できそこないの竜の騎士   作:Hotgoo

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書き溜めなくなっちゃいました。

ヴェルザー「オリハルコン食ったら爪からオリハルコン生えてきたw」


17 頂上決戦、そして炸裂

 

 バランは一人、眼下の戦場を眺めながら魔界の中天を飛ぶ。

 自らを敵将の下まで送り届けるために囮となった三人に思いを巡らせながら。

 

 陸戦騎アルベルト。

 一目見ただけでバランという男の器を見定め、忠誠を誓ってくれた。

 

 海戦騎シブリーム。

 海賊行為を行っていた所にお灸を据えてやったら、その力に心酔したと言われ、旅に同行してきた。

 

 そして、空戦騎ヒュンケル。

 魔界に来て間もない頃、互いの剣を賭けて決闘を申し込まれた。

 その結果は引き分け。以後、冥竜王との決着が着くまでとの条件付きで一行の一員となった、最初の仲間。

 

 皆――バランのために命を賭した旅路に着いて来てくれた、掛け替えの無い仲間だ。

 

 ――過ぎた願いかも知れんが……三人とも欠けず、無事に帰ってきてくれ。

 

 やがて、目的の地に辿り着く。居城の最上階、竜王の間。中心に位置するその場所に、濃厚な力の気配。

 その天井に降り立ったバランは、切り取られたのを補修したような跡が見えるその場所を剣でくりぬく。

 ごとりと石材が床に落ちる音に数瞬遅れて、バラン本人もその部屋に降り立った。

 

 「クク……400年前を思い出すな」

 

 懐かしむような声色の主に目を向ければ、そこにいたのは漆黒の巨竜。今まで見てきた者達とは一線を画すその威圧感と、流暢に言葉を話してみせる竜といえば、これはもう魔界に当てはまる者は一人しかいない。

 

 「冥竜王ヴェルザー……だな」

 

 「その通り――オレこそが冥竜王ヴェルザー。……オレの首でも取りに来たか?」

 

 いつかと同じやりとり。訪れたのも同じ竜の騎士。しかしその後に放たれた言葉は、あの時とは決定的に違うもの。

 

 「いかにも……私の名はバラン。貴様を討つ、竜の騎士の名だ……!!」

 

 「良く来たな、歓迎しよう。竜の騎士バランよ……もしオレの味方になれば、世界の半分をくれてやる」

 

 冗談めいた口調で、試すように言う。むろんヴェルザーにその気はない。欲深き冥竜王が己の物を分け与えるなどということは有り得ないからだ。

 

 「見くびるなよヴェルザー……! 私は欲望に呑まれるような俗物ではないッ!」

 

 「違うな。欲望に従うことこそが生きる者の正しい姿よ、汝の欲することを為せ――そのための力だ」

 

 冥竜王の瞳に宿るものは、輝きでもあり暗闇でもあった。爛々と光る欲望の輝きはまた同時に、底の見えない深淵の如く。

 この無限の欲望こそが、冥竜王の根幹を成していた。

 

 「いいえ」

  

 バランの背後に、青白い光の奔流が渦巻く。そこから現れたのは4人の精霊。バランを補助する腹積もりで、天界から派遣された腕利きたちだ。

 蛇蝎のごとく嫌う天界の精霊たちを見て、ヴェルザーが嫌悪に顔を歪めた。

 

 「力とは正義を為すためのもの! 暴虐を振るうためのものではありません!」 

 

 「フン……精霊か」

 

 「只今参りました、バラン様。微力ながらもお助け致します」

 

 「バイキルト(攻撃補佐呪文)」 「スカラ(防御補佐呪文)」 「ピオリム(速度補佐呪文)

 

 バランの体を三色の光が覆う。それらが完全に体内に入り込んでいったとき、バランから感じられる力が飛躍的に上昇した。

 竜騎衆が尋常ならざる強さを発揮していた理由がこの呪文。その効果はかけられた者の攻撃力と防御力、そして速さをそのまま5割増しにするというもの。

 

 その呪文の特性上、強い者にかけるほどその上昇値は大きくなる。では、元より尋常ではない強さの者にかければどうなるか――それは最早、この世の理を逸脱するほどの強さを得ることになるだろう。

 

 「精霊たちよ、感謝する。――冥竜王ヴェルザー……覚悟ッ!」

 

 だが問題は、相手も理を超える程の力を持っているということだ。

 

 「面白い――少し遊んでやろう」

 

 裂昂の気合を以って飛び出したバランの踏み込みは、踏み抜いた床が粉々になるほどの力を込めて行われていた。

 その力に比例して速度を増すバランの動きは、誰にも捉えることはできない――ただ一人を除いては。

 

 「かあぁッ!!」

 

 「その程度か?」

 

 目もくらむ様なスピードで、バランの振るう剣と、ヴェルザーの爪が激突する。その地点の空間が歪むほどのエネルギーの衝突が火花を散らすとともに、嫌な金属音が響き渡る。

 

 真魔剛竜剣が、軋んだ。

 

 「ヌウッ!?」

 

 今の一合は、互いに闘気を込めなかった小手調べの一撃。つまりは素材の強度差が顕著に出るということだ。

 ただの爪など、オリハルコンならば鎧袖一触で切り裂けても不思議ではない。

 

 「正義とは何だ? 貴様らの神が定めたものか? 魔界に我等を押し込めて、臭い物に蓋をすることがか? 貴様らはいつもそうだ――我等を魔界に押し込めたときも、そして今も! 結局は力を用いて事を為す分際で、細々と理屈を垂れて目を逸らす!」

 

 冥竜王が怒りと憎悪に塗れた暗黒闘気を爪に纏わせ振り下ろす。その爪は、真魔剛竜剣と同じ輝きを放っていた。

 竜闘気と暗黒闘気が交じり合い、反発作用を起こし弾ける。大気が震えるほどの衝撃が辺りに撒き散らされ、周囲のものをあたりかまわず破壊していく。

 

 「オリハルコンだと……!?」

 

 「その通り……かつて世界が一つだったとき、人間の王を貪り喰らったときの名残よ。その覇王も言っていたぞ――大義などでは人は守れないと、力こそが正義だとな!!」

 

 かつて失われたと言われている覇者の鎧――その行方は冥竜王の腹の中。噛み砕かれ、消化されたオリハルコンは体内を巡り巡って爪へと転じ、今では冥竜王の力の一端となっていた。

 

 「今度はこちらから行くぞ!」

 

 巨竜が跳んだ。静止した状態からの一瞬での最高速への加速。そのあまりの速度差に、バランの視界からヴェルザーが消える。

 

 「早……っ!?」

 

 「上だ」

 

 その言葉に上方を見上げると、そこには大口を開けた冥竜王。かつて覇王を喰らったその顎が、今度はバランを噛み砕かんと牙を剥いていた。

 

 「バラン様!」

 

 咄嗟に精霊たちが手を翳す。バランを囲うように球状の結界が、彼を守らんと展開された。

 それに加えてバラン本人も竜闘気によって全身を覆い、閉じゆく顎を止めようと必死で抵抗する。

 だがそれも虚しく、ゆっくりとその牙は守りを貫き、閉じてゆく。

 

 「ぬうぅっ……!! カアアアァッ!!!」

 

 結界が破れるまでの少しの間、自らの内に溜め込んだ竜闘気を爆発させる。

 ヴェルザーからすれば、口の中で爆弾が爆発したようなもの。思わず口を開いてしまい、その隙にバランは脱出した。

 

 万能の守りであるはずの竜闘気が、今は酷く頼りない。強化された能力をその上から悠々と上回ってくるその強さに、バランは早々に様子見をやめることを決意する。

 

 「クク……必死だな。だが毎度その調子だと、すぐに闘気が底をついてしまうのではないか?」

 

 「要らぬお世話だ……と言いたい所だが、その通りだと言わざるを得んな」

 

 「それで? いい加減にお遊びはやめたらどうだ? 知っているぞ……竜の騎士には、もう一つ上があることを」

 

 静かに、バランが目元に付けている装飾品――竜の牙を取る。

 それを手の内に握りこむ。血が出るほどに力強く。

 

 「何が正義かなど、私には分からん……だが! 私は世界のためなら、喜んで人の心を捨てよう……!! 純然たる力をもって、お前を討つ!」

 

 心臓が、他の者にも聞こえるほどに強く鼓動を打つ。

 その律動に呼応するように、バランから流れていた赤い血が、魔族を示す蒼へと変わっていった。

 

 稲妻が、落ちる。

 

 「グウオオオオッ!!」

 

 それを皮切りに、バランの体が目まぐるしく変化していく。

 肥大した竜の紋章に合わせるように髪が大きく逆立ち、彼の全身から溢れんばかりの竜闘気が身に纏う鎧を内から砕いていく。

 その鎧の下から現れた肉体はまるで、竜を髣髴とさせるもの。

 

 両の手は竜の顎を模した形状へと変わっていき、その様は獲物を求めて大口を開く獣。

 終いにはその背から巨大な竜翼が展開されてゆく。

 

 この姿こそが、竜の騎士の最強戦闘形態(マックスバトルフォーム)

 

 「これが竜の騎士の真の姿――竜魔人!」

 

 敵対する遍く全てを滅ぼす破壊の化身が今、降臨した。

 

 

 「いいだろう」

 

 

 だが、その暴威の化身の如き姿を見ても、冥竜王が気圧される様子は一切なく。

 むしろ相手にとって不足なしと、その口が歓喜に歪んだ。

 

 「お前は、オレの本気を受け止めるのに相応しい」

 

 あれでまだ本気でなかったというのだから恐ろしい。

 冥竜王が瞠目する。静かに、ただ確かに、その気血が全身へと巡り、充足していく。

 

 「ふうぅぅぅ……」

 

 ただ極限まで高められた闘気と膂力が、そこにあるというだけでこれまでにないほどに存在を主張し、それは滲み出る熱気という形で現れる。

 そしてそれは、久方ぶりの全力での戦いに対しての、期待の高まりを示しているようにも思えた。

 静かに高まっていた熱量が、遂に臨界点を迎える。

 

 「ゴアアアアアッ!!!」

 

 ただの咆哮が大気を震わせ、威力すら伴って竜王の間を覆う天蓋を吹き飛ばす。

 その上に広がるは、ただ闇があるのみの魔界の空。

 

 「ここは少し、狭すぎる」

 

 「同感だな」

 

 示し合わせるでもなく、両者がその翼を使って空へと舞い上がる。

 

 通常の竜魔人が神の創った生命の到達点だというのなら、その強さはすなわちこの世の理の限界。

 だが現在相対する二人は、その範疇をとうに逸脱していた。

 

 それを示すように、ただ二人が存在すると言うだけで空間が苦しげに軋む。

 まるでこの世界には収まりきらぬ存在だとでも言うように。

 

 二人の逸脱者が、激突する。

 

 「行くぞッ! ヴェルザァァッ!!」

 

 竜魔人が掲げし神剣に、天より降りし稲妻が宿る。

 敵の戦力を測るためには、自らの必殺を最初にぶつけるのが最適。

 大胆かつ合理的。野獣と成り果てた身と言えども、敵を殺すための術だけは冷徹に最適化されている。

 竜の騎士の最大奥義が、初手より解放された。

 

 「ギガブレイク!」

 

 「カアアッ!」

 

 それに対するヴェルザーは、己の光り輝く鋭爪に、煉獄の炎を吹き付ける。オリハルコンすら赤熱するほどの火焔を纏ったその爪は、竜の騎士の一撃にすら劣らない。

 

 轟音。いや、最早異音。

 このような絶技が二つ衝突する衝撃に耐え切れぬと、世界が悲鳴を上げる音だ。

 

 最初の邂逅は、互角。

 ならば、次なる一手は――

 

 「紋章閃!」

 

 額の紋章が強く輝き、山すらも砕く閃光が迸る。

 その狙いは目。文字通り目に焼き付けんとして、紋章の光が放たれるが――

 

 「しゃらくさいわぁっ!!」

 

 冥竜王はただ目を閉じただけ。回避しようという気もない。

 山を砕く?だからどうした?そう言わんばかりに、その光線は薄く焼痕を残すだけの結果に終わる。

 

 ――この冥竜王の身を、山と同じように砕けると?

 

 「舐めるなよ、神々の犬がァッ!!」

 

 冥竜王の竜翼が大きく羽ばたき、ただそれだけで極大真空呪文(バギクロス)以上の旋風が巻き起こる。そこに炎の吐息を吹き込めば――巻き込まれたら骨すらも残らない、地獄の竜巻の完成だ。

 これら全てに魔法は使用されていない。ただ己の力のみによって為された神業は、呪文をほぼ無効化する竜闘気の守りを容易に貫くだろう。 

 

 「ディザスターウィンドッ!」

 

 死の旋風を前にして、バランの脳内に刻み付けられた闘いの遺伝子が全力で稼動する。

 

 回避することは出来なくもない。だが、あれはヴェルザーの羽ばたきによって自在にその進路を変える。

 接近戦に移行した際、それに気を取られるようなことは即座に敗北に繋がるだろう。

 

 ならば正面突破か?ギガブレイクを用いればこの竜巻を散らすことはできるが、悠長に魔法剣を使っている暇はない。

 

 では、どうする?

 

 正着は――敢えて竜巻の中へ突っ込むこと。竜巻の外側に接触する瞬間に竜闘気を全開。少々身体が焦げるが、必要経費だと割り切る。

 突っ切ってみれば、予想通りその中心は空白地帯だった。力を溜め続け、いつか来る機を伺う。

 

 竜巻の風勢が弱まったタイミングで、その中から飛び出してくるのはほぼ無傷のバラン。

 その剣には充分に蓄えられた竜闘気がはち切れんばかりに輝いていた。

 

 「ヌウウッ!?」

 

 「ウオオオッ!!」 

 

 ただ飛んでいるだけのバランから、爆音が響く。それは衝撃波であり、音の壁を突破した証でもあった。

 音よりも早く、バランの剣が突き立てたのは――冥竜王の右目。先程紋章閃が直撃した場所だ。

 

 「グワアアッ!!!」

 

 「――精霊たちよ、今だ!」

 

 精霊たちがバランに追従するように空へと舞い上がる。今までは二人の闘いに巻き込まれぬように隠れていたのだ。

 冥竜王が怯んだ今こそが好機と、追い討ちの妨害呪文を放つ。

 

 「承りました、バラン様――ヘナトス(攻撃低下呪文)!」 「ルカニ(防御低下呪文)!」 「ボミオス(速度低下呪文)!」

 

 先程の補助呪文と対極にある三色の光がヴェルザーへと纏わりつく。その動きが、目に見えて鈍くなった。

 

 「貴様らァァッ!」

 

 ヴェルザーが右目を潰された怒りを込めて、暗黒闘気の滾る爪を振るう。それを迎え撃つ真魔剛竜剣。

 二度目の激突。しかしその結果は、バランの剣が爪を弾き飛ばすという結果に終わる。

 

 「バカなッ!?」

 

 「ぬぅん!」

 

 返す刀で大振りの袈裟斬り。ヴェルザーの腹を大きく切り裂いた。飛散する血潮に、冥竜王が苦痛のうめき声を上げる。

 

 ――負ける?このオレが?

 

 一瞬、ヴェルザーの脳裏に不安がよぎる。そしてこの野獣同士の戦いは、心だろうが一歩でも引けばすぐにでも呑まれる、極限の戦い。

 バランが斬る。ただひたすらに冥竜王の身体を切り裂く。

 

 平時ならばこうもすんなりと刃が通ったりはしないだろう。

 精霊達の補助と妨害の二重の干渉が、この光景を現実のものとしていた。

 

 「ガアアアアァッ!!」

 

 放たれた炎の吐息も、いつになく火勢が弱い。それでもその火力は大抵のものを焼き尽くせるはずのものではあったが、今回は相手が悪かった。

 光り輝く竜闘気の奔流が全身を覆う。更に精霊達の防御光幕呪文(フバーハ)の援護もついて、その凄まじい火焔の中をバランは無傷で突っ切ってきた。

 

 「――バラン様! 合わせてください!」

 

 「ああ……!」

 

 精霊達が分かれて飛び、各々の位置関係が十字を描くような場所へ収まる。彼らから放たれた神聖なる気は対極にいるもののそれと繋がり、白く輝く十字となった。

 

 「グランド――」

 

 そしてその中心を、稲妻を纏う神剣を携え超速で貫くバラン。増幅されたその威力は、世界(この星)をも飛び越えて、小宇宙を幻視するほど。

 

 「――ネビュラ!!」

 

 

 小宇宙が、弾けた。

 

 

 「グアアアアアアアアアァッ――!!!」

 

 その絶大なる威力と神聖さが、二重にヴェルザーを蹂躙してゆく。光に呑まれていく視界の中で、どこか冷静さを保ちながら冥竜王は思案を巡らせていた。

 

 ――何かを得るためには、何かを捨てなければならない、か。

 

 怒りが臨界点に達し、一周回って逆に心が冷え切るほどの心境に到達したというのもあるが、冥竜王にはもう一枚、鬼札を手の内に残していた。

 自分は死しても転生できるという保険と、今だ明かしていない手の内という余裕。

 

 ――それが嫌で、力をつけてきた。欲したものは全て手に入れる。オレが築き上げてきたものを捨てることなどありえない……そう思っていたが。

 

 その最後の手の内を使えば、今までに築いてきたものの大半を捨てることになるだろう。だが、このままでは敗北へ至る事は明らか。

 

 「オレは……負けん! 神々の手先なぞには……ッ!」

 

 神聖なる光が晴れた後にも、冥竜王は未だ健在。だがその姿は、これ以上無いまでにぼろぼろの有様。

 雷竜との決戦でも、こうまではならなかった。まさに冥竜王最大の苦境。

 

 「……年貢の納め時だな、冥竜王。その名の通り……冥府に送り返してくれる」

 

 「……ならんか」

 

 ぼそりと、ヴェルザーが呟く。

 

 「なに?」

 

 「捨てねば、ならんか……」

 

 冥竜王が積み上げてきたものが、走馬灯のように脳内を巡ってゆく。 

 

 配下の軍勢――これまでの数百、数千年間、ずっと営々と積み上げ、強大なる軍隊を編成してきた。

 

 この大陸と城塞――宿敵のボリクスを討ち果たし、竜王となった暁に手に入れた、いわば象徴。 

 

 アトリアとスピカ――魔界でも有数の強者。手の内に収めたいお気に入り。

 

 そして何よりも――矜持。

 

 魔界を制する者として、己の力で無いものに頼るのも。

 魔界で最も強欲な者として、積み上げたものを捨て去るのも。

 

 到底、許容しがたい。

 

 それでも。

 

 

 「残念だ」

 

 

 勝利――この二文字のためならば。

 

 冥竜王が静かに眼下に手を翳し、魔力を放つ。その対象はバランでも精霊たちでもない。 

 

 「何を……!?」

 

 大地が鳴動する。その様を例えるならば、まるで噴火する直前の活火山のように。

 バラン達には知る由もないが、それは魔界の超爆弾――黒の核晶が爆発する直前の、魔力の鼓動だった。

 しかし途方も無い何かが起きていることだけは、誰にだって分かる。

 結局何が起きているか分からなければ、どうしようもないのだが。

 

 「何のつもりだッ!!」

 

 「本当に、残念だ」

 

 ヴェルザーは斬りかかってくるバランを幻惑呪文(マヌーサ)でいなし、残された全力をもって眼下の城塞に叩き落とす。

 今まで力任せに戦ってきたからこそ、このような搦め手が最後に活きる。二度は通じないだろうが、二度目は無いと確信していた。

 

 「さらばだ、竜の騎士――バランよ。貴様の名は、オレの中に生涯残り続ける事だろうよ」

 

 叩きつけたバランを残し、一人飛び去るヴェルザー。

 彼は当然、この地に残された者達の運命がどうなるかは理解していた。

 

 バランだけではなく、ここに残された味方――配下や親衛隊、そしてアトリアとスピカも。

 それでも彼は、その決断を選んだ。

 

 積み上げたものを、捨ててでも。

 矜持すらも、捨て去っても。

 

 その少し後。

 

 

 破壊の極光が、この大陸を覆った。 

 

 




キャラクタープロフィール⑫ バラン
【年齢】21歳(原作開始時35歳)
【種族】竜の騎士(人間ベースの三種混血)
【出身地】地上
【体力】9(10)《11.5》
【力】9(10)《11.5》
【魔力】8(9)
【技量】8.5
【得意技】ギガブレイク ギガデイン 紋章閃 (ドルオーラ)
【特筆事項】正統なる竜の騎士(竜の紋章 戦いの遺伝子 電撃呪文、魔法剣使用可能)
()内は竜魔人変身時 《》内は竜魔人とバフ盛り状態

現役の竜の騎士。とりあえずバカほど強い。補正なしの数字は竜の紋章を計算に入れているが、それは完璧に紋章を使いこなしているため。
最初のキャラ紹介時に1から10で表すと書いたのは、竜魔人の肉体能力を基準にしているため。(原作前までは普通の竜の騎士で何とかなってきたので、多分冥竜王や大魔王を除いて世界最高峰のはず)ちなみに技量10は老師。
魔力についてはドルオーラが撃てるための数字ですが、多分通常の呪文ならアトリアの方が威力が上だと思います。

精霊たちは一人では戦えない分、サポート役に徹するときはガチです。 
ちなみに最後に炸裂した黒の核晶は、前章でアトリアが接収してきたやつ。

 

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