居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました 作:公序良俗。
花粉の季節ですね
「…ただいま」
「あらら、また増えたの」
「本意じゃない」
「寿司の人は?」
「未だ見つからずだ」
「帰ったのかしら」
「さあ…上の方には居なかったからそうかもしれん」
「せっかくご飯炊いたのに…」
「ああご飯と言えば」
「何よ」
「こいつの分、どうする」
「トヒが拾ってきたんだからトヒが世話しなさいよ」
「ええ」
「冗談よ。トヒに動物愛護の感情がないことは知ってるもの」
「そんなことはないぞ」
そんなことはない。ペット動画を見るのは好きだし、余裕があれば小動物でも飼おうかとも思っていた時期もある。ただその計画も頓挫しかけているが。
「居候してからしばらくの間ゴミを見るような眼で私を見ていたのは忘れないわ」
「それは否定しない。動く可燃ゴミがタダ飯食って不可燃ゴミ出してらって思ってた」
「そこまで!?」
「…冗談だぞ」
「何今の間…怖いんだけど…」
「取り敢えずこいつらの世話は任せたぞ。ただでさえ世話が焼けるやつが居るのに増やされちゃかなわん」
「あー…なんかこないだまでのトヒに戻ったみたい…」
「こないだまでのミワを思い出したからな。でもいつからか家事するようになってからは見直したぞ」
「私にも人の心ってのがあるのよ…あれ?見直したってことは見直す前はやっぱり…」
「晩ご飯は何だろう」
「話を逸らすんじゃないわよ…ご飯はもう炊けてるから大根の葉っぱを洗ったらすぐ食べれるわよ」
「奴には悪いが先に食べようか」
「炊きたてご飯が冷めるのも嫌だし、そうね」
湯掻いて水で〆たほうれん草は絞って水分を落として醤油を少々。大根の葉っぱは塩を洗い流してそのまま食べる。
「魚はこいつにやろう。もう仕掛けにも掛かってないだろうし」
「あら、優しいのね」
「素直なやつは可愛気があるからな」
「な〜んか棘があるわね…」
「気の所為だ」
ご飯はいつもの白ご飯。そこにほうれん草のおひたしと大根の葉っぱの漬物。久し振りの野菜だ。本当ならここに肉があったのだが今回は仕方がないということで。
「いただきます」
「いただきます…こら、貴方はもう食べたでしょ」
「え」
「違う、こっち」
「ああ」
後から来た熊公の前に2匹ともやったのだが元からいた方が横取りしようとしていた。そういやさっき帰ったらおかわりやるって言っちゃったな。
「芋があったろ。アレも食べるんじゃないか」
「それはダメよ」
「なんで」
「農家の畑に食べに行くようになっちゃったらどうするのよ。後々この子達のためにならないわ」
「むう」
確かに正論である。過保護かと思えばそういったことはきちんとする。人を育てる立場なら真価を発揮しそうな能力を備えているのにどうしていつまでも育てられる側にいるのか。
「何か失礼なこと考えてない?」
「まさか」
「どうだか…」
量もそんなにないのでさっさと食べ終わる。ミワも間もなく食べ終わり片付けをする。
「お風呂はどうする?」
「その前にちょっとミワにしてもらいたいことが」
「何よ」
「いいから」
「引っ張らなくていいから、自分で歩くから」
ミワは川に連れてくる。そのまま上流に向かい仕掛けのある場所へ。
「うーん、あれでいいか」
「何するってのよ…あの子達も置いてきちゃったし」
「ミワ、これ持ち上げれるか」
「ええ…まあ」
「んじゃそいつをあそこの大きな石に向かって投げてくれ。思いっきり」
「え、なんで」
「禁断の漁をします。明日の食卓に魚はないと思ってください」
「どうしたの急に」
「3、2、1」
「待って待って」
「投下!」
「え?え?え、えい!」
ガチンと狙い通りに石と石がぶつかる。
「これでどうなるってのよ…」
「どうにかならなかったらもう少し上流に行って同じことをする」
「えー」
「あ、ほら、見てみろ」
魚がぷかーっと浮いてきた。石と石がぶつかった衝撃で気絶した魚だ。あまりこういったことはしたくなかったが腹を空かせたやつが居るのだ。背に腹はかえられない。
「へー…凄いわね!」
「石打漁ってやつだ。寒かったり夜になるとほとんどの魚は動きが鈍るから岩陰にひそんでることが多い」
「そうなんだ」
「流れてっちゃうから早く回収するぞ」
「こんなに簡単にとれるなら最初からこうすれば良かったのに」
「やり過ぎると良くないんだ。禁止してるところもあるくらいだ。だから明日は魚無しだ」
「ええ…そんな…数匹じゃない…」
「ちりつもだよ」
回収した魚を持って拠点へ戻る。一応注意して辺りを見てみたが弥助はいない。やはり下流か。
「ただいま~ほうら、お土産よ~」
「さて、風呂か」
「気が早いわね。この子達が食べてる姿見てみなさいよ。可愛いわよ」
「人が食事してるところをまじまじと見るもんじゃない」
「人じゃないわよ。熊よ」
「どちらにせよ、だ」
「やっぱり動物愛護の精神がないのね…」
「いやそれは…もうなんでもいいや。取り敢えず火だけ消しといてくれ。泡が出てる」
「はいはい『海神の詔』」
既に慣れたものである。最悪移動風呂沸かし機で食べていけそうだ。後は自然と冷めるのを待つ。
「それで、探さなくていいの?」
「何を」
「何と言うか誰と言うか」
「うーん…」
「急に居なくなったなんて気味が悪いじゃない」
「朝死体で見つかったなんて寝覚めが悪いしな」
「やめなさいよ。考えないようにしてるのに」
「常に最悪のケースを考えとかないと」
しかしまあ、秋とはいえ雨も降っていない夜くらいならば一晩くらいは乗り越えれそうなもんではある。エアコンもストーブもない時代だ。生温い環境で育ってきた自分たちよりはしぶとく生き残れるはず。
「それにどこにいるかもわかんない中お風呂なんて入れるわけないじゃない」
「あーそっか…そうだなあ…」
「トヒはもうちょっと恥じらいを知りなさい」
「セクハラ魔が言うセリフか」
「スキンシップよ」
「セクハラ魔の言うセリフだ」
「とにかく、先に見つけないと」
「でも帰ってたらどうするんだ?」
「わざわざ追加で彼の分のご飯の用意してたのよ?それをわかってて黙って帰るなんて普通の人だったらしないわ」
「まあ水は汲んであったし仕掛けをいじった形跡もあるしなあ。滑って流されたってわけでもなさそうだしまだこの辺にはいるんだろうな」
「ちょっと待って、初耳ねそれ」
「どれが」
「仕掛けがいじられてたって」
「ああ、それが?」
「なんで仕掛けがあるって知ってるのかしら」
「なんでって…昼間にミワが魚をとってるのを見たんじゃないのか?」
「私が彼に会ったのはここから川に出てすぐよ。上の方までは行ってないわ。トヒは最初どこで見つけてきたのよ」
「仕掛けとここの丁度間くらいかな。ガサっとしたんで覗いてみたら人が1人」
「ふーん…トヒ、一応だけど何かなくなってないか調べてみなさい。私も見てみるから」
「何か盗って逃げてったってことか?」
「この子を見て昼から夕方まで気絶してたってのもおかしな話よ。そりゃ驚いてたけど普通そこまでいかないでしょうよ。私たちが帰ってくるまで色々調べてたのよきっと」
「そんなことしそうには見えなかったがなあ…」
「岡っ引きってのは基本的に元こそ泥とか何かしらをやらかした人なのよ。蛇の道は蛇ってのと再犯を防ぐために雇われてるようなもんなの」
「へー」
「わかったら早くしなさい。変なもの持ってかれてたらヤバいでしょ」
「まあその時は緊急帰還すれば持ってきた荷物は全部こっちからは消えるだろ」
「返ってくることがわかってても人に見られたくないものだってあるでしょ!」
「確かにまあ今カバンを開けられてると考えると少し嫌だな」
「でしょう」
「食べ物やお金は全部こっちのものだから回収できない」
「ま、まあそうね…それもあるかもしれないわね…」
「?」
そういうことを言ってるんじゃないんだけどねとボソッと呟くミワ。聞こえたが独り言に対して返すような野暮なことはしない。取り敢えずカバンから出したものを思い出しながら確認していく。ノートがあればチェックリストを見ながら確認出来たのだが生憎と一緒にカバンの中だ。一通り見たが特に無くなってるものはない。
「そっちはどうだ?」
「待って、もう一回探すから」
「何がないんだ?」
「まだないって決まったわけじゃ…」
「だから何が」
「……ない。やっぱりないわ…私のノート…」
「なんでノートなんか」
「…きっと紙と鉛筆ね。あの時渡した名前を書いた紙が誰かの目についたんでしょう」
「まあそれくらいなら」
「良くないわよ…あれは人に見せるようなものじゃないのよ…」
「もしかしてあのノートか?必殺技の…」
「…ええ」
「残念だったな」
「今すぐ元の世界に戻りましょう。あのノートと私は一蓮托生なんだから」
「待て待て。今戻ったらこっちでの1日分戻って来れないんだぞ。色々ケリをつけてからにしないと」
「私の命とどっちが大事なのよ!」
「別に死にゃしないだろ」
「社会的に死んじゃう!神見習いがこんなにイタいやつだなんで知れ渡ったらもうこの世界で生きてく自信ないわ!」
「イタい自覚はあったんだな」
「う、うるさいわね!」
「まあとにかく戻って来なさそうだし風呂入っちゃうか。明日に備えて早く寝よう」
「風呂なんて入ってられないわよ…」
「じゃあミワはパスってことで」
「あ……あ……」
「はあ」
口から魂が抜けたような顔をしているミワを放っておいて風呂の準備をする。今日は色々と色々あったのでスカッとしたい。
「ああ^~」
いい感じに冷めた風呂に肩まで浸かる。やはり足を伸ばせる風呂は最高である。ちょうどいい温度でキープ出来て沈まない風呂があればそこで寝ていいくらいかもしれない。
「私も入る」
「は?」
振り向くと既にすっぽんぽんのミワが浴槽に足を掛けていた。制止する間もなくドボンと入ってくる。
「あ、コラ。掛け湯をしろ、ゆっくり入れ、そもそも1人ずつって決めただろ」
「もう何でもいい…」
「こっちが良くないんだが??」
「ぶくぶくぶく…」
「潜るんじゃない!」
まだちゃんと濡れていないミワの長い髪の毛だけが水面に残る。本人は膝を抱えてぶくぶくしている。浮き沈みの激しいやつだ。ずっと相手していても仕方ないのでさっさと身体を流し髪を洗ってもう一度浸かり直す。もうこの際なのでついでにミワの髪も浴槽の方で軽く洗ってやる。
「まあ元気出せよ」
「優しくしてくれたら元気出す」
「うわうざ…」
後ろから首に腕を回すとそっと引き寄せる。水中にあるミワの身体は軽くスっと動いてピタッと引っ付いてくる。ミワの髪の毛が時折身体を撫でてくるのがこそばゆい。
「ほらミワ見てみろ。星がいっぱいだ」
「別に、うちでもよく見えたんだから珍しいものでもないじゃない」
「でも2人でゆっくり見たことなんてなかっただろう」
「それは…そうだけど…」
「ほら、元気出たか?」
「まだ出ない」
「めんどくさい…」
まあこんなことで元気は出ないだろう。そもそもどうやったら元気が出るのか。
「明日はそろそろ向こうへ帰る頃だ。遅かれ早かれいつかは戻ってくるだろう」
「次こっちに戻ってきたときに手元にあるとは限らないじゃない。それに他の人の手に渡ったものが一緒に戻るとは限らないでしょう」
「そんなこと言ってもなあ」
「どうして私のなのよ…他にも色々珍しいものがあったでしょうに…」
「いちはやく駆け付けてくれたことには感謝するが自分の荷物はちゃんと管理しておかないとな」
「今そんなこと言っても遅いわよ。こんな屋根も壁もないところで管理もへったくれもないわ」
「じゃあ家作ってみるか」
「どうやってよ」
「ものはやりようってな。上がるぞ」
ミワをポーンと突き放して立ち上がる。ミワはそのまま反対側に流れていく。
「ほら、タオル置いといてやるから冷める前にさっさと上がれよ」
膝を抱えて向こうを向いたままのミワを一応気遣いつつサッと身体を拭いて服を着る。髪を乾かすのは後にして頭にタオルを巻き付ける。ミワ程長くないのでそこまで時間はかからないのだが。
まずは周囲の荷物を一箇所に集める。流石に木を薙ぎ倒すわけにもいかないのでできるだけ広いスペースを確保する。焚き火を中心に六畳から八畳もあれば取り敢えずは上出来だ。
「おいミワ。風呂が邪魔なんだが」
「わかったわよ…」
風呂に入ったままこちらの動きをずっと見ていたミワ。気になるなら手伝って欲しい。
「消さなくていいわよ、運ぶから」
「運ぶって…100kgぐらいはあるだろ」
展開した窓だけなら動かせなくもない。しかしそこには大量の水が入っている。いつもは充分に冷ましてから森の方へ流している。そのまま消してしまっては辺りが水浸しになってしまう。
「なんていうか…この程度なら余裕なのよねー…」
確かに浴槽をひっくり返すときも真顔でやってたような…
「私、花も恥じらう乙女なんだけどね」
ヨイショと身体を洗う用の水槽を軽々と持ち上げて少し離れた場所へ。同じくヨイショと浴槽の方もその隣へと運ぶ。恥じらう乙女なら一糸まとって欲しい。そしてもう一度風呂へ。手伝う気はないらしい。
「また入るのかよ」
「出たら力仕事させられそうだもん」
「ふむ」
ご名答である。椅子兼ベッドの丸太半分も退かせて欲しかったがまあこれはこのままで良いか。
「じゃあ熊共、ちょっとミワの方に行っててくれないか?」
これまた何をするでもなくじっとこちらを見ていた熊たちも移動させる。これで十畳弱くらいにはなっただろう。
「意外と広かったんだな」
「ちょっとずつ綺麗にしてたからね。最初ここに来たときよりかは広いわよ」
「マジで?ミワが?」
「私を何だと思ってるのよ…」
「庭いじりの趣味なんてあったのか」
「母様の手伝いでしてた程度よ。最も私は専ら草抜きだったけどね」
「ああ…あのジャングル…」
ミワの家にある結構立派な庭。時々業者が入って綺麗にしていくのだが一角だけ業者も手を付けない場所がある。その感じから小さい頃からジャングルの名で親しまれて?いた。外からは見えない位置にあるのだが庭園の方を侵食しない程度によくわからない植物が繁っておりミワの母が個人的に管理している。ミワ曰く、ストレスの発散が変な方向に向いてしまった、のだそうだ。外から見る分には綺麗な人なのだが家族にはやはり違う側面が見えるのだろう。
「私はあそこで怪しい葉っぱの栽培をしてると踏んでるわ」
「流石にしてないだろ」
「トヒは知らないでしょうけど奥にちょっとしたビニールハウスがあってね…」
「やめろやめろ」
「普通その季節には採れないものが…」
「ただの温室栽培じゃないか」
最近はそんなものにまで手を出していたのか。
「じゃあやってみるか」
「待ってました…何を?」
「家を作ります」
「へえ…今から?」
「え、うん」
「どうやって」
「まあ見てな」
「まあ見てるわ」
ミワと二匹が見守る中ここ数日間に考えていたことを実行に移す。
「『
地面から壁が生えてくる。一段一段積み重なるように上へ上へ。巷で噂の3Dプリンタの要領で。
「完成です」
「おー…」
数十秒でただの箱型のちょっとした小屋が出来上がる。いわゆる豆腐ハウスというものだ。多分実際の建築上では欠陥だらけのものだろうがノリと雰囲気でどうにかしている。
「うさぎの家族は?」
「いない」
「崩れない?」
「わからん」
「何で出来てるの?」
「さあ」
「不安ね…」
「ちょっと入ってみるか」
イメージとしては二階建ての見開き断面図…ではなくワンルームの一戸建て。入ってすぐに台所。正面は焚き火を中心に居住スペースがあり壁際には風呂場。地面の上にそのまま生成したので地面は土のままだが寝るスペースは1mくらい嵩上げしてある。コンクリートでも木でもなく何とも言えない素材だ。山奥のロッジ感があっていいと思う。
「まあ大丈夫なんじゃないか」
「本当に?」
「一夜城だ。そこまで期待するもんじゃない」
「一夜どころか30秒くらいだったけどね」
「ひとまず成功ってことで今日から我が家です」
「やったー」
「明日には取り壊し決定だけどな」
「アップデートしていかないとね」
「これで元気も出たろ」
「え?何の話?」
「…なんでもない」
さっきまであんなに落ち込んでいたくせにケロッとしているミワ。元気になったのはいいことだ。
「んじゃ荷物中に入れてくぞ。手伝え」
「はーい」
調味料の入った壺を綺麗に並べその他の食品も台所付近にかためておく。持ってきたものは今は入れるものがないので部屋の隅に。風呂から上がったミワも自分の荷物を運び入れる。今度は流石にタオルを巻いていた。腰に。実家じゃ絶対こんなことしないだろうに居候してる間に随分とだらしなくなってしまった。ミワの両親に顔向け出来ない。
「ちゃんと拭けよ」
「また入るんだもーん」
「そろそろ冷めてきてるだろ。風邪ひくぞ」
「神様は風邪ひかないのよ」
「神を馬鹿みたいに言うんじゃない」
「お家の中にもお風呂があるのね。どこからお湯入れるの?」
「今はただの容器だな。このままじゃ排水も出来ないし」
「まあ今日は仕方ないわね。露天風呂を楽しみましょうか」
「どうやら先客が居るっぽいぞ」
「え?」
ミワの居なくなった浴槽に代わりに入っていた熊たち。熊も温泉に入るらしいから別段驚くようなことでもないが入る隙間がない。いや隙間はあるが身動きは取れないだろう。
「流石に人と熊じゃ同じ数でも大きさが違い過ぎるわね…」
「しかしよく入れたな。よじ登ったのか」
「顔から行きそうなもんだけどね」
「諦めて服着ろ。風邪ひくぞ」
「そうするわ…」
ようやっと露出が抑えられたミワ。別に誰が見ているという訳では無いが身内としてはやはり気になってしまう。
「さてと…少し早いが寝るか。今日の服洗いたかったんだが無理そうだしな」
「あら、だったらもう一回お湯出してあげるけど?」
「また沸くまで待つのもなあ」
「お風呂みたいな量じゃないしぬるま湯くらいにならすぐなるでしょ」
「そうか?じゃあ頼むか…」
空の水槽の方に『大火の海神』で水を入れ火にかける。耐熱性があるなら室内の風呂にでも使えるのだがどうだろうか。
「温かくなるまで室内で待機ね。意外とぬくいんだもん。びっくりだわ」
「まあ壁と屋根があるからな。それだけでも随分と違うだろう」
「隙間風もないし中々いい出来よ」
「そりゃどうも」
「こっちの世界だとアナイさんの部屋の次にいいわ」
「あの空間だけテクノロジーが別物じゃないか。比べるところを間違ってるぞ」
「こっちもどっこいどっこいよ。何なのよこの壁は…」
軽くトントンと壁を叩くミワ。プラスチックのような軽い音がする。
「思い切り叩いても大丈夫かしら」
「崩れたらどうするんだ」
「風で飛んだりしない?」
「さあ…藁の家よりかは頑丈だと思うが」
「不安ね…」
「そろそろいい温度になってるかな」
「話を逸らすんじゃないわよ」
30秒の突貫工事に安全性を求められても困る。第一施工業者ですらどうやって出来てるのかわからないのだ。
「なんだお前らも長風呂か」
「んーちょっとぬるいかしら?これじゃ上がったら風邪ひいちゃうわね」
「自分は人に言われても全然気にしないくせに…」
「ちょっとだけあったかいの分けてあげましょ」
「ただでさえ少ないんだが」
「足りるでしょ」
1/3くらいのお湯を手桶で浴槽に移すミワ。面倒見が良過ぎる。熊たちも心無しかウットリとした表情をしているので文句も言いづらい。
「まあいいや」
今日着ていた襦袢をお湯に沈める。今日は色々あったので埃まみれだし汗もかいた。明日も着る気にはなかなかなれない。
「白衣はいいの?」
「乾かんだろう」
「でも泥々よ。袴も、ほら」
「んな泥々って程じゃ…うーんこれは…」
「ね?」
「どこでこんなに」
「おてんば恋娘ねえ」
「違うと思う」
着ているときには全く気づかなかったが結構泥が付いている。ただ泥の汚れは下手にもみ洗してしまうと繊維に泥が絡みついて余計に取れにくくなる。一晩浸け置きした方がいいのだが…
「しっかり乾かしてからはたく程度にしておこうか。また今度クリーニングに出せばいいし、明日はそれでやり過ごそう」
「トヒがいいなら私はなんでもいいんだけど」
「次からは普段着と仕事着を二着ずつ持ってこよう。嵩張るが仕方ない」
「私は正装一着しかないからここぞというとき以外は着れないわね。今日は緊急事態だったし着なかったけど」
「見慣れない格好で熊に乗って街を走り回っていたのはうちの神じゃない別の誰かだったってならないだろうか」
「誰もそんな細かいこと気にしてないわよ。これから街に出る時はちゃんと着ていくし」
「明日はちゃんと着てくれよ」
「え、私も行くの?」
「連れないな、全員の相手しろって言うのか」
「冗談よ。トヒに酷いことした報いを受けさせてやるんだから」
「まあそこまで酷い目にはあってないんだけどね」
堪えたのは鎖鎌からの一撃くらいだ。ただその前にちょっと弄りすぎたのが良くなかったのだと思う。今考えるとよく初対面の人に向かってあんなことが出来たもんだ。
襦袢は洗い終えるとしっかりと水を落として物干しに掛ける。朝になるまでに乾いて欲しい。後は各自で他の下着を洗う。
「明日は一度街に出てカバンを取り戻して別の街の情報収集だ。そろそろ他の場所にも行かないとだしな」
「え?ここを離れるの?まだいいんじゃない?」
「ちょっと騒ぎも起こしちゃったしちょうどいい区切りだと思うんだ。残る試練は65もあるんだし1つに一週間もかけてたら一年以上かかっちゃうだろ。とにかく犬も歩けばでやるしかない」
「じゃあこの子達ともお別れなのね…」
「元々野生だし母親もいる。あるべきだった姿に戻るだけだ」
「そうよね…お母さんもきっと捜してるもんね…」
「母親の方は子供がたらふく食って風呂にまで入ってるとは思ってもないだろうがな」
せいぜいハンカチぐらいの布面積。こちらはすぐに終わった。ミワさんはもう1つあるっぽいがよくわからない。ふん。
「そいつらもさっさと上がらせろよ。朝まで入ってるわけにもいかんだろう」
「何処で身体拭くのかしら…夜は冷えるのに」
「野生は意外と逞しいもんだぞ。知らんけど」
「そうだといいんだけどね。ほら、そろそろ上がりなさい」
ミワの言葉を聞いて素直に浴槽から出てくる熊達。やはり意思疎通出来てるとしか思わない。ガラスの壁を器用につたってひょひょいと降りると全身をブルブルと震わせ水を飛ばす。茂みに近寄ると葉っぱに身体を擦り付けるようにゴソガサとしている。賢いものである。
「はえぇ〜すごいわねぇ…」
「全くだな」
「寝床も用意してあげないとね」
「勝手にどっかで寝るだろう…とは思ったが中に入れてやればいいだろう。あったかいし」
「どうしたの?変な物食べたの?」
「代わりにお前が外で寝るか?」
「ごめんってば」
「ったく…じゃあそろそろ寝るか。面倒なことは朝のうちにさっさと終わらせるぞ」
「朝早いの?」
「説明したろ。明日はやることが多いんだ」
「えぇーだったらそんなに詰めなくても…」
「はーい寝ます寝ます。寝たから何も聞こえませーん」
ミワの文句を後ろに聞きながら新築の家に入り横になる。昨日までとは違い壁や屋根があってどこか安心感がある。疲れているのもあってかミワが何かをやっているのを遠くで聞きながらすぐに寝てしまった。
ミワも寝てしまったのを確認する。今日は本当に色々あって1本の映画を観ていた気分だ。まだ4日目だというのにトヒは自ら色々なことに巻き込まれ過ぎるが、ミワの方は自分からは動かず物事を待ち構えている。初めはその逆だとおもっていたがコンビとしてはバランスが取れているようにも思える。今回驚いたのは急に小屋を建て始めたことだ。宿にも泊まらずずっと野宿をするのかと思っていたが風呂を当然のように使い出し遂には家まで建ててしまった。アマノはスキルの仕様を見直した方が良いのではないだろうか。そのアマノはというと今回はまだ来ない。さっきまでは2人が寝静まった頃にやってきて様子を聞いてくるのだが。明日の転送者の処理に忙しいのだろうか。今回は少し聞いておきたいことがあったのだが…そろそろ5日目の時間になる。休憩はそこそこに報告書を書かなければ。備考欄にでも追記しておこう。
「やあどうだい」
「あら残念。今から報告書の方を書きますので出直してきて下さいまし」
「ありゃりゃ…仕方ない、そうするよ」
「今回はあっさりとお引きになるのですね?」
「日付が変わる前に明日の用意を終わらせたくて色々無理したからね…はは…まだ終わってないんだけど」
「それでも様子は見に来られるとは。そうですわね…一つだけ、彼女らはなかなか楽しくしていますよ」
「そうかい、そりゃよかった」
「そういえばお聞きしたいことがあったのですがやめておきます」
「ん?どうかしたのかい?」
「いえ…ただそちらの方が私も楽しめそうなので」
「ふうん。まあいいや。引き続き頑張ってくれ」
「お任せ下さい」
「じゃ」
無駄話すらすることなくさっさと帰っていく。余程明日の準備に手間取っているのだろう。さて、あのコが起きる前に今日の分の報告書を書き終えなければ。明日も濃い一日になりそうだ。
某マインをクラフトするやつで家のイメージを作ろうとしましたが初心者過ぎて普通の箱すら作るのに苦労してます。