居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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今回は少し短めです。
とは言うものの最初の方の標準だったんですが。



少女邂逅

 まず時期的に考えて実梅は売っていないだろう。場所的にもおそらく栽培もあまりされていないだろうから、梅干しを食べたいなら梅干しを買わなければならない。取り扱っている問屋に行ってもいいが、この間の米問屋みたいな量り売りをしてくれるとは到底思えない。問屋から買っているところから買えばいいのだが、物は移動する度に金額が増えていく。あまり得策とは言えない。梅干しの振売はあまり聞いたことがないがそれをとっ捕まえるしかない。

 肉に関しては精肉店みたいなところがあればいいのだが、冷蔵の技術がまだまだ発達していないだろうこの世界でそれは難しそうだ。だとすると生きたものを買って自分で捌くことになるのだろうか。流石にやったことがないので、その場合、肉は諦め外食に頼るしかない。

 他はおやつになるものやら保存の効くものがあればいいだろうか。山で拾ったクリでも十分美味しかったがやはりミワも砂糖菓子が食べたいだろう。干物も塩漬けしたとはいってももって一週間がいいとこだ。現状、川から離れた途端に食料確保が難しくなる。保存食は買っておいて損はないはずだ。

 

「さてと…売り子を探すなら…長屋か」

 

 一旦大きな通りに出てはみたものの売り子とて道行く人に売り込みをかけるわけがない。

 

「でもなあ…長屋の周りをうろつくと目立つしなあ」

 

 現時点で既にかなり目立っているがまだ似たような服装を見かけることもある。大方、芸者か変わり者なのでその部類に入るのは甚だ遺憾であるが。長屋というものは決して閉鎖的というわけではないが、遠くの親戚より近くの他人を体現したような暮らし形態なのだ。余所者が、それも変な格好をした者がうろつこうものなら悪目立ちするし下手すれば追い出されかねない。見た目だけではまだジャージの方が馴染めるまである。うだうだしていても仕方がないためどこか近く長屋の入口付近まで歩いてみる。この間に売り子を見つけて梅干しを扱っていればいいのだが。

 

「まあ、無理だよな……」

 

 少し離れて入口が見える位置から窺っていたが無理だった。梅干しどころか売り子すら見つからない。やはり基本は朝なのだろう。穏健派も朝に仕事を終えていたと言うし。

 

「どうしたもんか」

「どうしたの?」

「ん?」

 

 下から急に声がかかる。この世界に来てからやけに声をかけられる。普段なら自分から声を発するまで気付かれないことも多々あるのだが。やはり服装か。

 

「ねえ、どうしたの?」

 

 もう一度同じ声がかかる。一応反応はしたつもりだが正面を見たままなのが良くなかったのか話しかけるなオーラが伝わらなかったのか。目線を落とすと女の子が不思議そうな顔をしてこちらを見上げていた。

 

「ちょっとね」

「ちょっとどうしたの?」

「難しいことを聞く…」

 

 どうしたらいいかわからないから固まってるんじゃないか。愚痴っても仕方がないので言わないが。

 

「この服、変だね」

「変じゃない」

「見たことないよ」

「そりゃそうだろう」

「触ってもいい?」

「悪かないが」

「わーい」

 

 ただの巫女服なのだが。正月や七五三で神社に行けば1人や2人いるだろうに。触る機会はないかも知れないが。裾を撫でたり軽く引っ張ったりとずっとさわさわする少女。そろそろ満足してくれないだろうか。

 

「面白いか?」

「うーん、面白くはない」

「じゃあ何でずっと触ってるんだよ」

「気持ちいいんだもん」

「世が世なら捕まってるぞ」

「お奉行様のとこに連れていくの?」

「いや行かないが。そろそろやめないか」

「えー」

 

 口で言うのとは逆にさっと触るのを辞める少女。聞き分けのいいことだ。

 

「何か用か?」

「ううん」

「ないならなんで」

「あなたがここにいたから」

「おおう…」

 

 なんだろう軽く告白された気分である。おそらく他意はなく、単に見かけない人がボーっと立っているのを見つけたからちょっかいを出しにきたとかその程度だろう。

 

「おねーちゃんは誰かに用なの?ここにいる人だったら連れてきてあげるよ」

「あーいや、誰かに用ってわけじゃ」

「ふーん」

「うむ」

「……」

「……」

「……」

 

 少女が何も言わないので特に会話がないまま数分。放置して長屋の入口を見ていたがある程度の区切りは必要だ。別の長屋を張るか売り子探しを諦めるかしないと時間の無駄である。

 

「どうしたの?」

 

 立ち去るのに声をかけようとして少女の方を見るとずっとこっちを見ていたのか先に喋られた。

 

「ここを離れるだけだ」

「どこに行くの?」

「まだ決まってない」

「付いていってもいい?」

「いや悪かないが…」

「わーい」

 

 知らない人に着いて行ってはいけません、と親から言われなかったのだろうか。何なら率先して着いてこようとしている。誘拐の既成事実を作って後から何か言われたりしなければいいのだが。

 

「おねーちゃんこの辺の人じゃないでしょ。案内してあげるよ」

「何でそう思うんだ?」

「んーなんとなくかな。どこに行きたい?」

 

 きちんと会話は噛み合っているのだが、どこかズレている気がする。突拍子もないことをずっと言われている気分だ。人との会話経験値が足りないだけなのかもしれないが。

 

「じゃあ肉を売っているところ」

「お肉だね!わかった。付いてきて」

「あ、うん、よろしく」

 

 付いてくるんじゃなかったのか。いつの間にか立場が逆転している。正直一人で歩き回るよりかは効率的なので助かってはいるがどうも釈然としない。

 

「おねーちゃんはどこから来たの?」

「遠いとこ」

「どうしてこの街に来たの?」

「やることがあってね」

「おねーちゃんは何する人なの?」

「見てわかんないか?巫女だよ」

「巫女のおねーちゃんがここで何してるの?」

「探し物だよ」

「食べ物を探してるの?」

「まあそうだな」

「ふーん」

「うむ」

 

 矢継ぎ早に襲ってくる質問をのらりくらりと無難な答えで返しながら少女の後を付いていく。裏道のような細い道ばかりを通って大通りは横切る時にしか使わない。最短距離で行ってくれているのだろう。

 

「詳しいんだな」

「何が?」

「道」

「自分が住んでる街だもん」

「それもそうか」

「他に何か探してたら言ってね。途中にあるところなら先に寄るから」

「ん、じゃあ、砂糖菓子とか保存食が売ってる店。安いところがあれば尚良しだな」

「そうだなあ…じゃあちょっと戻るけど先にお菓子が売ってるところに行こうか」

 

 先程横切った大通りまで戻る。

 

「ここを右に出て三軒目が贈り物に使ったりお茶を点てる時に使うお菓子を売ってる店。その向かいの店は街の人が自分たちや家族のために買う店だよ。甘味屋はまた別にあるからそっちなら先に進もう」

「ふむ…求めていたものだ」

「じゃあここで待ってるね」

「ん?うむ」

 

 何故ここまで来て急に放り出されるのか。まあ待ってると言うのなら置いていくしかあるまい。

 向かいの菓子屋に入ると、いや入る前からフワッと甘い香りが漂っていた。色んな種類の羊羹や饅頭が並んでいる。どれも二口サイズで銅5…100円くらい。少しお高めだが貴重な糖分源だ。他には団子などの茶屋で出されるようなものが売られており、奥にはお目当ての砂糖菓子…金平糖が置かれていた。

 

「一斤1金…」

 

 洒落にならない。いや、洒落にはなってるが洒落になってない。流石に高過ぎやしないか。1金は10銀で1000銅、つまり20000円。アナイから貰った初期費の2/3だ。ポテチくらいのサイズの袋に入りそうな金平糖がそんなにしてたまるものか。

 

「一斤は600gだろ…一粒1gとして600粒…うーんこの時代なら適正価格なのか…」

 

 もちろん一斤単位で売っているわけではないだろうが、とは言っても金平糖一粒に30円はとても出せたものではない。仕方がないので饅頭をつぶ餡とこし餡3つずつ買って菓子屋を出る。金平糖に後ろ髪が引かれなくもないが贅沢できる身ではないのだ。

 

「ただいま」

「あ、おかえりー。じゃ、行こっか」

 

 路地で待っていた少女が立ち上がって先を行く。

 

「欲しかったものは買えた?」

「半々だな」

「なかったの?」

「あったんだが高くてな」

「あらら、残念」

「また今度買うさ」

「次はお肉だね。すぐそこだから」

 

 前を行く小さな背中を見る。急に話しかけてきて今は目の前を歩いている。この街の人間性なのかこの少女の人柄なのかは分からないがとても親しみやすい。今まで家族以外ではミワや神社の関係者とくらいしか打ち解けることがなかったのに比べて大した成長ぶりである。

 

「着いたよ。この通りを左に出て五軒目」

「五軒目だな。わかった」

「お肉というかお肉になる前の状態で売ってるからそこは注意してね」

「つまり…生きてるのか」

「そういうことだね」

「加工品は無いのか?」

「隣で売ってるよ」

「パチ屋みたいだ」

「じゃあ行ってらっしゃい」

 

 通りに出るとさっきの通りとは違い人の数も少なく静かな場所だった。やはり生物(なまもの)を扱うだけあって別の区画にされるのだろう。皮を扱う店や怪しい漢方を扱う店が並ぶ。その先には肉屋…食肉獣屋がある。こんな街中に牛や馬が売られているとは思えないのだが。

 

「ああ、なるほど…」

 

 予想していた大物は居らずいたのは鳥だった。ウズラやカモなど小さめの鳥だ。確かに鳥であれば建物内でも置いておける。

 

「いやでもなあ…」

 

 鳥なんて〆たことがない。それに丸々一羽買うなら毎日卵を産めるメスの鶏を買う方がお得だろう。しかし、そもそも求めていたのは鶏肉ではないのだ。

 隣の加工品の店には、干し肉や燻製肉が売られていた。ただ例によって何の肉かはわからない。流石にここまで干からびているものを見て判断するのは無理がある。陳列札を見る限りだと牛、馬、鹿、鳥などなど…猪や狸まであるらしい。猪鍋や狸汁なんてのは昔話でもよく聞く名だ。

 

「燻製の方がちょっと割高だな…干し肉は湯掻けばある程度柔らかくなったりするかもしれんしこっちだな」

 

 取り敢えず適当に牛と猪と鳥の干し肉を買う。銀2と結構な出費にはなったがここはケチって居られない。貴重なエネルギー源だ。

 ついでに皮製品を扱う店も覗いてはみたが、今すぐに必要になるものもない上にそれなりにお高かったので何も買わずに出てきてしまった。

 

「ただいま」

「買えた?」

「うむ」

「じゃあ最後だね」

 

 再び少女の後を付いていく。字面だけ見るとヤバさがパない。それにしても何故ここまで世話を焼くのだろうか。自分で言うのもなんだが、周りに比べると結構怪しい身なりをしているし今買おうとしているものだって街人が日常的に買うものではない。おまけに愛想もない。立場が逆なら絶対に関わりたくない部類である。

 

「ねえ、巫女のおねーちゃん」

「む?」

 

 急に少女が止まってこちらを振り返る。先程の質問の続きだろうか。さっきは適当に流したがここまでしてもらった手前、塩対応は良くない。

 

「ううん、やっぱり後でいいや」

「そうか」

 

 また歩き出す。こういうのはだいたい後からあの時聞いておけば…みたいになるやつである。とは言っても後でいいと言っている相手に今言えとも言えない。後悔しないことを祈ろう。

 

「到着だよ」

「近かったな」

「この壁がお店の壁だね」

「ほう」

「じゃあ行ってらっしゃい」

 

 通りに出てすぐの店に入る。リクエストは保存食が売っている店だったのだが、ここは食に限らず色んな長期保存出来るものがあった。全部買うと少し贅沢な防災セットになりそうだ。醤油や塩などもあったが前に買ったものより少し高いので専門店と比べるとやや高くなっている。先程買った干し肉も置いてあるが例に違わず。

 

「味噌…高いなあ…」

 

 味噌汁が恋しくなってきたのだがちょびっとしかないのに銀1もする。基本薄めなのだがそれでも2回も鍋で作ったら終わってしまう量だ。現実世界では期限内に使い切るのも難しいくらいの量がお手軽に手に入ったというのに。醤油も味噌も大豆から出来るんだから一緒みたいなもんだと勝手に思っていた。

 

「さて、梅干しはと…」

 

 本命の梅干し。元の目標である売り子から買うよりかは当然高いのだろうが捕まえる労力と量の問題を天秤にかけるとここでいいやという気にもなる。何より女児が連れて来てくれたのだ。何も買わずという訳にもいくまい。

 

「半升の壺売り…だいたい1kgで銅80か…もうちょい少ない方がいいな。重いし20個くらいでいいんだが」

 

 ミワがいれば重いものは全部持たせることが出来るのだがそういう訳にいかない。買ったものは全部自分で運ばなければならないのだ。その後、見つけた佃煮と沢庵を買って銀1のお支払い。米のお供には当分困らなさそうだ。

 

「ただいま」

「おかえり。それは?」

「梅干し」

「しまわないの?」

「梅干しには少し苦い思い出があってな」

 

 梅干しは酸っぱいのだが断じてそういうことではない。昔、お弁当と間違えて梅干しが大量に入った箱をカバンに詰め込んだ。いざ食べようとしてカバンを開けるとカバンの中が梅まみれになっていたことがあったのだ。何故弁当箱と梅干しの入った箱が似たようなデザインで並んで置いてあったのかは未だに謎だ。

 

「ふうん。これで終わり?」

「ああ、そうだな。ありがとう。助かった」

「結構歩き回っちゃったけど帰れる?」

「そういえばここはどの辺なんだ」

「街の南の端かな。分からなかったら案内するよ」

「お願いしよう」

「じゃあ行こっか」

「あ、待て待て。少し待て」

「どうしたの?」

 

 少女に菓子屋で買った饅頭を渡す。つぶ餡とこし餡を1つずつ。

 

「お饅頭?」

「まあ、お礼と言ったところかな。貰ってくれ」

「…いいの?」

「勿論」

「ありがとう」

 

 大事そうに饅頭を手に包む少女。今食べないのか。

 

「後で食べるよ。しっかり案内するね」

「後で、か…」

「え?」

「いやなに、さっきも後でって聞いたなと思って」

「そうだっけ?」

「いやいいんだ。じゃあ取り敢えず最初に会ったところでいいや。あそこからなら帰れる」

「わかった」

 

 例のごとく街を縫うように細い路地を通って移動する。自分だけだといちいち中心の大きな通りまで戻ってそこから延びる通りを一本一本店の確認をしながら歩いていただろう。

 

「いやーでもホントに助かった」

「いいんだよ、全然」

「そうだ。まだ名前聞いてなかったな」

「そういえばそうだね。巫女のおねーちゃんは何て名前なの?」

「トヒ」

「へー!私はサクっていうの」

「そうか、サクか。早速だが、サク。一つ聞いてもいいか?」

「何?」

「今はどこに向かってるんだ?」

「え?」

 

 サクが驚いたような顔をする。

 

「どこって…今日会った長屋の入口だよ。トヒがそこまで行けば帰れるって」

「そうか。それはおかしいな」

「…何がおかしいの?」

「どうも違うの方に行ってる気がするんだが」

「気の所為じゃない?トヒはこの街の土地勘がないから」

「まあ確かにそうだが…アレ、見えるだろう」

「アレ?お城?」

「そう、この街に居ればどこからでも見える無駄に高いあの塔。土地勘がなくてもアレを見ればだいたいどの方角にいるかくらいはわかる」

「私がトヒを騙してるって言いたいの?」

「途中までは多分普通に案内してくれてたんだろう。だからわかんないんだ」

「……」

「サク。さっき言いかけてたこと、何だ?」

「……」

「そうか。言いたくないならいいさ。ここからは自分で帰るよ。今日はありがとう」




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