居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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('ε' )く('ㅂ' )り('□' )ま('ε' )す('□' )が
('ロ' )こ('ロ' )と('ㅂ' )し('ロ' )も
('□' )やーっ('ㅂ' )て('ㅂ' )き('□' )たー



初回公演

 翌日。朝日が昇る前に目が覚めてしまった。なんと言っても寒過ぎる。焚き火の火を大きくして暖をとる。昨日の朝目が覚めたときは暖かい自宅の布団の上だったのに今日は冷たい知らない世界の丸太の上である。

 昨日は色々と金稼ぎの術を考えたのだが、ミワが暴走して大半がここでは実現出来なさそうなことばかりであった。形にはなったがショーの中身だけでなく他にも重要なとこがある。客引きだ。服装だけでも十分に目立つのだが、客引きはやはり声、耳に訴えかけるものである。そこで一応持ってきていた神楽笛を奏でより多くの人を集める。巫女になってからほぼ毎日、巫女長のもとで練習してきた。ここ二週間はご無沙汰だったがそう簡単に忘れるものではない。荷物から笛を取り出し軽く吹いてみる。静かな森の奥に笛の音色が吸い込まれていく。

 

「…あら?練習?」

「ああ。おはよう」

「おはよ〜お腹空いたわねぇ…」

 

 ミワも起きたので昨日の仕掛けを見に行く。一晩置いておいたのでそれなりに期待が出来るだろう。例のごとくバシャバシャと水面を叩いてから仕掛けを確認する。

 

「大漁だな」

「こんな仕掛けでよく採れるわよねえ」

「この川自体が結構ないいとこなんだろう。これだけあれば保存食も作れるな」

「おやつね!」

「非常食だ」

 

 血抜きや内臓の処理はその場でしておく。拠点に戻ると早速朝ごはんである。と言っても昨日と同じく丸焼きにするだけなのだが。

 

「魚ね」

「魚だからな」

「炭水化物が食べたい」

「今日の稼ぎ次第だ」

「甘いものが食べたい」

「それは当分お預けだな」

「養蜂の技術を身に付けておくべきだったわ」

「害虫駆除の方がいいんじゃないか」

 

 どちらにせよ防護服がなければ痛い目に合うのは間違いないが。朝ごはんも早々に済ませ、昼の本番へ向けて練習を始める。『十枚の窓(Windows 10)』で的を設置して『墾田永世私有砲』で撃ち抜いていく。やるのは基本それだけだが、色々なパフォーマンスを昨日考えたのだ。

 

「まずはシンプルに一枚から始めましょう」

 

 初めは一枚を破る。破った後の石が飛んでいってしまうと危ないので、強化ガラスとセットである。つまり二枚のガラスを使う。

 

「ばきゅん!」

「ヒット」

「次!二枚!」

 

 二枚の通常ガラスと一枚の強化ガラスの三枚を消費する。

 

「ばきゅん!」

「ヒット」

「次!三枚!」

 

 三枚の通常ガラスと一枚の強化ガラスの四枚を消費する。

 

「ばきゅん!」

「ヒット」

「次!強化ガラス四枚!」

 

 先程の強化ガラス三枚と残りの十枚目を使う。先程使った強化ガラスには撃った石がまだ埋まったままである。それを並べて少し強い火力で新たな石を撃つ。新たに撃たれた石が埋まっている石に当たるとその石はガラスを通り抜け次のガラスへ向かう。それを三度繰り返し最後は十枚目で受け止める。十枚目は他の三枚よりは強くしてあるので通り抜けることはないはずだ。

 

「ばきゅーん!」

「うん、成功だ」

「まあこんなものよ」

「よし、次だ」

 

 やってみてわかったが、このガラス、展開してからもそれなりに自由に動かせるらしい。大きいものはまだ未検証だが出来るならそれに越したことはない。色んなところで使えそうだ。

 一枚の通常ガラスと一枚の強化ガラスのセットを五つ用意し平面のように並べると、速射で五連続で撃ち抜いていく。

 

「ばきゅん!ばきゅん!ばきゅん!ばきゅん!ばきゅん!」

「オールヒット」

「上々ね!」

 

 次に四枚の通常ガラスと一枚の強化ガラスの二セットを二連射で。

 

「ばきゅん!ばきゅん!」

「よし」

「ラストよ!」

 

 最後は九枚の通常ガラスと一枚の強化ガラスを一直線に並べる。

 

「ばきゅん!」

「オールクリア」

「チョロいもんね」

 

 合計四十枚ものガラスを使ったショウであるがスキルで適当に並べるだけなので思ったより時間がかからない。しかし余りにも短時間では少々あっけない。せめて10分はもたせたいところだ。

 

「結構考えたのにね」

「大半はボツだからなあ」

「一回目だしガッチリと掴みは入れたいのよね」

「観客参加型にするか?」

「どこで参加するのよ」

「ガラスの目の前に立って迫り来る小石を体感」

「貫いたら目も当てられないわ…」

「痛いかな」

「痛いでしょ」

 

 一先ず休憩ということにしてそれぞれ自由時間にする。ミワは拠点で本を読んでいるという事なので少し周囲を見て回ることにした。昨日は薄暗い中での探索だった上、必要なものを中心に探していたのであまり観察が出来ていなかった。自分の今居る場所を把握するのは大事なことである。

 川沿いから離れ奥の方へ行くと人の立ち入った形跡が極端に減った。獣道のようなものもあるので野生動物との遭遇もあるかもしれない。ところどころ大きな木の幹に印を付けながら奥へ奥へと入っていく。

 

「お、いいものあるじゃないか」

 

 自生しているツバキを見つけた。ツバキの実から採れる種は搾るといい油が採れる。既に弾けている実もあるので木の周囲で種を探す。今回は時間も入れるものもないので手持ちの小袋に入るだけ拾ったが、今度大きな袋やかごを持ってきて大量に拾おう。帰りがけにはクリの木を見つけた。案の定下にはイガイガが沢山転がっている。これはミワの土産にと、数個取り出しポケットに入れ持ち帰る。甘さは約束出来ないがいいおやつになるだろう。

 拠点ではミワが本に顔を突っ込んで眠っていた。今日起きたのはかなり早かった上に、朝からスキルを使用したのだから仕方ない。下火になった焚き火の隅に切り込みを入れたクリを放り込むと拾ってきたツバキの種の皮を剥いていく。これがなかなか硬くて骨が折れる。河原から石を拾ってくると遠慮なく叩く。ガツンガツンやっているとミワが目を覚ました。

 

「あら…戻ってたの」

「ああ、また起こしたか」

「何やってるの?」

「ツバキを見つけたんだ。これで油を採ろうと思ってな」

「へー」

「ついでにクリも拾ってきたんだ。そろそろいい具合だと思うぞ」

「焼き栗ね!いいわねえ」

「さあ火中の栗を拾って見せろ」

「どんな拷問よ。猿じゃないんだから」

 

 あっついあっついと言いながら殻を剥きパクリと一口、そしてまたあっついあっついと言いながら口の中で転がす。

 

「美味いか?」

「こっちに来て魚しか食べてないから涙が出るくらい美味しいわ」

「そりゃよかった」

「トヒにも剥いたげるわ。探せば焼き芋も出来そうね…あっつ」

「流石に自生はしてないんじゃないか」

「はい、トヒ」

「ありがと…うん、クリだ」

「クリだもの」

 

 しばらく二人で焼きたてのクリを食べる。

 

「この作業が終わったら街へ出るぞ。昼ごはんはどうする?向こうで食べるか?」

「街で食べたいのは山々なんだけど…昨日のアレがあるからなんとも言えないわね…」

「あー…」

 

 昨日はいたたまれなさ過ぎて逃げてきたようなものだ。しかし今日は稼がねばならないのだ。その前に逃げてしまってはどうしようもない。

 

「街の外れにある屋台とかなら大丈夫じゃないか?」

「そうであることを願うわ…なかったらお昼はこれだけよ」

「最後の飯になるかもしれん。よく味わって食え」

「教官殿!自分…自分は幸せでした…!」

 

 茶番もそこそこにツバキの種の皮を剥いていく。ミワも途中から参加し、全ての種の中身を取り出すことが出来た。これはしばらく乾燥させておく。

 街に出るために正装に着替える。正直寝巻きは洗濯して干しておきたいのだが、長時間この場を離れることになるのでそのまま畳んで荷物にまとめる。蚊帳やロープも一旦外してしまう。

 

「毎回毎回セットして外してってするの面倒じゃないかしら」

「この世界では珍しい素材が使われてるから狙う輩もいるかもしれないだろう」

「まあそうね…」

「パンツなんか持ってかれてみろ。一日中スースーしたまま過ごすことになるぞ」

「全部持っていきましょう」

「小屋っぽいのでもあればまだましなんだろうがな…」

 

 文句を言っていても仕方がないのでさっさと荷物をまとめる。焚き火は上から石を置いて一時的に火を鎮めておく。これで燃え広がることはない、と思う。

 

「そろそろ行くか」

「そうね」

 

 昨日の昼にこの世界に来てからもう丸一日になる。やったことは街から逃げ出したくらいだが、そもそもどうして逃げる必要があるのだろうか。本来の目的は数々の試練をクリアしつつこの世界を救うことなのである。まあ、試練はそんなにホイホイとやってくるものではないだろうからいいのだが、今やろうとしていることと言えば生きるための金稼ぎである。その辺はもう少しイージーにして欲しかった。それに旅のために付け焼き刃で習得したアウトドアスキルだが、まさか街を目の前に見ながら使うとこになろうとは思わなかった。せめて初日くらいはゆっくりと過ごしてこれから頑張ろう!みたいな流れを期待していたのに。

 

「どうしてこうなった」

「ホントに、どうしてこんなに街が遠いのよ!」

 

 拠点を発ってから数十分。しかしミ未だに河原を歩いている。昨日は疲労を気にせず思い切り走ったものだから相当川の上流まで来ていたようだ。昨日の三人組も散々である。知ったことではないが。

 

「あの橋が多分街から続く道にあったやつだろう。あこまで行けば楽になる。もう少しだ」

「昨日はこんなとこよく走れたわね…」

「必死だったからな。コケずグネらずよくやったもんだよ」

「全くよもう」

 

 土手を登るとある程度舗装された道になり歩きやすくなった。昨日来た道を戻って街へ向かう。ここからでも中心部にあるキャッスルっぽい城がよく見える。

 

「さて」

「着いたわね」

「とにかく人通りのあるところまでは行かないとな」

「出来ればそれまでに屋台があると嬉しいわね」

 

 目算が外れ小一時間は歩いたので昼時は過ぎてしまっているが、果たしてまだやっている店はあるだろうか。この辺りは中心部から結構離れているので人も少なく店も並んでいない。街道沿いであればまた違ったのだろうが今たどってきた道は残念ながら農村からの道だ。誰も店は出さないだろう。結局例の小間物屋に至るまで食べ物屋すらなかった。その頃には人も増えており既に周りからの好奇な目に晒されていた。昨日は耐えきれず逃げ出したが今日はそういうわけにもいかない。今日の飯を食うためにも。

 街の中心部を囲む塀までくると塀沿いに少し歩いてみる。やはり少しでも活気があるところの方が人の集まりもいいだろう。そして少しでも羽振りの良さそうなところがいい。

 

「この辺がいいんじゃない?」

「そうだな」

「大きな看板を出してるお店が沢山あるし人もいっぱいよ」

「じゃあ準備するか」

 

 準備と言ってもミワは小石を入れた竹筒を出すだけだし、こちらも笛を出すだけである。予め上の方に入れてあるので大した苦労はない。

 

「じゃあミワ。笑顔でな」

「任せなさい。愛想笑いなら得意よ」

 

 にっこりととびきりの営業スマイルをして道に顔を向けるミワ。その少し下がったところで仰々しく笛を吹く。本来なら神事の際に姉が舞っているときに奏でる曲なのであるが、一度もその機会がなく今日まで来てしまった。今回は人を集めるために吹かせてもらう。響きも荘厳なので神を目立たせるにもちょうどいいだろう。ただの見習いだが。

 一曲終える頃には小さなひとだかりが出来ていたのでミワに合図を送る。

 

「ようこそお集まり下さいました。私は与えられた試練を乗り越えるため各地を回って旅をしております、神見習いのミワと申します。そしてこちらは私と共に旅をしている巫女見習いのトヒ」

 

 個人証明を取り出し、ぺこりとお辞儀をする。ミワの口上、各地を回っていると言ったがこれからやる予定なので嘘ではない。突っ込まれると言い訳できないが。

 

「この度このような場を設けさせていただいたのは皆様のご支援を頂くためです。遠方より旅をして来た我ら、この街に着いたのは良いのですが、正直申しまして次の街までの路銀が心許ないのです」

 

 アナイから貰った小袋をひっくり返し、銀2をポトリポトリと手の上に出す。まあここは芝居のしようである。ミワの口上、実際は昨日この街に転送されてホヤホヤなのだが、個人証明の出身的に嘘ではない。実際かなり遠いところからやってきた。昨日もなんとなく納得してもらえたし。

 

「さしあたって、ただ無心するのは心苦しく思い、本日は一つ、私の披露致します芸を見て頂きたく思います。それを見てご支援頂ける方は少しで構いませんのでこちらにどうかお願い致します」

 

 竹を切って作った筒をミワと観衆の間に置くトヒ。何回もやっているように見せかけるため枯れた竹を使い切り口もいい感じに汚してある。ミワの口上、短時間で終わってしまう芸をフォローするために長ったらしいものを考えた、苦肉の策である。

 

「尚こちらの札をお使いになっている方は、チャージの割増分の一部だけでも構いませんので何卒宜しくお願い申し上げます」

 

 銀11が入っている札ではなく何も入っていないミワの札を掲げる。ここには確かに銅1すら入っていないので金がないことは確かである。キャッシュレスの普及しているこの街では持っている者も多いであろうこの札。ただで転がり込んできた分くらいならいいだろうと思う人がいるかもしれないと言う淡い期待を抱いてのことだ。神になろうとしてる者が色々とせこい手を使っているが、そもそも今からやろうとしてること自体かなりチートなのだ。大目に見て欲しい。

 

「それでは始めたいと思います。トヒ、準備を」

「はい」

「今からお見せ致しますのは先程拾い集めました、この小石を使った芸で御座います。まずはご覧下さい」

 

 通しでやった練習は一回だがプログラムは何回も反復して覚えているのでやることの動きはスムーズである。

 

「『十枚の窓(Windows 10)』!」

 

 十枚のガラスを展開する。途端に観衆がざわつき始める。急にガラスが出てきたのだからそりゃ驚きもするだろうが、本番はここからである。

 

「行きます!『墾田永世私有砲』!ばきゅん!」

 

 小石を弾き上げ落ちてきたのを撃つ。まずは一枚のガラスを貫いた。あまり反応は良くない。

 

「次は二枚!ばきゅん!」

 

 続いて二枚のガラスを撃ち抜く。先程よりは反応があった。

 

「三枚行きます!ばきゅん!」

 

 三枚のガラスを撃ち抜く。いい感じの反応が返ってくる。

 

「そしてこの小石が埋まった三枚を…ばきゅーん!」

 

 初めの掴みの大技である。新たに撃った小石が埋まった小石を弾き出し次のガラスに埋まった小石を弾く。その小石もまた次のガラスに埋まった小石を弾き出し最後の十枚目を穿つ。見る人によっては新たに撃った小石が三つを通り抜けたようにも見えているだろう。ここで大きな歓声があがる。

 

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 

 投げ入れられるお金。少しだが一つ一つに礼を言うミワ。

 

「続いて参ります。トヒ」

「『十枚の窓(Windows 10)』!」

 

 観衆から見て正面にガラスを展開し、ちょうど正五角形のように配置する。

 

「行きます!ばきゅん!ばきゅん!ばきゅん!ばきゅん!ばきゅん!」

 

 五連続で小石を撃ち出す。小石はちょうど五芒星を描くようにガラスを撃ち抜いていく。

 

「次!」

「『十枚の窓(Windows 10)』!」

 

 続いてもう一回五角形の右上と左上の位置にガラスを展開する。

 

「ばきゅんばきゅん!」

 

 一度に二つの小石を弾き上げ間髪入れずに二連射。八枚のガラスが綺麗に撃ち抜かれていく。ミワは振り向きわざとらしくお辞儀する。先程よりも大きな歓声が上がり、先程よりも多くの人からお金が投げ込まれる。それに対しても一つ一つ丁寧に礼を言うミワ。気が付くと始めの倍ほどの人が集まっていた。

 

「それでは最後の大技です。成功致しましたらより大きな声をお願い致します」

「『十枚の窓(Windows 10)』!」

 

 十枚のガラスを長く一直線に並べる。ここでもまた少し歓声があがる。ステンドグラスのように一枚ずつ色を少しかえてみたのだ。当事者にはあまりわからないが離れたところから見るとそれなりに綺麗なのだろう。

 

「届け!『墾田永世私有砲』!ばっきゅーん!!」

 

 派手目に叫び小石を撃ち出す。そんなに気合いを入れなくても十分届くのだがその場のノリである。撃ち出された小石は様々な色のガラスを突き破り、最後のガラスを叩いた。一番大きな歓声があがる。

 

「ありがとうございました!」

「ありがとうございましたー」

 

 竹筒をかかえお金を受け取って回る。ミワは札で数値の授受をする。初めての割には大成功だったのではないだろうか。人だかりが無くなると物珍しさから寄ってきた子供らをいなしつつ片付けをする。片付けと言っても散らばったガラス片はスキルを解除するだけで消失するのでミワが散々撃ち尽くした小石を拾い集めるくらいだが。

 

「じゃあ行きましょうか」

「うむ」

「なんかお肉が食べたいわね」

「店探すか」

「あるといいわねー」

 

 意外にもこの世界では肉食は一般的なようで普通にあちこちで肉を取り入れた料理が出されていた。霊鳥を扱う店もあったが流石に胡散臭過ぎて入らなかった。

 

「肉うどん!」

「鴨南蛮蕎麦」

 

 結局麺である。





今年最後の投稿となります。この調子だといつ話が動くんでしょうね。

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