仲良しグループの志月達は今度取り壊される校舎に忍び込む。


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この作品は学校の文化祭でボツになった脚本を小説に書き直したものです。
作品をこのサイトに投稿することは許可されています。



かたん。

夏も終わりが近い日の放課後の教室、志月達は冷房の効いた教室に残りいつもの様に仲の良いグループで会話していた。

すると突然椿がおもむろに話し始める。

「ねえ、今度取り壊される校舎の噂、知ってる?」

有名な話だ、と秋吉は当たり前そうに

「知ってる、屋上から飛び降りた幽霊がいるとか昔火事で焼け死んだ子が入ってきた奴を道連れにするとかだろ?」

答えると、1番怖がりの千代花が青ざめた。小学生向けの怖い話でも叫び声を上げる千代花だが怖い話が大好きな椿とは何故か仲がいい。

「ひょっとして…行ってみたい、とか言わないよね?」

椿はニヤッと笑い、肯定を返す。

「面白そうじゃん、どうせ取り壊されるんだし今の内に行ってみようぜ」

お調子者な関人が軽そうに答える。

志月は不安そうに

「大丈夫かな…入っちゃダメって言われてるじゃん」

しかし目は楽しそうに笑っていた。なんだかんだ気になっているのだ。

賛成者の方が多いこの状況に椿は悪そうな笑みを浮かべ、小さな声で4人に返す。

「だからーこっそり忍び込むの!」

 

夜、といっても夏がまだ終わりきってない今日。まだ少し明るめの校舎に5人は集まって居た。

「侵入成功!」

椿が声を潜めながらも楽しそうに笑う。

「本当に入っちゃった…」

そう呟く千代花もなんだかんだ楽しそうに見えた。

「記念の写真も撮ったし、あの噂確かめて見ようぜ」

もう飽きたのか関人は校舎内を歩き出し始めていた。

「写真、先生にバレないと良いけど」

秋吉が呆れた様に呟く。

志月は苦笑しながらも関人達の後を着いて行った。

静まり返った廊下で千代花が震え声で叫ぶ

「やっぱり何かやばくない?おかしいよ!」

そうなのだ。明らかに異常な事が起こっている。

「さっきから人の気配はするし、それどころか人の話し声まで聞こえる!絶対不味いって!」

人一倍怖がりの千代花はもうすぐで泣きそうだ。

「そうか?案外面白くね?」

関人はそんなの関係無さそうに答える。だが…

「あんたかっこつけてるとこ悪いけど足震えてるのばれてるからね」

椿が白々しいとばかりに突っ込んだ。

バレていたと焦った関人は逆ギレしだす。

「うるせぇな!明らかにおかしいだろこんなの!…来なけりゃ良かったわ……」

しかし明らかにもう遅い。

1階に戻ろうと思ったが出口が開かないなんてホラーの定石だ。途中で別の出口がある筈と千代花が言い出したのでそちらに向かっている。

関人が椿と言い合いを始めだした。

秋吉が1人でぽつりと呟いた。

「確かにそうだね…幽霊って本当に居るんだ」

 

一通り言い合いをした後、椿と関人はもう開き直ったのかいっその事学校の探索をし始めた。

「やっぱり最初は王道のトイレの花子さんだよね!じゃ、千代花と関人見てきてよ。私達は他の見てくるから!」

なんでもない事のように椿が言い出す。

「…俺男子だから入れねぇんだけど」

関人は半目になりながらぼやいた。「良いの良いの!どうせ取り壊されるんだし!」

確かにそうだがそういう問題では無い。

 男子2人の心の声が一致した。

 

千代花が3番目のトイレをノックする。

女は度胸だ、と意を決して言う。「は、花子さーん… 」

つい、声が震えた。

「やっぱ居ないんじゃね?ただの噂、」

飽きたのか関人が壁に寄りかかり言いかけた。

その時

 

「はーぁい」

 

 可愛い女の子の声がトイレに響く。

 

かたん

 

軽い物が落ちた音がした。

 

「やっぱりただの噂だったのかな?」

ほっと胸を撫で下ろし、外で待っている志月の下へ1人向かった。

 

 「あれ、関人は?」

志月がそう言い出す。

「誰?それ」

そんな人知らない、と千代花が首を傾げる。

「え、一緒に入ってったじゃん」

志月が焦った様に返した

千代花「え、私1人で入ってったけど?ていうか男の人の名前でしょ、関人って。なんで男子が女子トイレに入るのよ」

変な志月、と笑う。冗談にしては面白くない。

「…そうだったかも?いやでも絶対居たよ!私覚えてるよ!」

混乱しながらも志月が反論する。

何か、何かおかしい。朧気に残る記憶を元に主張した。

「またまたー!私を怖がらせようとしたんでしょ!引っかからないからね!」

ケラケラと笑いながら千代花はそう返し、奥から向かって来た椿達と合流した。

 何か忘れている、そう思いながらも志月は3人の会話に入った。

 

暗く、おどろおどろしい声で女は言った。

 

「見つからない…見つからないの…私の…目玉。」

「…その日からここには赤いワンピースの女性がさ迷う様になった……」

「きゃー!!もうやめてってば!怒るからね!?」

椿の怪談に驚いた千代花が叫び声を上げる。その様子を見て椿は機嫌よく笑った。

「あはは…!だって千代花の反応面白いんだもん、志月と秋吉全然ビビってくんないからつまんないし」

「そんな事ないよ、結構驚いてる」

秋吉がそう返した。

「絶対そんな事ないでしょ」

千代花が口を尖らせて文句を言った。椿もそれに同調する。

「私はこんな場所で平然と怖い話してる椿が怖いけどね…」

志月は乾いた声で笑った。

「それより私疲れちゃった…どっかで休まない…?」

千代花は今までの疲れを全て吐き出す様に深く息を吐いた。

「あ、彼処の空き教室は?」

秋吉が示した空き教室に千代花が目を輝かせる。

「早く!早く行こ!」

さっきの疲れなんて無かったかのように千代花は教室に向かって走り出した。

本当に幽霊が苦手だったんだな…。

空き教室で一息着く。

他の3人もそれなりに疲れは溜まって居たようで和やかな雰囲気だった。

「あっ、見て!凄い空綺麗!」

椿が窓のカーテンを開き、はしゃぎ出す。

「わぁほんとだ!写真撮ろっと…」

志月がカメラを起動する。

「あ、新館の方めっちゃ綺麗!志月撮ったら後で送って!」

椿があっちあっちと指さす方を苦笑しながら撮る。

 

カシャッ

 

「あれ?何か今写った」

「え、何々?」

椿が志月のスマホを覗き込む。

そこには人か、それより少し小さい位の何かが新館の窓から落下している写真が写っている。

「え、何だろこれ。…もしかして…人?」

椿が青ざめる。怖々と窓から覗き込む。

「あれ…?でも何も下に落ちてないよ?」

「もしかして…幽霊?」

「まさか、誰かが何か落としたんだよ。下に人が居たなら拾い終わった後なんじゃない?」

秋吉が冷静に返す。

「そうだよね…」

少し落ち着いたのか椿がほっと息を吐き出す。気分を切り替えるかのように椿が千代花に話かけた。

「あー!びっくりした!ねぇ、千代、か…」

 

かたん

 

また、何かが落ちた音が鳴る。

 

「……………」

まるで一時停止を押されたかのように椿が言いかけた言葉を切る。ぼんやりと虚空を見るかの様に停止した椿は、数秒も立たずに先程のテンションで志月に話しかけた。

「何だったんだのかなーさっきのあれ。志月も驚いたよね!」

「う、うん…」

「秋吉もさっきのにはびっくりしたでしょ!」

「確かに最初はびっくりしたかな」

 何かおかしい。まるで何事も無かったかのように話を続ける2人が異質に見えた。

「ねぇ…1人、足りなく無い?」

志月が怖々と2人に聞く。

「何言ってんの、私と志月と秋吉。全員居るよ?」

椿が不思議そうに答える。

嘘の様には見えない、秋吉も同じ様に答えた。

「…そっか」

そう志月が返した。

 

ここの廊下は日中でも大分暗い。それに怪異が加わるのだから流石に椿もふざけれなかったようだ。

「今なんか動かなかった!?」

椿が引きつったような声で聞いてくる。

「気のせい…とは言いきれないね」

秋吉が苦笑した。

秋吉は現実主義だが流石にここまで見るともう何も言えないらしい。

「何か色々と起こりすぎて何が何だか…」

志月は驚き過ぎてもう疲れている。

「だよね…あれ?なんかあそこの教室だけ明るくない?」

椿がまた何か発見したらしい。

「だね、他は電気着いてないのに…」

志月が不思議そうに言った。

「え、めっちゃ気になる!行ってみよ!」

 さっきの疲れなんて無かったかのように椿は走り出した。

 

3人で教室に入る。

明るかった原因はプロジェクターが着いていたからのようだ。

「…プロジェクター?あれ、何か映し出してる…」

そう言った途端、椿がヒッと小さく叫んだ。

 

プロジェクターには3人の背中側が映っていたのだから

「何だ…これ」

秋吉は唖然としている

「後ろ…、後ろに…」

志月がカタカタと震えながら振り返った。

 

何も居ない。教室の奥は暗い闇で覆われていた。

 

 かたん

 

 また、そんな音が響いた。

 

いつの間にかプロジェクターも消えた様で、教室は静まり返っていた。

「何だったんだ…あれ。どうやったんだろう」

秋吉が呟く。

「だよね、なんだったんだろう。ねぇ、つば…あれ、誰に話しかけようとしたんだっけ…」

「どうしたんだ?志月。そろそろ行こう」

志月と秋吉は教室を出た。

 

廊下に出ると窓の外は更に暗くなって居る。

志月は慌ててスマホを取り出した。

「そろそろ親が怒り出しそう…あれ、圏外になってる…」

これでは連絡も出来ない。

秋吉もスマホを取り出し確認する。どうやら其方も圏外になっているらしい。

「どうしよっか…ねぇ、秋よ、し…」

視線を感じ、振り返ると

後ろの方には無数の生徒が下を向き、無言で並んでいた。

全員生気はなく、黒い靄が体にまとわりついている。

ジャージ、正装、普段の服でも夏服や冬服とバラバラで明らかに今の時代ではないという格好の者も居た。

それが更に彼らはこの世の者では無いと主張していた。

 

「ひっ、なっ何、何なの…」

志月は後ずさる。

その時

 

ピロン

 

スマホからLINEが届いた音が鳴る。

先程圏外だったのに、と震えながらLINEを開いた 

 

「…え?」

 

名前が文字化けした無数の相手から

 

 

『生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ生キテ』

 

 

 

『逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ逃ゲテ』

 

 一度に色んな相手から送られてくる。震える手を抑えながら画面を上にスクロールする。

名前が読めない者の中で、1人だけハッキリと読める者がいた。

 

椿『早ク』

 

 

「何、何、何なのっ何なのコレ…!」

声が震え、脂汗が落ち冷や汗が垂れる。空気がザワつく。まるで巨大な喧騒が自分の周りを包み込んでいるかの様だ。

「嫌だ…嫌だ…!」

ゆっくりと幽霊達が志月の周りを取り囲むかのように音も無く動き出す。

足が縺れるのも構わずどこともなく志月は走り出した。

上に。上に。

屋上扉前まで来てようやく気配が緩んだ。酸欠でくらくらする頭を抑えながら壁に寄りかかり息を整える。

ヒューヒューなる喉が五月蝿い。

 

かたん

 

 また、音が響いた

 

我に返るように、志月は呟く。

「…1人で何してたんだっけ?」

ぼんやりとした意識の中でそう呟く。まるで貧血の時のように世界が揺らいだ。

 くらりと体が床に倒れ込む。だんだん目の前がぼやけていく。

目の前に誰か立っている。そう気づいたが何も言えないまま意識が途切れた。

 

かたん

 

 誰も居ない廊下でそんな音が響いた

 

 

鈍い痛みで目が覚める。

ここは…教室?

「あ、起きた」

目の前で親友の紬が奥に居た同じく親友の雅に声を掛けている。

雅は此方にやって来るとニヤッと笑った。

「志月なかなか度胸あるよね、あの怖いと有名の数学の先生の授業で寝るなんて」

「夢…?私寝ちゃってたのか。」

まだ覚醒仕切ってない頭で考える。

あれが夢などとは思えない、だが夢だと思うとほっとした。

「そうだよ、ぼんやりしてたと思ったら寝ちゃったんだもん。いくら机叩いても起きないから先生も諦めちゃった」

紬が苦笑しながら志月の寝癖を軽く撫でて直す。志月は感謝を伝えながらも苦笑した。あの先生の説教は怖い上に長いと有名だ。

「まじで?え、ヤバいな…明日怒られるかも」

「あはは、覚悟しといた方が良いよー」

しょっちゅう叱られて慣れっ子な雅はケラケラと笑う。

紬はそんな2人を楽しそうに見ながらも急かし始める。

「ふふっ、ほら休み時間終わっちゃうよ、次移動教室だから皆移動しちゃってるし」

「え、ほんと?ごめん待たせちゃって…」

慌てて志月は荷物を纏め始めた。

「いーよ、いーよ。ほら早く行こ!」

志月が荷物纏め終わるとチャイムがなり始める。慌てて3人は教室を出た。

 

ぼんやりと教室の奥でその様子を見ていたモノが居た。

真っ黒の靄に包まれた其れは4人の人間とも見える。

志月達が見えなくなるとどんどん其れは薄れていく。

 

かたん

 

そんな音が鳴った。

 

 

END

 

 

 



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