居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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ストックが!ない!



蕎麦五杯

 それから街までは何もなく…いや、いきなりあんなことに巻き込まれる方がおかしいのだ。これが普通である。普通であって欲しい。

 

「てか何でついてくるんだよ」

 

 3人の男達がずっとついてくるのである。最初からわかっていたのだが流石に街に入るのも一緒なのはなんか嫌だ。

 

「何でって…街に入るにはこの道しかないし」

「そうかもしれんが」

「そうだ、巫女のねーちゃんよ。今から一緒に昼飯でもどうだい?」

「何でお前らと…」

「本人がいた方が話の真実味が増すってもんよ。店ん中で大声で感謝してやるさ」

「むむむ…」

 

 昼ごはんといえば朝にミワが持たせてくれたおにぎりがある。それを食べないのもミワに悪い気がする。しかし、いい宣伝になるというのも確かにそうだ。

 

「ちなみに何屋だ」

「蕎麦屋なら人の出入りも多いだろうな」

「行こう」

 

 ごめんミワ。おにぎりは帰りに食べるよ。

 連れていかれたのは屋台や茶店が並ぶ通りだった。確かに人は多い。その中の1つの小屋に男が入っていく。

 

「おっさん、蕎麦4つ!」

「あいよ…なんだお前か」

「なんだよ、悪いか」

「悪かねえが…お前、こないだのツケ忘れてないだろうなあ?」

「そ、そりゃ、もちろん」

「じゃあちょっと待ってろ」

 

 どうやら知り合いの店らしい。男が出てきて店先の椅子に座る。

 

「なんだお前、タダ飯してるのか?」

「人聞きの悪いこと言うんじゃない。あの時はたまたま持ち合わせがなかったんだ」

「ふーん」

「信じてねえな?今日はほらちゃんとここに…ん?」

「ん?」

「あれ…確かに持ってたはずなんだが…」

「……」

 

 右のぽっけ、左のぽっけ、服の中まで見るが一向に金らしきものは出て来ない。

 

「あったか?」

「いや…ちょっと待ってくれ…おい、お前ら、いくら持ってる」

「それが…今日は1文無しだ。飯食うつもりなんてなかったからな」

「くそ!先に言っとけよ!お、お前は?」

「右に同じく…」

「なんだよお前ら!なんで持ってねえんだよ!」

「お前だって人のこと言えないだろう!」

「そうだぞ。そもそも飯に行こうと言い出したのはお前じゃないか!」

「ぐぅ…」

 

 仲間割れをしだした。他の2人の言い分はもっともなので言い返す余地もない。

 

「つまりお前ら誰も持ってないのか」

「そういうこと…になる…のかな?はは」

「なにわろてんねん」

「つきましては…その…」

「……」

「……」

「…わかったよ。出せばいいんだろう」

「すまん…」

 

 予想外の出費になってしまった。これならミワの作ってくれたおにぎりを食べていれば良かった。広告料として納得するしかないか。いや、そもそもこれは熊から助けたお礼ではなかったろうか?

 

「はいよ、蕎麦4つだ。前の分と合わせて銅50だ」

「お願いします!」

「はいはい…そのかわりしっかりやってくれよ」

「ん?誰だこの嬢ちゃんは…お前のコレか?」

「違うわ」

「このねーちゃんはさっき俺たちを熊から助けてくれた巫女見習いの…誰だっけ」

「トヒ」

「そう、トヒちゃんだ」

「ちゃんて」

 

 そういえば名乗っていなかった。こいつらみたいなやつらに名前を知られるのも嫌だったがこうなっては仕方がない。それにしてもちゃん付けで呼ばれたのは何年振りだろうか。

 

「は?熊?巫女見習い?何言ってんだお前」

「いやホントだって」

「まあそうだろうなあ…ほい、ひとまず銅40だ」

「毎度…ってどうして40なんだよ10足りないぞ」

「待て待て。なんでこいつのツケの分まで出さないといけないんだ」

「嬢ちゃんこいつの女なんだろ。金があるところから貰っとかないとな」

「いやだから違うって…」

「ほらおっさん、この間大通りの方で珍しい芸してたって話はしただろ?その子どもの方だ」

「あーそんな話もしてたな。他の客からもチラチラとは聞いていたが…それがこの嬢ちゃんだって?」

「そうそう」

 

 中々信じてもらえない。信じてくれないと無駄に金が減ってしまうのだが。第三者で証明してくれそうなのは……そうだ。

 

「じゃあ、これならどうだ?個人証明だ」

「いや、うーん…巫女見習いってのはわかったが…」

「入る金は逃さないって顔してるな」

「おっさん、前の分は今度持ってくるからよ…今日はそれで食わしてくれよ。のびちまう」

「そもそもお前がちゃんと払ってればこんなことにはなってないんじゃないか」

「それはそうだけどよう…」

 

 こちらが譲るか蕎麦屋が譲らない限り話は平行線のままだ。向こうからすればいつになるかわからないツケを待つことになるのだがそんなこと知ったことじゃないのだ。初対面の、さらに自分を襲うつもりだったやつにこれ以上何かしてやる義理もない。

 

「じゃあこんなのはどうだ?巫女見習いがここで蕎麦を食ったって話をそこら中でして回る。そうすりゃ大繁盛間違い無しだぜ!」

「どうしてそうなるのか」

「蕎麦1杯くらいならまあ…それでもいいだろう」

「蕎麦1杯の価値もないと判断された気分だ」

「決まりだな!あ〜腹減った!さ、トヒちゃんも食べな!」

「誰が払ったと思っている」

「ほらほら、嬢ちゃん。美味そうな顔して食えよ」

「美味けりゃ勝手に美味そうな顔になるさ。いただきます」

 

 こちらの世界に来て2杯目の蕎麦。汁から頂く。美味しい。昨日の店の味とは違いって完成され過ぎていない、いわゆる荒削りの味といったところだが、また違った美味しさがある。

 

「…美味いな」

「ここらじゃ他で食えねえ味よ。このおっさん、蕎麦に関しては尊敬出来るぜ」

「それも納得できるな。なかなかに美味いぞ」

「ガンと向かって言われるとむず痒いな…ありがとよ」

「後はちょーっと頑固なとこがなきゃなあ」

「うるせえよ。お前はまず金を持って食いに来い。今度からはお前だけ先払いだからな」

「そういうとこだぜおっさん」

 

 とはいえ他人の分まで出してこれだけでは大損である。この男らの誘いに載ったのは別に蕎麦が食べたかったからじゃない。決して。

 

「おい、真面目にやってもらおうか」

「ああ…そろそろいい頃合いだろう。おっさん、ひとつ儲けさせてやるよ。器の準備しときな!」

「は?どういうことだ?」

「いや、そんなに人が集まるほどのものでもないだろう…」

「まあ見てな」

 

 急に人通りが増えてきた。ちょうど昼時なのだろうか。客層としては買い物客よりどちらかと言うと厳つめの土方っぽい男が多い。

 

「いやーそれにしても巫女様!さっきは助かりましたぜ!」

「急にどうした」

「おい、お前らも調子合わせろ」

「お、おう…」

「わかった」

「あいつと出くわしたときなんかお前腰抜かしてたもんな!」

「あ、ああ!人間、本当にビビったときは動けなくなるんだな」

「俺、あの時気失っちまったからよ…どんなことがあったのか教えてくれねえか?」

「ガハハ!そうだったな!急に静かになったと思ったら真っ青になって転がってやがるんだもんなあ」

 

 お前も大概じゃないかと思ったが他の2人もなんだかんだついていっている。まあお手並み拝見といこう。

 

「お前らが腰抜かしてる間、俺はどうあの熊からお前らを守るかを必死に考えた。しかしあの熊、じっとこっちを見てやがるもんだから動くに動けなかったんだよ。そしたら俺と熊との間に現れたのが」

「現れたのが…?」

「この巫女様って訳よ」

「おおー」

 

 そんないい感じな場面でもなかった気もするが。大声で話すのでチラホラと人が集まってきた。

 

「そこで俺は言ったんだ。『おいお前!死にたくなきゃ逃げろ!』ってな」

「かっけえこと言うじゃねえかよ」

「そしたら巫女様、何て言ったと思う?」

「何て言ったんだ?」

「『死にたくなければ逃げるな!抗え!』ってよ。正直俺は何言ってんだって思ったぜ」

「はー!お前よりかっけえこと言ってるじゃねえか」

 

 何だか凄く盛られているような…まあ流れとしてはそこそこ合っているので良しとしよう。小っ恥ずかしいので黙って汁をすする。店もそこそこ人が入っており皆がこちらに聞き耳を立てている。

 

「で?それからどうなったんだ?」

「まずは巫女様が熊を引き付けている間にお前を少し広いところにまで引っ張っていったんだよ」

「あの時は全然力入んなかったなあ。ずっと手が震えてたぜ」

「何で広いところなんだ?」

「巫女様の指示さ。俺もその時はどうしてそんなことするかわかんなかったんだが、巫女様の言うことは聞いた方がいいって直感で思ったんだよ」

「ほーん」

 

 蕎麦屋の店主が忙しそうに走り回っている。回転率が大事であろうこの時間に長々と話をするグループは普通に迷惑なもんだが何も言うことなく知らぬ顔をしている。単に忙しくて構ってる時間がないだけかもしれないが。

 

「それで?次はどうなったんだ?」

「こっからがいいところでよ、置いてきちまった巫女様を心配していると熊と睨み合ったまま巫女様がそろりとこっちまでやってくるんだ。そして俺らがいるところまで来ると一声。すると熊と俺たちの間に見えない壁が出来たってわけよ」

「見えない壁だあ?」

「お前も起きてから触っただろう」

「ありゃ本当に巫女様が作ったのか…」

「凄いんだぜ、熊が文字通り目の前まで近づいてきたんだ。あんときゃ流石の俺もビビったな」

「どのくらい近かったんだ?」

「言ったろう目の前だ。鼻息が当たるんじゃないかぐらいまで近かったんだ。でも熊は襲ってこなかった。いや、襲ってこれなかったんだ」

「見えない壁があったからか」

「そうだ。そうしてる内にお前が起きて後はあのとおりだ」

「はーすっげえなあ」

 

 尾ひれどころが背びれ腹びれ胸びれまで付けたような話だった。そのかわり内臓の部分が省かれていたりとまあ華のある部分だけをよくここまで誇張して話せたものだ。

 

「おい、お前ら」

「ん?なんだ?」

 

 最初の方からずっと遠巻きに見ていた男が近寄ってきた。他の者のように面白半分で聞いている様子ではなかったので多少気にはなっていた。

 

「熊ってのは本当に恐ろしいやつなんだ。俺は山にはよく入るからここじゃ誰よりもやつのことをしっている。お前らみたいなひょろっとした街の人間や、こんなガキにどうこうできるようなやつじゃねえんだ」

「って言われてもなあ。俺はさっきあったことをそのまま喋ってるだけだぜ?」

「冗談でもこんな話するもんじゃねえ。見えない壁だと?笑わせんじゃねえ。熊を目の前にして生きて帰って来れるやつなんざ居ねえんだよ」

「おっさん…何があったかは知らねえけどよお…俺たちゃ本当にこの巫女様に熊から助けて貰ったんだぜ?その事実は変わりゃしねえよ」

 

 ふむ、少し場の空気が悪くなってきた。野次馬に逃げられても困るし、そろそろ出番だろうか。

 

「まあ2人とも落ち着け」

「そうだぜ、おっさん」

「俺はずっと落ち着いている」

「こいつの話を疑ってくれるなとは言わんが…うちの神の力を使ってこいつらを助けた事実を否定されるのは少し我慢ならんなあ…力もタダじゃないんでね」

 

 別にミワの力は使っていないがまあ、巫女なんだから辻褄は合わなくもないし都合は合う。

 

「神だと?」

「神って言ってもまだ神見習いだけどな」

「神見習い?」

「因みにさっきから巫女と言われているが正しくは巫女見習いをやっている。いや、本業は巫女なんだが」

「何を意味のわからないことを…」

 

 うーむ…アマノさんの話だと神見習いと巫女見習いのことは常識で通ってるはずなんだけどなあ…古い文献に残ってる程度のものなのだろうか。

 

「よし、じゃあこうしよう。さっき使った神の力、ここでひとつ見せてやろう」

「(タダじゃないんじゃなかったのかよ)いで!」

「(五月蝿いぞ)それで信じなかったら信じないでももちろんいいさ。しかし信じることが出来たなら発言の撤回、訂正をしてもらおう。どうだ?」

「ふん、いいだろう」

「よしきた。ちょっとその辺に立ちな」

 

 男を店の脇に立たせ周りに1m四方の線を引く。

 

「この線から外に出れないように見えない壁を張る。いいな?」

「さっさとやれよ」

「まあそうせかすな。いくぞ『八枚の窓(Windows 8)』」

 

 4枚余ってしまうので二重にしたガラスを4枚、1m四方で設置する。声が届かないと意思疎通が難しくなるので高さは2mくらいに。

 

「どうだ?」

「何も変わってねえじゃねえか」

「そうか?じゃあ動いてみろよ」

 

 少なからず屈折してるのでこちらから見れば、ああガラスの向こうにいるなって感じなんだが。慣れの問題かもしれない。

 

「なんだ普通に動けるじゃねえか」

「じゃあ前に出てみろ」

「ふん、こんなもの…何だこれは」

「それが言うところの見えない壁だな」

 

 勢いよく一歩目を踏み出したはいいが何せ半畳程の空間だ。すぐに端まで行ってしまう。

 

「よく見ると何かあるだろう」

「うむ…そう言われると…」

「触ってもいいんだぞ」

「おう…ツルツルしてるな…」

「どうだ?これで文句はないだろう」

「いや…こんなもので熊から助かるわけが…」

「むう」

 

 疑り深いというかそもそも疑ってかかってきているのでスっと納得するわけにもいかないのだろう。

 

「おい、トヒちゃんよ」

「なんだ?さっきから気になっていたがちゃんをつけて呼ぶんじゃない」

「トヒちゃんはトヒちゃんだしなあ」

「ええい、いいから辞めるんだ。で、なんだ」

「あれなんだがな、どんだけ強く叩いても壊れないんだよな?」

「いやー流石に閾値はあるだろうなあ」

「でもあのおっさんが暴れたくらいじゃ大丈夫だろ」

「そりゃまあ」

「じゃあ俺らがこっちから殴っても大丈夫か?」

「まあ無傷だろうな」

「そこの石で思いっきり殴るとどうだ?」

「その辺だろうなあ…無傷で済まないのは確かだろう。あくまでもガラスだからな。割れはしないと思うが」

「じゃあちょっとやってみてもいいか?」

「任せるさ」

 

 逃げることが出来ない空間で石持って殴りにこられたら相当怖いだろうな。可哀想に。

 

「おい!おっさん!」

「な、なんだ」

「これが何かわかるか?」

「何って…ただの石だろう」

「そうさ…これで殴られると痛いだろうなあ」

「痛いじゃすまんだろうな」

「ということで行くぜ!」

「何する気だ!」

「うおりゃあ!!」

「やめ、やめろ!」

 

 ガツン!と一発。中の男は尻もちをついて頭をかかえる。が、振り下ろされた石はガラスに阻まれ男に届くことはない。ガラスはというとヒビすら入っていない。

 

「どうした?ビビってんのか?」

「て、てめえ何しやがる…」

「信じてなさそうだったからな。ちょいとばかし驚かしてやろうと」

「は、はん!こんなもので…」

「そうかそうか。おい!誰かとんかち持ってねえか?硬いものだったらなんでもいいぜ!」

 

 店の中の客、外の野次馬に声を掛けると土方組が多いからかあちらこちらから声が上がる。商売道具をこんなことに使っていいのか。多分、皆ノリで生きているんだろう。

 

「おーい、ほどほどにしとけよ。下手すりゃ割れて本当に殴っちゃうかもしれないぞ」

「大丈夫だろ」

「責任はとらんと言いたいがそういうわけにもいかんのだ」

「割れそうになったら引くさ」

「お前らあんま見えてないんだろ……」

 

 今にも飛びかかりそうな勢いで鈍器の類を振り回している奴らがいる中、ガラスの中の男は青ざめた顔をしている。どうしてこんなことになったんだろうと思ってももう遅い。

 

「じゃあ行くぜ!」

「おうよ!」

「覚悟しな!」

「ヒャッハァ!」

 

 四方から壁を殴りまくる男達。中には頭を膝に埋めて震える男。はたから見たらただのリンチである。今のところガラスの方は大丈夫だがいつまでもつか。

 

「わかった!認める!認めるから辞めてくれ!」

「おい、辞めろ」

「ちっ、楽しくなって来たのによお」

「名を広めてくれとは言ったが悪名を広めてくれとは言っていない。やり過ぎは良くないぞ」

「わかったよ」

 

 渋々と男達が下がる。あーあー可哀想に…震えちゃって…『八枚の窓』を解除して男の傍に寄る。

 

「とまあこんな感じで熊からこいつらを守ったんだ。別にホラを吹きに来たわけじゃないってことはわかってくれ」

「あ、ああ、すまなかった」

「取り敢えず立ちな。そういや昼はもう食べたのか?食べてないんならここの蕎麦1杯奢ってやるよ」

「いいのか?」

「いいさ。ついでに話を聞かせてくれ」

「すまん」

 

 アフターフォローは大事だ。これでミワの悪い噂な広まってしまっては困る。

 

「えーいいなー」

「お前らはもう食べただろう。助けた礼に加えて蕎麦分も働いてもらうからな」

「わかってますよ巫女様」

「次からはこいつが暴走しないようにちゃんと見てますんで安心して下さいよ」

「俺は別に…良かれと思って…」

「うるせえ、少しは反省しろ」

「そうだぞ。次からお前と飯を食う時は先に金持ってるか確認してからにするからな」

「それはすまなかったと思ってる…」

「では巫女様!お達者で」

「うーい」

 

 大声で話していた男達が去っていったので野次馬も散っていった。店の中もさっきよりは忙しくなさそうだ。奥の机に男を座らせる。

 

「この人に1杯頼む。ほい、銅10だ」

「おいおい嬢ちゃん。別にいいんだぜ。あいつの分でチャラにしといてやるよ」

「ん?そうか。じゃあ、頼んだぞ」

 

 結局奴の分を払ってしまう羽目になったが必要経費と思えばいい。今のところそこまで困窮はしてないのだから。

 

「そんで巫女様…話って何をすれば…」

「お前、山で働いてるのか?」

「あ、ああ。そうだが…」

「そうか。そこで家族や知り合いが熊に襲われたとかそんなとこか」

「……ああ、そうだ。うちの弟がな」

「やっぱりか」

 

 そりゃ冗談みたいな話をしてる奴らがいれば口を挟みたくもなる。

 

「…生きてるのか?」

「生きてる…が、あの身体じゃ満足に働くことも出来ねえ。毎日泣きながら謝るんだ」

「辛いな」

「俺の辛さなんて巫女様にはわからんだろうさ。俺も弟の辛さは到底理解してやれない」

「最もだな。お前の辛さも、お前の弟の辛さも、お前達自身にしかわからないことだからな。ただ客観的に見ても辛そうって話だ。周りはどうしてやることも出来ない」

「そうだ…巫女様、無理を承知でお願いするが、神の力とやらで弟を治してくれないか?」

 

 神とて万能ではない。少なくとも全知全能の神はこの国、現実世界のこの国にも存在しない。

 

「うちの神はそっち系じゃないんでね……そもそも神と言っても神見習いだ。そんな大層な力は持ち合わせてない。すまんな」

「いや…いいんだ。無理を言った」

 

 そう、出来るのは精々パンチコ弾と風呂沸かしくらいなのだ。後もう一つあるのは知っているが見たことがないし、他にあったとしても知る由もなし。

 

「ほいよ、蕎麦一丁!」

「ありがとう。さ、遠慮せず」

「あ、ああ…」

 

 さっき注文した蕎麦が届いたが中々手をつけない男に食べさせる。

 

「じゃあ本題だが…食べながらで聞いてくれ。実はな、昨日も熊に遭遇してな」

「昨日もだと?」

「そんときは子連れだったんで追い払わずに飽きてくれるまで篭ってたんだが…それはよくて、毎年こんなもんなのか?あいつらが言うには殆ど見ることはないって話なんだが」

「ああ。ここ何年かはあまり見かけなかったし、見かけても向こうから山の奥に帰って行ってたよ。ただ、今年はどうも山の実りが悪くてな…結構下まで降りてきてるらしい」

「なるほどな」

 

 ここ数日、山の中で過ごし探索もしたのでなんとなく察してはいたが、本職の人間もその判断を下しているのならそうなのだろう。

 

「弟も山に関しての知識は十分持っている。だから注意していたんだがな」

「……冷める前に食べてしまいな」

「ああ」

 

 だとすれば、やはり野宿は危ないかもしれない。火を焚いているとはいえ寝る前には小さくするし、空腹の熊相手に火などなんの効果もないだろう。早急に屋根と壁のある拠点を考えなければならない。

 

「美味かったぜ、ありがとうな」

「ん」

「それじゃ悪いが仕事に戻る。巫女様も気を付けるんだぞ」

「ああ、無理言って悪かったな」

「いや全然。じゃあな」

 

 そろそろ…というか、ようやく本来の目的を果たせそうだ。なんだかんだあったが野菜の入手には目処がついたし、一応ながらも名前を売ることが出来た。後は肉とちょいちょいしたものを探して買って帰ればいいだろう。

 

「ご馳走様、色々とすまなかったな」

「そんなことはない。お陰でいつもの3倍は儲けが出そうだ。ありがとよ」

「それなら良かった」

「また来てくれよ。嬢ちゃんが居たら客も増えそうだしな」

「機会があればまた来るよ、じゃあ」

「おう、毎度あり」

 

 店を出て中心部へ向かう。何をするにしても勝手が分からないので見知った場所をセーブポイントにして行動しないと迷子になりそうだ。この通りは基本的に出来たものを売っていて材料は売ってないし、まずはそっち系の通りを探さないとならない。そういえば甘味屋なんかもあるらしい。ミワが居れば確実に入っていただろうが今日は一人だ。今度来た時は寄ってみてもいいかもしれない。今頃ミワは何をしているんだろうか。変なことに巻き込まれていないといいが。

 

 

「ふ……ここにあったか100円め…いえ、ここで会ったが百年目よ。私とトヒの愛の巣に土足で踏み込んだこと、後悔するといいわ!」

「……」

「今はツッコミが不在だから私のボケをフォローしてくれる人は居ないの。つまり、今この場は私の独壇場…ホームグラウンドよ!」

「……」

「取り敢えず…何か食べる?」

 

 

 何故だろう。何か嫌な予感しかしないがどうすることも出来ない。早めに買い物を済ませてさっさと帰ろう。





今ある分は区切りのいいところまで何とかしますが以降はどうなるかちょっと分かりません。章単位の大筋は出来てるんですが中身が詰めきれてないんですよねえ…
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