白兎の兄は黒の…   作:ヤウズ

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兄と弟と

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「仕事も特定してなくて、まぁその日その日雇ってくれるとこ探してなんとかその日暮らしだ 」

 

「じゃ!じゃー僕のファミリアに来ませんか!!?」

 

「ファミリア…?神に仕えてるってことか…?」

 

「は、はい。まだ団員は僕だけなんですけど、でもホントに優しい神様なので!」

 

「……俺を誘ってくれてんのか…?」

 

「は、はい……??」

 

「えーっと、ベル…だったよな?実は目が悪いとかじゃないよな?俺の目見えてるか…?」

 

「えっ、えっと、はい…その、変わった色してますけど…その、なにか問題でも…」

 

 

「…………クッ、ハハハ!…ふぅ、そうか。ありがとなベル。誘ってくれて嬉しかった。でも俺が入るとお前の神様に迷惑がかかりそうだからな、やめておくよ」

 

「そ、そうですか……。え、でもなにが迷惑に…」

 

 

「でもまぁ、これも何かの縁だ。冒険者に近いなにかを探してみるわ。ありがとなベル。今度会う時は弟と呼ばせてくれ」

 

「はい。…え、えっ?僕が弟ですか!?」

 

「おう、だから兄貴面されたくなけりゃ会わねぇように祈るこった。それと、俺のことは誰にも話さないようにな?じゃーな…」

 

「あ、あの!お兄さんのお名前はー!?」

 

「ククッ。ああ、俺は……まぁ“お兄さん”でいいや…」

 

 

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畳み掛けるアポロン眷属(ファミリア)の追撃を避け、主神であるヘスティアを庇いながら戦ってきたベル・クラネルも、ついに路地裏の壁に追い詰められ、アポロン眷属の団長ヒュアキントス・クリオによって執拗に嬲られていた。

 

 

「醜い顔だ品も無い。なぜ我が神(アポロン様)はこんな者に執着なさるのか…」

 

「ぐおわああああああ!!!!!」

 

 

ここまでの戦いでのダメージも決して軽くない。なにせ、皆「捕らえろ」などと加減を示唆する言葉を使いながら、向けられた刃や魔法にはれっきとした殺意があった。悪意があった。

 

ベルはまだlevel2。最速でlevelを更新したレコードホルダーだが、それは決して強さを意味する栄誉ではない。現に、冒険者の中にはもちろん、今ベルに敵意を向けるアポロン眷属の中にもベルと同等の者、ベルより遥かに強い者は存在する。

 

加えてベルは対人戦というのは決して得意ではない。敬愛するアイズ・ヴァレンシュタインに稽古をつけてもらったこと、18階層で先輩冒険者に絡まれるなどの異常などあったが、あくまでベルの強さはモンスターを倒し、殺すことによって培われた。

 

 

 

 

 

「ベル君!!!!!」

 

自分の痛みに悲鳴をあげる神様の声が聞こえる…。その声を支えにまた闘志を燃やし、眼前の敵に立ち向かう。

 

 

 

 

「ッ!セアアアアアアアアア!!!!!」

 

「遅い!」

 

「があああああああああ!!!!!??」

 

 

 

 

痛い。

 

 

 

怖い。

 

 

 

 

 

「私はあの方に身も心も捧げてきた。私だけがあの方の全てを受け止められる…!」

 

 

痛かった。

 

 

 

 

 

怖かった。

 

 

 

 

 

「どうせ後で直すのだ!腕の一本や二本切っても構うまい!」

 

 

 

 

それより今は神様(大切な人)を一人にしてしまうことが一番怖い。それでも向けられる悪意を、敵意を浴び、ベルは理解する。自分は大切な人を守れなかったのだと。大切な人を一人にしてしまうのだと。大切な約束をーーーー裏切ってしまうのだと。

 

 

 

 

 

 

「や、やめろおおおおお!!!!!」

 

自分の為に涙を流してくれる神の為に、自分は何も出来ないのか…。

 

 

 

 

 

「ッッッッッッ!!!!!」

 

口が震えて声が出ない。だが、言葉は自分の胸に響いた。

 

 

『ーーーーーー』

 

 

 

諦めるよりも先に、

 

 

 

『ーーーーーー』

 

 

ベルに生まれたのは、

 

 

 

 

 

 

『たすけて』

 

 

 

 

ーーーーーーーー願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー俺の弟に、何してやがる」

 

 

姿も無く、気配もない存在が今まさに凶刃を振るわんとするヒュアキントスを路地裏の壁まで蹴り飛ばし、ベルの危機を強引に拭いさった。

 

 

「ぐはっ、な、なにが…」

 

「な、なにが起こったんだ!?」

 

苦痛に身を震わせるヒュアキントスと何もわからないままに変化する状況にヘスティアが動揺の声をあげるが、その場でただ一人、ベル・クラネルだけはその変化の起因、すなわち自分を助けたのが誰なのかを察知した。

 

 

「お兄…さん…」

 

「あぁ…久方ぶりだな、ベル。とりあえず今聞きたいのは一つだけだ。こいつ等は、お前と、お前の主神にとっての、“敵”か…?」

 

 

「……はい…!」

 

「……よろしい」

 

その優しい声に、頭に触れたぬくもりに、ベルは思わず涙を流した。

 

 

 

「……お兄さん…」

 

ベルは、彼のことをよく知らない。彼がまだまだリリやヴェルフはおろか、アイズやシルとすら知り合う前、ヘスティアの眷属になったばかりの頃に彼と出会い、他愛ない話をしただけだ。自分と同じようにヘスティア・ファミリアに入らないかと勧誘をした。結果的に断られてしまったが、それでも悪い人ではないと、なんの根拠も無しに思った。

 

 

「……べ、ベル君…?そこに誰かいるのかい…?」

 

「くそっ!隠姿魔法か!」

 

どうやら彼の姿は自分にしか見えていないらしい。いつか見た濁った瞳は片方が深紅の、もう片方は精緻な幾何学模様が描かれた青い神秘的な光を放っていて、そのことでまた彼について知らないことが増えたが、それでも理解した。

 

 

 

 

「お兄…さん」

 

「……ん?」

 

 

「…神様を、僕の神様を……助けて下さい……」

 

 

「…………」

 

この人は、強い。そして、頼ってもいい人だと。助けを求めても…いいのだと。自分を優しく、労るように、安心させるように見つめ、撫でてくれる。神様と同じように、でも神様とは違う。

 

 

「…ベル……」

 

 

 

神様とは、違う。

 

 

 

「…よく、頑張ったな。自分の主神をよく守りぬいた。えらいぜ、ベル。立派だ。俺はお前を尊敬するし、俺もお前のようだったらと憧れる。だから…」

 

 

神様は、僕を守りたいと言った。愛情と希望に満ちた笑顔で、一緒に肩を並べて戦おうと言ってくれた。

 

 

 

でも、この人は僕と肩を並べるなんてことはない。僕に向ける瞳に映るのは願いと、期待と、後悔。そしてーーーー

 

 

「今度は、俺が守ってやる。お前が自分の神を守ったように、お前は俺が守るよ。今度こそな」

 

 

 

誓い。

 

 

 

「くっ!どこだ!?どこのファミリアだ!?」

 

 

激しい怒潮を隠しもせずヒュアキントスは姿なき敵に問う。だが返ってきた答えは…

 

 

ガッ!!!!!

「悪いな」

 

顔面を鷲掴む無色の手の存在に気付くよりも先に

 

 

 

「名乗る神の名は持ってない」

 

つい今しがたまで体重をかけていた壁にまた勢い強く押し付けられ、ガシャァ!!!!!と派手な音を上げて瓦礫と共に地面に転がる。

 

 

 

 

「ぐおおおおおあああああ!!!!!」

 

「ベル。とりあえずお前は自分の主神を守っとけ。ファミリア間の争いなのであればおそらくギルドもあまり大きな動きはとれねぇだろ。今は凌ぐ時だ」

 

「はっ、はい!」

 

「いい返事だ」

 

 

「ぐッ!!」

 

転がるヒュアキントスの背中にドカッと片足を下ろして地面に縫い付けて、ベルに手を振って逃亡を促すと、ヘスティアがいまだ見えぬ者と会話をしている自身の眷属に抱きつき、ペタペタと怪我の箇所と深度を確かめる。なんとも可愛いらしい姿だ。

 

 

 

「ベル君!動けるかい!?それとさっきから一体誰と!!?」

 

「えっ、えーっと」

 

「ベル?約束は覚えてるな?」

 

己の唇の前に人差し指を当てて口を封じると白き少年は慌てて頷きその主神は「ベル君がボクに隠し事だって!?」と目を見開いて驚いた。

 

 

 

「ベル!」

 

「ベル様!?」

 

 

 

 

「ベルの仲間か…。それに腕のいいスナイパーもいるらしい。俺は必要無かったかもな…」

 

「……な、なにが起きているの…?」

 

 

ハチマンは現れたヴェルフとリリから視線を外し、遠くから矢で狙っていたが、劇的に変わっていく状況に理解が及ばないミアハ眷属のナーザをチラリと視認すると、また頭上から魔法攻撃が降り注ぎ多くの足音を率いてアポロン眷属の援軍が現れる。

 

 

「おっと」

 

「ヒュアキントス様!?」

「そのお姿は!!」

 

ヒュアキントスを蹴って細かく場所を変えながら降り注ぐ魔法を避けるハチマンを視認することの出来ない者達は、立ちあがれず地面を這いつくばっては何度も弾かれるように転げ回る自分達の団長の姿に驚嘆する。

 

 

 

「おーおもしろそうなことやってるなぁ。俺達も混ぜろ」

 

 

「貴様等…我がアポロンファミリアに楯突くつもりか…!?」

 

「盟友の危機を、捨て置くことなど出来ない!」

 

現れたタケミカヅチ眷属の面々と、アポロン眷属の援軍が正面から睨み合う。そんな危機的状況のど真ん中で、ハチマンはポツリと呟いた。

 

 

 

 

「ぞろぞろと…慕われてるのなベルは。…羨ましいなぁ…」

 

 

 

「タケミカヅチに…ミアハ!?君まで…!」

 

 

「街中でベル達がアポロン眷属になぶられてるって聞いたから大急ぎで来たんだ!」

 

「途中でタケミカヅチのところで応援を頼んでな。ベル、ヘスティア、二人とも無事でなによりだ」

 

 

 

 

ヴェルフが大剣をかざしてベル達を守る体勢に入り、ミアハが持参したポーションでベルの傷を癒す。

 

 

 

「なにが起きているのかはわからぬがここは危険だ。すぐに退散した方がよいだろう…」

 

 

 

相変わらず見えないハチマンに転がされているヒュアキントスや戦闘を始めるタケミカヅチ眷属を見て、ミアハは場所を変えることを提案した。

 

 

「はい!ありがとうございますミアハ様!ベルさま!ここは逃げましょう!リリが先導します!こっちでッーーーー!!!!!」

 

 

 

 

「ここにいたか…アーデ…」

 

そこにまた、悪意を持った男が現れる。

 

 

 

 

 

「ざ、ザニス……様…」

彼を視界にとられたベルのサポーター、リリルカ・アーデの目に絶望の闇が差す。余程恐ろしいのか、身体は震え、声も怯えたように小さく萎んでしまった。…だが、

 

 

 

 

 

 

「元気そうでなにガフッ!?!」

「ぐふぉぉぉ…」

 

「ザニス様!?」

 

ハチマンが蹴りあげたヒュアキントスが大砲のように白装束の眼鏡の男を襲撃した。

 

 

「ヒュアキントス様!?」

 

「お兄さん!?」

 

「なーんか嫌な感じがした。ありゃ確かソーマの所の奴等だよな?ベル?なんか心当たりある?」

 

 

買った野菜が虫食いだった…みたな不快感を声にのせてベルに訊ねるハチマン。軽い、一連の流れからはあまりに軽い過ぎるノリで聴こえた声に、訳もわからずともさっきまで存在したリリの恐怖心は吹き飛んだ。

 

 

「ソーマ眷属って、確かリリの…」

 

「サポーター君…」

 

「あっ、はい、ソーマ眷属に居場所がバレてしまったのであれば、…リリは皆様とは一緒に居られません。私は一度、ソーマ眷属に帰ります。そしてソーマ様に、改宗(コンバート)を頼み込んでみます…」

 

 

「でも、ソーマは確か…」

 

「はい、聞き入れてもらえる可能性は…おそらく低いでしょう…、もしそうでも、ベル様達はご迷惑にならないようにリリは…」

 

「そんな!リリ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー斗流血法(ひきつぼしりゅうけっぽう)・シナトベ。刃身の弐 空斬糸(くうざんし)

 

 

 

「全員、ギルドでいいな?」

 

 

 

 

ーーーーーーーー天羽鞴(あまのはぶき) 二連(にれん)

 

 

 

ハチマンが放った無数の血の糸は、その場にいる全員を包みこみ2つの竜巻となって彼ら彼女らを上空へと運んだ。

 

「ベル、ここは茶会(ティータイム)にゃあまりに不相応だ。みんな聞きたいことも知りたいこともあるだろう。とりあえずは全員腰を据えて話せるようになるまで待ってろ。後から俺も行く、嬢ちゃんが大事なら離すなよ」

 

 

 

「えっ、お兄さんは!?」

 

「安心しろ。着地には気を遣ってやる。冒険者がこれだけいりゃ大大丈夫だろ」

 

 

皆が突風によって地面を離れ大声をあげて狼狽えている時、頭を撫でてくれるハチマンの肩越しの光景を見て、ベルは理解した。自分達を包みこむ優しい風よりも強い風がアポロン眷属とソーマ眷属をさらに高くまで押し上げていることを。

 

 

 

ーーーーーーーーシナトベ・風編(かぜあ)

 

「また後でな、ベル」

 

 

 

風が自分達を北へと運ぶ中で、自分にしか見えないあの人(お兄さん)が優しく微笑み、その瞼で紅と青の目が隠れるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Netflixを見てムラムラして書いた。後悔はしてない。でも批判にはビクビクしてる。需要があれば設定を出しますがまだ続きは書いてません。
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