できそこないの竜の騎士   作:Hotgoo

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16 不死身の剣豪

 

 眼前に対する剣士を見やる。右の人差し指に嵌められた指輪が輝き、この男に浮遊力をもたらしているようだ。その佇まいに一切の隙は無く、放たれるは抜き身の刃のような鋭い殺気。

 こいつが強いということは、一目見れば分かること。ロン・ベルクと同等か、あるいは――

 

 「かかってこないなら、こちらから行こうか……!」

 

 「……ッ!」

 

 相手が、ただ剣を振る。それだけで、極大真空呪文(バギクロス)に匹敵するほどの速度と鋭利さを以って、剣圧が飛来する。

 こんなものが牽制の感覚で飛んでくるのだから、たまったものではない。その常軌を逸した力には、やはり何かからくりがあると見るべきだ。

 

 「ギガデイン(上級電撃呪文)ッ!」

 

 剣では勝てない。ならば一日の長がある魔法で攻めるべきだと、雷を呼ぶ。

 天を裂いて飛来した剛雷に対し、相手は何もしない。そのままそれは着弾し――霧散した。

 

 「効かんな」

 

 有り得ない。切り払われたり、防御されるならまだしも、無防備で喰らって全くの無傷など。

 そこから導き出される答えは一つ。奴の全身を覆う装備は――超金属(オリハルコン)で出来ているということだ。

 剣では勝てない、魔法も効かない。ならばどうする?

 

 「そぉらッ――!」

 

 相手が尋常じゃない速度で、こちらへと飛んでくる。早――すぎる!

 視界に捉えきれないほどの速さ。だが、早いだけならまだ付け入る隙がある。

 空気が軋むほどの圧力をもって、こちらに剣が振るわれる。だが、その剣は虚像を吹き散らすだけの結末に終わった。

 攻撃呪文が効かずとも、相手に直接作用しない呪文を使えばよい。

 剣も魔法も通じなければ、両方を組み合わせればよい。オレにならばそれができる。

 

 「むっ……」

 

 だが。

 

 「爆裂・魔神斬り――!」

 

 渾身の破壊力を込めた一撃は。

 

 

 「少し、痛かったぞ」

 

 

 ただ、鎧に傷を付けただけで、弾かれた。

 

 「……は?」

 

 極大魔法剣すらも、通じない。馬鹿げた――いや、最早理不尽なまでに硬い。

 今の一撃であれば、ただのオリハルコン程度容易く切り裂けるという自負があった。

 ただし、それは今粉々に砕かれる。

 

 「お返しだ」

 

 「がぁッ……!」

 

 袈裟斬り一閃。反応することすら出来ない。肩から斜めにかけて、深い裂傷が刻まれた。

 攻撃力、防御力、素早さ――その全てが、異常。純粋に強すぎる。

 勝利への光明は、未だ見えなかった。 

 

 「父さん!」

 

 「やめろ――来るな!」

 

 血相を変えてこちらへ寄ろうとしていた娘を止める。今の奴を相手にすれば、容易く斬り捨てられかねない。それだけは止めなければ。

 斬り付けられ落下していた体勢を立て直し、向き直る。重傷ではあるが、その程度でうだうだ言っている場合ではない。

 

 「涙ぐましいことだが……俺は負けるわけにはいかんのだ。ヤツとの約束にかけて――そして、魔界最強の剣豪の名に恥じぬように」

 

 「……なるほどな。お前の正体が分かってきたぞ」

 

 全身を覆う超金属の武具に、魔界最強の剣豪の名……それらが意味することは。

 

 「そう……俺の名はヒュンケル。かの伝説の剣豪の名を継ぐ者だッ!!」

 

 そう言って、男――ヒュンケルは、神々しい輝きを放つ剣――王者の剣を高々と掲げ、宣言した。

 王者の気風を漂わせ、破邪魔法の聖なる光を反射し輝くその姿は、まさしく伝説の体現。

 あの男が着ているのが、王者の鎧ならば……一つだけ、突破口があるかもしれない。

 

 「お前、竜の騎士だな? 何故そこにいるかは知らん、どうでもいい……だが! バランとの決着の前哨戦にはちょうどいい!」

 

 王者の剣が纏う闘気の光。その強さを見て直感的に気付いた。

 ヒュンケルは闘気の扱いが異様に巧い。爆裂魔神斬りを防いだからくりの一端もそこにある。 

 奴は武器だけでなく、防具にも闘気を伝えることが出来るのだ。通常ならば闘気は、己の身体と武器くらいにしか応用はできない。普段は金属以下の肉体でも、闘気を纏うことにより鋼鉄をも上回る硬度を手にすることが出来る。

 だが、所詮鋼鉄程度止まり。それならば、超金属に同様に闘気を伝えればどうなるか?武器ならば比類なき破壊力を、そして防具なら――何物をも通さない鉄壁の守りを得られるに違いない。

 

 「新たなる伝説の礎となれ――はやぶさ斬り!」

 

 ボリクス残党の変色竜(カメレオン)男のそれとは格が違う――全く同時に四つの斬撃が飛来する理不尽。

 一つ一つに絶対の破壊力が込められたそれは、回避不可能な配置で確実に肉を削ぐ。

 

 「ッ!」 

 

 「なかなかいい剣じゃないか! お前を斬り捨てたあと、コレクションに加えておいてやるよ!」

 

 神速の踏み込みののちの一撃に辛うじて反応する。いや、反応ではなく予測。事前に目星を付けていなければ対応不可能。

 予想を外せば死ぬが、致し方なし。

 だが、鍔迫り合いは好ましくない。力では到底勝負にならないからだ。

  

 「それは無理な相談だな――お前はここで死ぬからだ!」

 

 「減らず口は勝ってからほざくんだなぁ!」 

 

 力を受け流す技を以ってしてもなお、受け流しきれない力の暴威を前に、身体が次第にぼろくずのようになっていく。

 頭か身体の大部分を消し飛ばされでもしないと死なない身体ではあるが、それでも厳しいものは厳しい。

 身体の損傷が限界に近い。動きが目に見えて鈍くなってきた――このままではまずい。

 

 「そろそろ限界か? いや、実際流石だよ。精霊の加護がなければどっちが勝っていたかもわからんが――ここは戦場、二度目は無い」

 

 精霊の加護とやらが、あの理外の強さを支える二つ目のからくりか。だが、対処法が分からなければ意味は無い。

 

 「終わりにしよう。……伝説の剣豪の奥義、その身に受けて眠るがいい」

 

 王者の剣に、一層強く闘気が集まる。これを喰らってはいけないという本能からの警鐘が、頭の中で全力で鳴り響いていた。

 必勝の気迫。己の技が敗れることなど、微塵にも思っていない自信に溢れた顔つき。それだけでも、この必殺技の威力の程がわかろうというものだ。

 

 余りの圧力に、戦っていたスピカもヒュンケルの方を見やる。その剣に込められた力を見て、心配そうにこちらを向くが――

 

 「余所見している場合ですかぁ!?」

 

 「ちっ……!」

 

 突き出される銛に、意識を引き戻される。こちらに気を割く余裕は到底無さそうだ。

 

 何とか回避しなければ。最早迎撃するという選択肢は、頭の中にはない。

 剣から溢れ出る闘気が臨界点に達する。その王者の剣に重なるように――巨大な、剣の幻影を見た。

 

 

 「――覇王斬ッ!!」

 

 

 その幻影――極限の密度で圧縮された闘気の集合体で、もはや実体に近い――が降り注ぐ。

 地面へと着弾、そして轟音。幻の剣が弾け、光の柱が昇る。

 数秒に渡り立ち昇る闘気の奔流が明けた後、そこにはクレーターと、巨大な剣が突き刺さったような底の見えぬ切れ目があった。

 

 「……その死に体で呪文が使えたとはな」

 

 「悪いな……二度目はあったらしい」

 

 そしてオレは――寸前で辛うじて瞬間移動呪文(ルーラ)を発動。その脅威から何とか逃れていた。

 しかし、同じ手段は二度と通用しないだろう。一切の慢心を捨てた目で、ヒュンケルがこちらを見ていた。

 

 「だが、三度目は無いぞ」

 

 そんなことは自分が一番分かっている。さてどうするかと、頭を回していると――  

 

 「ギャアアアアッ!!」

 

 

 雷鳴と、悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 少しだけ時は遡り、スピカと海戦騎の戦いの最中。

 

 「さっさと死んでくださいよっ!」

 

 「お断りよ!」

 

 例によってこちらの戦いでも、冥竜王の側――スピカは劣勢に立たされていた。

 その要因はやはり、相手の基礎能力の異様な高さ。

 早い、硬い、力強い。

 

 だが、それらは空戦騎のものほどではない。

 十分、戦いが成立する領域にあるものだといえた。

 

 「撃ち抜けッ!!」

 

 海戦騎が銛を投擲する。弾丸のように空を切り裂き直進するそれを、剣で何とか切り払う。

 ぎぎぎと金属が軋み、剣が(たわ)む。嫌な音が、スピカの耳に残った。

 

 「尋常じゃない馬鹿力ねっ……!」

 

 「失礼ですね……銛よ! 我が手に戻れ!」

 

 その言葉と同時に、海戦騎の手の内から光の粒子が溢れ出す。やがてそれらは先程投げた銛の形を取り、そしてそのものとなった。

 

 「はぁ!? インチキも甚だしいわねあんた!」

 

 この銛に込められた力は、持ち主の手元に帰るというもの。合流呪文(リリルーラ)に極めて近い魔法の力が封入された、伝説の武具だった。

 

 「魚なら魚らしく……陸に上がったら干からびてなさいッ! メラゾーマ(上級火炎呪文)!」

 

 火焔がうねる。相当の火勢をもって吹き付けられた炎の中を、海戦騎は悠々と抜けてきた。

 その姿には、煤一つ付いていない。耐えたのではなく、完全に無効化していた。

 

 「効きませんよっ!」

 

 「かは……ッ!?」

 

 流石に無傷で一直線に突っ切ってくるというのは、スピカの想像の埒外だった。驚きのあまり、一瞬思考が雑になる。

 突き出された銛を何も考えずに受けようとして、その剣は空を切る。単純なフェイントだった。

 合わせに来た剣から逃げるように、銛をくるりと一回転させる。その時間分タイミングがずれ、空いた無防備の胸に、石突が思い切り突き込まれた。

 

 「甘いですね! 私の鱗は魔界のマグマの中すらも悠々と泳げる特別製! 並みの呪文など通用しない!」

 

 海戦騎は魔界の海――つまりマグマの海である――から産まれた魚人(マーマン)の変種。

 環境に適応した彼の鱗の耐久性は随一で、世界で二番目に硬い金属にも匹敵するほど。そしてその金属と同じように、呪文を弾く性質すらも身に着けていた。

 

 「次は避けられますかねぇっ!」

 

 肺を強打されて咳込むスピカに、再び魔弾が放たれる。何もリスクを冒す必要はない。ただ安全圏から、当たるまで何度でも投げ続ければよいだけの話。それだけで相手は消耗していくのだから。

 だがそれを見た彼女は、そんなものは脅威にならないと、鼻で笑って見せた。

 

 似たような攻撃を喰らったことがあったなと、心の中で思い出す。今は父と慕う男との邂逅の時、互いに人形のような無様を晒していたあの時だ。

 

 ――あの時は、消える魔弾に加えて、背後から戻ってくるのも喰らったわね……それに比べればなんて優しいんでしょう。ただ持ち主の手に戻るだけだなんて。

 

 高速で迫り来る魔弾を、首を動かすだけで躱す。その後、余裕をもった動作で手招きするように挑発してみせた。

 

 「――もう、見切ったわ」

 

 竜の騎士の戦闘センスが、その弾道を完璧に見切ってみせる。先程の無駄のない避け方は、それを言葉ではなく行動で表していた。

 

 「貴様ぁぁ!!」

 

 飛来する銛を、避ける、避ける、避ける。最早余所見をする余裕さえ、今のスピカには出来ていた。

 

 「……伝説の剣豪の奥義、その身に受けて眠るがいい」

 

 そうしていれば、ふと耳に入った言葉。そちらを見やると、剣に込められた尋常ではない闘気。何か手助けをするべきかと、心配そうにアトリアを見やるが――

 

 「余所見している場合ですかぁ!?」

 

 業を煮やした海戦騎が、銛を手に突っ込んでくる。流石に身体能力で相手に軍配が上がる接近戦で他の事に気を割くわけにはいかず、その意識は眼前の敵に引き戻された。

 

 「ちっ……!」

 

 「あははははっ! 先程までの威勢はどうしました?」

 

 機銃の如く繰り返し突き出される銛をいなし続けるスピカ。一度でも捉えられたら蜂の巣になるのは必至の刺突の雨の中をひらりひらりと舞い続けるその姿には、余裕というものは一切ない。

 

 だが、その死の舞踏はすぐに終わりを告げる。尋常ではない衝撃波が地を走ることで、両者が吹き飛ばされたからだ。図らずも、二人の距離が離れる。

 

 「うわっ……!?」

 

 思わず再度そちらを見やれば、その衝撃波の発生源と思わしき巨大な剣の幻影が地面に突き刺さっていた。

 そして気付く。手元の剣がいつの間にか消えていることに。

 

 「ふふ……貴女の剣は頂きましたよ……!!」

 

 視線を戻せば、銛に絡め取られた剣を勝ち誇りながら掲げる海戦騎。先程吹き飛ばされる間際に、抜け目無く銛を剣に絡め持ち去っていたようだ。

 

 「呪文が効かない私を相手に、剣を取り上げられた気分はどうです? さぞかし絶望的――」

 

 「ああ、そうそう、その位置よ! そのまま動かないでね!」

 

 突然投げかけられた意図不明の言葉を聞き、海戦騎が首を傾げる。その意図を問いただそうとしたその時――

 

 「は?何を――」

 

 「ギガデイン(上級電撃呪文)!」

 

 「あがッ……!?」

 

 降り注ぐ雷が、避雷針代わりとなった剣を伝い魚人の身体を焼く。

 そう、殆どの攻撃を弾くその鱗を唯一貫ける呪文がこの雷。そしてそれは、彼がバランの軍門に下る切欠となった呪文でもあった。

 何故という思いが、海戦騎の頭を巡る。

 

 「お、効いたわね。魚にはやっぱり雷が効くのかしら?これはまだ覚えたてで狙いがおぼつかなくてね……バカみたいに剣を掲げてくれたお陰で助かったわ」

 

 「何故貴方がその呪文をっ……! それはバラン様にのみ許された特別な……!」

 

 「うるさいわね――ギガデイン」

 

 再び、雷が落ちる。二度の剛雷が降り注いで尚、身を焦がしながらも海戦騎はスピカへと飛び掛らんとする。その身体を支えているのは矜持か、それとも忠誠か。

 しかしその動きは明らかに鈍く、精彩を欠いていた。

 

 「あんたタフねぇ……ギガデイン!」

 

 「うぅっ……!」

 

 三度目の雷。それでも歩みは止めない。

 

 「しつこい! ギガデイン!」

 

 「…………っ!」

 

 四度。最早その歩みは亀の如き鈍重さ。だが前に進むことは止めない。

 

 「あーもう! とっとと死になさい! ギガデイン!!」

 

 「ぐはっ……!」

 

 五度。ついにその足が膝を着き、崩れ落ちる。

 しかしその眼は死なず、手は確かに銛を握り締めている。全ての活力を削がれても、敵を仕留める気概だけは、胸に離さず秘めていた。

 動かぬ体に内心で喝を入れ、逆転の一刺を狙う。

 例え死ぬことになろうとも、この一撃だけは心臓に届かせる決死の覚悟だ。 

 

 「やっと止まったわね……折角だから、直接止めを刺してあげましょうか」

 

 スピカが倒れる海戦騎の方へと歩み寄る。その言葉を聞いた彼が、最後の勝負をせんと腕に力を込め始める。

 

 が、しかし。

 

 「――とでも、言うと思った?」

 

 静かに指を指す。その先は、倒れ伏す海の覇者。

 平坦な口調で、同じ呪文を唱えた。

 

 

 「ギガデイン」

  

 

 六度目の雷光が降り注ぐ。

 それと同時に、悲鳴が木霊した。

 

 「ギャアアアアッ!!」

 

 「駄目押しよ。……悪いわね、あんた強かったから念のため」

 

 残された僅かな余力をも失い、途切れゆく意識の中で海戦騎が思ったことは、竜騎衆という名に泥を塗ったことへの悔恨と、主への謝意。

 

 ――ああ、バラン様。すいません……負けて、しまいました……

 

 そして最後に視界に写った空戦騎を見て、どこか安堵したような様子でその目を閉じた。

 

 ――私は負けてしまいましたが……あなた(ヒュンケル)さえいれば竜騎衆は負けない。例え、相手が得体の知れない者であろうとも。後は、頼みます……!

 

 

 

 

 その悲鳴が鳴り響くと同時に、そこで行われていた二つ目の戦いの決着を悟る。

 悲鳴の主は娘ではない。つまり……スピカは勝ったということだ。

 父親として、娘に情けない姿は見せられない。

 

 「なにっ……!?」

 

 仲間が敗北したことに対する動揺の表情が、兜の隙間から垣間見えた。

 相手は自分より強い。この一瞬の隙にしか勝機は無い。

 剣の片割れを鞘に収め、魔力を振り絞り呪文を唱える。

 

 「ベギラゴン(極大閃熱呪文)……!」

 

 凝縮された閃熱が一本の剣に集まり、あまりの高熱に剣が白熱化する。

 これより放つ技は、貫通力においては随一のもの。収束した閃熱の力を剣に乗せ、一点を貫く技。

 残された全ての力を足に集め、己の身を弾丸として飛び出した。

 

 「――閃熱・一閃突きッ!!」

 

 魔界の剣豪ヒュンケルの伝説。その最後に彼は己の剣に貫かれ命を落とした。

 その原典ともいえる古代からの記録。そこには克明にその様が記されていた。

 

 

 彼がその剣で貫かれた箇所は――心臓。

 

 

 「知っておくに越したことは無かったな……!!」

 

 「おおおっ……!!?」

 

 剣が心臓の上を覆う鎧と激突すると、激しい金属音が鳴り響く。それは螺旋を描く閃熱の破壊力が、敵の牙城を食い破らんと吼える音だ。

 少しの拮抗の後、鎧の心臓部に皹が入り始める。

 

 それと同時に超高熱により塗装が融解していく。剥がされたメッキのその下はオリハルコンではなく、ただの金属。開けられた心臓部の穴を補うように、苦し紛れの補強の跡が見て取れた。

 それではこの必殺剣の威力を防げるわけもない。伝えられた闘気の力によって即座に貫通することは免れたが、それで稼げたのは高々一瞬のみ。

 

 だが、その一瞬。切っ先が鎧を貫き、心臓に剣を突き入れんとするその一瞬に、ヒュンケルは行動を起こしていた。

 

 「ぐ……あああああああああッ!!!」

 

 何たることか、胸に突き刺さろうとしている白熱した剣を、彼は左手で掴んだ。

 当然、剣を握り締めた拳は裂け、触れた箇所から閃熱に灼かれ、炭化していく。

 それでも微塵も衰えない万力の如き力が、剣の動きを止めようと懸命に締め付ける。

 

 「俺はまだ負けん! 奴と、バランと決着を付けるまでは……!!」

 

 決死と決死、二つの覚悟を宿した視線が交差する。

 左手がほぼ炭になろうとも、その力は衰えるどころか強さを増す。

 そう、力比べなら――相手に軍配が上がる。

 

 剣の動きが完全に止まる――いや、引き抜かれた。

 

 「どけぇッ!!」

 

 「ごふっ……!」

 

 渾身の前蹴りを喰らい、至近距離から引き剥がされる。今ので折れた肋骨が肺に突き刺さったか、息が苦しい。

 いや、それよりも問題なのは、動けないということ。さっきのが正真正銘最後の一撃だ。

 身体の損傷が限界で、最早地に這い蹲ることしかできない。体のどこを浚っても、活力の欠片も残っていなかった。

 

 「はぁっ……! はあっ……! ……勝った!」

 

 無理やりに剣を止めた左手は炭化し、手首から先が砕けてなくなっている有様。

 それでも戦意は十分で、まだ動けるし戦える。

 その眼下で一歩たりとも動けずに、無様に這い蹲る自分と比べれば、その勝敗は明らかだった。

 

 「終わりだ……!」

 

 右手に握る王者の剣の切っ先が、眼下に見下ろす自分に向けられたその時、それを遮るように立ち塞がる者が一人。

 

 「どけ」

 

 「嫌よ」

 

 あの時(185年前)とは逆だなと自嘲しながら、ここから先は通さないと己の前に立つ娘を見やる。

 

 「お前は……シブリームを倒した奴か。退かぬならばいいだろう――仲間の仇を討たせてもらおうか」

 

 ヒュンケルが剣を向ける。隻腕といえどその姿から伝わってくる威圧感は未だ強大。

 まず勝てない。それが二人の戦力を客観的に比較した結論。 

 

 だが、オレが引けといっても引かないだろう。

 あの時と同じだ。幾ら相手が強くても、勝ち目がどんなに薄くても。

 退けない戦いというものが、時にはあるものだ。

 

 

 後ろに、護るべきものを背負っているのなら。

 

 

 「父さんは絶対にやらせない――かかってきなさい!!」

  

 




キャラクタープロフィール⑪ ヒュンケル(アバンの使徒じゃないほう)
【年齢】286歳
【種族】魔族
【出身地】魔界
【体力】9(10.5)
【力】9(10.5)
【魔力】3
【技量】9
【得意技】覇王斬 はやぶさ斬りなど各種剣技
【特筆事項】全身オリハルコン装備
()内はバフかかった状態

ロン・ベルクに並ぶ二人目の剣豪。ロンが純粋な剣術に秀でていればこいつは闘気の扱いに卓越している。ちなみに初代ヒュンケルはもっと強い。
刀剣コレクターで、バランの真魔剛竜剣を狙い挑みかかった結果色々あって仲間になった。
竜騎衆の中で群を抜いて強い。

精霊の加護とは要するに補助呪文のこと。バイキルト、スカラ、ピオリムの三種。
普通に強すぎる呪文なので、一人では戦えない精霊にしか使えない呪文という設定。
他の竜騎衆もこれがかかっているのであそこまで戦えた。

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