脳に焼き付ける行為は大抵禄なものじゃない
一応、注意
異様に静かで、おどろおどろしい殺気が満ち溢れた空間。
その空間には、ダンゾウと数名の対魔忍が存在していた。ホムラは、冷や汗をたらしながらダンゾウを見つめている。長年の付き合いである彼は、ダンゾウの感情を読み取っていた…恐ろしいと思わせるほど、静かな怒りを湧き上がらせている。
「また、…正面突破か」
ポツリ、と静かな言葉を紡ぐダンゾウ。
ダンゾウの視線の先には、スリーマンセルで組んでいた女性対魔忍たち。彼女たちは、目の前のダンゾウに恐怖を抱いていた。
「……ダンゾウ」
「作戦は確か、殲滅じゃなくて諜報活動だった。しかも、案の定返り討ちで捕縛される始末」
情けない、と呆れる訳でもなく怒りでもない…ただ、無機質な冷たさがあった。
「しかし、ダンゾウさ」
一人の対魔忍が異を上げようとするが、直ぐ口ごもった。
ダンゾウが対魔忍たちに見せる視線は鋭く、射殺すようなモノであった為、彼女は戦場さながらに慄く。彼女たちが仕出かした経緯について話すのであれば、元は彼女たちが与えられた任務は、諜報活動であった。…それが彼女たちの独断で、殲滅作戦となってしまったためである。
現場、戦場で任務内容を変える事は稀ではない。
ただ、素直に諜報活動をすれば間違いなく成功する任務であった。それが、彼女たちは感情を先行したため、殲滅作戦へと移り変わり見合う実力もない中、返り討ちは当たり前であったのだ。
ダンゾウは、かねてから慢心を起こすなと教え子である対魔忍たちに口酸っぱく言っていた。この場に居るホムラも、そういう風に教えている…死と隣り合わせである以上、慢心は自身の危機を晒すものだと、師である扉間から突き付けられていた。
だが、それでも…人は完全ではないのだ。
「…矯正、が必要だな」
「そんな!ダンゾウ様、考え直し」
「下がれ」
有無を言わず、三人の対魔忍は恐怖に塗りたくられた顔でダンゾウたちに背を向けた。
残されたダンゾウとホムラ、二人だけと成った空間は今もなお静けさで満ちている。
「ホムラ、俺はどうも教師には向かんようだ」
「…ダンゾウ、…白髪増えてるぞ」
「やめろぉ!!気にしないように、気にしないようにしていたのにぃいい!んぎぃいいい!!」
「ほら、医務室行こう。な?」
「…今日で何人目だろうね、ヒカク様」
「考えても無駄ですよ、カガミ。…今回は、とんでもない内容ですねぇ…志村くんは大丈夫だろうか」
「今回は、ダンゾウですか…この前はコハルだったな」
そこから黙々と機材がビッシリと圧迫する部屋で、うちはヒカクとうちはカガミは作業もとい、運転準備に取り掛かっていた。
この部屋は、通称矯正部屋と呼ばれる精密機械の設置された部屋である。
元は、機械で人工的に忍法、忍術の幻術を使い任務や治療と手術のシミュレーションを行う部屋でもある。が、ここ最近の対魔忍の脳筋化がばく進していく中、次第にこの部屋はシミュレーション以外の矯正、正しく学び直すために使用する事が多くなった。
この施設の担当者であるヒカクは、カガミを引っ張りこみ手伝わしていた。
余談であるが、頻繁に利用している主な使用者は千住扉間と志村ダンゾウである。
どちらも、まるで死んだ魚の目のような目と、この世の終わりとド級の面倒くささを同時に受けたような仏頂面で使用許可書と矯正内容の要望書を書き上げるのであった。
「俺、この機械にはお世話になった事ないですけど…そんなにひどいんですか?」
「性能は、良い方です。ただ、内容は幻術として現れますからね…精神と身体にもフィードバック、還ってくる仕様だからそう言われるんでしょう」
運転準備が終わり、何時でも運転できる状態となるとドナドナと言う音ともに先程の三人の対魔忍が連れ込まれた。
三人とも、恐怖に塗られ涙と鼻水をたらしながら、機械の装着を拒否し続ける。
が、ヒカクは無慈悲とばかりに三人にテキパキと機械を取り付けていく。ヒカクも対魔忍である為か、教え子にはホトホト手を焼かされている様子だからこそ、扉間とダンゾウの思いは痛いほど理解していたのだった。
「…今回の設定って、どんなのです?」
「第一段階は書類責め、第二段階は高難易度任務…失敗すれば相応の体験が待っている仕様ですよ。これらは別に、頭をフル回転させれば行けるものですが…志村くんの希望で、少し過激に設定しようかと」
そんなヒカクの言葉に、カガミは薄らぼんやりとこう思った。
ダンゾウ、ストレスで急死そう…と。もう少し労わらなきゃいけない、という気持ちが強まったのだった。
「いやぁああああ!終わらない、どうして…ああぁぁぁああっ!!!」
「もういや、許してっ!赦してよぉおお!!」
「腕、腕がぁああ!壊れる、ひぃい!もう…駄目なのぉおおおお!!!」
延々と自身のデスクへと送られる、自身の仕出かしたことへの始末書。
書いても、書いても送られ続け送りつけられた始末書たちは高々と塔を築き上げていく。ぶちり、ぶちりと腕の神経と筋肉が悲鳴を上げても終わりは見えていない。腕から吹き出す血で、書類は真っ赤に染まる。
腕は傷付いても、直ぐさま筆を進められるように回復する。
それは、精神を壊す所業である。
彼女たちは、諜報任務および潜入任務へと着いていた。
とある人魔協同の組織、その組織は裏社会でも指折りとも言えるほど強大なもの。彼女たちは前回、と言っても先ほど失敗した任務の反省を生かし正面突破ではない方法、変装と偽装で潜入する事にした。順風に行ったものの、僅かな油断と慢心が彼女たちに牙を向けた。
捕まった彼女たち、抵抗と脱出を目論見るが…それでも歯が立たなかった。
このあとの事は言うまでもない、女の身であるなら理解できようモノ。
真白の百合の花束は、汚泥へと踏みつけられた…それだけだ。
まともな対魔忍だっているから安心してほしい
死亡率高いのは気にしてはいけない…なんで慢心するんだ?
なんで、そんな自信たっぷりなんや