時は既に夜へと移り変わっていた。
雲間から覗かせる夕闇はそれまで茜色に染まっていたものを黒色へと塗り替えていた。
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少女、メア=レタルアは町にへと繰り出していた。
特に考えなどは持っていない。無意識の内である。
そこには夜の闇とはつゆ知らずの世界が広がっていた。
木造、レンガ、いろいろある建築物から漏れ出した光が物を問わず照らしていた。
食卓を囲む家庭、または、一日の疲れを消し飛ばそうと騒ぎ立てている冒険者憩いの場等......
人々の幸福が形となったのか...ともいう光が飛び交っていたのがその世界であった。
しかし、彼女はそんな光を生み出そうとするような心持ちではなかった。
どの人物も笑顔でいるのか、と言わんばかりのその世界で一人、陰った表情で下を向き、行き交う人々を避けながら、ただ歩いていた。
いうなれば、光が照らし切っていれてない部分。
ネズミやムカデがちょうどいいと利用するであろう家具の隙間にできた通路。それが今の彼女の状態であった。
「あの状態では残念だが......」
下を向きながらただ歩くだけのメアの頭にはある言葉がよぎっていた......
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メア=レタルアは優れたる能力を持っていた。
特にその剣技は天賦の才といって差し支えないであろう技術を持っていたのだ。
静寂を崩すことなく俊敏に、そして正確に放たれる剣技には、その道を行く者であれば誰もが畏敬の念を抱くほどであった。
それでありながら彼女が剣を握ったのは”ユグイル学院 冒険者養成学科”に入学後、若干16歳の時である。
冒険者を目指し入学した彼女は僅かな数カ月で残りの学院生活が空になるような剣技を身に着けたのだった。
しかし、そんな彼女にはあってはならない欠陥が存在した。
敵を斬ることが出来ないのだ。
発覚したのは入学してから初の実戦訓練。
敵は動きもしないスライム一匹、実際に魔物を殺すという感覚を覚えさせるための訓練だ。
その日も彼女はいつもと変わらない鮮やかな剣技でスライムを斬りつけた。
しかし、その瞬間鮮やかな赤血がスライムの傷口から噴き出したのを見たメアは一瞬の硬直の後に気絶してしまったのだ。
ただ、ここまでは誰もがメア自身もこの事態を重くは見ていなかった。
最初のこの訓練で気絶してしまうのは特別珍しいことではなかったからである。
いつかは慣れる。そう誰もが、メア自身もそう思っていた。
だが、事態が好転することはなかった。
同じような実際の魔物と相対する度、彼女の欠陥はみるみる悪化していったのだ。
剣は空振り、次の訓練では走ってる最中に急に立ち止まり、更に次の訓練ではもはやその場から動けなくなるほどの醜態を晒すようになり果てたのだった。
そこに追い打ちをかけるように、その状況を見ていた同じ学科の生徒たちは彼女を下に見るようになっていった。
元々そこまで人付き合いの良くなかったことも拍車をかけ、次第に「才能泥棒」や「お姫サマ」と陰で罵られるようになり、幸いにも陰湿なイジメはなかったものの完全孤立した状態となってしまったのである。
そんな中、学院生活を続けていたある日、メアは担任の教師に呼び出された。
彼女はその時、最悪の未来を予感していた。そして、そこで告げられたことはその予感を不幸にも的中させてしまったのである。
次の試験に合格出来なければ、学部を転属となる。
メアは絶望への片道切符を手渡されたのであった。