できそこないの竜の騎士   作:Hotgoo

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ついさっき書きあがったので初投稿です。
今後は書きあがり次第の投稿なので、ペースは不定期になります。
この章が終わったら、ある程度書き溜める予定です。 


18 生命の輝き

 こうなったのに深い理由はない。ただ子供の頃の憧れを持ち続け、それを叶えたという――ありふれたお話だ。だが、現実にそれを達成できるものは少ない。

 

 産まれた時に与えられた名前はヒュンケル。御伽噺の剣豪にあやかって付けられた、よくある名前だ。

 そしてそれに違わず、幼い頃は平凡な子供だった。

 御伽噺の英雄に憧れ、闇雲に剣を振るう日々。己の剣の才の片鱗はそこで養われたのだろうが、今となっては知る由も無い。

 

 やがてそれなりの仕事が出来るほどに成長したとき、父親の鍛冶屋の手伝いをさせられるようになった。

 鋼を打つ音、飛び散る火花、充満する熱気。これが己の原風景。

 

 そして初めて剣が打ちあがった時――その刃の煌きに心奪われた。

 

 じきに一つの思いが胸の内を占めるようになった。その煌きをもっと集めたいと、そしてそれを自らの手で振るいたいと。

 本格的に力を高め始めたのはその頃からだったが、はっきり言って誰かに負けたことは無かった。

 剣を振るう才に加え、闘気を扱うことに関してはもはや右に出るものはいないほどの天稟。

 

 そう、強き武器に恥じぬよう、使い手はそれに相応しい強さを身に着けなくてはならない。

 あの日王者の鎧を直せと持ち込んできたあいつも、その武器の強さに見合わぬボンクラだった。

 だから殺した。だから奪った。手に入れた王者の剣の神々しい輝きを見て、それに恥じぬよう誰よりも強くなることを誓った。

 

 あの――伝説の剣豪(ヒュンケル)のように。

 

 後はただひたすらに、戦いの日々が続く。誰かの剣を奪い、またある時は奪いに来た者を殺し。

 そんな日々の中だった。あの男――バランと出会ったのは。

 

 その手に握る真魔剛竜剣の美しさたるや、己の手の内に握る王者の剣にも負けず劣らず。

 一目それを見るや否や、どうしようもなく欲してしまった。

 そうなれば後はいつものように、戦いを挑みにいったが――

 

 その結果は、引き分け。幾度にも渡る剣戟の末、互いの首に剣を突きつけ合う結末。

 だが剣を交わして、気付いたことが一つだけあった。それは、バランが全力を出していないということ。

 本気であったことは間違いない。矛盾しているような物言いではあるが、そうとしか言いようがなかったのだ。

 おそらく――バランにはもう一つ上の何かをまだ、手の内に持っていた。

 

 己を殺めるのをよしとしなかったのか、その理由は何なのかわからないが――情けをかけられたという事実は、自分の心を酷く抉った。

 奴の下についたのも、本当は心の中で敗北を認めていたからだ。対等だと口では(さえず)ってみても、敗北を認めている自分には虚しく響くのみ。

 

 負け知らずだった自分に付けられた唯一の黒星。何故負けると分かっていて再戦の約束を取り付けたのか。

 悟ったのだ。御伽噺の英雄に憧れて、そうならんと己を練り上げてきてきたが、英雄になるために必要なものがどうしようもなく己に欠けていることを。

 

 真の英雄に相応しい男は――バランであることを。

 

 力のみを追い求めてきた自分では、決して真の英雄にはなれない。強さでも、心でも。

 強き武具は、相応しき主の下へ。そしてそれは、自分も例外ではない。

 だから決意した。全てが終わった後の再戦で、バランの全力を以って殺されることを。

 相応しき英雄の下にあるべき武具を渡すために。

 

 その様は、他人から見たらきっと滑稽に映るだろう。まるで太陽に焦がれ、空から堕ちた者のように。

 それでも後悔はない。太陽のないこの地で、太陽に焦がれ死ねるならば上等な死に方だろう。

 

 故に、まだ死ねない。(バラン)と再び相まみえるまでは。

 

 

 だから――まだ負けられないのだ。己が敗北を許していいのは、ただ一人のみなのだから。

 

 

 

 

 「俺はまだ負けられんのだ……!!」

 

 「あら、お互い様じゃない。こっちにも負けられない理由ってもんがあるのよ」

 

 相対する二人、実力差は明白。されど、勝利に懸ける想いは負けず。

 六発の上級電撃呪文(ギガデイン)で魔力も残り僅か、頼れるのは剣技のみ。

 隻腕で剣を向けるヒュンケルに対し、しっかと両手で正眼に構えるスピカ。

 当然、両手で剣を持つほうが力が強いのが道理。しかし――

 

 「行くぞッ!」

 

 「んな……ッ!?」

 

 当然のように弾かれるスピカの剣。歴然たる力の違いを前にして息を呑むが、すぐに思い直す。

 力量差があることなんて、最初から分かっていたこと。これぐらいでいちいち動揺していれば勝負にならない。

 叫びを上げて自らを鼓舞する。気概で負ければ一瞬で呑まれる故に。

 

 「おおおおッ!」

 

 「フン、威勢だけは一丁前だな」

 

 幾ら切りかかろうが、弾かれ、逸らされ、躱される。半ば遊ばれているといっても差し支えない状況。

 その現状を打破するために、スピカが動く。

 

 「ギラッ!」

 

 残り魔力を考えると、牽制には下級呪文が関の山。狙いは頭部、兜のスリット(切れ目)

 攻撃と視野を塞ぐ妨害の一挙両得の手。だがその目論見は、とうに見切られていた。

 

 「俺と戦った奴は、皆そこを攻めてきた……わかるか? その対策は腐るほどしてきたってことだ」

 

 そこに攻撃が来ると分かっていたような空中機動で、その熱閃はあっさりと避けられる。

 その直後。

 

 「……!」 

 

 刹那の出来事だった。脳裏に走る電撃のような直感に突き動かされ、スピカは横へと転がる。

 その一瞬後、闘気が込められた剣圧がスピカの居た地点を完膚なきまでに破壊した。

 

 「今のを避けたか」

 

 ――何で避けれたか分かんないけど……当たったら間違いなく死んでた……!

 

 半ば呆然としているスピカ。自分でも何故反応できたのか分かりかねている様子。

 

 「ふむ……まぐれか?」

 

 再度ヒュンケルが剣を振り、風を切る音と共に衝撃波が飛来する。

 高速で襲い来るそれを、再び回避するスピカ。しかも今度はより無駄のない動きで。

 

 「お前には反応できない速度で斬っているはずだが……妙だな」

 

 「……なんとなく分かってきたわ」

 

 今度は四振り。はやぶさ斬りとの併用で、同時に四つの斬撃を避けられないように飛ばす。

 だがそれも、僅かな隙間をくぐるようにギリギリで回避されてしまった。

 

 「なに……!?」

 

 ――悔しいけど、普通に戦ったら私は父さんの下位互換に過ぎない……だけど。

 

 アトリアとスピカは、戦闘スタイルからして似通っている。お互いに魔法と剣を用いるオールラウンダーだが、その完成度には大きな違いがある。

 だがしかし、その未完成ゆえの柔軟さと、彼女が持つ生来の戦闘センスが今の動きを実現していた。

 元より彼女は各種族の最上級の血を使って生まれた、いわば戦いのサラブレッド。

 

 アトリアが以前持っていた闘いの遺伝子と、今までの戦闘経験の蓄積で戦う積み重ねによって為された努力型ならば、スピカは持って産まれたセンスと才能によって戦う天才型。

 アトリアから戦いの教えも乞うてはいるが、それで戦えば先程言ったとおり下位互換にしかならない。

 

 そう、彼女は今、敢えて思考を最小限にし、直感に身を委ねる戦いを行っている。

 自分を遥か超える強敵との死線をくぐる戦いが、今彼女の直感を最大限に刺激していた。

 今思えばそうだ。アトリアとの最初の邂逅のときも、受けた魔法剣を即座に模倣した。海戦騎との戦いでも、弾丸の如く飛来する銛の弾道を一回で見切ってみせた。

  

 

 スピカは今――戦いの中で急速に成長している!

 

 

 「わたし(竜の騎士)には――一度見た技は通用しない!」

 

 「ほざけッ!」

 

 埒が明かないと見たか、ヒュンケルがこちらへと踏み込み直接斬りかかって来る。

 一足一刀の間合い。一手間違えれば死への道を行くことになる道筋を、スピカは軽々と踏破する。

 

 ――考えないのが戦略っていうのも何か変だけど、これが案外うまくいったわね。

 

 相手の動きは早すぎて捉えられないが、そうならば相手が動く前に動けばいい。視線の向き、筋肉の収縮、僅かな機敏。その全てを観測し、身体が勝手に動きを予測する。

 当然ヒュンケルも一流の剣客。それら全ての情報に(フェイク)引っ掛け(フェイント)を入れているが、驚異的な戦闘センスがその全てを無意識に看破していた。

 

 「ぬおおおおッ!」

 

 そうなれば、後は冒頭の繰り返し。演者の役割は逆だが。

 幾らヒュンケルが攻勢を強めても、その全てはいなされる。

 

 「一回当たれば終わりってのも中々のスリルね」

 

 「当たらんだと……!?」

 

 だが、一見してスピカが優位に戦いを進めているように見えても実際にはそうではない。

 圧倒的な基礎能力の違いによって生み出される格差。相手に攻撃がほぼ通用しないのに対し、こちらは一撃でも喰らえば終わり。

 薄氷の上を歩いているような不安定さの上に、この攻防は成り立っていた。

 

 「こんの……っ!」

 

 その薄氷に皹が入る。さっきまでなら完璧に避けられていたはずの剣閃がスピカの頬を掠めた。

 ついにその本能的な動きに、ヒュンケルが対応し始めたのだ。

 

 「ようやっとその動きに慣れてきたぞ……お前はよくやったが、次で終わりだ!」

 

 「冗談ッ!」

 

 そして、基礎能力以外の両者のもうひとつの差。それは武具の差だ。

 神々が打ったオリハルコンの武具に対し、業物ではあるがただの金属で打たれたスピカの剣。

 その二つの差は歴然。 

 

 「ツバメ返し!」

 

 「……ッ!」

 

 鋭く打ち込まれた一閃を、剣の腹に打ち込む形で軌道を逸らす。

 だが、その剣筋は直角に反転し、すぐさま追い討ちをかけるような二撃目を放ってきた。

 反応は間に合ったものの、とても力を受け流せるような体勢は作れず。

 

 まともに王者の剣と激突したスピカの剣が、遂に半ばからぽきりと折れた。

 

 「やはりな……!!」

 

 予測通り。鍛冶を学んでいたヒュンケルはスピカの剣の状態を把握し、次の一合で折れるであろうことを確信していた。

 幾度もオリハルコンと打ち合っていた剣が、遂に限界を迎えたのだ。

 

 だが。

 

 剣が折れたという絶望的状況にも関わらず、その顔は笑っていた。

 

 「……父さんが言ってたわね」

 

 ――『敵が勝利を確信したときこそが、最大の好機だ』

 

 今こそがその時。起死回生の一手を打つにふさわしいタイミング。

 殆ど作戦を決めていなかったスピカだが、一つだけ事前から決めていたことがあった。

 じきに追い詰められることを予想し、それが決定的となった瞬間に反攻をかけること。

 この状況において、スピカの本能が選んだ一手とは。

 

 折れた剣もそのままに、中空に放り出された剥き出しの刃を握りこむ。当然血が噴き出すが、お構いなしだ。

 

 「折れた剣で何を……!」

 

 アトリアとスピカの相違点。もう一つの決定的な違いとは、スピカのみが闘気を扱えること。

 

 「二刀流の手ほどきだって、父さんから教わったのよ……!」

 

 右手に握る、半ばから折れた剣から闘気の刃が噴き出す――闘気剣(オーラブレード)

 

 左手に握る、剥き出しの刃を握る手から溢れた生命エネルギーが、刃の形を成す――生命(いのち)の剣。

 

 生命の輝きが形作る、命削りの二刀流。それがスピカの切り札。

 

 ――どうせ魔族の人生は長いのよ。ちょっと位削れたって構いやしないわ。

 

 「くっ……! 見えん!」

 

 眩く溢れる輝きが、ヒュンケルの視界を一瞬塞ぐ。その隙を突き、狙うは穴の開いた心臓部――

 

 「だがお前の狙う場所は自明!それさえ分かれば防御など――」

 

 ではない。

 生命の二刀の切っ先が向けられたその先は、アトリアの爆裂魔神斬りが炸裂した部分。その攻撃は守りを貫けずとも、確かな爪痕をそこに残していた。

  

 「行け――!」

 

 「喰らいなさい! 私の――いや、私達の全てを!」 

 

 その構えはかのロン・ベルクの必殺剣と酷似する。今まで見てきた中で単体での最大威力を誇るその技を、無意識に体が模倣しようとしていた。

 

 「これは……ッ!」

 

 父から娘へ受け継がれた思いが、その鉄壁の守りを貫かんと牙を剥く。

 

 

 「――輝光十字剣ッ!!」

 

 

 アトリアが鎧に残した爪痕に、左に握る生命の剣が喰らいつく。

 生命の神秘的な輝きと、オリハルコンの神々しい輝きがぶつかりあい――

 

 「――ッあああああああ!!!」

 

 スピカの裂昂の叫びと共に、鎧へと残した傷が罅になる。やがてそれは蜘蛛の巣のように全体に広がり、終いには弾け飛ぶように砕け散った。

 

 「馬鹿なッ!? 王者の鎧が……!!」

 

 「これでっ、終わりよッ!!」

 

 そして右。ヒュンケルが咄嗟に腕を挟み込んででも止めようとするが、その腕は既に無く。

 荒々しい闘志を体現するかのような闘気剣が、完全に無防備な胴を両断しようとして――

 

 「間一髪で間に合いましたか」

 

 「……お前に助けられるとはな」

 

 不可視の結界に、阻まれる。

 

 ヒュンケルの背後に、青白い光(旅の扉)が渦巻く。

 そこから出てきたのは、上質な薄衣を身に纏い目を細めた、精霊の指揮官の男だった。

 

 「貴方の事はあまり好きませんが……正義のためです」

 

 「フン、その物言いが気に食わんのだ……だがまあ、感謝する」

 

 呑気に会話を繰り広げる二人。だが、それもそうだろう。

 止められた切り札。完全に逸した勝機。アトリアとスピカを襲う苦境は、まだ終わらないようだった。

 

 そして――現れた精霊の男を見て、地面に伏すアトリアの目が見開いた。

 

 

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