩で息をしながらも。
戦い、傷つき、治す。ただがむしゃらにそれを繰り返す、先の見えぬ持久走。
敵の数は大分減ったが、それでも死に掛けの僧侶を一人殺すには十分な数がいる。
一度は遠ざけた終わりが、再び迫り来る。
体力が底を尽きた、精神的疲労が限界に達した、血を流しすぎた。
その理由はいくらでもある。血反吐を吐いてでも、限界を超えてでも立ち続けて来たツケが今、訪れただけ。
少女の意識が、一瞬飛んだ。
「あっ……」
再び気を持ち直したとき、眼前に迫るはホワイトパンサーの牙。
死力を振り絞って、必死に足掻いて来ても、辿り着く結末は変わらないのが常だ。
だが――終わりが見えても尚足掻き続けるその強さが、幸運を引き寄せるときだってある。
「
雷鳴が、轟いた。
避け得ないはずの死が一向に訪れず、恐る恐る目を開ける少女。
そこにあったのは、黒焦げになったホワイトパンサーの死体、そしてその向こうにいる、得体の知れない男だった。
だが、その得体の知れない男が発した第一声は、到底場違いというか、戦闘の真っ只中で言うことではなかった。
「……南オーザムへの道を聞きたい」
「……え?」
少女がまず感じたのは困惑。それは今聞くことか?と言う感情。
「いや、そんな事言ってる場合じゃ……」
「知らないならいい」
そういって立ち去ろうとする男。この状況でそれを平然と言い放つのは到底まともではないが、それはそれとして少女にとってはこの男の存在は命綱に等しい。
当然、焦って止めに入る。
「ちょっ……わかったわ、じゃあ取引しましょう。このモンスターたちを倒して私を助けてくれたら、道を教えてあげる。……それでどう?」
少女は男に取引を持ちかける。到底釣り合うものではないようには見えるが、この男から感じる力を見るに、怪物を蹴散らすだけなら容易いことだ、と思ってのこと。
それに、男の目を見て感じ取ったのだ。あの男は良心や正義に従って動くような者ではない、と。
そしてその目論見はうまくいった。
「了解した」
男が背に提げていた長剣を抜く。竜を模したその剣は、ただの鉄とは一線を画する神々しい光沢を湛えている。
そしてその使い手も、剣に見合った馬鹿げた強さを身に着けていた。
「ふん」
突然の闖入者に色めきだつ怪物たちを、力強い一閃が両断する。
イエティを三体まとめて撫で斬りにしたその切れ味と力を前に、怪物たちは怯えとともに我に帰った。
男がこの場における最大の脅威であり、早急に排除せねば自らが危うい。そう理解した怪物たちは一斉に男に襲いかかる。
その考えは間違ってはいない。
ただ、死力を尽くしても訪れる結末は変わらない――その対象が、少女から怪物たちへと変わっていたというだけ。
男が剣を向けた時点で、その運命は決まっていたのだ。
「……
轟音。そして衝撃。
何かが爆ぜたような錯覚すら覚えるそれに、男の周囲にいた怪物たちは悉く吹き飛ばされた。
少女は見る。爆心地である男の額に、竜のような紋章が光り輝いていることを。
そして悟る。男が人間ではないなにかであることを。
ホワイトランサーが駆ける。速度を乗せ、顔面を狙う渾身の一突き。
それを瞬き一つせず受け入れる男。その直後、ばきりと何かが折れる音が響いた。
「グワッ……!?」
無防備な顔面に突き入れたはずの槍が、真っ二つに折れるという理不尽。
そのまま淡々と踏み込んだ男が、剣を振りぬく。
その刃はバターを切るかのように、ホワイトランサーを両断して見せた。
先の攻防を見た怪物たちの心が恐怖に蝕まれていく。
もはや彼我の力量差は明らか。ただただ怪物が殺されていくだけの消化試合を、少女は呆然と眺めていた。
最後の一体を男が切り捨てる。刃についた血糊を掃いながら、剣を鞘に収めるその姿は、戦いが始まる前から見ても、一切動じていない様が伺えた。
「ありがと……助かったわ」
「いい、それより道を教えろ」
「つれないわねぇ、ちょっとくらい話をしていってもいいじゃないの」
少女は男が人間でない――ベースは人間ではあるが――と分かっても、普段の態度を崩さずにいた。
もともと彼女がそういう人間だった、というのもあるが、同じ人間から暗殺者を差し向けられたせいで、種族の違いで云々、というのが馬鹿らしくなったのだ。
「いい、道を――」
「こっから歩いても一日以上は掛かるわよ、これから夜になるし、吹雪で視界もなくなる。
やめといたほうがいいんじゃないの?」
「…………」
「うまく寒さを凌げる洞窟があるのよ、そこに行きましょ。道なら明日私が案内してあげるわよ」
「……わかった」
少女の押しの強さに負け、並んで歩き出す二人。いつもは無言を貫く男も、会話が弾むというわけにはいかないが、少女の口数に呼応するように、少しは口が回っていた。
「ついでに焚き木も集めていきましょ。その良く切れる剣なら枝くらいばっさりいけるでしょ」
神剣を高枝切りばさみのように扱う、神々が見ていたら神罰間違いなしの光景だが、ここに突っ込みを入れる人間は皆無だった。
「ああ。……オレが怖くないのか?」
「なんで?」
本気で意味が分からないとばかりに首をかしげる少女。
「オレが近づくと、大体の奴が怯えたり逃げたりで、ろくに話もできなかった……だからだ」
無理もない。魔族を思わせる尖った耳と、その冷徹な目。更に見るからに強そうな装いとくれば、ただの人間が怯えるのも仕方ないとも言えた。
「ふ~ん……私は別にって感じ。それに命の恩人にそんな失礼なこと言わないわよ。
それより、何でこんなとこで旅してるのさ。そのかっこ、オーザムの人じゃないでしょ?」
男の装いは、布の服の上に軽鎧を着込んだような装備。
一年中雪に覆われるオーザムでは、外出するときは毛皮を用いた外套を着込むのが一般的であることから、そうでない男はオーザムに慣れていない、という推測だった。
「……魔王を討つ為だ」
それを聞いて、少女が目を輝かせる。
「魔王!? ……へえ、面白そうじゃない! 私も連れてってよ! ……どうせ故郷に戻ったってしょーがないし」
一応魔王を倒す旅だというのに、あまりの軽さ。だが、それには理由があった。
もはや少女は北オーザムに帰るつもりはない。……暗殺者を仕向けたのが誰なのか、大体の見当がついているからだ。
「足手纏いは要らん」
その言葉に、闘いに巻き込むまいといった気遣いなどは一切ない、直球の物言い。そこに少女が傷つくかもといった配慮は存在せず、ただ思ったことを言っただけだった。
「むっ……言ってくれるじゃない。私は僧侶だからそういう戦いは苦手なだけでね――」
突如、木々の間を掻き分けて、青い竜――スノードラゴンが現れる。恐らく先の戦いに気付き、山から下りてきたといったところか。
素知らぬ顔で歩く二人を今晩の獲物と見定め、背後から襲いかかる。
だが――
「――こういうこともできるのよっ!」
二人ともが、その気配を既に察知していた。ちょうど左右にばらけるように、二人が避ける。
そして、少女が左手をスノードラゴンに当て、こう唱えた。
「
「グワアアアッ!?」
手が当てられた箇所から、スノードラゴンの体組織がボロボロと崩れていく。やがてそれは全身へと伝播していき、青い竜は息絶えた。
過剰な回復エネルギーを送ることで、対象の生体機能を異常促進させ、破壊する。
この呪文を扱えるのは、北オーザムで少女一人。それほどまでに、危険かつ高位の呪文なのだ。
「へへ~ん! どうよ!?」
胸を張って、思い切りドヤ顔を決める少女。態度はともかく、僧侶としての実力が一流であることは確かだった。
「……足手纏いと言ったことは訂正する」
「じゃあいいじゃない!私も同行していいでしょ?」
「勝手にしろ」
「やったぁ!」
少女がガッツポーズを取る反面、男は依然無表情を貫く。邪魔にならないならどうでもいい、といった風情。少女はその様子に頬を膨らませ、文句を垂れる。
「新しい仲間が出来たんだからちょっとは喜びなさいよ……旅は道連れ世は情けって言うじゃない」
「楽しさなど求めていない」
「ノリが悪いわねぇ……ま、いいわ。それより、これから長い付き合いになるんだから、名前くらい教えなさいよ。私の名前はセレネ、あなたは?」
少女の名はセレネ――母親が彼女を産んだ晩の満月を見て、その名前をつけられたという。
本人の気性は月のようなお淑やかなものではなかったが、空の色をした瞳や、満月を思わせる金色の髪など、その美しい容姿は月の名を冠するに相応しいものといえた。
「竜の騎士だ」
「は……? いや、それは役職とか職業の名前じゃないの。あなた自身の名前は?」
「ない」
唖然とするセレネ。
「いやいやいやいや……普通あるでしょ? 親とかから与えられたあなただけの名前が」
「必要ない。……わざわざ道具に名前をつける奴はいないだろう」
臆面も無く自分を道具と言い切るその精神性に驚愕すると共に、少女はその空虚な瞳の向こうには何も広がってないことを悟る。
心というものが欠落している男を見て、セレネは何かを決意したようなまなざしを向けた。
「……誰にも名前が貰えなかったって言うのなら、私がつけてあげるわよ」
「何故だ」
「だって……誰にも名前を貰えなかったってことは、誰にも愛されなかった、ってことでしょう?そんなの……あまりにも可哀想じゃない。ほっとけないわよ」
男が誰にも愛されなかったというのなら、私が与えてやろうと。そう言い切るセレネの瞳には、慈愛と呼ばれるものが満ちていた。
「……勝手にしろ」
そう言い放つ男の目は、相変わらずの空っぽであったが。ほんの、ほんの僅かに、何かが宿っていたように思えた。
その後、歩き続けて45分ほど。二人は山の麓にある、小ぢんまりとした洞窟に足を踏み入れた。
男が、脇に抱えてきた木の枝の束を下ろす。そのまま、
炎の暖かな灯りが、真っ暗だった洞窟内を照らす。
二人が焚き火を囲み、どっかと腰を下ろす。そういえばと少女が口を開いた。
「そういえば、人間に怖がられるって言ってたわよね……その仏頂面もそうだけど、あんた威圧的なのよ。特にその目、こんなごっつい目飾りつけてるからじゃないの?」
「む……」
「ちょっとそれ貸しなさいよ、私がいい感じに直しといてあげるわ」
「……ああ」
またもや押しの強さに流される男。使うこともないし別にいいかといったところか。
本来、その目飾り――
それを使わないと称したのはなぜか。そう、竜魔人になるには、人の心を一度捨て去らねばならない。しかし――男には捨てるべき人の心が最初から無いのだ。
故になれない、故に必要ない。そういった理由から男は竜の牙を易々と手渡したのだ。
その後、暫く沈黙が続く。外で完全に日が落ち、夜の帳が辺りを覆ったところで、セレネがぽつりぽつりと話し始めた。
「私の……暗殺命令を出した人ね、多分父親なのよ……」
「そうか」
「北オーザムで枢機卿をやっててね……あ、枢機卿っていうのは国のナンバー2みたいなものでね」
男はあまり興味がなさげだったが、聞いてくれるだけありがたいと、話を続ける。
「愛人の娘である私がよっぽど疎かったんでしょうね……馬鹿らしいわねほんとに」
それだけではない。厳格な宗教国家である北オーザムにて、愛人の存在が露見することは権力闘争から転げ落ちる事に等しい。
貪欲な権力欲を持つセレネの父にとって、その生き証人である母と娘は弱みそのものだったのだ。
「なまじ私に僧侶としての才能があるからって教皇にも睨まれて……本国では針の筵みたいな生活だったわ」
国一番の実力を持つセレネの存在は、父に追われる存在である教皇にとっても目の上のたんこぶだった。
戦乱の時代である今、彼女が戦場で功を挙げ続ければ、教皇の座を追い落とされる可能性もあったからだ。
「星空を見てるときだけは、そんな下らないしがらみを忘れられたのに……」
「…………」
セレネは語り続けるも、その相手は既に寝入っていた。重い話を聞きながら、無視して平然と眠れるのも、一種の才能だろうか。
「……って、あんた人の話聞きながら寝てんじゃないわよ……はぁ、馬鹿みたい。……こんなものに縋っても、何も救われなかったのに」
そういって、セレネは首につけていた十字架のペンダントを外す。真ん中の十字架を外して、外に放り投げた。
彼女は馬車の中から持ち出してきた星の辞典を開き、読み始める。
その場には焚き火が爆ぜる音と、本のページをめくる音だけが静かに響く。
そのままゆっくりと、夜は更けていった――
日が昇る。
洞窟の入口から差し込んだ光が、男の目を覚ました。
「おはよ」
「ああ……出発するぞ」
「その前に……あんたの名前、決まったわよ」
そういった少女の目には、夜通し起きていたのか、隈が出来ていた。
「この前孤児院の人に捨て子の名付けを頼まれててね……私が好きな星の名前にしたの」
「……そうか」
「あっ、その前にこれ返すわよ。ペンダントにしてみたら結構かっこいいじゃない」
竜の牙に、昨日のペンダントの鎖を通したものを男の首にかけながら、セレネは言う。
「どうせもう戻ることはないしね……女の子ならスピカ、男の子なら――」
それは夜空を彩る三角形で、一際強い輝きを放つ星。
「アトリア――あんたの名前は今日からアトリアよ」
キャラクタープロフィール⑥ セレネ
【年齢】18歳
【種族】人間
【出身地】北オーザム
【体力】5
【力】5
【魔力】9(僧侶系呪文のみ)
【技量】6
【得意技】マホイミ ベホマ ???
【特筆事項】なし
パーティーメンバーその1。どっかの人造竜の騎士と瓜二つ。
回復特化なので単独ではあまり強くないが、マホイミがいいところに決まれば一撃。
でも燃費激悪なのでやっぱりあまり強くない。
親父に暗殺未遂くらってぐれて家出した。アトリアの名付け親。
バランがアルデバランから取ったと聞いたので、同じく星座のα星から取りました。
北オーザムNo2の愛人から生まれた不義の子。人々には普通に正妻が産んだ子だと思われているが、親からしたら愛情を抱けないうえに素性がばれたら自分が終わりなので忌々しく思っている。
魔王討伐の旅に加わった理由は、面白半分同情半分くらいの比率。