居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました   作:公序良俗。

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最近家の電波時計の時間がおかしいんです。



救出作戦

 することもないので部屋の真ん中でただ座っていると外が騒がしくなってきた。

 

「ん?どうした?」

 

 チルの方を見ても特に動じることはなさそうだ。3人もまた然り。サクは…言うまでもない。しばらくして下のドタバタが収まる。入口の2人が熱いお茶でも零したのだろうか。

 

「トヒー?」

「ん?」

 

 階下から呼ぶ声がする。一応サクの方を見るがこちらを呼んだ感じはない。そもそもこの声は恐らく生きていて一番よく聞いた声だ。間違えるはずも無い。

 

「ミワか」

 

 部屋に1人の男が入ってくる。入口に詰めている2人ではないので先程下から槍を突いた者だろう。槍男が棒男に耳打ちする。

 

「ったく何してんだよ…じいさん、行くぞ。お前はここに残れ」

 

 棒が刀と槍とともに部屋を出ていく。鎖鎌はお留守番らしい。チルとサクの護衛役だろうか。そのチルはと言うとまだ動きは見せない。

 

「何があったんだろうなあ…なあ、鎖鎌」

「……」

 

 鎖鎌は黙って部屋の外の様子を窺っている。敵に背を見せるたあいい度胸じゃないか。

 再び階下が騒がしくなる。ミワ対3人の戦闘が始まったのだろう。ミワはこの世界に来てから少し力は強くなっているが戦闘技術に関してはただの小娘である。それに対し相手は鈍器を持ったチンピラと壮年の剣士と未知数の隠密である。戦力差を見ると明らかに分が悪いのだが聞こえてくるのは男の呻き声ばかり。腕っぷしだけでは技術や物量の差は埋め切れないと思うのだが。家主には悪いが先程槍で貫かれた床の穴を大きくして階下を覗く。すると下からこちらを見上げるミワと眼があった。

 

「あらトヒ。そんなとこに居たの?この人達なかなか教えてくれないからちょっと暴れ過ぎちゃった」

「暴れ過ぎだぞ。この荒屋、いつ崩れてもおかしくないんだから」

「ちょっとそこから1mくらい離れてくれるかしら」

「わかった…離れたぞ」

「『十七条拳法』!第一条・昇龍拳!」

 

 ミワの拳が床からニョキっと出てくる。ど根性タケノコみたいだ。こいつ、下から天井ぶち破ったのか。

 

「どう?トヒなら通れるんじゃない?階段脇に刀持ってるおじいさんが居てそっち行けないのよね」

 

 直径30cmくらいの穴が出来た。確かにミワには少しキツイかもしれない。こんちくしょう。

 

「いやでもなあ」

「大丈夫よ。ちゃんと受け止めてあげるから」

「カバンが手元になくてな。それに腕輪も取られてるんだよ」

「おマヌケねえ…いいから今はこっちに来なさい」

「了解」

 

 床に腰かけ穴に脚をいれる。

 

「じゃあ鎖鎌、少しの間それ預かっといてくれ。大事なものはそんなに入ってないが今日買った食糧が入ってるんだ。腐るといけないからあまり火には近づけないでくれよ?んでサク、これはそのままにして行くからな。出して欲しけりゃ大人しくしてろよ。チル、今日は帰るぞ。また今度ゆっくり話をしよう」

 

 一気に喋ると返事を聞くことなくそのまま下へ。一応着地の体勢は取ったがミワが優しく受け止めてくれる。

 

「元気そうね」

「お陰様でな」

「帰りましょうか」

「いや荷物…」

「んなもん後よ、後」

 

 周りを見るとミワに吹っ飛ばされたのか棒と槍が壁にへばりついていた。何をしたんだ。そしてそのままミワに抱えられた状態で外まで連れていかれる。

 

「何よ…さっきは高みの見物だったくせに…」

 

 刀が入口を塞ぐようにして立っている。ここを通りたくば私を倒してからにしろと言わんばかりだ。

 

「ここを通りたくば私を倒してからにしろ」

「ぅゎぁ」

「言った…」

「言ったわね…」

 

 恥ずかしげもなく言い放った。いや、恐らくだが内心では決まったと思っているに違いない。

 

「倒すのか?」

「うーん…流石に刀相手はリスクが高過ぎるのよねえ」

「じゃあどうする?」

「ここを通らなければ倒さなくて済むのなら別のとこから出たいんだけど…窓もないのねこの家」

「ああ、それなら裏口があるらしいぞ」

「あら、それはいいわね。そっちにしましょう」

 

 ミワがくるりと背を向け奥へと歩き出す。ミワの肩越しに刀が見えた。荘厳で冷静な男だと思っていたが決めゼリフをスカされるというのは我慢ならんらしく怒りか羞恥かは知らないが震えながら腰の柄に手を掛けている。

 

「ミワ、後ろ後ろ」

「後ろは任せるわ」

「なんで」

「私は出口探しに忙しいのよ」

「後でゆっくり探せばいいじゃないか…」

 

 仕方ないので刀の動きを見る。ミワが歩くのに合わせて距離は詰めてくるものの柄に掛けた手を動かそうとはしない。

 

「ミワ〜あったか?」

「見つかんないわねえ…そんなに広くないのに」

「どこかに隠してあるんだろ」

「成程ねえ…スイッチでもないかしら」

「壁を叩けば見つかるんじゃないか?いつぞやのように」

「いつぞやは見つかんなかったけどね」

「また暴れるなよ」

「一考の余地ありね」

 

 厚い壁は破れなくてもこの薄い板程度ならわけもないだろう。何せ直撃すれば人が1人軽く吹っ飛ぶのだから。

 

「っ!!『七枚の窓(Windows 7)』!」

「防ぐか」

「殺す気か!」

 

 何を思ったか刀が刀を投げてきた。侍の魂はどこに行ったんだ。展開したガラスも三枚貫かれている。

 

「ミワ、早くしろ。あのじいさん本気で来れば防げないかもしれない」

「と言われてもねえ…出口がないことには出れないわよ?」

「ええい、もう何でもいい。出口がないなら出口を作れ」

「いいの?そういうの、得意よ?」

 

 曲がりなりにも他人の家なので遠慮していたが命と天秤にかけるとすれば問答無用で命を取るしかないだろう。死なないにしても死にたくない。

 

「じゃあ行くわよ。頭引っ込めなさい!」

 

 ミワの首を掴んで顔を肩に寄せる。ん?この格好で壁に激突したとき、先に接触するのは…

 

「待て待て待て待て」

「せーの」

「やろめやめ…くっ!!」

 

 衝撃に備えて身体を強ばらせる。

 

「はい!」

 

 壁に突撃するミワ。実際に突撃したのはミワではないが。左半身に衝撃が走る。

 

「いっっっったいけど…そこまでだな」

「そりゃそうよ」

「え?」

「もう顔上げていいわよ」

 

 言われた通り顔を上げると屋外に出ていた。しかし通ってきたはずの壁を見るが破壊の痕跡がない。

 

「どういうこった」

「どんでん返しね」

「ああ…」

 

 そりゃ簡単に見つからんわ。

 

「ミワもう少し壁から離れないか?2mくらい」

「?わかったわ」

 

 少し前に出る。ミワの足が止まった途端、壁から刀が生えてきた。

 

「ぴゃ!」

「ぴゃ?どしたのよ変な声出して」

 

 目の前で止まったから良いもののもう少し移動が遅ければ完全に眼を貫かれていただろう。

 

「あら、スリリングね」

「即刻ここから離れてくれ。槍が来たらそれこそ串刺しだ」

「わかったけど一度表に回るわね」

「別にいいが…」

「あ、そろそろ降りる?」

「あ、すまん」

 

 広い道に出てからかなり迂回してから入口に戻る。建物の脇を通ったらまた壁に穴が空きそうだ。

 

「そういえばどうしてここに来たんだ」

「まずは助けてくれてありがとう、でしょう?」

「いや、まあ、うん、ありがとう」

「どういたしまして」

「で、どうして」

「話すと長くなるんだけど…こっちに来てから最初に話した人達いるでしょう?」

「最初に?アナイさんか?」

「アナイさんは神様でしょ」

「じゃあ受付の」

「違うわよ。私は話してないもの。あの追いかけっこした人達」

「ああ…寿司組」

「そうそうカッパにクラに…」

「違うだろ」

「名前を覚えてないのよねえ」

「そいつらがどうしたんだ」

「たまたま川に出てたんだけどね。そしたら青ざめた顔して走ってきてね。どうしたのって聞くとトヒがヤバい奴に絡まれてるって言うから飛んできたのよ」

「ヤバい奴?」

「なんか、あの人たちの界隈ではそこそこ有名なヤバい集団らしくてね。上の方が弱味を握られてるか何かで捕まえられないんだって」

「まあありそうな話だな。でも絡まれてるってような騒ぎにはなってないぞ」

「私もちゃんと聞いてないのよね」

「それでどうしてここが分かったんだ?そいつもこの場所までは知らないだろう」

「ああ、それはね…まあ見た方がいいかもね」

「見る?何を」

「まあまあ」

 

 角を曲がって拠点の入口がある通りに出る。拠点の入口付近に何やら黒い塊が転がっている。来た時にはなかったものだ。

 

「なんだあれ」

「驚くことなかれ…」

「うわ動いた」

「言ったそばから驚かないでよ」

 

 黒い四足歩行の何か。

 

「あれは…犬か?」

「ノンノン。よく見てみなさい」

「よく…」

 

 視力はテレビを見るのに困らない程度はあるのだがちょっと遠い。近づくにつれ犬ではないのは分かってきた。ちょっとずんぐりむっくりというか。そんな種類の犬も居るかもしれないが。

 

「…熊?」

「正解!」

「なんで」

「仲良くなったのよ」

「だからなんで」

 

 午前中にお会いしたばかりだというのに。

 

「同じ釜の飯を食べたのよ」

「釜の飯?」

「と言っても魚だけどね」

「ふーん」

 

 熊はご飯を食べるのだろうか。

 

「なあミワ」

「何かしら」

「色々あって今、熊から人を守った巫女で通ってるんだよな」

「そうなの」

「神の方が熊と仲良くしてたら自演を疑われないだろうか?」

「そうかしら」

「それに家族が熊の被害にあった奴とも話してな」

「へえ」

「そこで、だ。どうしてここが分かったんだ?」

「あのコにトヒの匂いを嗅がせて匂いを辿ってきたのよ」

「辿ったって…どこから?」

「キャンプ地の入口くらいからかしらね」

「どこまで?」

「ここまで」

「どこを通って?」

「道」

「街中も?」

「当然」

 

 これはダメなやつだ。神の力を借りて熊を撃退したとかなんとか言っておきながらその神が熊を連れて歩き回っているなんて。

 

「結構乗り心地がいいのよ?歩くより速いし」

 

 乗り回していた。

 

「街の人達、どんな顔してたんだろうな」

「さあ?」

「取り敢えず帰るか…」

「そうね」

「帰りは人通りの少ないところを通ろう」

 

 入口付近には恐らく瞬殺されたであろう見張り番が伸びていた。刀はこちら側には回って来ていないらしく新たな攻撃は繰り出されない。サクの言うことを信じるとすれば飛び道具はないのだからここを離れてしまえば一先ずは安心だ。道の真ん中で大人しく待っていた熊にミワがひょいと飛び乗る。

 

「1人乗りなのか?」

「うーん…見た感じ小熊だし…」

「じゃあ歩くか」

「え?何?乗せていいって?ほんとに大丈夫?まああなたが良いって言うなら良いけど…トヒ、乗って良いって」

「いつから熊と意思疎通が出来るようになったんだ…」

「なんとなくよ」

「なんとなくかよ」

「でも私が乗っても嫌がってる感じはないわよ。河原を走ってるときも背中に乗れって言ってきたし」

「言ったのか」

「なんとなくよ」

「なんとなくかよ」

「まあ乗りなさい。嫌だったら振り落とされるでしょう」

「リスクがでかい」

 

 とは言っても走った熊に追いつけるわけもないのだが。

 

「もうちょい前に行けないのか」

「結構ギリギリなのよ」

「こっちもギリギリだ」

「あなたは大丈夫?あら、力持ちなのねえ…今度力比べしましょうか」

「やめろキャラが被る」

「キャラ?」

「取り敢えずちょっと歩いてみるか」

「じゃあお願いできるかしら?ハイヤー!!」

「馬じゃないんだから」

「ハイヤーは車じゃなかったっけ」

「そういうことじゃない」

 

 ミワの掛け声とともに熊が歩き出す。足取りに問題はないが乗り心地は良くない。足を踏み出す度に身体が後ろへジリジリとズレていく。

 

「あ、ダメだこれ」

「え?」

「っとと。落ちるわこれ」

 

 背中から落ちる前に先に足を着く。

 

「あらま。ストップストップ。仕方ないわねえ…はい」

「はいって…なんだその手」

「私が担げばいいでしょう」

「またかよ…」

「あれくらいで落ちられちゃ走った途端に振り落とされるわよ」

「むう」

 

 他に方法もないので黙って従う。

 

「にしても他にやりようってもんがあるだろう」

「これが一番安定するんだもの」

「こちらが安定しないんだが」

 

 米俵や小麦の袋を担ぐみたいに肩にひょいと。さっきのお姫様抱っこの方がまだマシだ。体勢的に。

 

「文句言わないの。じゃあしゅっぱーつ!」

「うっはっうぅ」

 

 今度はのっけからトップスピードで走り出す熊。ミワの肩が腹に当たって痛い。

 

「タンマ!タンマタンマ!」

「プレイッッ!」

「こら審判勝手に再開するな!」

「はーいストップストップ…何よもう」

「なんでそんな顔されなきゃいけないんだ…」

 

 試行錯誤した結果、ミワに肩車してもらうことになった。振り落とされないように全力を注ぎ、バランスはミワの馬鹿力でどうにかしてもらう。

 

「改めて、ごー!」

「おっ、いい感じかもしれん」

「一気に駆け抜けるわよ〜!」

 

 全力疾走するより少し遅いがこの速度が安定して出るのならそちらの方が格段に速い。

 

「じゃあ一旦南に下りてから街の壁に沿って西門の方まで上がっていこう」

「遠回りじゃない」

「これ以上人に見られるわけにはいかないんだよ」

「えー」

「こっちの事情を抜きにしても普通の人は熊が走ってるのを見るのは恐怖なんだよ。神が恐怖を振り撒くんじゃない」

「まあ一理あるわね…どっちに行けばいいの?」

「取り敢えず左に曲がって突き当たりまで行こう」

「よしじゃあ左よ!ヨーソロー!」

「左は取舵だ」

「いいのよ、通じれば」

「せめて右と間違えろよ」

 

 この地域にはあまり人は居ないが進めば人が居る地域も当然通ることになる。そういった可能性を少しでも摘んでいかないといけない。今のところは割かし順調に走ってくれている。

 

「で?何があったのよ」

「うーん…何ってなあ」

「結構ヤバい奴らなんでしょう?トヒがそんなのに巻き込まれるなんて珍しいじゃない」

「簡単に言ったら騙されたんだよな」

「へえ」

「小さな女の子だったんだけどな。貧しい家の子が小遣い稼ぎとかお零れ目当てで近づいて来たんだろう程度に思っていたんだが」

「よくトヒに近づいたわね…」

「そうなんだよなー。後から考えるとおかしいってわかるんだけど案内してくれるならそれに越したことはないと思ったんだよ。時間掛かるとその分変なことに巻き込まれるし」

「その時間を惜しんだ結果変なことに巻き込まれてるんだから世話ないわね」

「返す言葉もない」

「それで?買い物は出来たの?」

「ああ、一応全部な」

「で、その戦果は」

「置いてきたって感じだな」

「何してんのよもー」

「だから言ったじゃないか」

「取り敢えず今日は帰りましょう。色々そのまんまにしてきたから早いとこ戻らないと」

 

 南門から街の外に出て外壁を西に走る。意外と舗装されているので揺れは少ない。

 

「そういえば熊を撃退した巫女って何よ」

「あーそれな…変なことにならないうちに対策しとかんとな…」

「だから何よ」

「かくかくしかじかでな」

 

 一連の流れをミワに説明する。

 

「成程、トヒをナンパしてそのまま手篭めにしようとした奴らが居るのね」

「あ、いや、そこは重要じゃなくて」

「私は落ち着いているわよ。ええ、言われなくても落ち着いてる」

「言ってない言ってない。てか、痛いから無駄に力をいれるな」

「トヒもトヒよ。そんな奴らとお昼一緒に食べたどころかそいつらの分まで出すなんて」

「成り行きでだな…」

「私が作ったおにぎりも食べずに」

「それは…ごめん」

 

 後悔は先に立ったんだけどなぁ…

 

「私のお昼ご飯はお魚1匹だけなのに」

「ん?」

「自分で食べれば良かったわ」

「なあミワ」

「何よ」

「昼は1匹食べたんだよな」

「そうよ。それだけよ」

「なのにまた川に行ったのか」

「え?」

 

 ミワが少しキョドる。これは…やってんな?

 

「寿司組に会ったのは昼ご飯後の川なんだろう。珍しいな。ミワがご飯の後に動くなんて」

「それは、その…この子がまだ食べたいって言うから」

「ふーん」

「あ、疑ってるわね?ほんとよ、私が食べようと思ってた魚もドングリもあげたのにまだ物足りなそうな顔してたんだもん」

「そうか、成程」

「そうよ」

「初めから2匹食べるつもりだったんだな」

「え?」

「だいたい読めたぞ。2匹取ってきたが途中でこいつに会って1匹あげて一緒に食べて足りなかったから当初の予定通り2匹目を取りに行ったと。そこで寿司組に会ってこっちまで走ってきたというとこだな」

「まあ…そうね」

「一食に1匹って言っただろう。下流から文句が来たらどうするんだ」

「いいじゃないずっとあそこに住んでる訳じゃないんだし。それに私は炭水化物が摂れなかったの。少しは多目に見てちょうだい」

「正論を…」

 

 開き直られた。それに対して言い返せないのが悔しい。

 

「わかった。負けた」

「ようし…帰ったらいいモノ期待してるわよ?」

「は?何が?」

「だって買い物して…あ」

「全部置いてきたって言ってるじゃないか」

「ああああああああぁぁぁ」

「今日もご飯と魚だな」

 

 落胆するミワを乗せてこの熊公はまっすぐ前を見すえて走っている。今回はこいつに助けられた。昼間のやつの親戚か兄弟か親子かは知らないが熊にも色々と居るもんだ。いや、昼間のやつも何をしたというわけではない。ただ単に隠れているところにこちらがわざわざ殴り込みをかけたようなものだ。それなのに怖がらせて山に返したというように考えると少し罪悪感もわいてくる。今度会ったら優しくしてやらないとな。

 見覚えがある風景が広がり始めた。街の西門もそろそろだろう。南門に比べれば活気はあるがこの時間にもなると人通りはかなり少なくなっている。あわよくばこのまま熊公に乗っておきたいが万が一ということもある。そろそろ歩こう。

 

「ミワ、ストップだ」

「どうどう…どうしたのよ?もう少しで街道なのに」

「だからだよ。こっからは歩いて帰ろう」

「どうして?車酔い?いえこの場合は熊酔いになるのかしら?」

「違うさ。街道を熊が走ってたらどうなることか」

「私、行きしもあの道使ったけどなんてことなかったわよ?」

「逃げたか避けたか知らん振りでもしてたんだろ。飛び道具持ちが居なかったことを幸運に思うんだな。下手すりゃこいつだけじゃなくてお前も撃たれてたかもしれないんだから」

「……それもそうね」

「だからこいつとはここでお別れだ。山に帰るんだ。その方がこいつのためにもなる」

「そんな…こんなに助けてもらったのに必要なくなったからここでバイバイなんて、ちょっと薄情過ぎやしないかしら」

「と言われてもな…」

「私が話すわ」

「そうか。頼んだ」

 

 ミワの肩から下りて軽くストレッチをする。だっこされたり担がれたりで身体が変に固まってしまっている。今からそれなりに長距離を歩くのだから準備は念入りにしとかなければ。

 

「終わったわ」

「早いな。話はついたのか?」

「私達はゆっくり行くから先に帰ってなさいって」

「帰るって…?」

「そりゃキャンプ地よ」

「ええ…」

「今夜はご馳走ね。お客さんが来るんだもの」

 

 なんとなくそうなる予感はしていたがいざそうなると色々と厄介である。分け隔てなく愛情を振り撒く。これがミワの良いところではあるのだが対応する身にもなって欲しい。

 

「取り敢えず帰るか…」

「そうね。じゃあまた後でね。出来るだけ早く帰るようにするわ」

 

 バイバイと手を振るミワ。それに応えるかのように熊は夕闇に紛れていった。

 

「私達も帰りましょう」

「そうだな」

 

 街道に出て沈む夕陽を見ながら歩く。せいぜい6時間くらいのことなのに色々あった気がする。

 





新生活の季節ですねえ。
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