自分が寝心地の悪いものの上で寝ていると自覚したメアは咄嗟に目を見開いた。
その目には茜色の空は映っておらず、また、無慈悲な肌寒さも感じ取れていなかった。
代わりに確認できたのは、私を見て暇を潰してと言わんばかりのシミのようなものが不規則に並ぶ茶塗りの天井。
そして、寝心地の悪いものの正体も目で見ていなくともすぐに分かった。硬い地面でも石畳でもなく、融通の利かないカチカチのベッドである。
メアは自分の置かれた状況に確信を持ち、さっきまで気絶していたとは思えないほど速く慣れた挙動挙動で起き上がり周りを見渡す。
右には閉まりきった木枠の窓。視線を前に向けると普通の学校と比べて明らかに数の多いであろう病床。そのまま更に首を40度位左に傾けると多くの薬品が詰まった戸棚を確認することが出来た。
ここは学院内の医務室だ。メアの確信は見事に的中した。
というのも、彼女自身実戦訓練で気絶したり、精神が不安定になった時はここに運ばれたりすることが珍しくなかったからである。
「八ッ!私はあの後どうなって......」
状況確認をし終えたメアは思わず、自分に何が起こったのかを思い出した。
スライム相手に戦いを挑み、そして一つの声により無残に散ってしまったあの状況である。
メアは迷子に気づいた子供の如くその場で辺りを見渡した。しかし、いくら部屋を確認しても誰もいなかった。
それを頭の中で理解したメアは、慌ただしい様子で病床から飛び起き、廊下へと続くドアに向かって走りだした。
彼女は早く結果を知りたかったのだ。
結果は彼女自身も薄々感づいていた。が、それだけではダメだった。
彼女の脳裏にすっかり焼き付いてしまったそれは、実際に問いたださなければ剥がせない。
もはやその一心のみでドアノブに手を伸ばそうとすると、突然、扉が向こうから開いていった。
「......起きていたのか。もう、平気なのか?」
扉の向こうから現れた人物が、メアに向かって大層驚いた声で言い放つ。
目で見なくともその声の持ち主が誰であるかは彼女にとっては明確であった。
先の試験を徹頭徹尾見届けていた教師である。
「先生______試験は......結果は......」
メアは今にも泣き崩れそうな表情を見せつけながら、震えた声で言った。
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メアは光の世界に来たことに後悔していた。
光に集まる虫の如く寄ってみたのはいいものの、そこでいい結果など何も得られなかったからだ。
町の光が自身の記憶を晒しているのかとでも言わんばかりに嫌な記憶は再生され続け、何より彼女にとって嫌だったのは飲んだくれの冒険者のものであると思われる笑い声である。
外からでも聞こえるその声が彼女にとって、自分自身をあざ笑う声と錯覚してしまっていたのだ。
「どうしてこんなところきちゃったんだろ......」
泣きそうな声を上げた彼女の顔はそれに比例せんとばかりにいまにも崩れそうであった。
早くここから抜け出したい。その一心でメアはその顔を誰にも見られないよう上げつつ駆け出す。
すると走ってすぐ、右に人一人が入れそうな建物の隙間を発見した。
一刻も早く!!。
とその意志のみで中に踏み込み、半分位の距離まで来たその時であった。
「そこの純白髪のお嬢さん」
メアの左隣、不敵な若い男の声が聞こえた。
彼女は思わず立ち止まり、声のする方角をサッと振り向くも、木製と思しき枠組みで囲ってある何らか入り口らしきのものが不自然とそこにあるのみであった。
その後周囲を見渡すも人影など微塵も見当たらなく、困惑は深まるのみであったが、まるでその考えを見透かしたかのように再びあの声が聞こえてきた。
「この中です。そこの入り口のなかですよーー」