産まれて十年で最強の剣術を極めるのもかなりやばいですけど、腕ぶっ壊して70年くらい腕使えないのに後ろ盾無しで魔界で生き残ってるのも中々いかれてると思います。
高速で踏み込んだアトリアと、それを待ち構えるロン・ベルク。
両者の剣がぶつかりあい火花を散らす。そのまま鍔迫り合いへと移行し、両者の顔が触れ合いそうなほどに肉薄する。
「いい剣だな」
「いつまでも余裕面でいられると思うなよ」
薄笑いを浮かべ、冷や汗一つかかないその面を崩すべく、アトリアが動く。
前もやったように、空いた手から暗黒の糸を飛ばし、弾かれた剣を呼び寄せる。
風切り音を立て、高速で回転しながら背後から迫る片割れの剣。
喰らわないにしても、何らかの効果は期待できるだろう――その期待を裏切るように、ロンはいっそ鮮やかなまでの自然な動きで、背後から迫る剣を直前で躱してみせた。
「小細工は――無駄だといったろ?」
減速もせず突っ込んでくる己の剣を逆に利用され、受け取りはしたものの、勢いをそのままに受けたアトリアの体勢が少し乱れる。
その僅かな乱れでさえ、二人の剣豪の対決では大きな隙となる。
「そらそらそらッ!」
「ちぃッ……!」
烈火の如き猛攻。力強くありながらも、焔のように変幻自在に姿を変えるその剣筋はもはや芸術的。
防戦一方――それがアトリアの現状を表す言葉に最も相応しいといえた。
――強い……!
事ここに至って悟る。ロン・ベルクは剣技においてアトリアよりも――強い。
「まだ終わらんぞッ!」
空が裂け、地が砕ける。二人の剣戟の応酬は更に加速し、傍で見ているスピカにも捉えきれないほどのものとなっていた。
時折チカチカと光が各所で瞬く。それは二人の剣の激突で散る火花であり、そしてその戦いにおいて唯一観測できるものだった。
アトリアの身体に、浅くはあるものの裂傷が刻まれてゆく。このままでは押し切られるのも時間の問題であるようにみえた。
――戦い方を変えるか。
「む……?」
アトリアの剣筋が、色を変える。先程までは力に対し力で対抗する剣だったのに対し、今はその逆。
掴もうとしてもふわりと手の内から出て行く、一枚の羽毛のような。あるいは、自在にその形を変える水のような。
力の流れを操作し、受け流す――受けの剣術。
相反する二つの剣術を巧みに使い分けるアトリアを前に、ロンは違和感を感じていた。
普通であれば、技を練り上げ、戦闘者として完成する過程で、その者だけのスタイルを確立することとなる。
受けにしても攻めにしても、それをするのが一人である以上、根底に共通のものが流れている筈だ。
だがアトリアにはそれがない。受けと攻めに使われている技術の根底に流れているものが違うのだ。
流派が違うと置き換えてもいい。
だが。
「面白い――戦いはこうでなくてはなぁ!」
違和感を感じたのも束の間。ロンにとって大事なのは、目の前に立つ男が自分の力をぶつけるに値する強敵だということだ。
喜びを噛み締めながら、剣を振るう。
アトリアが仕掛ける。空中戦の様相を呈していたところ、鍔迫り合いになっていたロンの剣を踏み台に、更に上へと飛び上がる。
相手に目掛けて、磨きぬかれた剣圧が次々に飛来した。
「喰らえッ……かまいたち!」
「ふっ……!」
切り払い、あるいは避けられて、その剣風はロンを傷つけるには至らない。
だが、間髪入れずに落下の勢いを加算した双剣の一撃が襲う。剣で受けるも勢いは殺せず、その身体は地面に向かって加速していく。
巧妙な身体捌きで体勢を立て直し、着地するロン。しかし――
「……なっ!?」
その地面が崩れた。先程のかまいたちはロンを狙ったものではなく、足元の地盤を崩すためのもの。
思惑通り、ロンの体勢が崩れる。
「……もらった!」
「うおおおおっ!?」
胴体を真っ二つにする勢いで切りかかる。殺してはいけないが――殺す気で行かねば傷の一つもつけられない、と踏んでのこと。
現に、脅威的なまでの反応速度で剣を逸らされ、脇腹に傷を刻まれるだけに留まる。
だが、その傷は魔族の再生能力を計算に入れて尚、深手といえるものだった。
ロンが腹から血を垂れ流しながらも嗤う。
その様相は、修羅の如く。
「いい……いいぞ! ふはっ、ふはははは!」
「こいつっ……!」
両者が再び激突した。
二人から流れ出た血液が戦いの熱気で蒸発し、赤い霧となって周囲を漂う。
霧中の剣戟の最中、ロンが足元を踏み砕き岩を巻き上げる。一瞬だけ視界が途切れたその後、ロンの姿は見えなくなっていた。
――どこだ……? 横か? いや……!
「後ろだッ!!」
即座に振り向き、アトリアが剣を振り下ろす。
そこに立っていたロンに剣が食い込み――そのまますり抜けた。
「惜しいな」
――残像!
「――その後ろだ」
銀閃が二つ、煌く。
アトリアの手にある双剣が、叩き落とされた。
「……ッ!?」
ロンは確かに背後に回っていた。
だがその直後、極限まで身体を下げた前傾姿勢を取り、アトリアの視界から外れ、再び元の位置に戻ってきていたのだ。
残像が発生するほどの鋭い踏み込み。勝負を賭けた一撃。
「こいつで……終わりだ!」
大上段からの、全力の唐竹割り。轟音を伴いながら振り下ろされるそれに対して、無手のアトリア。
その対峙の結末が死であることは、火を見るよりも明らかだ。
死の刃を目前にしたその脳裏に、覚えの無い記憶が蘇る。
――『どうにもこうにもならなくなって、絶体絶命の時……破れかぶれでこいつをやってみるといい。どうせやらなきゃ死ぬんじゃ。それならやったほうがお得じゃろう?』
アトリアの瞳に、意思の炎が宿る。
――まだ、死ねない。生きるために……娘を守るために!
「――ッあああああああ!」
「馬鹿なッ!?」
振り下ろされたその刃を、両手で挟み込むようにして止める。
それは極限の神業、死を避ける唯一の活路。
――真剣白刃取り。
そのまま、挟み込んだ手を動かし、剣ごとロンを持ち上げる。死が目前に迫った極限状態が、アトリアに平時を大きく超えた膂力をもたらしていた。
持ち上げたそれを大きく振り回し、そのまま投げる。
空中で一回転し、そのまま着地するロン。その間に剣を拾い上げ、再び距離を開け対峙する形となるアトリア。
仕切り直しの形。始まりのときと違うのは、両者共に肩で息をして、満身創痍のありさまであるということだけ。
互いに確信する。
きっとこれが、最後の一合となることを。
「あれを凌ぐとは……ふふ、ははは……! いいだろう、お前にならば相応しい! このオレの、最強の剣技の粋を試すのに……!!」
ロンが、ずっと腰に提げていたもう一本の剣を抜いた。構えられた二本の剣に、光り輝くほどの闘気が伝わっていく。
その佇まいから伝わってくる圧力は未曾有。まさに必殺の気迫。
それに対するアトリアは、力を抜いた無形の構え。自然体で、ただ剣を持って立っているだけにみえる。
その様は、凪いだ海の如し。
――未完成だが、やらなければ死ぬだけだ。
静と動、攻めと受け、二つの極地。それが激突しようとした寸前――
「受けろッ!! 星皇――」
大きく大地が揺れる。
「なんだ……!?」
「あぁ……?」
それと同時に、動きを止めた両者の前に姿を現したのは、新たなる闖入者。
「素晴らしい……! 一回の戦いで、祭壇を満たすほどのエネルギーが溜まるとは……!!」
それは
その単眼に狂気の光を滾らせ、狂信者は言葉を続ける。
「これで我々の悲願が達成できる! いしにえにこの地に封ぜられた悪霊の神々よ! 今こそ顕現し、この世を――」
「うっさい!」
両断。あくましんかんの身体が二つに割れ、血を吹き出しながらゆっくりと倒れる。
その後ろにいるのはスピカ。不埒な闖入者を断罪すべくこの場に割り入ってきたのだ。
だが、狂信者が倒れても地の揺れは収まらない。
その震源を探してみれば、そこにあったのは悪魔を象った像が取り付けてある祭壇。
巨大な岩山の傍に小ぢんまりと設置されていたそれは、今まで誰も気に留めていなかった。
祭壇に備え付けられていた杯には、血のような赤い液体が揺れている。
満ちるまで、あと一寸という所だったそれは、あくましんかんの両断された身体が地に落ちると同時に、完全に満たされた。
悪魔像の目が赤く光り、揺れが更に増した。次第に祭壇に皹が入ってゆき、それは背後の岩山へと伝播する。
「これは……」
「ちょっ……なにあれ!?」
岩山が砕ける。そこから出てきたのは、強大な力を漂わせる
金と青に彩られ、三又の槍を携えた巨大な悪魔――ベリアル。
毛皮のぼろきれを身に纏う、赤茶の一つ目巨人――アトラス。
その風貌は、色や細部こそ異なれど、現存している怪物――アークデーモンやギガンテスなどと同じもの。
しかし彼らから滲み出る力は、それらとは一線を画す。
彼らは神々に創られた――それらのモンスターの始祖にして雛形。
その強すぎる力を疎まれ、用済みとして地の底に封ぜられた古代の遺物――悪霊の神々が、今現世に蘇ったのだ。
「グオオオオオオオオォッ!!!!」
彼らに知性はない。あるのはただ力のみ。
それでも、その雄叫びからは怨嗟の感情がありありと伝わってくる。
我らを地の底に封じた奴らが許せぬ。封じられていた地の上で、のうのうと生きるこの世の全てが憎い。
生きとし生ける全ての命を呪うその様は、正に悪霊。
だが――その怨嗟を全面に受けて尚、二人の男は平静を保っていた。
「とんだ邪魔が入ったな――ここは一時休戦といくか?」
「……いいだろう」
「グワアアアアッ!」
アトラスの棍棒が、ロンのいた地点に叩きつけられる。最早その威力は地面が爆発したように見えるほど。地を抉るその一撃はしかし、何者をも捉えることはなかった。
なぜなら――ロンは既に、アトラスの後ろへ移動していたのだから。
「お前には不相応だが――
ロンが走り出す。その手に二つの剣を携えたまま。
魔界最強の剣豪を自負する男が、その剣技の粋をもって辿り着いた奥義は。
「受けろッ! 星皇十字剣!!」
傍目には、ロンが剣を十字に振りぬいたように見えただけ。アトラスの様子には何の翳りもないように見えたが――そんなわけはない。
「グ――アァ?」
アトラスが動き出そうとした瞬間、十字の線がその身体に走る。
静かに、巨神の身体が分かたれていく。アトラスは、自らの終わりを知る事すらできず、肉片となって地面に散らばった。
万物を十字に断つ予想以上の奥義の威力に、ロンは笑う。
「ハハハハッ! 次はお前――ッ!?」
ぴしり、ぴしり。二つの剣が粉々に砕ける様を見る。そして――その崩壊は自らの腕までも。
腕の骨が砕ける音が、ロンの体内に響く。
そう、奥義の余りの威力に耐え切れず、剣と腕が自壊したのだ。
「がっ……!? ぐっ、ああぁ……!!」
余りの痛みに、前のめりに倒れ伏すロン。自らの身体が、内から粉々に自壊していく痛みなど、終ぞ味わった事はなかった。
そして、敵はまだ一人残っている。鈍色に光る槍を構え、苦痛に悶える獲物を舌なめずりして見ているベリアル。
「こんなッ……! こんなことでっ……!!」
己の力が足りぬのではなく、武器が不甲斐ないせいで敗死する。そんな理不尽で、下らなく、呆気ない終わりなど、ロンには到底受け入れがたいものだった。
苦痛と悔しさに歯軋りをするロンに、三又の槍が迫るが――
「いい物を見せてもらった礼だ」
「ありがたく思いなさいよ~?」
絶死の刺突は、その前に立つ二人の剣に阻まれていた。
いつまでも訪れない死を怪訝に思い、ロンが顔を上げた。
信じられないという表情で、二人を見やる。
「お前ら……」
「次はオレ達の番だ――行くぞ!」
「りょーかいっ!」
「ギガデインッ!」
アトリアの掲げる二刀に、剛雷が降り注ぐ。
――星皇十字剣とやらは、確かに強かった。大魔王の不死鳥よりも、雷竜の息子の混沌の濁流よりも、そしてあるいは、オレのギガブレイクWよりも。
紫電を纏う二刀のうち一本を、スピカに投げ渡した。
――一人では抱えきれないほどの威力。であれば、二人なら。二人の力を掛け合わせれば、それすらも超えて見せよう。
二人が、全く同じ構えを見せる。八相の構え。
――三年の間、ずっと二人で練り上げてきた。一人では超えられない壁を越えるために。
息をするように連携ができる二人。魔法剣を扱える二人。二重の意味で、この二人にしか出来ない技。
もっとも、
「怪物程度に見せるには勿体無い技だが――特別だ」
「感謝しながら死になさいっ!」
「ア――アアアッ!?」
二人が雷が迸る切っ先を向けると、そこに込められた凄まじいまでの暴威に怯え、ベリアルが背を向ける。
その瞬間、どちらかが合図をするでもなく同時に、二人が弾かれたように飛び出した。
「ギガ――」
鏡写しの二人の動線は、交差するように描かれている。
「クロス――」
二つのギガブレイクが交わるという、この世には存在しえぬはずの出来事。
これが竜の
「「――ブレイク!!」」
有り得ぬはずの一撃が、戦いの幕切れを告げた。
両者の決め技を喰らって即退場したアトラスとベリアルですが、それぞれ初期ハドラーくらいには強いです。噛ませなので仕方ない。
キャラクタープロフィール⑧ ロン・ベルク(若い頃)
【年齢】74歳(原作開始時275歳)
【種族】魔族
【出身地】魔界
【体力】7
【力】8.5
【魔力】1
【技量】9
【得意技】星皇十字剣
【特筆事項】なし
若かりし頃の魔界の名工は昔は尖った男でした。魔界一を名乗るのは伊達ではなく、剣技だけで並び立てる者は魔界に一人のみ。
剣だけに限らなければ自分より強い奴が何人かいることは流石に理解していますが、今のロンが興味あるのは強敵で己の腕を試すことと、自らの剣を高めることのみなので、例えばバーン様に魔法でぶちのめされても従いません。
剣だけで倒せばそいつから学ぶ的なアレで従ってくれます。
腕ぶっ壊して二百年たったら、少しは丸くなります。丸くなるというより擦り切れた感じあるけど。