居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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一日が長い。



頭皮按摩

「さて、まだ水のうちに干物に使う分だけ確保しておくか。ミワは竹を魚が入るくらいの長さカットしてくれ」

「了解したわ」

 

 先程その場で下処理だけは済ませておいた魚を開きにしていく。干物にしてしまえば骨も食べられるので小骨も気にすることがない。とはいえ普段も鯛の背骨以外は気にしながら食べているが。

 

「どれくらいの濃度がいいんだろうか」

「10%くらいでいいんじゃない?最初は試行錯誤よ」

「そうだな…ミワ、水100に対して塩はいくらで10%になるだろう?」

「え?何よ急に……普通に10じゃないの?」

「まあミワならそんなもんだよな」

「何なのよ……」

「溶質/溶液が濃度だからな。溶液は溶質+溶媒。塩が10なら水は90でないと10%にはならないぞ」

「あーそんなんだった気もしないでもないわね…今それがどうしたのよ…」

「別に聞いてみただけだ。期待に応えてくれてありがとう。礼を言うよ」

「ものすごくバカにされた気がするわ」

「まあわかったところで測る術がないんだがな」

「海水より3倍しょっぱいぐらいでいいのよ」

「海に行ったこともないくせに」

「トヒもないでしょう」

「だから分かるわけがないんだな」

 

 結局なんとなく醤油よりは辛くない程度の塩水を用意すると開いた魚を浸すように並べる。これを暫く置いたあと水気を落としてしっかりと干せば一応干物の完成である。

 今夜食べる分の魚を焼きつつ米が炊きあがるのを待つ。どうしても魚を焼くとまたかという思いが出てきてしまう。

 

「明日は街に出て食材を仕入れるか…」

「街に行くのも遠いのよねえ…荷物を全部ってのも手間だし、トヒだけで行ってきてよ」

「んな他力本願な」

「昨日私は米も醤油も色々運ばされたのよ?他の荷物は見といてあげるからその分軽くなるしいいじゃないの」

「んまあ…そろそろこの服も洗濯したいしなあ…干してる間はアレを着るしかないし」

「そうでしょそうでしょ」

「ミワはその服どうするんだよ」

「私は替えの服があるからそっち着るけど?」

「あー…そう…」

 

 荷物になると思って最小限の物しか持ってこなかったのだが次の転送時には今回のことを踏まえて荷物の準備をしよう。

 魚が焼け、米もそろそろいい頃合だろう。ミワが用意してくれた竹に手を伸ばすとミワが止めてきた。

 

「あ、それ、もうちょっとかかると思うわ」

「そうか?川から戻って相当経つと思うが」

「まあ待ちなさい。ご飯は逃げないわよ?」

「まあ待てと言うなら待つが」

 

 言われた通り竹飯盒はそのままに、焼けた魚だけを火から皿に移す。魚だけで食べる気にもならないのでじーっと炊きあがるのを、ミワのGOサインを待つ。

 

「そうだ。さっきの本の話をして上げましょうか」

「ああ、アダムとイヴの」

「そうそう…服は着てるんだけどね。二人はまずその日を生きるために食べ物を探すのよ。トヒならどこを探す?」

「世界から人だけが消えたならスーパーとかコンビニはそのまま残ってるだろう。そこから拝借すればいいんじゃないか?」

「そうね。二人であちこちの建物を調べて何件か見つけたの。でも、神様が人類滅亡に気がついたのが結構経った後だったのよ。それで大半は消費期限が過ぎちゃってたのよね」

「目も当てられない惨状だろうなあ…どうして気付かなかったんだ」

「何か、忙しかったんだって」

「神様って忙しいんだな」

「やってらんないわね」

「お前は今何をしているんだ…」

「で、缶詰とかそういう期間の長い物を中心に探してね。数日はそれで良かったんだけど」

「飽きたんだな」

「そう、今の私たちのようにね」

「じゃあ…次はそうだな…周辺の農家に行くかな」

「正解。缶詰をお弁当に少し遠出するのよ。でもね…」

「何かあったのか?」

「世界から人類だけが急に居なくなったって話だったわよね」

「そうだな」

「それまで人間によって飼育されていた動物が野生に帰っていたの」

「あらま」

「そこには弱肉強食の世界が広がっていたのよ」

「おお…」

「とまあ、こんなとこね。続きはまた今度にしましょう。ご飯もそろそろいいと思うわよ」

「ん、そうか」

 

 竹飯盒を火から外し蓋を開ける。するといい香りがする湯気が立ち上る。

 

「ん?何か違うな」

「今日は特別よ」

「特別?」

「栗ご飯です!」

「おおー」

 

 湯気に隠れて見えていなかったご飯が白い姿を現すとところどころ黄色い栗が輝いていた。竹飯盒でもうまい具合にいったようだ。

 

「一人五個よ」

「結構入れたな…底栗ばっかなんじゃないか…」

「さ、食べましょう食べましょう」

「焦るな、ご飯は逃げないぞ。スプーン貸してくれ」

 

 一人分をよそってミワに渡す。残りを自分の皿に掻き出す。

 

「それでは」

「「いただきます」」

 

 栗の甘み、しょうゆの香ばしさ、ほんのりとした塩味。全てがいい感じにまとまっている。これはかなり美味しい。

 

「美味しいでしょ」

「うん、美味い。栗ご飯もいいもんだな」

「またたくさん拾ってきましょう」

「そうだな」

「その時は私もまたついていくから」

「欲望に忠実で何よりだよ」

 

  その後は二人して一言も発することなく夢中で箸を進めた。久しぶりに家庭的な味だったのだから仕方ないだろう。

 先に食べ終えたので風呂の準備を始める。今日は一番風呂はミワに譲ってやるつもりだったのだが、まだ食べているので先に入ってやる。

 

「ちょっと!今日は私が先よ!」

「ちぇー、まだ食べてるじゃないか」

「トヒが早いのよ!もっとゆっくり食べなさいっていつも言ってるじゃない」

「と言われてもな…」

 

 特にすることもないので片付けをしながらミワの食べているところを見る。仮にもいいとこのお嬢様なので作法はしっかりとしている。厳しく教えられたのだろうがどうして常識は教わらなかったのだろう。昔のミワはおてんば娘では通らないようなことを数々やってのけたのだ。それを毎回フォローする方の気持ちも考えて欲しい。

 

「…何よ」

「いや、綺麗な箸使いだなと」

「え、まあ、普通よ。トヒも別に変なところはないでしょう」

「箸だけじゃなくて食べ方とかもそうだよ」

「確かに魚をしっぽからがぶりといく食べ方と比べれば相当綺麗でしょうね。どこで覚えたのよ」

「効率的な食べ方を模索した結果だ。人前では普通に食べれる…と思う」

「普通じゃないことが分かってるだけでもよかったわよ」

「骨にしろ皮にしろ、残すとどうしても勿体なく思っちゃうんだよ。だからせめて身内のときくらいはさ」

「捨てられない性格も難儀なものね」

 

 食べ終わったミワが風呂の準備をする。まずは『海神の詔』で火を消す。こうしないと次入るころには熱湯風呂に様変わりしているだろうことは学習済みである。元々熱いのは苦手なので少し冷めたくらいがちょうど良い。

 

「トヒ〜洗面器は?」

「その辺にあるだろう」

「その辺その辺…あ、あった…けど」

「どうした?」

「微妙に届かない」

 

 洗面器は二つ並べた浴槽の湯が入った方の角に置いてあるのだが、ミワがいる空の水槽とは反対側の角にあった。水槽から身を乗り出し腕をいっぱいに伸ばしているのだが後数センチ届かない。胸部装甲が浴槽の淵につっかえてムニュっと変形している。

 

「」

「トヒ〜取ってよ」

「ムニュってどんな感覚なんだろうか…」

「むにゅ?」

「いや別に、ちょっと待ってろ」

 

 ついでにミワを座らせて頭から一気にお湯を掛けてやる。ミワの長い髪が先までピタリと身体に沿って張り付く。おまけにもう一回バシャリと掛ける。

 

「いきなり頭からはどうなのよ」

「まあまあ、ちょっとあっち向いてろ」

「何する気よ…」

 

 ブツブツ言いながらもトヒに背中を見せるミワ。髪を後ろにまとめると椿の搾りかすを包んだハンカチを湯に浸けてからミワの髪をスーッと撫でる。何度か撫でるうちにヌルッとした感覚になってくる。

 

「あら?シャンプー?」

「天然の椿油シャンプーです。痒いところは御座いませんか?」

「いえ、気持ちいいです」

「そりゃよかった」

「いやー昨日はお湯だけで洗うの大変だったのよね。なんかガシガシするし乾いた後もボサボサだし」

「頑張って油搾ったからな、ご褒美だ」

「贅沢ねえ…」

「全くだ」

 

 根元から毛先までスーッと指が通るくらいになるともう一度お湯をバシャリと掛ける。ミワの綺麗な長い髪がツヤを取り戻した。

 

「さて、こんなもんだろう」

「ありがと、トヒ」

「じゃあさっと温まったらさっと出てくれ」

「えーこんなに広いんだし一緒に入りましょうよ。トヒの髪も洗ったげるわよ?」

「だから二人して全裸で何かあったときどうするんだよ」

「照れちゃって〜かわい、ぶへぇ!」

「はいはいわかったわかった」

 

 喋っているミワの顔目がけてお湯をぶちまける。贅沢な使い方が出来るものだ。これもミワのスキルのお陰なのだが。

 ミワが身体を洗っている間に食事前に塩水に浸けておいた魚の開きを引き上げる。なんとなく締まった感じがしなくもない。表面を軽く真水で洗い流すとしっかりと水分を取る。これを一晩干しておけば一夜干しの完成である。

 

「そろそろ上がるわね〜」

「うーい」

 

 ミワが身体を拭く用のタオルを用意してやり、自分の分の下着の替えとタオルを取り出す。服はまだこれを着るしかない。

 

「いや〜いい加減だったわよ。熱過ぎずぬる過ぎず。トヒにもちょうどいい具合だと思うわ」

「いい加減ってのも使いようだなと思った」

「へ?」

「何でもない。早く服着てくれ」

「はいはい…でもこれ、文句を言うつもりじゃないんだけど…湯冷めしちゃうのがちょっとね」

「まあ、外だし仕方ない」

「そうね、仕方ないわね」

「妥協は大事だからな」

「今日だけで何回妥協したかしら」

 

 ミワが服を着始めたのを見て服を脱ぐ。

 

「トヒも髪、洗ったげる」

「そうか?じゃあお願いするよ」

 

 ミワほど長くないので大した手間ではないのだが善意は受け取っておく。何かされる気かしないでもないが。

 

「これを髪に当てて流すだけだ」

「わかったわ。さ、入った入った」

「急かすな」

 

 水槽に入るとミワに背を向ける。ザバーっと頭からお湯がかけられる。いい温かさだ。

 

「じゃあ失礼して…」

 

 ちょんと頭のてっぺんに感触があり、そして毛先まで降りていく。うん、中々気持ちいいなこれは。

 

「おー上手い上手い」

「まあこんなもんよ」

「美容院ってこんな感じなんだな」

「トヒはいっつも自分で切っちゃうもんね。私は時々行ってたけど」

「ここんとこは全然行ってないもんな。さっきも思ったが長過ぎやしないか?」

「流石に居候の身で床屋代までくれなんて言えないわよ。ましてや本人が自分で切ってるんだから」

「どうして自覚があるのに働かないんだろう…」

「それは言わない約束でしょ!」

 

 ミワの指が髪をスーッと通っていく。いい感じに髪が引っ張られるのもまた気持ちよくなってくる。

 

「あーいい感じだ…」

「蕩けてそうなトヒの顔が見てみたいわね」

「多分相当緩んでるだろうなあ…」

「ふーん…じゃあ頭皮マッサージもしちゃおうかしら」

「よろしく頼む…」

「もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ」

「あ゛ーーーーーーーー…」

「ふに」

「あ…?」

「ふにふに…」

「はあ…」

「ふにふにふに…んーやっぱ控えめねえ…」

 

 せっかく快楽に浸っていたのにタダでは済ませないのがミワなのだ。多少警戒はしていたのだが気持ち良さが勝ってしまっていた。

 

「そりゃ実際の肉体と同じなんだから急に変わらんだろう…」

「夢見てもいいのよ?」

「人の見る夢は儚いんだよ…」

「あの…ちょっとくらい怒ってくれないと調子狂うんだけど」

「んー今はそんな気分になれないくらいふわふわしてるんだよな…」

「後が怖いわね」

 

 ミワに泡を落としてもらうと浴槽に移りだらっと足を伸ばして肩まで浸かる。ここで寝られるなら最高に気持ちが良いだろうなとふと思い目を瞑る。

 

「寝ちゃダメよ?」

「わかってる…」

「そんな今にも寝そうな声で言われても説得力全くないんだけど」

「うーん…」

「ちょ、風呂で溺死してゲームオーバーなんてやめてよ?」

「ん……」

 

 ミワの声が遠くから聞こえてくる。これは本格的に寝るやつだ。起きなきゃいけないのはわかるが自分ではどうしようもない。

 

「トヒさん?」

「……」

「おーい」

「ぐう…」

「いやいやいや」

 

 そのまま沈んでいくのをミワが脇を抱えて支える。このまま沈んでいれば、ミワが掴んだのが首や頭だったならば目が覚めたかもしれないが。ふわふわぽかぽかしたままストンと落ちた。

 目を覚ますとそこは、風呂の中だった。

 

「んあ?」

「…起きた?」

「ん、ああ、起きた。おはよう」

「おはようじゃないわよ…」

「なんで風呂で寝てるんだろう」

「んなの私が聞きたいわよ。取り敢えず身体を起こしなさい」

「あ、ああ」

「あーもう、袖がびしょびしょよ…」

 

 ご飯を食べた後、ミワが上がってから頭を洗ってもらって、その後マッサージを…

 

「あー何となく思い出したぞ」

「そう」

「どれくらい寝てたんだ?」

「そんなによ、10分もないんじゃない?」

「起こしてくれれば良かったのに」

「気持ちよく寝てる邪魔される鬱陶しさはよく知ってるから。私、寝てる人は起こさない主義なの」

「雪山じゃなくて良かったよ」

「さ、そろそろ上がりなさい。風邪ひくわよ」

「あ、うん」

 

 のっそりと立ち上がり水槽の方へ移る。用意しておいたタオルで身体を拭き服を着る。段々意識がハッキリとしてきた。

 

「どうしたんだ?」

「どうしたも何も、ずっと支えてたから手が痺れたのよ。文字通り何も手につかないわ」

「そりゃすまないことをしたな。こんな時の対処法があるんだ。お詫びにやってやろう」

「あら、そうなの?」

「ほれ」

「ひやあ!」

 

 ミワの手を取ると無造作に指で弾く。当然、効果などあるはずもなく、ただ単に痺れるだけである。

 

「な、何を…」

「いや何、お詫びだよ」

「普通に痺れるんですけど…」

「そりゃそうだ」

「ええ…」

「さっきのセクハラはこれで許してやる。ほれ」

「はへえ!なんかお腹にくるう!」

「ほれほれほれほれ」

「ひゃふ、ひゃ、ひえ、にょほ!」

「こんなとこか」

「も、もう許して…」

「さて、洗濯するか。ミワも洗うもん出しとけよ」

「そこに置いてるわ…今ちょっと諸事情で手が離せなくて…」

「なんでだろう」

「なんでかしら…」

 

 今日は取り敢えずタオルと下着だけを洗う。今着てる服は明日の朝もう一度お湯を沸かしてミワに洗っておいてもらう。

 

「ねえ、トヒ」

「ん?なんだ?」

「ちゃんと休まなきゃダメよ?」

「うん?どうしたんだ?」

「いくらなんでも風呂入って寝るなんて。疲れてるのよ、きっと」

「あれはただ気持ちよかったから」

「まあ、それもあるかもしれないけど。でもあなた、こっちきてから眠り浅いんじゃないの?」

「言われてみれば普段より少し早く起きてるな」

「それなのに山登りばっかしてるんだから…身体もたないわよ。私はお昼寝してるけど」

「そうだな、今日はゆっくり寝るよ」

「そう、早く寝て、明日はお日様が昇ってくるまで起きちゃダメだからね」

「ま、まあ、わかった」

「私より早く起きてるの見つけたら昼まで添い寝するから」

「ご飯どうするんだ…」

 

 洗濯物を洗い終えると後は特にすることがない。寝るには早過ぎるのだがミワに早く寝ると宣言した手前今から何かするわけにもいかない。仕方なく横になるとミワも横に寝転がった。

 

「いや、狭いな」

「トヒが寝るまで一緒に寝てあげるわ」

「ええ…」

「文句言わない」

「はいはい…」

 

 とは言ってもさっき少し寝てしまったのでまだまだ寝られる気がしない。どうせミワは寝つきが良いのですぐに寝てしまうんだろうが。

 明日は本格的に別行動になる。街に行ってる間、ミワに何かあっても助けることは出来ないし、勿論自分に何かあったときミワに助けてもらうことは出来ない。知らない世界の知らない土地で独りになるということはここまで心細いものなのか。ミワの方に首を回すと既に寝息を立てて寝てしまっている。今までに何回も見てきた寝顔をぼーっと眺めながら今日までのことを振り返り、明日からのことを考える。この顔は何を考えているのだろう。どんな夢を見ているのだろう。多分、今考えているようなことは考えもしていないだろうし、花畑を走り回ってる夢でも見ているんだろう。ミワはミワ、自分は自分。わかってる。

 

 トヒがようやく寝始めたのを確認すると、モニターから離れてグッと伸びをする。睡眠時間の短いコなので自分の休憩時間が相当少ない。休憩時間というより報告書を書く時間なのだが。今回は割と早めに寝てくれたので少し時間に余裕が出来た。今のうちに軽食でもとっておこう。

 二人が寝ているベッドには向こうへ持って行けなかったものが散らばったままになっている。見たところ食料が大半だ。彼女らが朝大きな荷物を持って高天原に来たのは上から見ていたのだが、こんなに持ってきていたのか。恐らく部屋の方にもまだまだあるのだろう。その中でも気になっているのが、ミワのベッドに散乱している缶詰。一般的によく見る鯖や秋刀魚の缶詰は勿論、焼き鳥や果物なんかの缶詰がある。特に異彩を放っているのがチーズケーキである。どこかの皇帝もまさかこんなことになるとは思っていなかっただろう。勝手に食べる訳にもいかないのでルームサービスで適当に何か頼むしかない。この部屋を離れるわけにはいかないのだ。

 メニューを見ながら食堂に連絡をしようとすると、部屋の扉が開きいい匂いがしてきた。

 

「や」

「あら、お疲れ様ですわ」

「おや?ルームサービスかい?」

「ええ、まだ頼んでいませんけれど」

「そりゃちょうど良かった。差し入れだよ」

「なんと気の利いた…ありがとうございます」

「食べながら話を聞いてたら追い出されることもないと思ってね」

「なるほど、考えましたわね」

「やっぱり追い出されていたんだ」

「いえいえそんな、滅相もない」

「まあいいや。で、調子はどうだい?」

「三日目は二人とも早く寝てしまいましたわ。お陰でこのような時間を持てているのですが」

「へえ。まあ、疲れが出てきたんだろうねえ」

「人間とは斯くも儚いものなのですね」

「まだ死んでないよね??」

 

 食事の間アマノが時折モニターも見ながら二人の様子を訊ねてきた。別段言うこともないのだが、目の前で食べているので適当にあしらうことも出来ず当たり障りのないことを話す。大事なことは報告書で、という前提を崩す気は無い。

 

「そろそろ試練が降ってきても良さそうなんだけどなあ…何かありそうかい?」

「どんなものがあるのかを把握しておりませんので何とも」

「全てにはきっかけがあるからね。そろそろ伏線を回収していってくれるだろう。君も目星はついているんだろう?」

「さて…どうでしょうか」

「まあいいさ。そうそう、明日、新しい候補を送り込むことになったよ」

「明日ですか。かなり急ですわね」

「一般公募は応募が多かったからね。ぶっちゃけた話になるんだけど、ミワ君とトヒ君は一般枠じゃないからある程度の都合は聞いたんだ。一般枠の一人ひとりの都合を聞いてたらこのプロジェクトが機能しなくなる」

「かなりぶっちゃけましたわね」

「ある程度ふるいはかけないとね。興味本位の応募はこれで弾けるだろう」

「それで、私はどうすれば?」

「送り込む候補者の顔を覚えてくれたらいいよ。もし見かけたら対象者との絡みを注視していく感じで。それ以外は何もしなくていいよ。そちらはそちらで観測者を立てているから」

「承知致しました」

「二人が戻ってきたときにでも写真を持ってくるよ。向こうにも二人の写真は見せるつもりだし」

「では、そろそろ」

「ああ、うん。邪魔したね」

「今回はそうでもないですわよ?お食事ご馳走様ですわ。ありがとうございます」

「なんだ飯効果か」

 

 アマノはぶつくさ文句をいいながら片付けると今回はさっさと引き上げていった。少し彼女らの様子を聞いて安心したのか、明日の用意が忙しいのかはわからない。大方、これ以上踏み入っても何も得られないと思っているのだろう。大正解である。知りたければ今から書く報告書で把握して欲しい。少しアマノとの時間を取りすぎたせいか予定時刻を過ぎてしまっているので早目に終わらせなければならない。あのコが起きてしまう。





週に出す量を1とした場合の週に書く量が0.4くらいなのでストックがゴリゴリ減っていく…

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