できそこないの竜の騎士   作:Hotgoo

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強化フラグ回


12 娘と息子

 

 二振りの稲妻を纏いし剣の交叉点。そこに収束したエネルギーは凄まじく、それを起点として稲妻がベリアルの全身へと走っていく。

 灼ける、などという生易しい威力ではない。そのエネルギーに耐え切れなくなった全身が膨張し――弾ける。

 

 「グ――アアアアアアアアッ!!!」

 

 千千になった肉片でさえ、残っていた雷に焼かれていく。やがてそれらは黒焦げて、灰となり、空に散っていった。

 最早そこには何も無い。文字通り跡形も無くなったのだ。そこに巨大な何かがいた、と言われても信じられないほどに。

 

 「……終わったな」

 

 

 

 先程の喧騒とはうって変わって、訪れたのは戦いの後の静寂。

 全てを出し尽くした者たちには、もはや戦いを続ける余力は残っていなかった。

 暫しの休息のあと、ようやっと痛みに慣れたロンが、立ち上がる。

 

 「さて……行くか」

 

 「……え? どこに?」

 

 「冥竜王のところに行くんだろ? ……お前らに命を救われたんだ、オレでもそれくらいの義理は通す」

 

 この言葉を聞き、図らずも任務を達成できたとスピカが顔に喜色を浮かべるが――

 

 「ほんと!? 人助けもやってみるもんねぇ」

 

 「いや、その話はもういい」

 

 それは敢え無くアトリアに遮られた。ロンが自嘲するように呟く。

 

 「ふっ……そう言うだろうとは思っていたさ。腕の使えない剣士なんて何の役にも立たないんだからな」

 

 「いいや、そうじゃない」

 

 それも多少あるがと、アトリアが心の中で呟く。それを口にしない程度には、空気を読めるようになっていたようだ。

 

 「あの……星皇十字剣といったか。あれを受けていれば……オレは負けていた。だから、お前がオレに従う道理はない」

 

 その言葉は半ば正しい。アトリアが使おうとしていた未完成の技――それを以ってすれば、星皇十字剣に対抗できる可能性はあった。

 だが、どうもアトリアには、その技を使うには何か足りないものがあると感じていた。あのままぶつかっていれば、負けたのは自分だろうという確信があった。

 

 「……ふ」

 

 「?」

 

 「フハハハハハ! そこまで言うなら仕方ない! オレとてあの未完成な技で勝ったといわれても実感がない! この場は痛み分けということにするか!」

 

 「……ということは」

 

 「ああ! オレの腕が癒え……この技を真に極めた時! その時こそ雌雄を決するとしよう!!」

 

 そういったロンの顔には、再び猛獣の如き笑みが戻っていた。完全に調子を取り戻したらしい。

 

 「しかし魔法剣を使うとはお前ら、竜の騎士なのか……? だがなぜ二人いる?」

 

 「元、というのが正しいがな。……あまり詮索はしてくれるな」

 

 「悪いな。しかし、竜の騎士だったということは、真魔剛竜剣を握ったことがあるということか? そいつは羨ましいな」

 

 「覚えていない。生憎記憶がないものでな……羨ましいとは?」

 

 怪訝そうな様子を見て、ロンが説明する。

 

 「元々オレは自らに相応しい剣を求めて放浪していた。……オレが握った剣は、その力に耐え切れず、すぐに壊れちまう」

 

 そういうと、ほれ、とそこらへんに散らばっていた、ロンの剣だったものを指差す。確かにそれは込められた力に耐え切れず、粉々になっていた。

 

 「オレの力――星皇十字剣にすら耐えられるような、究極の剣。神々の与えた超金属、オリハルコンでできた剣なら、その願いを叶えてくれると思った。例えば真魔剛竜剣のような」

 

 「で……心当たりはあるのか?」

 

 「ああ。魔界に伝わる伝説の剣豪ヒュンケルの剣――その名も、王者の剣だ」

 

 呆れ顔でスピカが口を挟む。

 

 「でもあれっておとぎ話でしょう?私だって知ってるわよ」

 

 「フフ……さてな」

 

 そういって笑うロンには、どうやら心当たりがあるようだった。

 だが、そこまで詳細な情報を与えるつもりも無いようだ。

 

 「さて……そろそろおしゃべりも終わりにするか」

 

 「そうだな」

 

 両者が歩き出す。反対の方向へ。

 

 「再び相見えたときが、お前らの最後だ。それまでせいぜい死ぬなよ?」

 

 「おまえこそ、腕が使えないからといってそこらで野垂れ死ぬようなことはするなよ」

 

 「ふはははは……また会おう! さらばだ、竜の父娘(おやこ)よ!!」

 

 アトリアとロン・ベルク。両者の道は一度交差し、そして別れ、また異なる道を歩んでゆく。

 その道が再び出会うのは200年後。地上にて、その二人の人生は、再び交わることとなる――

 

 

 

 少し時が経ち、互いの姿が見えなくなった頃。

 

 

 

 「なんでわざわざ来てくれるっていうのに断ったのよ?」

 

 娘の問いかけに対し、明確な答えは持ち合わせていない。だからだろうか、

 

 「……なんとなくだ」

 

 そうとしか答えられなかった。いつになく自分らしからぬ回答。

 

 「なんとなく? ……気まぐれなんて父さんらしくないわね」

 

 「まあな。だが別に冥竜王に忠誠を誓っている訳でもなし……別にこれくらいはいいだろう」

 

 抽象的すぎて口に出すことは出来ないが、ロンと切り結んでいる時に、どこか懐かしい感覚を覚えていた。懐かしさを覚える記憶はないはずなのに。

 生死の境のギリギリで踏みとどまっていたせいか、記憶の(たが)が緩んでいたのだろうか。

 ちょうど、オラージュとの戦いが終わり、ぼろぼろの状態で休眠していた時のように。

 

 「冥竜王には、ロン・ベルクは既にどこかへ出立した――とでも報告しておけばいいさ」

 

 「にしても強かったわね。魔界一の剣豪を名乗るだけはあったわ。後のほうなんか目が全然追いつかなかったし」

 

 「……帰るか。回復したらみっちり鍛えなおしだ」

 

 「げぇ……」

 

 全ては終わったこと。失われた記憶に思いを馳せるのも結構だが、それよりも娘のことだ。

 それなりに鍛えたつもりだったが、あれを目で追うことすら出来ないならば本当の強敵と戦っても死ぬだけだろう。

 自分が常時付いて守れるわけでもない。自分の身は自分で守れるようになって貰わねば。

 時間だけはたっぷりあるのだ、みっちりと鍛え直すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 ロンが壊れた腕をぶら下げながら、無人の荒野をただ歩く。

 先程の剣戟を思い返しながら、その余韻に浸り、ひとりごちる。

 

 ――本来なら剣を奪うついでに()を倒し、魔界一の剣士を名乗るつもりだったが……この腕ではそうもいかんな。まったくとんだ奴もいたものだ……魔界は未だ広しってところか。

 

 そう思いながらも、その顔は満面の笑み。彼の思考は、既に『次』に向けられていた。

 

 ――強い武器が欲しいなら……自分で作るのもいいな。どうせ当分の間剣は振れんからな、鍛冶の勉強でもするか。あるいは――

 

 戦いの終わりを飾った、竜の父娘の奥義を思い出す。

 

 ――一人ではなく、二人なら、か……

 

 「オレには縁のないことだな」

 

 そう苦笑し、ロンは帰路を歩んでいく。

 だがその言葉は、脳裏のどこかに残り続けていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 ロン・ベルクとアトリアの邂逅から100年程が経つ。

 ここ最近、冥竜王軍は忙しい。先の250年で領内の内乱を収め、現在は地上侵攻に向けての準備を着々と進行している途中。

 地上、及びその後の天界侵攻のための軍の再編、練兵。同様に軍備を進めている大魔王軍への諜報・妨害工作。 

 

 やるべきことは色々とあったが、その反面、竜の父娘は平常運行。

 この二人は地上侵攻においては、特に重要なポストを任されている訳ではない。

 当然と言えば当然だろう。元々アトリアは大魔王軍所属であるし、その直属の部下であるスピカも冥竜王というよりアトリアに従順な様子。

 

 悲願を前にして要らん邪魔をされても敵わん、という冥竜王の一言により、この二人は地上侵攻軍より外され、魔界でお留守番の予定であった。

 

 さてそんな二人は現在、別行動の最中であった。アトリアは何やら大魔王に呼ばれ、暇なのをいいことに城から抜け出し大魔王領へ。

 スピカも暇を持て余し、自ら雑用のような任務に赴いていた。雑用と言ってもそれなりの難易度ではあるが、彼女も一端の強者。アトリアも一人にしても大丈夫だろうと太鼓判を押し、送り出した。

 

 「暑いわねー……」

 

 その任務はお使いのようなもの。魔界の外れにあるとある活火山の一部に生息する植物。その在庫が不足してきたため補充してこいとのお達し。

 その植物は火山に埋蔵されているガスや鉱物の毒素を吸収し育つ。当然成育したそれは強い毒素を持ち、熟達した使い手の解毒呪文(キアリー)でも解毒に手こずるほど。

 正式な名前はあるにはあるが、殆どその名では呼ばれない。もっぱら魔界では、その植物の名前は猛毒草と呼ばれていた。

 

 で、何故その任務の難易度が高いかというと、この火山の環境が魔界でも輪をかけて劣悪だからである。

 四六時中溶岩や毒ガスが噴き出し、傾斜も急だし足場も悪い。そして、そんな劣悪な環境に適応し、生まれた怪物(モンスター)も当然のように強力だ。

 とはいえ、空を飛べてかなりの戦闘力を有するスピカにとっては、この任務はそこまで難しいものではなかった。

 

 「こんなだったら城の中で管巻いてたほうがよかったかも……」

 

 氷系呪文の要領で周囲に冷気を漂わせることで、涼をとる。そのまま浮遊呪文で飛び上がり、目的地へと向かっていくと、獲物を見つけたといわんばかりに二体のスターキメラが、その前に立ち塞がった。

 

 「クエエェーーッ!!」

 

 二つの口から吐き出される炎に対し、スピカが取った行動は、目の前に両手を振りかざすことだけだった。

 

 「邪魔だっつーの! バギクロス(極大真空呪文)!」

 

 荒れ狂う竜巻が炎を霧散させ、そのままの勢いでキメラ達へと襲い掛かる。掻き乱された気流の中、二枚の羽根では姿勢を保つことが出来ず、キメラ達は錐揉みしながら墜落していった。

 飛び続け、やがて着いたのは洞窟の入口。ここからは浮遊呪文は使えない。

 

 洞窟に入ると、奥へと続く一本道が崩落によって塞がっているのが見える。そして、その前で立ち往生している何者かも。

 近くに寄るとその姿が明らかになる。短く整えた銀髪に額当てをつけ、魔法使いのローブのような装いの魔族の青年。

 彼も歩み寄るスピカに気付いたようで、口元を歪ませ声をかけてきた。

 

 「キヒヒ……お前も猛毒草を採りに来たクチか。ちょうどいい、この場は協力してあの岩をぶち抜こうではないか」

 

 正直言うと、一人でもこの程度の岩なら破壊できるとスピカは心の中で思ったが、態々他人に魔法剣を見せびらかすこともないと、その声に応えた。

 

 「いいわよ。じゃあ、1,2の3で行きましょ」

 

 「ああ。1,2,3……」

 

 「「べギラマ(中級閃熱呪文)ッ!」」

 

 二人の手から放たれた閃熱が岩を溶かし崩す。その穴の先に広がっていたのは、切り立った岩の足場と、その下でぐつぐつと滾るマグマ溜り。そしてそこらに点在する怪物達だった。

 

 「ちょっと面倒くさそうね……この先も一緒に行かない? 二人のほうが楽でしょ」

 

 「フン、いいだろう。足だけは引っ張るなよ」

 

 奇しくも同じ帰結に辿り着いた二人だが、そのプロセスには大きな違いがあった。

 スピカはただ単純な善意から。二人のほうが何かと楽というのと、岩も壊せなかったこの男がここを突破できるか分からなかったからだ。

 帰り着くまでは仲間としても扱うし、もし危なそうだったら無論助ける。

 

 対して男のほうは、スピカを道具としてしか見ていない扱い。自分が危なくなれば囮にも盾にもするし、死にそうになっても助けない。むしろ取り分が増えて幸運だという考え。

 彼にとって、他人は道具でしかない。何故なら、他ならぬ父親がそうしてきたのを見て育ったから。

 なんなら彼の父親ならば、むしろ崖際に立っているときにこっそり背中を押したり、目的地寸前で不意打ちを仕掛けたりするかもしれないが――男は、流石にそこまでは卑劣になれなかった。

 

 ともあれ、彼らは二人で洞窟を進む。時折怪物を蹴散らしながら。

 口数の多いスピカが、道中を無言で行くはずもなく、隣の男に話しかける。

 

 「何であんた一人で来たの? 危ないじゃない」

 

 「お前だって一人だろ」

 

 「私はいいのよ……強いんだからねっ!」

 

 現れたヘルバトラーに上級火炎呪文(メラゾーマ)を浴びせ、のたうちまわっている所を両断。

 自分と同程度だとなんとなく思っていた少女の強さに、男が目を剥く。

 

 「別にオレだって……」

 

 「立ち往生してた男が言っても説得力ないわよ」

 

 「うっ……」 

 

 それを言われると痛いと、男が口を噤む。返しに困窮した男は、仕方ないといった風情に理由を語り出す。

 

 「親父に命令されたからだ」

 

 「ふーん……ろくな奴じゃないわね」

 

 魔界ってそんなものなのかと、スピカが疑問に思う。だがその数瞬後、自分の実の父親はもっと碌なもんじゃなかったと思い至り、これ以上の言及は避けた。

 

 実際の所、単に命令されたからというだけでもない。男の胸中には、父に認めてもらいたいという思いが未だ、未練のように残り続けていたからだ。

 もっとも、他人に言うのも恥ずかしいので、その場では言わなかったが。

 

 そうこうしているうちに、目的地の前へと辿り着く。猛毒草が群生しているその場所の前には、か細い岩の一本道が長く伸びていた。

 迷い無くスピカが前へと立つ。もし背中から押されればマグマへと一直線だというのに。男からすれば先頭を行くなど到底考えられなかった。

 とはいえ男もわざわざ背中を押すほどの卑劣漢ではないのも事実。ゆっくりと進み、後一歩で到達というところ――

 

 ――赤い手が、男の足首を掴んだ。

 

 「しまっ……!?」

 

 背後から湧き出たブラッディハンドが、後列にいた男を溶岩の中に引き摺り下ろさんと思い切り引っ張る。

 それだけで、バランスを崩した男は足場の外へと放り出され、溶岩の中へと落ちる――

 

 

 「世話焼かせてんじゃないわよっ!」

 

 

 ――とはならなかった。それに気付いたスピカが、男が無意識に延ばしていた手を掴み取り、その体躯に見合わぬ力で引っ張り上げたからだ。

 あわやという所で命を救われた男。呆然とした風情で、その手を掴み取った少女に問いかける。

 

 「なんで……助けた?」

 

 男ならば見捨てていただろう、という思いが胸にあった。だってもうゴールは直前、見捨てても何の支障は無いし、猛毒草も一人で独占できる。利益しかないじゃないか。何故――?

 

 「別に……これが終わるまでは仲間みたいなものでしょ? 仲間を助けるのに理由はいらないわよ」

 

 「仲間……?」

 

 仲間。少なくとも男の脳内には、今まで存在しなかった概念だ。他人は須らく道具、モルモット。そう教わって育ってきた。

 自分の父親だって、オレのことを道具としか見ていない――そんな思いが、目を逸らしてはいたが存在していた。

 

 「それにあんただって手を伸ばしたじゃない。助けてくれる――仲間だと思ってなければ、咄嗟にその手は出ないわよ」

 

 男の頭を衝撃が叩く。確かに、例えば父親ならば、絶対に手を差し伸べてはくれないだろうという確信があった。

 そしてオレも、それを確信しているから手を伸ばさない。それならば心のどこかで、オレは少女を仲間だと思っていたのかもしれない――考えが脳裏をよぎる。

 

 その後は、二人とも黙々と草を採取していた。来た時と同じように、入口へ戻る。

 洞窟の外へ出て、別れの時が来た。

 スピカが、一仕事終えたといった様子で、一息つく。 

 

 「終わった終わった……それじゃ、帰ろうかしら」

 

 「…………ザムザだ」

 

 「?」

 

 言葉の意図が掴めず、首を傾げるスピカ。

 ザムザといった男が、これ以上言わせるなとばかりに言葉を続ける。

 

 「名前だ! お前が言うには……仲間なんだろ? 名前ぐらい知らないとおかしいだろうが!」

 

 それを聞き、スピカが微笑する。

 飛び立とうとしていた寸前に振り向き、にっこりと笑い己の名を告げ、飛び去っていった。

 

 

 「ふふっ、確かにね……私の名前はスピカよ。――またね、ザムザ」

 

 

 その言葉通り、この二人は偶然にも再び出会うことになる――また違った立場で。

 

 




キャラクタープロフィール⑨ ザムザ(若い頃)
【年齢】82歳(原作開始時182歳)
【種族】魔族
【出身地】魔界
【体力】4
【力】4
【魔力】6
【技量】4
【得意技】各種呪文(極大系は未修得)
【特筆事項】なし

本作の成長株候補その1。今は研究者としてではなく、ただの雑用係として動いている。だが、親父譲りで地頭はかなりいい。
魔王軍に入った頃あたりから研究者としても頭角を現すことになる。
親父の刷り込み教育がなんとなく解け始めた。

スピカが使える極大呪文はバギクロスだけです。
なんで僧侶系の攻撃呪文だけ得意なんやろなぁ……
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