居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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「ねえ、トヒは犬派?猫派?」
「なんだ急に」
「いいから」
「どちらかといえば猫だろうか」
「ふうん」
「ミワは?」
「私はね…狐よ!」
「ネコ目イヌ科…」



熊邂逅再

「起きてしまった……」

 

 何とか早めに寝ることは成功したものの、その分、いやその分以上早起きをしてしまった。多分、まだ深夜。テレビだと放送時間外やショッピングチャンネルの時間。荷物にしまってある時計を見ようと身体を起こそうとしたが身体が動かない。草木も眠ると言われる時間、魑魅魍魎が跋扈する時間。金縛りにでもあったか…ん?あったかいな?

 

「なんだお前か…」

 

 どういう寝相をすればこうなるのかわからないがミワに四肢をがっちりとホールドされていた。逃がさないという意思が強過ぎてこのまま寝続けると逆に疲労が溜まりそうだ。ひとまず腕を解いて脱出を試みる。

 上半身を起こし辺りを見渡す。月の明かりはなく、焚き火の火が辛うじて周囲を薄暗く照らしているだけだった。トヒの実家周辺も夜になると結構暗くはなったのだが、遠くには光が見えたし所々に街灯も立っていたのでここまで暗いのは初めてだった。もしこの焚き火の火が落ちてしまったら本当に真っ暗なのだろう。ふと空を見上げると満天の星が煌めいていた。これぞ満点の星空である。

 

「ちょっと!トヒぃ〜」

「んあ」

 

 急にミワが覆いかぶさってきた。起きてるのがバレたか?

 

「寝てやがる…」

 

 妙に都合のいい寝言を言うものだ。起きていたと後から言われても納得できる。試行錯誤の末なんとかミワから逃れると木っ端を投げ入れ焚き火の火を大きくする。これからもっと寒くなることを考えると、やはり壁と屋根は欲しい。かと言って作るわけにもいかないし、街へ降りて宿屋に泊まるのも癪だ。新たな能力でも開花しないだろうか。ぱちぱちと音を立て揺らめく炎を見ながらぼーっとそんなことを考える。

 

 煙に混じって別の匂いが鼻腔をくすぐる。うっすらと眼を開けると既に辺りは明るくなっていた。いつの間にか落ちてしまっていたようだ。変な体勢で寝ていたので首や腰が痛い。

 

「おはよう、トヒ。私の方が早かったみたいね」

「ああ、おはようミワ。アタタタ…」

「そんなとこで寝るからよ。昨日寝る時は普通にそこで寝てたのに起きたら居ないんだもの。これは私より先に起きてたことになるのかしら?」

「あのまま寝続けた方が身体に悪いわ。なんで固められながら寝なきゃならんのだ」

「まあ私が起きたときには寝てたのでヨシとしましょうか…ちぇ」

「なんか言ったか?」

「いいえ?」

 

 ミワの用意してくれた朝御飯を食べながら今日の予定を確認する。大きな目的は魚以外の主菜となるものを仕入れること。出来れば精肉されてパックに詰められた肉があればいいのだが、そんなものは到底期待できない。せめて各部位まで分かれていて欲しいがそれも難しいだろう。後は情報収集。いつまでもこの街付近に居る訳にもいかない。犬だって歩かないと棒に当たることはないのだ。しかしそろそろ試練も降ってきてもいい頃である。挑戦資格などがあるのだろうか。残ったミワにやってもらうことは洗濯くらいなので暇なら勝手に時間を潰しているだろう。

 

「じゃあ行ってくるよ。暗くなる前には帰ってくると思う」

「え、何処に行くの?」

「昨日話しただろう?買い出しだ」

「あーそんなことも言ってたかしらね。そうねえ…何か甘いものでも買ってきてちょうだい」

「コンビニ行くわけじゃないんだが」

「じゃあ今週のじゃんp」

「ねえよ。そもそも読んでないだろ」

「と言ってもねえ…何があるかもわかんないし」

「別に要らないのに買う必要ないんだよ。この先どれくらいの金が必要になってくるかわからないんだから計画的にいかないと」

「まあそうね。じゃちょっと待ってなさい」

 

 そう言うとミワが竹飯盒に残ったご飯を取り出し握り始める。小ぶりのおにぎり2つを竹の葉で包むと差し出してきた。

 

「持っていきなさいよ。私は適当にあるもので食べとくから」

「ああ、ありがとう」

「そうだわ。梅干しとか欲しいわね。保存も利くし、やっぱりおにぎりには梅干しよね」

「わかった。探してみよう」

「さて…私は何してようかしら…本ばかり読んでるのも退屈だし」

「取り敢えずは洗濯だな。この天気なら昼には乾くだろうし」

「そうだったわね、じゃあ水槽置いてってくれる?」

「わかった」

 

 洗濯用に『十枚の窓』を展開するとミワの作ってくれたおにぎりをかばんに詰め込んで街へ向けて出発する。今回は1人なので何かあっても自分で対処しなければならない。例えば変なやつに絡まれたり、変なやつに絡まれたり……

 

「おっ、ねーちゃん。俺たちと遊んでかない?」

 

 街道に出て少ししたところで数人の男たちに声をかけられた。正直ナンパは初めてだが嬉しくもなんともない。

 

「あれれ?聞こえてないのかなあ?おーい」

 

 無視して歩を進めるがそれでも後ろからある程度の距離を保って付いてくる。このまま街まで行けば人の目もあるだろうし自然と離れていくものだが、まだ結構距離がある上にここは周囲に人もいない。

 

「無視しないでよー。傷付くなあ」

「おい、無理やり引っ張り込めばいいだろう。どうしてこんなめんどうなことするんだ」

「うるせえ黙ってろ。そんなことして大声出されたらどうするんだ」

「誰もいねーよこんなとこ」

「適当に布切れでも咥えさせればいいだろう」

「おいおい穏やかじゃないな」

 

 痺れを切らした者たちが声をかける男に対して文句を言い始めた。内輪揉めなら余所でやって欲しい。

 街までそろそろ半分となったところで過激派組が行動に出た。肩を掴まれくるっと反転させられる。その隙に他の2人が後ろに回りこみ退路を防ぐ。そしてそのまま腕を引っ張られ道端の茂みに連れ込まれる。

 

「なんだ全然抵抗しねえじゃねえか」

「ずっと待ってたんだろ」

「お前は最後だからな。このチキン野郎」

「…チッ…好きにしろよ」

 

 いや好きにするなよ。何の順番か知らないがこちらにはいそうですかと享受するいわれはない。

 

「ねーちゃん、名前はなんていうんだ?」

「まだ子供じゃないか。こりゃ上玉だぞ」

「肉付きも悪くないしどこぞの金持ちの娘か何かじゃないか?」

 

 治安もへったくれもないところだ。これが完全自立型の作られた世界というんだから面白い。仕方ない。

 

「ふぇぇ…」

 

 ふぇぇとか言ってしまった。今ので残機が4くらい減った気がする。

 

「は?」

「お?」

「ん?」

 

 が、効果はバッチリ。取り囲む3人の間の抜けた顔に笑いを堪えつつ外野の穏健派の男を見る。

 

「怖いよぉ…」

 

 助けて、と訴えかけるような目線を送る。そもそもこいつが声をかけてきたのがきっかけなのだが、今この状況で一番面白くないのはこの男だろう。何の順番か知らないが最後に回されたのだから。何の順番かは知らないが。

 しかし目線の先の男は非常に怯えた表情で固まっていた。なんだよ、そんなに引くなよ。やりたくてやったんじゃないよ。

 

「く、く、」

「く?」

「そんな顔してどうしたんだおめえ」

「く、ま、く」

「なんだよ、はっきり言えよ」

「熊が、後ろに、」

「え?」

「え?」

「え?」

「おお…」

 

 一斉に茂みの奥へ振り向くと、じっとこちらを見ている熊がいた。なんか昨日も似たようなことがあった気がする。

 

「うわあああ!」

「バカ!大声出すんじゃねえ!」

「ひっ…」

 

 取り囲んでいた3人がそれぞれの反応を見せる。

 

「お前!早く言えよ!」

「気付いたときにはもうそこに居たんだ…仕方ないだろう…」

「ひっ…たすけて…」

「早く立て!逃げるぞ!」

「うわあああ!」

「落ち着け!」

 

 4人の中でも一番年長者っぽい男がどうにかして状況を収めようとするが、1人は顔面蒼白、1人は腰が抜け、1人は錯乱している中でかなり苦心している。熊はというと目の前でわたわたと繰り広げられている状況をじっと眺めていた。

 

「おい、お前も死にたくなけりゃ早く逃げるんだ!」

「え?」

「畜生め!あっち行きやがれ!」

「いや、逃げたら追っかけられるし、多分、大丈夫」

「は?」

 

 急なキャラの変わりように驚いたのか、熊を前に大丈夫と言っている子供が理解に苦しむのか、男は何がどうなっているのかわからないといった様子だ。

 

「死にたくない?」

「当たり前だろ!」

「死にたくない…」

「たすけて…」

「うわあああ!」

「あ、そう。助けて欲しい?」

「お前に何ができるってんだ!」

「おい…助けてくれるって言うんだから…」

「たすけてください…」

「うわあああ!」

「助けるとは言ってないんだが…まあ、いいか」

 

 男たちに指示して熊を刺激しないように少し広めの場所まで移動する。熊も一定の距離を保ちながらついてくる。

 

「『八枚の窓(Windows 8)』」

 

 自分と男たち4人を囲むガラスを展開する。強度は昨日と同じくらいの。

 

「何をしたんだ…?」

 

 ガラスを知らないと、何かある気がするのに向こうが見える、という不思議な現象だろう。この前、街でやったショーのときも思ったがまだそこまでの技術はないらしい。

 

「最近、神見習いと巫女見習いの話、聞いたことないか?」

「…街で噂が立っている。神見習いのねーちゃんと巫女見習いの子供が突然芸を始めて、その子供の方が透き通った何かを空中に並べていたっていうのなら聞いたことが…まさかお前…」

「子供って年齢同じなんだが…そう、その巫女の方」

「神様…仏様…」

「巫女なんだが」

「」

「こいつ…飛んでやがる」

 

 ごちゃごちゃしてると熊が展開しているガラスに近づいてきた。

 

「ヒィィィ!」

「これ、本当に大丈夫なのかよ…」

「こんなとこで死にたくねぇよぉ」

「」

 

 五月蝿い奴らである。1人はとても静かだが。ついにガラス1枚を挟んだ正面まで熊がやってきた。何をするでもなくじっとこちらを見つめている。

 

「ん?なんだお前。昨日のやつじゃないか」

 

 よく見るとなんとなく見覚えがある。

 

「昨日のやつって…昨日も熊と出くわしてるのか?」

「え、まあ、うん」

「よく生きていたな…いや、この状況でこんなに落ち着いていられるのも納得だな…」

「昨日はただただこいつがどこかに行くのを待ってたんだが、今日は街の方に用事があるからな…出来れば早目にお暇して欲しいところなんだが。お前らがあんなことしなければこんなことにはならなかったんだぞ。どうしてくれるんだ」

「今そんなこと言ったってしょうがないだろう!それで言うならお前が最初からこっちの話を聞いてりゃこうなってないだろう!」

「聞いてたらどうなってたのさ」

「そりゃ…まあ…」

「はあ」

 

 よくよく考えるとこの状況、かなり危ないのではないだろうか。外部からの侵入を許さない空間内でさっきまで自分にあんなことやこんなことをしようとしていた連中と一緒にいるのだ。既に『十枚の窓』を展開している今、更に引きこもることもできない。理性を保ってくれていることを期待しよう。

 

「そういえば、最近こんなことはよくあるのか?」

「こんなこと?」

「熊だよ。こいつらがこんな街道近くの茂みに住んでるわけがないだろう」

「ああ…それもそうだな…お前、何か知らねえか?」

 

 比較的まともに話が出来る穏健派の男に話を振るリーダー格。自分は知らないんだろう。

 

「いや、知らないな。そもそもこの辺で熊を見かけたって話なんぞは聞いたことがない」

「だ、そうだ」

「へえ」

 

 じゃあ昨日と今日がたまたまラッキーな日だったのだろうか…いや、アンラッキーか。

 

「穏健派はこの辺に住んでるのか?」

「おんけん…?俺のことか?」

「名前を知らないからな。勝手にそう呼ばさせてもらった。ああ、言わなくていいぞ。知りたくもない」

「いや悪かったと思ってる。この通りだ、許してくれ」

「謝罪はいいさ、べつに。で、どうなんだ?」

「いや、住んでるのは街の中だが、仕事でこの辺りに来るってだけだ」

「街の人間が街の外で何の仕事してるんだ」

「野菜を仕入れるのさ。この季節だと芋なんかも多い」

「ほう…」

 

 いいことを聞いた。これで食卓に緑が入る。芋も使いようによっては甘味になりそうだ。

 

「穏健派、お前、運が良いぞ」

「は?」

「後で話をしよう」

「え?ん?」

 

 卸売から直接買えば安く済ませられるだろうし、取引先に赴いて何か干物とかと交換出来れば金を使わずに済む。あわよくば今回のことをネタにかなり値切れるかもしれないが、それは評判に関わるのでやめておこう。

 ガラスに囲まれたこの空間がそれなりに安全だと分かったのか3人の男達も少しずつ落ち着いてきた。

 

「さて、この熊さんをどうするかだが…ここにいると負けはしないが勝ちもしないんだよな…取り敢えずそろそろそいつ起こしてやったらどうだ?」

「あ、そうだな…」

「神見習いのねーちゃんはどうしたんだ?神見習いなんだから熊退治くらいお手の物だろ?」

「神見習いを何だと思ってるんだ。熊と喧嘩するのなんか金太郎だけでいい。キャラが被っちゃうだろ」

「キャラ…?」

「こっちの話だ」

 

 薪をしょって本を読む必要も犬猿雉を餌付けして鬼退治する必要も無い。ミワにはミワらしくやってもらわないと。

 

「じゃあ他に手があるのかよ」

「無いからこうやってぼっーとお見合いしてるんじゃないか。あったらとうにやってるさ」

「なんだ、巫女見習いも大したことねぇなあ…」

「あ?今すぐこれを解除してお前らをほっぽり出してもいいんだぞ?」

「あ、いや、そういうつもりじゃ…」

「全く…」

 

 とはいえ良い方策がないのは確かである。おそらく一番正しい対処法である、ゆっくり後ずさる、という行動は自らの手で封じてしまっているのだから。やはり無理にでもミワを連れてくるべきだったろうか。

 

「は!俺は何を…そうだ…熊は!熊はどうなった!」

 

 気を失っていた男が起きたらしい。急に大声を出すんじゃないよ。

 

「静かにしろ!今この巫女さんが熊との間に壁を出してくれたからひとまずは安全だ」

「壁?何も無いじゃないか…って熊!目の前に!熊!」

「だから静かにしろ!」

 

 起こさない方がよかったか…一応こいつにも聞いておくか。

 

「起きたか。早速だがこの状況を打破する方法はないか?」

「そんなこと言ってる場合じゃ…」

「あーもう…五月蝿いなあ…ちょっとこっち来てみ」

「でも…」

「いいから。はい、立って。はーいそのまままっすぐーまっすぐーまっすぐー」

「まっすぐ…まっすぐ…まっすいで!なんだこれ…」

「壁だよ。ちょっとやそっとじゃ壊れないから安心しろ」

「ああ…うん…」

「で、何かないか?」

「そうだな…」

 

 しばらく腕を組んで考える男。安全の担保があればそれなりに論理的な思考ができるだろう。

 

「俺のじいさんの知り合いが若い頃に山の中で熊に出くわしたことがあったらしい。その時は持ってた鎌を振り回しながら大声で叫びまくったら向こうから離れていったってのを聞かされたことがある」

「なるほど」

「ただそのじいさんの知り合いが帰ってきて話をしても誰も信じなかったそうだ。熊に会って生きて帰れるわけがないってな」

「返り討ちにしたならともかく必死の抵抗で生き延びたって話なんだから盛ってる要素はなさそうだけどな…まあ取り敢えずやってみるか」

 

 声に関しては男4人に任せれば大丈夫だろう。断末魔の代わりと思って盛大に叫んでもらおう。となると問題は武器の方だが、当然物騒なものは持ち歩いてないので殺傷能力には期待できないがあるものを利用するしかない。

 

「準備はいいかね?」

「なんで肩組まされてるんだ…」

「音ってのは空気の振動だ。当然声も音だから空気の振動が相手の耳に届かないことにはどれだけ大きな声を出そうとも聞こえることはない。ということで壁、もとい窓を解除する」

「なんだって?」

「この壁をとっぱらうのか!?」

「ああ、より大きな声を届けるためだ」

「もし効果がなくて近づいてきたからどうするんだよ…」

「そこでこれを使う」

「なんだこれは…」

「使ったことくらいあるだろう。傘だよ」

「傘ってこう…もっと長いだろう?」

「まあ見てろ」

 

 留め具を外し柄の部分を伸ばす。おおっと少し感嘆の声が漏れる。そして傘の笠をバッと広げる。

 

「……」

「なんだ?なんで黙ってるんだよ」

「いや…」

「なんというか…」

「思ったより凄くないな」

「言っちゃったよ…」

「いや、傘ってこんなもんだろ」

「でもなあ」

「と、取り敢えずこれを振り回す。無理だった場合はまた考える」

「誤魔化したな」

「悪いか」

「また考えるって人の命をなんだと思ってるんだ」

「乙女の貞操をなんだと思ってるんだ?」

「ぐぅ…」

「ぐうの音を出すな」

 

 そして実際にやってみる。

 

「「「「オーオーオオオーオオオーオオオー」」」」

「アフリカンシンフォニーかよ」

「「「「オーオーオオオーオオオーオオオー」」」」

「高校野球なんてやってんのか」

「「「「オーオー!オーオー!オーオー!!」」」」

「まあこんな感じでいいか」

 

 熊に向かって吼える4人の前に立ち、傘を構える。

 

「解除するぞ!」

 

 目の前のガラスが消え去る。これで熊との間には何もない。突進されたらひとたまりもないだろう。熊は少しビクッとしたようにも見えたがまだこちらをじっと見ているのみだ。

 

「そい!」

 

 傘を振り回す。あまり無理にやって使い物にならなくなるのも困るので遠心力にまかせて大きく、それでも速く回す。

 

「一歩ずつ前に進んで圧をかけるぞ!」

 

 一歩踏み出す。熊が一歩下がる。もう一歩踏み出す。熊がもう一歩下がる。

 

「もう一息!」

 

 大きく一歩、前に出る。熊は少し身を引くと後ろを向いて駆け出して行った。

 

「……行ったか?」

 

 熊が消え去った方向をじっと観察するが何かの影を捉えることもない。恐らくもう何も居ないだろう。

 

「お前ら、もういいぞ」

「……」

「ん?どうしたんだ?」

「良かった…」

「死ぬかと思った…」

「んな大袈裟な…って訳でもないんだろうなあ」

 

 へなへなと座り込む男達。気丈に振舞っていたリーダー格の男もすっかり魂が抜けてしまった顔をしている。

 

「取り敢えず道に出るぞ。奴さん、また帰ってこないとも限らない」

「あ、ああ…そうだな…」

 

「さてと…今回無傷で熊から逃れることが出来たが…貴重な時間をだいたい1時間程浪費してしまった。どうしてくれようか」

「どうすれば…出来ることはなんでもするが…」

「ん?なんでもするって言ったか?」

「え、いや、出来ることならなんでも…」

「そうか、なんでもしてくれるか」

「なんでもします……」

「いや〜なんか悪いなぁ〜」

 

 ここぞとばかりに上からものを言う。なんと思われようがこれくらいはしてもいいだろう。気分はまあ、悪くない。

 

「お前…」

「やめとけ、余計に何か吹っかけられるだけだぞ」

「でもよ何言われるか…」

 

 そんな無理難題を押し付けるつもりはないが。

 

「取り敢えず穏健派、お前は野菜を仕入れてこい。出来れば葉物がいい」

「いや、今日の仕入れはもう…」

「ん?」

「いえ、何も…」

「銀1もあれば足りるか?」

「やらせて頂きます!」

「現金なヤツめ…どれくらいかかる?」

「もうすぐにでも!」

「いやすぐ持ってこられても今から街に行くんだが…しなびちゃうだろ」

「ご自宅にお届け致します!」

「うーん…じゃあ日暮れ前にこの先の橋に持ってきてくれ」

「了解しました!」

 

 行ってしまった。まだお金渡してないんだけどな。

 

「…俺達は何をさせられるんだ?」

「うーん…特に何もないんだよな…」

「なんだそれ」

「基本的に自分で済ませちゃうからなあ…そうだ、今回のこと、街で言いふらしてくれよ。巫女見習いの不思議な力で熊に襲われても助かった、ってな」

「それだけでいいのか?」

「3人で真面目にやりゃそれなりに広まるだろう。今絶賛名売り中でな。宜しく頼むぞ」

「お、おう…」

「よし、じゃ、解散」

 

 少々寄り道してしまったが、野菜は手に入ったし名前も広めることが出来た。本来ならミワの名前を売り出す方が良いのだがそこに居なかった人物を登場人物に加えるわけにもいかない。神見習いの加護があったということにでもしておこう。





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