居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました 作:公序良俗。
前回と同じくらいですね。まとめても良かったんですがまあ延命治療ということで。
「どこって…今日会った長屋の入口だよ。トヒがそこまで行けば帰れるって」
「そうか。それはおかしいな」
「…何がおかしいの?」
「どうも違うの方に行ってる気がするんだが」
「気の所為じゃない?トヒはこの街の土地勘がないから」
「まあ確かにそうだが…アレ、見えるだろう」
「アレ?お城?」
「そう、この街に居ればどこからでも見える無駄に高いあの塔。土地勘がなくてもアレを見ればだいたいどの方角にいるかくらいはわかる」
「私がトヒを騙してるって言いたいの?」
「途中までは多分普通に案内してくれてたんだろう。だからわかんないんだ」
「……」
「サク。さっき言いかけてたこと、何だ?」
「……」
「そうか。言いたくないならいいさ。ここからは自分で帰るよ。今日はありがとう」
踵を返して街の西の出口に向かう。ここから北へ進めば見覚えのある通りに出るだろう。違和感は最初からあったのだ。長屋に出入りする人をずっと見ていたとき、子供の姿が全く見えなかった。その時は単身者の集まる長屋なのかなとか習い事に出払ってるのかなと思っていた程度だが、そこに現れたのがこの少女…サクである。最初に見下ろしたときに胸元からチラリと見えた変色した肌。顔や手足など外から見える部位は健康そのものに見える辺り、単なるアザではなく考えてつけられたアザだ。それが誰の手によるものなのかは知らないが踏み込むところでもないので気付かないフリをしていたのだが。
「…待って」
後ろからか細い声が聞こえる。先程までの明るく振る舞うような声とは違い、今にも泣きそうで消えてしまいそうな声。
「待ってよ!」
「ん?」
「トヒは巫女なんでしょ」
「まあ」
「神様に仕えてるんでしょ」
「そうだな」
「助けてよ」
「何を」
「チルを…私のお姉ちゃんを…!」
成程、だいたいの流れは分かった。おそらく姉をダシにして今回のように土地に明るくない者を案内するフリをして人気のないところに連れ込むようなことを何度もさせられてきたのだろう。後は待ち構えている仲間が身ぐるみを剥がすなりどこかに売り飛ばすなり…案内役がサクくらいの子供だったら警戒もされない。良い商売をするものである。
「何で」
「何でって…」
理由を問われ声を詰まらせるサク。自分の利益の為に陥れようとした相手に向かって助けてくれというのは筋違いだということはわかっているようだ。別に助けてやりたくない訳ではない。そりゃこんな少女を痛めつけるような奴らはピンポイントに雷でも落ちればいいとは思う。
「ただの小娘一匹に何が出来るって言うんだ。それならまだ回りの大人に言った方が数倍マシだろう」
「私も最初はそうしたよ…でも誰もちゃんと話を聞いてくれなくて…ずっとこんなことしてたら私も仲間だって思われるようになって…」
「だから裏道ばかり通るし通りには出てこないのか」
コクリと頷くサク。今までよく捕まらなかったものだ。しかしそれがサクの本意であろうがなかろうが実際一味であることは変わらない。事情を知らない者からすれば余計である。
「親は?親だったら信じてくれるだろう」
「火事で死んじゃった…」
「じゃあ難しいなあ…いっその事、大人しく捕まって本当のことを話せばいいんじゃないか?」
「ダメだよ…捕まっちゃったらチルが…」
「むう」
常に爆発可能な爆弾を持たされて生きているという訳だ。サクが捕まったと分かった途端、姉を殺して逃げるとかそんなとこだろう。
「ん?でも、サクが捕まったってことをどうやって知るんだ?」
「見張りがね、いるんだ」
「てことは今もか」
「うん」
「さっき肉屋で買い物してる間に標的になっちゃったのか」
「うん…トヒを待ってるときに…」
少し財力を見せつけすぎたようだ…と言うよりかは格好が目立ち過ぎたのだろう。この巫女服はそこまで高級なものではないが、こちらの世界の生地に比べると遥かに質感が良い。売ればこの服だけで今の所持金くらいなら上回りそうだ。後はこのリュックサック。風呂敷や背負子なら背負っているがカバンを背負っている奴など全く見かけない。帰還用の腕輪は…見えていないはずだ。実際の所持金の方は旅人にしてはそんなに持っていない。
「じゃあ取り敢えず連れてってくれ」
「え?いいの?」
「良くないが仕方ないだろう。今ここで逃げたらどうなることやら」
「ごめんね…ごめんね…」
「そのかわりわかる範囲で知っていることを全部教えてくれ。着くまでに何か考える」
「うん…わかった」
どうしてこんなことになってしまったのか。今嘆いたとてどうなるものでもないのだが。サクの話によるとやっていることはだいたい思っていた通りだった。アジトは街の南東、いわゆるスラム街のようなところにあるという。一帯をナワバリにしているらしく近付くものはほとんど居ないらしい。構成人数はサクの知る限りでサクの見張りに1人、アジトの入口に2人、中に4人。凶器と呼べるものは刃物や鈍器の類いで飛び道具はなし。チルはアジトの奥に鎖で繋がれており、夜はサクも同じ部屋で寝ているそうだ。
「なるほど、聞いた感じだとただのチンピラにしては割としっかりしてるな」
「どうするの?」
「まあまずは一旦捕まるしかないだろなあ…後で隙を見て逃げ出して神様を応援で呼んでこよう」
「えっ」
「いきなり逃げちゃ入ってくる情報も入ってこないしな。それにサクの役目はそいつらの前に連れていくとこまでだろう?その後に逃げればサクのせいにもならない。安心しろ、必ず戻ってきてやるさ」
「大丈夫かな…」
「疑ってもしょうがないんだから信じて待ってな」
「い、いや、違うの。疑ってるんじゃなくてね。捕まった後そんな簡単に逃げ出せるのかなって」
「んーまあ、捕まり方次第だろうなあ…いきなり手首足首縛られて吊るされたら流石に何も出来ん」
「トヒは女の子だから傷跡が付くようなことはしないと思うけど…」
「そうあることを願おう」
話しているうちにいよいよ周りがきな臭くなってきた。どこかで吠える野犬、崩れた建物。心なしか一帯が灰色に見える。サクもさっきから口を噤んだまま何も喋らない。ここまで連れてこられた先駆者達は何を考えていたのだろう。まさか目的地がこの先にあるとは思っていまい。
「じゃあこの辺で始めるぞ」
「うん…気を付けてね」
小声でサクに合図する。
「おい!本当にこっちで合ってるんだろうな!」
「合ってるよ」
「そんな訳あるか!こんなとこに店なんか開く奴がいるもんか!」
「そんなことないよ。ちゃんとあるから」
「もういい!帰るから!街に引き返す!」
「……」
「おい!無視をするんじゃあない!」
サクが急に駆け出し、建物の陰に消える。代わりに出てきたのは長い棒を持った男。振り返れば脇差くらいの短い刀を持った男と鎖鎌を持った…なんでそんな暗器を持ってるんだ。飛び道具はないと聞いていたがまあ普通に見れば分からんか。
「どうしたあ?そんな大きな声出して」
「な、何だお前らは」
「なあに…通りすがりの正義の味方だよ。小さな女の子が泣きながら助けてって言うんだから正義の味方としては断れねえよなあ」
「助けて…だと?あいつがここに店があるって言うから付いてきたのに騙したんだ。助けて欲しいのはこっちの方だ」
「まあ話は後でじっくり聞いてやるからよ。取り敢えずついてきてもらおうか」
「そうか…お前ら、グルだったんだな!」
「なんのことかねえ…」
「女、大人しくしろ。3人に勝てると思ってるのか?」
「……わかった。黙ってついてってやる。但し指一本触れるなよ?」
「おー怖い怖い」
棒の男が先頭、横を刀、鎖鎌が後ろについて移動する。この時点で気絶させられたり目隠しされたりしたらどこに連れていかれたか把握するのは難しかったろうが、まずは良かった。サクが消えていった建物を通る時、チラリと目をやったが既にサクは居なかった。
先頭を歩く棒男はチャラけた感じでよくいるチンピラみたいな奴。午前中にも似たような奴に絡まれた気がする。隣を歩く刀男はいかにも壮年の剣士という感じが出ている。風貌といい声といいこれでただのじいさんだったら見掛け倒しもいいとこだ。そして後ろを歩く鎖鎌…顔を隠しラインの見えない服を着ている上にまだ声を聞いていないので男女の判定は出来ていないが、暗器なんか使っている辺り少なくとも普通じゃない。この3人はサクの見張り役から餌が釣れたことを聞いて出てきたのだろうか。だとすれば、今アジトには入口の2人と待機組の1人、そしてチルが居るということになる。サクも恐らくアジトに戻っているだろう。とまれアジトまで連れて行ってもらえないことにはチルを助けることは出来ないので今は大人しくついて行く。
「どこまで行くんだ」
「…」
「おい、どこまで行くんだ」
「黙ってろ」
隣を歩く刀男は全く取り合ってくれない。
「いいじゃないすか喋るくらい。暴れて逃げ出そうとしないだけお利口さんすよ、こいつ」
「ふん…」
「もうちょっとで着くからあまりこのじいさんの機嫌を悪くしないでくれるか?」
「誰が…まあいい」
前の棒男が刀男の代わりに答える。答えにはなっていないが。
「そら、あそこだ。まあゆっくりしていってくれ」
「…」
「そんな顔するなって…悪いことしてるみたいじゃないか」
「戯言を」
周りに比べてしっかりと立っている建物。人が住んでますよと言っているようなもんだ。再訪問する際に見つけやすいのは結構なことだがアジトとしてはどうなんだろう。サクに聞いていた通り入口に2人居たが番をしているというよりか、ただ居るだけのような感じに見える。まあここまで誰ともすれ違わなかったくらい人が居ないので見張る程のことでもないのだろう。
「おい、お客だぞ」
「ん、ああ…ご苦労なこった」
「へえー珍しい。女じゃねえか」
「あいつは帰ってきてるか?」
「さあ、さっき裏で音はしたが」
「ちっ…表から入れっていつも言ってんのに…」
「お前は嫌われてんだろ」
「違いねえ」
「うるせえ」
なるほど、裏口があるのか。裏口に見張りが居ないようなら表を強行突破する必要もない。
「無駄口を叩くな」
「へいへい…ささ、どうぞ中へ」
刀男の一喝。さっきもそうだが歳相応の扱いはされているが大分舐められているようだ。なぜこのような人がここにいるのか。
中は一見すると普通の店の構えをしている。その昔は店舗として使われていたのだろうが今は見る影もない。手前に階段、奥にもまだ部屋があるようだ。サクとチルは2階だろうか。
「じゃあ後は頼んだぞ」
棒男が鎖鎌に声を掛ける。鎖鎌は黙って階段を登っていく。ぼーっと見ていると途中で振り返りこちらを見てくる。暫く見つめ合っていると顔を背け2階に消えていった。
「女、ついていけ」
「いや自分で喋れよ」
「あいつ、俺たちの前では一言も喋らないんだよ。なんでたってあんな奴がここにいるのか」
2階からドンと壁か何かを殴る音がする。棒男が苦笑いしながら早く行けと手をシッシッと振る。いつものことなのだろうが怒られるのが分かってるなら言わなければ良いのに。
階段を登りきると鎖鎌が部屋に入っていく。仕方ないので後に続いて部屋に入る。何もない、3畳くらいの狭い部屋だ。
「脱げ」
「え」
初めて鎖鎌が声を発した。余りのロリ声に聞き違いかとまで思う。女だったのか。背は高いので流石に子供ではないだろう。
「脱げ」
固まっていると再び同じことを繰り返す鎖鎌…の女。身体チェックだろうか。まあ男の前で脱ぐよりはマシなので黙って従う。カバンを下ろし袴の紐を解く。
「待て」
「え?」
脱げというから脱ごうとしてるのに待てとはどういうことか。鎖鎌を見るとこちらに背を向けて手で目を覆っている。
「服じゃない。履物だ」
「え?あ、ああ…すまん」
鎖鎌の足元を見ると確かに履いていない。そしてもう一方の手で指す方を見ると部屋の入口に草履が綺麗に揃えて置かれていた。余りの羞恥ぶりに思わず謝ってしまう程だ。可愛いなオイ。
「脱いだが」
「服は」
「着てるが」
鎖鎌がこちらを振り返る。
「っっ!」
そしてもう一度背を向ける。
「何故脱いでいる!」
「いや着てるが」
「上を着ろ!下を履け!」
可愛い。何となく面白そうだったので白衣と袴を脱いでみたらいい感じの反応をしてくれた。まだ襦袢を着ているので肌の露出は少ないのだが。
「着たぞ」
「本当か?」
「ああ、下着を賭けてもいい」
「そうか…ってもし着てなかったら下着まで脱ぐことになるだろう!」
「冗談だ」
「そ、そうか…よかった」
「服を着たというのが冗談だ」
「何故脱ぐ!」
「冗談だ」
膝を抱えて蹲ってしまった。これ、今なら普通に逃げ出せるのではないだろうか。
「用が無いなら帰るぞ?」
「駄目!駄目だ」
「駄目だと言われても無理やり連れてこられたんだ。頑張って引き止めないと逃げちゃうぞ」
「し、しかしだな」
「じゃあ」
「待ってくれ!」
鎖鎌が脚にすがり付く。必死にこちらを見ないように顔を背けて眼を瞑っている。
「おい」
「何だ」
「眼を開けろ」
「それは…」
「いいから」
鎖鎌がゆっくり眼を開ける。
「なっ…」
「残念、着てました」
「こいつ…」
「で、どこを触っているのかな」
「あ、すまない、これは、その、違うんだ」
鎖鎌がパッと手を離す。袴がスルッと下に落ちる。
「しまった。紐はまだ結んでなかったみたいだ」
「〜〜〜!!!」
遂に膝をついて頭を抱えてしまった。可愛いかよ。
「さて、そろそろ真面目にいこうか」
「そ、そうだな…」
恐る恐る顔を上げる鎖鎌。流石にもうふざけている場合ではないのできちんと着直している。鎖鎌も仕切り直しと言わんばかりにパチンと両のホホを叩くとこちらに居直る。
「まず聞きたいことがあるんだが聞いてもいいか」
「いいぞ」
ここでダメだと言ってしまうとまたさっきのようなことの繰り返しになるであろうことはわかっているらしく、渋々といった感じで了承された。
「何故ここに連れてこられた」
まずはジャブ。誰もが開口一番に聞くことだろう。それは向こうもわかっている。答えるかどうかは兎も角。
「誤魔化さずにハッキリ答えて欲しい。なんとなく予想はついているからな」
「…人売りだ」
「どこに」
「男は肉体労働、女は遊郭か金持ちの家だ」
「ちなみにどっち行きだ」
「まだ分からんが…遊郭ではないだろうな。お前は客がつかなさそうだ」
「結構なこった」
大方、無愛想で胸に実りがないからだろう。男なんて皆、愛嬌のあるたわわが好きなんだ。ミワを見ていたらよくわかる。
「怖くないのか」
「そりゃまあ黙って売られるつもりはないからな」
「ふん」
何せ逃げる予定で捕まったのだ。逃げられないどころか売られてはたまったもんじゃない。
「次はこちらだ。個人証明とその包みに入っている物を全て出せ」
「いや、うーん…」
これは困った。個人証明はともかく、このカバンの中には旅やアウトドアに使うためのハイテクな道具が色々と入っている。この世界にはまだ早すぎるものも多いので安易に見せていいものか。
「仕方ないなあ…はいこれ」
まずは個人証明。本来ならこれもこれで気軽に渡せるものではないが、ここでの身分証明自体が偽造された様なものだ。この世の観測者がこの世の理を捻じ曲げて送り込まれた身としてはそこまで秘匿性のあるものではない。
「トヒというのか。この地名は…西方の国か?職業はどうせ巫女といったところか…ん?」
「ん?」
「巫女見習い…だと?」
「まあ、一応」
「っ!!」
「ぅわぁ」
鎖鎌が鎖鎌の鎖を膝の辺りに巻き付ける。避けるどころか抵抗することすら叶わなかった。そのまま引っ張られ膝が折れる。
「いったぁ〜」
「動くな!」
起き上がろうとした途端、眉間に鎌の刃先を突きつけられる。そして鎖鎌はゆっくりと背後に回り、鎌を首に添える。
「なんだなんだ穏やかじゃないなあ」
「黙れ。余計なことは喋るな」
「ふむ」
「聞いたことだけに答えろ、いいな」
「善処しよう」
「巫女見習いというのは本当か」
「そこに書いてある通りだよ」
「先日、街で行われた奇妙な芸というのはお前らの仕業か」
「奇妙かどうかは知らんが芸はしたな」
「もう一人はどうした」
「買い物してる途中ではぐれてなあ…どこにいることやら…今頃探してるだろうなあ」
「くそっ!しくじりやがって…」
嘘をついた。こいつらの獲物は居なくなっても誰も気付かないような者。連れがおり捜索がかかったとなると事情が変わってくる。如何に人目につかないように移動していたとしても、何れは目撃情報が出てくるだろう。そうなればここの場所がバレる恐れがある。
「一つ提案だが」
「余計なことは喋るなと言っただろう!」
「無傷で解放してくれれば何も見なかったことにしてやらんでもないぞ」
「黙れ!」
「ぐわだっ」
「貴様…履物を脱げと言っただろう!!」
後頭部に強い衝撃が走る。言ったそばから殴られてしまった。一撃で人を気絶させるのって結構難しいんだぞ…
来月まではもちそうです。