白兎の兄は黒の…   作:ヤウズ

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また次回書いてないのに投稿してしまった…。溜めてから出すのが理想なのに。でも出して自分を追い込まなきゃ次書けないんだよな…


白兎の兄は台無しにする

アポロンの屋敷を出た後、ヘスティアは「リリを助ける」と猛るベルを抑え、戦争遊戯(ウォーゲーム)に備え強くなることを命じた。リリルカ・アーデの救出…もとい、完全に仲間として取り戻すことをベルに約束し、別々に動くことにした。

 

 

そして、ベルを支援するヘファイストス眷属に所属する鍛冶師のヒューマン、

ヴェルフ・クロッゾ及び、タケミカヅチ眷属、ミアハ眷属と共にミアハファミリアの“青の薬舗”の一室にて情報を集めていた。

 

 

 

 

「サポーター君の捕らわれている場所がようやくわかった!水路沿いのソーマファミリアの酒蔵だ。明日そこから酒が出荷される。夜には警備が手薄になるから、それを狙って攻めこむんだ!」

 

「彼女はソーマのところの眷属であったか…」

「それはまた厄介な…」

 

ヘスティアの言葉に、リリの生い立ちをほとんど知らないタケミカヅチとミアハは難しい顔をする。

 

 

 

「ヘスティア様、ひとつお訊きしてもいいでしょうか…?」

 

「なんだい、桜花君?」

 

「今のヘスティアファミリアは、戦争遊戯に勝つことが最優先のはず。リリルカ・アーデを助けたところで、他派閥の人間は戦力にはなりません…。今、彼女の為に割く時間は無いのではありませんか…?」

 

「大男…てめぇ…」

 

桜花はあくまで客観的な視点からヘスティアに問う。ただしそれは、リリを戦力ではなく仲間として見ているヴェルフにとってはあまりに薄情な問いだ。言外に「リリは後回しにするべき」だと言う桜花に強く睨みをきかせる。

 

 

 

「このままじゃ、ベル君が戦えないんだ」

 

「「「「………!」」」」

 

感情と視点の違いから剣呑な雰囲気が漂っていた部屋に響いた声が、全員の視線を集めた。

 

 

「ベル君は今、ウォーゲームのために必死で強くなろうとしている。だけど、サポーター君を置き去りにしたままじゃ絶対にベル君は実力を発揮出来ない…。あの子は一人の弱さを知ってる。あの子は仲間の強さを知ってる。それに、約束したからね」

 

ヘスティアが笑いかける。ここには居ないベルの頭を撫でるような優しい笑みを浮かべ、恋人との惚気を聞かせるように彼との約束を口にした。

 

 

 

「サポーター君のことは任せてくれって。女神のボクが約束を破れないさ。全部全部繋がっているんだ。サポーター君を助けることがベル君の力になる…だから、力を貸して欲しい」

 

 

神と眷属の絆を見せつけられ、もう何も付け足す必要もないと判断したヴェルフがクスリと笑い、「…まぁ、そういうことだ」と続けば、

 

「わかりました、お手伝いいたします!」

「お任せください」

「ええ!」

「もちろんです」

 

全員が力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。とりあえず無駄にならずになによりだ」

 

 

「「「ーーーッッッ!!!!!」」」

 

 

店の入り口から不意に聞こえた声に全員が構えると、そこには大きなストールで顔を隠す謎の男と、

 

 

 

「………………ヘスティア…様…」

 

 

捕らわれている筈のリリルカ・アーデがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

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時は遡り、ベルの兄を自称するハチマンによりギルドの前に送り届けられたリリは、ベル達から離れ自身の本来の本拠地、ソーマファミリアに来ていた。

 

 

相も変わらず入り口はソーマの酒を餓鬼の如く求める者達でごった煮状態でリリの小さな身体で掻き分けて行こうにも弾き出されるのが目に見えている。どう侵入したのもか考えを巡らせていたところ…

 

 

ドッバアアアアン!!!!!

 

「ッ!?」

 

 

 

何かが隕石のように飛来し、屋敷の入り口(もろ)とも人の群れを散らし、

 

 

ドン!!!!!ドドドドドドドドド!!!!!

 

畳み掛けるように降り注いだそれ(・・)のお陰で門兵すら逃げ出してしまう。

 

「今なら…!」

 

 

リリは小さな身体を活かし、人を超え煙を潜り、ファミリアの主神“ソーマ”のもとへたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーマ様!リリを、ファミリアから退団させて下さい!」

 

「………………」

 

酒神“ソーマ”。最高の神酒を作ることに生活の全てをかけ、それ以外には興味の欠片も示さない男神。酒作りの資金の為につくったファミリアの運営も眷属に任せた結果、敵味方仲間同士で蹴落とし合う悪辣なファミリアを生み出してしまった張本人だ。

 

 

「ソーマ様ぁ!」

 

リリ(こども)の声に目もくれずソーマは呟いた。

 

「…………………………簡単に酒に溺れる薄っぺらい子供の言葉に、なんの意味がある…」

 

失望に満ちた声に思わずリリも言葉を詰まらせる。“薄っぺらい子供”。それは決してただの戯れ言ではない。事実、ソーマファミリアが粗悪な冒険者達の吹き溜まりとなった原因は、眷属達が神酒に溺れた(・・・・・・・・・・)というのが理由の一つだ。酒を求めファミリアに入り、酒に溺れてファミリアの旗を汚す。そんな者等にかける言葉も、聞く耳もない。

 

 

 

なればこそ…

 

「それは!?神のお酒…!」

 

 

「………これを飲んでまた同じことを言えるなら、話をきこう…」

 

大きな酒甕(さけがめ)から掬い上げた柄杓を傾け、酒をリリの前に注ぐ。透き通るような美しい酒から昇る香りが既にリリの理性を揺らしていた。

 

 

 

 

 

 

「………はぁ…はぁ…はぁ…………」

 

かつて神酒を飲んだ時の多幸感(きょうふ)を忘れたことはない。これをまた口にすれば、今ある願いさえパズルのように崩されるかも知れない…。それでも、飲まなきゃ…飲まなきゃ!…ベル様の為に…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ…あああ…へええへへへ…」

暴力的な快感が全身を駆け抜け、力を奪い床に這いつくばることを強制する。理性を奪い視界を揺らし、失望を露にして歩き去る(ソーマ)に手を伸ばす意思すら多幸感に塗り潰される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

快楽に薄れ行くリリルカの脳裏にーーーベルの顔が見えた

 

 

「…………くだ………さい…」

 

「………!」

 

 

 

「リリを…リリをファミリアから退団させて下さい!」

 

「………………」

 

 

「リリはあの人を助けたい!!」

 

「………………」

抗えぬ程の酩酊感を拭い去るような強い意思(こえ)に、眷属の涙に男神は足を止めた。

 

 

「神様に教えて貰わなくてもわかる!リリは、今この時の為に生まれてきたんだって!この日の為に間違いを積み重ねてきたんだって!今度はリリがあの人達を助けなきゃ!」

 

「………………」

 

神は、子供の成長を見守る存在。それは、酒に囚われた一人の神とて例外ではない。子供(リリ)の声は確かに(ソーマ)に届いた。酒作りよりももっと深くに秘められた神としての本懐を、その声は確かに揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーまったく!」

 

 

 

 

「ッ」

 

だが、

 

成長する子供もいれば、停滞を望む子供もいる。

 

 

「はぁ…はぁ…なにを言い出すかと思えば…アーデ!退団したいのなら代償が必要だ!…わかるだろう!?」

 

部屋の入り口で、ヒュアキントス同様、ハチマンにソーマの本拠地へと投げ込まれた(・・・・・・)満身創痍のザニスが血走った目で声を張り上げていた。

 

「代償…?」

 

眼鏡にくすんだ青い服(・・・・・・・)。欲望に忠実な男は普段の陰険さを振り払い、獰猛な目でリリルカ・アーデの道を塞ごうとし、悪辣なファミリアの実質的な指導者の登場にリリは表情に絶望を浮かべる。

 

「ぐっ、くくくっ…そうだなぁ、これまで育てて頂いた恩義に報いる為に!ざっと1000万バリス!1,000万用意せねばーーー」

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーー『黙れ小僧(・・・・)』」

 

 

 

 

ーーーグシャァァァァッ!!!!!!

 

「ぐあああッ!!!」

 

決して大きくはない。だが拭いきれない怒りに満ちた声が響き、大量の金貨が入った5つの大きな木箱が邪魔者を押し潰すように飛来し、こぼれた金貨が輝しく光を反射する。

 

 

「パパとママのお話の邪魔しちゃダメだ。5,000万、小遣いにやるから黙ってろよボーヤ」

 

吹き飛んだザニスを見下ろす一人の男。赤色の着流しに黒のズボン、頭を覆うように黒い大判のストールのようなもの被っていた。

 

 

「ぐっ…きっさま………」

 

「悪いな…。俺は昨今の主人公とかと違って話を聞くのは苦手なんだ。…ぼっちだから。それが敵の話となれば尚更だ」

 

 

 

 

「………………貴様は…?」

ソーマは目の前で無力化された団長を気に掛ける様子もなく、表情も見えない侵入者に問う。

(ハチマン)はザニスに向けていた怒声に蓋をし、「あ?あーうん、えーっと、じゃあ…」と何か考えるような仕草を見せ、一つ咳払いをすると手を振るって名乗りあげた。

 

 

「『わたしはフンボルト・フォン・ジッキンゲン!ハルを迎えにきた!』」

 

 

「………………誰だ?」

 

「………誰ですか!?」

 

 

 

「………あーうん。通じないよね。ごめん。一回言ってみたくてね…ふひっ」

 

男は気味の悪い笑い方をして歩き、ソーマの前で立ち止まった。

 

「野蛮で悪質なアル中共が群がる本拠地(ファミリア)に、単身神に交渉に行った勇敢なお嬢さんがいるんだから、援護が必要だろ?『女は度胸だ。お前ら援護しな』…なんて“母ちゃん(ドーラ)”の声が頭に響いてなぁ」

 

男はククッと短く笑うと酒甕に突っ込まれていた柄杓を手に取って作業台に置き、神酒を眺めて言葉を紡ぐ。

 

「『簡単に酒に溺れる子供』とは、言ってくれるよな。酒の神。溺れてるのはお前の方だろ?」

 

 

「よっと」とソーマの巨大な酒甕を容易く持ち上げストールの間から口をつけ、そのまま傾けグビグビと巨大な甕を空にしたところで「ぷはっ」と息を漏らしドスンと床に置く。

 

「…ん。…弱いな、この程度じゃあの街の蟒蛇(うわばみ)どもは満足しない…」

 

「なっ!?えっ…ええ!?」

 

「………バカな…………………」

 

 

驚いて目を見開くリリとソーマを無視してハチマンはまた入り口まで戻り、金に溺れて眠るザニスの胸ぐら掴んで持ち上げ、声に怒りを滲ませ何度も叩き始めた。

 

「おいコラいつまで寝てんだクソメガネ…。なに?そのくすんだ色の服は…なんで白い服を着てねーの?1話と2話で『白装束』って書いちゃっただろうが。アニメ観直してびっくりしたわ。…つーかなんでちょっと青いんだ王蟲(オーム)の体液でも浴びたの?うん?だいたい、神経質そうな眼鏡キャラっつったら白装束って相場が決まってんだろが。黒の教団の室長しかり、元海軍元帥しかり…ちがうか?ちがうな。………それかあれか?もともと白い服着てたけどお前の腹黒さが服に移ったんだよな?そうだよな?おーい」

 

怒りの理由が判明した瞬間である。

額に青筋を浮かべて時折ひっぱたきながらブツブツと文句を垂れ流してザニスの胸ぐらを締め上げる姿にリリとソーマが若干恐怖するも、いくら揺すっても起きないザニスに痺れをきらし、懐から一つ酒瓶を取り出して『バルス』と唱えながら口の隙間から一口分流し込む。

 

 

すると…

 

ザニスはブシュウウウウウ…と口から鼻から煙を上げて熱されるように顔を赤く染めあげ、

 

 

「めっがぁッッッッ!!!!!」

大量の空気を吐いて撃沈した。

 

「…よし」

 

「何がですか!?」

 

 

「………それは…?」

ソーマはハチマンの手の酒の瓶に興味を持った。瓶のデザインからラベルの印刷(・・)など、この世界にはありえない時代錯誤な代物で、それが酒なのであれば酒の神が気にしないわけがない。

 

 

 

 

「…とある街じゃ何処の酒場にも置いてる安酒だ。皆が毎晩これを傾けて騒ぎ踊る…。興味あるか?」

 

 

瓶を片手にソーマへ近づき、その手にある柄杓(ひしゃく)にまた一口分注ぐ。

 

 

「………………不思議な、薫りだ…」

ソーマはそのメチル的なエチル的な揮発臭に興味をかきたてられ、躊躇うことなく飲み下した。

 

 

「ッッッッ!!!!!」

 

 

 

喉が爛れるような強烈な味と内臓に直接ブローを喰らうような重み。血流が鼓膜に直で響き外から聴こえる一つの声で3,000回は共鳴する。思わず首を抑えて踞る。

 

 

「ーーーこれは…ッ!!!!!」

「ソーマ様っ!?」

 

 

知らない味…

 

「ぐっ…、ハァハァハァ…」

 

知らない風味…

 

「ハァハァ…」

 

始めての衝撃…

 

「ハァァ…」

 

 

 

 

………足りない。

「ソーマ…様…?」

 

酒のことは知り尽くしたと思った。あとはそれを組み合わせるだけで新たな味を生み出せると思った…。だがこれは…今の自分の手で、知識で、経験で同じ物が作れるか…?私の知らない…未知の酒…未知………

 

 

 

 

荒れた息が落ち着いていくのと反比例してソーマの心に少しずつある感情が芽吹いていた。

始めは水滴のような小さな感情…それは沸き上がり、沸き立ち…

 

煮えたぎるような泉のごとき欲求が頭を満たした。そして…

 

 

ソーマは立ち上がり、侵入者へ視線をむけて訊ねた。

 

 

 

 

 

 

「………………どうすればいい?」

 

 

 

 

その一言にハチマンは破顔した。

 

 

「俺に、脅されろ」

 

 

「ッ!!!!!」

「………………」

 

神に対して不遜な物言いをする男にリリは冷や汗を流し、ソーマはストールに隠された男の顔をじっと見つめ続く言葉を待つ。

 

 

ハチマンが風を薙ぐように腕を大きく振るとゴトトッと作業台の上に大小形色不揃いの12本の酒瓶が現れる。

リリはそれだけでまた驚きソーマは目を細めた。

 

 

 

「お前が知らないであろう酒を此方から提供する…。代わりに2つ要求したい」

 

「………私はなにをすればいい…」

 

「うちの弟、ベル・クラネルにはそこのお嬢さんが必要だ。それと、これらは高くはないが手に入れるのはなかなか大変なんだ。俺だけが苦労するのは面白くない」

 

「……欲しければ労力で払え、…お前の役に立てということか…」

 

あまり表情の少ないソーマが僅かに難しそうな顔をする。が、ハチマンはすぐに首を横に振った。

 

「別に俺の為に何かしろなんて言うつもりはない。ただ、務めは果たせ。理由はどうあれお前の名のもとに集まったガキ共の面倒もみれない奴に飲ませる酒はない」

 

「……………」

 

「気がすすまないか?なら半月おきに様子を見に来る。んでもってちゃんと眷属を統治出来てれば酒を1本ずつ、その半月後に渡す。つまり半月毎に視察、一月(ひとつき)毎に渡す酒を提供ね」

 

「………………………」

 

「ソーマ様…」

 

八幡の言葉にソーマはあからさまに肩を落とし、そんな神が酒に対してのみ見せる素直さにリリは少し呆れ、庇うようにハチマンに言った。

 

「しかし、来訪するのが半月おきでお酒の受け渡しが一月毎ですか?訪問する度にお酒を渡されていかがですか…?」

 

 

「ーーーーーー!」

 

 

眷属(こども)の言葉に目を輝かせんな。休肝日って言葉を知らねーのかよ。…酒は溺れるんじゃなくて嗜むくらいが丁度良んだよ…」

 

(おや)眷属(こども)が逆転してみえる二人にハチマンはため息をつき、もう一つの持ち札(カード)の使用を決める。

 

「まぁお嬢さんの言うとおり、2つ要求するんだから報酬も2つある」

 

 

ーーーギィィィィィンッ!!!!!

 

 

「これは…!」

ストールの間から義眼の青い光が輝くと同様の光がソーマの目に宿り、その視界に映る光景にソーマは息をのむ。

 

「………………見たことこともない装衣…技術…これは、酒を作っているのか…」

 

「御名答。HL(むこう)でいくつかやったバイトの光景だ。解説なんざ無くとも、酒の神と言われるあんたなら視ただけでも役立てるんじゃないの?」

 

 

 

「………あぁ…。とても参考になる…私も知らない技法があるとはな…」

 

取引は順調に進み、このままハチマンの望むとおりにいくと思えたが…

 

 

 

 

「………だが」

 

ソーマの強い意思のこもった声と目が向けられ、思わずハチマンは「なにか不満か?」と首を傾げた。

 

 

 

 

 

「………この取引で、リリルカ・アーデの退団は…認められない…」

 

「ッ!!!!!」

 

「………ほう…」

 

ソーマの言葉にリリはビクリと肩を震わせ、ハチマンは目を細めた…。

 

 

「………………」

すっーーーと、ハチマンが作業台の上に手を運ぶとその手に触れた酒瓶が全て消失し、

 

 

「ま、まて、ーーー!!!!!」

それを見たソーマはブンブンッと首を振りながら慌てて弁明する。

 

 

「…り、リリルカ・アーデの退団は、貴様が来る前に決定したことだ。…私の意思で行う」

 

「………!…ソーマ様…」

 

 

「…………一つ目の条件は『退団後もひとつだけ、可能な限りリリルカ・アーデからの要請を聞き入れる』にしてもらおう…」

 

リリは目を見開いて感動と驚愕を露にし、ハチマンはソーマの目をじっと見つめ…

 

「………まぁ、こちらとしては要求が全部叶ってお釣りがくるようなもんだ。拒否する理由はないな…」

 

 

ハチマンはうんうんと頷きながら、コトリと作業台に一本の酒瓶を置いた。

 

 

「んじゃ、交渉成立で…」

 

 

 

 

 

 

 

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「じゃんけんで勝って、返してもらった」

 

 

ハチマンのそんな雑な嘘を見破り「そんなわけがないだろう!」と激昂するヘスティアをリリとミアハで宥めるところから話は始まった。

 

ベルとの約束が無意味となり、折角主神らしさ…もといベルとの愛?を演出していたのに台無しにされた怒りで暴れ馬の如く荒れるヘスティアを宥めるうちに、扉越しに聴こえた『ベルくんにはサポーター君(リリ)が必要』という他ならぬヘスティアの言葉に抱いた感動も消え去り、ため息をつきながらリリが一連の流れを説明をするに至った。

 

 

 

 

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「そうか…」

 

「まさか、ソーマとそんな取引をするとは……」

 

 

リリの話を聞き、ソーマの人となりを知る神達は驚いていた。それも当然だろう。酒神ソーマが酒作り以外の一切に無関心なのはこのオラリオでもあまりに有名な話だ。

そのソーマが、酒が絡むとはいえ交渉に応じ、しかも自ら子供の願いを聞いたというのだからもはやこれは一つの伝説と語り継いでもいいレベルの珍事だ。

 

 

 

 

リリの吉報にミアハ、タケミカヅチが驚き、ヘスティアを含むベルの支援者達が喜びをあらわにする中、リリはかつての主神、ソーマが退団の儀の際に溢した言葉を思い返していた。

 

 

『……………リリルカ・アーデ。お前はかつて私の酒に溺れ、やがて酒とそれを取り巻くこのファミリアを嫌い、脱退の為に他者を(おとしい)れることを選んだ。………それが、私の知るお前の姿だった…』

 

 

『………だが、お前は出会ったのだな…酒の酔いを洗い流し、痛みと苦境を共にしてでも守りたい存在を…。それは私が愛する“依存と快楽(さけ)”とは相反するものだ。…今の(わたし)はお前を捕えておくことは出来ない…』

 

『……私はもうお前をここに縛りつけておくことは諦める。…いても酒作り(わたし)の役には立たぬだろう。…だから、お前が居なくなった此処で、お前が此処を出たことを後悔するようなファミリアと酒をつくろう。お前が羨むような、魅力し捕えて離さないような至極の逸品を…』

 

『お前は、その為に自らの道を仲間と共に歩みながら、私とあの男の繋がりとして利用されるのだ』

 

 

始めて目にした、あの神の期待と欲望のこもった強い眼差しを、リリは忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、君は一体何者なんだい?」

 

「…ベルに聞かなかったのか?俺はベルのお兄さんだ。それ以上の説明は必要ないな」

 

「あの時はベル君を、そして今度はサポーター君を助けてくれたことは感謝する。ベル君も君のことはほとんど知らないようだったけど、君に対して信頼をもっていた…」

 

「…さいで。まぁ言ってみれば、それだけの存在だ。昔ベルに勧誘を受けた。『ぼくと神様のファミリアに入りませんか』ってな。とても嬉しい誘いだったが、諸事情あって断らざるえなくてな…。それ以来会うことは無かったが、まぁそん時俺はベルを『弟』と、ベルは『おにいさん(・・・・・)』と呼ぶようになったわけだ」

 

 

「それじゃあベルとの血縁はないのだな?」

 

「ああ。………そもそも、俺に家族はいない。天涯孤独。憎まれっ子世に憚る……とはちがうが、まぁぼっちを謳歌させてもらってるよ」

 

「それでも、ベル様にとってお兄様なのならリリにとってもお義兄様です!」

 

「あざとい」

 

「なっ!?」

 

「別に俺に対して好感度あげても、ベルをどうこうするのに何の役にもたたねーよ」

 

「ふふふ、リリ殿一本とられましたな…」

 

「うまくいってるとこを見たためしがねーよ」

 

鼻で笑うハチマンに、リリは「ちっ」と可愛らしく舌打ちし、周囲はそんな二人のやりとりに笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

「………そのストールを、………外して貰えないかな…?」

 

決断したように、重々しくヘスティアはハチマンに頼み込む。顔を隠しているのには何か理由があるのだろう。ひょっとしたら酷い傷をもっているのかも知れない。だとすれば、この頼みは親愛なるベルの恩人に、痛みや苦しみを強いるかも知れない。そんな不安いっぱいでヘスティアは頼んでみるが…

 

 

 

「んー…見たいなら構わないが、視れるかはわからないぞ…」

 

ハチマンが「さもありなん」とばかりの軽い調子で答え、頭から被っていたストールを外すと、

 

 

 

ガタタッーーー。

 

「はぁっ!!?」

「く、くび、首がない!?」

 

 

そこにはある筈の首が無かった。赤い着流しに包まれた肉体は確実に確認できるのに、肩甲骨から上がまるで空気に掻き消されるように曖昧になり、首から上は完全に存在していなかった。

 

 

その姿はまるで伝説に生きる者。「死を報せる妖精」ーーー

 

 

 

「ーーーデュラハンというやつかい!?」

 

「いや、希釈して視えなくなってるだけ」

 

「なんだよ!!」

椅子から落ちたヴェルフが吠えた。

 

 

「幻術でもいいんだが、あまりこの義眼()は無駄遣いしたくないしな…」

 

「…今、“幻術”と言ったのか…?それはつまり、他者へ思うがままの幻覚を視せられるということであるか?」

 

「ん?…ああ」

 

ミアハは、ぼそりと呟いたハチマンの“幻術”というワードに反応を示し、あっさりと肯定されるとアポロンの城での集団幻覚を思い出した。

 

 

「ならば、アポロンの城での集団幻覚は…」

 

「………俺がやった。どーも他人の不幸を喜んでる(ばか)共がいるみたいだったからな…。ほら、『他人の不幸は蜜の味』って言うけど、少しはお裾分けしたくなるだろ?不幸の方をだけど。それでこっちも蜜を楽しめればWin-Winだ」

 

「おかげでこっちも死ぬかと思うくらい怖かったよ!」

 

「んー?だがベルだけは俺の仕業だと理解した筈だぞ。ベルにだけはオマケをつけたからな」

 

「ハッ!そう言えばベル君は…」

「確かにベルは全然怖がってなかったな。むしろ楽しそうだったくらいだ…」

 

「まさか…」

「あんな大規模な幻覚が一人のちからだったなんて…」

「驚いたな…」

 

 

 

「ヴェルフ様…集団幻覚とはなんのことですか?」

 

「ん?あぁ、リリ助がソーマの拠点に行った後、ヘスティア様の指示でここにいる全員とベルでアポロンの城に戦争遊戯(ウォーゲーム)の宣誓に行ったんだ。もともとはアポロンの野郎からふっかけてきたゲームらしいけどな」

 

現場に居合わせなかったリリがヴェルフの裾を引っ張って訊ねると、ヴェルフはアポロンの態度を思い出してか青筋を立てて説明した。

 

 

 

「でも、アポロン様が城に入ろうした時に空から敵の団長さんが隕石みたいに降ってきて…」

 

「ヒュアキントス殿の目が青く光ったと思ったら辺りの光景が一変し、恐ろしい二人の男性の凄まじい攻撃が迫ってまいり…」

 

「だが、気がついたら元のアポロンの屋敷に戻っていて迫ってきていた攻撃も二人も消えていたんだ。自分だけが視た幻覚かと思ったが…」

 

「その場に居合わせたアポロンとその眷属。物見遊山ではしゃいでいた数十の神々も皆、腰を抜かしていたんだ。どうやら皆が同じような幻覚を見えていたらしい」

 

 

ヴェルフに続き、千草、命、桜花に最後はタケミカヅチが締めくくった。リリはいまいち想像出来なかったのかポカンとしているが…

 

 

「お前ら一人で喋れよ…。いやまぁ、分断で喋ってくれれば読者に忘れられないから助かるんだけどさ…」

 

 

「何を言ってるの…?」

 

ハチマンの発言にナーザが首を傾げた。よっしゃ、これで全員セリフ回せたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ところで、このちっこいの誰?ベルとどーいう関係?」

「………む!ボクがベル君の主神だよ!ボク以上にベル君を愛してる奴なんているもんか!」

 

「………まだマシか…」

 

「おいこら今誰と比べたんだ!まさかあの変態(アポロン)と比べて妥協したわけじゃないだろうな!」

 

「………別に…」(目逸らし)

 

「神に嘘はつけないと言ってるだろう!わざとか!わざとなんだな!」

 

 

 

 

 

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リリの帰還翌日。神会は、通常のそれとは違い賑わいが鳴りを潜めていた。

戦争遊戯が決まったのあれば娯楽に飢えた神々の誰もが期待興奮して会議とて馬鹿騒ぎするものなのだが、今回ばかりはそれがない。皆口には出さないが、ごく少数、今回の戦争遊戯に反対の神がいるのだ。先の戦争遊戯の開催宣誓の際、謎の幻覚が神と冒険者見境なく飲み込み、圧倒した。

そして、絶対的に不利な筈のヘスティアとそれを支持するミアハ、タケミカヅチが全く怯む様子もなく堂々と落ち着き払った様子をとっていることが疑惑と恐怖を増長させた。

 

 

 

神々(われわれ)の知らない何かしらが、動いているのではないか。

自分達は、何か恐ろしいものを敵に回してやしないか。

 

 

そんな恐怖と不安が常に存在した活気を奪い、皆がただ進んでいく話を眺めるだけの人形と化していた。

戦争の形式は静かに行われた籤引きの結果攻城戦に決まり、ヘスティア側に助っ人を認めるか否かの話合いが行われたが、アポロンは人材不足はヘスティアの怠慢だと言い張りそれを却下した。………が、

 

 

「こわいのアポロン?」

 

威と華を過分に含んだ声が、広い室内に響いた。

 

「助っ人くらいで随分自信がなくなるのねぇ。貴方の眷属(こども)達への愛はその程度なのかしら?」

 

外野からの思わぬ支援に、ヘスティアがその声の主の名を呟く。

 

「………フレイヤ…」

 

美の女神“フレイヤ”。彼女の声がアポロンの自尊心を煽り、神々の空気を大きく変えて少しずつベルの側に傾き始めた。また、彼女が興味を示しているとわかるだけで単純な男神達は賛同し勝手に盛り上がっていく。アポロンが異を唱えられない程に。

それが彼女の意思。フレイヤ眷属の一部しか知らず、薄々勘づいているのもロキのみだが、彼女もまた、ベルの進化と成長を望む者だ。だが今回に限り、別の意図も含まれていた。

彼女もまた、アポロンの城で起きた一部始終の報告を受けていた。自分の知らない何者かが動いていることに気付き、興味を持った。それは敵なのか、味方なのか。警戒すべきか、はたまた自分が所有してみるのもおもしろいかも知れない。それを見極める為に、その者が姿を現しやすい状況を整えるべく、言葉ひとつで多くの神々を誘導してみせた。

 

 

「…良いだろう!助っ人は認めよう!ただし!人数は一人!オラリオ以外のファミリアに限ること!これでどうだ!?」

 

 

声高々にアポロンが出した助っ人の条件のあまりの狭さに、

 

「…せこい」

「せこい…」

「せこいぃ…」

 

タケミカヅチ、ミアハ、ヘスティアがため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「条件は明らかに不利だけど、ベル君の負担を考えれば、一人いるだけでもありがたい」

 

 

神会の帰路で、ヘスティアとタケミカヅチとミアハが話し合いの結果と今後について話し合いをしていた。

 

 

「だが、当てあるのか?」

「オラリオの外で腕のたつ冒険者なんて…」

 

 

 

「もちろん候補はいる…」

 

ミアハとタケミカヅチの問いにヘスティアは頷き、自身の横に視線を送ると…

 

 

「なんとかなったか…」

 

虚空から声が響き、白髪に赤い瞳のベルより少し年上とおぼしき男が姿を(あわら)した。能力によって姿を偽ったハチマンである。

 

 

 

「君は!!?」

「いつから居たのだ?」

 

突如、空気が色付き形をつくるように存在感を顕したハチマンにタケミカヅチが驚き、ミアハはもはや慣れたように苦笑する。

 

「ほとんど最初から。ベルの主神様と一緒に侵入(はい)った」

 

「我々神が誰一人気づかなかったというのか…」

 

「ぼっちは何処にでもいて何処にもいない………というか誰にも気づかれない。ソースは俺。…俺レベルになると店員にも気づいてもらえない…」

 

 

堂々した態度から一転して哀しみを帯びた声になるハチマンに、タケミカヅチは複雑そうな顔をした。

 

 

「………助っ人を頼めるかい?」

 

「ベルが変態の食い物にされるのを指咥えて見れられないからな…。ただ、俺はあくまでベルの“兄貴”として動いてるだけだ。ベルの主神様の下につく訳じゃない」

 

 

ハチマンはヘスティアの頼みを即答すると同時に釘を刺す。

 

 

「………ありがとう。いっそボクのファミリアに…」

 

「断る」

 

「むぅ~」

 

「なにその顔。フグなの?………まぁとりあえず、さらったアポロンの眷属達は無傷で返還(かえ)しても問題なさそうだな…」

 

「そんなことをしていたのか!?」

「そなたはいったい何者なのだ?」

 

ボソッと問題発言したハチマンにタケミカヅチが(略)。ミアハは(略)。

 

 

「………隠す理由もないが、ベルにも教えてないことを教えるのは少し癪だな…ぼっちは自己表現が苦手なんで。機会があるまで待っててもらえる?」

 

 

決して表情には出さないがその声色に意思の強さを感じ、神達は諦めて頷いた。

 

そして一つ、ヘスティアとしてはどうしても聞かねばならない最も大事な確認をする。

 

 

 

「………ベル君の味方なのは、間違いないのかい?」

 

「俺はベルのお兄さんだぞ?それ以上でも以下でもない」

 

嘘はない………それだけで、ヘスティアは納得することにした。

 

 

 

 

「それでは、帰るとしようか。みなも待っている…。…今後の勝利を願って私からお茶でも淹れさせてくれ」

 

 

ミアハが微笑んで提案すると3人は頷き、話し合いを深める為“青の薬舗”へ向かった。

 

 




ハチマンが台無しにしたのは主にリリの勇気とヘスティアがリリを助けようとした決意ですね
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