居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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急に寒くなりましたね。



説明会壱

「高天原じゃないか」

「今日の説明会の会場よ」

「会場って高天原なのか…」

「そりゃ神様関連のプロジェクトなんだから当然じゃない」

「でも、まさかなあ…」

「取り敢えず入りましょ。中に椅子くらいは置いてあるでしょう」

「休憩所じゃないんだぞ?」

 

 脇には警備員の詰め所のようなものがあったが、特に止められることもなく建物の中に入る。まっすぐ進んで受付のおねーさんに会釈をする。

 

「こんにちは。どのようなご用件でしょうか」

 

 いきなりやって来た小娘二人にも丁寧に対応してくれる。こんなところに用もなく来る輩など殆ど居ないのだから当然と言えば当然である。

 

「今日ここで行われる説明会にお伺いしました、ミワです。こっちはトヒ」

「どうも」

「少々お待ち下さい…ミワ様とトヒ様ですね。担当の者が参りますのであちらでお掛けになってお待ち下さい」

「ありがとうございます」

 

 壁際に設置されてある椅子にミワが崩れるように座り込む。足を上げ空中でバタバタさせるミワの前に立ち受付のおねーさんに見られないようにする。

 

「はーっ!つっかれたあ…」

「みっともない…」

「靴も脱いで横になりたい衝動が抑えられないわ」

「流石にやめてくれ」

 

 しばらくすると担当の者らしき人が現れ会議室のような小さな部屋に通された。そしてまた担当の者が来るのを待たされる。業務が細分化され過ぎやしないだろうか。案内してくれた人が部屋を出るやいなや、ミワが少し服を崩してパタパタと仰ぐ。

 

「いやーここはクーラーも効いてていいわねえ」

「だらしない…」

「トヒぃ~飲み物持ってなあい?」

「家から持ってきたのならあるが…ミワも持ってたろ?」

「んなものとっくに空っぽよ」

「なら全部やるよ。まだ一口も飲んでないし」

「ありがと。相変わらず水分摂らないわねえ…」

「自分でも不思議だよ」

 

 コンコンコン…軽いノックが聞こえた。

 

「入りまあす」

「え」

「え」

「いやあ!待たせたね!」

 

 ここまで意味のないノックもなかなかないだろう。返事をする間もなく扉が勢いよく開けられ、一人の子どもが入ってきた。ミワが急いで服を着直す。

 

「ミワ君とトヒ君だね?」

「あ、はい」

「そうです」

「まあ楽にして。さっさと済ましてお昼にしよう」

「はあ…」

「おっと、自己紹介がまだだったね。今回の新神募集の発案者にして責任者にして担当者のアメノ…げふげふアマノです。どうぞ宜しく」

「ミワです」

「トヒです」

「ふむふむ、じゃあ早速だけど少し話をさせてもらうよ」

 

 アマノと名乗ったその子どもはミワとトヒの向かいにちょこんと座った。

 

「まず、今日は来てくれてありがとう。今回このような募集をしているのは深刻な神不足によるものなんだ。技術の発展に伴い次々と新しいモノが生み出される。もちろんそれはいいことだ。しかしそれはその生み出されたモノを使う側の話だ。全く、管理するこちら側の立場にもなって欲しいものだよ。いや、別に技術の発展を疎んでるわけではないんだけど。それで毎回新しいモノができる度にそれに宿る神を今居る神の中から決めているんだけどもう皆手一杯でね。それに『最近のもんは難しすぎる!』って言って拒否する神も出て来る始末で困ったのなんの…まあわからないまま担当されるよりかはいいんだけどさ。というわけで新しいモノには若い神に担当させようということになったんだけど、力や経験の少ない若い神に複数のモノを担当させることも出来なくてね。若い神もそんなに居るわけじゃない。なら新しい若い神を集めればいいんじゃないか、という結論に至ったんだよ」

「なるほどぉ…」

 

 恐らく半分程しか理解出来ていないミワの生返事。宿り神のことは義務教育で習っている。それ以前に全てのモノは大切に扱いなさいと小さな頃から教えられている。まあ実際には一つ一つのモノに神が宿っているのではなく、加護が与えられているだけだということは分かっている。神様もそんなに暇じゃない。だからといってぞんざいに扱うようになるわけではないが。

 

「とまあこんな感じだ。さて、質問はあるかな?」

 

 一気に喋りきったアマノが一息つく。トヒはずっと思っていた疑問を口にした。

 

「では一ついいですか」

「いいよ、何かな」

「なぜ説明会の参加条件が二人以上なんでしょうか」

「え?それは登録時に書いてあったろう?」

「登録時?」

「説明会参加申し込みのときに色々と個人情報の入力があったと思うんだけど」

「えーと…それは私がトヒの分も登録したのでトヒは知らないんです。説明もしてませんでしたし」

「あー、あれだ。アイドルの書類審査に姉や友達が勝手に出しちゃうやつだ。自分の分もってのはなかなか聞かないけど」

「勝手にじゃないですよ…?トヒの親にはちゃんと許可は頂いてますし…まあ、トヒは私にとっては妹みたいなものですけどね!」

「こちらとしては経緯がどうであれ正式な手順を踏んでもらってるから問題はないんだけど…一応説明しておこうか。参加人数が二人以上なのは、一人は神としての役目を、他の者はその神に仕える巫女の役目があるんだ。巫女は別に何人でもいいから以上ってことにしてあるんだけど」

「は?」

「は??」

 

 予想だにしなかった事実に素でアマノに返事をしてしまう。

 

「アマノさん、ちょっと席を外しますね?」

「え、あ、うん」

 

 全く笑っていない笑顔に圧倒され頷くアマノ。

 

「ミワさん、こっちに」

「は、はいぃ…」

 

 肩をガシッと掴まれ為す術なく引きずられるミワ。

 

「ミワさん」

「な、何でしょう…?」

「先に言っておくことがあれば」

「よろしくね?」

「それだけでいいか?」

「えーと…」

「よし、わかった」

「わかってくれたの?」

「ああ」

「よかった…あれ、どうしてほっぺを引っ張るの?」

「どうしてお前に仕えなきゃならないんだよ!!」

「だって、だって、他に頼めるなんていないし…トヒは本物の巫女さんだから大丈夫かなって…」

 

 そう、確かに巫女はやっている。アルバイトではない、本職の。かつては母もその母も巫女で今は姉と二人でやっている。

 

「それにウチの神社で巫女してるんだったら私に仕えるのも大差ないかなって…」

 

 そう、ミワの実家は地元の神社である。祀られているのはミワの家系の先祖だと言われている。ミワの父はそこで神主をしている。

 

「いやいやいやいや、神社の巫女するのとお前の巫女するのとは大差だぞ!お前は神でも何でもないただのニートじゃないか?」

「いやいやいやいや、私のご先祖様が神様なんだからそれはもう私は神様ってことにならない?」

「ならねえよ!」

「あれ?じゃあ分家のトヒも神様?」

「違うだろ…」

「でもトヒのお母さんなんて二つ返事でOKしてくれたわよ?」

「ええ…」

 

 いやしかし、まだミワが神になったわけではない。まだ説明会の段階だし、ミワがせっかく働く気になったのは惜しいが今回はなかったことにしてもらおう。そもそもこれは働くことになるんだろうか。

 

「アマノさん、お待たせしました」

「仲が良いねぇ」

「いえ、ただの腐れ縁です。ところで今回の話はなかったことに出来ませんか?」

「え?」

「え?」

「まだ説明会ですし、ここから辞退ということで」

「何言ってるのよトヒ!」

「いや付き合ってられんし」

「私の神様ライフはどうなるのよ!」

「知ったことか。普通に働け!」

「えーと、こちらとしても初めての応募者をみすみす逃すわけにもいかないんだ。ぶっちゃけた話だけど、結構無理して予算を通した手前、何の成果も得られませんでしたってのは…もう一度考え直してもらえないだろうか?」

「と言われましても…」

「トヒ、私がニートになってもいいの?」

「もう立派なニートだろうが…」

「だからこうして職探ししてるんじゃない!」

「もっと地に足をつけてだな…」

「よし、じゃあ、お昼にしようか。そろそろ良い時間だろう。トヒ君の好きなものを用意しよう。続きはそれからだ。トヒ君、何か食べたいものはあるかい?」

 

 空気を変えるためかアマノが手を打った。昼を食べる前に退散したかったのだが先手を取られた。

 

「いえ、そんな」

「トヒは冷たいお蕎麦が好きですよ」

「おいこらミワ!」

「ようしわかった。少し待っていてくれ給え!」

 

 アマノは部屋を飛び出していった。

 

「何勝手に…」

「トヒのことだから『悪いから昼を食べる前に退散しよう』とか思ってたんでしょ」

「それがわかってるなら」

「神都の、それも高天原で食事する機会を逃してたまるもんですか」

「お前なあ…」

 

 椅子に座り天井を仰ぐ。少し頭の整理をする。ミワも話しかけてはこない。暫しの沈黙の末、口を開く。

 

「取り敢えず、もう一度よく考えよう」

「何を?」

「何をって…今回のこと全部だ。流石にすぐに受け入れられるようなもんじゃない」

「まあね」

「何よりミワが神様になるなんて考えられない」

 

 そもそも神はなれるものなのだろうか。研修を2週間受ければなれるような簡単なものでもあるまい。

 

「そりゃあ私も考えたことないわよ。でもね、こんなことが出来るのも若い内だけなのよ。今はこうして毎日自由気ままに生活を送っているけれど、10年後…いいえ、もっと早くかも。私は自由に生きていけないかもしれないんだから」

「そうなったらそれがミワの生きる道なんだよ。それを支えるのがうちの家の役目だ」

「そんなことないわよ。そんなので良いわけないじゃない」

「今みたいなミワの我が儘が通ってるのも、せめて今のうちはってことで大目に見られてるんだ。それくらいわかってるだろう」

「トヒはそれでいいの?」

「…何が」

「私が行ったこともないところの神社の見たこともない跡継ぎのところに行っちゃってもいいの?」

「…それは一介の巫女の分際で口出しすることじゃない」

「じゃあ、友達として…いえ、姉妹同然に生きてきた一人の人間としてのトヒならどうなの?」

「……」

 

 うちの家計は神社が出来た頃からずっと巫女の家系である。初代の神主の娘、つまり二代目の姉が初代の巫女であるとされている。当時は一族の中ではそれなりの権威があったそうだ。そんな家系の次女として生を受けた。一方、数日後、本家である神主の家系の長女としてミワが生まれた。既に一族の繋がりを重要視する時代でもなく、初代から枝分かれしたかなりの遠戚だったが、神主の家系と巫女の家系ということもあり普段から付き合いのあった両家。当然、双方が双方の遊び相手としてあてがわれた。それこそ生まれた頃からの付き合いで、親よりも、それぞれの本当のきょうだいよりも互いのことはよくわかっている。

 

「行くなとは言わない」

「えっ…」

「当然だ。どんな立場であってもミワの人生に口出しするつもりはない」

「そう…」

「でもな、今までずっと同じ道を歩んできたんだ。言ったろ、ミワの生きる道を支える。それはこれからも変わらんよ」

「どういう…」

「もしお前が嫁に行ったら追っかけてそこで巫女をやるさ。幸いうちには優秀な姉がいる。跡継ぎには困らんだろう」

「トヒ…」

「思えば二人でこんな話したことなかったな」

「そうね」

「まあ、それと今回のことはまた別だが」

「今そんな流れじゃなかったわよね?」

 

 顔を見合わせ二人で笑う。最近忙しかったのもありこうやって二人で笑うこともあまりなかった気がする。

 

「じゃあ、改めて…というか、まだ、1回も言ってなかったわね。私の生きる道はトヒの生きる道。同時にトヒの生きる道は私の生きる道。絶対に後悔はさせないわ。今更だけどトヒには迷惑かもしれない。でも今回は、いえ、今回も私に付き合ってくれないかしら」

「わかったよ」

「ホントに?」

「ああ、ミワに振り回されるのには慣れている」

「ありがと~トヒ!」

 

 ミワが首に巻き付いてくる。

 

「あ、それと一ついいか?」

「何かしら?何でも言って」

「お前の妹になった覚えはないぞ」

「え?」

「年齢的にはミワが妹だ」

「同い年じゃないの」

「いーや、違うね。双子ですら序列があるんだ。数日の差を急に追い越すな」

「でもトヒはお姉ちゃんって感じしないんだけど」

「実際に妹やってるからだろう」

「じゃあ姉が一人増えたくらいいいじゃないの」

「同じ存在は二人もいらないんだよ」

「何よそれ~」

 

 余計にミワがじゃれついてくる。こんな絡みも昔からのことだ。

 しばらくしてアマノが帰ってきた。何やら全身白い粉まみれだ。

 

「待たせたね!」

「アマノさん?どうしてそんなに真っ白に…?」

「いやなに、ちょっと蕎麦をね」

「え?」

「手打ちですか?」

「いやあ、出前でも良かったんだけどね。ここはこちらの誠意というものを見てもらおうと思ってね。うちの食堂を借りてイチから作ってきた」

「はあ…」

「さ!遠慮せずにいっぱいお食べ。好みがわからなかったから薬味は色々持ってきたよ」

 

 露骨にミワが残念そうな顔をする。あれだけ神都の、高天原の食事を楽しみにしていたのだから仕方ないだろう。こちらとしては食べれりゃ美味しいというスタンスなのでそこまで高級品への執着はない。ミワの様子を察してか否か、アマノがミワに声をかける。

 

「安心してくれていいよ、ミワ君。食後のデザートはこの辺りでも有名な店のものを用意してある」

「本当ですか!?」

 

 露骨にミワが喜ぶ。流石に失礼だろう。

 

「トヒ、頂きましょう?」

「そうだな」

「どうぞどうぞ」

「「いただきます」」

「じゃあご相伴に与ろうかな」

 

ズルズルズルズル…ちゅるん!

 

 初対面の人との食事で緊張するミワ。食事中は基本的に喋らないトヒ。二人が全く喋らないので気を遣って喋らないアマノ。三人の蕎麦を啜る音だけが部屋に響いていた。

 

「ふう…私はこのくらいにしとこうかしら」

「全然食べてないじゃないか」

「一人前もあれば十分よ。あんまり食べてデザートを美味しく食べれなかったらいやじゃない」

「そうだね、そろそろデザートも届く頃かな。期待してくれていいよ」

「わあ!ありがとうございます!」

 

ズルズルズルズル…ちゅるん!

 

 届いたデザートを頬張るミワ。まだ蕎麦を食べているトヒ。この蕎麦は経費で落ちるのか考えているアマノ。二人の蕎麦を啜る音だけが部屋に響いていた。

 

「トヒ、それ、かなり美味しいわよ」

「ん?なんだ、欲しいのか?」

「いや、別に…」

「いいよ、食べなよ」

「本当!?」

「そんなに気に入ったならこれも食べるといい」

「そんな…アマノさんの分まで…」

「いいよいいよ、せっかく遠くから来てくれたんだし」

「では遠慮なく…」

 

ズルズルズルズル…ちゅるん!

 

 更に二つ目、三つ目のデザートを頬張るミワ。相変わらず蕎麦を食べるトヒ。二人の、特にトヒの食べっぷりに嬉しそうなアマノ。一人の蕎麦を啜る音だけが部屋に響いていた。

 

「「ごちそうさまでした!」」

「はい、お粗末様でした」

「美味しかったです。すごく」

「いやあ良かったよ。まさか全部食べきるとは」

「すみません、つい…」

「相変わらず麺類になると見境がなんだから…」

「いやいや、いいんだよ。調子に乗って作りすぎてしまったから数日のうちの食事が蕎麦になるを覚悟してたんだけどね。全部食べてくれたから堂々と経費で…いや、気にしないでくれ」

「?」

「はは…」

 

 三人で食器の片付けを済ませ少しの食後休憩を挟むと、それなりに真剣な表情でアマノが口を開いた。

 

「じゃあ、早速ですまないがさっきの続きなんだけど」

「ミワと少し話をしました。ミワのやりたいようにやらせたいと思います」

「そうか!ありがとう。では全員の…といっても二人だけど、承諾を得たところで次のステップに移ろう。君たちが神に、そしてそれを支える巫女たるに相応しいかを試させてもらいたい」

「えっ、すぐになれるんじゃ…」

「雇う側に選ぶ権利はあるってことですね」

「まあ、そうだね。権利というか義務に近いかもしれない。中途半端なものを神にしてしまっては我々の威信にも関わってくるからね。いや、別に君達がそうだと言っているわけじゃないからそこは分かって欲しい」

「大丈夫です。分かります」

「まあ、当然と言えば当然なのかしらね…」

「まあ民間企業でいうところの適性検査のようなものと思ってくれるといい」

「どんなことをするんですか?」

「まず大前提として、神としてやっていくには信仰を集める必要がある。忘れ去られ信仰を失ってしまった神はその力を失ってしまうからね」

「うちみたいに神社があるのもそういう理由なんですか?」

「そうそう。神社の祭祀対象は主に二つにわかれていてね。自然やモノを祀るところと神自体、もしくはかつては人だった神を祀るところ…ミワ君のところは基本的には前者だね。でもあそこはそれだけじゃないんだけど…それは君達の方がよく知ってるか」

「なるほどお…」

「なるほどって…お前なあ…」

「で、だ。君達には軽く世界を救って貰おうと思う」




毎週金曜の0時(木曜の24時)に投稿していきたいと思います。
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