できそこないの竜の騎士   作:Hotgoo

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7 継ぎ接ぎの怪物

 ――その頃、地上では。

 

 「ギガデイン!」

 

 宙を舞うオラージュが腕を振るう。

 その度に荒野に雷鳴が轟き、何条もの雷霆が雨のように降り注ぐ。

 

 「この程度でオレを退けられると思うなよ」

 

 だが、その暴威に晒された漆黒の巨竜――ヴェルザーは、まるでひらりと舞う一枚の羽のように死の豪雨を潜り抜けてみせる。お返しとばかりに炎の吐息をお見舞いするが、それも飛翔呪文(トベルーラ)で宙を舞うオラージュに躱され、虚しく大地を嘗めた。

 

 数多の雷が降り注ぎ、業火が大地を嘗め、爪牙が巨岩を抉る。

 地形が変わるほどの闘いを繰り広げた結果、周囲はもはやどちらの兵もおらず、二人だけの竜王を決める決戦場となっていた。

 いつまでも続くようにも見える二人の決闘。だが、その均衡が崩れ、趨勢が傾く時は確かに近づいていた。

 

 オラージュが再びヴェルザーとの距離を離すために呪文を放つ。

 

 「しつこいなぁ……! イオナズン!」

 

 撃ち出された多大な爆裂エネルギーは、それを迎撃せんとし、爪を構えるヴェルザーの前方で炸裂する。

 この極大爆裂呪文(イオナズン)の狙いは攻撃ではなく、爆発の光と煙で相手の索敵を妨害することにあったのだ。

 間髪入れず巨大な白煙に向かって中級閃熱呪文(べギラマ)を乱れ撃つ。いくつもの光の束が白煙の中心を撃ち抜いた。

 

 ――かに、思われた。

 

 「……っ!?」

 

 白煙の中に撃ち込まれた中級閃熱呪文(べギラマ)がそのままオラージュに跳ね返されてきた。

 と、同時に煙の中から暴風が吹き荒れ、全ての煙を吹き飛ばす。その中にいたヴェルザーは、鏡のような光沢を湛えた、薄紫の幕に包まれていた。

 

 「マホカンタ(呪文返し)だって……!?」

 

 かつてはあらゆる種族の中でも最も慧知に長けたとも言われる知恵ある竜。その古代からの生き残りであるヴェルザーにとって、現存する呪文など容易く使いこなすことができる。

 最も、普段は竜としての力で叩き潰すほうが強いし効率もよいのだが……このような闘いであれば、手札の数が活きてくる。

 

 そのまま翼をはためかせ、凄まじい速度でオラージュに肉薄するヴェルザー。跳ね返された中級閃熱呪文(べギラマ)の対処に手を取られてしまったオラージュは、それをみすみすと許してしまった。

 

 「ようやくご対面だな」

 

 その言葉と同時に振り下ろされる右腕に対し、オラージュは腰に提げていた剣を抜き受けとめるほかに選択肢は残されていなかった。だが、冥竜王の剛力に対し、その細腕ではあまりにも無力。その力の差は、オラージュが吹き飛ばされ、地面に叩き付けられるという結果となって現れた。

 当然、追撃に向かうヴェルザーに対しまたもや剣を盾にするも、それは前回と同じ結果に終わる。

 そのまま攻勢を重ねるヴェルザーと、ダメージを受けつつも耐え凌ぐのが精一杯なオラージュ。闘いの趨勢は冥竜王に傾きつつあった。

 

 「弱い……! この程度の力でヤツの後継を名乗るなどおこがましいわ!」

 

 「ぐうっ……!」

 

 ヴェルザーが縦に一回りし、遠心力を乗せた己の尾を叩きつける。ミシミシと骨が軋む音と共に、あまりの衝撃にオラージュの周囲の地面が陥没し、小さいクレーターが作られた。

 拮抗というのは一度崩れ始めたら脆いものだ。先程までの互角だった戦況と違い、一手を経るごとに目に見えてオラージュが追い込まれていく。

 しかし、明らかに追い詰められているにもかかわらず、オラージュは顔に貼り付けた笑みを崩してはいなかった。だが――

 

 「クク……それにしても合点がいったわ」

 

 「なんだって?」

 

 ヴェルザーは愉快だと言わんばかりに肩を揺らして笑いを堪えていた。

 

 「ボリクスを討ち取る際にオレは討ち漏らした血族が居ないか念入りに確認した」

 

 「……何が言いたいんだい?」

 

 冥竜王の間合いから逃れるため、後方へと下がろうとするオラージュだが、ヴェルザーも即座に追いすがる。ヴェルザーの攻撃を捌きながら、闘いの最中に始まった問答に怪訝そうな態度を見せるオラージュ。

 

 「当然だが、捕えた側近に拷問もしたし、寝返ったヤツからも話を聞いた……集められる情報は粗方集めたのにだ。何故貴様の存在が今の今まで判明しなかったのだ?仮にも雷竜の息子を名乗るお前の存在が」

 

 「それはっ……」

 

 言葉に詰まるオラージュ。ヴェルザーはそのまま言葉を続けた。

 

 「その非力さ……お前は雷竜の息子として生を受けながらも、竜の姿と力を受け継ぐことが出来なかった」

 

 「…………」

  

 ヴェルザーの言葉にオラージュは押し黙る。その顔からは、いつの間にやら貼り付けた笑みは消えていた。

 

 「故にその存在は秘匿された……竜の姿と力すら持たないお前の存在は、味方にも敵にも知られてはいけない恥晒しに他ならないからだ」

 

 「誰からもその生を祝福されることのない――出来損ない。竜の力も持たぬお前が、雷竜の名を騙るなッ!」

 

 その言葉と同時に放たれた火炎が、オラージュの上半身を焼き払う。

 肉体は非力なオラージュにとって、この攻撃の直撃は決定打になりうる――はずだった。

 

 「黙れ」

 

 業火の中から確かな足取りで現れたのは、焼け焦げながらも未だ健在なオラージュ。焼け落ちた白衣の下に見えるのは、色鮮やかな竜の鱗に覆われた胴体だった。

 

 「俺を……出来損ないと呼ぶな」

 

 オラージュの脳裏に、忌まわしき過去の記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 培養液に満たされた巨大なカプセルの中に浮かぶ小さな人型――おおよそ5歳くらいの体形だろうか。それを見つめているのは一匹の巨竜だった。

 

 「……失敗か」

 

 やがて辺りで鳴っていた機械の駆動音が止まり、カプセルの中から液が抜けていく。音を立てて開いた試験管の中に手を突っ込み、己の子を汚いものをつまむように取り出す巨竜――ボリクス。

 つまんだそれを適当なテーブルの上に放り出し、侮蔑の視線を向ける。少なくともそれは、我が子に向けるものとしてはとうてい適切なものとはいえなかった。

 

 「あ……」

 

 意識してのことか、本能で感じ取ったのか。取り出された子供は、言葉にならない言葉を発し、己の親に縋る様に手を伸ばす。

 

 しかしボリクスはもうそれには興味を失ったのか、その方向を向く事すらせず、独りごちる。

 

 「どうも竜と竜との交配ではどうしても知能は引き継げんようだから、魔族の血を混ぜた上でオレの血が強く出ればとも思ったが……やはり駄目だったか」

 

 そう。これはオラージュの原初の記憶。

 

 「さて……こいつをどうするか……例の牢獄で看守ごっこでもさせておくか」

 

 フン、と鼻を鳴らし、ボリクスは苛立ちと失望の入り混じった表情で、己が息子にその言葉を言った。

 

 「オレの手を煩わせよって――この出来損ないが」

 

 

 

 

 

 

 場面は戻り、再び現在へ。

 

 「ようやくその気色悪い笑みをやめたな」

 

 「お前の言うとおり……俺は雷竜の血を引いて産まれながら竜の力を持たなかった」

 

 そう語り始めたオラージュの瞳には、秘められていた狂気が隠されることなく顕わになっていた。

 

 「俺が受け継いだものは……知恵持つ竜の慧知と、魔族の血から齎された魔力だけ……産まれてすぐに俺はここに追いやられた……あいつ(ボリクス)にとって都合の悪い奴を押し込んでおく……黴臭い牢獄にな」 

 

 「ヤツも知恵持つ竜の血脈を残すため、色々と足掻いていたわけか」

 

 「だから俺はあいつを殺すことに決めた……そうすることであいつを超え、自分が出来損ないでないことを証明するために……お前はその代替に過ぎないのさ」

 

 「そいつは結構だが……これから死ぬお前には到底不可能な話だと思わんか?」

 

 そういってヴェルザーは、ボロボロのオラージュの元へ歩みだす。

 

 「いいや」

 

 だが――

 

 「確かに俺は産まれ持った力だけではあいつやお前のような知恵持つ竜には敵わなかった……それは悔しいが認めざるを得ない」

 

 オラージュに近づいたヴェルザーはあるものを目にし、その歩みを止めた。

 

 「生まれ持った力じゃ届かない……足りないと言うのなら。竜の力を生まれ持たぬが故に勝てないと言うのなら……!」

 

 オラージュの胸の竜鱗の下には継ぎはぎの手術痕があった――その異様な様相を目にして、ヴェルザーは歩みを止めたのだ。

 

 「持たぬならば奪えばいい。欠けているなら補えばいい……! 足りぬのならば足せばいい……! たとえ継ぎはぎで不恰好と言われようとも、届くのならばそれでいい……!!」

 

 そうして彼は、その呪文を唱えた。

 

 

 「この身に取り込んだ幾千の竜の因子、竜の力を見せてやる――ド・ラ・ゴ・ラ・ム(竜変化呪文)!!!」

 

 

 「オオオッ……!?」

 

 一瞬、その場に光が満ちる。それは解放された膨大なエネルギーの発露だった。

 

 

 

 「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

 光が収まったあと、そこに有ったのは――怪物だった。

 幾つもの竜のそれを継ぎはぎしたと一目で分かるような、場所によって色も大きさも違う鱗。

 一つ一つが別種のもので構成されている九つの頭。

 左に3本、右に5本生えている不揃いな竜翼。

 複数本が捩れて絡まっている歪な尾。

 6本だったり4本だったりする爪の先からは、毒が滴り、雷が迸り、冷気が漂い、火花が散っている。

 

 とても素直に竜とは呼べないような、悍ましい継ぎはぎの怪物。

 それに名をつけて呼称するならば――合成竜獣(ドラゴンキマイラ)、とでも言うべきだろうか。

 

 「フン……醜悪だが、その貴様の執念だけは認めてやろう」

 

 「抜かせ……! その余裕面を剥ぎ取ってやる……!」

 

 竜王と化物が相対する。次の瞬間、2つの巨体が凄まじい速度で激突した。力と力の衝突が衝撃波を辺りに撒き散らし、周囲の地形が平らになる。

 がっぷり四つに組み合った二人の力は、拮抗しているようだったが、オラージュが即座にそれを崩しにかかる。

 なんと、背中からもう一本腕が生えてきて、冥竜王に爪で斬りかかったのだ。両腕を押さえられているヴェルザーは、それに対応する術はない。そのまま、胸に3本の傷を刻みつけられた。すかさず絡められた腕を振り払い、距離を取る。

 

 「チッ……化物が」

 

 「何とでも言え、お前を殺し俺は竜王の座を奪って見せる……!」

 

 距離を離したヴェルザーに対する追撃の一手は、魔法。だが、ただの魔法ではない。

 6つの頭が同時に、異なる呪文を唱え始める。

 

 「メラゾーマ」「バギクロス」「ライデイン」「ヒャダイン」「べギラマ」「イオラ」

 

 それぞれの頭から唱えられた呪文を実行するには、手の数が到底足りないが――即座に体から生えてきた幾つもの触腕が、腕の役割を果たす。

 放たれた六つの呪文が、完璧なタイミングで放たれる。防ぎきれないように意図して時間差をつけた呪文が、ヴェルザーの元に殺到した。

 まるで熟練の魔法使いを6人同時に相手しているような錯覚を覚えるほどの攻撃。ヴェルザーはそれを迎撃するために動く。

 

 放たれた吐息が冷気を相殺し、爪を振るい閃熱を撃ち落とす。巨竜の羽ばたきが真空を打ち破り、爆発球をその牙で噛み砕いて見せた――だが、それだけ。

 

 火炎と稲妻が冥竜王に直撃し、その体を焦がす。だが、ダメージを受けたのにも関わらず、その顔には暗い笑みが浮かんでいた。

 

 「クッ……フフフ……ハハ……フハハハハハハハハ!!」

 

 「……何がおかしい」

 

 ひとしきり笑い終えた後、嘲るような口調でヴェルザーは言った。

 

 「ふぅ……いやなに、何をしようが出来損ないは出来損ないのままなのだと思ってな……おかしくてたまらんわ」

 

 その言葉を聴いて、九つの頭のうち、真ん中に位置する頭――雷竜に酷似している――の瞳に、一層強い殺意が宿る。

 

 「一度ならず二度までも……貴様、楽に死ねると思うなよ……!!」

 

 「……貴様は竜王になると言っていたな……これがか? この醜悪な怪物が竜王に相応しいとでも?」

 

 「それがどうした、容貌などどうでもいい、竜の力さえ備わっていれば――」

 

 そして。冥竜王はオラージュが目を逸らしていた事実を口にする。

 

 「この結界――竜のみを閉じ込め、力を押さえつけるモノだったか。ではなぜお前はこの結界の縛りを受けないのだろうな?」

 

 「……黙れ」

 

 「所詮お前はどこまでいっても紛い物……真の竜王には程遠い。いくらお前が竜の力を欲し、その身に取り込もうとも……その核にお前という贋物がいる限り竜にはなれない。何度でも言ってやる――お前は出来損ないだとな」

 

 「黙れえええッ!!」

 

 耐えかねてヴェルザーに跳びかかるオラージュ。無数の腕と触腕でその巨体を押さえ込み、そのまま持ち上げて力任せに地面に叩きつける。

 その後、すかさず不揃いな翼をはためかせ空中に飛び上がり、地に寝転がる格好となっている冥竜王を見やる。

 

 「おしゃべりは終わりだ……この一撃でさっさと死ね……!」

 

 「くだらんおしゃべりを始めたのはお前ではないか……それに、簡単には死なせないと言っていたが、あれは虚言か?」

 

 窮地に陥っても尚余裕を崩さないヴェルザーに、オラージュの怒りは遂に振り切れた。

 

 「消えろ……!」

 

 オラージュの九つの口に、膨大な力が収束されていく。やがて溜まり切ったそれは、ヴェルザーという一つの標的に向かって、一斉に放出された。

 

 

 炎が。冷気が。雷が。腐毒が。水流が。酸が。闇が。真空が。光が。

 あらゆるエネルギーが絡まりあい、濁流となって殺到する。

 

 

 「ヌウウッ……グアアアッ……!!」

 

 混沌の濁流とでも言うべきそれは、大地を抉り取り、ヴェルザーの居た地点に大穴を開けて見せた。

 どうやら攻撃の威力が強すぎて、地下の空間まで繋がってしまったようだ。

 しかし、それほどの攻撃を受けて尚、冥竜王は絶命していないということを、オラージュは感じ取っていた。

 

 「クソッ……! しぶといやつめが……!」

 

 オラージュも冥竜王を追い、大穴に飛び込む。戦いは次の局面に移り変わろうとしていた。 

 

 




キャラクタープロフィール⑤ オラージュ
【年齢】637歳
【種族】知恵ある竜と魔族のハーフ
【出身地】魔界 ボリクス領(現ヴェルザー領) 
【体力】6(10)
【力】5(9.5)
【魔力】9(9)
【技量】7(5)
【得意技】ギガデイン (混沌の濁流)
【特筆事項】電撃呪文使用可能 (多重行動)(超再生)
()内は変身後
変身後は耐久極振りで手数と筋力で殴ってくる。竜5000体分の命のストックを削りきるか、広範囲高火力ぶっぱで消さないと延々再生するクソゲー押し付けマン。
多重行動と二回行動の違いを例えると、二回行動は常人より二倍早く動いて二回行動する感じですが、多重行動は手が4本あって一回に二手分の攻撃ができるとかそういう感じです。

ボリクスさんが科学的にアレコレして生まれた魔族ハーフの息子。
出生と親からの扱いのせいでコンプレックスの塊になってしまった模様。
600年くらい生きているが、ずっとこの施設に押し込められていたので外のことはあまり知らないようだ。
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