居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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オリジナル初投稿です。
半年くらい前から温めていたネタがあります。

「何してるのよ」
「ダンス」
「ダンス?それが?」
「ソーシャルディスダンス」
「はい?」
SOCIALDISDANCE(社会をディスる踊り)

最近似たようなフレーズを公式に使った企業CMを見たので供養しておきます。



就職活動

 とある街の一角の人気のないところで、なにやらこそこそとしている二つの影があった。

 

「準備はいいわね?」

「うむ」

「よし!」

 

 八百万の神と言われるほど多くの神が存在しているこの国ではあるが、新しいモノが増え続ける現代、その新しいモノの宿り手が不足していた。古来から力を持つ神々による議論の末、新しく誕生したモノに宿る新しい神を募ることになった。当然、そんじょそこらに何も担当していない神がいるわけではない。神もそれなりに忙しいのだ。そこで一般から広く集められた者を神見習いとして各地を巡らせ、その者が神たるにふさわしいかを試す。厳正なる審査の結果、めでたく合格した神見習いが新しい神としての役を与えられる。また神にはそれに仕える巫女が必要となる。巫女となる者も巫女見習いとして神見習いとともに各地を巡る。今日はその試練が始まる日である。

 

「しっかし全国一周旅行をするだけで神様になれるなんてねえ」

「気楽だな」

「そりゃそうでしょ。おいしいものを食べて、温泉に浸かって、きれいな景色を見て…帰ってきたら私はもう神様なのよ?そしてトヒは私に仕える巫女になるの」

「ミワ、お前試練の意味わかってるのか?」

「まあなんとかなるんじゃない?」

「こいつは……」

 

 緊張感のないミワと深いため息をつくトヒ。今回の試練に参加する二人である。そもそもミワは同年代の者が働き出すようになっても働き口を探すわけでもなく、家で一日中ゴロゴロしているようなやつなのである。俗に言うニートであった。そんなミワも遂に家を追い出されてしまい、今は幼馴染みのトヒのところに厄介になっている。勿論そこで反省して働くわけがなく、ゴロゴロする場所がただ替わっただけのことである。ミワは地元では有名な家の出なのである。伝手をあたればそれなりにいい働き口はごまんとあったハズなのだが、それら全てを蹴って今に至る。トヒは既に定職に就いて一人暮らしをしているのだが、いつまでもミワの相手をしてやるわけにもいかないので、休みの日には毎回ミワを引っ張り出して職探しをしていた。当の本人にやる気がないので半ば諦めているのだが。

 そんなある日、トヒが仕事から帰ってくると玄関で待ち伏せていたミワが嬉々として一枚の紙を見せつけてきた。

 

 

「私、働くわ!」

「おう頑張って自分の食費くらいはせめて自分で稼いでくれ」

「ちょっ…真面目に言ってるのよ!」

「こっちも大真面目だ」

「いいからコレ見なさい!」

「なんだよ……」

 

『神、募集』

 

「お前大丈夫か?」

「ちゃんと読みなさいよ!」

「詐欺だよ。お前騙されてるよ」

「この国でこんな馬鹿げた詐欺をする馬鹿も引っかかる馬鹿もいないでしょ」

「馬鹿ねえ」

「こっち見んな!」

「お前が見ろと言ったんだろう。そこから視線かえてないぞ」

「そもそもバレたら一発アウトなことをこんな堂々とするわけないじゃない。神を冒涜したとして天罰ものよ」

「わかったよ。わかったから大きく3歩離れろ」

「(むふー!!)」

 

 興奮した猫みたいなミワを横目に、手洗いうがい着替えを済まして明日の用意をする。普段は寝る前に次の日の用意をするようなことはしないのだが、明日の朝は余裕がない気がする。長い付き合いなのだ。

 

「取り敢えず明日でもいいか?今日は何故かすごく疲れた気がするんだ」

「ダメよ。締め切り今日の23時59分までだもん」

「…今何時だと?」

「ええっと…23時回ったところね」

「お前…巫山戯てるのか?」

「巫山戯てないわよ。トヒが帰ってくるのが遅いんじゃない」

「やかまっしゃい!この後に及んで人の所為にするのか?悪いのはこの口か!」

「やめて!私のぷにぷになほっぺを引っ張らないで!」

「ぷにぷになほっぺやぽよぽよな腹を育てている覚えはない!」

「誰の腹がぽよぽよか!」

「お前が来てから食費が3倍になってこっちも生活がギリギリなんだぞ!帰りが遅いのも無理言って夜の仕事もさせてもらってるからだ!」

「夜の仕事ってアンタ…」

「……違うからな?お前分かって言ってるな?」

「ゴメンナサイワカッテイッテマシタ」

 

 怒りのオーラに気付いたミワ。即座に発言を撤回する。ヤバそうなのがなんとなく伝わったのだろう。こちらが長い付き合いならあちらもまた長い付き合いなのだ。

 

「はあ…取り敢えず見せてみな」

「ほい」

「神、募集。この度新たに神になる方を募集致します。ピンときたら以下のサイトにご訪問下さい。詳細はそちらに記載しております」

「そのサイトがこちら」

「参加費無料の説明会は随時開催中。詳細は説明会に申し込まれた方にのみお伝えしております」

「自動返信されたメールがこちら」

「お申し込みを受け付けました。詳細は説明会にてご説明させて頂きます。昼食は食べないでお越し下さい。こちらは自動返信となっておりますので、こちらに返信されてもお答えできません」

「というわけなんだけど」

「つまり何も分からないじゃないか」

「逆に信憑性ない?」

「ねえよ。どこでこんなの拾ってきたんだ」

「郵便受けに入ってた」

 

 立ち上がり布団に潜り込む。付き合ってられない。出所がわからないようなものにホイホイと個人情報を流すようなことをして。それこそ詐欺に利用されるだけだ。ミワがそこまで馬鹿だとは思わなかったが自業自得というものだ。明日も早いし早く寝よう。

 

「勿論、ミワの分も申し込みしておいたわよ。出発は明日の朝ね」

「てめえ何てことを!」

 

 布団から飛び出しミワの肩を前後に思いっきり揺さぶる。こいつ自分だけでなく他人も道連れにしやがった。明日も仕事があるってのに。個人情報保護の観点から見ても許されざる行為だ。

 

「あ゛ー脳がー脳みそがー」

「お前ってやつは…お前ってやつは!」

「あ、待って、やばい。何か出る!やめて!それ以上やるとホントに何か出ちゃいけないものが出ちゃう!」

 

 放してやるとしばらく目を回していた。少しやり過ぎたような気もするがこいつが悪い。

 

「説明してもらおうか」

「説明も何も…ただ私と一緒に説明会に行くだけよ。お昼も出るし交通費も出るんだから、増えるものはあっても減るものはないじゃない?」

「そこだよ。なんで一緒に行かなきゃならん」

「なんでって…説明会の参加は二人以上って書いてあったんだもん」

「だもんじゃない。それで勝手に他人の名前使ったってのか」

「心配ないわ。万事OKよ」

「万事休すだよ」

 

 何もかもが滅茶苦茶である。

 

「こっちは明日も仕事あるんだぞ」

「安心しなさい。手は打ってあるわ」

「手は打った…?」

「私にかかればミワのシフト調整くらいなんてことないのよ」

「あー…つまりアレだ。明日は行くしかないんだな」

「理解が早くて助かるわ」

「理解したんじゃない。諦めたんだ」

「じゃあ問題ないわね!明日は早いわ。もう寝ましょう」

 

 そう言い残してさっさと布団に潜り込んでしまったミワ。一日中ゴロゴロしているとはいえ生活リズムはしっかりと守っているので、結構健康的な時間サイクルで生きているらしい。そのままスウスウ寝息を立て始めた。

 

「人の気も知らないで…相変わらず寝付きはいいな」

 

 一人残されたのでミワが残したものからあれこれ探ってみたものの何の成果も得られない。日付も変わったのでミワの隣に潜り込む…そういえば締切が迫ってるからと言っていたくせに既に申し込み済みじゃないか。寝ているミワの鼻を軽くはじくと電気を消して眠りに就いた。

 

 翌朝、目を覚ますと珍しくミワが先に起きていた。いつもなら朝ご飯の直前まで布団の中でウダウダしているのに。

 

「おはよう、ミワ。早いな」

「あら、おはよう。今日はお寝坊さんね?」

「いつも通りだと思うが…ミワは随分と早いんだな」

「そりゃあ、今日は久しぶりのお出かけだからね」

「お出かけ?」

「昨日言ったじゃない。説明会に行くのよ」

「あー……」

 

 寝ている間に頭の奥深くにしまい込んだはずの記憶が蘇ってきた。昨晩の問答が再び脳を駆け巡る。

 

「最悪の目覚めだ…」

「何よ…せっかく朝ご飯作ったげてるのに」

「そういえば焦げ臭いな」

「えっ!嘘!ピザから火が出てる!」

「すまんが炭を食べる趣味はないんだ。遠慮しておくよ」

「”すみ”だけに?」

「何もかかってないぞ。火事になる前に早よ片せ」

「あ゛っつい!!」

 

 年頃の女の子とは思えないような声を上げながらかつてピザだったそれと格闘するミワを放っておいて、昨日買っておいた菓子パンを頬張る。生きて腸まで届きそうな乳飲料で流し込むといつも通りの出かける支度をする。

 

「あっトヒ!まさか仕事に行こうとなんてしてないわよね?」

「してないさ。お堅い服はこれしかないんだ」

「ふーん…まあ、いいんじゃない」

「ミワは何着てくんだ?」

「こんなこともあろうかと用意しておいた勝負服よ!」

「ああ、結局一度も着ることの無かったやつか。持ってきてたんだな」

「別に太ったわけじゃないし…まだ着れるし…ってそんなことはいいのよ!昨日こっそり実家に戻って取ってきたの」

「自分家なんだから堂々と入りゃいいのに」

「そうは問屋が卸さないのよ」

「まあそんなもんなくなってたらすぐにわかるだろうし、運んでるときも人目につくこと間違いなしだけどな」

「もしかして:バレてる」

「田舎の有名人は辛いな」

「あちゃー」

 

 あちゃーと言いながらもさして気にしていない様子のミワの着替えを手伝いつつ自分の荷物もまとめていく。

 

「何か持ってくものないのか?」

「さあ」

「さあって…」

「何も書いてないんだしいいんじゃない?私もあんまり荷物大きくしたくないし」

「ええ…」

「これ着て歩くのどんだけ疲れると思ってるのよ。軽い登山よ」

「毎日着て歩いたら腹も少しはへっこむんじゃないか」

「かもしれないわね…」

「語るに落ちたな」

「なっ!太ってない!太ってないわよ!女の子なんだから体型くらい気にするわよ!」

「ついでに人として世間体も気にしてくれ」

「それは言わない約束でしょ!!」

 

 些か暴投気味の言葉のキャッチボールでウォーミングアップをしながら用意を進めていく。

 

「じゃあ行きましょうか」

「うむ」

「出発!!」

 

「到着!!」

 

 歩いて数分のところにある街の転移装置に到着した。この転移装置、一度使ったことがある筐体にならば瞬時に移動ができる優れものなのである。まあ、一度は実際に行かなければならないのが不便なところなのであるが。

 

「神都まで、二人、お願いね」

 

 転移装置の係員に告げるミワ。

 

「お?ミワじゃねえか。その服、昨日の噂は本当だったんだな」

 

 係員のおっちゃんが多少驚いたような顔でこちらを見る。そこまで大きくない街なのでだいたいは顔見知りなのである。特にミワに関しては実家の都合で方々に面が割れている。

 

「え?噂?」

「ほれ、地元の掲示板に目撃者多数だ」

「掲示板?えーと『さっきミワが一人で実家に帰ってた』『マジか』『ミワ、動きます[画像]』『金に困って遂に実家のもん売りに出す気だ』『あれで変装のつもりか』『変装がバレなかったら不法侵入でオワリだが』『トヒも可哀想だよな』『俺が養ってやる』『はい不敬』『通報した』……何よこれ?すごい言われようね」

「この辺り一帯の奴らの匿名掲示板だな。通称『ジモちゃんねる』だ」

「色々とスレスレな気がするわ…」

「やっぱりバレてたんだな」

「ん?トヒも居たのか。気付かんかった」

「最初から居たさ」

「いやあ、ミワのこんな姿なんて滅多に見れんからな!つい目を奪われちまった」

「幻覚じゃくて本物だぞ」

「二人して失礼ね…そろそろいいかしら?」

「おっと、わりぃ。今向こうの空きを確認するからよ、ちょっと待ってくれや」

 

 ここの係員の仕事は転移先の座標の設定である。もし適当に転移してしまうと、同じタイミングで転移してきた者と盛大にやらかしてしまうので結構大事な仕事である…給料も割といい、らしい。

 

「よし、15秒後だ。早く乗れ!」

「えらい急ね…行くわよ、トヒ!」

「はいはい」

「5秒前!4!3!」

「行ってきまーす!」

 

 神都は各機関の頭が連なっていて、いわゆるところ政治の中心である。また、各地からヒトやモノが集まる経済の中心でもある。地元の街は昔は結構栄えていたが、今はひっそりとしてかつての繁栄の影をところどころに残しつつも都会の喧噪とはかけ離れたところであった。

 

「久しぶりねぇ…」

「いつ来てもやかま…賑やかだなあ…酔いそう」

 

 神都に転移してきて最初に目にしたのは右に左に人々が行き交う姿だった。

 

「そういえばトヒ」

「ん?」

「どうして私の行動がみんなの噂になるのかしら?」

「どうしてって…そりゃまあ、ミワは街じゃ有名人だからな。噂くらいするだろ」

「そりゃちょっとは顔が売れてるかもしれないけど…父様や兄様もいるのだからそっちの噂すればいいのに」

「そこの娘が家追い出されて人ん家に居候してるんだ。噂にならないでどうする」

「うっ…」

「それにミワ、お前に自覚はないかもしれないがな、結構お前は人気がある」

「えっ…」

「顔もいい、スタイルもいい、人当たりもいい。ついでにそこまで高嶺の花感がない。かなりの優良物件だ」

「何か急に恥ずかしくなってきたわ…」

 

 適当に返したものの、本当はミワの将来をみんな気にしているのだ。今は居候の身に成り果ててはいるが、ミワの実家もいつまでもこのままでいいと思っているわけではないだろう…まあ、実際人気があるのは確かなのだが。

 

「じゃあ、取り敢えず観光しましょう!昨日ちょっと調べて行きたいところがあるのよ。説明会には昼までに行けば良さそうだし。それまでは都会を楽しむわよ!」

「田舎者って感じだ」

「五月蠅い!行くわよ!」

「はしゃぐとすぐ疲れるぞ」

 

 久しぶりの神都に最初からフルスロットルのミワ。が、それも束の間。ミワの体力が尽きた。

 

「もう無理…椅子…」

「言わんこっちゃない」

「仕方ないじゃない!この格好でこの人ごみなんだから」

「好きで着てきたんだろう」

「じゃあ何よ。パジャマ兼部屋着でも着てろって言うの?」

「別にいいが常に斜め後方3mをキープさせてもらうぞ」

「酷い!」

「にしても座るところが全くないな…」

 

 そう、都会には少し休憩と言って座れるようなところがない。どうしても座って一息つきたいというのであれば、喫茶店のようなところに入る必要がある。田舎とは勝手が違いすぎて田舎者にとっては生きるのが苦しくなってくる。

 

「ゆっくりしてる時間もないし、お昼前にお店に入るのもあれだし、もう会場に向かいましょうか…」

「そうだな」

「ああ…お家帰りたい…」

「はあ…」

 

 久しぶりに外に出たと思ったらこれである。引き籠もりにいきなり都会の喧噪は厳しかったようだ。

 神都の更にその中心部に一際目立つ場所がある。地図も見ずに適当に歩くミワの後を黙って着いていくと、まさにそこで足を止めた。

 

「着いたわ」

「ここって…おいまじか」

 

 入り口には大きな鳥居。そして神都のどこからでも見ることの出来る程の高さを誇る建物。この国の最高機関、高天原である。




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